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特開2024-62096回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062096
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240430BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240430BHJP
   G02B 27/02 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
G02B5/18
B29C33/42
G02B27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169874
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳
(72)【発明者】
【氏名】松井 崚
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
4F202
【Fターム(参考)】
2H199CA53
2H199CA67
2H199CA68
2H249AA03
2H249AA13
2H249AA40
2H249AA60
2H249AA62
4F202AF01
4F202AH78
4F202CA09
4F202CA19
4F202CB01
4F202CD02
4F202CD05
4F202CD23
(57)【要約】
【課題】十分な精度を有しながらも効率よく製造できる回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法を提供する。
【解決手段】光透過性を有する基板111と、基板111上に突設されて光透過性を有する複数の畝部112aとを備えた回折光学素子110であって、基板111の隣り合う畝部112aの間に対応する位置に溝部112cが形成され、畝部112bのLERの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)であり、第一の値R1が、2nmであり、第二の値R2が、120nmであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、前記基板上に突設されて光透過性を有する複数の畝部とを備えた回折光学素子であって、
前記基板の隣り合う前記畝部の間に対応する位置に溝部が形成され、
前記畝部のラインエッジラフネスの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)であり、
前記第一の値R1が、2nmであり、
前記第二の値R2が、120nmである
ことを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記第一の値R1が、10nmであり、
前記第二の値R2が、75nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
光透過性を有する基板と、前記基板上に突設されて光透過性を有する複数の畝部とを備えた回折光学素子であって、
前記基板の隣り合う前記畝部の間に対応する位置に溝部が形成され、
前記畝部のラインエッジラフネスの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)である
ことを特徴とする回折光学素子。
ただし、
前記第一の値R1は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が0%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値であり、
前記第二の値R2は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が10%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値である。
【請求項4】
前記第二の値R2は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が1%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値である
ことを特徴とする請求項3に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記光回折効率は、一次光に対する値である
ことを特徴とする請求項3に記載の回折光学素子。
【請求項6】
請求項1に記載の回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、
基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部上に突設された複数の凸部と、隣り合う前記凸部の間に形成される凹部とを備え、
前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmが、前記第一の値R1以上前記第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)であり、
前記第一の値R1が、2nmであり、
前記第二の値R2が、120nmである
ことを特徴とする金型。
【請求項7】
前記第一の値R1が、10nmであり、
前記第二の値R2が、75nmである
ことを特徴とする請求項6に記載の金型。
【請求項8】
請求項3に記載の回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、
基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部上に突設された複数の凸部と、隣り合う前記凸部の間に形成される凹部とを備え、
