(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062085
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240430BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240430BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20240430BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240430BHJP
B60W 50/029 20120101ALI20240430BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20240430BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60W10/00 132
B60W10/18
B60W10/20
B60W50/029
H02P29/028
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169859
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石原 敦
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D333
5H501
【Fターム(参考)】
3D232CC33
3D232CC34
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA19
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3D333CC15
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3D333CE36
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
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5H501LL36
5H501LL52
5H501LL54
5H501LL56
5H501MM04
5H501MM11
(57)【要約】
【課題】車両制御装置による停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する転舵モータを制御するように構成される制御部を有する。制御部は、転舵モータを駆動させるための部位に異常が発生したとき、車両の走行を制御する車両制御装置に対して、定められた停車処理の実行を要求するように構成される。制御部は、停車処理の実行を要求した場合、転舵モータの給電制御を継続することが可能であるとき、転舵モータの回転を抑制するための処理(S105)を実行するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する転舵モータを制御するように構成される制御部を有し、前記制御部は、前記転舵モータを駆動させるための部位に異常が発生したとき、前記車両の走行を制御する車両制御装置に対して、定められた停車処理の実行を要求するように構成される操舵制御装置であって、
前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの給電制御を継続することが可能であるとき、前記転舵モータの回転を抑制するための処理を実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記停車処理は、前記車両の制動装置を通じて、左右の車輪の駆動力配分を制御することにより、前記車両の進行方向を変更する処理を含み、
前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記車両が直進状態であると判定されるのを待って、前記転舵モータの回転を抑制するための処理を実行するように構成される請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記車両が直進状態であると判定された直後の前記転舵モータの回転角を前記転舵モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と前記転舵モータの実際の回転角との差を無くすように前記転舵モータの駆動を制御するように構成される請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記転舵モータの回転角を使用して前記転舵モータの駆動を制御するように構成され、
前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの回転角が検出できないとき、前記転舵モータで発生する誘起電圧に基づき前記転舵モータの推定回転角を演算するとともに、前記車両が直進状態であると判定された直後の前記推定回転角を前記転舵モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と前記推定回転角との差を無くすように前記転舵モータを駆動させるように構成される請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの給電制御を継続することができないとき、前記転舵モータを発電機として動作させるための処理を実行するように構成される請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記転舵モータは、第1の巻線群、および第2の巻線群を有し、
前記制御部は、前記第1の巻線群に対する給電を独立して制御する第1の制御部と、前記第2の巻線群に対する給電を独立して制御する第2の制御部とを含み、
前記第1の制御部および前記第2の制御部は、前記第1の巻線群に対応する第1の系統、および前記第2の巻線群に対応する第2の系統の両方に異常が発生したとき、前記車両制御装置に対して前記停車処理の実行を要求するように構成される請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータのトルクをアシスト力としてステアリングシャフトに付与することにより、ステアリングホイールの操作を補助する操舵装置が存在する。操舵装置の制御装置は、トルクセンサを通じて検出される操舵トルクに基づきモータに対する電流指令値を演算する。制御装置は、電流指令値に基づきモータへの給電を制御する。これにより、モータは、操舵トルクに応じたトルクを発生する。
【0003】
たとえば、特許文献1の操舵装置は、自己の異常が検出されるとき、モータによる操舵補助を停止する。ただし、操舵装置は、ディファレンシャルギヤを有している。ディファレンシャルギヤの制御装置は、操舵装置の異常が検出されるとき、車両状態に基づいてディファレンシャルギヤを制御することによって代替操舵補助を行う。このため、操舵装置に異常が発生した場合であれ、操舵補助を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、つぎのような懸念がある。すなわち、操舵装置に異常が発生した場合、モータによる操舵補助が停止される。このため、ディファレンシャルギヤを通じて左車輪と右車輪との回転数差を調整する代替操舵補助を行うとき、車両の走行に伴い転舵輪の転舵角が不適切に変化するおそれがある。したがって、代替操舵補助の実行中において、車両の走行安定性が保てなくなることが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する転舵モータを制御するように構成される制御部を有する。前記制御部は、前記転舵モータを駆動させるための部位に異常が発生したとき、前記車両の走行を制御する車両制御装置に対して、定められた停車処理の実行を要求するように構成される。前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの給電制御を継続することが可能であるとき、前記転舵モータの回転を抑制するための処理を実行するように構成される。
【0007】
この構成によれば、転舵モータを駆動させるための部位に異常が発生した場合、転舵モータの給電制御を継続することができるとき、転舵モータの回転が抑制される。このため、車両制御装置による停車処理の実行中、車両の走行に伴い転舵輪の転舵位置が不適切に変化することが抑制される。したがって、停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる。
