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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062017
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】浮体式人工干潟
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20240430BHJP
   A01K 61/75 20170101ALN20240430BHJP
【FI】
B63B35/44 Z
B63B35/44 F
A01K61/75
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169750
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康輝
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 陸
【テーマコード(参考)】
2B003
【Fターム(参考)】
2B003AA03
2B003BB05
2B003CC04
2B003CC05
2B003DD01
2B003DD03
2B003EE04
(57)【要約】
【課題】波の影響で浮体式人工干潟が揺動する際、その浮体式人工干潟に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制する。
【解決手段】水面に浮かべられる浮体式人工干潟であって、底板部21と、底板部21の周縁に塀状に立設された縦壁部22,23とを備え、水面に浮かぶように構成された浮体構造物20と、浮体構造物20の縦壁部22,23の内側で底板部21を覆っており、一部が浮体構造物20内に溜められた水に水没することで干潟を構成する基底部30とを有しており、基底部30において水が直接的に接触可能な基底表面32fは、浮体構造物20の周囲の波の進行方向Wに沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が連続的に小さくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が連続的に大きくなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮かべられる浮体式人工干潟であって、
底板部と、前記底板部の周縁に塀状に立設された縦壁部とを備え、水面に浮かぶように構成された浮体構造物と、
前記浮体構造物の縦壁部の内側で前記底板部を覆っており、一部が前記浮体構造物内に溜められた水に水没することで干潟を構成する基底部と、
を有しており、
前記基底部において水が直接的に接触可能な基底表面は、前記浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなる浮体式人工干潟。
【請求項2】
水面に浮かべられる浮体式人工干潟であって、
底板部と、前記底板部の周縁に塀状に立設された縦壁部とを備え、水面に浮かぶように構成された浮体構造物と、
前記浮体構造物の縦壁部の内側で前記底板部を覆っており、一部が前記浮体構造物内に溜められた水に水没することで干潟を構成する基底部と、
を有しており、
前記基底部において水が直接的に接触可能な基底表面は、前記浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなる浮体式人工干潟。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の浮体式人工干潟であって、
前記基底表面は、上り勾配の傾斜面と下り勾配の傾斜面とから構成されている浮体式人工干潟。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面に浮かべられる浮体式人工干潟に関する。
【背景技術】
【0002】
人工干潟に関する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の人工干潟100は、生物が生息する豊かな海岸域を再生するためのものである。人工干潟100は、図11に示すように、直立護岸101から沖へ向かう方向に緩やかに下降傾斜させて沿岸土103を施設し、その沿岸土103の表面が部分的に海水Kに浸漬されるように構成されている。さらに、沿岸土103の沖側先端部の位置には、波除け用の消波壁105が設置されている。
【0003】
上記した人工干潟100の場合、設備規模が大掛かりになるため、設置可能な場所が限られる。このため、養殖場等の施設の付近に人工干潟を設置する場合は、特許文献2に示すような浮体式人工干潟が好適に使用される。一般的な浮体式人工干潟110の場合、図12に示すように、海面に浮かべられる浮体構造物112と、浮体構造物112の内側に人工干潟100の沿岸土103を模して設置された基底部114とを備えている。そして、浮体構造物112の内側に規定量の海水Kが貯留されている。基底部114において海水が直接的に接触する基底表面114sは、一般的な人工干潟100の沿岸土103のように、沖へ向かう方向に緩やかに下降傾斜するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4566145号公報
