IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特開2024-62107座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム
<>
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図1
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図2
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図3
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図4
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図5
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図6
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図7
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図8
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図9
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図10
  • 特開-座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062107
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20240430BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20240430BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240430BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20240430BHJP
   E04C 3/06 20060101ALI20240430BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20240430BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20240430BHJP
【FI】
G01N3/20
G06F30/13
G06F30/20
E04B1/24 B
E04C3/06 ESW
G06F111:10
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169888
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
【テーマコード(参考)】
2E163
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FB02
2G061AA07
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA02
2G061CB02
2G061DA11
2G061DA12
5B146AA04
5B146DJ02
(57)【要約】
【課題】曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置を提供する。
【解決手段】一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置50であって、一対のフランジのウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブの幅厚比に基づいて、座屈応力度を推定する推定部52を備え、座屈拘束効果は、一対のフランジの板厚中心間距離と一対のフランジそれぞれの幅の比である第1比、及び一対のフランジそれぞれの厚さとウェブの厚さの比である第2比を用いて表される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置であって、
前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部を備え、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記H形断面部材が(1)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(2)式、前記変数X及び前記幅厚比を用いる(3)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項1に記載の座屈応力度の推定装置。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【数1】
【請求項3】
前記推定部は、前記H形断面部材が(4)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(5)式、前記変数X及び前記幅厚比を用いる(6)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項1に記載の座屈応力度の推定装置。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【数2】
【請求項4】
前記推定部は、前記H形断面部材が(7)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(8)式、前記変数X及び前記幅厚比を用いる(9)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項1に記載の座屈応力度の推定装置。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【数3】
【請求項5】
前記推定部は、前記H形断面部材が(10)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(11)式、前記変数X及び前記幅厚比を用いる(12)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項1に記載の座屈応力度の推定装置。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【数4】
【請求項6】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定方法であって、
前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定工程を行い、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定方法。
【請求項7】
前記推定工程では、前記H形断面部材が(21)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(22)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(23)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項6に記載の座屈応力度の推定方法。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【数5】
【請求項8】
