IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

特開2024-62045アルミニウム合金材及びアルミニウム合金材の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062045
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材及びアルミニウム合金材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20240430BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240430BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/00 L
C22C21/02
C22C21/00 E
C22C21/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169796
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久富 裕二
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一
(72)【発明者】
【氏名】長屋 晃
(72)【発明者】
【氏名】菅 卓海
(57)【要約】
【課題】熱伝導性に優れたアルミニウム合金材を提供する。
【解決手段】0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有することを特徴とするアルミニウム合金材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有することを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金部AのSi/Mn質量の比が0.40~1.50であり、MnとSiの質量%の合計が1.40質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金部Aの1.0μm未満の析出物の数が、1.0mmあたり、2.0×10個以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記アルミニウム合金部Aの電気伝導率が45%ICAS以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
心材として前記アルミニウム合金部Aを有し、前記心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、
該アルミニウム合金部Bの電位が、前記心材よりも50mV以上卑であること、
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
心材として前記アルミニウム合金部Aを有し、前記心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、
該アルミニウム合金部BのZn含有量が、前記心材のZn含有量よりも、1.00質量%以上多いこと、
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材。
【請求項7】
0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材の製造方法であり、
0.50質量%以上のSi、0.10質量%以上のFe、0.10質量%以上のCu、0.50質量%以上のMn、0.05質量%以上のMg、及び0.10質量%以上のZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを20.0質量%以上含有する鋳造原料を用いて、
0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有することを特徴とするアルミニウム合金材の製造方法。
【請求項8】
前記鋳造工程の後、前記アルミニウム合金部Aを熱間圧延し、あるいは、熱間圧延及び冷間圧延し、前記アルミニウム合金板材を得ることを特徴とする請求項7記載のアルミニウム合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性が高いアルミニウム合金材、及びアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器の製造に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを用いて、熱伝導性が高いアルミニウム合金材を製造するアルミニウム合金材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、高熱伝導性を備えており、住居室内を空調するためのルームエアコン、自動車の車内空調のためのヒータ、エバポレータ、コンデンサ、及びエンジンの発熱を冷却するラジエータおよびオイルクーラ、電子機器を放熱するヒートシンクなど強制的に温度調整を行うための機能に用いられ、その他にもアルミニウムの高熱伝導特性を生かすため、ヒートインシュレータ、建築用ウォール材にも放熱性の良い材料としてアルミニウム合金が選択されて用いられている。
【0003】
近年、カーボンニュートラルの達成等、環境負荷低減の中で、排熱の再利用や良好な熱伝導性を実現することは大きな課題となっている。
【0004】
そして、排熱の再利用や良好な熱伝導性を実現するために、高い熱伝導性を有するアルミニウム合金が必要とされる。このような高い熱伝導性を有するアルミニウム合金として、1000系アルミニウム合金が挙げられる。
【0005】
アルミニウム合金を作製する場合、諸性能を確保するため、アルミニウム新地金を鋳造原料とし、必要元素を添加することにより化学成分を所望の範囲に調整していた。しかし、アルミニウム新地金は製造時に多量の電力を消費するため、鋳造原料としてアルミニウム新地金を使用すると電力由来のCO排出量が多くなり、環境負荷が高くなるという問題があるため、新地金の使用量を減らすことの重要性が増している。
【0006】
新地金の使用量を削減するための手段としてリサイクルが考えられるが、その際には廃材を、該廃材と同じ製品を作るための原料へと戻す水平リサイクルが合理的であり、その代表例がアルミニウム缶である。例えば、アルミニウム缶廃材を他の製品へリサイクルすると、社会全体ではリサイクル率が低下してしまうという不合理が生じる。
【0007】
