(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062104
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】流体の電気加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20240430BHJP
F24H 1/10 20220101ALI20240430BHJP
【FI】
H05B6/10 371
F24H1/10 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169885
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 まどか
(72)【発明者】
【氏名】廣田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】末松 芳章
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AA16
3K059AB23
3K059AB28
3K059AD03
3K059AD10
3K059AD32
3K059CD53
3K059CD72
(57)【要約】
【課題】流体の電気加熱による加熱効率の高効率化、加熱装置の小型化と大容量化との両立、及び安全運転を可能にする、流体の電気加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明は、環状トランス24の巻数1の二次巻線30の巻き方向の一部が、内部に被加熱流体が流れる加熱管12の複数本が並行して集合した加熱部10で形成される、流体の電気加熱装置であって、加熱部10をなす加熱管12の各々の両端部には、被加熱流体を供給し且つ排出させる流体給排手段40が接続され、加熱部10は、環状トランス24の鉄心間口26を貫通するように配置され、加熱部10をなす加熱管12の各々は、鉄心間口の外側両端部で片側ずつ管端部短絡電極32により電気的に接続され、二次巻線30の巻き方向の残部は、2つの管端部短絡電極32の一方から他方まで延びる二次閉回路形成導体34により形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状トランスの巻数が1の二次巻線の巻き方向の一部が、内部に被加熱流体が流れる加熱管の複数本が並行して集合した加熱部で形成される、流体の電気加熱装置であって、
前記加熱部をなす前記加熱管の各々の両端部には、前記被加熱流体を供給し且つ排出させる流体給排手段が接続され、
前記加熱部は、前記環状トランスの鉄心間口を貫通するように配置され、
前記加熱部をなす前記加熱管の各々は、前記環状トランスの前記鉄心間口の外側両端部で片側ずつ管端部短絡電極により電気的に接続され、
前記二次巻線の巻き方向の残部は、2つの前記管端部短絡電極の一方から他方まで延びる二次閉回路形成導体により形成される、流体の電気加熱装置。
【請求項2】
前記流体給排手段が、流体供給ヘッダーおよび流体排出ヘッダーを備え、さらに前記加熱管の少なくとも一方の端部に、前記加熱管の熱膨張または熱収縮を吸収する伸縮器を備える、請求項1に記載の流体の電気加熱装置。
【請求項3】
前記加熱部と前記環状トランスとの間に断熱材が配設される、請求項1または請求項2に記載の流体の電気加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の電気加熱装置に関し、詳しくは高い加熱効率を有して小型化可能な流体の電気加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策のために、エネルギー効率の高効率化や二酸化炭素排出量の少ない燃料への転換が進められている。大規模で大容量の流体の加熱装置の分野では、従来より、種々なものが使用されており、数百度というような高温加熱を行うには、通常、燃焼ガスを利用したボイラ等の加熱装置が使用されている。しかし、燃焼ガスを使用するボイラ等の加熱装置は、設備が大型化するだけでなく、加熱効率が高効率のものでも35%程度と高効率化に限界があるという問題がある。
【0003】
このような加熱設備の小型化および加熱効率の効率化のいずれの問題に対しても、大電力を限られた空間に投入できる電気加熱手段が有利であるといえる。例えば、特許文献1には、