前記推定工程では、前記H形断面部材が(24)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(25)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(26)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項6に記載の座屈応力度の推定方法。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【数6】
【請求項9】
前記推定工程では、前記H形断面部材が(27)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(28)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(29)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項6に記載の座屈応力度の推定方法。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【数7】
【請求項10】
前記推定工程では、前記H形断面部材が(30)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(31)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(32)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項6に記載の座屈応力度の推定方法。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【数8】
【請求項11】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する推定装置用の座屈応力度の推定プログラムであって、
前記推定装置を、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部として機能させ、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定プログラム。
【請求項12】
前記推定部は、前記H形断面部材が(41)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(42)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(43)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項11に記載の座屈応力度の推定プログラム。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【数9】
【請求項13】
前記推定部は、前記H形断面部材が(44)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(45)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(46)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項11に記載の座屈応力度の推定プログラム。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【数10】
【請求項14】
前記推定部は、前記H形断面部材が(47)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(48)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(49)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項11に記載の座屈応力度の推定プログラム。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【数11】
【請求項15】
前記推定部は、前記H形断面部材が(50)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(51)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(52)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、請求項11に記載の座屈応力度の推定プログラム。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【数12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、曲げモーメントが作用するH形鋼(H形断面部材)に関して、ウェブとフランジとの連成座屈を考慮して座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この座屈応力度の推定装置では、ウェブの面外変位Wを(1)式により推定するとともに、一対のフランジの面外変位Wf1,Wf2を(2)式、(3)式により推定する。
【0003】
【数1】
【0004】
ただし、H形鋼の材軸方向を、x軸と規定する。ウェブは、x軸及びy軸に沿ってそれぞれ広がると規定する。ウェブの板厚方向を、z軸と規定する。y軸に沿う方向における一対のフランジの中心間の距離を、bと規定する。波状に変位するウェブの半波長を、aと規定する。
そして、座屈応力度を、これらの面外変位W,Wf1,Wf2、及びエネルギー法に基づいて求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-006791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の座屈応力度の推定装置では、座屈応力度を求めるのに、収斂(集束)計算が必要となる。収斂計算では、適切な変数の初期値や刻み幅の設定を誤った場合、求められる座屈応力度が変化したり、計算に時間を要したりすることが考えられる。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置であって、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部を備え、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定装置である。
【0009】
(2)本発明の態様2は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定方法であって、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定工程を行い、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定方法である。
【0010】
(3)本発明の態様3は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記ウェブの板厚方向に延びる基準軸回りに曲げモーメントのみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する推定装置用の座屈応力度の推定プログラムであって、前記推定装置を、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部として機能させ、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定プログラムである。
【0011】
