(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062081
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】3次元造形装置および3次元造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/268 20170101AFI20240430BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240430BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240430BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20240430BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240430BHJP
【FI】
B29C64/268
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/124
B29C64/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169849
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 大輔
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AR07
4F213AR11
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL67
4F213WL76
4F213WL87
4F213WL95
(57)【要約】
【課題】3次元造形装置の製造コストを抑えつつ、大型の造形物を作製可能とする。
【解決手段】3次元造形装置1は、造形空間30に材料層を形成する層形成機構12と、材料層に光を照射する光学ヘッド11と、光学ヘッド11を材料層に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構13とを備える。光学ヘッド11は、光源と、直線状に配列された複数の変調要素を有する回折型の光変調器と、光源からの光を光変調器に導く照明光学系と、光変調器の投影像を材料層上に形成し、ミラーの向きを変更することにより投影像を、複数の変調要素の配列方向に対応する方向に対して交差し、かつ、ヘッド移動方向(+Y)に対して交差する走査方向(+X)に移動する投影光学系とを備える。これにより、3次元造形装置1の製造コストを抑えつつ、大型の造形物を作製することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形装置であって、
前記造形空間に材料層を形成する層形成機構と、
前記材料層に光を照射する光学ヘッドと、
前記光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構と、
を備え、
前記光学ヘッドが、
光源と、
直線状に配列された複数の変調要素を有する回折型の光変調器と、
前記光源からの光を前記光変調器に導く照明光学系と、
前記光変調器の投影像を前記材料層上に形成し、ミラーの向きを変更することにより前記投影像を、前記複数の変調要素の配列方向に対応する方向に対して交差し、かつ、前記ヘッド移動方向に対して交差する走査方向に移動する投影光学系と、
を備えることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記光変調器が、平面光バルブまたは回折格子光バルブであることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記光学ヘッドが、前記ヘッド移動方向に連続的に移動することを特徴とする3次元造形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記層形成機構が、前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、
前記光学ヘッドによる一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が次の材料層の形成を開始することを特徴とする3次元造形装置。
【請求項5】
粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形装置であって、
前記造形空間に材料層を形成する層形成機構と、
前記材料層に光を照射する光学ヘッドと、
前記光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構と、
を備え、
前記層形成機構が、前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、
前記光学ヘッドによる一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が次の材料層の形成を開始することを特徴とする3次元造形装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の3次元造形装置であって、
前記光学ヘッドが前記一の材料層への光の照射を開始してから、前記層形成機構が前記次の材料層の形成を開始するまでの時間が可変であることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項7】
請求項4または5に記載の3次元造形装置であって、
前記光学ヘッドの前記ヘッド移動方向が反転可能であり、
