(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006202
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106876
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 睦
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB04
2C056EB58
2C056EC03
2C056EC07
2C056EC08
2C056EC12
2C056EC28
2C056EC31
2C056EC42
2C056HA11
(57)【要約】
【課題】種々の印刷媒体に対して、ベタ画像の白抜けを抑制するとともに、細字再現性を確保することができる画像形成装置を提供する。
【解決手段】印刷媒体に対して液滴を吐出する複数のノズルが所定の方向に配列され、印刷媒体に対して相対的に移動しながら液滴を吐出するヘッド部10と、ヘッド部10によって所定の印刷媒体に印字したドットの径に基づいて、相対的な移動方向に直交する方向に対するヘッド部10の複数のノズルの配列方向の角度および複数のノズルから選択される一部の使用ノズルのうちの少なくとも1つのヘッド条件を決定するヘッド条件決定部41と、少なくとも1つのヘッド条件に基づいて、ヘッド部10のノズルからの液滴の吐出を制御するヘッド制御部42とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体に対して液滴を吐出する複数のノズルが所定の方向に配列されたヘッド部と、
前記ヘッド部によって所定の前記印刷媒体に印字する際のドットの径に基づいて、前記印刷媒体と前記ヘッド部との間の相対的な移動方向に直交する方向に対する前記ヘッド部の前記複数のノズルの配列方向の角度および前記複数のノズルから選択される一部の使用ノズルのうちの少なくとも1つのヘッド条件を決定するヘッド条件決定部と、
前記少なくとも1つのヘッド条件に基づいて、前記ヘッド部のノズルからの液滴の吐出を制御する制御部とを備えた画像形成装置。
【請求項2】
前記ヘッド条件決定部が、前記ドットの径に基づいて実効解像度を算出し、該実効解像度に基づいて、前記少なくとも1つのヘッド条件を決定する請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記ヘッド条件決定部が、前記印刷媒体に印字したドットの径のばらつきを考慮して前記実効解像度を算出する請求項2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記ヘッド条件決定部が、前記相対的な移動方向に直交する方向について予め設定された印字幅に基づいて、前記ヘッド部の前記角度を決定する請求項1記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記相対的な移動方向についてのドットの径に基づいて、前記相対的な移動方向についての実効解像度を算出し、該実効解像度に基づいて、前記ヘッド部の各ノズルからの液滴の吐出タイミングを制御する請求項2記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記ヘッド条件決定部によって決定された前記ノズルの配列方向の角度に基づいて、前記ヘッド部の設置角度を調整する調整機構を有する請求項1記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルが配列されたヘッド部を用いて印字を行う画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出して印刷処理を行うインクジェット印刷装置が提案されている。
【0003】
一般的に、産業用のインクジェット印刷装置の場合、印刷媒体の種類は多岐に渡り、たとえばフィルムなどに印刷処理を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、たとえば印刷媒体にインク受容層が塗工された基材である場合には、インクの滲みが小さくなり、少ない吐出量で印刷を行うと、ベタ画像が埋まらず白抜けが発生する恐れがある。
【0006】
一方、印刷媒体がフィルムやガラスなどの非浸透基材や段ボールなどインク受容層の無い浸透基材の場合は、インクの滲みが大きくなる。インクの滲みが大きい基材では、QRコード(登録商標)や1次元バーコードなどのバーコード、および文字の細部などが潰れる恐れがある。