【0008】
上記の操舵制御装置において、前記停車処理は、前記車両の制動装置を通じて、左右の車輪の駆動力配分を制御することにより、前記車両の進行方向を変更する処理を含んでいてもよい。この場合、前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記車両が直進状態であると判定されるのを待って、前記転舵モータの回転を抑制するための処理を実行するように構成されてもよい。
【0009】
この構成によれば、転舵モータを駆動させるための部位に異常が発生した場合、転舵モータの給電制御を継続することができるとき、転舵輪の転舵位置が転舵中立位置に固定される。このため、車両制御装置による停車処理の実行中、車両の走行に伴い転舵輪の転舵位置が不適切に変化することが抑制される。特に、停車処理が、前記車両の制動装置を通じて左右の車輪の駆動力配分を制御することにより前記車両の進行方向を変更する処理を含む場合、意図しない転舵輪の位置変化によるヨーモーメントの変化が抑えられる。このため、車両制御装置による停車処理の実行を通じて、車両の進行方向を安定して変更することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記車両が直進状態であると判定された直後の前記転舵モータの回転角を前記転舵モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と前記転舵モータの実際の回転角との差を無くすように前記転舵モータの駆動を制御するように構成されてもよい。
【0011】
この構成によれば、転舵モータの回転角が、車両の直進状態に対応する角度に保持される。このため、転舵輪の転舵位置を転舵中立位置に固定することができる。
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記転舵モータの回転角を使用して前記転舵モータの駆動を制御するように構成されてもよい。この場合、前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの回転角が検出できないとき、前記転舵モータで発生する誘起電圧に基づき前記転舵モータの推定回転角を演算するとともに、前記車両が直進状態であると判定された直後の前記推定回転角を前記転舵モータの目標回転角として設定し、前記目標回転角と前記推定回転角との差を無くすように前記転舵モータを駆動させるように構成されてもよい。
【0012】
この構成によれば、転舵モータの回転角が検出できないとき、転舵モータで発生する誘起電圧に基づき演算される転舵モータの推定回転角が、車両の直進状態に対応する角度に保持される。このため、転舵輪の転舵位置を転舵中立位置に固定することができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記停車処理の実行を要求した場合、前記転舵モータの給電制御を継続することができないとき、前記転舵モータを発電機として動作させるための処理を実行するように構成されてもよい。
【0014】
この構成によれば、転舵モータが発電機として動作することにより、転舵モータに制動力が発生する。この制動力によって、転舵モータの回転が抑制される。
上記の操舵制御装置において、前記転舵モータは、第1の巻線群、および第2の巻線群を有し、前記制御部は、前記第1の巻線群に対する給電を独立して制御する第1の制御部と、前記第2の巻線群に対する給電を独立して制御する第2の制御部とを含んでいてもよい。この場合、前記第1の制御部および前記第2の制御部は、前記第1の巻線群に対応する第1の系統、および前記第2の巻線群に対応する第2の系統の両方に異常が発生したとき、前記車両制御装置に対して前記停車処理の実行を要求するように構成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、第1の系統および第2の系統の少なくとも一方により転舵モータの給電制御を継続することが可能であるとき、転舵モータの回転を抑制するための処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の操舵制御装置によれば、車両制御装置による停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図である。
【
図2】第1の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態にかかるモータロック処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施の形態にかかるブレーキ回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置の第1の実施の形態を説明する。
<全体構成>
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象は、ステアバイワイヤ式の操舵装置2である。操舵装置2は、操舵機構3と、転舵機構4とを有している。操舵機構3は、ステアリングホイール5を介して、運転者により操舵される機構部分である。転舵機構4は、ステアリングホイール5の操舵に応じて、車両の転舵輪6を転舵させる機構部分である。操舵制御装置1は、反力制御装置1Aと、転舵制御装置1Bとを含む。反力制御装置1Aの制御対象は、操舵機構3である。反力制御装置1Aは、反力制御を実行する。転舵制御装置1Bの制御対象は、転舵機構4である。転舵制御装置1Bは、転舵制御を実行する。
【0019】
操舵機構3は、ステアリングシャフト11と、反力モータ12と、減速機13と、を有している。ステアリングホイール5は、ステアリングシャフト11に一体回転可能に連結される。反力モータ12は、ステアリングシャフト11に付与する操舵反力の発生源である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向の力である。反力モータ12は、たとえば三相のブラシレスモータである。減速機13は、反力モータ12の回転を減速し、減速された回転をステアリングシャフト11に伝達する。
【0020】
転舵機構4は、ピニオンシャフト21と、転舵シャフト22と、ハウジング23と、を有している。ハウジング23は、ピニオンシャフト21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、転舵シャフト22を往復動可能に収容する。転舵シャフト22は、ステアリングホイール5との間の動力伝達が分離されている。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合う。転舵シャフト22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド24を介して、タイロッド25が連結されている。タイロッド25の先端は、転舵輪6が組み付けられた図示しないナックルに連結される。
【0021】
転舵機構4は、転舵モータ31と、伝動機構32と、変換機構33とを備えている。転舵モータ31は、転舵シャフト22に付与する転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪6を転舵させるための力である。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。伝動機構32は、たとえばベルト伝動機構である。伝動機構32は、転舵モータ31の回転を変換機構33に伝達する。変換機構33は、たとえばボールねじ機構である。変換機構33は、伝動機構32を介して伝達される回転を、転舵シャフト22の軸方向の運動に変換する。
【0022】
転舵シャフト22が軸方向に移動することによって、転舵輪6の転舵角θwが変更される。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合っているため、転舵シャフト22の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト21は、転舵輪6の転舵動作に連動して回転するシャフト、あるいは回転体である。
【0023】
反力制御装置1Aは、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一つを含む処理回路を有している。
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む。
【0024】