これらの発明では、発明者等は鋭意検討の結果、第1比及び第2比を用いて表される、一対のフランジのウェブに対する座屈拘束効果を考慮する。そして、ウェブの幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度を推定することにより、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に関して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定できることを見出した。
従って、曲げモーメントのみが作用するH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定することができる。
【0012】
(4)本発明の態様4は、前記推定部は、前記H形断面部材が(11)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(12)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(13)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(1)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【0013】
【数2】
【0014】
(5)本発明の態様5は、前記推定工程では、前記H形断面部材が(14)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(15)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(16)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(2)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【0015】
【数3】
【0016】
(6)本発明の態様6は、前記推定部は、前記H形断面部材が(17)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(18)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(19)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(3)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.620以上0.685以下の定数であり、aは77.747以上88.247以下の定数であり、bは1.445以上1.550以下の定数であり、bは5.950以上6.055以下の定数である。
【0017】
【数4】
【0018】
ここで、(11)式は、(14)式及び(17)式と同一である。(12)式は、(15)式及び(18)式と同一であり、(13)式は、(16)式及び(19)式と同一である。
これらの発明では、H形断面部材が(11)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(12)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(13)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、H形断面部材が(11)式を満たす場合に、(12)式及び(13)式を用いて、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を正確に推定することができる。
【0019】
(7)本発明の態様7は、前記推定部は、前記H形断面部材が(21)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(22)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(23)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(1)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【0020】
【数5】
【0021】
(8)本発明の態様8は、前記推定工程では、前記H形断面部材が(24)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(25)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(26)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(2)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【0022】
【数6】
【0023】
(9)本発明の態様9は、前記推定部は、前記H形断面部材が(27)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(28)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(29)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(3)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは0.726以上0.796以下の定数であり、aは4.71×10以上5.50×10以下の定数であり、bは9.087以上9.197以下の定数であり、bは11.976以上12.086以下の定数である。
【0024】
【数7】
【0025】
ここで、(21)式は、(24)式及び(27)式と同一である。(22)式は、(25)式及び(28)式と同一であり、(23)式は、(26)式及び(29)式と同一である。
これらの発明では、H形断面部材が(21)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(22)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(23)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、H形断面部材が(21)式を満たす場合に、(22)式及び(23)式を用いて、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を正確に推定することができる。
【0026】
(10)本発明の態様10は、前記推定部は、前記H形断面部材が(31)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(32)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(33)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(1)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【0027】
【数8】
【0028】
(11)本発明の態様11は、前記推定工程では、前記H形断面部材が(34)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(35)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(36)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(2)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【0029】