【0007】
そこで、たとえば印刷媒体の種類(滲み率)に応じてドット径を調整する方法が考えられる。ドット径を調整する方法としては、1ドット当たりのインクの吐出量を調整する方法が考えられる。
【0008】
しかしながら、マルチドロップ方式のインクジェットヘッドを使用する場合、ドロップ数で吐出量を変更することはできるが、インクジェットヘッドの駆動波形の波形長が長くなる。波形長は、1ドットの形成に要するインクドロップを吐出するために供給される波形の長さであり、これが長いと吐出周波数が遅くなるため、生産性が低下する。
【0009】
一方、高速吐出が可能なバイナリ方式のインクジェットヘッドを使用する場合、階調数が2階調のため、原則としてインクの吐出量は一定である。インクジェットヘッドの駆動電圧や波形などの調整による吐出量の変化は微小であり、さらに体積は半径の3乗に比例するため、液滴径の大幅な変化は期待できない。
【0010】
また、通常、インクジェットヘッドの駆動条件は、インクの飛翔速度やサテライトなどを考慮して設定されているため、吐出量だけ独立して変更することは難しい。
【0011】
なお、特許文献1には、印刷媒体の膨張収縮変化に応じて、インクジェットヘッドの角度を調整することによって、着弾位置を調整する方法が提案されているが、上述したような滲みを考慮した角度調整ではないので、上記の問題を解決することはできない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、種々の印刷媒体に対して、ベタ画像の白抜けを抑制するとともに、細字再現性を確保することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の画像形成装置は、印刷媒体に対して液滴を吐出する複数のノズルが所定の方向に配列されたヘッド部と、ヘッド部によって所定の印刷媒体に印字する際のドットの径に基づいて、印刷媒体とヘッド部との間の相対的な移動方向に直交する方向に対するヘッド部の複数のノズルの配列方向の角度および複数のノズルから選択される一部の使用ノズルのうちの少なくとも1つのヘッド条件を決定するヘッド条件決定部と、少なくとも1つのヘッド条件に基づいて、ヘッド部のノズルからの液滴の吐出を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の画像形成装置によれば、ヘッド部によって所定の印刷媒体に印字したドットの径に基づいて、相対的な移動方向に直交する方向に対するヘッド部の複数のノズルの配列方向の角度および複数のノズルから選択される一部の使用ノズルのうちの少なくとも1つのヘッド条件を決定し、その決定したヘッド条件に基づいて、ヘッド部のノズルからの液滴の吐出を制御するようにしたので、ドットピッチを最適化することができ、種々の印刷媒体に対して、ベタ画像の白抜けを抑制するとともに、細字再現性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の画像形成装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置の概略構成を示すブロック図
【
図3】
図1に示すインクジェット印刷装置の印刷処理を説明するためのフローチャート
【
図7】ヘッド部の各ノズルの吐出タイミングの制御を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置の一実施形態を用いたインクジェット印刷装置1について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット印刷装置1の概略構成図である。
【0017】
インクジェット印刷装置1は、コンピュータから出力された画像データまたは原稿読取装置から出力された画像データに基づいて、紙やフィルムなどといったシート状の印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷処理を行う。
【0018】
インクジェット印刷装置1は、
図1に示すように、ヘッド部10、搬送部20、読取部30、制御部40および調整機構50を備えている。
【0019】
図2は、本実施形態のヘッド部10の概略構成を示す図である。本実施形態のヘッド部10は、
図2に示すように、印刷媒体の搬送方向に直交する方向に複数のノズル10aが配列されたものである。なお、本実施形態においては、以下、印刷媒体Mの搬送方向に直交する方向を主走査方向といい、印刷媒体の搬送方向を副走査方向ということがある。
【0020】