特許文献1では、6000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用した場合に含まれる不純物元素を許容する規定がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-303405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、1000系アルミニウム合金は、熱伝導性は高いものの、製造時のリサイクル及びスクラップの再利用率が非常に低いため、環境負荷が高いものとなっている。
【0010】
従って、本発明の目的は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、1000系アルミニウム合金に代わる熱伝導性に優れるアルミニウム合金材を提供することにある。また、本発明の目的は、1000系アルミニウム合金に代わる熱伝導性に優れるアルミニウム合金材であり且つクラッド材の製造工程中に生じた屑や廃棄されたアルミニウム製熱交換器などのスクラップ材を多く再配合可能なアルミニウム合金材を提供することにある。また、本発明の目的は、クラッド材の製造工程中に生じた屑や廃棄されたアルミニウム製熱交換器などのスクラップ材を多く再配合して、熱伝導性に優れるアルミニウム合金材を製造することができるアルミニウム合金材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有することを特徴とするアルミニウム合金材を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記アルミニウム合金部AのSi/Mn質量の比が0.40~1.50であり、MnとSiの質量%の合計が1.40質量%以上であることを特徴とする(1)のアルミニウム合金材を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記アルミニウム合金部Aの1.0μm未満の析出物の数が、1.0mmあたり、2.0×10個以上であることを特徴とする(1)又は(2)のアルミニウム合金材を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記アルミニウム合金部Aの電気伝導率が45%ICAS以上であることを特徴とする(1)~(3)いずれかのアルミニウム合金材を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、心材として前記アルミニウム合金部Aを有し、前記心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、
該アルミニウム合金部Bの電位が、前記心材よりも50mV以上卑であること、
を特徴とする(1)~(4)のいずれかのアルミニウム合金材を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、心材として前記アルミニウム合金部Aを有し、前記心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、
該アルミニウム合金部BのZn含有量が、前記心材のZn含有量よりも、1.00質量%以上多いこと、
を特徴とする(1)~(4)のいずれかのアルミニウム合金材を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材の製造方法であり、
0.50質量%以上のSi、0.10質量%以上のFe、0.10質量%以上のCu、0.50質量%以上のMn、0.05質量%以上のMg、及び0.10質量%以上のZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを20.0質量%以上含有する鋳造原料を用いて、
0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有することを特徴とするアルミニウム合金材の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、前記鋳造工程の後、前記アルミニウム合金部Aを熱間圧延し、あるいは、熱間圧延及び冷間圧延し、前記アルミニウム合金板材を得ることを特徴とする(7)のアルミニウム合金材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1000系アルミニウム合金に代わる熱伝導性に優れるアルミニウム合金材を提供することができる。また、本発明によれば、1000系アルミニウム合金に代わる熱伝導性に優れるアルミニウム合金材であり且つクラッド材の製造工程中に生じた屑や廃棄されたアルミニウム製熱交換器などのスクラップ材を多く再配合可能なアルミニウム合金材を提供することができる。また、本発明によれば、クラッド材の製造工程中に生じた屑や廃棄されたアルミニウム製熱交換器などのスクラップ材を多く再配合して、熱伝導性に優れるアルミニウム合金材を製造することができるアルミニウム合金材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアルミニウム合金材は、0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg及び0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有する。
【0021】
本発明のアルミニウム合金材は、アルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材である。本発明のアルミニウム合金材において、アルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材としては、アルミニウム合金A単体からなるアルミニウム合金材や、アルミニウム合金部Aを心材として有し且つ適宜選択される材料がクラッドされているアルミニウム合金クラッド材が挙げられる。アルミニウム合金部Aにクラッドされている皮材は、必要に応じて、適宜選択される。
【0022】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aについて、説明する。
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Siを含有する。アルミニウム合金部AのSiの含有量は、0.50~1.20質量%、好ましくは0.70~1.20質量%、より好ましくは0.70~1.00質量%である。Si含有量が、0.50質量%未満では、熱伝導性の低下が生じて充分な性能が発揮できない。また、1.20質量%を超えると、熱伝導性はこれ以上の向上はせず、円相当径が1μm以上の粗大な析出物が多くなるので成形性の低下が生じる。また、アルミニウム合金部AのSiの含有量が、0.70~1.20質量%であることにより、熱伝導性が高くなる効果が高まる。