図3の(a)縦断面図(ただし、発熱体62は、横断面図での記載より単純化して2本のみを記載)と(b)横断面図とで示すような、誘導加熱による流体の電気加熱装置60が開示されている。具体的には、発熱体62は、例えばSUS304からなる非磁性管62aおよび例えばSUS430からなる磁性体としての磁性管62bによって構成される。非磁性管62aの両端は、管支え板64、66で固定支持される。また、発熱体62の外側周囲には、図示しない交流電源に接続された誘導加熱コイル72が配設される。この誘導加熱コイル72は、円筒形状の内側断熱材68と外側断熱材70との間に介在し、内側断熱材68の両端が、管支え板64、66に固定支持されることにより、位置決めされる。管支え板64、66には、それぞれ流体入口ヘッダー74、流体出口ヘッダー76が設けられ、気体または液体の被加熱流体(矢印A)は、流体入口ヘッダー74から非磁性管62aを通って加熱されて流体出口ヘッダー76へと導かれる。
【0004】
特許文献1に記載の発明では、磁性管62bは、被加熱流体(矢印A)が流れる非磁性管62aの外周面に接触しており、誘導加熱により磁性管62bにおいて生じた熱は磁性管62bから非磁性管62aに、非磁性管62aから被加熱流体に熱伝導している。そのため、非磁性管62aに比べ耐食性に劣る磁性管62bに被加熱流体が接触することがなく、耐食性が向上するとする。また、複数の発熱体62を、互いに平行に、且つ、誘導加熱コイル72内で互いに略均等間隔をもって分布して配置することで、流体の電気加熱装置60の大型化を抑えながら、有効に被加熱流体を加熱することもできるとする。
【0005】
ただし、特許文献1に記載のようなソレノイドコイル状の誘導加熱コイル72の内側の発熱体62(磁性管62b)を加熱する場合には、次のような理由により、その加熱効率を向上させるには、限界があった。これは、誘導加熱コイル72により生じる磁束を、誘導加熱コイル内の発熱体(導体)に全て通すことは難しいからである。このような効率低下の要因を、
図3(b)を参照しながら具体的に説明すると次のとおりである。
(ア)誘導加熱コイル72で発生した磁束は、誘導加熱コイル72の内側では、誘導加熱コイル72に近接した発熱体62の表層を貫通して誘導電流を起こすが、磁束の性質上、加熱に寄与する発熱体62の部位は誘導加熱コイル72側の半周程度に限られる。
(イ)一方、誘導加熱コイル72の内側の発熱体62のうち、外側の発熱体62は、誘導加熱コイル72と反対の面側が、また中心側の発熱体62は全体的に、誘導加熱コイル72から離れているために、有効な磁束の貫通量が少なく、有効な加熱がし難いと推測される。
(ウ)さらに、誘導加熱コイル72の外側の磁束は自由に放射されるため、発熱体62以外の周囲の金属を貫通する磁束も相当程度多い。
【0006】
特許文献2には、このようなソレノイドコイル状の誘導加熱コイルでの磁束の漏洩の問題が生じがたい流体の電気加熱装置として、
図4(a)の断面図および同図(b)の一部切開平面図で示すような、変圧器を利用した流体の電気加熱装置80が開示されている。ここでの変圧器は、鉄心84と、電気絶縁物86を介して鉄心(中央脚)周りにらせん状に巻き回される一次巻線82と、内部に被加熱流体を流通させる導電性パイプ88が鉄心周りに螺旋状に巻き回され短絡片92で短絡された一巻き相当の二次巻線と、からなる。なお、導電性パイプ88は、内外周を熱絶縁保温材90によって覆われる。このような流体の電気加熱装置80では、一次巻線82に交流電力が供給されると、二次巻線である導電性パイプ88には一次巻線82との巻数比に応じた電圧が誘起され、これに基づく誘導電流によるジュール熱により、内部を流通する被加熱流体が加熱される。この場合、磁気回路は鉄心によって形成されるので、一次巻線と二次巻線の磁気結合が良好に保たれ、漏洩リアクタンスが少なく、二次巻線としての導電性パイプ88中を貫通する有効磁束を増大させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-134041号公報
【特許文献2】特開昭56-127139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、変圧器の二次巻線となる導電性パイプ88の内部に設けられる被加熱流体の流路は小断面で1つのみであり、大規模で大容量の流体加熱の用途では、流体流量の増大の要請に応えられないという問題がある。また、同文献に記載の発明では、変圧器の二次巻線としては短絡されて一巻き相当となるが、流体流路としては螺旋状に多数巻きされたままのため流体流路の圧損は大きくならざるを得ず、加熱処理できる流体流量の増大には限界があるという問題がある。さらに、同文献に記載の発明では、導電性パイプ88は、巻数が1の二次巻線とするために短絡片が溶接されることから、加熱管としての熱変形が拘束されやすく熱疲労によるパイプ破断の危険性を孕むため、加熱可能な温度領域を広くできないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、流体の電気加熱による加熱効率の高効率化、加熱装置の小型化と大容量化との両立、および安全運転を可能にする、流体の電気加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]環状トランスの巻数が1の二次巻線の巻き方向の一部が、内部に被加熱流体が流れる加熱管の複数本が並行して集合した加熱部で形成される、流体の電気加熱装置であって、