前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmが、前記第一の値R1以上前記第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)である
ことを特徴とする金型。
【請求項9】
前記第二の値R2は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が1%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値である
ことを特徴とする請求項8に記載の金型。
【請求項10】
請求項6又は8に記載の金型の製造方法であって、
前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmに対応して設定されるサイズの電子線ビームを使用して、金型材料に前記凸部及び前記凹部並びに前記基体部を形成する
ことを特徴とする金型の製造方法。
【請求項11】
前記電子線ビームが、電子線スポットビームである
ことを特徴とする請求項10に記載の金型の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は3に記載の回折光学素子を内蔵している
ことを特徴とする導光板。
【請求項13】
画像表示装置に用いられる
ことを特徴とする請求項12に記載の導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現実世界とディスプレイ表示とを重畳して表示する画像表示装置である拡張現実(AR)用グラスや複合現実(MR)用グラスは、現実世界を視認するための透明なレンズ部を有すると共に、つる部等に実装されたディスプレイの表示を瞳に導く導光板が装着されている。AR用グラスやMR用グラスに装着される導光板は、AR用グラスやMR用グラスの装着性やデザイン性の観点から、小さくて薄く軽量であることが求められている。
【0003】
このような導光板としては、回折光学素子(DOE)を利用したものが知られている。このDOEを利用した導光板は、図15に示すように、光γを導波させる基板2と、光γを基板2内に導く入力格子(IG)3と、光γを拡大する射出瞳拡大格子(EPEG)4と、光γを基板2から外部へ導く出力格子(OG)5とを有している。
【0004】
このような導光板1においては、光γが、入力格子3に入射されると、基板2の内部を進行するように入力格子3で回折されて射出瞳拡大格子4へ案内される。射出瞳拡大格子4に入力した光γは、図16に示すように、波長毎に拡大された後に出力格子5へ案内され、出力格子5から基板2の外部へ出射されるようになっている。
【0005】
このような上記格子3~5等の回折光学素子は、例えば、ナノインプリントを適用して製造することができる。具体的には、例えば、図17に示すように、まず、シリコンや石英等の光透過性を有するリジッドな平板形状の金型材料21を用意して(図17A参照)、これに電子線ビームを照射して目的とする形状のパターンを形成することにより、基体部21a上に凸部21b及び凹部21cを有する金型(原型)20を作製する(図17B参照)。
【0006】
続いて、金型20に形成されたパターンに合わせて熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の押型材料31を金型20に設けて溶融固化させる(図17C参照)。そして、金型20から離型することにより、金型20のパターンを転写した凸部31b及び凹部31cを基体部31a上に有する押型30を作製する(図17D参照)。
【0007】
次に、ガラス等の基板11上に紫外線硬化性樹脂等の樹脂材料12を布設して(図17E参照)、押型31を樹脂材料12に押し付けて押型31のパターンを転写すると共に紫外線照射等により樹脂材料12を固化させる(図17F参照)。そして、押型31を離型することにより(図17G参照)、回折光学素子10を作製することができる。
【0008】
このようにして製造される回折光学素子10は、図18,19に示すように、基板11上の基礎部12a上に複数の畝部12bが設けられると共に、隣り合う畝部12bの間に溝部12cがそれぞれ形成される。そして、回折光学素子10は、入射された光γの方向と異なる方向へ光γを出射することができるように、その材料の屈折率が設定されると共に、ピッチ等の大きさが設定されている。
【0009】
なお、便宜上、基板11に対する畝部12b及び溝部12cの長手方向の向きが、例えば、図18,19に示したように、X軸方向に沿って形成されているものを「0°回折光学素子」と言う。また、Y軸方向に沿って形成されているものを「90°回折光学素子」と言い、それ以外の方向に沿って形成されている傾斜方向のものを「エニーアングル(AA)回折光学素子」と言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-092719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、回折光学素子10の光学特性を向上させるには、例えば、畝部12bと溝部12cとの境界面12baの粗度であるラインエッジラフネス(LER)の向上を図ることが考えられる。そのためには、金型20の凸部21bと凹部21cとの境界面21baの粗度となるラインエッジラフネス(LER)を向上させる必要がある。金型20の凸部21bのLERを向上させるには、凸部21bを形成する電子線ビームのサイズ(直径)を小さくして、精度良く加工する必要がある。
【0012】
しかしながら、電子線ビームのサイズ(直径)を小さくしてしまうと、金型20の凸部21b及び凹部21cの形成に要する時間が多大となってしまい、金型20及び回折光学素子10の製造に手間及びコストが非常にかかってしまう。特に、AA回折光学素子であると、顕著であった。
