(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062087
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 13/00 20130101AFI20240430BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240430BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240430BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240430BHJP
H01M 50/51 20210101ALI20240430BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20240430BHJP
【FI】
H01G13/00 391Z
H01M10/058
H01M10/052
H01M10/48 P
H01M50/51
H01G11/84
H01G13/00 361C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169861
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 卓司
(72)【発明者】
【氏名】前田 光司
【テーマコード(参考)】
5E078
5E082
5H029
5H030
5H043
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5E078JA02
5E078JA04
5E082AB10
5E082CC12
5E082MM36
5H029AJ05
5H029BJ02
5H029HJ19
5H030AA09
5H030AA10
5H030FF41
5H030FF43
5H030FF44
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA03
5H043FA22
(57)【要約】
【課題】セルの劣化を抑制する。
【解決手段】複数のセルの初期容量値を計測する第一計測工程と、前記第一計測工程により計測された複数の前記セルの初期容量値の平均値を算出する平均値算出工程と、前記平均値から所定以上離れた初期容量値の前記セルを排除する第一排除工程と、前記第一排除工程で排除されずに残った複数の前記セルを用いて前記蓄電装置を組み立てる組立工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数のセルを有する蓄電装置の製造方法であって、
複数の前記セルの初期容量値を計測する第一計測工程と、
前記第一計測工程により計測された複数の前記セルの初期容量値の平均値を算出する平均値算出工程と、
前記平均値から所定以上離れた初期容量値の前記セルを排除する第一排除工程と、
前記第一排除工程で排除されずに残った複数の前記セルを用いて前記蓄電装置を組み立てる組立工程と、を含む
蓄電装置の製造方法。
【請求項2】
前記第一排除工程では、前記平均値から所定以上大きい初期容量値の前記セルと前記平均値から所定以上小さい初期容量値の前記セルを排除する
請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項3】
前記第一排除工程では、前記平均値に対し標準偏差の二倍以上離れた初期容量値の前記セルを排除する
請求項1に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項4】
前記第一排除工程で排除されずに残った複数の前記セルの初期容量値と、前記第一排除工程で排除されずに残った複数の前記セルの初期容量値の累積百分率とによって回帰直線を取得する回帰直線取得工程と、
前記回帰直線取得工程により取得した前記回帰直線の決定係数を算出する決定係数算出工程と、
前記決定係数算出工程により算出された前記決定係数が、予め設定された前記決定係数の閾値以上か否かを判定する決定係数判定工程と、を含み、
前記組立工程では、前記決定係数判定工程により前記決定係数が前記閾値未満と判定された複数の前記セルのみを用いて前記蓄電装置を組み立てる
請求項1から3の何れか一項に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項5】
前記決定係数判定工程により前記決定係数が前記閾値よりも低いと判定された前記セルを全て排除する第二排除工程を含む
請求項4に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項6】
前記第一計測工程よりも前に、前記セルの漏れ電流、及び前記セルのオープン状態の電圧降下量を計測して、前記漏れ電流と前記電圧降下量との少なくとも一方が規定値を満たしていない前記セルを異常品として排除する異常品排除工程を、更に含む