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0025】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0026】
反力制御装置1Aは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43を含む。
車速センサ41は、車速Vを検出する。車速Vは、車両の走行状態が反映される状態変数である。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に設けられている。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11における減速機13の連結部分に対して、ステアリングホイール5側に位置している。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与される操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリングシャフト11に設けられるトーションバー42aのねじれ量に基づき演算される。回転角センサ43は、反力モータ12に設けられている。回転角センサ43は、反力モータ12の回転角θaを検出する。
【0027】
操舵トルクTh、および反力モータ12の回転角θaは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0028】
反力制御装置1Aは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43の検出結果を使用して、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ12に発生させるように、反力モータ12に対する給電を制御する。
【0029】
反力制御装置1Aは、回転角センサ43を通じて検出される反力モータ12の回転角θaに基づき、ステアリングホイール5の操舵角θsを演算する。反力制御装置1Aは、操舵トルクThおよび車速Vに基づき反力トルク指令値を演算する。反力トルク指令値は、反力モータ12に発生させるべき、操舵反力の目標値である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、反力トルク指令値の絶対値は、より大きくなる。
【0030】
反力制御装置1Aは、反力トルク指令値に応じた電力を反力モータ12へ供給する。反力制御装置1Aは、反力トルク指令値に基づき、反力モータ12に対する電流指令値を演算する。反力制御装置1Aは、反力モータ12に対する給電経路に設けられた電流センサを通じて、反力モータ12に供給される電流を検出する。反力制御装置1Aは、電流指令値と反力モータ12の電流の値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ12に対する給電を制御する。これにより、反力モータ12は、反力トルク指令値に応じたトルクを発生する。
【0031】
転舵制御装置1Bは、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、反力制御装置1Aと同様に、先の3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0032】
転舵制御装置1Bは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、および回転角センサ44を含む。回転角センサ44は、転舵モータ31に設けられている。回転角センサ44は、転舵モータ31の回転角θbを検出する。転舵モータ31の回転角θbは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0033】
転舵制御装置1Bは、車速センサ41、および回転角センサ44の検出結果を使用して、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、ステアリングホイール5の操舵状態に応じて転舵輪6が転舵されるように、転舵モータ31に対する給電を制御する。
【0034】
転舵制御装置1Bは、車載の車両制御装置50と通信可能である。転舵制御装置1Bと車両制御装置50とは、車載ネットワーク51を介して相互に接続されている。車載ネットワーク51は、たとえばCAN(Controller Area Network)である。転舵制御装置1Bと車両制御装置50とは、車載ネットワーク51を介して、互いに情報を授受する。ちなみに、反力制御装置1Aも、転舵制御装置1Bと同様に、車載ネットワーク51を介して、車両制御装置50と通信可能である。
【0035】
車両制御装置50は、車両の制動装置52を制御する。制動装置52は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて、車両を減速あるいは停止させるための制動力を発生する。制動装置52は、電動パーキングブレーキ(EPB)を含む。電動パーキングブレーキは、駐停車時の車輪を固定するために使用される。電動パーキングブレーキは、内蔵のモータが駆動することによって作動する。制動装置52は、車両の各車輪に設けられる。車両は、たとえば、四輪自動車である。
【0036】
また、車両制御装置50は、車両の走行を制御する。車両制御装置50は、車両のパワートレインを制御する。パワートレインは、車両の走行用駆動源と、動力伝達機構とを含む。走行用駆動源は、たとえば、エンジンあるいはモータである。動力伝達機構は、走行用駆動源が発生する動力を駆動輪に伝達するための機構である。
【0037】
転舵制御装置1Bは、たとえば、転舵輪6を転舵させることが困難となるような異常が発生したとき、車両制御装置50に対する停車要求信号を生成する。停車要求信号は、車両制御装置50に対して、車両を安全に停車させるべく定められた停車処理の実行を要求するための電気信号である。停車処理は、車線内で車両を自動停止させるための処理を含む。また、停車処理は、運転者の運転状態にかかわらず、車両を路肩などの安全な場所に寄せて自動停止させる自動退避処理を含む。車両制御装置50は、車載されるカメラおよびセンサを通じて、車両の周囲環境を認識可能である。
【0038】
車両制御装置50は、停車要求信号が受信されるとき、定められた停車処理を実行する。車両制御装置50は、たとえば、トルクベクタリング制御の実行を通じて、車両を路肩などの安全な場所に寄せる。トルクベクタリング制御は、制動装置52を通じて、左右の車輪の駆動力配分を制御することにより、車両の進行方向を変更する制御である。車両制御装置50は、制動装置52の制御を通じて、左右の車輪に異なる量の駆動力を与え、駆動力の左右差によって車両を旋回させる力を発生させる。車両制御装置50は、車両が徐々に減速しながら、路肩などの安全な場所に停車するように、制動装置52を制御する。停車処理の実行を通じて、車両は安全に停車する。
【0039】
<転舵モータ31および転舵制御装置1Bの構成>
つぎに、転舵モータ31および転舵制御装置1Bの構成について詳細に説明する。
図2に示すように、転舵モータ31は、ロータ31A、ステータ(図示略)に巻回された第1の巻線群31B、および第2の巻線群31Cを有している。第1の巻線群31Bは、U相コイル、V相コイル、およびW相コイルを有している。第2の巻線群31Cも、U相コイル、V相コイル、およびW相コイルを有している。回転角センサ44は、第1の回転角センサ44Aと、第2の回転角センサ44Bとを含む。第1の回転角センサ44Aは、転舵モータ31の第1の回転角θ
b1を検出する。第2の回転角センサ44Bは、転舵モータ31の第2の回転角θ
b2を検出する。第1の回転角θ
b1、および第2の回転角θ
b2は、ロータ31Aの回転角でもある。
【0040】
転舵制御装置1Bは、第1の巻線群31Bおよび第2の巻線群31Cに対する給電を系統ごとに制御する。転舵制御装置1Bは、第1の制御部60と、第2の制御部70とを有している。第1の制御部60は、第1の巻線群31Bに対する給電を制御する。第2の制御部70は、第2の巻線群31Cに対する給電を制御する。
【0041】
第1の制御部60は、第1の駆動回路61と、第1の制御回路63とを有している。
第1の駆動回路61には、車載されるバッテリなどの直流電源81から電力が供給される。第1の駆動回路61と直流電源81のプラス端子とは、第1の給電線82により接続されている。直流電源81のマイナス端子は、グランドに接続されている。第1の給電線82には、電源スイッチ83が設けられている。電源スイッチ83は、イグニッションスイッチ、あるいはパワースイッチである。電源スイッチ83は、車両の走行用駆動源を始動させる際に操作される。走行用駆動源は、エンジン、あるいは走行用モータである。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第1の給電線82を介して第1の駆動回路61に供給される。第1の給電線82には、電圧センサ65が設けられている。電圧センサ65は、直流電源81の電圧Vb1を検出する。