【0013】
このようなことから、本発明は、十分な精度を有しながらも効率よく製造できる回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した課題を解決するための、第一の発明に係る回折光学素子は、光透過性を有する基板と、前記基板上に突設されて光透過性を有する複数の畝部とを備えた回折光学素子であって、前記基板の隣り合う前記畝部の間に対応する位置に溝部が形成され、前記畝部のラインエッジラフネスの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)であり、前記第一の値R1が、2nmであり、前記第二の値R2が、120nmであることを特徴とする。
【0015】
また、第一の発明に係る回折光学素子は、前記第一の値R1が、10nmであり、前記第二の値R2が、75nmであると、好ましい。
【0016】
そして、前述した課題を解決するための、第二の発明に係る回折光学素子は、光透過性を有する基板と、前記基板上に突設されて光透過性を有する複数の畝部とを備えた回折光学素子であって、前記基板の隣り合う前記畝部の間に対応する位置に溝部が形成され、前記畝部のラインエッジラフネスの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)であることを特徴とする。ただし、前記第一の値R1は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が0%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値であり、前記第二の値R2は、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が10%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値である。
【0017】
また、第二の発明に係る回折光学素子は、前記第二の値R2が、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が1%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値であると、好ましい。
【0018】
また、第二の発明に係る回折光学素子は、前記光回折効率が、一次光に対する値であると、好ましい。
【0019】
そして、第三の発明に係る金型は、第一の発明に係る回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部上に突設された複数の凸部と、隣り合う前記凸部の間に形成される凹部とを備え、前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmが、前記第一の値R1以上前記第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)であり、前記第一の値R1が、2nmであり、前記第二の値R2が、120nmであることを特徴とする。
【0020】
また、第三の発明に係る金型は、前記第一の値R1が、10nmであり、前記第二の値R2が、75nmであると、好ましい。
【0021】
そして、第四の発明に係る金型は、第二の発明に係る回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部上に突設された複数の凸部と、隣り合う前記凸部の間に形成される凹部とを備え、前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmが、前記第一の値R1以上前記第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)であることを特徴とする。
【0022】
また、第四の発明に係る金型は、前記第二の値R2が、前記畝部が基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が1%となる前記畝部のラインエッジラフネスの値であると、好ましい。
【0023】
さらに、第五の発明に係る金型の製造方法は、第三又は第四の発明に係る金型を製造する方法であって、前記凸部のラインエッジラフネスの値Rmに対応して設定されるサイズの電子線ビームを使用して、金型材料に前記凸部及び前記凹部並びに前記基体部を形成することを特徴とする。
【0024】
また、第五の発明に係る金型の製造方法は、前記電子線ビームが、電子線スポットビームであると、好ましい。
【0025】
くわえて、第六の発明に係る導光板は、第一又は第二の発明に係る回折光学素子を内蔵していることを特徴とする。
【0026】
また、第六の発明に係る導光板は、画像表示装置に用いられると、好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る回折光学素子によれば、畝部のラインエッジラフネスの値Rdが、上述した第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)であるので、十分な精度を有しながらも効率よく製造できる。
【0028】
また、本発明に係る金型によれば、凸部のラインエッジラフネスの値Rmが、上述した第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)であるので、十分な精度を有しながらも効率よく製造できる。
【0029】
また、本発明に係る金型の製造方法によれば、凸部のラインエッジラフネスの値Rmに対応して設定されるサイズの電子線ビームを使用して、金型材料に凸部及び凹部並びに基体部を形成するので、十分な精度を有する回折光学素子の金型を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る回折光学素子の主な実施形態の概略構造を表す斜視図である。