【数9】
【0030】
(12)本発明の態様12は、前記推定部は、前記H形断面部材が(37)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(38)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(39)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(3)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が8.10×10以上9.10×10以下の定数であり、aは絶対値が5.306×10以上6.206×10以下の定数であり、bは-8.087以上-7.887以下の定数であり、bは-6.553以上-6.353以下の定数である。
【0031】
【数10】
【0032】
ここで、(31)式は、(34)式及び(37)式と同一である。(32)式は、(35)式及び(38)式と同一であり、(33)式は、(36)式及び(39)式と同一である。
これらの発明では、H形断面部材が(31)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(32)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(33)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、H形断面部材が(31)式を満たす場合に、(32)式及び(33)式を用いて、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を正確に推定することができる。
【0033】
(13)本発明の態様13は、前記推定部は、前記H形断面部材が(41)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(42)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(43)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(1)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【0034】
【数11】
【0035】
(14)本発明の態様14は、前記推定工程では、前記H形断面部材が(44)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(45)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(46)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(2)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【0036】
【数12】
【0037】
(15)本発明の態様15は、前記推定部は、前記H形断面部材が(47)式を満たす場合に、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(48)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(49)式により、前記座屈応力度σcrを推定する、(3)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、aは絶対値が4.05×10以上4.30×10以下の定数であり、aは絶対値が430以460以下の定数であり、bは-3.21以上-3.17以下の定数であり、bは-4.15以上-3.95以下の定数である。
【0038】
【数13】
【0039】
ここで、(41)式は、(44)式及び(47)式と同一である。(42)式は、(45)式及び(48)式と同一であり、(43)式は、(46)式及び(49)式と同一である。
これらの発明では、H形断面部材が(41)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(42)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(43)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、H形断面部材が(41)式を満たす場合に、(42)式及び(43)式を用いて、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を正確に推定することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムでは、曲げモーメントのみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態の座屈応力度の推定装置が適用されるH形鋼を備える建築物の斜視図である。
図2】同座屈応力度の推定装置の概要を示す図である。
図3】曲げモーメントが作用したH形鋼が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
図4】同H形鋼の第1座屈形態を示す要部の側面図である。
図5】同H形鋼の第2座屈形態を示す要部の側面図である。
図6】同H形鋼の材軸方向に直交する断面図である。
図7】本発明の一実施形態の座屈応力度の推定方法を示すフローチャートである。
図8】H形鋼が(61)式を満たす場合の、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとの関係を示す図である。
図9】H形鋼が(62)式を満たす場合の、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとの関係を示す図である。
図10】H形鋼が(63)式を満たす場合の、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとの関係を示す図である。
図11】H形鋼が(64)式を満たす場合の、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムの一実施形態を、図1から図11を参照しながら説明する。
【0043】
〔1.H形鋼を備える建築物の構成〕
この座屈応力度の推定装置(以下では、単に推定装置と言う)は、例えば図1に示す建築物1に、鉄骨梁として用いられるH形鋼(H形断面部材)10の座屈応力度を推定するのに用いられる。H形鋼10は、第1フランジ(フランジ)11と、第2フランジ(フランジ)12と、ウェブ13と、を備えている。なお、図1では、後述する床スラブ20を二点鎖線で示している。
第1フランジ11、第2フランジ12、及びウェブ13は、それぞれ鋼板で形成されている。
【0044】
H形鋼10は、例えば水平面に沿う方向に延びている。第1フランジ11は、平板状に形成され、第1フランジ11の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。第2フランジ12は、平板状に形成され、第1フランジ11よりも上方に配置されている。第2フランジ12は、第2フランジ12の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。
ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向に見たときに矩形を呈する平板状に形成されている。ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。ウェブ13は、第1フランジ11の上面における幅方向の中心と、第2フランジ12の下面における幅方向の中心とにそれぞれ接合されている。
