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特開2024-62108座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062108
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/24 20060101AFI20240430BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20240430BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240430BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20240430BHJP
   E04C 3/06 20060101ALI20240430BHJP
   G06F 111/10 20200101ALN20240430BHJP
   G06F 119/14 20200101ALN20240430BHJP
【FI】
G01N3/24
G06F30/13
G06F30/23
E04B1/24 B
E04C3/06 ESW
G06F111:10
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169889
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
【テーマコード(参考)】
2E163
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FB02
2G061AA11
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA02
2G061CB02
2G061DA11
2G061DA12
5B146AA04
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】せん断力のみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置を提供する。
【解決手段】一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置50であって、一対のフランジのウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブの幅厚比に基づいて、座屈応力度を推定する推定部52を備え、座屈拘束効果は、一対のフランジの板厚中心間距離と一対のフランジそれぞれの幅の比である第1比、及び一対のフランジそれぞれの厚さとウェブの厚さの比である第2比を用いて表される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置であって、
前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部を備え、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(1)式、前記変数X及び前記幅厚比を用いる(2)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、請求項1に記載の座屈応力度の推定装置。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【数1】
【請求項3】
定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、請求項2に記載の座屈応力度の推定装置。
【請求項4】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定方法であって、
前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定工程を行い、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定方法。
【請求項5】
前記推定工程では、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(3)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(4)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、請求項4に記載の座屈応力度の推定方法。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【数2】
【請求項6】
定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、請求項5に記載の座屈応力度の推定方法。
【請求項7】
一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する推定装置用の座屈応力度の推定プログラムであって、
前記推定装置を、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部として機能させ、
前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定プログラム。
【請求項8】
前記推定部は、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(5)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(6)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、請求項7に記載の座屈応力度の推定プログラム。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【数3】
【請求項9】
定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、請求項8に記載の座屈応力度の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、せん断力が作用するH形鋼(H形断面部材)に関して、ウェブとフランジとの連成座屈を考慮して座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この座屈応力度の推定装置では、ウェブの面外変位Wを(1)式により推定するとともに、一対のフランジの面外変位Wf1,Wf2を(2)式、(3)式により推定する。
【0003】
【数1】
【0004】
ただし、H形鋼の材軸方向を、x軸と規定する。ウェブは、x軸及びy軸に沿ってそれぞれ広がると規定する。ウェブの板厚方向を、z軸と規定する。y軸に沿う方向における一対のフランジの中心間の距離を、bと規定する。波状に変位するウェブの半波長を、aと規定する。