ヘッド部10の各ノズル10aからインクが吐出されることによって、主走査方向に延びる直線が印字される。ヘッド部10は、印刷媒体の副走査方向の搬送に伴って、インクを順次吐出して主走査方向に延びる直線の印字を繰り返し行うことによって、印刷媒体上に画像を形成する。
【0021】
搬送部20は、印刷媒体を搬送する搬送機構を備える。搬送機構は、たとえば環状ベルトおよびベルトプラテンローラなどを備え、印刷媒体の搬送方向について、ヘッド部10を挟むように配置されたベルトプラテンローラ間に環状ベルトを掛け渡すことによって構成される。そして、制御部40による制御によって、ベルトプラテンローラが回転することによって、環状ベルトが移動し、これにより環状ベルト上に吸着された印刷媒体がヘッド部10に向けて搬送される。
【0022】
そして、ヘッド部10の直下を印刷媒体が搬送されるとともに、ヘッド部10の各ノズル10aから所定の吐出タイミングでインクが吐出されることによって、搬送される印刷媒体に対して順次、印字が行われる。
【0023】
読取部30は、印刷対象の原稿画像を光電的に読み取って画像データを取得する。また、読取部30は、ヘッド部10によってドット計測用のドットパターンが印字された印刷媒体を光電的に読み取ってドットデータを取得する。
【0024】
ドットパターンは、ヘッド部10の各ノズル10aによって形成されるドットのパターンであり、各ノズル10aに対応するドットが主走査方向および副走査方向に規則的に配列されたパターンである。ドットパターンは、後述するヘッド部10の角度調整前の状態、すなわちヘッド部10のノズル10aの配列方向と主走査方向とが同じ状態で印字される。
【0025】
読取部30によって読み取られた画像データおよびドットデータは、制御部40に出力される。
【0026】
制御部40は、CPUおよび半導体メモリなどを備え、インクジェット印刷装置1全体を制御する。制御部40は、半導体メモリまたはハードディスクなどの記憶媒体に予め記憶された制御プログラムを実行し、かつ電気回路を動作させることによって、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御するものである。
【0027】
制御部40は、具体的には、ヘッド条件決定部41、ヘッド制御部42および搬送制御部43を備える。
【0028】
ここで、本実施形態の制御部40は、印刷媒体の滲みの程度に応じた印字を行う。ヘッド条件決定部41は、読取部30によって取得されたドットデータを受け付け、その受け付けたドットデータに基づいて、ヘッド部10の角度およびヘッド部10の使用ノズルを決定する。
【0029】
ヘッド部10の角度とは、主走査方向に対するヘッド部10の複数のノズル10aの配列方向の角度である。ヘッド部10の使用ノズルとは、ヘッド部10が備える複数のノズル10aのうち実際の吐出に使用されるノズルであって、たとえば複数のノズル10aを所定のノズル間隔で間引いた後の一部のノズルが選択される。また、ノズル10aの間引きを行わず、ヘッド部10の角度のみを調整し、全てのノズル10aを使用ノズルとする場合もある。
【0030】
ヘッド条件決定部41におけるヘッド部10の角度および使用ノズルの決定方法については、後で詳述する。
【0031】
ヘッド制御部42は、コンピュータまたは読取部30から出力された画像データを受け付け、その画像データに対して種々の処理を施す。そして、ヘッド制御部42は、その処理後の画像データに基づいてヘッド部10に対して制御信号を出力し、ヘッド部10の各ノズル10aからのインク吐出を制御する。
【0032】
また、ヘッド制御部42は、ヘッド部10の各ノズル10aからのインク吐出タイミングを制御することによって、印刷媒体上に画像データに応じた印刷画像を形成する。
【0033】
また、ヘッド制御部42は、ヘッド条件決定部41において決定されたヘッド部10の角度に基づいて、後述する調整機構50を制御することによって、ヘッド部10の角度を調整する。また、ヘッド制御部42は、ヘッド条件決定部41において決定された使用ノズルに基づいてヘッド部10を制御して、使用ノズルのみからインクを吐出して印字を行う。すなわち、ヘッド制御部42は、ヘッド部10が有する複数のノズル10aを間引いた一部の使用ノズルからのみインクを吐出して印字を行う。ただし、ヘッド制御部42は、上述したようにヘッド部10の角度の調整のみを行い、ノズル10aの間引きを行わない場合もある。
【0034】
搬送制御部43は、搬送部20による印刷媒体の搬送速度を制御する。
【0035】