請求項1から3の何れか一項に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項7】
前記決定係数の閾値は、0.9~0.95の範囲の値である
請求項4に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項8】
前記セルは、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ及びリチウムイオン電池の何れか一つである
請求項1から3の何れか一項に記載の蓄電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、蓄電装置として、複数のセルを有した組電池が開示されている。この特許文献1では、複数のセル間の容量ばらつきを抑えるために、複数のセルのうち、自己放電傾向の高いセルを温度の高いケース中央部に配置して、ケース中央部から遠ざかるにつれて自己放電傾向が低いセルを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の蓄電装置のように複数のセルを直列に接続している場合、各セルの初期容量差が大きいと通電時に各セルで生じる電圧の差が大きくなり、セルの劣化が促進されてしまう場合がある。
本発明の目的は、セルの劣化を抑制可能な蓄電装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る蓄電池の製造方法は、直列接続された複数のセルを有する蓄電装置の製造方法であって、複数の前記セルの初期容量値を計測する第一計測工程と、前記第一計測工程により計測された複数の前記セルの初期容量値の平均値を算出する平均値算出工程と、前記平均値から所定以上離れた初期容量値の前記セルを排除する第一排除工程と、前記第一排除工程で排除されずに残った複数の前記セルを用いて前記蓄電装置を組み立てる組立工程と、を含む。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、セルの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る蓄電装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る蓄電装置の製造方法のフローチャートである。
【
図3】縦軸をセルの個数、横軸を初期容量値としたグラフである。
【
図4】縦軸を累積度数百分率、横軸を初期容量値とした正規確率プロットであり、決定係数が閾値以上の場合の一例を示している。
【
図5】本発明の実施形態の変形例に係る蓄電装置の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〈実施形態〉
《蓄電装置の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る蓄電装置の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の蓄電装置1は、複数のサブモジュール100を備えている。これら複数のサブモジュール100は、それぞれ所定数(
図1では、12個の場合を例示)のセル11と、セル11を収容するケース12と、セル11同士を電気的に接続するバスバー13と、を備えている。バスバー13は、複数のセル11を直列接続している。一つの蓄電装置1を構成するサブモジュール100の個数としては、9個を例示できる(
図1では、3つのサブモジュール100のみ示す)。このように9個のサブモジュール100を備える場合、一つの蓄電装置1は、108個のセル11を備えることとなる。
【0009】
セル11は、電気二重層キャパシタ(EDLC)やリチウムイオンキャパシタ(LIC)、リチウムイオン電池(LIB)等、蓄電可能な蓄電素子であればよい。本実施形態では、セル11が円柱状に形成されている場合を示しているが、セル11の形状は円柱状に限られない。また、セル11の電極位置としては、円柱状の軸方向端面と、外周部とを例示できるが、セル11の電極位置は、電気的に直列接続可能な位置であれば如何なる位置であってもよい。さらに、本実施形態では、隣り合うセル11の+電極と-電極とが近接するように、直列接続される奇数番目のセル11と偶数番目のセル11とが上下反転して配置される場合を例示した。しかし、セル11の配置は、電気的に直列接続可能な配置であればこのような配置に限られない。
【0010】
《蓄電装置の製造方法》
次に、上記蓄電装置1の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る蓄電装置の製造方法のフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態の蓄電装置1の製造方法は、異常品排除工程S01と、第一計測工程S02と、平均値算出工程S03と、第一排除工程S04と、回帰直線取得工程S05と、決定係数算出工程S06と、決定係数判定工程S07と、組立工程S08と、第二排除工程S09と、を含んでいる。なお、異常品排除工程S01と、第二排除工程S09とは、必要に応じて行えばよく省略してもよい。