前記光学ヘッドが反転した前記ヘッド移動方向に移動する際に、前記層形成機構が、反転した前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、
前記光学ヘッドが反転した前記ヘッド移動方向に移動しつつ一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が反転した前記ヘッド移動方向に向かって次の材料層の形成を開始することを特徴とする3次元造形装置。
【請求項8】
粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形方法であって、
a)最新の材料層を1層分の厚さだけ下降する工程と、
b)光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動しつつ前記光学ヘッドから前記材料層への光の照射を開始する工程と、
c)前記b)工程の後、予め設定された遅延時間経過後、かつ、前記材料層への光の照射を終了する前に、前記ヘッド移動方向に向かって次の材料層の形成を開始する工程と、
d)前記材料層への光の照射を終了する工程と、
e)前記次の材料層の形成を終了する工程と、
f)前記a)ないしe)工程を繰り返す工程と、
を備えることを特徴とする3次元造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調された光を用いて3次元の造形物を形成する技術に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末や樹脂粉末等の造形材料の層に変調されたレーザ光を照射して造形材料を結合させ、層形成と造形材料の結合とを繰り返すことにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の3次元造形装置が使用されている。例えば、特許文献1には、回折格子光バルブ(Grating Light Valve)に平面ビームを照射し、ビームエキスパンダ、x-y平面内で動作するガルバノスキャナ、Fθレンズを順に介して物体構築領域表面に変調された光を照射する3次元造形装置が開示されている。
【0003】
なお、特許文献2には、プリントヘッドモジュールに材料層を形成するディスペンサとエネルギー源とを設け、供給材料を堆積させつつ、エネルギー源からのビームにより材料層の所望の領域を選択的に溶解させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-509094号公報
【特許文献2】特表2018-535114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、材料層の形成と光ビームの照射とを繰り返す3次元造形装置において、反射ミラーの向きを変更することにより光ビームの照射位置を走査する方式の場合、造形物の大型化に限界がある。もちろん、光ビームを出射する複数の光学ヘッドを配列したり、光学ヘッドを大型化および高出力化する対策も考えられるが、3次元造形装置が高価になってしまう。また、3次元造形装置では、光ビームの照射時間以外に、材料層の形成時間、光ビームが照射された領域にある材料が熱的に安定するまでの時間等が必要となる。そのため、単純に光ビームの走査領域を大きくすると、生産性が著しく低下する。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、3次元造形装置の製造コストを抑えつつ、大型の造形物を作製可能とすることを第1の目的としている。また、生産性をさらに向上することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形装置であって、前記造形空間に材料層を形成する層形成機構と、前記材料層に光を照射する光学ヘッドと、前記光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構とを備え、前記光学ヘッドが、光源と、直線状に配列された複数の変調要素を有する回折型の光変調器と、前記光源からの光を前記光変調器に導く照明光学系と、前記光変調器の投影像を前記材料層上に形成し、ミラーの向きを変更することにより前記投影像を、前記複数の変調要素の配列方向に対応する方向に対して交差し、かつ、前記ヘッド移動方向に対して交差する走査方向に移動する投影光学系とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の3次元造形装置であって、前記光変調器が、平面光バルブまたは回折格子光バルブである。
【0009】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記光学ヘッドが、前記ヘッド移動方向に連続的に移動する。
【0010】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)の3次元造形装置であって、前記層形成機構が、前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、前記光学ヘッドによる一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が次の材料層の形成を開始する。
【0011】
本発明の態様5は、粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形装置であって、前記造形空間に材料層を形成する層形成機構と、前記材料層に光を照射する光学ヘッドと、前記光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構とを備え、前記層形成機構が、前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、前記光学ヘッドによる一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が次の材料層の形成を開始する。