調整機構50は、ヘッド部10の角度を調整する機構である。本実施形態では、ヘッド部10の一端に回動軸が設けられ、その回動軸を中心としてヘッド部10の他端を移動させることによってヘッド部10を回動可能に構成されている。調整機構50は、たとえば特開2010-228434号公報に記載されているような、ヘッド部10に接するカム部材およびそのカム部材を回転させるモータなどを備え、モータによってカム部材を回転させることによってヘッド部10の角度を調整する。ただし、調整機構50の構成はこれに限らず、ヘッド部10の角度を調整可能な機構であれば、如何なる機構を採用してもよい。
【0036】
次に、本実施形態のインクジェット印刷装置1の印刷処理について、
図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、ここでは、ヘッド条件決定部41におけるヘッド部10の角度と使用ノズルの決定方法を中心に説明する。
【0037】
まず、前提条件として、印刷媒体としてフィルム基材を用い、その一部に30mm程度の印字幅で、商品名およびQRコード(登録商標)を追い刷りすることを想定した場合のヘッド部10の角度と使用ノズルの決定方法について説明する。また、ヘッド部10の構成としては、ノズル解像度Nを400dpiとし、各ノズル10aからのインクの吐出量Qを30pL(液滴径dは38.6μm)とし、最大印字幅Lmaxを60mm、吐出周波数fを35kHzとする。最大印字幅とは、角度調整前のヘッド部10によって印字可能な最大幅のことである。また、吐出周波数とは、1ラインを形成するインクの吐出周期の逆数から算出される周波数である。
【0038】
まず、ヘッド条件決定部41は、ヘッド部10のノズル解像度、液滴径および最大印字幅の情報を取得する(S10)。これらのヘッド部10の初期情報は、インクジェット印刷装置1に接続されるコンピュータ(たとえば画像データを出力するコンピュータ)(図示省略)や、インクジェット印刷装置1に設けられた操作パネル(図示省略)などにおいて設定される。液滴径とは、ノズル10aから吐出された後、印刷媒体の着弾する前の液滴の直径のことであり、使用するインクやヘッドの駆動条件から設定される既知の値である。
【0039】
そして、ヘッド条件決定部41は、ヘッド部10の初期情報に基づいて、ドットピッチP、最小ドット径Dmin、最大ドット径Dmaxおよびヘッド部10の角度の許容範囲θmaxなどのパラメータを算出する(S12)。
【0040】
図4は、ドット径とドットピッチとの関係を示す図である。ドットピッチPは、ヘッド部10の角度が0°(ノズル10aの配列方向と主走査方向が同じ)の場合にヘッド部10によって印字されるドット間隔のことである。したがって、ドットピッチPはノズル解像度から算出することができ、本実施形態では、P=25.4mm/400dpi=63.5μmである。
【0041】
また、最小ドット径Dminは、√2×P=89.8μmであり、最大ドット径Dmaxは、2×P=127μmである。なお、Dmin<√2×Pである場合には、ベタ画像がドットによって埋まらず、白抜けが発生する。また、Dmax>2×Pである場合には、ドット同士が重なってしまい、白線が潰れてしまう。
【0042】
また、ヘッド部10の角度の許容範囲θmaxは、有効印字幅Lを30mmとすると、θmax=cos-1(L/Lmax)=cos-1(30mm/60mm)=60°である。有効印字幅Lとは、ヘッド部10の角度調整後に印字可能な印字幅のことである。このように有効印字幅Lに基づいて、ヘッド部10の角度の許容範囲θmaxを決定することによって、ヘッド部10の角度が大きすぎて印字幅が足りなくなるような問題が発生するのを回避することができる。
【0043】
次に、ヘッド条件決定部41は、ヘッド部10によって印字されたドットの径を計測する(S14)。具体的には、読取部30によってドット計測用のドットパターンが読み取られ、ドットデータがヘッド条件決定部41によって取得される。
【0044】
そして、ヘッド条件決定部41は、入力されたドットデータに基づいて、平均ドット径Dave、ドット径のバラつきα、印刷媒体の平均滲み率Knを算出する(S16)。印刷媒体の平均滲み率Knは、平均ドット径Daveと液滴径dに基づいて、Dave/dで定義される。バラつきαとしては、たとえば標準偏差σを用いることができるが、ベタ画像の白抜けを確実に防止するには、3σ程度を用いることが好ましい。
【0045】
そして、ヘッド条件決定部41は、平均ドット径Daveに対してバラつきαを考慮したドット径D±αと、最小ドット径Dminおよび最大ドット径Dmaxとを比較する。