【0023】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Feを含有する。Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成し易い。アルミニウム合金部AのFeの含有量は、0.20~0.60質量%、好ましくは0.30~0.60質量%、より好ましくは0.30~0.50質量%である。Fe含有量が上記範囲にあることにより、適切な再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成し易いため、成形性が良好な再結晶サイズの組織になりやすい。一方、Fe含有量が、0.20質量%未満では高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、また、0.60質量%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり成形性を低下させる。また、アルミニウム合金部AのFeの含有量が、0.20~0.60質量%であることにより、良好な成形性を保持できることができる。
【0024】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Cuを含有する。Cuは、孔食電位卑化の影響を抑制する働きを持つ。アルミニウム合金部AのCuの含有量は、0.05~0.40質量%、好ましくは0.07~0.27質量%である。Cu含有量が、0.05質量%未満ではアルミニウム孔食電位が卑となり、他アルミニウム合金との接触腐食を生じ易い。また、0.40質量%を超えると鋳造時に割れが生じ易く、製造の難易度が上がる。また、アルミニウム合金部AのCuの含有量が、0.07~0.27質量%であることにより、アルミニウム合金組み立て部品間の接触腐食が生じにくく鋳造割れが発生し難く製造し易い材料になる。
【0025】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Mnを含有する。Mnは、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、また、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金部AのMnの含有量は、0.80~1.20質量%、好ましくは0.85~1.10質量%、より好ましくは0.90~1.05質量%である。Mn含有量が、0.80質量%未満ではその効果が小さく、また、1.20質量%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。また、アルミニウム合金部AのMnの含有量が、0.85~1.10質量%であることにより、強度が高く、塑性加工性の良好な材料になる。
【0026】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Mgを含有する。Mgは固溶量の増加、およびMgSiの析出により強度を向上させる。アルミニウム合金部AのMg含有量は、0.90~1.20質量%、好ましくは0.97~1.20質量%、より好ましくは0.97~1.17質量%である。Mg含有量が上記範囲にあることにより、強度が向上する。一方、Mg含有量が上記範囲を超えると、熱伝導性が低下する。Mg含有量が上記範囲未満だと、上記Mg添加による強度向上効果が得られない。また、アルミニウム合金部AのMgの含有量が、0.90~1.20質量%であることにより、高い強度および熱伝導性が確保できる。
【0027】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Znを含有する。Znは孔食の発生を抑え、耐食性を向上させる働きを持つ。また、アルミニウム合金はCuの含有により孔食電位が貴化するため、組み立てた相手材の接触腐食を誘発し構造材の耐食性が低下する。そのため、アルミニウム合金部Aは、Znを含有することによりアルミニウム合金の孔食電位を卑化し、構造材の耐食性を向上させることができる。アルミニウム合金部AのZnの含有量は、0.10~0.50質量%である。Zn含有量が、0.50質量%を超えると、孔食電位が卑化して、腐食速度を増大させる恐れがある。また、Zn含有量が0.10質量%未満では孔食の発生が増加し、耐食性が低下する。また、組み立てた相手材の接触腐食が発生し、構造材の耐食性を低下させる恐れがある。そして、アルミニウム合金の孔食電位を調整し、耐食性を向上させる点で、アルミニウム合金部AのZnの含有量は、好ましくは0.20~0.40質量%である。
【0028】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Tiを含有してもよい。Tiは、固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金部AのTi含有量は、0.10質量%以下(0.00質量%を含む)である。Ti含有量が0.10質量%を超えると、巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0029】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aは、Crを含有してもよい。Crは、固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金部AのCr含有量は、0.05質量%以下(0.00質量%を含む)である。Cr含有量が0.05質量%を超えると、巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0030】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)は、0.40~1.50、好ましくは0.60~1.40、より好ましくは0.60~1.20である。アルミニウム合金部AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金部Aの熱伝導性が向上する。一方、アルミニウム合金部AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)が、上記範囲を超えると、熱伝導性の向上は見込まれず、1μm以上の金属析出物数が増加して、塑性加工性が低下し、また、上記範囲未満だと、熱伝導性が低下する。