図2図1の平面図である。
図3図2のIII-III線断面矢線視図である。
図4】本発明に係る金型の主な実施形態の概略構造を表す斜視図である。
図5図4の平面図である。
図6図5のVI-VI線断面矢線視図である。
図7図4の金型の製造方法及び図1の回折光学素子の製造方法の説明図である。
図8】電子線スポットビームを説明する概略図である。
図9】電子線スポットビームの直径の相違による作用効果の説明図である。
図10】電子線可変成形ビームを説明する概略図である。
図11】回折光学素子の主要部のサイズを説明する一部抽出拡大断面図である。
図12】ラインエッジラフネスのサイズを説明するモデル図である。
図13】回折光学素子の内部へ入射した光を説明するモデル図である。
図14】本発明に係る回折光学素子の実施例におけるラインエッジラフネスと光回折効率との関係を表すグラフである。
図15】導光板の一例の概略構造を説明する斜視図である。
図16図15の導光板の機能を説明するモデル図である。
図17】回折光学素子の製造方法の一例の説明図である。
図18】回折光学素子の一例の概略構造を表す断面図である。
図19図18の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法の実施形態を図面に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではなく、各実施形態でそれぞれ説明している技術的事項を必要に応じて適宜組み合わせることが可能なものである。また、図面においては、理解を容易にするために回折光学素子の概略構成を記載しており、適宜、寸法や縮尺等を実際と変えて記載している場合がある。
【0032】
[主な実施形態]
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法の主な実施形態を図1~9に基づいて以下に説明する。
【0033】
本実施形態に係る回折光学素子は、図1~3に示すように、光透過性を有する無色透明なガラス等からなる基板111上に、光透過性を有する無色透明な樹脂等からなる基礎部112aが敷設されている。基礎部112a上には、光透過性を有する無色透明な樹脂等からなる畝部112bが複数突設されている。隣り合う畝部112bの間には、溝部112cがそれぞれ形成されている。
【0034】
このような本実施形態に係る回折光学素子110においては、畝部112bの長手方向(図1~3中、X軸方向)に沿って短手方向(図1~3中、Y軸方向)と直交する面112baの粗度、すなわち、理想的な直線位置からどの程度凹凸にずれているかを表すラインエッジラフネス(LER)の値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)となっている。
【0035】
上記LERの値Rdは、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した画像を解析する、すなわち、一定の長さ(例えば2μm)にわたって一定の間隔(例えば10nm)ごとにラインエッジの位置を各々測定し、理想的な直線位置からの差をそれぞれ算出し平均値を得ることにより、求めることができる。
【0036】
ここで、第一の値R1は、畝部112bが基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が0%となる畝部112bの面112baのLERの値である。具体的には、第一の値R1は、2nmであり、10nmであると好ましい。また、第二の値R2は、畝部112bが基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合が10%(好ましくは6%、より好ましくは1%)となる畝部112bの面112baのLERの値である。具体的には、第二の値R2は、120nmであり、75nmであると好ましい。
【0037】
上記第二の値R2は、上記光回折効率の低下割合が10%を超える畝部112bの面112baのLERの値になってしまうと、精度が不足してしまい、満足する性能が得られなくなってしまう。
【0038】
なお、畝部112bの「基準形状」とは、LERの値が0.1nmのときの形状である。また、「光回折効率」とは、入射光量に対する回折光量の割合のことである。ここで、回折光量として、+2次回折光の光量や、-1次回折光の光量を適用することも可能であるが、本実施形態では、便宜上、+1次回折の光量を適用している。
【0039】
他方、回折光学素子110の製造に使用する本実施形態に係る金型(原型)は、図4~6に示すように、シリコンや石英等の光透過性を有する平板形状の基体部121a上に、回折光学素子110のパターンに対応した凸部121bが一体的に複数突設されている。隣り合う凸部121bの間には、凹部121cが形成されている。
【0040】
このような本実施形態に係る金型(原型)120においては、凸部121bの長手方向(図4~6中、X軸方向)に沿って短手方向(図4~6中、Y軸方向)と直交する面121baの粗度、すなわち、理想的な直線位置からどの程度凹凸にずれているかを表すラインエッジラフネス(LER)の値Rmが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)となっている。上記LERの値Rmは、前記値Rdの場合と同様にすることにより、求めることができる。
【0041】
この第一の値R1及び第二の値R2は、先に説明した回折光学素子110と同じである。つまり、上記光回折効率の低下割合が10%を超えてしまうと、精度が不足してしまい、満足する性能を得ることができなくなってしまう。
【0042】
このような本実施形態に係る金型120の製造方法及び金型120を使用したナノインプリントによる本実施形態に係る回折光学素子110の製造方法を次に説明する。
【0043】