【0046】
まず、ヘッド条件決定部41は、たとえばバラつきαを±3%とすると、平均ドット径Daveに対してバラつき-3%を考慮したドット径D-αと最小ドット径Dminとを比較する(S18)。D-α≦Dminである場合には(S18,NO)、ベタ画像が埋まらないことになるので、後述するヘッド条件(ヘッド部10の角度および使用ノズル)の決定処理に進む。
【0047】
一方、ヘッド条件決定部41は、D-α>Dminである場合には(S18,YES)、平均ドット径Daveに対してバラつき+3%を考慮したドット径D+αと最大ドット径Dmaxとを比較する(S20)。そして、ヘッド条件決定部41は、D+α≧Dmaxである場合には(S20,NO)、インクの塗布量が過多になり、白線を描けないことになるので、後述するヘッド条件(ヘッド部10の角度および使用ノズル)の決定処理に進む。
【0048】
ここで、説明のため、具体的な例を挙げて説明する。たとえば第1の印刷媒体の平均滲み率Kn=2(実際には計測値から算出される値である)とした場合、第1の印刷媒体の平均ドット径Daveは、Dave=d×Kn=38.6μm×2=77.2μmである。ドット径のバラつきαをα=±3%とした場合、バラつき-3%を考慮したドット径D-α=74.8μmであり、Dminよりも小さいので、ベタ画像が埋まらないことになる。
【0049】
一方、たとえば第2の印刷媒体の平均滲み率Kn=3(実際には計測値から算出される値である)とすると、第2の印刷媒体の平均ドット径Daveは、Dave=d×Kn=38.6μm×3=115.8μmである。ドット径のバラつきαをα=±3%とした場合、バラつき+3%を考慮したドット径D+α=120μm≒Dmaxとなり、インクの塗布量が過多になり、白線がかなり潰れてしまう。
【0050】
なお、第2の印刷媒体については、Dmaxを超えていないが、インクの塗布量が多いため、QRコード(登録商標)等の細部が潰れる可能性が高い。
【0051】
そこで、本実施形態においては、ヘッド条件決定部41は、S20において、D+α<Dmaxの場合(S20,YES)でも、細字優先モードが設定されている場合には(S22,YES)、後述するヘッド条件(ヘッド部10の角度および使用ノズル)の決定処理に進む。細字優先モードとは、細字を明確に印字することを優先するモードであって、ユーザによって予め設定入力される。
【0052】
そして、ヘッド条件決定部41は、S20において、D+α<Dmaxであって、細字優先モードが設定されていない場合には(S22,NO)、ヘッド部10の角度を変更せず、かつヘッド部10のノズル10aの間引きを行うことなく、通常のヘッド解像度にて印字を行う(S24)。
【0053】
続いて、上述したヘッド条件の決定処理について、以下に説明する。
【0054】
まず、ヘッド条件決定部41は、最適なドットピッチP’となる実効解像度Neを下式に基づいて算出する(S26)。Δαは、ドット径のバラつき量であり、上述したバラつきα(たとえば3%)と平均ドット径Daveを乗算した値である。
実効解像度Ne=25.4/(((d×Kn)-Δα)/√2)
【0055】
ここで、ヘッド部10によって印字されるドットの最適ドット径Dは、ノズル解像度Nから算出されるドットピッチをPとすると、D>√2×P=DminかつD<2×P=Dmaxの範囲である。そして、細線再現性の観点では、最適ドット径D=√2×P+Δαである。
【0056】
したがって、ドットデータから計測した平均ドット径Daveが最適ドット径Dとなるような最適ドットピッチP’は、P’=(Dave-Δα)/√2であり、この最適ドットピッチP’となる解像度を実効解像度Neと定義すると、上式を導き出すことができる。なお、本実施形態では、平均滲み率Knを用いて実効解像度Neを算出するようにしたが、上述した最適ドットピッチP’を算出して実効解像度Neを算出するようにしてもよい。
【0057】
実効解像度Neは、ドット径のバラつきを考慮しても確実にベタ画像を埋めることができ、かつ細部が潰れ難い最適な解像度となる。
【0058】
制御部40は、上述した実効解像度Neで印字可能なように、入力された画像データに対して解像度変換処理を施す(S28)。解像度変換処理については、公知な手法を用いることができる。
【0059】
そして、ヘッド条件決定部41は、実効解像度Neとノズル解像度Nに基づいて、ヘッド部10の角度であるヘッド角度θとヘッド部10のノズル10aの間引き率1/nを算出する(S30)。
【0060】