【0012】
本発明の態様6は、態様4または5の3次元造形装置であって、前記光学ヘッドが前記一の材料層への光の照射を開始してから、前記層形成機構が前記次の材料層の形成を開始するまでの時間が可変である。
【0013】
本発明の態様7は、態様4または5(態様4ないし6のいずれか1つであってもよい。)の3次元造形装置であって、前記光学ヘッドの前記ヘッド移動方向が反転可能であり、前記光学ヘッドが反転した前記ヘッド移動方向に移動する際に、前記層形成機構が、反転した前記ヘッド移動方向に向かって材料層を形成し、前記光学ヘッドが反転した前記ヘッド移動方向に移動しつつ一の材料層への光の照射を終了する前に、前記層形成機構が反転した前記ヘッド移動方向に向かって次の材料層の形成を開始する。
【0014】
本発明の態様8は、粉末状またはペースト状の造形材料の材料層の形成、および、前記材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する3次元造形方法であって、a)最新の材料層を1層分の厚さだけ下降する工程と、b)光学ヘッドを前記材料層に平行なヘッド移動方向に移動しつつ前記光学ヘッドから前記材料層への光の照射を開始する工程と、c)前記b)工程の後、予め設定された遅延時間経過後、かつ、前記材料層への光の照射を終了する前に、前記ヘッド移動方向に向かって次の材料層の形成を開始する工程と、d)前記材料層への光の照射を終了する工程と、e)前記次の材料層の形成を終了する工程と、f)前記a)ないしe)工程を繰り返す工程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に態様1ないし4によれば、3次元造形装置の製造コストを抑えつつ、大型の造形物を作製することができる。また、本発明の態様4ないし8によれば、生産性をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図6】材料層の投影面にマルチスポットラインビームが照射される様子を説明するための図である。
【
図7】3次元造形装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図8】3次元造形装置の動作の流れを示す図である。
【
図9】投影面への光ビームの照射の他の例を示す図である。
【
図10】他の例に係る3次元造形装置を示す図である。
【
図11】他の例に係る3次元造形装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る3次元造形装置1を示す斜視図である。3次元造形装置1は、粉末状またはペースト状の造形材料に変調されたレーザ光を照射し、造形材料を溶融結合または焼結することにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の装置である。すなわち、3次元造形装置1は、材料層の形成、および、材料層への光の照射を繰り返すことにより、造形空間に積層された材料層内に3次元の造形物を形成する。造形材料は、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、合成樹脂等である。当該造形材料は、複数種類の材料を含んでいてもよい。
【0018】
以下の説明において、「材料層への光の照射」とは、材料層への光ビームの照射であり、正確には、材料層への空間変調された光ビームの照射である。また、空間変調された光ビームを「マルチスポットラインビーム」とも呼ぶ。後述するように、光ビームの照射位置は材料層上を走査(移動)する。光ビームの走査により材料層の所望の領域に光を照射することも「材料層への光の照射」と簡略化して表現する場合がある。さらに、材料層の所望の領域に光を照射することを「露光」とも呼ぶ。空間変調された光ビームにより必要な領域のみに光を照射する上記露光を「描画」とも呼ぶ。
【0019】
3次元造形装置1は、光学ヘッド11と、層形成機構12と、ヘッド移動機構13を備える。層形成機構12は、造形空間30に造形材料91の薄層である材料層を形成する。光学ヘッド11は、材料層の表面の加工領域上に変調された光を照射する。ヘッド移動機構13は、光学ヘッド11を
図1中のY方向に移動する。
図2は、層形成機構12の断面、および、光学ヘッド11を簡略化して示す図である。
図2では、断面を示す平行斜線を部分的に省略している。造形空間30には、後述するように、複数の材料層92が積層するように順次形成される。
【0020】
図3は、光学ヘッド11の概略構成を示す図である。光学ヘッド11は、レーザ光源21と、照明光学系22と、光変調器23と、投影光学系24とを含む。
図3は簡略図であり、各構成要素の配置は実際の配置とは異なる。レーザ光源21は、光学ヘッド11の外部に設けられてもよく、この場合、レーザ光源21から出射される光は光学ヘッド11内に導かれる。投影光学系24は、ガルバノスキャナ44を有し、材料層92上における光(後述のマルチスポットラインビーム8)の照射位置を水平なX方向に走査する。
【0021】