そして、座屈応力度を、これらの面外変位W,Wf1,Wf2、及びエネルギー法に基づいて求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-006787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の座屈応力度の推定装置では、座屈応力度を求めるのに、収斂(集束)計算が必要となる。収斂計算では、適切な変数の初期値や刻み幅の設定を誤った場合、求められる座屈応力度が変化したり、計算に時間を要したりすることが考えられる。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、せん断力のみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定装置であって、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部を備え、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定装置である。
【0009】
(2)本発明の態様2は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する座屈応力度の推定方法であって、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定工程を行い、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定方法である。
【0010】
(3)本発明の態様3は、一対のフランジ及びウェブを有し、外力として、前記一対のフランジが対向する方向に沿うせん断力のみが作用するH形断面部材の座屈応力度を推定する推定装置用の座屈応力度の推定プログラムであって、前記推定装置を、前記一対のフランジの前記ウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、前記ウェブの幅厚比に基づいて、前記座屈応力度を推定する推定部として機能させ、前記座屈拘束効果は、前記一対のフランジの板厚中心間距離bと前記一対のフランジそれぞれの幅Bの比である第1比、及び前記一対のフランジそれぞれの厚さtと前記ウェブの厚さtの比である第2比を用いて表される、座屈応力度の推定プログラムである。
【0011】
これらの発明では、発明者等は鋭意検討の結果、第1比及び第2比を用いて表される、一対のフランジのウェブに対する座屈拘束効果を考慮する。そして、ウェブの幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度を推定することにより、せん断力のみを受けるH形断面部材に関して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定できることを見出した。
従って、せん断力のみが作用するH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定することができる。
【0012】
(4)本発明の態様4は、前記推定部は、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(5)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(6)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、(1)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【0013】
【数2】
【0014】
(5)本発明の態様5は、前記推定工程では、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(7)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(8)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、(2)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【0015】
【数3】
【0016】
(6)本発明の態様6は、前記推定部は、前記第1比及び前記第2比を用いて変数Xを算出する(9)式、前記変数X及び前記幅厚比(b/t)を用いる(10)式により、前記座屈応力度τcrを推定する、(3)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
ここに、Eは前記H形断面部材のヤング係数、νは前記H形断面部材のポアソン比、a,a,b,bは定数である。
【0017】
【数4】
【0018】
ここで、(5)式は、(7)式及び(9)式と同一であり、(6)式は、(8)式及び(10)式と同一である。
これらの発明では、第1比及び第2比を用いて(5)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(6)式により、座屈応力度τcrを推定する。このように、(5)式及び(6)式を用いて、せん断力のみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を正確に推定することができる。
【0019】
(7)本発明の態様7は、定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、(4)に記載の座屈応力度の推定装置であってもよい。
(8)本発明の態様8は、定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、(5)に記載の座屈応力度の推定方法であってもよい。
(9)本発明の態様9は、定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である、(6)に記載の座屈応力度の推定プログラムであってもよい。
【0020】
これらの発明では、範囲が絞られた定数a,a,b,bを用いて、座屈応力度τcrをさらに正確に推定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムでは、せん断力のみを受けるH形断面部材に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態の座屈応力度の推定装置が適用されるH形鋼を備える建築物の斜視図である。
図2】同座屈応力度の推定装置の概要を示す図である。
図3】せん断力が作用したH形鋼が座屈している状態を模式的に示す斜視図である。
図4】同H形鋼の材軸方向に直交する断面図である。
図5】本発明の一実施形態の座屈応力度の推定方法を示すフローチャートである。
図6】座屈応力度τcr,calと座屈応力度τcr,FEMとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る座屈応力度の推定装置、座屈応力度の推定方法、及び座屈応力度の推定プログラムの一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。
【0024】