前記加熱部をなす前記加熱管の各々の両端部には、前記被加熱流体を供給し且つ排出させる流体給排手段が接続され、
前記加熱部は、前記環状トランスの鉄心間口を貫通するように配置され、
前記加熱部をなす前記加熱管の各々は、前記環状トランスの前記鉄心間口の外側両端部で片側ずつ管端部短絡電極により電気的に接続され、
前記二次巻線の巻き方向の残部は、2つの前記管端部短絡電極の一方から他方まで延びる二次閉回路形成導体により形成される、流体の電気加熱装置。
【0011】
[2]前記流体給排手段が、流体供給ヘッダーおよび流体排出ヘッダーを備え、さらに前記加熱管の少なくとも一方の端部に、前記加熱管の熱膨張または熱収縮を吸収する伸縮器を備える、[1]に記載の流体の電気加熱装置。
[3]前記加熱部と前記環状トランスとの間に断熱材が配設される、[1]または[2]に記載の流体の電気加熱装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流体の電気加熱装置によれば、トランスを用いた二次巻線側では漏洩磁束の問題がなく高効率で一次巻き線の巻き数倍の大電流を誘起可能であることから、環状トランスの鉄心間口内に配設される多数の加熱管に直接大電流を流すことが可能になる。誘起された大電流は、環状トランスの鉄心間口外で導体と接続することで閉回路が形成され、加熱管を高温にすることができる。本発明によると、被加熱流体が流れる加熱管を環状トランスの鉄心に巻き付ける必要がなく、圧損増大を招く湾曲部の回避、および、二次巻線断面に限定されない流路断面の拡大を可能とし、被加熱流体の大容量化を容易に達成することができる。また、加熱回路の特性から、負荷側である加熱管両端の電位は大電力通電をしても低電圧にでき、安全な操業が可能となる。以上のとおり、本発明によれば、流体の電気加熱による加熱効率の高効率化、加熱装置の小型化と大容量化の両立、および安全運転を可能にする、流体の電気加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る流体の電気加熱装置を斜視図で模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る流体の電気加熱装置の電力供給部の回路装置構成を示す図である。
【
図3】従来技術に係る流体の電気加熱装置を、(a)縦断面図と(b)横断面図とで示す図である。
【
図4】従来技術に係る別の流体の電気加熱装置を、(a)断面図と(b)一部切開平面図で模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、実施の形態1に係る流体の電気加熱装置1を模式的に示す斜視図であり、
図2は、実施の形態1に係る流体の電気加熱装置1の電力供給部20の回路を示す図である。
図1、
図2を参照して、実施の形態1に係る流体の電気加熱装置1について説明する。
【0016】
図1、
図2に示すように、実施の形態1に係る流体の電気加熱装置1では、環状トランス24の巻数が1の二次巻線の巻き方向の一部が、内部に被加熱流体が流れる加熱管12の複数本が並行して集合した加熱部10で形成される。加熱部10をなす加熱管12の各々の両端部には、被加熱流体を供給し且つ排出させる流体給排手段40が接続される。加熱部10は、環状トランス24の鉄心間口26を貫通するように配置される。加熱部10をなす加熱管12の各々は、両端部で片側ずつ管端部短絡電極32により電気的に接続される。二次巻線の巻き方向の残部は、管端部短絡電極32と、2つの管端部短絡電極32の一方から他方まで延びる二次閉回路形成導体34とにより形成される。このようにして、環状トランス24の巻数が1の二次巻線は、加熱部10をなす加熱管12と、管端部短絡電極32と、二次閉回路形成導体34とからなる二次閉回路30により形成される。本実施形態に係る流体の電気加熱装置1では、加熱管12の内部を流れる被加熱流体は、二次閉回路(二次巻線)30を流れる二次電流により通電加熱されて昇温した加熱管12の管壁から、加熱される。なお、二次閉回路(二次巻線)30の一部の加熱部10に電力を供給する電力供給部20は、次のように構成される。すなわち、電力供給部20は、環状トランス24、一次巻線28、一次巻線28に接続される交流電源22、ならびに、二次閉回路(二次巻線)30の残部の管端部短絡電極32および二次閉回路形成導体(加熱部10または加熱管12を除く)、等を備えている。