【0042】
なお、第1の制御回路63、および第1の回転角センサ44Aには、電源スイッチ83がオンされたとき、図示しない給電線を介して直流電源81の電力が供給される。
第1の駆動回路61は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータである。第1の駆動回路61は、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグを有している。レグは、直列に接続された2つのスイッチング素子を有している。スイッチング素子は、たとえば、FET(Field Effect Transistor)である。3つのレグは、並列に接続されている。第1の駆動回路61は、第1の制御回路63により生成される指令信号Sc1に基づいて三相各相のスイッチング素子がスイッチング動作を行うことにより、直流電源81から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。第1の駆動回路61により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる三相各相の給電経路84を介して第1の巻線群31Bに供給される。
【0043】
給電経路84には、第1の電流センサ66、第1の電圧センサ67、および第1のモータリレー群68が設けられている。第1の電流センサ66は、第1の駆動回路61から第1の巻線群31Bへ供給される三相各相の電流Im1を検出する。第1の電圧センサ67は、第1の駆動回路61における三相各相の出力端子電圧、換言すれば第1の巻線群31Bにおける三相各相の端子電圧Vm1を検出する。第1のモータリレー群68は、U相リレー、V相リレー、およびW相リレーを有している。各リレーは、通常時にはオン状態に維持される。第1の駆動回路61において断線故障あるいは短絡故障などの異常が発生した場合、各リレーはオン状態からオフ状態へ切り替えられる。各リレーがオフされた場合、第1の駆動回路61と第1の巻線群31Bとの間の給電経路84が遮断されることにより、第1の駆動回路61から第1の巻線群31Bへの給電が遮断される。なお、U相リレー、V相リレー、およびW相リレーは、FETであってもよい。
【0044】
第1の制御回路63は、第1の回転角センサ44Aを通じて検出される転舵モータ31の第1の回転角θb1に基づき、ピニオン角θpを演算する。ピニオン角θpは、ピニオンシャフト21の回転角であって、ピニオンシャフト21の実際の角度である実角度に相当する。転舵モータ31とピニオンシャフト21とは、伝動機構32、変換機構33、および転舵シャフト22を介して連動する。このため、転舵モータ31の第1の回転角θb1とピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ31の第1の回転角θb1からピニオン角θpを求めることができる。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪6の転舵角θwを反映する値である。
【0045】
第1の制御回路63は、反力制御装置1Aにより演算される操舵角θsを取り込む。第1の制御回路63は、操舵角θsに基づき目標ピニオン角を演算する。目標ピニオン角は、ピニオン角θpの目標角度である。第1の制御回路63は、製品仕様などに応じて設定される舵角比が実現されるように、目標ピニオン角を演算する。舵角比は、操舵角θsに対する転舵角θwの比である。
【0046】
第1の制御回路63は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角を演算する。第1の制御回路63は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが小さくなるように、目標ピニオン角を演算する。第1の制御回路63は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θsに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θsに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角を演算する。
【0047】
第1の制御回路63は、ピニオン角θpが目標ピニオン角に追従するように、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じて転舵トルク指令値を演算する。転舵トルク指令値は、転舵モータ31が発生するトルクの目標値である。第1の制御回路63は、転舵トルク指令値に基づき、転舵モータ31に対する第1の電流指令値を演算する。ただし、第1の電流指令値の絶対値は、転舵トルク指令値に応じたトルクを転舵モータ31に発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0048】
第1の制御回路63は、第1の電流センサ66を通じて、第1の巻線群31Bへ供給される電流Im1の値を検出する。第1の制御回路63は、第1の巻線群31Bへ供給される電流Im1の値を第1の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第1の駆動回路61に対する指令信号Sc1を生成する。指令信号Sc1は、PWM信号である。指令信号Sc1は、第1の駆動回路61の各スイッチング素子のデューティ比を規定する。デューティ比とは、パルス周期に占めるスイッチング素子のオン時間の割合をいう。
【0049】
第1の制御回路63は、第1の回転角センサ44Aを通じて検出される転舵モータ31の第1の回転角θb1を使用して、第1の巻線群31Bに対する給電を制御する。第1の駆動回路61を通じて指令信号Sc1に応じた電流が第1の巻線群31Bに供給されることにより、第1の巻線群31Bは第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。トルクは、転舵トルク指令値の半分に応じたトルクである。
【0050】
第2の制御部70は、基本的には第1の制御部60と同様の構成を有している。すなわち、第2の制御部70は、第2の駆動回路71と、第2の制御回路73を有している。
第2の駆動回路71にも直流電源81から電力が供給される。第1の給電線82において、電源スイッチ83と第1の制御部60との間には接続点Pbが設けられている。接続点Pbと第2の駆動回路71とは、第2の給電線85により接続されている。電源スイッチ83がオンされたとき、直流電源81の電力は、第2の給電線85を介して第2の駆動回路71に供給される。第2の給電線85には、電圧センサ75が設けられている。電圧センサ75は、直流電源81の電圧Vb2を検出する。
【0051】
なお、第2の制御回路73、および第2の回転角センサ44Bには、電源スイッチ83がオンされたとき、図示しない給電線を介して直流電源81の電力が供給される。
第2の駆動回路71は、第1の駆動回路61と同様の構成を有するPWMインバータである。第2の駆動回路71は、第2の制御回路73により生成される指令信号Sc2に基づいて三相各相のスイッチング素子がスイッチング動作を行うことにより、直流電源81から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。第2の駆動回路71により生成される三相交流電力は、バスバーあるいはケーブルなどからなる各相の給電経路86を介して第2の巻線群31Cに供給される。
【0052】
給電経路86には、第2の電流センサ76、第2の電圧センサ77、および第2のモータリレー群78が設けられている。第2の電流センサ76は、第2の駆動回路71から第2の巻線群31Cへ供給される電流Im2を検出する。第2の電圧センサ77は、第2の駆動回路71における三相各相の出力端子電圧、換言すれば第2の巻線群31Cにおける三相各相の端子電圧Vm2を検出する。第2のモータリレー群78は、U相リレー、V相リレー、およびW相リレーを有している。各リレーは、通常時にはオン状態に維持される。第2の駆動回路71において断線故障あるいは短絡故障などの異常が発生した場合、各リレーはオン状態からオフ状態へ切り替えられる。各リレーがオフされた場合、第2の駆動回路71と第2の巻線群31Cとの間の給電経路86が遮断されることにより、第2の駆動回路71から第2の巻線群31Cへの給電が遮断される。なお、U相リレー、V相リレー、およびW相リレーは、FETであってもよい。