【0031】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部AのMn含有量及びSi含有量の合計は、1.40質量%以上、好ましくは1.60質量%以上である。アルミニウム合金部AのMn含有量及びSi含有量の合計が、上記範囲にあることにより、アルミニウム合金材の熱伝導性が向上する。
【0032】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aの1.0μm未満の析出物の数は、1.0mmあたり、2.0×10個以上である。アルミニウム合金部Aの1.0μm未満の円相当径の析出物の数が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金部材の熱伝導性が向上する。なお、析出物のサイズは円相当径で判定する。
【0033】
本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aの電気伝導率は、45%IACS以上、好ましくは48%IACS以上、より好ましくは49%IACS以上である。アルミニウム合金部Aの電気伝導率が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金部材の熱伝導性が高くなる。アルミニウム合金部材の熱伝導性は電気伝導性と正の相関を有し、電気伝導率が高ければ熱伝導率も高くなる。より測定容易な電気伝導率を、熱伝導性の代替評価とする。なお、本発明において、上記アルミニウム合金部Aの電気伝導率は、板厚が1.00mm以上の測定試対象料を、渦電流式導電率計を用いて測定した値を指す。渦電流式導電率計による測定値は、板厚が薄いと高めの値となるが、板厚が1mm程度あれば十分に厚く、渦電流式導電率計を用いても板厚の影響を受けない。
【0034】
本発明のアルミニウム合金材は、本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aを有することにより、熱伝導性に優れる。
【0035】
また、本発明のアルミニウム合金材としては、心材として本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aを有し、心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、アルミニウム合金部Bの電位が、心材よりも50mV以上卑であるアルミニウム合金材が挙げられる。
【0036】
また、本発明のアルミニウム合金材としては、心材として本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aを有し、心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材であり、アルミニウム合金部BのZn含有量が、前記心材のZn含有量よりも、1.00質量%以上多いアルミニウム合金材が挙げられる。
【0037】
アルミニウム合金部Bとしては、後述する犠牲陽極材Bが挙げられる。なお、心材の一方の面側又は両面側にアルミニウム合金部Bがクラッドされているとは、心材の一方の面又は両面に、直接アルミニウム合金部Bがクラッドされている場合を指す。
【0038】
本発明のアルミニウム合金材は、熱伝導性が高いアルミニウム合金部Aを有しているので、1000系アルミニウム合金に代えて使用可能な程度に熱伝導性が高いアルミニウム合金材を提供できる。また、本発明のアルミニウム合金部Aの組成は、鋳造の際のアルミニウム合金廃材の使用量を多くできるものなので、本発明のアルミニウム合金材は、アルミニウム合金廃材の再利用率を高くすることができる。特に、アルミニウム合金廃材の配合により熱伝導性は一般的に1000系アルミニウム合金よりも低下するが、本発明のアルミニウム合金材は、1000系に対する熱伝導性の低下を最小限に留めることができる。そのため、本発明のアルミニウム合金材は、鋳造原料として、アルミニウム合金廃材を、鋳造原料中20.0質量%以上用いる場合において、熱伝導率が高いものとなる。
【0039】
本発明のアルミニウム合金材は、鋳造原料中のアルミニウム合金廃材の使用割合が20.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上である鋳造原料を用いて製造されたものであってもよい。
【0040】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法は、0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、及び0.90~1.20質量%のMg、0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材の製造方法であり、
0.50質量%以上のSi、0.10質量%以上のFe、0.10質量%以上のCu、0.50質量%以上のMn、0.05質量%以上のMg、及び0.10質量%以上のZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを20.0質量%以上含有する鋳造原料を用いて、
0.50~1.20質量%のSi、0.20~0.60質量%のFe、0.05~0.40質量%のCu、0.80~1.20質量%のMn、0.90~1.20質量%のMg、0.10~0.50質量%のZnを含有し、Tiの含有量が0.10質量%以下であり、Crの含有量が0.05質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有することを特徴とするアルミニウム合金材の製造方法である。
【0041】
以下、0.50質量%以上のSi、0.10質量%以上のFe、0.10質量%以上のCu、0.50質量%以上のMn、0.05質量%以上のMg、及び0.10質量%以上のZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップを、アルミニウム合金廃材とも記載する。
また、以下、本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金部Aは、本発明のアルミニウム合金材に係るアルミニウム合金部Aのうち、アルミニウム合金廃材をアルミニウム合金鋳塊Aを鋳造するための原料の一部として用いて得られたものである。
