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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062112
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】分類システム
(51)【国際特許分類】
   G09B 19/00 20060101AFI20240430BHJP
   G09B 9/04 20060101ALI20240430BHJP
   G09B 9/05 20060101ALI20240430BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240430BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G09B19/00 G
G09B9/04 A
G09B9/05 A
G06N20/00
A61B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169896
(22)【出願日】2022-10-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医薬品等規制調和・評価研究事業」「医薬品が自動車運転技能に与える影響の評価手法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】宮田 聖子
(72)【発明者】
【氏名】角田 柊二
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PQ03
4C038PR01
4C038PS07
(57)【要約】
【課題】精神疾患患者の自動車の運転技能を評価する技術を提供する。
【解決手段】第1取得部220は、健常者による第1運転データを取得する。第1抽出部222は、前記第1運転データから指標を抽出する。付与部224は、指標にラベルを付与する。第1生成部226は、指標を標準化することによって特徴量を生成する。学習部230は、ラベルと特徴量とを分類モデル240に入力することによって、分類モデル240を学習する。第2取得部250は、患者による第2運転データを取得する。第2抽出部252は、第2運転データから指標を抽出する。第2生成部254は、指標を標準化することによって特徴量を生成する。分類部256は、学習させた分類モデル240に、生成した特徴量を入力することによって、患者の運転技能が低下しているか、通常であるかを分類する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライビングシミュレータを健常者が操作した場合の第1運転データであって、複数種類の血中アルコール濃度のそれぞれに対応した第1運転データを取得する第1取得部と、
前記第1取得部において取得した前記第1運転データから指標を血中アルコール濃度毎に抽出する第1抽出部と、
前記第1抽出部において抽出した前記指標がしきい値以上の血中アルコール濃度に対応する場合、前記指標に運転技能低下ラベルを付与し、前記第1抽出部において抽出した前記指標がしきい値より小さい血中アルコール濃度に対応する場合、前記指標に運転技能通常ラベルを付与する付与部と、
前記第1抽出部において抽出した前記指標を標準化することによって特徴量を血中アルコール濃度毎に生成する第1生成部と、
前記付与部において付与した前記運転技能低下ラベルと前記運転技能通常ラベルのうちの1つと、前記第1生成部において生成した前記特徴量とを分類モデルに入力することによって、前記分類モデルを学習する学習部と、
前記ドライビングシミュレータを患者が操作した場合の第2運転データを取得する第2取得部と、
前記第2取得部において取得した前記第2運転データから前記指標を抽出する第2抽出部と、
前記第2抽出部において抽出した前記指標を標準化することによって前記特徴量を生成する第2生成部と、
前記学習部において学習させた前記分類モデルに、前記第2生成部において生成した前記特徴量を入力することによって、前記患者の運転技能が低下しているか、通常であるかを分類する分類部と、
を備える分類システム。
【請求項2】
前記第1抽出部において抽出される前記指標は、SDLP(Standard Deviation of Lateral Position)、LSR(Lightmost Distance)を少なくとも含み、
前記第2抽出部において抽出される前記指標は、SDLP、LSRを少なくとも含む請求項1に記載の分類システム。
【請求項3】
前記第1抽出部において複数種類の前記指標が生成されており、変数重要度をもとに、前記複数種類の前記指標から、1種類以上の前記指標を選択する選択部をさらに備え、
前記学習部は、前記選択部において選択された前記1種類以上の前記指標を使用する請求項1に記載の分類システム。
【請求項4】
前記第1取得部と前記第1抽出部と前記付与部と前記第1生成部と前記学習部は、第1装置において実行され、前記第2取得部と前記第2抽出部と前記第2生成部と前記分類部は、前記第1装置とは異なる第2装置において実行される請求項1または2に記載の分類システム。
【請求項5】
