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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062099
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240430BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169879
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川岸 萌
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】北村 匠
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA23
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA11
(57)【要約】
【課題】導電助剤分散性能と耐電位性を併せ持つ分散剤を含み、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用正極を得られるリチウムイオン電池用正極組成物を提供すること。
【解決手段】正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、前記分散剤が、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を必須構成単量体とする縮合重合体であり、前記分散剤の重量平均分子量が、2,500~10,000であり、前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、
前記分散剤が、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を必須構成単量体とする縮合重合体であり、
前記分散剤の重量平均分子量が、2,500~10,000であり、
前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、
前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、
前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、
前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%である
ことを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテルアミン(a3)が、脂肪族ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸(a2)が、炭素数6~16の脂肪族ジカルボン酸である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項4】
前記分散剤における前記ポリエーテルアミン(a3)単位の含有量が、不飽和脂肪酸(a1)単位、ジカルボン酸(a2)単位及びポリエーテルアミン(a3)単位の合計モル数を基準として40~50モル%である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項5】
前記分散剤における前記不飽和脂肪酸(a1)単位のモル数(x)と、前記ジカルボン酸(a2)単位のモル数(y)が、x≦yである請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。これらの更なる普及のためにも二次電池の高容量化、高出力化が求められており様々な技術の適用が試みられている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極活物質として使用されるリチウム系酸化物は一般に電子伝導性が低く、電極(正極)の電子伝導性を補うためにカーボンブラック等の導電助剤が使用される。リチウムイオン電池を高容量化するには、電極における正極活物質の割合を増やす必要があり、導電助剤の使用量は少ない方が好ましい。導電助剤の分散性が良好であれば、少ない導電助剤量でも良好な導電パスを形成し、電池の性能を向上できるだけでなく、電極スラリー作成時の溶剤量低減につながり、環境負荷・製造コストを低減することが出来る。このため、導電助剤の分散性を向上させるための分散剤の検討がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリマー系分散剤としてメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが使用されている。しかし、これらの分散剤、特にポリビニルピロリドンは、正極電位域(3~5V)においてそれ自身が分解反応を起こし、電池性能を低下させてしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-63854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、導電助剤分散性能と耐電位性を併せ持つ分散剤を含み、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用正極を得られるリチウムイオン電池用正極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、前記分散剤が、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を必須構成単量体とする縮合重合体であり、前記分散剤の重量平均分子量が、2,500~10,000であり、前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電助剤分散性能と耐電位性を併せ持つ分散剤を含み、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用正極を得られるリチウムイオン電池用正極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物である。
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、正極活物質を含む。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物はバインダー樹脂を含む。
バインダー樹脂としては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、導電助剤を含む。導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に制限はない。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアセチレンブラックが好ましい。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、分散剤を含む。
前記分散剤は、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を必須構成単量体とする縮合重合体である。
前記不飽和脂肪酸(a1)としては、炭素数8~24の一価又は多価の不飽和脂肪酸であることが好ましい。前記不飽和脂肪酸(a1)の炭素数が8~24であると、有機溶媒との溶媒和が生じやすく、かつ前記ポリエーテルアミンとの反応性が良好である。
前記不飽和脂肪酸(a1)として具体的には、パルミトイル酸、オレイン酸、リノール酸及びアラキドン酸等が挙げられる。なかでも正極組成物の流動性の観点から、オレイン酸及びリノール酸が好ましい。
【0013】
前記ジカルボン酸(a2)としては、炭素数6~16の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。なお、前記炭素数にはカルボン酸の炭素を含まないものとする。前記ジカルボン酸(a2)が炭素数6~16の脂肪族ジカルボン酸であると、前記ポリエーテルアミンとの反応性および分散剤の親疎水性バランスが向上する。