【0017】
加熱部10をなす加熱管12は、導電性を有し、被加熱流体の加熱温度に耐える耐熱性および耐食性を有し、加熱管に成形できるものである等の要件を満たすものであれば特にその素材は限定されない。このような要件を満たす好ましい素材として、例えば、公知のCr合金鋼(炭素鋼に1質量%前後のCrが添加された合金鋼、および、さらに高合金のCr系ステンレス鋼、等)がある。また他の合金鋼として、Cr-Ni合金鋼(炭素鋼に0.2~1.0質量%程度のCr、および、1.0~3.5質量%程度のNiが添加された合金鋼、ならびに、さらに高合金のCr-Ni系ステンレス鋼、等)が例示できる。さらに、特に1000℃超での使用に耐える、人造黒鉛、または導電性セラミックスが例示できる。これらの材質は、比較的固有抵抗が大きいので、発熱管として好ましい材質である。導電性セラミックスとしては、公知のSiC、TiC、またはTiN等の導電性セラミックスを採用すればよい。その他、被加熱流体や設置場所等によっては、必要に応じて公知のタングステン、モリブデン等の高融点金属またはこれらの合金を用いてもよい。なお、加熱管12の内径は、例えば化学反応用途での加熱の場合で2~3mm程度、気体加熱用途で10mm程度である。
【0018】
流体給排手段40は、複数の加熱管12への被加熱流体の供給と、複数の加熱管12からの被加熱流体の排出を安定的に行うために、公知の流体供給ヘッダー44および流体排出ヘッダー46を備えるのが好ましい。また、流体供給ヘッダー44および流体排出ヘッダー46と、通電される加熱管12とは、電気的絶縁を確保して被加熱流体を流通させるために、低温側であれば、樹脂やゴムなどを介した接続等、公知の絶縁継手等の絶縁手段48を介して接続するのが好ましい。また、高温側であれば、公知の絶縁継手等の絶縁手段48として、例えば、絶縁性のセラミックス等からなるパッキンおよびボルト・ナット等を用いた接続等、が例示できる。さらに、加熱管12は、加熱条件に応じて熱膨張または熱収縮するため、このような熱膨張または熱収縮を吸収する手段を備えるのが好ましい。そのための簡便な手段としては、例えば、加熱管12と流体供給ヘッダー44とを固定し、加熱管12と流体排出ヘッダー46とは固定しない方法で、熱により加熱管の伸縮を吸収するようにすればよい。好ましくは、公知の伸縮器を、加熱管12の少なくとも一方の端部に備えるのがよい。公知の伸縮器としては、耐熱性を有する金属製で、かつ気密性も有するベローズ型伸縮継手を例示できる。なお、流体供給ヘッダー44および流体排出ヘッダー46には、それぞれ被加熱流体を供給し、また排出させる配管42がそれぞれ接続される。また、
図1で示した、被加熱流体の流通方向は一例であり、本実施形態に係る流体の電気加熱装置1では、適用先の条件に合わせてこれらの方向を変更することができる。
【0019】
本実施形態では、二次巻線の巻数N2を1とするとともに、加熱部10を二次巻線の一部とし、さらに管端部短絡電極32と二次閉回路形成導体34とを加えて二次閉回路(二次巻線)30とする。これにより、次に説明するとおり、トランスを用いた低電圧かつ高電流の通電加熱を実現している。
【0020】
すなわち、
図2に示すような回路においては、一次電圧をV
1、一次電流をI
1、一次巻線28の巻数をN
1、二次電圧をV
2、二次電流をI
2、二次閉回路(二次巻線)30の巻数をN
2とすると、これらには一般的に次の(1)式の関係が成り立つ。
N
1/N
2=V
1/V
2=I
2/I
1 ・・・(1)
本実施形態では、二次閉回路30が二次巻線に相当し、N
2=1とするトランスを構成するため、二次電圧V
2、二次電流I
2、は、それぞれ次の(2)式、(3)式のように表される。
V
2=V
1/N
1 ・・・(2)
I
2=N
1×I
1 ・・・(3)
ここで、トランス内の二次閉回路(二次巻線)30のうち加熱部10以外に発生する発生電圧E
2について検討する。この発生電圧E
2は、加熱部10の全負荷抵抗をR、残りの二次閉回路(二次巻線)30の導体の抵抗をrとすると、(4)式の様に表され、効率ηはおおむね(5)式で表現される。
E
2=V
2-I
2×R=I