前記第1取得部と前記第1抽出部と前記付与部と前記第1生成部と前記学習部と前記第2取得部と前記第2抽出部と前記第2生成部と前記分類部は、1つの装置において実行される請求項1または2に記載の分類システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分類技術であり、特に運転技能を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薬品間での運転技能へ与える影響の比較、薬品が運転技能に与える影響の検証が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sasada, K., Iwamoto, K., Kawano, N., Kohmura, K., Yamamoto, M., Aleksic, B., Ebe, K., Noda, Y., Ozaki, N.、「Effects of repeated dosing with mirtazapine, trazodone, or placebo on driving performance and cognitive function in healthy volunteers」、 Human psychopharmacology、2013、28 、3、p.281-286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
統合失調症及びその治療薬は、自動車運転技能に影響を与える可能性がある。道路交通法により統合失調症患者のような精神疾患患者は運転免許の取得や更新の際、主治医による診断書の提出が必要となる場合があるが、本疾患そのものとその治療薬が運転技能に与える影響について十分に検証されていないので、臨床現場において精神疾患患者の自動車の運転技能を評価することは困難である。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、精神疾患患者の自動車の運転技能を評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の分類システムは、ドライビングシミュレータを健常者が操作した場合の第1運転データであって、複数種類の血中アルコール濃度のそれぞれに対応した第1運転データを取得する第1取得部と、第1取得部において取得した第1運転データから指標を血中アルコール濃度毎に抽出する第1抽出部と、第1抽出部において抽出した指標がしきい値以上の血中アルコール濃度に対応する場合、指標に運転技能低下ラベルを付与し、第1抽出部において抽出した指標がしきい値より小さい血中アルコール濃度に対応する場合、指標に運転技能通常ラベルを付与する付与部と、第1抽出部において抽出した指標を標準化することによって特徴量を血中アルコール濃度毎に生成する第1生成部と、付与部において付与した運転技能低下ラベルと運転技能通常ラベルのうちの1つと、第1生成部において生成した特徴量とを分類モデルに入力することによって、分類モデルを学習する学習部と、ドライビングシミュレータを患者が操作した場合の第2運転データを取得する第2取得部と、第2取得部において取得した第2運転データから指標を抽出する第2抽出部と、第2抽出部において抽出した指標を標準化することによって特徴量を生成する第2生成部と、学習部において学習させた分類モデルに、第2生成部において生成した特徴量を入力することによって、患者の運転技能が低下しているか、通常であるかを分類する分類部と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、精神疾患患者の自動車の運転技能を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施例において使用されるドライビングシミュレータの構成を示す図である。
図2図2(a)-(c)は、図1のスクリーンに表示される画面を示す図である。
図3】本実施例に係る分類装置の構成を示す図である。
図4図3の付与部に保持されるテーブルのデータ構造を示す図である。
図5図3の第1生成部における処理概要を示す図である。
図6図3の選択部における処理概要を示す図である。
図7図7(a)-(e)は、特徴量の箱ひげ図である。
図8図3の分類モデルの評価の平均と標準偏差を示す図である。
図9図3の分類部における分類結果を示す図である。
図10図3の分類装置による学習手順を示すフローチャートである。
図11図3の分類装置による分類手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本実施例を(1)概要、(2)分類手法、(3)ドライビングシミュレータ、(4)運転データ、(5)学習処理、(6)分類処理の順に説明する。
(1)概要
統合失調症は、妄想、幻覚といった陽性症状に加えて、本来有していた表情や言語を介したコミュニケーション能力の減弱等の陰性症状、さらに記憶、注意などの認知機能の低下など、様々な症状により社会的な機能を損なうことを特徴し、多くの場合慢性的な経過をとる精神疾患である。道路交通法第90条第1項によると、幻覚症状を伴う精神病であって政令で定めるものの患者に運転免許を与えない、または半年を超えない範囲内において運転免許を保留する、としている。統合失調症は政令で定められる免許取得を制限される幻覚症状を伴う精神病の一つである。また、同法103条第1項において、免許取得後に統合失調症に罹ったことが判明したとき、免許を取り消す、または免許の効力を停止すると定めている。なお、これらの対象となるのは自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断または操作のいずれかに係る能力を欠くこととなる恐れがある症状を呈する場合のみであり、そうでない場合は健常者と同様に免許を取得することが可能である。具体的には、運転免許取得及び更新の際に義務化されている質問票に1つ以上当てはまる項目がある場合に免許取得が制限される。その際、主治医の診断書の提出が必要となり、診断書をもとに公安委員会が免許取得の可否を判断することとなる。