【0011】
異常品排除工程S01では、セル11の漏れ電流、及びセル11のオープン状態の電圧降下量を計測する。そして、漏れ電流と電圧降下量との少なくとも一方が規定値を満たしていないセル11を異常品として排除する。本実施形態では、セル11の製造ロット毎に漏れ電流と電圧降下量とを計測し、異常品を排除している。ここで、一つの製造ロット(以下、単に1ロットと称する)におけるセル11の個数は、上記一つの蓄電装置1を構成するセル11の数(例えば、108個)よりも十分に多い。なお、一つの蓄電装置1が有するセル11の個数としては、100~150個を例示できる。
【0012】
第一計測工程S02では、複数のセル11の初期容量値Capを計測する。具体的には、1ロットに含まれる全てのセル11に対して、セル11がキャパシタである場合、各セル11の初期容量値Capとして、各セル11の静電容量値(F)を計測する。また、セル11がリチウムイオンを用いる蓄電池である場合、初期容量値Capとして、各セル11のエネルギ容量値(Ah)を計測する。
例えば、セル11がキャパシタである場合、初期容量値Capは、一定放電電流下での電圧降下値から求めることができる。また例えば、セル11がリチウムイオンを用いる蓄電池である場合、初期容量値Capは、セル11のSOC(states of charge)範囲を0%~100%とする充放電を実施する際に充放電に寄与するリチウムイオン量の測定値から求めることができる。
【0013】
平均値算出工程S03では、第一計測工程S02により計測された複数のセル11の初期容量値Capの平均値μを算出する。すなわち、本実施形態では、1ロットに含まれる全てのセル11の初期容量値Capの平均値μを算出する。
【0014】
図3は、縦軸をセルの個数、横軸を初期容量値としたグラフである。
1ロットにおける初期容量値Cap毎のセル11の個数は、平均値μで最も多くなり、平均値μから離れるほど少なくなる。言い換えれば、平均値μよりも初期容量値Capが大きくなるほど、セル11の個数が減少し、平均値μよりも初期容量値Capが小さくなるほど、セルの個数が減少する。そして、これをグラフにすると、
図3に示すように、平均値μを基準にして、左右対称な正規分布に近いものとなる。
【0015】
第一排除工程S04では、平均値μから所定以上離れた初期容量値Capのセル11を排除する。本実施形態の第一排除工程S04では、平均値μから所定以上大きい初期容量値Capのセル11と平均値μから所定以上小さい初期容量値Capのセル11とを排除する。また、本実施形態の第一排除工程S04では、上記の1ロットのセル11における初期容量値Capの標準偏差σを算出する。そして、この第一排除工程S04では、標準偏差σの二倍(2σ)以上離れた初期容量値Capのセル11を、当該ロットから排除する。つまり、
図3示す+2σよりも初期容量値Capの大きいセル11と、-2σよりも初期容量値Capの小さいセル11とを排除する。
【0016】
図4は、縦軸を累積度数百分率、横軸を初期容量値とした正規確率プロットであり、決定係数が閾値以上の場合の一例を示している。
回帰直線取得工程S05では、第一排除工程S04によって排除されずに残った複数のセル11(以下、単に未排除のセル11と称する)の初期容量値Capと、未排除のセル11の初期容量値Capの累積度数百分率(累積百分率)とによって回帰直線L1を取得する。回帰直線L1は、例えば、最小二乗法により求めることができる。具体的には、回帰直線取得工程S05では、
図4に示すように、1ロットにおける未排除のセル11の初期容量値Capを用いて正規確率プロットを作成し、例えば最小二乗法により、回帰直線L1を取得している。
【0017】
決定係数算出工程S06では、回帰直線取得工程S05により取得した回帰直線L1の決定係数R
2を算出する。すなわち、この決定係数算出工程S06では、未排除のセル11の初期容量値Capから求めた回帰直線L1の決定係数R
2を求める。ここで、決定係数R
2は、仮に、
図4における全てのプロットが回帰直線L1上にある場合、正規分布となり決定係数R
2は1となる。また、プロットの位置が、回帰直線L1から離れるほど決定係数R
2は、小さい値となる。
【0018】
決定係数判定工程S07では、決定係数算出工程S06により算出された決定係数R2が、予め設定された決定係数R2の閾値以上か否かを判定する。ここで、決定係数R2の閾値は、0.9~0.95の範囲内の値にすることができる。この決定係数R2の閾値は、0.95とすることがより好ましい。この決定係数判定工程S07により、決定係数算出工程S06により算出された決定係数R2が、予め設定された決定係数R2の閾値以上であると判定された場合(ステップS07でYES)、組立工程S08に進む。一方で、決定係数算出工程S06により算出された決定係数R2が、予め設定された決定係数R2の閾値未満であると判定された場合(ステップS07でNO)第二排除工程S09に進む。
【0019】