【特許文献2】特開平7-124592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように浮体式人工干潟110の基底部114の基底表面114sは、図12に示すように、沖へ向かう方向に緩やかに下降傾斜するように形成されている。このため、例えば、図13に示すように、海面の波により浮体構造物112の沖側端部112x(右側)が押し上げられ、岸側端部112y(左側)が下降すると、浮体構造物112内の海水Kは左方向に基底表面114sの傾斜を登るように移動する。この場合、基底表面114sが海水Kの移動の抵抗になり、海水Kの重心Gの変位量X1は比較的小さくなる。次に、図14に示すように、海面の波により浮体構造物112の岸側端部112y(左側)が押し上げられ、沖側端部112x(右側)が下降すると、基底表面114sが海水Kの移動の抵抗にならず、海水Kは基底表面114sに沿って右方向に流れ下るようになる。これにより、海水Kの移動速度が増加することで移動量が多くなり、海水Kの重心Gの変位量X2は大きくなる。このため、図14に示すように、浮体構造物112の右側が下降する際の揺れが大きくなる。即ち、海面の波による浮体式人工干潟110の揺動が浮体構造物112内の海水Kの移動によりさらに増幅される。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、波の影響で浮体式人工干潟が揺動する際、その浮体式人工干潟に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各発明によって解決される。第1の発明は、水面に浮かべられる浮体式人工干潟であって、底板部と、前記底板部の周縁に塀状に立設された縦壁部とを備え、水面に浮かぶように構成された浮体構造物と、前記浮体構造物の縦壁部の内側で前記底板部を覆っており、一部が前記浮体構造物内に溜められた水に水没することで干潟を構成する基底部とを有しており、前記基底部において水が直接的に接触可能な基底表面は、前記浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなる。
【0008】
本発明によると、基底表面は浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなる。即ち、基底表面は、側面形状が略谷形に形成されて、一端側と他端側とで高さ寸法が大きく、中央部における高さ寸法が小さくなる。このため、基底表面の中央部とその近傍とが水没するようになる。そして、波の影響により浮体構造物の一端側が押し上げられ、他端側が下降すると、浮体構造物112内の水は中央部から他端側まで基底表面の傾斜を登るように移動する。また、波の影響で浮体構造物の他端側が押し上げられ、一端側が下降すると、浮体構造物112内の水は中央部から一端側まで基底表面の傾斜を登るように移動する。このように、浮体構造物が波の影響を受けた場合に、浮体構造物112内の水が基底表面の傾斜を登るように移動するため、水が中央部から一端側、あるいは他端側に移動し難くなる。さらに、浮体構造物内の水が基底表面の一端側と他端側とにほぼ等しい量だけ移動する。このため、水の移動に伴う一端側と他端側との揺れがほぼ等しくなる。即ち、波の影響で浮体式人工干潟が揺動する際、その内部に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【0009】
第2の発明は、水面に浮かべられる浮体式人工干潟であって、底板部と、前記底板部の周縁に塀状に立設された縦壁部とを備え、水面に浮かぶように構成された浮体構造物と、前記浮体構造物の縦壁部の内側で前記底板部を覆っており、一部が前記浮体構造物内に溜められた水に水没することで干潟を構成する基底部とを有しており、前記基底部において水が直接的に接触可能な基底表面は、前記浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなる。
【0010】