【0053】
第2の制御回路73は、基本的には、第1の制御回路63と同様の演算機能を有している。第2の制御回路73は、第2の回転角センサ44Bを通じて検出される転舵モータ31の第2の回転角θb2に基づき、ピニオン角θpを演算する。第2の制御回路73は、反力制御装置1Aにより演算される操舵角θsを取り込む。第2の制御回路73は、操舵角θsに基づき目標ピニオン角を演算する。
【0054】
第2の制御回路73は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角を演算する。第2の制御回路73は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが小さくなるように、目標ピニオン角を演算する。第2の制御回路73は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θsに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θsに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角を演算する。
【0055】
第2の制御回路73は、ピニオン角θpが目標ピニオン角に追従するように、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じて転舵トルク指令値を演算する。第2の制御回路73は、転舵トルク指令値に基づき、転舵モータ31に対する第2の電流指令値を演算する。ただし、第2の電流指令値の絶対値は、転舵トルク指令値に応じたトルクを転舵モータ31に発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。
【0056】
第2の制御回路73は、第2の電流センサ76を通じて、第2の巻線群31Cへ供給される電流Im2の値を検出する。第2の制御回路73は、第2の巻線群31Cへ供給される電流Im2の値を第2の電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、第2の駆動回路71に対する指令信号Sc2を生成する。指令信号Sc2は、PWM信号である。指令信号Sc2は、第2の駆動回路71の各スイッチング素子のデューティ比を規定する。
【0057】
第2の制御回路73は、第2の回転角センサ44Bを通じて検出される転舵モータ31の第2の回転角θb2を使用して、第2の巻線群31Cに対する給電を制御する。第2の駆動回路71を通じて指令信号Sc2に応じた電流が第2の巻線群31Cに供給されることにより、第2の巻線群31Cは第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。トルクは、転舵トルク指令値の半分に応じたトルクである。
【0058】
第1の巻線群31Bが発生するトルクと、第2の巻線群31Cが発生するトルクの合計が、転舵トルク指令値に応じたトルクとなる。すなわち、転舵モータ31は、転舵トルク指令値に応じたトルクを発生する。
【0059】
<異常検出機能>
第1の制御回路63および第2の制御回路73は、自己および自己の属する系統の異常を検出する機能を有している。また、第1の制御回路63と第2の制御回路73とは、通信線を介して互いに情報を授受することが可能である。情報は、第1の制御回路63の演算結果、第2の制御回路73の演算結果、および異常検出結果を含む。
【0060】
第1の制御回路63は、自己の属する第1の系統の状態を示す第1の状態信号Sd1を生成し、生成される第1の状態信号Sd1を第2の制御回路73へ送信する。第1の状態信号Sd1は、第1の系統の異常発生状態、および転舵制御の状態を示す情報を含む。第1の系統は、第1の巻線群31Bに対応する系統である。
【0061】
異常発生状態は、第1の系統における転舵モータ31を駆動させるための部位の異常の有無を含む。転舵モータ31を駆動させるための部位は、たとえば、第1の巻線群31B、第1の制御回路63、第1の駆動回路61、第1のモータリレー群68、および第1の回転角センサ44Aの異常の有無を含む。
【0062】
転舵制御の状態は、第1の制御状態と、第2の制御状態とを含む。第1の制御状態は、第1の制御回路63が転舵制御を実行することができる状態である。第1の制御状態は、転舵制御の実行中、および転舵制御の実行開始待ちの2つの状態を含む。第2の制御状態は、たとえば、電源電圧の低下などに起因して、第1の制御回路63が転舵制御を実行することができない状態である。
【0063】
第2の制御回路73は、第1の制御回路63と同様に、自己の属する第2の系統の状態を示す第2の状態信号Sd2を生成し、生成される第2の状態信号Sd2を第1の制御回路63へ供給する。第2の状態信号Sd2は、第2の系統の異常発生状態、および転舵制御の状態を示す情報を含む。第2の系統は、第2の巻線群31Cに対応する系統である。
【0064】
異常発生状態は、第2の系統における転舵モータ31を駆動させるための部位の異常の有無を含む。転舵モータ31を駆動させるための部位は、たとえば、第1の巻線群31B、第2の制御回路73、第2の駆動回路71、第2のモータリレー群78、および第2の回転角センサ44Bの異常の有無を含む。
【0065】
転舵制御の状態は、第1の制御状態と、第2の制御状態とを含む。第1の制御状態は、第2の制御回路73が転舵制御を実行することができる状態である。第1の制御状態は、転舵制御の実行中、および転舵制御の実行開始待ちの2つの状態を含む。第2の制御状態は、たとえば、電源電圧の低下などに起因して、第2の制御回路73が転舵制御を実行することができない状態である。
【0066】
第1の制御回路63は、第1の系統が正常であって、第1の系統による転舵制御を実行することができる状態であるとき、その旨示す情報を含む第1の状態信号Sd1を生成し、生成される第1の状態信号Sd1を第2の制御回路73へ送信する。第2の制御回路73は、第2の系統が正常であって、第2の系統による転舵制御を実行することができる状態であるとき、その旨示す情報を含む第2の状態信号Sd2を生成し、生成される第2の状態信号Sd2を第1の制御回路63へ送信する。
【0067】
第1の制御回路63および第2の制御回路73は、第1の状態信号Sd1および第2の状態信号Sd2の授受を通じて、互いに正常であることを認識する。第1の制御回路63は第1の巻線群31Bに対する給電を制御し、第2の制御回路73は第2の巻線群31Cに対する給電を制御する。すなわち、転舵制御装置1Bによる転舵モータ31の駆動方法が、2系統の巻線群に対する給電制御を実行する2系統駆動となる。
【0068】
第1の制御回路63は、第1の系統が異常であって、第1の系統による転舵制御を実行することができない状態であるとき、定められたフェイルセーフ制御を実行する。第1の制御回路63は、フェイルセーフ制御として、たとえば第1の系統による転舵制御、すなわち第1の巻線群31Bに対する給電制御の実行を停止する。また、第1の制御回路63は、第1の系統において異常が検出されたことを示す情報を含む第1の状態信号Sd1を生成し、生成される第1の状態信号Sd1を第2の制御回路73へ送信する。
【0069】
第2の制御回路73は、第1の状態信号Sd1を通じて、第1の系統による転舵制御が実行できない状態であることを認識した場合、第2の系統が正常であれば、第2の系統による転舵制御を実行する。この場合、正常系統である第2の巻線群31Cに対してのみ給電される。すなわち、転舵制御装置1Bによる転舵モータ31の駆動方法が、2系統の巻線群に対する給電制御を実行する2系統駆動から1系統の巻線群に対する給電制御のみを実行する1系統駆動へ切り替わる。
【0070】
第2の制御回路73は、第2の系統が異常であって、第2の系統による転舵制御を実行することができない状態であるとき、定められたフェイルセーフ制御を実行する。第2の制御回路73は、フェイルセーフ制御として、たとえば第2の系統による転舵制御、すなわち第2の巻線群31Cに対する給電制御の実行を停止する。また、第2の制御回路73は、第2の系統において異常が検出されたことを示す情報を含む第2の状態信号Sd2を生成し、生成される第2の状態信号Sd2を第1の制御回路63へ送信する。
【0071】