具体的には、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも分散性の観点から、スベリン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸が好ましい。
【0014】
前記ポリエーテルアミン(a3)としては、脂肪族ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物であることが好ましい。
脂肪族ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。導電助剤表面への吸着性の観点から、ジエチレントリアミンが好ましい。
アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。分散剤の有機溶媒への親和性の観点から、プロピレンオキサイドが好ましい。
前記脂肪族ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物のアルキレンオキサイドの付加モル数は、分散剤の有機溶媒への親和性および鎖状構造の立体障害による分散安定性の観点から、好ましくは10~40モルである。
【0015】
前記分散剤における前記ポリエーテルアミン(a3)単位の含有量は、不飽和脂肪酸(a1)単位、ジカルボン酸(a2)単位及びポリエーテルアミン(a3)単位の合計モル数を基準として40~50モル%であることが好ましい。前記ポリエーテルアミン(a3)単位の含有量がこの範囲であると導電助剤への吸着性が十分であり、かつ有機溶媒への親和性が良好な分散剤が得られる。
【0016】
同じく導電助剤への吸着性及び有機溶媒への親和性の観点から、前記分散剤における前記ポリエーテルアミン(a1)単位の含有量は、不飽和脂肪酸(a1)単位、ジカルボン酸(a2)単位及びポリエーテルアミン(a3)単位の合計モル数を基準として9~30モル%であることが好ましく、前記分散剤における前記ポリエーテルアミン(a2)単位の含有量は、不飽和脂肪酸(a1)単位、ジカルボン酸(a2)単位及びポリエーテルアミン(a3)単位の合計モル数を基準として25~45モル%であることが好ましい。
また、前記分散剤における前記不飽和脂肪酸(a1)単位のモル数(x)と、前記ジカルボン酸(a2)単位のモル数(y)が、x≦yであることがより好ましい。
【0017】
前記分散剤の重量平均分子量が2,500~10,000である。
前記分散剤の重量平均分子量が2,500未満であると導電助剤の分散性能が悪化する。また、前記分散剤の重量平均分子量が10,000を超えると副反応が生じ電池性能に悪影響を与えることがある。
前記分散剤の重量平均分子量は分散性能と副反応抑制の両立の観点から、好ましくは3,000~9,600である。
【0018】
前記分散剤の重量平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。なお、試料となる縮合重合体をオルトジクロロベンゼン、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解して0.25重量%の溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:Alliance GPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレンサンプル
濃度:3mg/ml
カラム固定相:PL gel 10um,MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0019】
前記ポリエーテルアミン(a3)を製造する方法に制限はなく、例えば特開2013-221088号公報に記載の方法で製造することができる。
【0020】
前記分散剤を製造する方法に制限はなく、公知の方法で製造することができる。
例えば、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を含む成分を不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150~280℃、より好ましくは160~250℃、さらに好ましくは170~235℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、より好ましくは2~40時間である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物であり、前記正極活物質の重量割合は、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%である。前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78重量%未満であると得られる電池の容量が少なくなり、97重量%を超えると得られる電極の導電性が悪化する。前記正極活物質の重量割合は、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として89~97重量%であることが好ましい。
なお、「リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量」とは、後述する有機溶媒等の揮発成分を除いた材料の重量(正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤、及び、分散剤等の重量の合計値)を意味する。
【0022】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物において、前記バインダー樹脂の重量割合は、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%である。前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1重量%未満であると得られる電極の強度が不足し、20重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物において、前記導電助剤の重量割合は、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%である。前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、5重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。
【0024】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物において、前記分散剤の重量割合は、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%である。前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、20重量%を超えると副反応が生じ電池性能に悪影響を与えることがある。
【0025】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0026】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0027】
本開示(1)は、正極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、
前記分散剤が、不飽和脂肪酸(a1)、ジカルボン酸(a2)及びポリエーテルアミン(a3)を必須構成単量体とする縮合重合体であり、前記分散剤の重量平均分子量が、2,500~10,000であり、前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として78~97重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~20重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の固形分重量を基準として1~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として2~20重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0028】