本発明によると、基底表面は浮体構造物の周囲の波の進行方向に沿う方向における一端側から中央部に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に大きくなり、前記中央部から他端側に近づくにつれて高さ寸法が階段的、あるいは連続的に小さくなる。即ち、基底表面は、側面形状が略山形に形成されて、一端側と他端側とで高さ寸法が小さく、中央部における高さ寸法が大きくなる。このため、基底表面の中央部を除く部分が水没するようになる。そして、波の影響により浮体構造物の一端側が押し上げられ、他端側が下降すると、浮体構造物112内の水は側面略山形状の基底表面が抵抗になることで他端側まで移動し難くなる。また、浮体構造物の他端側が押し上げられ、一端側が下降すると、浮体構造物112内の水は同様に側面略山形状の基底表面が抵抗になることで一端側まで移動し難くなる。さらに、波の影響で浮体構造物が揺動した場合に、その浮体構造物の内部に溜められた水が基底表面の一端側と他端側とにほぼ等しい量だけ移動する。このため、水の移動に伴う一端側と他端側との揺れがほぼ等しくなる。即ち、波の影響で浮体式人工干潟が揺動する際、その内部に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【0011】
第3の発明によると、基底表面は、上り勾配の傾斜面と下り勾配の傾斜面とから構成されている。このため、浮体式人工干潟を自然に近い状態で形成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、波の影響で浮体式人工干潟が揺動する際、その浮体式人工干潟に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1に係る浮体式人工干潟の模式斜視図である。
図2】前記浮体式人工干潟の模式縦断面図である。
図3】前記浮体式人工干潟を海面に浮かべた様子を表す模式縦断面図である。
図4】前記浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
図5】前記浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
図6】変形例1に係る浮体式人工干潟を海面に浮かべた様子を表す模式縦断面図である。
図7】変形例1に係る浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
図8】変形例1に係る浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
図9】変形例2に係る浮体式人工干潟の模式斜視図である。
図10】変形例3に係る浮体式人工干潟の模式斜視図である。
図11】従来の人工干潟の模式縦断面図である。
図12】従来の浮体式人工干潟を海面に浮かべた様子を表す模式縦断面図である。
図13】従来の浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
図14】従来の浮体式人工干潟における海面の波の影響を表す模式縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、図1図10に基づいて、本発明の実施形態1に係る浮体式人工干潟について説明する。本実施形態に係る浮体式人工干潟10は、干潟に生息する魚介類等の水生生物を飼育するとともに、海水を浄化する設備である。ここで、図中に示す前後左右、及び上下は、浮体式人工干潟10における浮体構造物20の前後方向、左右方向、及び上下方向に対応している。
【0015】
<浮体式人工干潟10の概要について>
浮体式人工干潟10は、図1図2に示すように、海面Sに浮かべられた状態で使用される人工干潟であり、例えば、岸壁3に係留できるように構成されている。浮体式人工干潟10は、海面Sに浮かべられる浮体構造物20と、浮体構造物20の内側で干潟を構成する基底部30と、海水を浮体構造物20の内部に供給する給水装置40と、排水装置50とを備えている。
【0016】
<浮体構造物20について>
浮体構造物20は、図1図2に示すように、鋼板等により上部が開放された角形容器状に形成されている。即ち、浮体構造物20は、底板部21と、底板部21の前後に立設された前板部22、後板部23と、底板部21の左右に立設された左板部24、右板部25とを備えている。そして、底板部21、前板部22、後板部23、左板部24、及び右板部25の端縁が相互に溶接等により接合されることで、浮体構造物20は角形容器状に形成されている。浮体構造物20の前板部22の上面左右と後板部23の上面左右とには、浮体構造物20を係留する際に使用されるフック27が上方に突出した状態で形成されている。浮体構造物20は、前板部22が海の沖側、後板部23が岸壁3側に位置決めされた状態で、フック27が岸壁3側の係留支柱3pと沖側の係留支柱3pとにそれぞれ係留されている。このため、浮体構造物20の前後方向が海面Sの波の進行方向Wに沿う方向となる。ここで、浮体構造物20の前後左右方向の寸法は、例えば、約10mに設定されている。
【0017】
<基底部30について>
