(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062052
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240430BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20240430BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H03H9/17 G
H03H9/54 Z
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169807
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】岩城 遼
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA01
5J108AA07
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD02
5J108DD06
5J108EE03
5J108GG03
5J108HH02
(57)【要約】
【課題】付加膜の形成位置が所望の位置からずれた場合でも、スプリアスを抑制する効果が低下しにくい弾性波デバイスを提供すること。
【解決手段】弾性波デバイスは、基板と、基板上に設けられた下部電極12および上部電極16と、下部電極12と上部電極16との間に少なくとも一部が挟まれて基板上に設けられた圧電膜14と、圧電膜14の少なくとも一部を挟んで下部電極12と上部電極16とが重なる共振領域50のエッジ領域52a、52bの少なくとも一部に設けられ、共振領域50の中央領域54から共振領域50より外側に向かう方向における断面30が両端に向かって高さが小さくなる形状をした付加膜28とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、
前記下部電極と前記上部電極との間に少なくとも一部が挟まれて前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の前記少なくとも一部を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域のエッジ領域の少なくとも一部に設けられ、前記共振領域の中央領域から前記共振領域より外側に向かう方向における断面が両端に向かって高さが小さくなる形状をした付加膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記断面は、三角形状をしている、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記断面の前記両端のうち一方の端と、前記断面の前記両端の間の幅を0.1倍した長さだけ前記一方の端から前記方向に離れた前記断面の表面上の点と、を結んだ直線の傾斜角度は25°以上かつ70°以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記付加膜に対して前記中央領域とは反対側に設けられ、前記方向における断面が前記付加膜側の端に向かって高さが小さくなる形状をした他の付加膜を備える、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記他の付加膜の前記断面の前記付加膜側の端と、前記付加膜の前記断面の前記両端の間の幅を0.1倍した長さだけ前記付加膜側の端から前記方向に離れた前記他の付加膜の前記断面の表面上の第1点と、を結んだ第1直線の第1傾斜角度は、前記付加膜の前記断面の前記両端のうち前記中央領域側の端と、前記長さだけ前記中央領域側の端から前記方向に離れた前記付加膜の前記断面の表面上の第2点と、を結んだ第2直線の第2傾斜角度の0.5倍以上1.5倍以下である、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記付加膜の前記断面と前記他の付加膜の前記断面は合同な形状をしている、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記付加膜と前記他の付加膜は同じ材料で形成されている、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記他の付加膜は、平面視において、前記付加膜と互いの端が接するように設けられている、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、
前記下部電極と前記上部電極との間に少なくとも一部が挟まれて前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の前記少なくとも一部を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域のエッジ領域の少なくとも一部に設けられた付加膜と、
前記付加膜に対して前記共振領域の中央領域とは反対側に設けられた他の付加膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項10】