【0042】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法は、アルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材を製造する方法である。本発明のアルミニウム合金材の製造方法において、アルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材としては、アルミニウム合金A単体からなるアルミニウム合金材や、アルミニウム合金部Aを心材として有し且つ適宜選択される材料がクラッドされているアルミニウム合金クラッド材が挙げられる。
【0043】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法では、アルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有する。そして、本発明のアルミニウム合金材の製造方法では、鋳造工程を行った後、鋳造工程を行い得られたアルミニウム合金鋳塊Aを用いて、種々の工程及び処理を経て、アルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材を得る。
【0044】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金鋳塊Aについて、説明する。
Siは、アルミニウム合金廃材の成分に含まれるため、アルミニウム合金鋳塊Aが、Siを含有する必要がある。アルミニウム合金鋳塊AのSiの含有量は、0.50~1.20質量%、好ましくは0.70~1.20質量%、より好ましくは0.70~1.00質量%である。Si含有量が、0.50質量%未満では、アルミニウム合金廃材の配合による新地金削減の効果が小さく、また、1.20質量%を超えると、円相当径が1.0μm以上の化合物数が増加し成形性が低下する。また、アルミニウム合金鋳塊AのSiの含有量が、0.70~1.00質量%であることにより、熱伝導性が高くなる効果が高まる。
【0045】
Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成し易い。アルミニウム合金鋳塊AのFeの含有量は、0.20~0.60質量%、好ましくは0.30~0.60質量%、より好ましくは0.30~0.50質量%である。Fe含有量が、0.20質量%未満では高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、同時にアルミニウム合金廃材を配合する量が低下する。また、0.60質量%を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり塑性加工性を低下させる。また、アルミニウム合金部AのFeの含有量が、0.20~0.60質量%であることにより、不純物の多い安価な地金を使用でき、且つ良好な成形性を保持できることができる。
【0046】
Cuは、孔食電位卑化の影響を抑制する働きを持つ。アルミニウム合金鋳塊AのCuの含有量は、0.05~0.40質量%、好ましくは0.07~0.27質量%である。Cu含有量が、0.07質量%未満ではアルミニウム合金廃材の配合による新地金削減の効果が小さく、また、0.40質量%を超えると鋳造時に割れが生じ易く、製造の難易度が上がる。また、孔食電位が極度に貴化するため、自己耐食性が低下する。また、アルミニウム合金鋳塊AのCuの含有量が、0.07~0.27質量%であることにより、新地金削減の効果が大きく、アルミニウム合金組み立て部品間の接触腐食が生じにくく、鋳造割れが発生し難く製造し易い材料になる。
【0047】
Mnは、SiとともにAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、また、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金鋳塊AのMnの含有量は、0.80~1.20質量%、好ましくは0.85~1.10質量%、より好ましくは0.90~1.05質量%である。Mn含有量が、0.80質量%未満ではアルミニウム合金廃材の配合による新地金削減の効果が小さく、また、1.20質量%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。アルミニウム合金部AのMnの含有量が、0.85~1.10質量%であることにより、強度が高く、塑性加工性の良好な材料になる。
【0048】
Mgは、固溶量の増加、およびMgSiの析出により強度を向上させる。アルミニウム合金鋳塊AのMg含有量は、0.90~1.20質量%、好ましくは0.97~1.20質量%、より好ましくは0.97~1.17質量%である。Mg含有量が上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、Mg含有量が上記範囲を超えると、熱伝導性が低下する。Mg含有量が上記範囲未満だと、上記Mgの添加効果が得られない。アルミニウム合金鋳塊AのMgの含有量が、0.90~1.20質量%であることにより、高い強度および熱伝導性が確保できる。
【0049】
Znは孔食の発生を抑え、耐食性を向上させる働きを持つ。Znは、アルミニウム合金廃材の成分に含まれるため、アルミニウム合金鋳塊Aが、Znを含有しうる。また、アルミニウム合金はCuの含有により孔食電位が貴化するため、組み立てた相手材の接触腐食を誘発し構造材の耐食性が低下する。そのため、アルミニウム合金鋳塊Aは、Znを含有することによりアルミニウム合金の孔食電位を卑化し、構造材の耐食性を向上させることができる。アルミニウム合金鋳塊AのZnの含有量は、0.10~0.50質量%である。Zn含有量が、0.50質量%を超えると、心材の孔食電位が卑化して、腐食速度を増大させる恐れがある。また、Zn含有量が、0.10質量%未満では孔食の発生が増加し、耐食性が低下する。また、組み立てた相手材の接触腐食が発生し、構造材の耐食性を低下させる恐れがある。そして、アルミニウム合金廃材の使用量を多くし易くなる点や、Zn含有量が高いアルミニウム合金廃材の使用が可能となり、アルミニウム合金廃材の使用の自由度が高くなる点で、アルミニウム合金鋳塊AのZnの含有量は、好ましくは0.20~0.40質量%である。
【0050】
アルミニウム合金鋳塊Aは、Tiを含有してもよい。Tiは、固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金鋳塊AのTi含有量は、0.10質量%以下(0.00質量%を含む)である。Ti含有量が0.10質量%を超えると、巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0051】