第1の制御回路63は、第2の状態信号Sd2を通じて、第2の系統による転舵制御が実行できない状態であることを認識した場合、第1の系統が正常であれば、第1の系統による転舵制御を実行する。この場合、正常系統である第1の巻線群31Bに対してのみ給電される。すなわち、転舵制御装置1Bによる転舵モータ31の駆動方法が、2系統の巻線群に対する給電制御を実行する2系統駆動から1系統の巻線群に対する給電制御のみを実行する1系統駆動へ切り替わる。
【0072】
このように、転舵モータ31における2系統の巻線群に対する給電を独立して制御することにより、一方系統に異常が発生した場合であれ、他方系統の巻線群への給電を通じて転舵モータ31を駆動させることができる。
【0073】
<2系統に異常が発生した場合>
ただし、一方系統による1系統駆動が実行されている場合、正常系統である他方系統に異常が発生することが考えられる。この場合、他方系統の制御回路は、フェイルセーフ制御として、他方系統による転舵制御、すなわち他方系統の巻線群に対する給電制御の実行を停止する。このため、転舵モータ31を駆動させること、ひいては転舵輪6を転舵させることができなくなる。
【0074】
第1の制御回路63および第2の制御回路73は、第1の状態信号Sd1および第2の状態信号Sd2の授受を通じて、第1の系統および第2の系統が共に異常であることを認識する。このとき、第1の制御回路63または第2の制御回路73は、車両制御装置50に対する停車要求信号Sstpを生成する。本実施の形態では、第1の制御回路63が停車要求信号Sstpを生成する。
【0075】
車両制御装置50は、停車要求信号Sstpが受信されるとき、定められた停車処理を実行する。車両制御装置50は、たとえば、車両が徐々に減速しながら、路肩などの安全な場所に停車するように、制動装置52を制御する。
【0076】
ただし、車両制御装置50による停車処理の実行中、つぎのような懸念がある。すなわち、第1の系統および第2の系統に共に異常が発生した場合、転舵モータ31の駆動が停止する。転舵モータ31のトルクが転舵シャフト22に付与されないため、車両の走行に伴い転舵輪6の転舵角θwが不適切に変化するおそれがある。したがって、停車処理の実行中において、車両の走行安定性が保てなくなることが懸念される。
【0077】
そこで、本実施の形態では、転舵制御装置1Bとして、つぎの処理を実行するように構成される。処理は、車両電源がオンされたことを契機として実行される。
<モータロック処理>
図3のフローチャートに示すように、第1の制御回路63は、第1の系統および第2の系統の両方に異常が発生したことが検出されるとき(ステップS101)、車両制御装置50に対する停車要求信号S
stpを生成する。また、第1の制御回路63は、第1の系統および第2の系統の両方に異常が発生したことが検出されるとき、ステップS102の処理を実行する。第1の制御回路63は、第2の制御回路73により生成される第2の状態信号S
d2に基づき、第2の系統の異常を検出する。
【0078】
第1の制御回路63は、ステップS102において、第1の系統および第2の系統に発生した異常の内容に基づき、転舵モータ31をロックすることが可能かどうかを判定する。転舵モータ31をロックすることは、転舵モータ31の回転位置を現在位置から変化しないように転舵モータ31を制御することである。
【0079】
第1の制御回路63は、第1の系統により転舵モータ31の給電制御を継続することが可能であるとき、転舵モータ31をロックすることが可能であると判定する。
第1の制御回路63は、たとえば、第1の駆動回路61および第1の巻線群31Bに印加される電圧が正常であるとき、第1の系統により転舵モータ31の給電制御を継続することが可能であると判定する。第1の制御回路63は、たとえば、電圧センサ65を通じて検出される直流電源81の電圧Vb1の値が電源電圧しきい値よりも大きいとき、第1の駆動回路61に印加される電圧が正常であると判定する。第1の制御回路63は、第1の電圧センサ67を通じて検出される第1の巻線群31Bの端子電圧Vm1の値が端子電圧しきい値よりも大きいとき、第1の巻線群31Bに印加される電圧が正常であると判定する。
【0080】
第1の制御回路63は、転舵モータ31をロックすることが可能であると判定されるとき(ステップS102でYES)、ステップS103へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS103において、ピニオン角θpが検出可能であるかどうかを判定する。
【0081】
第1の制御回路63は、たとえば、第1の回転角センサ44Aを通じて検出される第1の回転角θb1、および第2の回転角センサ44Bを通じて検出される第2の回転角θb2に基づき、第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bの異常を検出する。第1の制御回路63は、たとえば、第1の回転角θb1の今回値と前回値との差の絶対値が、定められた許容範囲を逸脱する場合、第1の回転角センサ44Aが異常であると判定する。第1の制御回路63は、たとえば、第2の回転角θb2の今回値と前回値との差の絶対値が、定められた許容範囲を逸脱する場合、第2の回転角センサ44Bが異常であると判定する。許容範囲は、第1の制御回路63の演算周期、あるいは第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bの検出公差を考慮して設定される。
【0082】
第1の制御回路63は、第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bのうち少なくとも一方が正常であるとき、ピニオン角θpが検出可能であると判定する。
第1の制御回路63は、ピニオン角θpが検出可能であると判定されるとき(S103でYES)、ステップS104へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS104において、車両が直進状態であるかどうかを判定する。
【0083】
第1の制御回路63は、たとえば、次式(1)が成立するとき、車両が直進状態であると判定する。
θp<θpth …(1)
ただし、「θp」は、転舵モータ31の第1の回転角θb1に基づき演算されるピニオン角θp、および転舵モータ31の第2の回転角θb2に基づき演算されるピニオン角θpのうち少なくとも一方である。「θpth」は、ピニオン角しきい値θpthである。ピニオン角しきい値θpthは、車両が直進走行しているときのピニオン角θpを基準として設定される。ピニオン角しきい値θpthは、車両が直進状態であるかどうかを判定する際の基準である。
【0084】
第1の制御回路63は、車両が直進状態であると判定されるのを待つ(ステップS104でNO)。第1の制御回路63は、車両が直進状態であると判定されるとき(ステップS104でYES)、ステップS105へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS105において、モータロック処理を実行する。モータロック処理は、転舵モータ31の回転を抑制するための処理である。
【0085】
第1の制御回路63は、たとえば、先のステップS104において車両が直進状態であると判定された直後の転舵モータ31の回転角θbを、転舵モータ31の目標回転角として設定する。転舵モータ31の回転角θbは、第1の回転角センサ44Aを通じて検出される転舵モータ31の第1の回転角θb1、または第2の回転角センサ44Bを通じて検出される転舵モータ31の第2の回転角θb2である。
【0086】
第1の制御回路63は、先のステップS103において、第1の回転角センサ44Aが正常であると判定されるとき、第1の回転角θb1を使用する。第1の制御回路63は、先のステップS103において、第1の回転角センサ44Aが異常である一方、第2の系統の第2の回転角センサ44Bが正常であると判定されるとき、第2の制御回路73から第2の回転角θb2を取り込み、取り込まれる第2の回転角θb2を使用する。
【0087】
第1の制御回路63は、目標回転角と、転舵モータ31の実際の回転角である実回転角との差を演算し、演算される差が0(零)になるように、転舵モータ31を駆動させる。すなわち、第1の制御回路63は、外力による転舵輪6の転舵動作に伴い転舵モータ31の回転位置が変化するとき、転舵モータ31の実回転角を目標回転角に戻すように、転舵モータ31を制御する。目標回転角は、車両の直進状態に対応する角度である。したがって、転舵モータ31の回転位置が目標回転角に固定されることにより、転舵輪6の転舵位置が転舵中立位置、あるいは転舵中立位置付近に固定される。転舵中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵輪6の転舵位置である。
【0088】