まず、シリコンや石英等の光透過性を有するリジッドな平板形状の金型材料121を用意して(図7A参照)、これにレンズLを介して光源Sからの電子線ビームである電子線スポットビームBsを照射して(図8参照)、目的とする形状のパターンを形成する。これにより、基体部121a上に凸部121b及び凹部121cを有する金型(原型)120を作製する(図7B参照)。
【0044】
このとき、金型120の凸部121bの面121baのLERの値Rmが第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2)となるように、当該値Rmに基づいて、電子線スポットビームBsは、先端部の大きさ(直径)φが設定されている。具体的には、電子線スポットビームBsの先端部の大きさ(直径)φは、上記値Rmの2倍の大きさ、言い換えると、上記値Rmは、電子線スポットビームBsの先端部の大きさ(直径)φの半分(半径)φ/2の値となっている。
【0045】
続いて、金型120に形成された上述のパターンに合わせて熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の押型材料131を金型120に設けて溶融固化させる(図7C参照)。そして、金型120から離型することにより、金型120のパターンを転写した凸部131b及び凹部131cを基体部131a上に有する押型130を作製する(図7D参照)。このようにして作製された押型130の凸部131bの面131baは、金型120の凸部121bの面121baのLERに対応した面に形成されている。
【0046】
次に、ガラス等の基板111上に紫外線硬化性樹脂等の光透過性を有する樹脂材料(屈折率:1.7~2.2程度)112を布設して(図7E参照)、押型131を樹脂材料112に押し付けて押型131のパターンを転写すると共に紫外線照射等により樹脂材料112を固化させる(図7F参照)。
【0047】
そして、押型131を離型することにより(図7G参照)、回折光学素子110を作製することができる。このようにして作製された回折光学素子110の畝部112bの面112baには、押型130の凸部131bの面131baのLERに対応した面に形成されている。
【0048】
このようにして得られた回折光学素子120を内蔵する導光板は、AR用グラスやMR用グラスに装着され、つる部等に実装されたディスプレイの表示を瞳に導いて、透明なレンズ部から視認された現実世界に合成することができるようになる。
【0049】
このような本実施形態においては、先に説明したように、金型120の凸部121bの面121baのLERの値Rm及び回折光学素子110の畝部112bの面112baのLERの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rm≦R2,R1≦Rd≦R2)となっている。このため、電子線スポットビームBsの先端部のサイズ(直径)φを必要十分に大きくして金型120を製造しても、十分な光学特性を発現し得る回折光学素子110を得ることができる。このことについてもう少し詳しく説明する。
【0050】
金型を製造するにあたっては、電子線スポットビームBsを、図9A,9Bに示すように、矢線方向に沿って一筆書きとなるように、Bs1,Bs2,Bs3,・・・Bs(n-2),Bs(n-1),Bsnといった順で照射することにより、凸部121b及び凹部121cを形成している。このとき、電子スポットビームBsの先端部の大きさ(直径)φを大きくすると、直径φの2乗(φ)の割合で加工時間を短縮することができる。つまり、電子スポットビームBsの直径φを3倍にする、すなわち、図9Aから図9Bにすると、加工時間を1/9にすることができ、加工効率を大幅に向上させることができるのである。
【0051】
このように、電子スポットビームBsの直径φを大きくすると、加工効率を向上させることができる一方、電子スポットビームBsの隙間が大きくなってしまい、加工精度の低下を引き起こし易くなってしまう。そのため、従来は、加工効率を無視して、加工精度の低下を防ぐようにしていた。
【0052】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ね、電子線スポットビームBsの直径φと上記LERとの間に強い相関関係があることを見出した。すなわち、直径φの小さい電子線スポットビームBsで加工すると、LERを小さくすることができ、直径φの大きい電子線スポットビームBsで加工すると、LERが大きくなることを見出し、これに着目することにより、本発明を完成するに至った。
【0053】
つまり、加工精度の低下を実用上問題のない程度にまで許容して、加工効率の向上を図るようにしたのである。具体的には、例えば、直径φが0.1nmの電子スポットビームBsを使用して加工していたときの従来と比べると、直径φが2nmの電子スポットビームBsを使用して加工すると、加工時間を劇的に短縮できる(約1/400)にもかかわらず、光回折効率がほとんど変わらなかったのである(詳細は後述する)。
【0054】
これにより、金型120の凸部121b及び凹部121cの形成に要する時間を大幅に削減することができ、金型120及び回折光学素子110の製造にかかる手間及びコストを大幅に低減することができる。したがって、本実施形態によれば、必要十分な精度を有する金型120及び回折光学素子110を効率よく製造できる。
【0055】
また、回折光学素子110の凸部112bのLERの値Rdが、第一の値R1以上第二の値R2以下(R1≦Rd≦R2)となっている、すなわち、凸部112bの「ゆらぎ」が従来よりも多くなっている。このため、「ゆらぎ」が少ない場合に視認されやすいモアレやムラ等のような外観不良を従来よりも低減することができる。
【0056】
また、電子線スポットビームBsにより円形パターンを並べるように金型120を加工することができるので、傾斜パターンを有するAA回折光学素子用の金型を製造する際の金型材料121の加工を容易に行うことができる。