具体的には、ヘッド条件決定部41は、実効解像度Ne≧ノズル解像度Nの場合には、下式に基づいて、ヘッド角度θを算出する。
ヘッド角度θ=cos-1(N/Ne)
【0061】
なお、ヘッド条件決定部41は、ヘッド角度θが、0°<θ<θmax(=60°)の範囲内である場合には、その算出されたヘッド角度θをヘッド部10の角度として決定する。一方、上式に基づいて算出されたヘッド角度θが60°より大きい場合には、印字幅が有効印字幅を下回るため、ユーザが所望の印刷ができない可能性がある。そのため、印刷を一時停止し、印刷を続行するかどうかをユーザに確認するメッセージを表示する等の処理を行う。
【0062】
また、ヘッド条件決定部41は、実効解像度Ne<ノズル解像度Nの場合には、間引き率1/nのnを2以上とし、下式に基づいて、0°<θ<θmaxの範囲内で、ヘッド角度θが最も小さくなる角度と間引き率1/nとの組み合わせを算出する。
ヘッド角度θ=cos-1(N/Ne×1/n)
【0063】
なお、間引き率1/nの場合、ヘッド部10のノズル10aを1/nに間引いて使用ノズルが決定される。たとえば間引き率1/2の場合には、ヘッド部10のノズル10aが1/2に間引かれ、1ノズルおきに使用ノズルが決定される。また、間引き率1/3の場合には、ヘッド部10のノズル10aが1/3に間引かれ、2ノズルおきに使用ノズルが決定される。
【0064】
そして、ヘッド制御部42は、上述したヘッド角度θに基づいて調整機構50を制御して、ヘッド部10の角度を調整する(S32)。また、ヘッド制御部42は、上述したようにして間引き率1/nに基づいて決定された使用ノズルをインク吐出ノズルとして割り当てる(S32)。これにより、ドットピッチを最適化することができ、種々の印刷媒体に対して、ベタ画像の白抜けを抑制するとともに、細字再現性を確保することができる。
【0065】
また、本実施形態では、上述したように実効解像度を算出し、その実効解像度に基づいてヘッド部10の角度を決定するようにしたので、簡易な演算処理によって適切なヘッド角度を算出することができる。
【0066】
また、実効解像度を算出する際、ドット径のバラつきも考慮するようにしたので、より適切なヘッド角度を算出することができる。すなわち、ドット径のバラつきを考慮することで、より確実にベタ画像の白抜けを抑制し、かつ、細字再現性を確保できるヘッド角度を算出することができる。
【0067】
また、本実施形態では、調整機構50によって自動的にヘッド部10の角度を調整するようにしたので、手動でヘッド部10の角度を調整する手間を省くことができ、高精度な角度の調整が可能である。
【0068】
ここで、具体的な例を挙げて説明する。上述した平均滲み率Kn=2の第1の印刷媒体の場合、ドット径のバラつきαを3%とした場合、上述した計算によると実効解像度Ne=480.3dpiとなる。そして、ヘッド角度θ=33.6°となるので、
図5に示すようにヘッド部10の角度が調整される。なお、間引き率は1であり、すなわち全ノズル10aが使用ノズルとなる。
【0069】
一方、上述した平均滲み率Kn=3の第2の印刷媒体の場合、ドット径のバラつきαを3%とした場合、上述した計算によると実効解像度Ne=320.2dpiとなる。そして、ヘッド角度θ=51.3°となるので、
図6に示すようにヘッド部10の角度が調整される。なお、間引き率は1/2である。
図6では使用ノズルを黒丸で表し、使用しないノズルを白丸で示している。
【0070】
次に、搬送制御部43が、副走査方向についても上述した実効解像度Neに応じたドットピッチで印字が行われるように搬送速度を設定する(S34)。なお、副走査方向のドットピッチは、ヘッド部10の吐出周波数fまたは印刷媒体の搬送速度を変更することによって調整可能である。本実施形態では、ヘッド部10の駆動条件は変更せずに、搬送速度とヘッド部10の各ノズル10aの吐出タイミングを制御することによってドットピッチを調整する。
【0071】
調整後の搬送速度v’は、v’=35kHz×25.4mm×Neを算出することによって求められる。
【0072】
さらに、ヘッド制御部42が、ヘッド角度θを考慮して、各ノズル10aの吐出タイミングを遅延させるための遅延時間を設定する(S36)。遅延時間Δtは、下式から算出される。
Δt=P×n×sinθ/v’
【0073】
ヘッド部10の使用ノズルのうち、吐出タイミングが早い使用ノズルから順に#1、#2、#3・・・#iと番号を付けた場合(図参照)、各ノズルの遅延時間は、Δt×(i―1)(iは正の整数である)となる。
【0074】