【0045】
H形鋼10の材軸方向の端部は、柱15等に固定されている。H形鋼10は、床スラブ20を床スラブ20の下方から支持している。H形鋼10の第2フランジ12には、頭付きスタッド等のシヤコネクタ21が設けられている。シヤコネクタ21は、床スラブ20に埋設されている。
建築物1は、床スラブ20上に図示しない設備を設置する等して用いられる。
【0046】
〔2.推定装置の構成〕
図2に、本実施形態の推定装置50を示す。推定装置50はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置55と、補助記憶装置60と、入出力インタフェース(IO・I/F)65と、記録・再生装置70と、を備えている。CPU51、主記憶装置55、補助記憶装置60、入出力インタフェース65、及び記録・再生装置70は、バス75により互いに接続されている。
主記憶装置55は、CPU51のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース65は、キーボードやマウス等の入力装置66、及び表示装置67に接続される。
記録・再生装置70は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体71に対するデータの記録や再生を行う。
【0047】
補助記憶装置60は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置60には、前記コンピュータを推定装置50として機能させるための座屈応力度の推定プログラム(以下、単に推定プログラムと言う)61や、OSプログラム等の各種プログラム等が格納されている。推定プログラム61を含む各種プログラムは、記録・再生装置70を介して記録媒体71から補助記憶装置60に取り込まれる。推定プログラム61等は、記録媒体71に格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置60に取り込まれてもよい。
【0048】
CPU51は、各種演算処理を実行する。CPU51は、機能的に、推定部52を備える。推定部52が行う処理内容については、後で詳しく述べる。
CPU51の機能構成要素である推定部52は、補助記憶装置60に格納されている推定プログラム61等をCPU51が実行することで機能する。推定プログラム61等は、推定装置50用のプログラムである。推定プログラム61は、推定装置50を推定部52として機能させる。
【0049】
〔3.推定装置及び推定部の処理内容〕
推定装置50は、図3に示すように、外力として、ウェブ13の板厚方向に延びる基準軸L5回りに曲げモーメントF1のみ(純曲げモーメント)が作用するH形鋼10の座屈応力度を推定する。図3では、H形鋼10が座屈している状態を示している。曲げモーメントF1は、H形鋼10の材軸方向の各端面10aに作用している。H形鋼10は、一様曲げを受けている。
【0050】
ここで、H形鋼10の座屈の形態について説明する。
図3に示すように、第1フランジ11における矢印A1側の外縁を、第1外縁11aと言う。第1フランジ11における矢印A1とは反対側の外縁を、第2外縁11bと言う。
図4に、H形鋼10の第1座屈形態を示し、図5に、H形鋼10の第2座屈形態を示す。図4及び図5は、座屈しているH形鋼10を、図3における矢印A1方向に見た図である。
図4及び図5において、ウェブ13における、ウェブ13の板厚方向の変位が無い部分を白色で示し、ウェブ13の板厚方向の変位が多い部分ほど、黒に近い色で示す。ウェブ13は、材軸方向において、ウェブ13の板厚方向の一方側、他方側と、交互に波状に変位している。なお、図4及び図5では、変位を誇張して示している。
【0051】
図4に示すように、第1座屈形態のH形鋼10では、座屈波長の材軸方向の長さが、比較的短い。第1フランジ11の板厚方向の変位が、比較的少ない。第1座屈形態は、H形鋼10が、以下で説明する第2座屈形態が生じやすい場合以外の断面形状を有する場合に生じやすい座屈である。
一方で、図5に示すように、第2座屈形態のH形鋼10では、座屈波長の材軸方向の長さが、比較的長い。第1フランジ11の板厚方向の変位が、比較的大きい。第2座屈形態は、H形鋼10の断面のアスペクト比(フランジ11,12の幅Bに対する、H形鋼10のせいの比(H/B))が小さく、かつ、板厚比(ウェブ13の厚さtに対する、フランジ11,12の厚さtの比(t/t))が小さい場合に生じやすい座屈である。
【0052】
ここで図6に示すように、H形鋼10の材軸方向に直交する断面における寸法を規定する。
フランジ11,12それぞれの厚さを、t(mm)と規定する。フランジ11,12それぞれの幅を、B(mm)と規定する。フランジ11,12それぞれの幅の半分の値を、b(mm)と規定する。ウェブ13の厚さを、t(mm)と規定する。ウェブ13の幅を、d(mm)と規定する。H形鋼10のせいを、H(mm)と規定する。
フランジ11,12の板厚中心間距離を、b(mm)と規定する。板厚中心間距離bは、第1フランジ11の厚さ方向の中心と、第2フランジ12の厚さ方向の中心との、フランジ11,12が対向する方向の距離を意味する。このとき、板厚中心間距離bは、(H-t)に等しい。せいHは、(d+2t)に等しい。
H形鋼10のヤング係数を、E(N/mm)と規定する。H形鋼10のポアソン比を、ν(-)と規定する。
ウェブ13の幅厚比を、(b/t)と規定する。第1比を、板厚中心間距離bと幅Bの比(b/B)と規定する。第2比を、厚さtと厚さtの比(t/t)と規定する。
【0053】
H形鋼10において、寸法の好ましい範囲は、以下のようである。
・フランジ11,12の幅厚比(b/t):20以下
・ウェブ13の幅厚比(b/t):300以下
・アスペクト比(d/B):1.0以上10以下
・板厚比(t/t):1.0以上5.0以下
【0054】
特許文献1における推定装置では、座屈応力度を求めるのに、収斂計算が必要となる。発明者等は、鋭意検討の結果、収斂計算を用いずに、座屈応力度を陽に求める方法を検討した。
そして、推定部52は、フランジ11,12のウェブ13に対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて座屈応力度を推定する、という方法を提案した。具体的には、推定部52は、第1比(b/B)及び第2比(t/t)を用いて変数Xを算出する(56)式、変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(57)式又は(58)式により、座屈応力度σcr(N/mm)を推定する。
ここに、a,a,b,bは、それぞれ実数の定数である。
【0055】
【数14】
【0056】
なお、(57)式の右辺の第1項である「23.9」は、2辺が単純支持され、曲げモーメントのみが作用する平板の座屈係数である。(57)式の右辺の第2項において、1に(aX/(X+a))を加えている。(aX/(X+a))の値が正であるため、H形鋼10に対応する座屈係数である(23.9+(aX/(X+a))が、23.9よりも大きくなる。
この(aX/(X+a))が、(57)式における、フランジ11,12のウェブに対する座屈拘束効果を考慮した項である。
【0057】
(58)式の右辺の第1項である「0.425」は、3辺が単純支持され、圧縮力のみが作用する平板の座屈係数である。(58)式の右辺の第2項において、1に(aX/(X+a))を加えている。(aX/(X+a))の値が正であるため、H形鋼10に対応する座屈係数である(0.425+(aX/(X+a))が、0.425よりも大きくなる。
【0058】
座屈拘束効果は、(56)式のように第1比(b/B)及び第2比(t/t)を用いて表される。