【0011】
日本の統合失調症治療薬の添付文書は、一律に服薬中の運転を禁じているが、精神疾患患者の治療薬の服用が運転技能に与える影響は、エビデンス不足であるため不明瞭であるとも報告されている。また、米国、英国、豪、加においては、運転を明確に禁じている治療薬はないと報告されている。自動車運転は生活における移動手段として不可欠である点を鑑みると、精神疾患患者が治療により症状が軽快して社会的な機能を発揮するためには、当該患者に関する運転技能評価に資するエビデンスが、患者の日常生活を保証する上で必要である。しかしながら、統合失調症及び治療薬が運転技能に与える影響は十分に検証されておらず、臨床現場での精神疾患患者の運転技能の評価は困難である。
【0012】
以上を踏まえると、機械学習により運転データから運転技能を評価できるモデルを構築することで、臨床現場での精神疾患患者の運転技能評価方法を提供することが望まれる。そこで本実施例では、法律において定量的に定義されている運転技能低下の指標である血中アルコール濃度(Blood Alcohol Concentration; BAC)に着目し、精神疾患患者の幻覚を含む精神症状の重症度、服薬を含めた総合的な運転技能が相当するBACを予測することで、運転技能を評価する。精神疾患患者の運転技能をBACに基づき定量的に評価できれば、臨床現場において運転技能評価に資するエビデンスの提供が可能になる。また、精神疾患患者への適切な運転のリスク評価の診断情報を提供できると期待される。本実施例では、ドライビングシミュレータ(Driving Simulator; DS)を用いて精神疾患患者及び飲酒させた健常者から運転データを取得し、健常者の飲酒運転データと精神疾患患者の運転データをマッチングさせることで、患者のBACを参照し、運転技能を評価することを目指す。
【0013】
一方、これまで、向精神薬による運転技能の低下は、横揺れに関する指標を除き十分に検証された運転指標はないと報告されている。運転技能の評価指標として横揺れの標準偏差(Standard Deviation of Lateral Position;SDLP)が開発されており、SDLPは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬等の影響を受けることが検証されている。また、アルコールも同様にSDLPを増加させることが検証されており、再検査信頼性も検証されている。SDLPは、BACに依存的に増加し、任意のBACxmg/mLにおけるSDLP(SDLPx)と飲酒していない状態でのSDLP(SDLP0)の差ΔSDLPを用いた線形モデルによりBAC0.5mg/mL以上の飲酒状態を検出可能であるとしている。
【0014】
これより、本実施例では、健常者の運転技能低下の度合いがBACで定量的にラベリングされている飲酒運転データから、運転データが相当するBACを予測する機械学習モデルを構築する。運転技能低下とみなすBACのしきい値として、世界的な基準である0.5mg/mL(0.05%)を採用する。また、分類モデルの構築にはRUSBoostを使用する。
【0015】
(2)分類手法
1つのクラスのサンプル数が他のクラスのサンプル数を大幅に上回ると、ランダムフォレスト(Random Forest)またはサポートベクターマシン(Support Vector machine)などの不均衡データに対応できないアルゴリズムでは多数のサンプルを有するクラスに有利な分類傾向を有する。この問題に対応する手法として、多数、少数クラス間のサンプル数を均衡させるため、多数サンプルからランダムに少数サンプルと同数のサンプルを抽出し、残りを破棄するランダムアンダーサンプリング(Random Under Sampling:RUS)、また弱学習器を誤分類に焦点を当てて改善と弱学習器の重み付けを行い複数個の弱学習器を追加し、正確な分類を行うことのできる分類器を生成するブースティングなどの手法が存在する。さらに、RUSとブースティングとを組み合わせたハイブリッドアルゴリズムとして、RUSBoostが提案されている。
【0016】
本実施例では、弱学習器として決定木を採用する。RUSBoostではまず、入力したデータの説明変数の数をmとし、各説明変数の重みDが1/mに初期化される。
【数1】
以下の操作をt=1、2、・・・、Tまで繰り返す。多数クラスのランダムアンダーサンプリングによってクラス数が均一になるようサンプリングし、新たな重み付け分布Dt’を持つ一時的な学習用データセットSt’を生成、St’を決定木に渡しGini不純度を最小化する説明変数xi、k∈xのしきい値c (qk)を設定し、決定木を構築する。決定木のあるノードDにおけるサンプル数Nの左右の子ノードにおけるy∈[-1,1]の正解率πを計算し、説明変数xの弱仮説htを生成する。htはt回目における弱学習器の予測の信頼性を表す。
【数2】
【数3】
【0017】
元の学習データセットSとSの重み分布Dtに基づく疑似損失であるεtを計算する。