請求項1または9に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサが知られている。圧電薄膜共振器は、圧電膜と、圧電膜を挟む下部電極および上部電極と、を備える。圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域は、弾性波が共振する共振領域である。圧電薄膜共振器では共振領域の周辺部において弾性波が反射し、共振領域内に定在波が形成されると不要なスプリアスとなる。そこで、共振領域内のエッジ領域に付加膜を形成することでスプリアスを抑制することが知られている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-6501号公報
【特許文献2】特開2008-42871号公報
【特許文献3】米国特許第10541669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共振領域内のエッジ領域に設けられる付加膜は、一般的に、共振領域の中央領域から共振領域より外側に向かう断面において矩形形状をしている。このような形状の付加膜を用いた場合、付加膜の形成位置が所望の位置からずれると、スプリアスを抑制する効果が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、付加膜の形成位置が所望の位置からずれた場合でも、スプリアスを抑制する効果が低下しにくい弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に少なくとも一部が挟まれて前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の前記少なくとも一部を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域のエッジ領域の少なくとも一部に設けられ、前記共振領域の中央領域から前記共振領域より外側に向かう方向における断面が両端に向かって高さが小さくなる形状をした付加膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記断面は、三角形状をしている構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記断面の前記両端のうち一方の端と、前記断面の前記両端の間の幅を0.1倍した長さだけ前記一方の端から前記方向に離れた前記断面の表面上の点と、を結んだ直線の傾斜角度は25°以上かつ70°以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記付加膜に対して前記中央領域とは反対側に設けられ、前記方向における断面が前記付加膜側の端に向かって高さが小さくなる形状をした他の付加膜を備える構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記他の付加膜の前記断面の前記付加膜側の端と、前記付加膜の前記断面の前記両端の間の幅を0.1倍した長さだけ前記付加膜側の端から前記方向に離れた前記他の付加膜の前記断面の表面上の第1点と、を結んだ第1直線の第1傾斜角度は、前記付加膜の前記断面の前記両端のうち前記中央領域側の端と、前記長さだけ前記中央領域側の端から前記方向に離れた前記付加膜の前記断面の表面上の第2点と、を結んだ第2直線の第2傾斜角度の0.5倍以上1.5倍以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記付加膜の前記断面と前記他の付加膜の前記断面は合同な形状をしている構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記付加膜と前記他の付加膜は同じ材料で形成されている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記他の付加膜は、平面視において、前記付加膜と互いの端が接するように設けられている構成とすることができる。
【0014】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に少なくとも一部が挟まれて前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の前記少なくとも一部を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域のエッジ領域の少なくとも一部に設けられた付加膜と、前記付加膜に対して前記共振領域の中央領域とは反対側に設けられた他の付加膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0015】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0016】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、付加膜の形成位置が所望の位置からずれた場合でも、スプリアスを抑制する効果が低下しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例1における共振領域近傍の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図、
図2(c)は、
図2(a)のB-B断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5】
図5(a)は、比較例における共振領域近傍の平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A断面図、