なお、第1の制御回路63は、先のステップS102において転舵モータ31をロックすることができないと判定されるとき(ステップS102でNO)、および先のステップS103においてピニオン角θpを検出することができないと判定されるとき(S103でNO)、転舵モータ31の停止処理を実行する。停止処理は、転舵モータ31への給電を停止するための処理である。
【0089】
第2の制御回路73は、第1の制御回路63と同様に、
図3のフローチャートの各処理を実行する。第2の制御回路73は、つぎの3つの条件C1~C3がすべて成立するとき、モータロック処理を実行する。
【0090】
C1.転舵モータ31をロック可能であること(ステップS102でYES)。
C2.ピニオン角θpが検出可能であること(S103でYES)。
C3.車両が直進状態であること(ステップS104でYES)。
【0091】
第2の制御回路73は、第2の系統により転舵モータ31の給電制御を継続することが可能であるとき、転舵モータ31をロック可能であると判定する。第1の制御回路63は、たとえば、第2の駆動回路71および第2の巻線群31Cに印加される電圧が正常であるとき、第2の系統により転舵モータ31の給電制御を継続することが可能であると判定する。第2の制御回路73は、たとえば、電圧センサ75を通じて検出される直流電源81の電圧Vb2の値が電源電圧しきい値よりも大きいとき、第2の駆動回路71に印加される電圧が正常であると判定する。第2の制御回路73は、第2の電圧センサ77を通じて検出される第2の巻線群31Cの端子電圧Vm2の値が端子電圧しきい値よりも大きいとき、第2の巻線群31Cに印加される電圧が正常であると判定する。
【0092】
第2の制御回路73は、先の条件C1および条件C2のいずれか一方が成立しないとき、転舵モータ31の停止処理を実行する。
したがって、車両制御装置50による停車処理の実行中であれ、第1の系統および第2の系統のうち少なくとも一方により、転舵モータ31の給電制御を継続することが可能である場合、転舵モータ31の駆動制御を通じて、転舵輪6の転舵位置が転舵中立位置、あるいは転舵中立位置付近に固定される。
【0093】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)第1の系統および第2の系統において同時に異常が発生した場合、転舵モータ31の給電制御を継続することができるとき、転舵輪6の転舵位置が転舵中立位置、あるいは転舵中立位置付近に固定される。このため、車両制御装置50による停車処理の実行中、車両の走行に伴い転舵輪6の転舵角θwが不適切に変化することが抑制される。したがって、停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる。
【0094】
たとえば、車両制御装置50が、トルクベクタリング制御の実行を通じて、車両を路肩などの安全な場所に寄せるべく車両にヨーモーメントを発生させる際、意図しない転舵角θwの変化によるヨーモーメントの変化が抑えられる。このため、車両を路肩などの安全な場所に適切に移動させることができる。
【0095】
(1-2)第1の系統および第2の系統において同時に異常が発生した場合、転舵モータ31の給電制御を継続することができるとき、車両が直進状態であると判定された直後の転舵モータ31の回転角θbが転舵モータ31の目標回転角として設定される。目標回転角と転舵モータ31の実際の回転角θbとの差を無くすように転舵モータ31の駆動が制御される。このため、転舵モータ31の回転角θbが、車両の直進状態に対応する角度に保持される。したがって、転舵輪6の転舵位置を転舵中立位置に固定することができる。回転角θbは、第1の回転角θb1および第2の回転角θb2を含む。
【0096】
(1-3)転舵モータ31は、第1の巻線群31B、および第2の巻線群31Cを有する。転舵制御装置1Bは、第1の巻線群31Bに対する給電を独立して制御する第1の制御部60と、第2の巻線群31Cに対する給電を独立して制御する第2の制御部70とを含んでいる。第1の制御部60および第2の制御部70は、第1の巻線群31Bに対応する第1の系統、および第2の巻線群31Cに対応する第2の系統の両方に異常が発生したとき、車両制御装置50に対して停車処理の実行を要求する。このため、第1の系統および第2の系統の少なくとも一方により転舵モータ31の給電制御を継続することが可能であるとき、転舵モータ31の回転を抑制するための処理を実行することができる。
【0097】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1および
図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。このため、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。本実施の形態は、転舵制御装置1Bの構成、およびモータロック処理の手順の点で第1の実施の形態と異なる。
【0098】
転舵制御装置1Bは、いわゆる電気ブレーキ機能を有している。電気ブレーキ機能は、転舵モータ31を発電機として動作させることによるブレーキ機能である。すなわち、転舵モータ31の運動エネルギを電気エネルギに変換し、変換される電気エネルギを消費させることにより、転舵モータ31を制動する。電気エネルギは、たとえば、グランドに逃がすことにより消費させる。
【0099】
図4に示すように、第1の制御部60は、第1のブレーキ回路90Aを有している。第1のブレーキ回路90Aは、たとえば、三相各相の給電経路84における第1のモータリレー群68の下流側に設けられる。第1のブレーキ回路90Aは、第1のFET91U、第2のFET91V、第3のFET91W、および逆流防止用のダイオード92を有している。
【0100】
第1のFET91Uのドレイン端子は、三相各相の給電経路84のうちU相の給電経路に接続されている。第1のFET91Uのソース端子は、グランドGNDに接続されている。第1のFET91Uのゲート端子は、ダイオード92のカソードに接続されている。ダイオード92のアノードは、第1の制御回路63に接続されている。
【0101】
第2のFET91Vのドレイン端子は、三相各相の給電経路84のうちV相の給電経路に接続されている。第2のFET91Vのソース端子は、グランドGNDに接続されている。第2のFET91Vのゲート端子は、ダイオード92のカソードに接続されている。
【0102】
第3のFET91Wのドレイン端子は、三相各相の給電経路84のうちW相の給電経路に接続されている。第3のFET91Wのソース端子は、グランドGNDに接続されている。第3のFET91Wのゲート端子は、ダイオード92のカソードに接続されている。
【0103】
第1の制御回路63は、電気ブレーキ機能を実行する場合、まず、転舵モータ31への給電を停止する。第1の制御回路63は、たとえば、第1の駆動回路61の各スイッチング素子をオフしたり、第1のモータリレー群68をオフしたりすることにより、転舵モータ31への給電を停止する。転舵モータ31が回転している場合、転舵モータ31への給電を停止しても転舵モータ31は慣性力で回転する。U相コイル、V相コイル、およびW相コイルには、発電された電荷が残っているため、すぐには停止しない。
【0104】
この後、第1の制御回路63は、第1のFET91Uのゲート端子、第2のFET91Vのゲート端子、および第3のFET91Wのゲート端子に電圧を印加する。第1のFET91U、第2のFET91V、および第3のFET91Wがオンすることにより、三相各相のコイル端子がグランドGNDに短絡される。このため、三相各相のコイルに残存する電荷が、グランドGNDに逃される。三相各相のコイルの残存電荷が無くなることにより、転舵モータ31に制動力が発生する。この制動力によって、転舵モータ31の回転が抑制される。
【0105】
なお、
図3に括弧付きの符号を付して示すように、第2の制御部70は、第2のブレーキ回路90Bを有している。第2のブレーキ回路90Bは、たとえば、三相各相の給電経路86における第2のモータリレー群78の下流側に設けられる。第2のブレーキ回路90Bは、第1のブレーキ回路90Aと同一の構成を有している。第2の制御回路73は、第1の制御回路63と同様の手順で、電気ブレーキ機能を実行する。
【0106】
<モータロック処理>
つぎに、モータロック処理の手順について説明する。
第1の制御回路63は、基本的には、先の
図3のフローチャートに示される各処理を実行する。ただし、第1の制御回路63は、先のステップS102において、転舵モータ31をロックすることができないと判定されるとき(S102でNO)、ステップS106ではなく、ステップS103へ処理を移行する。