【数4】
重みを更新するパラメータαtを計算し、重み分布D’t+1(i)を求める。
【数5】
【数6】
更新した重み分布D’t+1(i)を正規化する。
【数7】
この操作をt=Tまで繰り返し、最終仮説H(x)は弱仮説の重み付き投票として返される。
【数8】
未知のデータに対してはT本の弱学習器である決定木の予測から、最終的な重み付け分布DTを用いた重み付け多数決によって分類予測を決定する。
【0018】
決定木における変数重要度とは、ある説明変数で枝ノードを分岐させたとき、Gini不純度をどれほど下げられるかを定量的に示した指標である。具体的に、以下の式で定義される。
【数9】
ここで、F(j)は説明変数jが枝ノードであるノードの集合、N(i)はあるノードiにおけるサンプル数、G(i)はあるノードiにおけるGini不純度、right、left(子ノード)はノードiにおいて左右に分割されたそれぞれのサンプル数であり、parent(親ノード)は子ノードの和である。
【0019】
(3)ドライビングシミュレータ
図1は、ドライビングシミュレータ100の構成を示す。ドライビングシミュレータ100は、コンピュータ110、プロジェクタ120、スクリーン130、椅子140、ハンドル150、アクセル・ブレーキ160を含む。コンピュータ110は、ドライビングシミュレータ100のソフトウエアプログラムを実行する。プロジェクタ120は、コンピュータ110に接続され、コンピュータ110においてソフトウエアプログラムの実行により生成された映像を、プロジェクタ120から例えば2.5m離れたスクリーン130に投影する。スクリーン130は、例えば80インチのサイズを有する。
【0020】
スクリーン130から例えば3.5m離れた位置には椅子140が設置される。ユーザ10は、椅子140に座って、スクリーン130に表示された映像を見ながら、ハンドル150とアクセル・ブレーキ160とを操作する。ハンドル150とアクセル・ブレーキ160はコンピュータ110に接続され、コンピュータ110は、ハンドル150とアクセル・ブレーキ160に対してなされて動作を運転データとしてサンプリング周期20msで記録する。
【0021】
ドライビングシミュレータ100における運転課題は、車線維持課題(The Road Tracking Test)、追走課題(The Car Following Test)、急ブレーキ課題(The Harsh Braking Test)である。図2(a)-(c)は、スクリーン130に表示される画面を示す。図2(a)は、車線維持課題での画面を示す。車線維持課題では、左右の緩やかなカーブを繰り返し、車線の中心を目標速度100km/hで走行する。また、健常者は1時間走行し、患者は5分間走行する。
【0022】
図2(b)は、追走課題での画面を示す。追走課題では、40-60km/hで5s毎に定速、加速、定速、減速を周期的に繰り返して直線に走行する前走行車に、車間距離を維持しつつ追走する。健常者、患者共に5分間走行する。図2(c)は、急ブレーキ課題での画面を示す。急ブレーキ課題では、目標速度50km/hで走行しながら、ランダムに飛び出す遠方から視認可能な障害物に対して、飛び出した直後に急停止する。健常者、患者共に障害物が7回飛び出すまで、約5分走行する。
【0023】
(4)運転データ
前述の3つの課題から運転データが取得される。運転データに含まれるデータは次の通りである。車線維持課題におけるデータには、走行速度[km/h]、アクセルペダル踏量[-](範囲(0-1))、ブレーキペダル踏量[-](範囲(0-1))、ハンドル操舵角[-](範囲(-1-1))、中央線.車体右側面間距離[mg/mL]、中央線はみ出しフラグ、左車線はみ出しフラグが主に含まれる。追走課題における生データには、走行速度[km/h]、アクセルペダル踏量[-](範囲(0-1))、ブレーキペダル踏量[-](範囲(0-1))、車間距離[m]、先行車の走行速度[km/h]、先行車の速度状態が主に含まれる。急ブレーキ課題におけるデータには、走行速度[km/h]、アクセルペダル踏量[-](範囲(0-1))、ブレーキペダル踏量[-]、範囲(0-1)、障害物飛び出しフラグ[-]、障害物衝突フラグ[-]が主に含まれる。
【0024】
本実施例では、図1のユーザ10として精神疾患患者(以下、「患者」という)の43名から運転データを取得し、健常者の25名(運転歴3年以上)から運転データを取得している。特に健常者に対しては、目標BAC4点(0%、0.025%、0.05%、0.09%)を設定した無作為化二重盲検交差試験によって別日に4度飲酒させ、各BACにおいて運転データを取得している。
【0025】
(5)学習処理
図3は、分類装置200の構成を示す。分類装置200は、第1処理部210、第2処理部212を含む。第1処理部210は、第1取得部220、第1抽出部222、付与部224、第1生成部226、選択部228、学習部230、分類モデル240を含む。第2処理部212は、分類モデル240、第2取得部250、第2抽出部252、第2生成部254、分類部256を含む。ここでは、第1処理部210と第2処理部212は、1つの装置である分類装置200に含まれる。しかしながら、第1処理部210と第2処理部212とが別の装置に含まれてもよい。例えば、第1処理部210が第1装置に含まれ、第2処理部212が第2装置に含まれてもよい。
【0026】