図5(c)は、
図5(a)のB-B断面図である。
【
図6】
図6(a)は、シミュレーションに用いたモデル1の斜視図、
図6(b)は、
図6(a)の領域Aの拡大図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、圧電膜がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電膜の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向と、の関係を示す図である。
【
図8】
図8は、モデル1における付加膜の幅と厚さを変化させたときのスプリアスの大きさのシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、モデル1において付加膜を最適な大きさにしたときの通過特性のシミュレーション結果を示す図、
図9(b)は、
図9(a)の一部を拡大した図である。
【
図10】
図10(a)は、比較例における付加膜が所望の位置からずれて形成された場合を示す断面図、
図10(b)は、実施例1における付加膜が所望の位置からずれて形成された場合を示す断面図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(d)は、付加膜の断面の傾斜角度について説明する断面図である。
【
図14】
図14は、実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図16】
図16(a)は、シミュレーションに用いたモデル2の斜視図、
図16(b)は、
図16(a)の領域Aの拡大図である。
【
図17】
図17は、モデル1の付加膜およびモデル2の付加膜がエッジ領域からX方向にずれて形成されたときのスプリアスの大きさのシミュレーション結果を示す図である。
【
図18】
図18は、実施例2における付加膜が所望の位置からずれて形成された場合を示す断面図である。
【
図19】
図19は、モデル2における付加膜の形成位置の位置ずれ量と密度割合とに対するスプリアスの大きさのシミュレーション結果を示す図である。
【
図20】
図20(a)および
図20(b)は、付加膜の断面の傾斜角度について説明する断面図である。
【
図21】
図21は、実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図23】
図23は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイス100の断面図である。
図2(a)は、実施例1における共振領域50近傍の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図、
図2(c)は、
図2(a)のB-B断面図である。
図2(a)では、図の明瞭化のために、付加膜28にハッチングを付している。圧電膜14の厚さ方向をZ方向、圧電膜14の平面方向のうち共振領域50から下部電極12が引き出される方向を+X方向、上部電極16が引き出される方向を-X方向、X方向に直交する方向をY方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向は、圧電膜14の結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とは必ずしも対応しない。
【0021】
図1および
図2(a)から
図2(c)に示すように、弾性波デバイス100は、圧電薄膜共振器であり、基板10上に絶縁層20が設けられ、絶縁層20上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。圧電膜14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域は共振領域50である。共振領域50の平面形状は略矩形である。略矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺のうち一対の辺はY方向に伸び、他の一対の辺はX方向に伸びている。
【0022】
共振領域50における圧電膜14の上面および下面は平坦である。共振領域50は、平面視において、基板10および絶縁層20に設けられた貫通孔からなる空隙18と重なって位置する。空隙18は、平面視において、共振領域50とほぼ同じかまたは共振領域50より大きい。下部電極12は電極層22を介して端子電極24に接続され、上部電極16は端子電極26に直接接続されている。
【0023】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板等である。絶縁層20は、例えば酸化シリコン層、窒化シリコン層、または酸化アルミニウム層等である。圧電膜14は、例えば単結晶ニオブ酸リチウム層、単結晶タンタル酸リチウム層、窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層等である。圧電膜14の厚さは例えば200nm~1500nm程度である。
【0024】
下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。下部電極12および上部電極16の厚さは例えば20nm~150nm程度である。端子電極24、26は、例えば銅層または金層等の金属層である。電極層22は、例えばアルミニウム(Al)層等の金属層である。
【0025】