アルミニウム合金鋳塊Aは、Crを含有してもよい。Crは、固溶強化により強度を向上させる。アルミニウム合金鋳塊AのCr含有量は、0.05質量%以下(0.00質量%を含む)である。Cr含有量が0.05質量%を超えると、巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0052】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法では、本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金部Aを有するアルミニウム合金材、すなわち、熱伝導性に優れるアルミニウム合金材を得ることができる。
【0053】
アルミニウム合金鋳塊AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)は、0.40~1.50、好ましくは0.60~1.40、より好ましくは0.60~1.20である。アルミニウム合金鋳塊AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)が上記範囲にあることにより、アルミニウム合金部Aの熱伝導性が向上する。一方、アルミニウム合金鋳塊AのMnに対するSiの質量比(Si/Mn)が、上記範囲を超えると、熱伝導性の向上は見込まれず、1.0μm以上の金属析出物数が増加して、塑性加工性が低下し、また、上記範囲未満だと、熱伝導性が低下する。
【0054】
アルミニウム合金鋳塊AのMn含有量及びSi含有量の合計は、1.40質量%以上、好ましくは1.60質量%以上である。アルミニウム合金鋳塊AのMn含有量及びSi含有量の合計が、上記範囲にあることにより、得られるアルミニウム合金材の熱伝導性が向上する。
【0055】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係る鋳造工程では、アルミニウム合金廃材を20.0質量%以上含有する鋳造原料を用い、該鋳造原料を、溶解及び鋳造することにより、アルミニウム合金鋳塊Aを得る。
【0056】
鋳造工程において、鋳造原料の一部として用いられるアルミニウム合金廃材は、0.50質量%以上のSi、0.10質量%以上のFe、0.10質量%以上のCu、0.50質量%以上のMn、0.05質量%以上のMg、及び0.10質量%以上のZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むアルミニウム合金からなる自動車用熱交換器のスクラップ及び/又は自動車用熱交換器に用いられるアルミニウム合金クラッド材のスクラップである。
アルミニウム合金廃材に含有される成分は、自動車用熱交換器の材料において、Al-Mn-Si-Cu系合金の心材、Al-Zn系またはAl-Zn-Mg系合金の犠牲陽極材、Al-Si系のろう材等が用いられることに起因する。なお、本発明において、アルミニウム合金クラッド材のスクラップとは、アルミニウム合金クラッド材の製造工程中で生じるアルミニウム合金クラッド材の屑であり、例えば、アルミニウム合金クラッド材の圧延工程やスリット工程などで発生する端材や、熱交換器の部品の成型で発生する端材などを指す。なお、サッシ屑やUBC(使用済み飲料缶)屑等の屑を使用してもよい。
【0057】
鋳造工程において、鋳造原料の一部がアルミニウム合金廃材である。そして、鋳造工程において用いられる鋳造原料のうち、アルミニウム合金廃材の配合量は、20.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上である。鋳造原料に占めるアルミニウム合金廃材の配合量が、上記範囲にあることにより、新地金の使用に由来するCO排出量を削減することができる。
【0058】
そのため、本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金部Aのうち、20.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上が、アルミニウム合金廃材に由来する。本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金部Aは、鋳造原料として、20.0質量%以上、好ましくは30.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上のアルミニウム合金廃材が配合された鋳造原料を用いて得られたものである。
【0059】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法では、鋳造工程より後の工程及び処理並びのそれらの条件は、製造目的とするアルミニウム合金材により、適宜選択される。
【0060】
例えば、アルミニウム合金部A単体からなるアルミニウム合金材を製造する場合、アルミニウム合金鋳塊Aの鋳造工程、均質化処理工程、加熱工程を経て、熱間圧延にて所望の板厚にし、熱間圧延の後は、冷間圧延、中間焼鈍、最終焼鈍を組み合わせて、調質H112、H1n、H2n、H3n、Oの板材として、アルミニウム合金部A単体からなるアルミニウム合金材を製造する。均質化処理及び/又は中間焼鈍及び/又は最終焼鈍は、目的の調質によっては省略される場合がある。また、最終熱処理により溶体化処理、時効処理をする場合もある。最終的な板厚は、用途によって適宜選択されるが、0.03mm~5mm程度が通常である。
【0061】
また、例えば、本発明のアルミニウム合金材の製造方法に係るアルミニウム合金部Aを心材として有するアルミニウム合金クラッド材を製造する場合、皮材用のアルミニウム合金鋳塊の鋳造工程、均質化工程、加熱工程、熱間圧延工程を経て所望の板厚の皮材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延物を得る。また、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aの鋳造工程、均質化工程を行い、次いで、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aと皮材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延物を、組み合わせる工程、加熱工程、熱間圧延工程を経て、所望の板厚のクラッド物を得る。熱間圧延の後は、冷間圧延、中間焼鈍、最終焼鈍を組み合わせて、調質H1n、H2n、H3n、Oの板材として、アルミニウム合金部Aを心材として有するアルミニウム合金クラッド材を製造する。均質化処理及び/又は中間焼鈍及び/又は最終焼鈍は、目的の調質によっては省略される場合がある。最終的な板厚は、用途によって適宜選択されるが、0.03mm~5mm程度が通常である。
【0062】