基底部30は、浮体構造物20の内側で干潟を構成する部分であり、天然の干潟に近い状態となるように構成されている。基底部30は、浮体構造物20の内側で底板部21の表面全体を覆っている。基底部30は、図2に示すように、例えば、岩石、及び礫岩等から構成される礫岩層37と、礫岩層37の上に積層された砂層36と、砂層36の上に積層された泥層32とを備えている。そして、泥層32の表面に対して浮体構造物20の内部に溜められた海水Kが直接的に接触可能となる。即ち、泥層32の表面が基底表面32fとなる。基底表面32fは、図2に示すように、浮体構造物20の前板部22側(前端側)から中央部に近づくにつれて高さ寸法が連続的に小さくなる。このため、前端側と中央部間の基底表面32fは、中央部側が低い下り勾配の傾斜面となる。
【0018】
また、基底表面32fは、浮体構造物20の中央部から後板部23(後端側)に近づくにつれて高さ寸法が連続的に大きくなる。このため、中央部と後端側間の基底表面32fは、後端側が高い登り勾配の傾斜面となる。即ち、基底表面32fは、前端側から中央部までの下り勾配の傾斜面と、中央部から後端側までの上り勾配の傾斜面とにより、側面形状が略扁平V字形に形成されている。そして、基底表面32fの中央部と、その近傍とが水没するように構成されている。ここで、基底表面32fの前端側と中央部間の傾斜角度は、後端部と中央部間の傾斜角度にほぼ等しく、例えば、10°~20°に設定されている。
【0019】
<給水装置40、排水装置50について>
給水装置40は、周囲の海水を浮体構造物20の内側、即ち、基底部30上に供給する装置である。給水装置40は、海水を汲み上げる給水ポンプ(図示省略)と、前記給水ポンプにより汲み上げられた海水を浮体構造物20の内側に導く給水配管43とを備えている。排水装置50は、浮体構造物20内に溜められた海水K(海水+雨水)を浮体構造物20の底部から外部に排出する装置である。排水装置50は、海水K(海水+雨水)を排出する排水ポンプ(図示省略)と、前記排水ポンプからの排水を外部に導く排水配管53とを備えている。排水装置50は、前記排水ポンプの駆動により、海水K(海水+雨水)を基底部30の泥層32、砂層36、及び礫岩層37を通して浮体構造物20の外部に排出できるように構成されている。ここで、浮体構造物20には、海水K(海水+雨水)のレベルを検知するレベル計(図示省略)が設置されており、海水Kのレベルが許容範囲内に収まるように、給水装置40と排水装置50とが駆動される。
【0020】
<浮体式人工干潟10の動作について>
浮体式人工干潟10が海面Sに浮かんでいる状態では、図3図5に示すように、海面Sの波の影響を受けて揺動する。ここで、浮体式人工干潟10の浮体構造物20は、前述のように、前後方向が海面Sの波の進行方向Wに沿う方向となるように位置決めされている。このため、浮体構造物20は、波の影響で前板部22側が押し上げられ、後板部23側が下降する状態(図4参照)と、水平な状態(図3参照)と、後板部23側が押し上げられ、前板部22側が下降する状態(図5参照)とを繰り返し、主に前後に揺動する。浮体構造物20が前後に揺動すると、浮体構造物20に貯留されている海水Kも浮体構造物20の揺動に合わせて前後に移動する。
【0021】
ここで、浮体式人工干潟10の基底部30の基底表面32fは、前端側から中央部までの下り勾配の傾斜面と、中央部から後端側までの上り勾配の傾斜面とにより、側面形状が扁平V字形に形成されている。そして、基底表面32fの前端側と中央部間の傾斜角度は、後端部と中央部間の傾斜角度とほぼ等しく設定されている。このため、図4に示すように、前板部22側が押し上げられ、後板部23側が下降する状態と、図5に示すように、後板部23側が押し上げられ、前板部22側が下降する状態とで、海水Kの移動に伴う重心Gの変位量X1とX2とはほぼ等しくなる。このため、海水Kの移動に伴う前後の揺れがほぼ等しくなる。さらに、前後いずれの場合でも、海水Kは基底表面32fの傾斜面を登る方向に移動するため、海水Kの移動量が抑制される。このため、波の影響で浮体式人工干潟10が揺動する際、その浮体式人工干潟10に溜められた海水Kの移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【0022】
<実施形態1に係る用語と本発明に係る用語との対応>
本実施形態に係る浮体構造物20における前板部22、後板部23、左板部24、及び右板部25が本発明の底板部の周縁に立設された塀状の縦壁部に相当する。また、本実施形態に係る基底表面32fの前端側が波の進行方向に沿う方向における一端側に相当し、基底表面32fの後端側が波の進行方向に沿う方向における他端側に相当する。さらに、海水Kが本発明における水に相当する。
【0023】
<本実施形態に係る浮体式人工干潟10の長所について>