端子電極24と端子電極26との間(すなわち、下部電極12と上部電極16との間)に高周波電力が印加されると、共振領域50内の圧電膜14に弾性波が励振する。弾性波の波長は圧電膜14の厚さのほぼ2倍である。圧電膜14が単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である場合、圧電膜14には弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の振動方向とする。圧電膜14が窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層である場合、圧電膜14には主に厚み縦振動モードの弾性波が励振される。
【0026】
例えば、圧電膜14に厚みすべり振動の弾性波が励振される場合、下部電極12および上部電極16は、厚みすべり振動の振動方向に交差(例えば直交)する方向に共振領域50から引き出されてもよい。
【0027】
共振領域50は、中央領域54と、中央領域54に対してX方向両側に位置するエッジ領域52aとY方向両側に位置するエッジ領域52bと、を有する。エッジ領域52aはほぼY方向に伸び、エッジ領域52bはほぼX方向に伸びている。エッジ領域52aのX方向の幅はY方向においてほぼ一定であり、エッジ領域52bのY方向の幅はX方向においてほぼ一定である。エッジ領域52aのX方向の幅およびエッジ領域52bのY方向の幅は、例えばλ以下であり、λ/2以下でもよく、λ/4以下でもよい(λは弾性波の波長である)。
【0028】
エッジ領域52a、52bの上部電極16上に付加膜28が設けられている。共振領域50のうちエッジ領域52a、52bより内側に位置する中央領域54には付加膜28は設けられていない。エッジ領域52aに設けられた付加膜28はほぼY方向に伸び、X方向の幅がY方向においてほぼ一定である。エッジ領域52bに設けられた付加膜28は、ほぼX方向に伸び、Y方向の幅がX方向においてほぼ一定である。付加膜28は、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜、もしくは、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜、酸化ニオブ膜、シリカガラス膜、またはダイヤモンド膜等の絶縁膜である。付加膜28の材料は下部電極12および上部電極16の材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。付加膜28が設けられることで、ピストンモードが実現される。
【0029】
付加膜28は、共振領域50の中央領域54から共振領域50より外側の領域に向かう方向における断面30が、断面30の中央から断面30の両端に向かって高さが小さくなる形状をしている。例えば、断面30は、二等辺三角形の形状をしていて、頂点を通る直線に対して対称な形状をしている。断面30の角度θは例えば25°~70°である。
【0030】
[製造方法]
図3(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、圧電膜14の一方の面に、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて凹部40を形成する。エッチング法としては、例えばイオンビームを用いたドライエッチングまたはウエットエッチングを用いる。ここでの圧電膜14は、
図1における圧電膜14より厚い膜(基板)である。凹部40を形成した後、圧電膜14上に例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて導電膜を形成し、その後、導電膜をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により除去する。これにより、凹部40内に電極層22が形成される。
【0031】
図3(b)に示すように、圧電膜14上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。下部電極12はリフトオフ法により形成してもよい。下部電極12を形成した後、圧電膜14上に下部電極12を覆う絶縁層20をスパッタリング法またはCVD法により成膜し、絶縁層20の上面を例えばCMP法を用い研磨する。これにより、絶縁層20は、所望の厚さとなり、上面が平坦化される。
【0032】
図3(c)に示すように、圧電膜14の上下を反転させ、絶縁層20を基板10に接合する。絶縁層20と基板10との間に密着層を設けてもよい。
【0033】
図3(d)に示すように、圧電膜14の上面に対して例えば研削とCMP研磨を施して、圧電膜14が所望の厚さとなるように薄層化する。その後、圧電膜14上に上部電極16を形成する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。上部電極16はリフトオフ法により形成してもよい。
【0034】
図4(a)に示すように、上部電極16上に付加膜28を形成する。付加膜28は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜し、その後、フォトリソグラフ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。例えば、フォトリソグラフィ法で用いるフォトレジストをスピンコート法またはスプレーコート法等により成膜した後、グレースケールのパターンを有するフォトマスクを用いて露光、現像を行う。これにより、グレースケールの濃淡に従った厚みが不均一のフォトレジストパターンが付加膜28上に形成される。この厚みが不均一のフォトレジストパターンをマスクとして付加膜28をエッチングすることで、断面30が三角形状をした付加膜28がパターニングされる。エッチングには、イオンミリング等のドライエッチングを用いてもよいし、ウエットエッチングを用いてもよい。