第1取得部220は、ドライビングシミュレータ100を健常者が操作した場合の運転データ(以下、「第1運転データ」という)を取得する。第1運転データは、前述の各データを含む。また、1人の健常者に対して、4種類のBACのそれぞれに対応したデータを含む。
【0027】
第1抽出部222は、第1取得部220において取得した第1運転データから指標を抽出する。指標は、1人の健常者に対して、BAC毎に抽出される。車線維持課題の第1運転データからは、(ア)から(ソ)の指標が抽出可能である。
【0028】
(ア) Steering Entropy(SE)
これは、ハンドルのステアリング動作の滑らかさを表現する指標であり、集中力の欠如等によるステアリング動作の不連続性を定量化する。また、これは、ハンドル操舵角の時系列履歴から取得される。
(イ) Standard Deviation of Lateral Position(SDLP)
これは、中央線.車体右側面間距離の標準偏差であり、運転技能の評価が十分に検証されている指標である。
(ウ)Standard Deviation of Speed(SDS)
これは、走行速度の標準偏差を示す。
(エ) total number of times the car body crosses the Right Lane(Inappropriate Right Line Crossing; IRLC)
これは、中央線を踏んだ合計回数を示す。
(オ) Total time to Inappropriate Right Line Crossing(TIRLC)
これは、中央線を踏みながら、または踏み越えて走行した総合時間を示す。
【0029】
(カ) Mean Time to Inappropriate Right Line Crossing(MIRLC)
これは、中央線を踏みながら、または踏み越えて走行した一回あたりの平均時間を示す。
(キ) Rightmost Distance(RD)
これは、走行課題の中で最も右に横揺れしたときの中央線-車体側面間距離を示す。
(ク) total number of times the car body crosses the Left Lane(Inappropriate Right Line Crossing; ILLC)
これは、路側帯を踏んだ合計回数を示す。
(ケ) Total time to Inappropriate Left Line Crossing(TILLC)
これは、路側帯を踏みながら、または踏み越えて走行した総合時間を示す。
(コ) Mean Time to Inappropriate Left Line Crossing(MILLC)
これは、路側帯を踏みながら、または踏み越えて走行した一回あたりの平均時間を示す。
【0030】
(サ) Lightmost Distance(LD)
これは、走行課題の中で最も左に横揺れしたときの中央線.車体側面間距離を示す。
(シ) Lateral Swaying Range(LSR)
これは、Leftmost DistanceとRightmost Distanceの差を示す。
(ス) total number of times the car body crosses the Lane(Inappropriate Line Crossing; ILC)
これは、中央線または路側帯を踏んだ合計回数を示す。
(セ) Total Time to Inappropriate Line Crossing(TILC)
これは、中央線または路側帯を踏みながら、または踏み越えて走行した総合時間を示す。
(ソ) ミーン Time to Inappropriate Line Crossing(MILC)
これは、中央線または路側帯を踏みながら、または踏み越えて走行した一回あたりの平均時間を示す。
【0031】
SDLPのほか、ILC、SDSは飲酒が運転技能に与える影響の評価の際に用いられてきた指標である。ILCは、先行研究において十分に飲酒や服薬による影響が検証されてきた指標ではないが、飲酒による有意な影響が報告されている指標である。ILCは横揺れと関する指標であるため、独自の横揺れの指標としてILCを中央線、路側帯に分けた指標IRLCとILLCが採用される。また、ILC、IRLC、ILLCにおいて、車線を踏んでいることを素早く認知し、対応できるかを測る独自の指標であるTILC、MILC、TIRLC、MIRLC、TILLC、MILLCが採用される。LSRは独自に追加した指標で、SDLPでは表現できない急性的に現れる運転技能、集中力の低下を表現する指標である。一度の操作の誤りにより大きく値が変化する指標となっているが、実車での運転では、急性的な集中力の低下は事故に直結し得るため、十分適切な指標であるといえる。
【0032】
追走課題の第1運転データからは、(タ)から(ハ)の指標が抽出可能である。
(タ) Standard Deviation of Speed Difference(SDSD)
これは、前走行車の走行速度と自車の追走速度の差の標準偏差を示す。
(チ) Standard Deviation of Speed Difference at a constant speed of 40km/h(SDSD-40)
これは、前走行車が定速40km/hで走行中のSDSDを示す。
(ツ) Standard Deviation of Speed Difference under Acceleration(SDSD-Accel)