図2に示すように、層形成機構12は、造形部31と、供給部32とを備える。造形部31は、第1シリンダ311と、第1ピストン312とを備える。第1シリンダ311は、上下方向に延びる筒状の部材である。第1シリンダ311の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第1ピストン312は、第1シリンダ311の内部空間に収容される略平板状または略柱状の部材であり、平面視における形状は、第1シリンダ311の内部空間と略同じである。第1ピストン312は、第1シリンダ311の内部空間において、上下方向に移動可能である。造形部31では、第1シリンダ311の内側面と第1ピストン312の上面とにより囲まれる3次元空間が、3次元造形が行われる造形空間30である。
【0022】
供給部32は、第2シリンダ321と、第2ピストン322と、スキージである層形成部材323とを備える。第2シリンダ321は、上下方向に延びる筒状の部材であり、第1シリンダ311の側方に隣接して配置される。第2シリンダ321の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第2ピストン322は、第2シリンダ321の内部空間に収容される略平板状または略柱状の部材であり、平面視における形状は、第2シリンダ321の内部空間と略同じである。第2ピストン322は、第2シリンダ321の内部空間において、上下方向に移動可能である。供給部32では、第2シリンダ321の内側面と第2ピストン322の上面とにより囲まれる3次元空間が、造形部31に供給される予定の造形材料91が貯溜される貯溜空間である。層形成部材323は、第2シリンダ321の上部開口を横断してX方向に延びる棒状(例えば、略円柱状)の部材である。層形成部材323は、
図1に示す1対の駆動機構324により、第2シリンダ321の上端面に沿ってY方向に水平に移動可能である。
【0023】
供給部32では、第2ピストン322が所定距離だけ上昇し、第2シリンダ321内の造形材料91が上方へと持ち上げられる。このとき、事前に第1ピストン312により造形空間30内の造形材料91の表面が材料層92の1層分だけ下降している。3次元造形装置1では、この状態で、最新の材料層92の表面である投影面95に光学ヘッド11からのマルチスポットラインビーム8の照射が行われる。すなわち、造形空間30内の造形材料91の表面に対して、光変調器23(
図3参照)の投影像であるマルチスポットラインビーム8の走査が行われる。これにより、投影面95の所定の領域において造形材料が結合する。その結果、3次元造形物93の1つの層に相当する部位が形成される。
【0024】
詳細について後述するが、3次元造形装置1では、1つの材料層92へのマルチスポットラインビーム8の照射を終了する前に、層形成部材323の第2シリンダ321上から第1シリンダ311上への移動が開始される。層形成部材323に移動により、第2シリンダ321の上端面よりも上側に突出する造形材料91が、造形部31の造形空間30内に供給される。造形空間30内に保持された造形材料91の上面は、所定の高さ(例えば、第1シリンダ311の上端面と同じ高さ)に位置する。これにより、造形空間30内に1つの材料層92が形成される。
【0025】
投影面95である加工領域上でのマルチスポットラインビーム8の走査、および、新たな材料層92の形成が終了すると、第1ピストン312が材料層92の1層分の距離だけ下降する。造形空間30内に積層された材料層92が下降することにより、最新の材料層92(および投影面95)は1層分だけ下降する。一方、供給部32において造形材料91が押し上げられる。その後、上記のマルチスポットラインビーム8の走査および材料層92の形成が必要回数繰り返される。すなわち、部分的に並行して行われるマルチスポットラインビーム8の走査と新たな投影面95の形成とが繰り返される。その結果、造形空間30内に3次元造形物93が形成される。
【0026】
3次元造形装置1では、作製される予定の3次元造形物の設計データ(例えば、CADデータ)等に基づいて、光学ヘッド11、層形成機構12およびヘッド移動機構13が、制御部(
図7参照)により制御される。当該制御部は、例えば、プロセッサと、メモリと、入出力部と、バスとを備える通常のコンピュータである。なお、制御部の構成は様々に変更されてよい。
【0027】
次に、
図3の光学ヘッド11について説明する。レーザ光源21は、照明光学系22へとレーザ光81を出射する。レーザ光源21は、例えば、ファイバレーザ光源である。レーザ光81の波長は、例えば1.070μmである。なお、レーザ光源21の種類、および、レーザ光81の波長は、様々に変更されてよい。
【0028】
照明光学系22は、レーザ光81の光束断面を、一の方向(以下、「長軸方向」と呼ぶ。)に長い略矩形状の整形ビーム82に整形して光変調器23へと導く。換言すれば、整形ビーム82の断面形状は、長軸方向に長く、光軸および長軸方向に垂直な短軸方向に短い略矩形である。整形ビーム82の断面形状とは、光軸に対して垂直な面における整形ビーム82の形状である。長軸方向および短軸方向は、光軸の方向、すなわち、整形ビーム82の進行方向に垂直な方向である。以下の説明において、光束(変調されたものを含む。)を「光」または「ビーム」と表現するが、「光」または「ビーム」の「断面」とは、光軸に垂直な面における光束の断面を意味する。整形ビーム82の断面形状は、長軸方向に延びる直線状と捉えることもできる。整形ビーム82の光変調器23上における形状は、例えば、長軸方向の長さが約27mm、短軸方向の長さが約1mmの略矩形である。
【0029】
光変調器23は、照明光学系22からの整形ビーム82を1次元の空間変調された変調光83に変換する。光変調器23としては、例えば、高速に変調を行うことができ、kWクラスのレーザ光に耐えることができるPLV(Planar Light Valve)が用いられる。PLVは回折型の2次元の空間光変調器であるが、光学ヘッド11では、これを1次元の空間変調器として利用する。
【0030】