【0035】
図4(b)に示すように、圧電膜14の平面視において電極層22に重なる領域に、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて開口42を形成する。エッチング法としては、例えばイオンビームを用いたドライエッチングを用いる。開口42に重なる電極層22が設けられていることで、エッチング分布が大きい場合でも、開口42を形成する際に下部電極12のエッチングが抑制される。
【0036】
図4(c)に示すように、例えばリフトオフ法を用いて、電極層22を介して下部電極12に接続する端子電極24と、上部電極16に直接接続する端子電極26と、を形成する。下部電極12と上部電極16が圧電膜14を挟んで重なる共振領域50の下方に、基板10および絶縁層20を貫通する貫通孔である空隙18を形成する。空隙18は、例えばフォトリソグラフィ法およびイオンミリング等のドライエッチング法を用いて形成する。これにより、実施例1に係る弾性波デバイス100が形成される。
【0037】
[比較例]
図5(a)は、比較例における共振領域50近傍の平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A断面図、
図5(c)は、
図5(a)のB-B断面図である。
図5(a)では、図の明瞭化のために、付加膜128にハッチングを付している。
図5(a)から
図5(c)に示すように、比較例では、共振領域50のエッジ領域52a、52bの上部電極16上に、断面130の形状が矩形形状をした付加膜128が設けられている。付加膜128は、共振領域50の中央領域54には設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0038】
[シミュレーション1]
図6(a)は、シミュレーションに用いたモデル1の斜視図、
図6(b)は、
図6(a)の領域Aの拡大図である。
図6(a)および
図6(b)に示すように、モデル1は、下部電極12上に圧電膜14が設けられ、圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50のエッジ領域52aの上部電極16上に、断面130が矩形形状の付加膜128が設けられている。シミュレーション条件は以下である。
弾性波の波長λ:0.6μm
下部電極12:厚さ36.6nmのアルミニウム層
圧電膜14:厚さ300nmのニオブ酸リチウム層であり、厚みすべり振動の振動方向がY方向
上部電極16:厚さ36.6nmのアルミニウム層
付加膜128:X方向の幅WおよびZ方向の厚さTを様々に変化させた酸化シリコン膜
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅が30λ
Y方向の条件:共振領域50のY方向の幅が0.5λであり、境界条件は無限に連続
【0039】
ここで、圧電膜がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電膜の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向と、の関係について説明する。まず、オイラー角(φ、θ、ψ)の定義について説明する。右手系のXYZ座標系において、圧電膜の上面の法線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向であって圧電膜の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向をそれぞれ結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とする。次に、Z方向を中心に+X方向から+Y方向に角度φ回転させる。角度φ回転後のX方向を中心に+Y方向から+Z方向に角度θ回転させる。角度θ回転後のZ方向を中心に+X方向から+Y方向に角度ψ回転させる。このように回転させたときのオイラー角は(φ、θ、ψ)となる。なお、(φ、θ、ψ)を用い表現されるオイラー角は、等価なオイラー角を含む。
【0040】
図7(a)および
図7(b)は、圧電膜14がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電膜14の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向と、の関係を示す図である。
図7(a)および
図7(b)における左側の破線矢印は圧電膜14の結晶軸の方位を示す。右側の実線矢印は
図6のX方向、Y方向、およびZ方向に対応する。
図7(a)に示すように、+X方向、+Y方向、および+Z方向をそれぞれ圧電膜14の結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向、および+Z軸方向とする。
図7(b)に示すように、