そして、搬送制御部43による搬送部20の制御によって、搬送速度v’で印刷媒体が搬送されるとともに、ヘッド制御部42によるヘッド部10の各ノズル10aからの吐出タイミングが遅延時間Δtに基づいて制御されることによって、実効解像度Neで印字が行われる(S38)。
【0075】
ここで、具体的な例を挙げて説明する。上述した第2の印刷媒体の場合、ヘッド部10の使用ノズルからの吐出タイミングを同じにした場合、
図7Aに示すように各ドットが印字されるが、上述した遅延時間Δtに基づいて吐出タイミングを遅延させることによって、
図7Bに示すように、主走査方向と副走査方向の印字解像度が同じになるように印字可能である。
【0076】
なお、副走査方向の印字解像度が主走査方向と異なる場合には、副走査方向のドットの径に基づいて、上述した主走査方向の実効解像度Neとは異なる副走査方向の実効解像度Ne’を算出する。ここで、上記実施形態の説明では、主走査方向と副走査方向のドット径が等しいものとして説明しているが、主走査方向と副走査方向のドット径が異なる場合(たとえばドットが楕円形状で形成される)には、上記実施形態の実効解像度Neは、主走査方向のドット径に基づいて算出され、実効解像度Ne’は、上述したように副走査方向のドット径に基づいて算出される。主走査方向と副走査方向のドット径が同じ場合には、実効解像度Ne’は、主走査方向および副走査方向のどちらのドット径を用いてもよい。
【0077】
そして、その副走査方向の実効解像度Ne’で印字されるように搬送速度や吐出タイミングを調整すればよい。具体的には、副走査方向の実効解像度Ne’を用いて、上記と同様に、搬送速度v’’およびΔt’を求め、その搬送速度v’’で印刷媒体を搬送するとともに、各ノズル10aからの吐出タイミングを遅延時間Δt’に基づいて制御することによって、副走査方向について、実効解像度Ne’で印字を行うようにしてもよい。これにより、副走査方向についても、ドットピッチを最適化することができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、1つのヘッド部の角度および使用ノズルの調整について説明したが、複数のヘッド部を備えたインクジェット印刷装置である場合には、各ヘッド部毎に同様の調整を行うようにすればよい。
【0079】
また、上記実施形態においては、ヘッド部10の角度を調整機構50を用いて自動的に調整するようにしたが、これに限らず、手動で調整するようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態においては、ドットパターンのドット径を計測する際、ドットデータから自動的に計測するようにしたが、これに限らず、印字されたドットパターンを用いて手動でドット径を計測し、その計測値を設定入力するようにしてもよい。また、インクジェット印刷装置が読取部を備えず、インクジェット印刷装置とは別途設けられた読取装置において読み取られたドットデータをインクジェット印刷装置が取得し、ドッド径の自動計測を行うようにしてもよい。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0082】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記)
【0083】
本発明の画像形成装置において、ヘッド条件決定部は、ドットの径に基づいて実効解像度を算出し、その実効解像度に基づいて、ヘッド条件を決定することができる。
【0084】
本発明の画像形成装置において、ヘッド条件決定部は、印刷媒体に印字したドットの径のばらつきを考慮して実効解像度を算出することができる。
【0085】
本発明の画像形成装置において、ヘッド条件決定部は、相対的な移動方向に直交する方向について予め設定された印字幅に基づいて、ヘッド部の角度を決定することができる。
【0086】
本発明の画像形成装置において、制御部は、相対的な移動方向についてのドットの径に基づいて、相対的な移動方向についての実効解像度を算出し、その実効解像度に基づいて、ヘッド部の各ノズルからの液滴の吐出タイミングを制御することができる。
【0087】
本発明の画像形成装置においては、ヘッド条件決定部によって決定されたノズルの配列方向の角度に基づいて、ヘッド部の設置角度を調整する調整機構を有することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 インクジェット印刷装置
10 ヘッド部
10a ノズル
20 搬送部
30 読取部
40 制御部
41 ヘッド条件決定部
42 ヘッド制御部
43 搬送制御部
50 調整機構