これは、前走行車が加速中のSDSDを示す。
(テ) Standard Deviation of Speed Difference at a constant speed of 60km/h(SDSD-60)
これは、前走行車が定速60km/hで走行中のSDSDを示す。
(ト) Standard Deviation of Speed Difference under Deceleration(SDSD-Decel)
これは、前走行車が減速中のSDSDを示す。
【0033】
(ナ) Coefficient of Variation of the Distance to the preceding vehicle(DCV)
これは、前走行車との車間距離の変動係数を示し、運転中の注意や感覚機能を反映する指標である。
(ニ) Coefficient of Variation of the Distance to the preceding vehicle at a constant speed of 40km/h(DCV-40)
これは、前走行車が定速40km/hで走行中のDCVを示す。
(ヌ) Coefficient of Variation of the Distance to the preceding vehicle under Acceleration(DCV-Accel)
これは、前走行車が加速中のDCVを示す。
(ネ) Coefficient of Variation of the Distance to the preceding vehicle at a constant speed of 60km/h(DCV-60)
これは、定速60km/hで走行中のDCVを示す。
(ノ) Coefficient of Variation of the Distance to the preceding vehicle under Deceleration(DCV-Decel)
これは、前走行車の減速中におけるDCVを示す。
(ハ) Mean Time to Speed Adaptation(MTSA)
これは、前走行車の減速に対する速度の適応時間(Time to Speed Adaptation; TSA)の平均を示す。
【0034】
DCVは、車間距離の観点から安定して前走行車を追走できているか評価する指標であるが、速度の観点から安定して追走できているか評価する指標として独自の指標SDSDが採用される。追走課題は、前走行車が5秒周期で40km/h定速走行、60km/hまで加速、60km/h定速走行、40km/hまで減速を繰り返す。そのため、これまで用いられているDCV、独自に追加したSDSDについて、運転データから指標を取得するとともに、前走行車の各速度状態で分割して指標が抽出される。
【0035】
急ブレーキ課題の第1運転データからは、(ヒ)の指標が抽出可能である。
(ヒ) Mean Brake Reaction Time(MBRT)
これは、障害物飛び出しに対するブレーキ操作の反応時間(Brake Reaction Time;BRT)の平均を示す。
BRTは運転中の注意や認知・行動機能を反映する指標であるが、飲酒や服薬がBRTに与える影響の妥当性は十分に確認されていないため、副次的な指標として抽出される。
【0036】
付与部224は、第1抽出部222において抽出した指標のそれぞれに対してラベルを付与する。実測BACは運転試験直前及び直後に計測される。本実施例では、試験前後の実測BACの平均をBACラベルとして用いる。本実施例で扱うBACのしきい値は世界的な基準である0.5mg/mLである。BAC0.4mg/mL以下では交通事故リスクはわずかに増加するだけであるが、BAC0.5mg/mL前後では約2倍となることが報告されていることから、特にBACしきい値0.5mg/mLでの予測に対し着目する。
【0037】
図4は、付与部224に保持されるテーブルのデータ構造を示す。指標がしきい値(例えば0.5mg/mL)以上のBACに対応する場合、付与部224は、当該指標に運転技能低下ラベルを付与する。一方、指標がしきい値(例えば0.5mg/mL)より小さいBACに対応する場合、付与部224は、当該指標に運転技能通常ラベルを付与する。図3に戻る。運転技能低下のBACのしきい値を0.5mg/mLとしたとき、運転技能低下のラベルは21個、運転技能通常のラベルは79個の不均衡データとなる。そこで、しきい値0.5mg/mLにおいては不均衡データの分類に対応したアルゴリズムであるRUSBoostを用いて運転技能評価モデルを構築する。
【0038】
健常者の運転指標に行うスケーリングと同様のスケーリングを、患者の運転指標に対して行うことができる処理が必要である。そこで、第1生成部226は、抽出した各指標に対して、個人内の標準化の処理を行うことによって、特徴量をBAC毎に生成する。図5は、第1生成部226における処理概要を示す。個人内の標準化では、1人の健常者、つまり1つのIDに対する4つのデータが処理される。図3に戻る。ID「N」の健常者において、生成するBAC「n」mg/mLにおける特徴量x’N,nは、ID「N」の健常者のBAC「n」mg/mL時の指標xN,nと同一健常者内の目標BAC4点における4つの各運転指標xの平均μNと標準偏差σNから次のように計算される。
【数10】
【0039】