図4は、PLVである光変調器23の構造を簡素化して示す図である。光変調器23は、図示省略の基板上にマトリクス状に配置された(すなわち、2次元配列された)複数の略矩形状のピクセル231を備える。光変調器23では、当該複数のピクセル231の表面が変調面234となる。
図4に示す例では、図中の縦方向にM個かつ横方向にN個のピクセル231が配置される。
図4中の横方向は、整形ビーム82(
図3参照)の長軸方向に対応し、
図4中の縦方向は、整形ビーム82の短軸方向に対応する。
【0031】
各ピクセル231は、固定部材232と、可動部材233とを備えた変調機構である。固定部材232は、上記基板に固定された平面状の略矩形の部材であり、中央に略円形の開口が設けられる。可動部材233は、固定部材232の当該開口に設けられる略円形の部材である。固定部材232の上面(すなわち、
図4中の紙面に垂直な方向における手前側の面)には、固定反射面が設けられる。可動部材233の上面には、可動反射面が設けられる。可動部材233は、
図4中の紙面に垂直な方向に移動可能である。
【0032】
各ピクセル231では、
図4中の紙面に垂直な方向における固定部材232と可動部材233との相対位置が変更されることにより、ピクセル231からの反射光が、0次(回折)光(すなわち、正反射光)と非0次回折光との間で切り替えられる。換言すれば、ピクセル231では、可動部材233が固定部材232に対して相対移動することにより、回折格子を利用した光変調が行われる。光変調器23から出射された0次光は、投影光学系24(
図3参照)により造形空間30へと導かれる。また、光変調器23から出射された非0次回折光(主として、1次回折光)は、適宜遮光されて造形空間30には到達しない。
【0033】
光変調器23では、
図4中の縦方向に1列に並ぶM個のピクセル231(以下、「ピクセル列230」とも呼ぶ。)からの反射光の回折状態は同じである。すなわち、一のピクセル231からの反射光が0次光である場合、当該一のピクセル231が含まれるピクセル列230の他の全てのピクセル231(すなわち、(M-1)個のピクセル231)からの反射光も0次光である。また、一のピクセル231からの反射光が非0次回折光である場合、当該一のピクセル231が含まれるピクセル列230の他の全てのピクセル231からの反射光も非0次回折光である。すなわち、光変調器23では、整形ビーム82の短軸方向において変調は行わず、長軸方向において変調を行う。このように、光変調器23では、1つのピクセル列230のM個のピクセル231(すなわち、M個の変調機構)が、1つの単位空間に対応する1つの変調要素として機能する。光変調器23は、整形ビーム82の長軸方向に1列に並ぶN個の変調要素を備える1次元の空間光変調器として機能する。好ましい例では、Nは、1000以上である。
【0034】
次に、投影光学系24について説明する。
図5は投影光学系24の概略を示す図である。投影光学系24は、第1投影光学系241と第2投影光学系242とを含む。第1投影光学系241は光変調器23の中間像84を所定の中間位置に形成する。第2投影光学系242はこの中間像84を材料層92上、すなわち、投影面95上に投影しつつ走査する。換言すれば、投影光学系24は、光変調器23の投影像を材料層92上に形成しつつ走査する。
図5において、紙面に垂直な方向が光変調器23の変調要素が並ぶ方向(以下、「長軸方向」ともいう。)に対応する。
【0035】
第1投影光学系241は、光変調器23側から順に、第1レンズ群41と第2レンズ群42とを有する。第1レンズ群41は少なくとも1つのレンズである。第2レンズ群42も少なくとも1つのレンズである。第2投影光学系242は、第1投影光学系241側から順に、第3レンズ群43と、ガルバノスキャナ44と、第4レンズ群45とを有する。第3レンズ群43は少なくとも1つのレンズである。ガルバノスキャナ44は、ミラーの向きを変更することにより、変調光をX方向に走査する走査機構である。
図5では、ガルバノスキャナ44のミラー部分のみを簡略化して示している。第4レンズ群45は少なくとも1つのレンズである。
【0036】
第1投影光学系241により光変調器23の中間像84が形成される。第1レンズ群41および第2レンズ群42を球面レンズのみで構成してもよいが、1次元の変調光を生成する場合、長軸方向の変調が造形物の形状を決定するため、第1投影光学系241にシリンドリカルレンズ等を含めて中間像84を短軸方向に縮小してもよい。
【0037】
第3レンズ群43は、好ましくは1枚のレンズ、または、収差を抑制した貼り合わせレンズである。第4レンズ群45も、好ましくは1枚のレンズ、または、収差を抑制した貼り合わせレンズである。第2投影光学系242は、好ましくは球面レンズのみにより構成され、いわゆるfθレンズである。第2投影光学系242は、像側テレセントリックであっても像側非テレセントリックであってもよい。さらに、第2投影光学系242は非fθレンズであってもよい。第2投影光学系242により、中間像84の投影像が材料層92の表面である投影面95(すなわち、粉末面)上に形成される。第2投影光学系242により、中間像84がマルチスポットラインビーム8となって加工領域である投影面95上に照射される。また、ガルバノスキャナ44により、投影像が投影面95上にてX方向に走査される。
図5では、マルチスポットラインビーム8が走査される様子をガルバノスキャナ44から光路を分岐させることにより簡略化して示している。
【0038】
図6は、材料層92の投影面95においてマルチスポットラインビーム8が照射される様子を説明するための図である。
図6においてY方向が長軸方向に対応する。すなわち、マルチスポットラインビーム8のON(光照射)およびOFF(光非照射)のスポットがY方向に並ぶ。