〔1.H形鋼を備える建築物の構成〕
この座屈応力度の推定装置(以下では、単に推定装置と言う)は、例えば図1に示す建築物1に、鉄骨梁として用いられるH形鋼(H形断面部材)10の座屈応力度を推定するのに用いられる。H形鋼10は、第1フランジ(フランジ)11と、第2フランジ(フランジ)12と、ウェブ13と、を備えている。なお、図1では、後述する床スラブ20を二点鎖線で示している。
第1フランジ11、第2フランジ12、及びウェブ13は、それぞれ鋼板で形成されている。
【0025】
H形鋼10は、例えば水平面に沿う方向に延びている。第1フランジ11は、平板状に形成され、第1フランジ11の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。第2フランジ12は、平板状に形成され、第1フランジ11よりも上方に配置されている。第2フランジ12は、第2フランジ12の厚さ方向が上下方向に沿うように配置されている。フランジ11,12は、フランジ11,12の厚さ方向に対向している。
ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向に見たときに矩形を呈する平板状に形成されている。ウェブ13は、ウェブ13の厚さ方向が水平面に沿うように配置されている。ウェブ13は、フランジ11,12の間に配置され、フランジ11,12が対向する対向方向に挟まれている。ウェブ13は、第1フランジ11の上面における幅方向の中心と、第2フランジ12の下面における幅方向の中心とにそれぞれ接合されている。
【0026】
H形鋼10の材軸方向の端部は、柱15等に固定されている。H形鋼10は、床スラブ20を床スラブ20の下方から支持している。H形鋼10の第2フランジ12には、頭付きスタッド等のシヤコネクタ21が設けられている。シヤコネクタ21は、床スラブ20に埋設されている。
建築物1は、床スラブ20上に図示しない設備を設置する等して用いられる。
【0027】
〔2.推定装置の構成〕
図2に、本実施形態の推定装置50を示す。推定装置50はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置55と、補助記憶装置60と、入出力インタフェース(IO・I/F)65と、記録・再生装置70と、を備えている。CPU51、主記憶装置55、補助記憶装置60、入出力インタフェース65、及び記録・再生装置70は、バス75により互いに接続されている。
主記憶装置55は、CPU51のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース65は、キーボードやマウス等の入力装置66、及び表示装置67に接続される。
記録・再生装置70は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体71に対するデータの記録や再生を行う。
【0028】
補助記憶装置60は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置60には、前記コンピュータを推定装置50として機能させるための座屈応力度の推定プログラム(以下、単に推定プログラムと言う)61や、OSプログラム等の各種プログラム等が格納されている。推定プログラム61を含む各種プログラムは、記録・再生装置70を介して記録媒体71から補助記憶装置60に取り込まれる。推定プログラム61等は、記録媒体71に格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置60に取り込まれてもよい。
【0029】
CPU51は、各種演算処理を実行する。CPU51は、機能的に、推定部52を備える。推定部52が行う処理内容については、後で詳しく述べる。
CPU51の機能構成要素である推定部52は、補助記憶装置60に格納されている推定プログラム61等をCPU51が実行することで機能する。推定プログラム61等は、推定装置50用のプログラムである。推定プログラム61は、推定装置50を推定部52として機能させる。
【0030】
〔3.推定装置及び推定部の処理内容〕
推定装置50は、図3に示すように、外力として、フランジ11,12が対向する対向方向に沿うせん断力F1のみ(純せん断)が作用するH形鋼10の座屈応力度を推定する。図3では、H形鋼10が座屈している状態を示している。せん断力F1は、H形鋼10の材軸方向の各端面10aに作用している。
【0031】
ここで図4に示すように、H形鋼10の材軸方向に直交する断面における寸法を規定する。
フランジ11,12それぞれの厚さを、t(mm)と規定する。フランジ11,12それぞれの幅を、B(mm)と規定する。フランジ11,12それぞれの幅の半分の値を、b(mm)と規定する。ウェブ13の厚さを、t(mm)と規定する。ウェブ13の幅を、d(mm)と規定する。H形鋼10のせいを、H(mm)と規定する。
フランジ11,12の板厚中心間距離を、b(mm)と規定する。板厚中心間距離bは、第1フランジ11の厚さ方向の中心と、第2フランジ12の厚さ方向の中心との、フランジ11,12が対向する方向の距離を意味する。このとき、板厚中心間距離bは、(H-t)に等しい。せいHは、(d+2t)に等しい。
H形鋼10のヤング係数を、E(N/mm)と規定する。H形鋼10のポアソン比を、ν(-)と規定する。
ウェブ13の幅厚比を、(b/t)と規定する。第1比を、板厚中心間距離bと幅Bの比(b/B)と規定する。第2比を、厚さtと厚さtの比(t/t)と規定する。
【0032】
H形鋼10において、寸法の好ましい範囲は、以下のようである。
・フランジ11,12の幅厚比(b/t):20以下
・ウェブ13の幅厚比(b/t):300以下
・アスペクト比(d/B):1.0以上10以下
・板厚比(t/t):1.0以上5.0以下
【0033】
特許文献1における推定装置では、座屈応力度を求めるのに、収斂計算が必要となる。発明者等は、鋭意検討の結果、収斂計算を用いずに、座屈応力度を陽に求める方法を検討した。
そして、推定部52は、フランジ11,12のウェブ13に対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて座屈応力度を推定する、という方法を提案した。具体的には、推定部52は、第1比(b/B)及び第2比(t/t)を用いて変数Xを算出する(21)式、変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(22)式により、座屈応力度τcr(N/mm)を推定する。
ここに、a,a,b,bは、それぞれ実数の定数である。
【0034】
【数5】
【0035】
なお、(22)式の右辺の第1項である「5.34」は、2辺が単純支持され、せん断力のみが作用する平板の座屈係数である。(22)式の右辺の第2項において、1に(aX/(X+a))を加えている。(aX/(X+a))の値が正であるため、H形鋼10に対応する座屈係数である(5.34+(aX/(X+a))が、5.34よりも大きくなる。
この(aX/(X+a))が、(22)式における、フランジ11,12のウェブに対する座屈拘束効果を考慮した項である。座屈拘束効果は、(21)式のように第1比(b/B)及び第2比(t/t)を用いて表される。