【0059】
そして、発明者等は、H形鋼10の断面寸法が、(61)式から(64)式を満たすそれぞれの場合において、座屈応力度σcrを求めるのに適切な定数a,a,b,bの範囲が変化することを見出した。
【0060】
【数15】
【0061】
例えば、(61)式は、第1座屈形態におけるウェブ13の座屈が支配的であり、H形鋼(H形断面部材)10の座屈耐力はウェブ13の座屈によって決定されている場合に対応する。(62)式は、第1座屈形態におけるウェブ13の座屈がH形鋼10の座屈耐力を決定する主要因であるが、フランジ11,12の座屈もH形鋼10の座屈耐力に影響を与えている場合に対応する。
(63)式は、第2座屈形態におけるフランジ11,12の座屈がH形鋼10の座屈耐力を決定する主要因であるが、ウェブ13の座屈もH形鋼10の座屈耐力に影響を与えている場合に対応する。(64)式は、第2座屈形態におけるフランジ11,12の座屈が支配的であり、H形鋼10の座屈耐力はフランジ11,12の座屈によって決定されている場合に対応する。
【0062】
FEM(有限要素法)により推定した座屈応力度σcr,FEMを真の値として、この座屈応力度σcr,FEMとした。座屈応力度σcr,FEMに対する、特許文献1の推定装置が推定する座屈応力度の最大誤差は、5%程度である。
座屈応力度σcr,FEMに対する、推定装置50が推定する座屈応力度σcrの最大誤差が7%程度になるように、定数a,a,b,bを決めた。このときの定数a,a,b,bは、H形鋼10が満たす(61)式から(64)式に応じて、以下のような範囲であることが好ましい。
【0063】
H形鋼10が(61)式を満たす場合には、定数aは0.620以上0.685以下である。定数aは77.747以上88.247以下であり、定数bは1.445以上1.550以下であり、定数bは5.950以上6.055以下である。そして、(56)式及び(57)式により、座屈応力度σcrを推定する。
なお、定数a,a,b,bは、以下のような値であることが最も好ましい。定数aは0.645である。定数aは83.247であり、定数bは1.495であり、定数bは6.000である(以下では、H形鋼10が(61)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値と言う)。
【0064】
H形鋼10が(62)式を満たす場合には、定数aは0.726以上0.796以下である。定数aは4.71×10以上5.50×10以下であり、定数bは9.087以上9.197以下であり、定数bは11.976以上12.086以下である。そして、(56)式及び(57)式により、座屈応力度σcrを推定する。
なお、定数a,a,b,bは、以下のような値であることが最も好ましい。定数aは0.756である。定数aは5004649であり、定数bは9.142であり、定数bは12.031である(以下では、H形鋼10が(62)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値と言う)。
【0065】
H形鋼10が(63)式を満たす場合には、定数aの絶対値は8.10×10以上9.10×10以下である。定数aの絶対値は5.306×10以上6.206×10以下であり、定数bは-8.087以上-7.887以下であり、定数bは-6.553以上-6.353以下である。そして、(56)式及び(58)式により、座屈応力度σcrを推定する。
なお、定数a,a,b,bは、以下のような値であることが最も好ましい。定数aは8622949である。定数aは5506.458であり、定数bは-7.987であり、定数bは-6.453である(以下では、H形鋼10が(63)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値と言う)。
【0066】
H形鋼10が(64)式を満たす場合には、定数aの絶対値は4.05×10以上4.30×10以下である。定数aの絶対値は430以460以下であり、定数bは-3.21以上-3.17以下であり、定数bは-4.15以上-3.95である。そして、(56)式及び(58)式により、座屈応力度σcrを推定する。
なお、定数a,a,b,bは、以下のような値であることが最も好ましい。定数aは4176.84である。定数aは444.227であり、定数bは-3.188であり、定数bは-4.022である(以下では、H形鋼10が(64)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値と言う)。
【0067】
安全率を加味して、(57)式の右辺の第1項を、23.9以下にしてもよい。すなわち、0より大きく1.0以下である係数α(0<α≦1.0)を用いて、(57)式を、(67)式のように変更してもよい。
同様に、(58)式を、(68)式のように変更してもよい。
【0068】
【数16】
【0069】
ただし、σcr は、安全率を考慮して、座屈応力度σcrよりも小さめな値として求めた、H形鋼10の座屈応力度である。
(56)式から(58)式では、板厚中心間距離bに代えて、ウェブ13の内法せいb’(=b-t)、せいHを用いてもよい。
【0070】
〔4.座屈応力度の推定方法〕
次に、本実施形態の座屈応力度の推定方法(以下では、単に推定方法と言う)について説明する。図7は、推定方法S1を示すフローチャートである。
推定方法S1では、外力として、基準軸L5回りに曲げモーメントF1のみが作用するH形鋼10の座屈応力度を推定する。
推定方法S1では、推定工程S5を行う。推定工程S5では、フランジ11,12のウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度σcrを推定する。
推定工程S5では、(61)式から(64)式に基づいて、前記のように(56)式から(58)式により、座屈応力度σcrを推定する。
推定工程S5が終了すると、推定方法S1の全工程が終了し、H形鋼10の座屈応力度σcrが推定される。
【0071】
〔5.推定装置による推定結果〕
図8から図11に、推定装置50による推定結果を示す。
図8から図11において、横軸は、推定装置50により推定した座屈応力度σcr(σcr,cal)(N/mm)を表し、縦軸は、FEMの座屈固有値解析により推定した座屈応力度σcr,FEM(N/mm)を表す。座屈応力度σcr,calが座屈応力度σcr,FEMに近いほど、座屈応力度の推定の精度が高くなると考えられる。図8から図11中の丸(〇)印は、前記座屈固有値解析を実施した前記H形鋼10において、それぞれの解析ケースにおける前記縦軸と前記横軸の関係を表す。また図8から図11中の線L1は、座屈応力度σcr,calが座屈応力度σcr,FEMに等しくなる状態を表す。
図8は、H形鋼10が(61)式を満たす場合の関係を表す。同様に、図9はH形鋼10が(62)式を満たす場合の関係を表し、図10はH形鋼10が(63)式を満たす場合の関係を表し、図11はH形鋼10が(64)式を満たす場合の関係を表す。
【0072】
なお、FEMの座屈固有値解析には、せいの50倍の材軸方向長さとしたH形鋼10のシェルモデルに対して、20mm角程度にメッシュ分割した解析モデルを用いた。ここで、前記解析モデルの材軸方向をx軸方向、せい方向をy軸方向、フランジ11、12の幅方向をz軸方向と規定する。
このとき、解析モデルのx軸方向の両端部の節点を前記両端部の断面中心の代表節点にそれぞれ剛体結合した。この上で、解析モデルに、幾何学的境界条件として、以下の(1)から(3)の拘束条件を与えた。
(1)フランジ11,12とウェブ13の接合線上の節点における、z軸方向の変位を拘束。
(2)H形鋼10のx軸方向の両端部の一方の前記代表節点において、y軸方向及びz軸方向の変位,x軸まわり及びy軸まわりの回転を拘束。