図6中の符号950はマルチスポットラインビーム8のスポット列の長さを示し、ガルバノスキャナ44によりマルチスポットラインビーム8が矢印8aにて示すように(+X)方向に移動することにより、1つの領域951に変調光による描画が行われる。以下、領域951を「スワス」と呼ぶ。
【0039】
1つのスワス951に対する描画が完了すると、
図1のヘッド移動機構13により、光学ヘッド11が材料層92に平行なヘッド移動方向である(+Y)方向にステップ移動し、(+Y)方向に隣接するスワス951への描画が行われる。隣接するスワス951への描画が順次行われることにより、材料層92の投影面95への描画、すなわち、変調された光の照射による投影面95の露光が完了する。
【0040】
図7は、3次元造形装置1の機能構成を示すブロック図である。制御部14は、光学ヘッド11、層形成機構12およびヘッド移動機構13を制御する。制御部14が光学ヘッド11およびヘッド移動機構13を制御することにより、投影面95への変調光(マルチスポットラインビーム8)の照射が行われる。制御部14が層形成機構12を制御することにより、造形空間30に材料層92が形成される。制御部14は遅延時間71を記憶する。制御部14の制御により、投影面95への変調光の照射が開始されてから遅延時間71の経過後に層形成機構12による材料層92の形成が開始される。
【0041】
図8は、3次元造形装置1の動作の流れを示す図である。3次元造形装置1は、まず、遅延時間の設定を受け付ける(ステップS11)。すなわち、制御部14が有するキーボードやマウス等の入力デバイスを介して操作者が遅延時間を入力すると、入力値が遅延時間71として制御部14が有するメモリ内に保存される。このように、遅延時間71は変更可能な値である。遅延時間71の変更が不要な場合は、ステップS11は省略されてよい。
【0042】
前処理(ステップS12)では、例えば、複数回の材料層92の形成、図示省略の加熱部による材料層92の温度調整等が行われる。次に、第1ピストン312が材料層92の1層分の厚さだけ下降する(ステップS13)。これにより、最上層、すなわち、最新の材料層92の表面である投影面95が、マルチスポットラインビーム8の照射に適した高さに位置する。その後、投影面95へのマルチスポットラインビーム8の照射および走査が開始される(ステップS14)。このように、3次元造形装置1では、材料層92が形成された直後よりも材料層92の表面が材料層92の1層分だけ低い高さにてマルチスポットラインビーム8による描画が行われる。
【0043】
図6を参照して説明したように、マルチスポットラインビーム8を(+X)方向に走査しつつ光学ヘッド11を(+Y)方向に移動することにより、描画が行われる。描画開始から遅延時間71経過後に、供給部32による次の材料層92の形成が開始される(ステップS15)。すなわち、光学ヘッド11による一の材料層92への光の照射を終了する前に、層形成機構12が次の材料層92の形成を開始する。具体的には、予め第2ピストン322により造形材料91が第2シリンダ321の上端よりも上に押し上げられており、光学ヘッド11の移動に追従するようにして層形成部材323が(+Y)方向への移動を開始することにより、(+Y)方向に向かって次の材料層92が投影面95上に形成されていく。
図6では、層形成部材323を二点鎖線にて示し、層形成部材323の移動を矢印32aにて示している。3次元造形装置1では、光の照射と材料層92の形成とが部分的に並行して行われる。これにより、造形に要する時間が短縮され、造形物の生産性が向上する。
【0044】
遅延時間71は、造形材料91に光が照射されて溶融(または焼結)した後、造形材料91が熱的に安定するまでの時間を考慮して決定される。これにより、光の照射後、熱的に安定した領域が、次の材料層92により順次覆われていく。
【0045】
投影面95に造形物の1断面分(スライス分)の描画が行われると、光ビームの照射を終了し(ステップS16)、その後、材料層92の形成も終了する(ステップS17)。次の材料層92への光ビームの照射が必要な場合(ステップS18)、ステップS13に戻って、材料層92の下降、光ビームの照射、光ビームの照射と部分的に並行して行われる材料層92の形成が繰り返される(ステップS13~S17)。造形物の全てのスライスに対する描画か完了すると(ステップS18)、所定時間の待機や造形物の取り出し動作等の後処理が行われる(ステップS19)。なお、最後のステップS16(光照射)の後のステップS17(材料層92の形成)は、行われなくてもよい。
【0046】
図9は、3次元造形装置1における投影面95への光ビームの照射の他の例を示す図である。
図9の例では、光学ヘッド11は(+Y)方向に連続的に移動する。「連続的に」とは、光ビームの照射途上において光学ヘッド11の移動が停止しないことを意味する。したがって、各スワス951は、矢印8bにて示すように、(+X)方向に対して(+Y)側に傾斜する。これにより、投影面95への描画時間を短縮することができる。
図6の場合と同様に、
図9では層形成部材323を二点鎖線にて示し、層形成部材323の移動を矢印32aにて示している。
【0047】
具体例として、
図6の例の場合において、スポット列の長さ950が25mm、投影面95のサイズがX方向350mm、Y方向1000mm、マルチスポットラインビーム8のX方向への走査速度が1000mm/秒、光学ヘッド11のY方向に対する静止に要する時間が0.5秒、造形材料91の加熱後に熱的安定に要する時間が3秒、とした場合、X方向への1回の走査時間は0.35秒、X方向への走査回数は40回となる。ここで、
図6のように、スワス951毎に光学ヘッド11を移動および停止を繰り返す場合、投影面95全体に描画を行う時間は、約34秒(=(0.35秒+0.5秒)×40回)となる。一方、