本開示(2)は、前記ポリエーテルアミン(a3)が、脂肪族ポリアミンのアルキレンオキサイド付加物である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0029】
本開示(3)は、前記ジカルボン酸(a2)が、炭素数6~16の脂肪族ジカルボン酸である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0030】
本開示(4)は、前記分散剤における前記ポリエーテルアミン(a3)単位の含有量が、不飽和脂肪酸(a1)単位、ジカルボン酸(a2)単位及びポリエーテルアミン(a3)単位の合計モル数を基準として40~50モル%である本開示(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0031】
本開示(5)は、前記分散剤における前記不飽和脂肪酸(a1)単位のモル数(x)と、前記ジカルボン酸(a2)単位のモル数(y)が、x≦yである本開示(1)~(4)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【実施例0032】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0033】
(ポリエーテルアミン(a3-1)の合成)
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、ジエチレントリアミン103重量部(1モル部)及びメチルイソブチルケトン400重量部(4モル部)を投入し、窒素気流下90℃で2時間攪拌した後に、-0.1MPaGで未反応のメチルイソブチルケトン及び生成した水を除去することにより、ケチミン化反応を完結させた。ついで、140℃まで昇温した後、攪拌下PO58重量部(1モル部)を圧力が0.5MPaG以下になるように調整しながら1時間かけて滴下し、同温で3時間熟成した。熟成後、90℃まで冷却し、水酸化カリウム5部を投入し、90℃で1時間減圧脱水を行った。140℃まで昇温した後、攪拌下PO522重量部(9モル部)を圧力が0.5MPaG以下になるように調整しながら8時間かけて滴下し、同温で6時間熟成した。90℃に冷却後、酢酸4.5重量部及び水150重量部投入し、90℃で2時間攪拌した後に、-0.1MPaGで生成したメチルイソブチルケトン及び過剰の水を除去し、ポリエーテルアミン(a3-1)を得た。
【0034】
(製造例1:分散剤1の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、セバシン酸40.5重量部(0.2モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)204重量部(0.3モル部)を、脱湿管付還流器を付けた1Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下で脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤1を得た。
【0035】
(製造例2:分散剤2の製造)
リノール酸56.1重量部(0.2モル部)、セバシン酸40.5重量部(0.2モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)204部(0.3モル部)を、脱湿管付還流器を付けた1Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤2を得た。
【0036】
(製造例3:分散剤3の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、1,10-デカンジカルボン酸92.1重量部(0.4モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)340重量部(0.5モル部)を、脱湿管付還流器を付けた1Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤3を得た。
【0037】
(製造例4:分散剤4の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、セバシン酸101重量部(0.5モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)408重量部(0.6モル部)を、脱湿管付還流器を付けた2Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤4を得た。
【0038】
(製造例5:分散剤5の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、1,9-ノナンジカルボン酸130重量部(0.6モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)476重量部(0.7モル部)を、脱湿管付還流器を付けた2Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤5を得た。
【0039】
(製造例6:分散剤6の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、1,12-ドデカンジカルボン酸207重量部(0.8モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)612重量部(0.9モル部)を、脱湿管付還流器を付けた2Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤6を得た。
【0040】
(製造例7:分散剤7の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、1,14-テトラデカンジカルボン酸258重量部(0.9モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)680重量部(1モル部)を、脱湿管付還流器を付けた2Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤7を得た。
【0041】
(製造例8:分散剤8の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、スベリン酸17.4重量部(0.1モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)136重量部(0.2モル部)を、脱湿管付還流器を付けた1Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤8を得た。
【0042】
(製造例9:分散剤9の製造)
オレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、セバシン酸20.2重量部(0.1モル部)、ポリエーテルアミン(a3-1)136重量部(0.2モル部)を、脱湿管付還流器を付けた1Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ昇温し、次いで150℃にて30mmHgの減圧下に脱水しつつ反応を行った。留出する水がなくなるのを確認した上で反応を終了し、分散剤9を得た。
【0043】
(製造例10:分散剤10の製造)
ジエタノールアミン(a3’-1)10.5部(0.1部)を500mLの三つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にて攪拌しつつオレイン酸28.2重量部(0.1モル部)を投入し、温度110℃、300mmHgの減圧下にて3時間アミド化を行った。その後圧力を50mmHgまで減圧し、脱メタノール反応を行い、分散剤10を得た。