2×r ・・・(4)
η=R/(R+r) ・・・(5)
上記の(4)式、(5)式より、加熱負荷の加熱部10の抵抗Rを大きくし、二次閉回路(二次巻線)30の導体の抵抗rを小さくすれば、加熱部10を含むトランスの外部の二次閉回路形成導体34に現れる電圧は極めて小さく、効率を大きくすることができる。ここでの導体には、通常銅が用いられるが、その抵抗rは極めて小さく設計できるため、外部の発生電圧E
2は、10000Aを超えるような大電流を流しても高々数Vにすることができる。
【0021】
本実施形態では、大電力通電時であっても、低電圧通電加熱ができるため、スパーク発生等のトラブルや、他設備への電気的なトラブル、感電等を有利に回避できることから、可燃性の被加熱流体の加熱であっても有利に用いることができる。このように、本実施形態のトランスを用いた通電加熱では、誘導加熱のような磁束を有効に利用できないことによる加熱効率の低下の問題は殆どない点で有利である。また、用いる加熱周波数帯は、通常の誘導加熱の場合の1kHz~400kHzより遥かに低い商用電源周波数(国内では50Hzまたは60Hz)でもよい。本実施形態では、エネルギー変換効率の高いトランスを用い、二次閉回路で電力をほぼ消費することができるため、高い加熱効率を得ることができる。
【0022】
また、本実施形態では、加熱部10を、環状トランス24の鉄心間口26に貫通させるように配設することにより、電気加熱装置を小型化することができる。なお、
図1で示した、加熱部10をなす加熱管12の軸方向、および環状トランス24の間口26の軸方向は上下方向であるが、これは一例であり、本実施形態に係る流体の電気加熱装置1では、適用先の条件に合わせてこれらの方向を変更することができる。
【0023】
本実施形態では、被加熱流体の少なくとも温度および流量を含む物理量、ならびに加熱管12の少なくとも管壁単位面積当たりの単位発熱量を含む設備能力に基づいて、加熱部10への投入電力を制御する制御装置(図示せず。)を有するのが好ましい。また、加熱制御に用いる、被加熱流体の温度および流量を含む、所定の物理量は、加熱部10の被加熱流体の入口および/または出口の近傍で測定するのが好ましい。入口近傍および/または出口近傍での被加熱流体の物理量の測定結果は、投入電力、電流、および電圧等の電源へのフィードフォワード制御および/またはフィードバック制御による被加熱流体温度制御の高精度化に寄与できるからである。なお、電気加熱では制御の応答性が高いため、加熱部10の被加熱流体入口近傍のみで、被加熱流体の物理量を測定し、フィードフォワード制御のみを行うようにしてもよい。加熱管12の少なくとも管壁単位面積当たりの単位発熱量を含む設備能力は、上記のフィードバック制御およびフィードフォワード制御のいずれにおいても、加熱部10への投入電力、電流、および電圧等の電源の制御をするための基礎データとして用いられる。ここでの被加熱流体の温度測定手段としては、公知の熱電対による温度測定等が例示できる。また、被加熱流体の流量測定手段としては、公知の電磁流量計、羽根車式流量計、超音波流量計、および差圧式流量計(オリフィス流量計)等が例示できる。
【0024】
また、本実施形態では、加熱部10と環状トランス24との間に、加熱部10からの輻射熱から環状トランス24の内面構成部材を保護するために、断熱材を配設するのが好ましい。なお、断熱材としては、公知の低熱伝導のセラミックスファイバーなどの断熱材を用いることができる。
【0025】
本実施形態での具体的な被加熱流体の加熱用途の例としては、燃焼装置へ送られる燃料および燃焼用空気の予熱、または重油アトマイズのための重油およびアトマイズ蒸気の加熱、等を例示できるが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0026】
1 流体の電気加熱装置
10 加熱部
12 加熱管
20 電力供給部(加熱管12を除く)
22 交流電源
24 環状トランス
26 鉄心間口
28 一次巻線
30 二次閉回路(二次巻線)
32 管端部短絡電極
34 二次閉回路形成導体
40 流体給排手段
42 配管
44 流体供給ヘッダー
46 流体排出ヘッダー
48 絶縁手段(絶縁継手等)
60 流体の電気加熱装置
62 発熱体
62a 非磁性管
62b 磁性管
64、66 管支え板
68 内側断熱材
70 外側断熱材
72 誘導加熱コイル
74 流体入口ヘッダー
76 流体出口ヘッダー
80 流体の電気加熱装置
82 一次巻線
84 鉄心
86 電気絶縁物
88 被加熱流体流通用の導電性パイプ(二次巻線)
90 熱絶縁保温材
92 短絡片