図9のように光学ヘッド11を連続的に移動する場合は、光学ヘッド11の移動速度は71.4mm/秒(=25mm/0.35秒)となり、投影面95全体に描画を行う時間は、約14秒(=1000mm/(71.4mm/秒))となる。さらに、遅延時間71を3秒とした場合、
図9において1層分の処理に要する時間は17秒(=14秒+3秒)となる。
【0048】
なお、上記数値は一例に過ぎず、例えば、X方向への走査速度を5000mm/秒としてもY方向への移動速度は357mm/秒であり、実施可能な速度である。
【0049】
図10および
図11は、他の例に係る3次元造形装置1aを示す図である。3次元造形装置1aでは、光学ヘッド11が(+Y)方向に移動する際にも、(-Y)方向に移動する際にも投影面95への描画が行われる。すなわち、描画の際の光学ヘッド11のヘッド移動方向が反転可能であり、(+Y)方向のヘッド移動方向に対して(-Y)方向は反転したヘッド移動方向である。3次元造形装置1aでは、
図2の3次元造形装置1の造形部31の(+Y)側に、
図2の供給部32と同様の供給部が追加される。以下、造形部31の(-Y)側の供給部を「第1供給部32a」と呼び、造形部31の(+Y)側の供給部を「第2供給部32b」と呼ぶ。第1供給部32aと第2供給部32bは、層形成部材323を共有する。
図10および
図11において、
図2と同様の構成要素には同符号を付している。
【0050】
図10は、光学ヘッド11が矢印11aにて示すように、(+Y)方向に移動する様子を示す。
図11は、光学ヘッド11が矢印11bにて示すように、(-Y)方向に移動する様子を示す。3次元造形装置1aの動作は、光学ヘッド11が(+Y)方向および(-Y)方向に移動する際に描画および材料層92を形成するという点を除いて、
図8と同様である。すなわち、予め遅延時間71を受け付けて保存し(ステップS11)、前処理が完了すると(ステップS12)、造形部31において材料層92が下降し、光学ヘッド11が(+Y)方向に移動しつつ投影面95への描画が開始される(ステップS14)。描画開始から遅延時間71が経過すると、第1供給部32aによる次の材料層92の形成が開始される(ステップS15)。
【0051】
描画および材料層92の形成が完了すると(ステップS16~S18)、造形部31において材料層92が下降し(ステップS13)、
図11に示すように光学ヘッド11が(-Y)方向に移動しつつ投影面95への描画が開始される(ステップS14)。描画開始から遅延時間71が経過すると、第2供給部32bによる次の材料層92の形成が開始される(ステップS15)。すなわち、光学ヘッド11が(-Y)方向に移動しつつ一の材料層92への光の照射を終了する前に、層形成機構12が(-Y)方向に向かって次の材料層92の形成を開始する。描画および材料層92の形成が完了すると(ステップS16~S18)、造形部31において材料層92が下降し(ステップS13)、光学ヘッド11および第1供給部32aによる描画および材料層92の形成が行われる。
【0052】
光学ヘッド11が(+Y)方向および(-Y)方向に移動する際に描画が行われるため、3次元造形装置1aではさらに高速に造形を行うことができる。また、このような動作を実現するために、3次元造形装置1aでは、Y方向における光学ヘッド11と層形成部材323との順序を入れ替えることができる構造となっている。すなわち、層形成部材323は、光学ヘッド11の下方を潜り抜けることができる。
【0053】
以上に説明したように、3次元造形装置1,1a(以下、3次元造形装置1,1aを単に「3次元造形装置1」と表現し、「3次元造形装置1」には矛盾しない範囲で「3次元造形装置1a」を含むのとする。)では、光学ヘッド11をY方向に移動することにより、3次元造形装置1の製造コストを抑えつつ、大型の造形物の作製することができる。光学ヘッド11の数が1つであることから、光学ヘッド11の定期メンテナンス時の工数も削減することができる。また、投影面95への描画および次の材料層92の形成を部分的に並行して行うため、造形物の生産性をさらに向上することができる。
【0054】
3次元造形装置1では、造形材料91の予備的加熱の管理が重要となるが、材料層92の形成から、この材料層92への描画までに十分な時間が存在するため、予熱的加熱のための時間消費を抑制しつつ描画を安定して行うことができる。さらに、描画後に速やかに次の材料層92が描画済みの領域を覆うため、描画後の材料に予備的加熱装置から熱が与えられることを回避することができ、造形物の形状精度を向上することができる。特に、3次元造形装置1では光学ヘッド11が大きく移動するため、次の材料層92の速やかな形成は有効である。
【0055】
加えて、3次元造形装置1では、描画開始から次の材料層92の形成開始までの遅延時間71が可変であるため、造形材料91の種類に応じて適切に生産性を向上することができる。
【0056】
3次元造形装置1は、様々に変更可能である。3次元造形装置1では、粉末状またはペースト状の造形材料91の材料層92の形成、および、材料層92への光の照射を繰り返すことにより、造形空間30に積層された材料層92内に3次元の造形物を形成する。光の照射を行う構成および材料層92を形成する構成は、様々に変更されてよい。
【0057】
例えば、光学ヘッド11の光源は、レーザ光源21には限定されない。他の公知の様々な光源が採用されてよい。照明光学系22も光変調器23の複数の変調要素の領域に光を収束させて導くことができるのであれば様々な光学系が採用されてよい。
【0058】