組立工程S08では、決定係数判定工程S07により決定係数R2が閾値以上と判定された複数のセル11のみを用いて蓄電装置1を組み立てる。具体的には、決定係数判定工程S07により決定係数R2が閾値以上と判定された未排除のセル11のみを用いて、蓄電装置1を組み立てる。つまり、本実施形態で例示する蓄電装置1は、9個のサブモジュール100を備え、合計で108個のセル11を備えているため、これら108個の全てが、同一ロットの未排除のセル11となっている。
【0020】
第二排除工程S09では、決定係数判定工程S07により決定係数R2が閾値よりも低いと判定されたロットのセル11を全て排除する。すなわち、これら決定係数R2が閾値よりも低いと判定されたロットの全てのセル11は、蓄電装置1の組み立てに用いられずに排除される。
【0021】
《作用効果》
上記の蓄電装置1の製造方法では、複数のセル11の初期容量値Capを計測し、複数のセル11の初期容量値Capの平均値μから所定以上離れた初期容量値Capのセル11を排除するようにした。さらに、排除されずに残った複数のセル11の初期容量値Capと、この初期容量値Capの累積度数百分率(累積百分率)との正規確率プロットによって回帰直線L1を取得し、この回帰直線L1の決定係数R2を算出するようにした。そして、算出された決定係数R2が予め設定された決定係数R2の閾値以上であると判定された複数のセル11のみを用いて蓄電装置1を組み立てるようにした。このようにすることで、平均値μから離れた所定以上離れた初期容量値Capのセル11だけではなく、初期容量値Capの分布が正規分布から所定以上乖離した複数のセル11を排除することができる。その結果、隣り合うセル11の初期容量差を低減できるため、セル11の劣化を抑制することが可能となる。
【0022】
さらに、平均値μに対し標準偏差σの二倍2σ以上離れた初期容量値Capのセル11を排除するようにした。これにより、初期容量値Capが極端に高いセル11や初期容量値Capが極端に低いセル11を排除することができる。したがって、蓄電装置1内で隣のセル11との初期容量値Capの違いに起因する異常発生を抑制することができる。
【0023】
また、上記の蓄電装置1の製造方法では、決定係数R2が閾値よりも低いと判定されたセル11を全て排除するようにした。これにより、初期容量値Capが極端に低いセル11や、初期容量値Capが極端に高いセル11を、より効果的に排除することが可能となる。
【0024】
さらに、初期容量値Capを計測する前に、セル11の漏れ電流、及びセル11のオープン状態の電圧降下量を計測して、漏れ電流と電圧降下量との少なくとも一方が規定値を満たしていないセル11を異常品として排除するようにした。これにより、異常品の混入による他のセル11への影響が無いため、蓄電装置1におけるセル11の劣化を抑制することができる。
【0025】
また、上記蓄電装置1の製造方法では、決定係数R2の閾値を、0.9から0.95の範囲の値とした。これにより、蓄電装置1におけるセル11の劣化をより効果的に抑えることが可能となる。
【0026】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。
上述した実施形態では、決定係数判定工程S07により閾値未満と判定されたセル11を第二排除工程S09により全数排除する場合について説明した。しかし、これに限られず、例えば、1ロットのセル11により複数の蓄電装置1を組み立てる場合には、初期容量値Capの平均値μからの偏差が、標準偏差σよりも小さいセル11のみを用いて蓄電装置1を組み立てるようにしてもよい。
【0027】
また、上述した実施形態では、異常品排除工程S01によって異常品を排除する場合について説明したが、異常品の割合が極めて低い場合等には、異常品排除工程S01を省略してもよい。
【0028】
図5は、本発明の実施形態の変形例に係る蓄電装置の製造方法のフローチャートである。
上記実施形態に係る蓄電装置の製造方法では、回帰直線取得工程S05と、決定係数算出工程S06と、決定係数判定工程S07と、をそれぞれ含む場合について説明した。しかし、蓄電装置の製造方法は、これら回帰直線取得工程S05と、決定係数算出工程S06と、決定係数判定工程S07と、をそれぞれ含むものに限られない。例えば、
図5に示す変形例のように、これら回帰直線取得工程S05と、決定係数算出工程S06と、決定係数判定工程S07と、を含まないようにすることもできる。この場合、組立工程S08では、第一排除工程S04で排除されずに残った複数のセル11を用いて蓄電装置1を組み立てればよい。なお、この実施形態の変形例においても、異常品排除工程S01は、省略してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…蓄電装置 11…セル 12…ケース 13…バスバー 100…サブモジュール L1…回帰直線 S01…異常品排除工程 S02…第一計測工程 S03…平均値算出工程 S04…第一排除工程 S05…回帰直線取得工程 S06…決定係数算出工程 S07…決定係数判定工程 S08…組立工程 S09…第二排除工程