本実施形態に係る浮体式人工干潟10によると、基底表面32fは浮体構造物20の周囲の波の進行方向Wに沿う方向における前端側(一端側)から中央部に近づくにつれて高さ寸法が連続的に小さくなり、前記中央部から後端側(他端側)に近づくにつれて高さ寸法が連続的に大きくなる。即ち、基底表面32fは、側面形状が扁平V字形に形成されており、前端側と後端側とで高さ寸法が大きく、中央部における高さ寸法が小さくなる。このため、基底表面32fの中央部とその近傍とが水没するようになる。そして、波の影響により浮体構造物20の前端側が押し上げられ、後端側が下降すると、浮体構造物20内の水は中央部から後端側まで基底表面32fの傾斜を登るように移動する。また、波の影響で浮体構造物20の後端側が押し上げられ、前端側が下降すると、浮体構造物20内の水は中央部から前端側まで基底表面の傾斜を登るように移動する。これにより、浮体構造物20が波の影響を受けた場合に浮体構造物20内の水が中央部から前端側、あるいは後端側に移動し難くなる。さらに、波の影響で浮体構造物20が揺動した場合に、その浮体構造物20内の水が基底表面32fの前端側と後端側とにほぼ等しい量だけ移動する。このため、水の移動に伴う前後の揺れがほぼ等しくなる。即ち、波の影響で浮体式人工干潟10が揺動する際、その内部に溜められた水の移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【0024】
<変形例1>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、基底表面32fを、図2図3等に示すように、前端側(一端側)から中央部に近づくにつれて高さ寸法が連続的に小さくなり、前記中央部から後端側(他端側)に近づくにつれて高さ寸法が連続的に大きくなるように形成する例を示した。しかし、基底表面32fを、図6図8に示すように、前端側(一端側)から中央部に近づくにつれて高さ寸法が連続的に大きくなり、前記中央部から後端側(他端側)に近づくにつれて高さ寸法が連続的に小さくなるように形成することも可能である。即ち、基底表面32fを側面形状が扁平山形になるように、前端側と後端側とで高さ寸法が小さく中央部の高さ寸法が大きくなるように形成することも可能である。この場合、基底表面32fの中央部とその近傍以外が海水Kに没するようになる。
【0025】
これにより、波の影響で、図7に示すように、浮体構造物20の前端側が押し上げられ、後端側が下降すると、浮体構造物20内の海水Kは後端側まで移動するが、扁平山形状の基底表面32fが抵抗となることで海水Kの移動が制限される。また、図8に示すように、浮体構造物20の後端側が押し上げられ、前端側が下降すると、浮体構造物20内の海水Kは前端側まで移動するが、同様に扁平山形状の基底表面32fが抵抗になることで海水Kの移動が制限される。さらに、波の影響で浮体構造物20が揺動した場合に、その浮体構造物20内の海水Kが前後にほぼ等しい量だけ移動するようになる。このため、水の移動に伴う前後の揺れがほぼ等しくなる。即ち、波の影響で浮体式人工干潟10が揺動する際、その内部に溜められた海水Kの移動に伴う揺動の増幅を抑制できる。
【0026】
<変形例2>
本実施形態では、基底表面32fを、図3等に示すように、前端側から中央部までの下り勾配の傾斜面と、中央部から後端側までの上り勾配の傾斜面とにより、側面形状が扁平V字形状になるように形成する例を示した。しかし、図9に示すように、基底表面32fを凹角錐形状に形成して中央部とその近傍が海水Kに没する構成とすることも可能である。これにより、浮体構造物20が前後に揺動する場合のみならず、左右に揺動する場合でも浮体構造物20の海水Kの移動に伴う揺動の増幅を抑えることができる。
【0027】
<変形例3>
本実施形態では、図6等に示すように、基底表面32fを側面形状が扁平山形になるように形成する例を示した。しかし、図10に示すように、基底表面32fを角錐形状に形成して中央部とその近傍以外が海水Kに没する構成とすることも可能である。これにより、浮体構造物20が前後に揺動する場合のみならず、左右に揺動する場合でも浮体構造物20の海水Kの移動に伴う揺動の増幅を抑えることができる。
【0028】
<その他>
本実施形態では、上記したように、基底表面32fを傾斜面の組み合わせにより形成する例を示した。しかし、基底表面32fを傾斜面により形成する代わりに複数段の階段によりを形成することも可能である。これにより、浮体構造物20内の海水Kの移動を効率的に抑えることができる。また、本実施形態では、図1に示すように、上部開放型の浮体構造物20を例示したが、屋根付きの浮体構造物20を使用することも可能である。また、本実施形態では、図1に示すように、平面角形の浮体構造物20を例示したが、浮体構造物20の平面形状は設置場所の平面形状に合わせて適宜変更可能である。さらに、本実施形態では、海で使用する浮体式人工干潟10を例示したが、本発明に係る浮体式人工干潟10を湖沼や河川で使用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
10・・・浮体式人工干潟
20・・・浮体構造物
21・・・底板部
22・・・前板部(縦壁部)
23・・・後板部(縦壁部)
24・・・左板部(縦壁部)
25・・・右板部(縦壁部)
30・・・基底部
32f・・基底表面
K・・・・海水
S・・・・海面(水面)
W・・・・波の進行方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14