図7(a)の状態から、X方向を中心にYZ平面上において+Y方向および+Z方向を+Y方向から-Z方向に105°回転させる。このように回転させると、結晶方位の+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の振動方向となる。オイラー角では(0°、-105°、0°)となる。なお、上記と同様の方法によって導出されるオイラー角が(0°、-105°、90°)の場合には、X方向が厚みすべり振動の振動方向となる。オイラー角の各角度は±5°の範囲内を許容し、±1°の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
図8は、モデル1における付加膜128の幅Wと厚さTを変化させたときのスプリアスの大きさのシミュレーション結果を示す図である。
図8において、横軸は付加膜128の幅Wをnm単位で表し、縦軸は付加膜128の厚さTをnm単位で表している。
図8に示すように、付加膜128の幅Wおよび/または厚さTが変化するとスプリアスの大きさ(スプリアス強度)も変化し、スプリアス強度を低下させることが可能な付加膜128の幅Wおよび厚さTの範囲が存在していることが分かる。
図8のシミュレーション結果では、付加膜128の幅Wを120nm程度から240nm程度とし、厚さTを55nm程度から65nm程度にすることでスプリアス強度が低下する結果であった、また、幅Wが180nm、厚さTが60nmの付加膜128を用いたとき、スプリアス強度が最も低下する結果であった。
【0042】
図9(a)は、モデル1において付加膜128を最適な大きさにしたときの通過特性のシミュレーション結果を示す図、
図9(b)は、
図9(a)の一部を拡大した図である。
図9(a)および
図9(b)において、横軸は周波数をMHz単位で表し、縦軸はS21の大きさをdB単位で表している。
図9(a)および
図9(b)に示すように、モデル1において、付加膜128の幅Wを180nm、厚さTを60nmとして最適な大きさにした場合、スプリアス51の大きさは0.043dB程度となり、スプリアス強度が小さくなるように抑えられる結果であった。
【0043】
このように、共振領域のエッジ領域に最適な大きさの付加膜を設けることで、スプリアス強度を低下させることができる。しかしながら、弾性波デバイスを製造する際、各構成部材の形成において製造誤差が生じる。このため、付加膜が所望の位置に形成されずに、所望の位置からずれて形成されることがある。
図8に示すように、付加膜には適切な幅および厚さがある。言い換えると、付加膜が形成されるエッジ領域には適切な幅があり、このエッジ領域に形成される付加膜の質量には適切な重さがある。このため、付加膜が所望の位置からずれて形成され、エッジ領域に形成される付加膜の質量が変化してしまうと、スプリアスを抑制する効果が低下してしまう。
【0044】
[付加膜の形成位置の位置ずれについて]
図10(a)は、比較例における付加膜128が所望の位置からずれて形成された場合を示す断面図、
図10(b)は、実施例1における付加膜28が所望の位置からずれて形成された場合を示す断面図である。
図10(a)および
図10(b)では、ピストンモードが好適に実現されてスプリアスが良好に抑制されるときの付加膜128、28を破線で示し、そのときのエッジ領域52aに設けられた付加膜128、28の幅をWeとして示している。スプリアスが抑制されるときの付加膜128の質量と付加膜28の質量とは同じになることから、付加膜128、28の奥行きが同じ長さL(不図示)であるとすると、付加膜128の厚さがTeの場合では付加膜28の厚さは2×Teとなる。
【0045】
図10(a)に示すように、比較例において、付加膜128がエッジ領域52aからδだけずれて形成されたとする。この場合、エッジ領域52aから外れて形成された箇所の断面積ΔS1はΔS1=δ×Teとなる。また、エッジ領域52aから外れて形成された箇所の体積ΔV1はΔV1=δ×Te×Lとなる。
【0046】
一方、
図10(b)に示すように、実施例1において、付加膜28がエッジ領域52aからδだけずれて形成されたとする。この場合、δが0≦δ≦We/2、つまり0≦2δ≦Weの範囲内では、エッジ領域52aから外れて形成された箇所の断面積ΔS2はΔS2=(2Te×δ
2)/We=(2δ/We)×ΔS1となる。すなわち、ΔS2≦ΔS1となる。また、エッジ領域52aから外れて形成された箇所の体積ΔV2はΔV2=(2Te×δ
2×L)/We=(2δ/We)×ΔV1となる。したがって、エッジ領域52aから外れて形成された箇所の体積ΔV2もΔV2≦ΔV1となる。
【0047】
このように、実施例1における付加膜28は、比較例における付加膜128に比べて、エッジ領域52aからずれて形成されたとしても、エッジ領域52aにおける質量の変化が小さく抑えられる。このため、スプリアスを抑制する効果が低下しにくく、スプリアスの抑制を良好に維持できる。なお、
図10(a)および
図10(b)では、付加膜128、28が+X方向にずれて形成された場合を例に示したが、-X方向にずれて形成された場合でも同じ効果が得られる。また、エッジ領域52bに形成された付加膜128、28では、Y方向にずれて形成される場合に同じ効果が得られる。
【0048】
[変形例]
図11(a)から
図11(c)は、付加膜28の他の形状の例を示す断面図である。
図11(a)に示すように、付加膜28は、断面30が下辺より上辺が短い台形形状をしている場合でもよい。
図11(b)に示すように、付加膜28は、断面30の高さが中央から両端に向かって曲線状に低くなる形状をしている場合でもよい。この場合の断面30の輪郭は、正弦曲線で表される場合でもよいし、その他の任意の曲線で表される場合でもよい。