【0036】
FEM(有限要素法)により推定した座屈応力度τcr,FEMを真の値として、この座屈応力度τcr,FEMとした。座屈応力度τcr,FEMに対する、特許文献1の推定装置が推定する座屈応力度の最大誤差は、5%程度である。
座屈応力度τcr,FEMに対する、推定装置50が推定する座屈応力度τcrの最大誤差が7%程度になるように、定数a,a,b,bを決めた。このときの定数a,a,b,bは、以下のような範囲であることが好ましい。定数aは0.666以上0.726以下である。定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である。
なお、定数a,a,b,bは、以下のような値であることが最も好ましい。
定数aは0.676である。定数aは0.691であり、定数bは-1.198であり、定数bは3.542である(以下では、定数a,a,b,bの最適値と言う)。
【0037】
安全率を加味して、(22)式の右辺の第1項を、5.34以下にしてもよい。すなわち、0より大きく1.0以下である係数α(0<α≦1.0)を用いて、(22)式を、(24)式のように変更してもよい。
【0038】
【数6】
【0039】
ただし、τcr は、安全率を考慮して、座屈応力度τcrよりも小さめな値として求めた、H形鋼10の座屈応力度である。
(21)式及び(22)式では、板厚中心間距離bに代えて、ウェブ13の内法せいb’(=b-t)、せいHを用いてもよい。
【0040】
〔4.座屈応力度の推定方法〕
次に、本実施形態の座屈応力度の推定方法(以下では、単に推定方法と言う)について説明する。図5は、推定方法S1を示すフローチャートである。
推定方法S1では、外力として、フランジ11,12が対向する対向方向に沿うせん断力F1のみが作用するH形鋼10の座屈応力度を推定する。
推定方法S1では、推定工程S5を行う。推定工程S5では、フランジ11,12のウェブに対する座屈拘束効果を考慮して、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度τcrを推定する。
推定工程S5では、(21)式、(22)式により、座屈応力度τcrを推定する。
推定工程S5が終了すると、推定方法S1の全工程が終了し、H形鋼10の座屈応力度τcrが推定される。
【0041】
〔5.推定装置による推定結果〕
図6に、推定装置50による推定結果を示す。
図6において、横軸は、推定装置50により推定した座屈応力度τcr(τcr,cal)(N/mm)を表し、縦軸は、FEMの座屈固有値解析により推定した座屈応力度τcr,FEM(N/mm)を表す。座屈応力度τcr,calが座屈応力度τcr,FEMに近いほど、座屈応力度の推定の精度が高くなると考えられる。図6中の丸(〇)印は、前記座屈固有値解析を実施した前記H形鋼10において、それぞれの解析ケースにおける前記縦軸と前記横軸の関係を表す。また図6中の線L1は、座屈応力度τcr,calが座屈応力度τcr,FEMに等しくなる状態を表す。
【0042】
なお、FEMの座屈固有値解析には、せいの50倍の材軸方向長さとしたH形鋼10のシェルモデルに対して、20mm角程度にメッシュ分割した解析モデルを用いた。ここで、前記解析モデルの材軸方向をx軸方向、せい方向をy軸方向、フランジ11,12の幅方向をz軸方向と規定する。
このとき、解析モデルのx軸方向の両端部の節点を、前記両端部の断面中心の代表節点にそれぞれ剛体結合した。この上で、解析モデルに、幾何学的境界条件として、以下の(1)から(3)の拘束条件を与えた。
(1)フランジ11,12とウェブ13の接合線上の節点における、z軸方向の変位を拘束。
(2)H形鋼10のx軸方向の両端部の一方の前記代表節点において、y軸方向及びz軸方向の変位,x軸まわりの回転を拘束。
(3)H形鋼10のx軸方向の両端部の他方の前記代表節点において、y軸方向、z軸方向、及びx軸方向の変位,x軸まわりの回転を拘束。
そして、解析モデルに、力学的境界条件としてフランジ11、12とウェブ13の接合線上の節点に対して,フランジ11側とフランジ12側で逆向きの材長方向に一様なせん断力を与えて、解析を実施した。
【0043】
H形鋼10において、厚さt等を変化させた2960ケースに対して、座屈応力度τcr,calと座屈応力度τcr,FEMとを比較した。なお、このときの定数a,a,b,bの値は、定数a,a,b,bの最適値(定数aが0.676、定数aが0.691、定数bが-1.198、定数bが3.542である)を用いた。
座屈応力度τcr,FEMに対する座屈応力度τcr,calの最大誤差は、0.8%程度であった。図6から、実用上充分な精度で、座屈応力度τcr,calを推定できていることが分かった。
【0044】
〔6.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の推定装置50、推定方法S1、及び推定プログラム61では、発明者等は鋭意検討の結果、第1比及び第2比を用いて表される、フランジ11,12のウェブ13に対する座屈拘束効果を考慮する。そして、ウェブ13の幅厚比(b/t)に基づいて、座屈応力度を推定することにより、せん断力F1のみを受けるH形鋼10に関して、収斂計算を行うことなく座屈応力度τcrを推定できることを見出した。
従って、せん断力F1のみが作用するH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度τcrを推定することができる。
【0045】
また、推定部52は(推定工程S5では)、第1比及び第2比を用いて(21)式により算出した変数X、この変数X及び幅厚比(b/t)を用いる(22)式により、座屈応力度τcrを推定する。このように、(21)式及び(22)式を用いて、せん断力F1のみを受けるH形鋼10に対して、収斂計算を行うことなく座屈応力度τcrを正確に推定することができる。
定数aは0.666以上0.726以下であり、定数aは0.591以上0.791以下であり、定数bは-1.298以上-1.148以下であり、定数bは3.292以上3.692以下である場合がある。この場合には、範囲が絞られた定数a,a,b,bを用いて、座屈応力度τcrをさらに正確に推定することができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、座屈応力度を推定する際に、(21)式及び(22)式を用いなくてもよい。
H形断面部材がH形鋼10であるとした。しかし、H形断面部材はH形鋼10に限定されず、一対のフランジ及びウェブを有していればよい。
【符号の説明】
【0047】
10 H形鋼(H形断面部材)
11 第1フランジ(フランジ)
12 第2フランジ(フランジ)
13 ウェブ
50 推定装置(座屈応力度の推定装置)
52 推定部
61 推定プログラム(座屈応力度の推定プログラム)
F1 せん断力
S1 推定方法(座屈応力度の推定方法)
S5 推定工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6