本発明のアルミニウム合金材の製造方法の形態について、説明する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金材の製造方法は、アルミニウム合金部A単体からなるアルミニウム合金材の製造方法であり、アルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有する。また、本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法は、アルミニウム合金部Aを心材として有するアルミニウム合金クラッド材の製造方法であり、アルミニウム合金鋳塊Aを鋳造する鋳造工程を有する。
【0063】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法としては、アルミニウム合金鋳塊Aを得る鋳造工程を有し、鋳造工程を行い得られるアルミニウム合金鋳塊Aを心材用のアルミニウム合金鋳塊として用い、1つ又は2つの皮材用のアルミニウム合金鋳塊と組み合わせて、すなわち、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aの一方の面側又は両面側に、皮材用のアルミニウム合金鋳塊Bを組み合わせて、アルミニウム合金クラッド材を得るアルミニウム合金材の製造方法が挙げられる。2つの皮材用の鋳塊を組み合わせる場合、それらは、同一の組成のものであっても、異なる組成のものであってもよい。また、皮材用のアルミニウム合金鋳塊Bから形成される皮材の機能としては、犠牲陽極材の機能を有する皮材が挙げられる。アルミニウム合金クラッド材の層構成としては、例えば、皮材/心材の順に積層された2層材、皮材/心材/皮材の順に積層された3層材が挙げられる。皮材用のアルミニウム合金鋳塊Bの成分は、本発明の効果であるアルミニウム合金廃材の配合とは無関係であるため、従来知見に基づき適切な範囲を添加すればよい。そして、本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法により、心材としてアルミニウム合金部Aを有し、心材の一方の面側又は両面側に皮材としてアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材を得る。つまり、本発明の第二の形態のアルミニウム合金材は、心材としてアルミニウム合金部Aを有し、心材の一方の面側又は両面側に皮材としてアルミニウム合金部Bがクラッドされているアルミニウム合金クラッド材である。なお、心材の一方の面側に皮材がクラッドされているとは、心材の一方の面又は両面に直接皮材がクラッドされている場合を指す。
【0064】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法において、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aに皮材用のアルミニウム合金鋳塊Bを組み合わせる場合、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aに組み合わせる皮材用のアルミニウム合金鋳塊Bとしては、犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊Bが挙げられる。本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法としては、アルミニウム合金鋳塊Aを得る鋳造工程を有し、鋳造工程を行い得られるアルミニウム合金鋳塊Aを心材用のアルミニウム合金鋳塊として用い、犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊Bと組み合わせて、すなわち、心材用のアルミニウム合金鋳塊Aの一方の面側又は両面側に、犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊Bを組み合わせて、アルミニウム合金クラッド材を得るアルミニウム合金材の製造方法が挙げられる。
【0065】
上記本発明の第二の形態のアルミニウム合金材に係る犠牲陽極材B、及び上記本発明の第二の形態のアルミニウム合金材の製造方法に用いられる犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊Bについて、説明する。
【0066】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、0.50~6.00質量%のZn、0.05~1.50質量%のSi、及び0.05~2.00質量%のFeを含有し、Mg含有量が3.00質量%以下、Mn含有量が1.80質量%以下、Cu含有量が0.50質量%以下、Cr含有量が0.30質量%以下、Ti含有量が0.30質量%以下、Zr含有量が0.30質量%以下、V含有量が0.30質量%以下であり、残部アルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
【0067】
Znは、電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上できる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのZnの含有量は、0.50~6.00質量%、好ましくは1.00~5.00質量%である。Zn含有量が0.50質量%未満ではその効果が十分ではなく、6.00質量%を超えると腐食速度が速くなり早期に犠牲陽極材が消失し、耐食性が低下する。
【0068】
Siは、Siを含有するアルミニウム合金廃材の配合許容量を増大させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのSi含有量は、0.05~1.50質量%、好ましくは0.05~1.20質量%である。Si含有量が、0.05質量%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、また、1.50質量%を超えると犠牲陽極材の融点が低下して溶融してしまい、また、犠牲陽極材の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる場合がある。
【0069】
Feは、Si、MnとともにAl-Fe-Mn-Si系の化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのFe含有量は、0.05~2.00質量%、好ましくは0.05~1.50質量%以下である。Fe含有量が、0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、また、2.00質量%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。