選択部228は、第1抽出部222において複数種類の指標が生成されており、変数重要度をもとに、複数種類の指標から、1種類以上の指標を選択する。具体的に説明すると、学習用データをランダムに20回入れ替えた全特徴量を用いたモデル構築における変数重要度の平均値が高い上位5つの特徴量が選択される。図6は、選択部228における処理概要を示す。これは、RUSBoostモデルにより算出された変数重要度の平均値を、平均値の大きい上位10個の特徴量に対して示した棒グラフである。これより、LSR、SDLP、LD、TIRLC、SEが選択される。図3に戻る。
【0040】
学習部230は、付与部224において付与した運転技能低下ラベルと運転技能通常ラベルのうちの1つと、第1生成部226において生成した特徴量とを分類モデル240に入力することによって、分類モデル240を学習する。特に、ここで、特徴量は、選択部228において選択された1種類以上の指標に対応する。
【0041】
(6)分類処理
第2取得部250は、ドライビングシミュレータ100を患者が操作した場合の運転データ(以下、「第2運転データ」という)を取得する。第2運転データも、第1運転データと同様に、前述の各データを含む。第2抽出部252は、取得した第2運転データから指標を抽出する。第2抽出部252において抽出される指標は、選択部228において選択される指標と同一である。そのため、第2抽出部252において抽出される指標は、LSR、SDLP、LD、TIRLC、SEである。
【0042】
第2生成部254は、第2抽出部252において抽出した指標を標準化することによって特徴量を生成する。例えば、健常者の上述の標準化を行う前の第1運転データから取得した平均と標準偏差を用いて標準化を行うことによって、特徴量が生成される。ID「M」の患者において、生成する特徴量x’は、患者の各指標x、BAC≧0.25mg/mLの条件を満たす健常者から取得した上述の標準化を行う前の第1運転データにおける平均μ≧0.25と標準偏差σ≧0.25から次のように計算される。
【数11】
【0043】
前述の学習処理において、健常者の飲酒運転データから患者の運転技能を評価する分類モデル240を構築する。そのため、健常者の運転技能に飲酒が与える影響と、患者の運転技能に精神症状や服薬などが与える影響が異なる特徴量を用いた場合、構築した分類モデル240は患者に対し適当な評価を行うことができない可能性がある。そこで、運転技能が低下した健常者群と、SDLPの観点から運転技能が低下していると見られる患者に対し、有意水準5%のt検定を行うことで特徴量の妥当性を確認する。t検定とは、2つのグループの平均値を比較するために用いられる統計検定の一種である。t検定は確率変数の確率分布を定義し、その分布のパラメータについて推論を行うパラメトリック法の一種であり、t検定を行う標本は等分散性、正規性を満たす必要がある。運転技能が低下していると見られる患者は、式(12)を満たす者とする。ここで、Pは患者、Hは健常者を表し、μは条件に合致する健常者のSDLPの平均、σは条件に合致する健常者のSDLPの標準偏差を表す。
【数12】
【0044】
また、BAC≧0.5mg/mLである健常者を運転技能低下の健常者とする。運転技能低下健常群と運転技能低下候補患者群の2群における、入力とする特徴量の箱ひげ図を図7(a)-(e)に示す。図7(a)-(e)は、特徴量の箱ひげ図である。この結果から、変数重要度によって選択した特徴量は全て運転技能低下と見られる患者群、運転技能が低下した健常者群の2群に有意差がなく、これらの特徴量は妥当であるといえる。
【0045】
ここでは、構築した分類モデル240の評価を説明する。構築した分類モデル240の評価のため、健常者10名分の運転データ40個をテスト用データとして分類モデル240の構築から除外し、健常者15名の目標BAC4点での運転データ60個を学習用データとして用いて分類モデル240を構築する。その際、データ数が十分に多くないので、学習用データ15人分とテスト用データ10人分をランダムに20回入れ替え分類モデル240を構築及び評価し、評価指標の平均と標準偏差でモデルの性能とロバスト性を評価する。
【0046】
分類モデル240におけるテスト用データの予測結果の評価指標として以下を用いる。
【数13】
正解率(Accuracy)は予測した分類が正しく分類できた割合、適合率(Precision)は陽性と予測したものが実際に陽性である割合、感度(Sensitivity)は実際に陽性であるものが陽性であると正しく予測できた割合、特異度(Specificity)は実際に陰性であるものが陰性であると正しく予測できた割合を表す。F値(F-measure)は適合率と感度の調和平均である。正解率が高くとも、感度もしくは適合率が低くF値が小さい場合には、予測が偏っている、テスト用データが偏っているなど、適切な評価を行うことができていない可能性が考えられる。そこで、F値が必要となる。G-meanは感度と特異度の幾何平均である。本実施例では、運転技能低下のBACのしきい値を0.5mg/mLとした場合、不均衡データとなるためにこの指標を用いる。特に、Positiveラベル(BAC0.5mg/mL以上)が少数クラスとなる。この場合の不均衡データにおいて、感度と特異度が高くとも適合率が低くなりやすい。したがってF値も低くなりやすいが、分類モデルとしては高い性能を持つことがある。そこで、感度と特異度のバランスとその大きさを表す評価指標であるG-meanを用いる。
【0047】