【0044】
(製造例11:分散剤11の製造)
脱湿管付還流器を付けた200mLの二口フラスコにオレイン酸56.4重量部(0.2モル部)、セバシン酸18.2重量部(0.9モル部)、エチレンジアミン(a3’-2)60.1量部(1モル部)をそれぞれ脱水エタノール15mLに溶解して混和し、窒素雰囲気下にて攪拌しつつ6時間反応させて分散剤11を得た。
【0045】
<重量平均分子量の測定>
分散剤1~11及びポリビニルピロリドン(分散剤12)につき、本明細書に記載の方法により重量平均分子量(Mw)を測定し、結果を表1及び2に示した。
【0046】
<分散性評価:導電助剤スラリー>
分散剤1~11及びポリビニルピロリドン(分散剤12)をそれぞれ、後に加える導電助剤に対して5重量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に添加し、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}による撹拌を2000rpmで2分間行い、分散剤をNMPに溶解した。更に固形分濃度が50%になるようにアセチレンブラック(AB:商品名「デンカブラックLi100」デンカ(株)製)を追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで4分間行い、導電助剤スラリーを作製した。
比較対象として、分散剤を加えずに作製した導電助剤スラリーも準備した。
上記導電助剤スラリーの粘度を、レオメーター「MCR302」(Anton Paar社製)を用いて、コーンプレートCP25、せん断速度0.1~100s-1、25℃の条件で測定し、せん断速度10s-1における粘度を測定した。結果を表1及び2に示した。
【0047】
<耐電位性評価:サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定>
(電解液の作製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=1:1で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPFを1mol/Lの割合で溶解させて電解液を作製した。
【0048】
(評価用セルの作製)
分散剤1~11及びポリビニルピロリドン(分散剤12)をそれぞれ、前記電解液に10重量%の濃度で溶解させて、耐電位性評価用電解液を作製した。
正極側から、カーボンコートアルミ箔(商品名「カーボンコートアルミ箔」、東洋アルミニウム(株)製)、ステンレス箔(4.0cm)[商品名「ステンレス箔 SUS304(厚み0.05mm)」、アズワン株式会社製]、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、リチウム金属箔(4.0cm)(商品名「リチウムフォイル(厚み0.5mm)」、本城金属(株))製)、銅箔をこの順に重ね合わせ、セル内部に上記耐電位性評価用電解液を60μL注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、評価用セルを作製した。
【0049】
作製した評価用セルを用い、電位領域3~4.5V(vs.Li/Li+)、電位掃引速度10mV/sでサイクリックボルタンメトリー測定を行い、電流変化を測定した。分散剤の分解反応が起きると、上記電位領域において観測される電流値が増加する。
分散剤の分解量の大きさを判断するため、以下の計算式でポリビニルピロリドン(分散剤12)に対する相対的な酸化電流値を算出した。この値が小さいほど、分散剤の分解量が少ないことを意味する。結果を表1及び2に記した。
(相対酸化電流値)=(分散剤1~11をそれぞれ含む評価用セルのCV測定において、4.5V時点で流れた電流値)/(分散剤12を含む評価用セルのCV測定において、4.5V時点で流れた電流値)
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
(リチウムイオン電池用正極組成物の作製)
分散剤1~12それぞれと、バインダー樹脂(ポリフッ化ビニリデン(表3及び4中では「PVdF」と表記)、キシダ化学製)及びNMPを表3及び4に記載の配合量に従って秤量し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで4分間行い、バインダー樹脂及び分散剤を完全に溶解した。ついで、正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末:商品名「HED NCA 7050」BTBM製)及び導電助剤(アセチレンブラック(AB:商品名「デンカブラックLi100」デンカ(株)製、又は、カーボンナノチューブ(CNT:商品名「NC7000」Nanocyl社製)を表3及び4に記載の配合量で追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで4分間行い、リチウムイオン電池用正極組成物を作製した。
なお、表3、表4に記載の各材料の配合量は、リチウムイオン電池用正極組成物の固形分を基準とした重量(重量%)で示した。
【0053】
<分散性評価:リチウムイオン電池用正極組成物>
上記リチウムイオン電池用正極組成物の粘度を、レオメーター「MCR302」(Anton Paar社製)を用いて、コーンプレートCP25、せん断速度0.1~100s-1、25℃の条件で測定し、せん断速度10s-1における粘度を測定した。結果を表3及び4に示した。
【0054】
(充放電試験用電池の作製)
前記リチウムイオン電池用正極組成物を、大気中でワイヤーバーを用いて集電体(カーボンコートアルミ箔[商品名「カーボンコートアルミ箔」]、東洋アルミニウム(株)製)の片面に塗布し、一晩予備乾燥させた後、15mmφに打ち抜き、更に減圧下(1.3kPa)、120℃で4時間乾燥して、プレス機で狙いの電極密度(電極厚み)までプレスして評価用正極を作製した。
正極側から、前記正極、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、リチウム箔をこの順に重ね合わせ、前記電解液を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、充放電試験用電池を作製した。
【0055】
<充放電試験>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法により作製した充放電試験用電池の初回性能の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電した後4.2Vを維持した状態で電流値が0.0025Cになるまで充電した。10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
以下の式で初回クーロン効率を算出し、結果を表3及び4に示した。
初回クーロン効率(%)=[初回放電容量]/[初回充電容量]×100
【0056】
また、放電開始及び10秒経過時の電圧から、以下の式で電気抵抗値(10sDCR)を算出した。
10sDCR(Ω・cm)=([放電開始前の電圧(V)]-[放電開始後10秒経過時の電圧(V)])/[放電時電流値(A)]×1.77(1.77cm
【0057】
上記充放電を10回繰り返した。この時の初回充電時の電池容量(初期放電容量)と10サイクル目充電時の電池容量(10サイクル後放電容量)を用いて、下記式から放電容量維持率を算出した。結果を表3及び4に示す。なお、数値が大きいほど、電池の劣化が少ないことを示す。
放電容量維持率(%)=[10サイクル目の放電容量]/ [1サイクル目の放電容量]×100
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物から得られるリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。