(3)H形鋼10の材軸方向の両端部の他方の前記代表節点において、y軸方向、z軸方向、及びx軸方向の変位,x軸まわり及びy軸まわりの回転を拘束。
そして、解析モデルに、力学的境界条件として材軸方向に一様な曲げモーメントを与えて、解析を実施した。
【0073】
図8に示すH形鋼10が(61)式を満たす場合において、厚さt等を変化させた1928ケースのH形鋼10に対して、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとを比較した。なお、このときの定数a,a,b,bの値は、H形鋼10が(61)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値(定数aが0.645、定数aが83.247、定数bが1.495、定数bが6.000である)を用いた。
座屈応力度σcr,FEMに対する座屈応力度σcr,calの最大誤差は、3.6%程度であった。図8から、実用上充分な精度で、座屈応力度σcr,calを推定できていることが分かった。
【0074】
図9に示すH形鋼10が(62)式を満たす場合において、厚さt等を変化させた589ケースのH形鋼10に対して、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとを比較した。なお、このときの定数a,a,b,bの値は、H形鋼10が(62)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値(定数aが0.756、定数aが5004649、定数bが9.142、定数bが12.031である)を用いた。
座屈応力度σcr,FEMに対する座屈応力度σcr,calの最大誤差は、3.4%程度であった。図9から、実用上充分な精度で、座屈応力度σcr,calを推定できていることが分かった。
【0075】
図10に示すH形鋼10が(63)式を満たす場合において、厚さt等を変化させた116ケースのH形鋼10に対して、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとを比較した。なお、このときの定数a,a,b,bの値は、H形鋼10が(63)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値(定数aが8622949、定数aが5506.458、定数bが-7.987、定数bが-6.453である)を用いた。
座屈応力度σcr,FEMに対する座屈応力度σcr,calの最大誤差は、1.8%程度であった。図10から、実用上充分な精度で、座屈応力度σcr,calを推定できていることが分かった。
【0076】
図11に示すH形鋼10が(64)式を満たす場合において、厚さt等を変化させた384ケースのH形鋼10に対して、座屈応力度σcr,calと座屈応力度σcr,FEMとを比較した。なお、このときの定数a,a,b,bの値は、H形鋼10が(64)式を満たす場合の定数a,a,b,bの最適値(定数aが4176.84、定数aが444.227、定数bが-3.188、定数bが-4.022である)を用いた。
座屈応力度σcr,FEMに対する座屈応力度σcr,calの最大誤差は、4.3%程度であった。図11から、実用上充分な精度で、座屈応力度σcr,calを推定できていることが分かった。
【0077】
以上のように、H形鋼10が(61)式から(64)式のいずれを満たす場合においても、実用上充分な精度で、座屈応力度σcr,calを推定できていることが分かった。
【0078】
〔6.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の推定装置50、推定方法S1、及び推定プログラム61では、発明者等は鋭意検討の結果、第1比及び第2比を用いて表される、フランジ11,12のウェブ13に対する座屈拘束効果を考慮する。そして、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度を推定することにより、曲げモーメントF1のみを受けるH形鋼10に関して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを推定できることを見出した。
従って、曲げモーメントF1のみが作用するH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを推定することができる。
【0079】
また、推定部52は(推定工程S5では)、H形鋼10が(61)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(56)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(57)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、(56)式及び(57)式を用いて、曲げモーメントF1のみを受けるH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを正確に推定することができる。
推定部52は、H形鋼10が(62)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(56)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(57)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、(56)式及び(57)式を用いて、曲げモーメントF1のみを受けるH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを正確に推定することができる。
【0080】
推定部52は、H形鋼10が(63)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(56)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(58)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、(56)式及び(58)式を用いて、曲げモーメントF1のみを受けるH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを正確に推定することができる。
推定部52は、H形鋼10が(64)式を満たす場合に、第1比及び第2比を用いて(56)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(58)式により、座屈応力度σcrを推定する。このように、(56)式及び(58)式を用いて、曲げモーメントF1のみを受けるH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度σcrを正確に推定することができる。
【0081】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、座屈応力度を推定する際に、(56)式から(58)式を用いなくてもよい。
H形断面部材がH形鋼10であるとした。しかし、H形断面部材はH形鋼10に限定されず、一対のフランジ及びウェブを有していればよい。
【符号の説明】
【0082】
10 H形鋼(H形断面部材)
11 第1フランジ(フランジ)
12 第2フランジ(フランジ)
13 ウェブ
50 推定装置(座屈応力度の推定装置)
52 推定部
61 推定プログラム(座屈応力度の推定プログラム)
F1 曲げモーメント
L5 基準軸
S1 推定方法(座屈応力度の推定方法)
S5 推定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11