【0107】
第1の制御回路63は、ステップS103において、ピニオン角θpが検出可能であると判定されるとき(ステップS103でYES)、ステップS104へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS104において、車両が直進状態であると判定されるとき(ステップS104でYES)、ステップS105へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS105において、モータロック処理を実行する。
【0108】
第1の制御回路63は、モータロック処理として、先の電気ブレーキ機能を実行する。すなわち、第1の制御回路63は、まず、転舵モータ31への給電を停止する。この後、第1の制御回路63は、第1のFET91U、第2のFET91V、および第3のFET91Wをオンさせる。三相各相のコイル端子がグランドGNDに短絡されることにより、転舵モータ31に制動力が発生する。この制動力によって、転舵モータ31の回転、ひいては転舵輪6の転舵動作が抑制される。
【0109】
なお、第2の制御回路73は、第1の制御回路63と同様の手順で、モータロック処理を実行する。
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0110】
(2-1)第1の系統および第2の系統において同時に異常が発生した場合、転舵モータ31の給電制御を継続することができないとき、転舵モータ31に制動力を発生させる電気ブレーキ機能が実行される。転舵輪6の転舵位置が、転舵中立位置あるいは転舵中立位置付近から変化しにくくなるため、車両制御装置50による停車処理の実行中、車両の走行に伴い転舵輪6の転舵角θwが不適切に変化することが抑制される。したがって、停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる。
【0111】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1および
図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。このため、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。本実施の形態は、モータロック処理の手順の点で第1の実施の形態と異なる。
【0112】
第1の制御回路63は、基本的には、先の
図3のフローチャートに示される各処理を実行する。第1の制御回路63は、先のステップS102において、転舵モータ31をロックすることができると判定されるとき(S102でYES)、ステップS103へ処理を移行し、ピニオン角θ
pが検出可能であるかどうかを判定する。
【0113】
第1の制御回路63は、ステップS103において、第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bのうち少なくとも一方が正常であって、ピニオン角θpが検出可能であると判定されるとき(ステップS103でYES)、ステップS104へ処理を移行する。第1の制御回路63は、ステップS104において、車両が直進状態であると判定されるとき(ステップS104でYES)、ステップS105へ処理を移行し、先のモータロック処理を実行する。
【0114】
ただし、第1の制御回路63は、ステップS103において、第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bの両方が異常であって、第1の回転角θb1または第2の回転角θb2に基づきピニオン角θpを検出することができないと判定されるとき(S103でNO)、ステップS106ではなく、ステップS104へ処理を移行する。
【0115】
第1の制御回路63は、ステップS104において、転舵モータ31の制御方法を、いわゆる回転角センサレス制御に切り替える。回転角センサレス制御は、第1の回転角センサ44Aを通じて検出される第1の回転角θb1、および第2の回転角センサ44Bを通じて検出される第2の回転角θb2に代えて、転舵モータ31で発生する誘起電圧に基づき演算される推定回転角を使用する転舵モータ31の制御方法である。
【0116】
第1の制御回路63は、転舵モータ31の誘起電圧に基づき加算角度を演算し、演算される加算角度を積算することにより転舵モータ31の推定回転角を演算する。加算角度は、たとえば、第1の制御回路63の1演算周期の間に転舵モータ31が回転した角度である。加算角度の正負は、たとえば、トルクセンサ42を通じて検出される操舵トルクThの正負に基づき推定される転舵モータ31の回転方向によって決まる。
【0117】
第1の制御回路63は、転舵モータ31の推定回転角に基づきピニオン角θpを演算し、演算されるピニオン角θpに基づき、車両が直進状態であるかどうかを判定する。第1の制御回路63は、先の式(1)が成立するとき、車両が直進状態であると判定する。第1の制御回路63は、車両が直進状態であると判定されるとき(ステップS104でYES)、ステップS105へ処理を移行し、モータロック処理を実行する。
【0118】
第1の制御回路63は、先のステップS104において車両が直進状態であると判定された直後の転舵モータ31の推定回転角を、転舵モータ31の目標回転角として設定する。推定回転角は、転舵モータ31の誘起電圧に基づき推定される転舵モータ31の回転角であって、転舵モータ31の実際の回転角である実回転角に相当する。
【0119】
第1の制御回路63は、目標回転角と、転舵モータ31の推定回転角との差を演算し、演算される差が0(零)になるように、転舵モータ31を駆動させる。すなわち、第1の制御回路63は、外力による転舵輪6の転舵動作に伴い転舵モータ31の回転位置が変化するとき、転舵モータ31の推定回転角を目標回転角に戻すように、転舵モータ31を制御する。目標回転角は、車両の直進状態に対応する角度である。したがって、転舵モータ31の回転位置が目標回転角に固定されることにより、転舵輪6の転舵位置が転舵中立位置に固定される。
【0120】
なお、第2の制御回路73は、第1の制御回路63と同様の手順で、モータロック処理を実行する。
第3の実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0121】
(3-1)第1の系統および第2の系統において同時に異常が発生した場合、転舵モータ31の給電制御を継続することができるものの、第1の回転角センサ44Aおよび第2の回転角センサ44Bの両方が異常であるとき、転舵モータ31の制御方法が回転角センサレス制御に切り替えられる。この回転角センサレス制御の実行を通じて、転舵輪6の転舵位置が、転舵中立位置あるいは転舵中立位置付近に固定される。このため、車両制御装置50による停車処理の実行中、車両の走行に伴い転舵輪6の転舵角θwが不適切に変化することが抑制される。したがって、停車処理の実行中において、車両の走行安定性を保つことができる。
【0122】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の制御回路63は、車両が直進状態であると判定された直後のピニオン角θpを目標ピニオン角として設定するようにしてもよい。目標ピニオン角は、ピニオン角θpの目標回転角である。第1の制御回路63は、目標ピニオン角と、第1の回転角θb1または第2の回転角θb2に基づき演算される実際のピニオン角θpとの差を演算し、演算される差が0(零)になるように転舵モータ31を駆動させる。このようにしても、ピニオン角θpが、車両の直進状態に対応する目標回転角に固定されることにより、転舵輪6の転舵位置が転舵中立位置に固定される。
【0123】
・各実施の形態では、転舵制御装置1Bは、2系統の冗長化した構成を有していたが、1系統の非冗長の構成を採用してもよい。すなわち、転舵制御装置1Bとして、第1の制御部60のみを有する構成、あるいは第2の制御部70のみを有する構成を採用してもよい。この場合、転舵モータ31として、第1の巻線群31Bのみを有する構成、あるいは第2の巻線群31Cのみを有する構成を採用してもよい。第1の制御回路63または第2の制御回路73は、自己に対応する系統の異常が検出されるとき(ステップS101)、モータロック処理にかかる各処理(ステップS102~ステップS106)を実行する。
【符号の説明】
【0124】
1…操舵制御装置
5…ステアリングホイール
6…転舵輪
31…転舵モータ
31B…第1の巻線群
31C…第2の巻線群
50…車両制御装置
52…制動装置
60…第1の制御部
70…第2の制御部