直線状に配列された複数の変調要素を有する回折型の光変調器23としては、耐パワー性能が高いPLV(平面光バルブ)が好ましい。光変調器23は、回折格子光バルブ(Grating Light Valve:GLV(登録商標))であってもよい。光変調器23としては、投影像中の複数の位置における光の照射および非照射を制御することができるのであれば様々な原理に基づく回折型の光変調器が採用可能である。
【0059】
ミラーの向きを変更することにより高速に光の照射位置を操作する走査機構として、ガルバノスキャナ44に代えて、ポリゴンレーザスキャナ等の他の機構が採用されてもよい。上記3次元造形装置1では、光の照射位置に形成される投影像は、X方向またはほぼX方向に走査されるが、走査方向はこれらの方向には限定されない。投影像の走査により2次元に描画を行うためには、走査方向は投影像におけるスポット列の方向に対して交差する方向であればよい。スポット列は、投影像において、光変調器23の複数の変調要素の配列方向に対応する方向である。一方、光学ヘッド11の移動によっても描画範囲が広がる必要があるため、走査方向はヘッド移動方向に対しても交差する方向である。1つのスワス951を描画する方向を「1次走査方向」、ヘッド移動方向であるスワス951の配列方向を「2次走査方向」と呼ぶ場合、1次走査方向は、スポット列の方向に対しても2次走査方向に対しても交差する方向である。
【0060】
投影光学系24により、光変調器23の投影像が投影面95上に形成されるが、厳密な意味で光変調器23と投影面95とは光学的に共役である必要はない。3次元造形が可能な範囲内で、投影面95は光変調器23と共役な位置から僅かにずれてもよい。投影光学系24の構成は様々に変更されてよい。
【0061】
第1投影光学系241は、光変調器23の中間像84を所定の中間位置に形成するが、光変調器23は1次元の空間変調器であるため、「中間像」とは少なくとも長軸方向における像を意味すると解釈されてよい。すなわち、第1投影光学系241において長軸方向に関して光変調器23と中間像84とは共役な位置関係である。したがって、光変調器23の投影面95上の投影像とは、少なくとも長軸方向における投影像を意味する。もちろん、第1投影光学系241は長軸方向および短軸方向に同じの投影倍率を有してもよい。なお、第1投影光学系241は1つのレンズのみとすることも可能である。第1投影光学系241は、1つのレンズ群でもよく、3以上のレンズ群でもよい。
【0062】
光学ヘッド11を材料層92に平行なヘッド移動方向に移動するヘッド移動機構13は、公知の様々な機構が採用可能である。例えば、リニアモータ、モータにボールネジを組み合わせた送り機構等が採用される。
【0063】
層形成機構12の層形成部材323は、スキージには限定されない。ローラや造形材料91を散布する部材が層形成部材として採用されてもよい。層形成機構12は、層形成部材323を有しない機構であってもよい。投影面95上に、造形材料91の新たな材料層92を形成することにより、新たな投影面95を形成することができるのであれば、層形成機構12として様々な他の機構が採用されてよい。
【0064】
3次元造形装置1では、層形成機構12が、ヘッド移動方向に向かって材料層92を形成し、光学ヘッド11による一の材料層92への光の照射を終了する前に、層形成機構12が次の材料層92の形成を開始する。この動作は、造形物の全てのスライス(造形物の1つの材料層92に対応する部分)に対して行われる必要はない。例えば、1つのスライスにおいて光を照射すべき領域が小さい場合、このスライスに対応する投影面95への光照射に要する時間は短い可能性があるため、光の照射が完了してから層形成機構12が次の材料層92の形成が開始されてもよい。
【0065】
3次元造形装置1では、光学ヘッド11が一の材料層92への光の照射を開始してから、層形成機構12が次の材料層92の形成を開始するまでの遅延時間71が可変であるが、使用される造形材料91が1種類に決められている場合は、遅延時間71は固定でもよい。なお、遅延時間71は、実質的に光学ヘッド11が一の材料層92への光の照射を開始してから、層形成機構12が次の材料層92の形成を開始するまでの時間を反映するものであれば、厳密に、上記時間を示すものである必要はない。
【0066】
図10および
図11の3次元造形装置1aでは、光学ヘッド11のヘッド移動方向が反転可能であり、第1供給部32aおよび第2供給部32bにおいて層形成部材323が共用されるが、層形成部材323は、第1供給部32aおよび第2供給部32bのそれぞれに設けられてもよい。
【0067】
上記実施の形態では、光学ヘッド11がヘッド移動方向に移動し、光学ヘッド11の移動と部分的に並行して同方向に層形成機構12が次の材料層92を形成するが、3次元造形装置1の製造コストを抑制しつつ大きな造形物を形成するという目的のみに注目した場合、光学ヘッド11の移動と次の材料層92の形成とは並行して行われなくてもよい。また、光学ヘッド11により複数ではない1つの変調スポットが形成され、光ビームの照射位置がX方向に走査されつつ漸次(+Y)方向に移動するに従って、次の材料層92が(+Y)方向に向かって形成されてもよい。すなわち、マルチスポットラインビーム8にて描画を行いつつ光学ヘッド11を移動することと、光の照射と材料層92の形成とを部分的に並行して行うこととは、個別の技術的事項として3次元造形装置に採用されてよい。
【0068】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1a 3次元造形装置
11 光学ヘッド
12 層形成機構
13 ヘッド移動機構
21 レーザ光源
22 照明光学系
23 光変調器
24 投影光学系
30 造形空間
71 遅延時間
91 造形材料
92 材料層
93 造形物
230 ピクセル列(変調要素)
S13~S18 ステップ