【0070】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Mn含有することができる。Mnの含有は、Mnを含有するアルミニウム合金廃材の配合許容量を増大させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのMn含有量は、1.80質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.10~1.50質量%である。Mn含有量が1.80質量%を超えると粗大な化合物が生成して冷間加工で割れが発生する可能性があり、製造の難易度が上がる。
【0071】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Mgを含有することができる。Mgは、MgSiの析出により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのMg含有量は、3.00質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.50~2.00質量%である。Mg含有量が上記範囲を超えると熱間クラッド圧延時の圧着が困難となる場合がある。Mg含有量が上記範囲未満だと、上記Mgの添加効果が得られない。
【0072】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Cuを含有してもよい。Cuの含有は、Cuを含有するアルミニウム合金廃材の配合許容量を増大させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのCuの含有量は、0.50質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.10~0.40質量%である。Cu含有量が0.50質量%を超えると犠牲陽極材の孔食電位が貴化してしまい、犠牲防食の効果を低下させる場合がある。
【0073】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Tiを含有してもよい。Tiは、固溶強化により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのTi含有量は、0.30質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.05~0.20質量%である。Ti含有量が、0.30質量%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0074】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Zrを含有してもよい。Zrは、固溶強化により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのZr含有量は、0.30質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.05~0.20質量%である。Zr含有量が0.30質量%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0075】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Crを含有してもよい。Crは、固溶強化により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材BのCr含有量は、0.30質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.05~0.20質量%である。Cr含有量が0.30質量%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0076】
犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊B及び犠牲陽極材Bは、Vを含有してもよい。Vは、固溶強化により強度を向上させる。犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊C及び犠牲陽極材CのV含有量は、0.30質量%以下(0.00質量%を含む)、好ましくは0.05~0.20質量%である。Cr含有量が0.30質量%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。
【0077】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0078】
(実施例及び比較例)
表1に示す合金組成を有する心材合金をDC鋳造により鋳造し、冷却後、両面を面削して仕上げた。次いで、得られた心材合金を、表1に示す条件にて加熱し、熱間圧延により表1に示す板厚とし、その後、表1に示す条件にて冷間圧延、中間焼鈍及び最終焼鈍を経て、表1に示す最終板厚の材料を得た。
次いで、得られた材料の導電率、円相当径が1.0μm未満の析出物数、引張強度(TS)、耐力(YS)及び伸び(EL)を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
<導電率の測定>
渦電流式導電率計(日本フェルスター製 SIGMATEST2.069)にて、電気伝導度(%IACS)を測定した。
【0080】
<1.0μm未満の析出物数の測定>
樹脂埋め研磨した試料断面を、SEM装置を用い、表面を1000倍して5視野観察、撮影した。その後、画像解析ソフトにて、析出物総数を算出、円相当径換算にて1.0μm未満の析出物の1mm当りの総個数を算出した。
判定基準:2.0×10個以上を○、2.0×10個未満を×とした。
【0081】
<引張強度、耐力、伸びの測定>
JIS H4000にて、JIS5号試験片に成形し、JISに準じて測定した。
【0082】
<廃材配合率>
通常、一般的なアルミニウム合金クラッド材の製造工場において生じるアルミニウム合金廃材及び自動車用熱交換器のスクラップのSi元素の平均含有量は1.8質量%程度以上なので、1.8質量%の含有量のアルミニウム合金廃材を鋳造原料として、鋳造原料中に、何質量%配合可能となるかを算出した。その結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
実施例1、2、3は、本発明で規定する条件を満たしており、優れた熱伝導性を示した。