図11(c)に示すように、付加膜28は、断面30の高さが中央から両端に向かって階段状に低くなる形状をしている場合でもよい。階段の段数は4段の場合に限られず、2段または3段の場合でもよいし、5段以上の場合でもよい。これらのように、付加膜28は、断面30の高さが両端に向かって低くなる形状であれば、様々な形状を採用することができる。
【0049】
図12(a)および
図12(b)は、付加膜28の他の配置の例を示す平面図である。上記の
図2(a)では、付加膜28は共振領域50の4隅に設けられていない場合を例に示したが、
図12(a)に示すように、エッジ領域52bに設けられた付加膜28が共振領域50のX方向における端から端まで設けられ、エッジ領域52aに設けられた付加膜28がエッジ領域52bに設けられた付加膜28の間に配置されている場合でもよい。
図12(b)に示すように、エッジ領域52aに設けられた付加膜28が共振領域50のY方向における端から端まで設けられ、エッジ領域52bに設けられた付加膜28がエッジ領域52aに設けられた付加膜28の間に配置されている場合でもよい。
図12(a)および
図12(b)では、共振領域50を完全に囲むように付加膜28が設けられるため、スプリアスを効果的に抑制できる。
【0050】
以上のように、実施例1およびその変形例によれば、共振領域50のエッジ領域52a、52bの少なくとも一部に設けられた付加膜28の断面30は、両端に向かって高さが小さくなる形状をしている。これにより、
図10(a)および
図10(b)で説明したように、付加膜28が所望の位置からずれて形成され、付加膜28の一部がスプリアスを最も抑制できるエッジ領域52a、52bから外れて形成された場合でも、エッジ領域52a、52bにおける付加膜28の質量変化を小さく抑えることができる。よって、付加膜28が所望の位置からずれて形成された場合でも、スプリアスを抑制する効果が低下しにくくなる。
【0051】
また、実施例1によれば、
図2(b)および
図2(c)のように、付加膜28の断面30は三角形状をしている。この場合、例えば断面30が
図11(a)の台形形状をしている場合に比べて、断面30の上部電極16に対して傾斜した辺の上部電極16に対する傾斜角度が小さくなる。断面30の辺の傾斜角度が小さくなることで、付加膜28が所望の位置からずれて形成された場合でも、エッジ領域52a、52bにおける付加膜28の質量変化が小さく抑えられる。また、断面30が三角形状をしている場合、断面30が
図11(b)および
図11(c)の形状をしている場合に比べて、付加膜28の形成が容易となる。なお、三角形状には、製造誤差程度に各辺が湾曲している場合や角頂点が丸みを帯びている場合も含む。
【0052】
図13(a)から
図13(d)は、付加膜28の断面30の傾斜角度について説明する断面図である。
図13(a)は、断面30が三角形状をしている場合を示し、
図13(b)は、断面30が台形形状をしている場合を示し、
図13(c)は、断面30の高さが曲線上に低くなる場合を示し、
図13(d)は、断面30の高さが段差状に低くなる場合を示している。
図13(a)から
図13(d)に示すように、断面30の両端31、32の間の幅Weを0.1倍した長さ0.1×Weだけ端31からX方向に離れた断面30の表面上の点33と、端31と、を結んだ直線34の傾斜角度φは25°以上かつ70°以下である。傾斜角度φが90°に近づくほど、付加膜28が所望の位置からずれて形成されたときのエッジ領域52a、52bにおける付加膜28の質量変化が大きくなる。一方、傾斜角度φが小さいと、所望の質量の付加膜28が形成できないことがある。したがって、上記のように、傾斜角度φが25°以上70°以下であることで、付加膜28の質量を所望の質量にしつつ、付加膜28が所望の位置からずれて形成された場合でもエッジ領域52a、52bにおける付加膜28の質量変化を小さく抑えられる。上記のことから、傾斜角度φは30°以上60°以下がより好ましく、35°以上50°以下が更に好ましい。
【0053】
なお、
図13(a)から
図13(d)では、断面30の両端31、32のうち端31を通る直線34の場合を例に示したが、端32においても同じことが言える。すなわち、断面30の両端31、32の間の幅Weを0.1倍した長さ0.1×Weだけ端32からX方向に離れた断面30の表面上の点と、端32と、を結んだ直線の傾斜角度は25°以上かつ70°以下であり、30°以上60°以下がより好ましく、35°以上50°以下が更に好ましい。
一方、断面30a、30bが二等辺三角形状の付加膜28a、28bを備えたモデル2では、付加膜28a、28bが所望の位置からずれて形成された場合でも、モデル1に比べて、スプリアス強度の増加が抑制される結果であった。付加膜28a、28bが-X方向に90nmずれて形成されてもスプリアスの大きさは0.1dBより小さく抑えられ、+X方向に45nmずれて形成されてもスプリアスの大きさは0.1dBより小さく抑えられた結果であった。
なお、モデル2において、-X方向への位置ずれよりも+X方向への位置ずれの方がスプリアス強度の増加の影響が大きかったのは、+X方向にずれると、上部電極16の先端部に形成された付加膜28a、28bが上部電極16の先端より先に位置ずれして形成されることになるためと考えられる。したがって、仮に付加膜が下部電極12に形成されているとしたら、-X方向への位置ずれが+X方向への位置ずれよりもスプリアス強度の増加の影響が大きくなると考えられる。