【0057】
このような本実施形態に係る回折光学素子110及び金型120を利用して得られる導光板は、ディスプレイやデジタルサイネージ等に代表される画像表示装置に広く用いることができ、特にAR用グラスやMR用グラス等のようなヘッドマウントディスプレイ(HMD)やヘッドアップディスプレイ(HUD)といった虚像投影を行う表示装置のライトガイドに利用すると非常に有用なものである。
【0058】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、先端部が円形状の電子線スポットビームBsを金型材料121に照射して金型120を加工するようにしたが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、図10に示すように、光源Sから複数の成形スリットF1,F2及びレンズLを介することにより、先端部を四角形状とした電子線ビームである電子線可変成形ビームBvを金型材料121に照射して金型120を加工することも可能である。
【0059】
しかしながら、前述した実施形態のように、先端部が円形状の電子線スポットビームBsを金型材料121に照射して金型120を加工すると、傾斜パターンを有するAA回折光学素子用の金型の加工を容易に行うことができるようになるので、好ましい。
【実施例0060】
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法の実施例を以下に具体的に説明する。なお、本発明は、具体的に説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
〈光学シミュレーションモデルの構築〉
例として、赤色(波長650nm)の入射光向けにシミュレーションモデルを構築した。回折光学素子の構造モデルは、図6に示すように、ピッチPを600nm、線幅Wを300nm、高さHを300nm、角度θを90°、波長650nmのときの材料屈折率nを2.1251(TiO)とした。また、LERの形状モデルは、図12に示すように、2つの正弦波を互いに逆位相となるように重ね合わせて、周期Tが、振幅Aの4倍(4A)と略同じになるように(T≒4A)、言い換えると、半周期T/2が、振幅Aの2倍(2A)と略同じになるように((T/2)≒2A)、パラメータを調製した。そして、上記構造モデルと上記形状モデルとを重ね合わせることにより、光学シミュレーションモデルを構築した。
【0062】
〈光学シミュレーションモデルの実施〉
シミュレーションソフトとして、米国RSoft Design Group社製「DiffractMOD」を使用し、シミュレーション方法として、厳密結合波理論(RCWA)を適用した。また、図13に示すように、回折光学素子に入射する光γは、基板に対して垂直方向(入射角0°)とし偏光とした。
【0063】
そして、+1次回折した光の回折効率(入射光量に対する回折光量の割合)を求めて、基準形状のときの光回折効率の値D0に対する光回折効率の低下割合を求め、光学特性の評価を行った。くわえて、LERが0.1nmのときの回折光学素子を得るのに必要な金型(原型)の製造にかかる基準時間(従来)に対する、金型(原型)の製造に要する時間の割合(加工効率)の評価を行った。さらに、光学特性の評価と加工効率の評価とを合わせて総合の評価を行った。
【0064】
〈光学シミュレーションの結果〉
上述した結果を下記の表1及び図14に示す。なお、表1中、光学特性の評価において、「◎」は、基準形状と同等(低下割合1%以下)で優秀であることを示し、「△」は、基準形状と比べて遜色がなく(低下割合10%以下)良好であることを示し、「×」は、基準形状よりも大きく劣ってしまい(低下割合10%超)適用不可であることを示している。
【0065】
また、表1中、加工効率の評価において、「◎」は、基準時間よりも極めて短い時間(1/(1×10)以下)で加工することができ、従来よりも優秀であることを示し、「○」は、基準時間よりも非常に短い時間(1/(1×10)以下)で加工することができ、従来よりも非常に良好であることを示し、「△」は、基準時間よりも短い(1/(1×10)以下)時間で加工することができ、従来よりも良好であることを示している。
【0066】
さらに、表1中、総合の評価において、「◎」は、基準(従来)よりも優秀であることを示し、「○」は、基準(従来)よりも良好であることを示し、「×」は、基準(従来)と同等又はそれ以下になってしまい適用不可であることを示している。
【0067】
【表1】
【0068】
表1からわかるように、LERが140nm以上(低下割合10%超)であると、加工効率は優秀になるものの、光学特性が悪く不可となってしまう。
【0069】
これに対し、LERが2nm以上120nm以下(低下割合0%以上10%以下)であると、光学特性及び加工効率共に良好以上となり、総合の評価が良好以上となる。特に、LERが10nm以上75nm以下(低下割合0%以上1%以下)であると、光学特性と加工効率とのバランスに優れ、総合の評価が優秀となった。
【0070】
これらのことにより、本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法は、十分な精度を有しながらも効率よく製造できるので、各種産業において、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
110 回折光学素子
111 基板
112 樹脂材料
112a 基礎部
112b 畝部
112ba 面
112c 溝部
120 金型(原型)
121 金型材料
121a 基体部
121b 凸部
121ba 面
121c 凹部
130 押型
131 押型材料
131a 基体部
131b 凸部
131ba 面
131c 凹部

図1
図2
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