図8は、分類モデル240の評価の平均と標準偏差を示す。前述のごとく、学習用データとテスト用データをランダムに変更し20回モデルを構築し、モデルの性能とロバスト性を評価した。学習用データとして健常者15名、テスト用データとして健常者10名の運転データを用いた。BACに対するしきい値を0.5mg/mLとした場合のRUSBoostの評価は高いといえる。図3に戻る。
【0048】
分類部256は、学習部230において学習させた分類モデル240に、第2生成部254において生成した特徴量を入力することによって、患者の運転技能が低下しているか、通常であるかを分類する。図9は、分類部256における分類結果を示す。IDは患者の識別情報であり、運転技能低下であると分類された患者のIDに対して丸印が示される。ここでは、BACのしきい値0.5mg/mLにおいて運転技能が低下していると判断された患者はID4、6、10、13、15、25、26、28、34の9名である。
【0049】
この結果の妥当性を、(i)収集した服薬情報や服薬における副作用の大きさ、(ii)精神症状の重症度、(iii)運転歴から考察する。ここでは、考察する定量指標xが、平均μから標準偏差σの2倍を超えている(x>μ+2σ)患者に着目し考察を行う。なお、BAC0.5mg/mLは事故の危険性が約2倍と報告されており、十分に運転技能低下であるといえる。
【0050】
(i)服薬量と副作用
本実施例の被験者である患者43名が服薬している医薬品は多岐に渡り、これらの医薬品の影響を個別に評価することは難しい。そこで、服薬量を等価に比較する換算値を用いる。等価換算には、向精神薬の等価換算であるクロルプロマジン換算(CP換算)、催眠鎮静薬の等価換算であるジアゼパム換算(DZP換算)、抗うつ薬の等価換算であるイミプラミン換算(IM換算)を用いる。CP換算では883mgが対象であり、この値を超えて向精神薬を服用している患者はID6のみであった。本モデルはID6に対し運転技能低下の判定をしており、服薬状態から運転技能に影響があると考えられる患者を運転技能低下と判定できているといえる。DZP換算では、13.3mgが対象であるが、この値を超えて催眠鎮静薬を服用している患者はいなかった。DZP換算対象であるベンゾジアゼピン系の抗不安薬の慢性的な服薬や服薬量の増加は、心理的、身体的症状の漸増により転倒や骨折、交通事故の危険性を高めるとされているが、本モデルではベンゾジアゼピン系の医薬品を服薬している患者に対して運転技能低下と判定しなかった。このことから、ベンゾジアゼピン系の服薬をしていても多量でなければ運転に支障はないことが示唆された。
【0051】
服薬における副作用の大きさを評価する指標として、全9項目を0-4の5段階で評価する薬原性錐体外路症状評価尺度(Drug-induced Extrapyramidal SymptomsScale;DIEPSS)を用いる。DIEPSSは3.37を越える患者を対象としており、対象となる患者はID26、28の2名であった。この2名はCP換算値、DZP換算値がμ+2σを超えてはないが、CP換算が両名800mgを超えており、多量服薬しているといえる。また、ID26は全患者の中で最もDZP換算値が高い。本モデルは、この2名に運転技能低下の判定をしており、副作用及び服薬の観点から、本モデルは運転技能に影響があると考えられる患者を運転技能低下と判定できている。
【0052】
(ii)精神症状の重症度
簡易精神症状評価尺度(Brief PsychiatryRating Scale;BPRS)は、統合失調症に生じる幻覚を含む精神症状の重症度を全18項目の評価項目でそれぞれ7段階の評価を行う評価項目である。BPRSにおいて、46.6を越えるスコアを持つ患者を対象とし、ID25、26、27、28の4名が対象となる。ID27は運転技能低下の判定をされていないが、ID25、26、28の3名は運転技能低下の判定をされており、本モデルは精神症状の重症度から運転技能への影響があると考えられる患者を運転技能低下と判定できている。
【0053】
(iii)運転習慣
本実施例の精神疾患患者の被験者には、運転免許を持っているが運転習慣が一切ない患者が含まれる。運転習慣が全くない患者はID4、12、25、26、28、37、39、41の9名である。これらの患者は、精神症状の重症度や服薬などに特筆すべき点がない場合でも、運転技能の低さから運転技能低下であると判定される可能性がある。この9名のうち、運転技能低下であると判定されたのはID4、25、26、28の4名であった。この4名のうち、ID4は服薬のCP換算値が大きく、ID25、26、28の3名は、BPRSの評価が大きい患者であった。このことから、本モデルは、運転習慣がない患者であって、服薬量が多い、重症度の高いなど他の要因を持つ患者に運転技能低下と判定する可能性が示唆された。
【0054】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU(Central Processing Unit)、メモリ、その他のLSI(Large Scale Integration)で実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0055】
以上の構成による分類装置200の動作を説明する。図10は、分類装置200による学習手順を示すフローチャートである。第1取得部220は、健常者がドライビングシミュレータ100を操作することによって第1運転データを取得する(S10)。第1生成部226は、第1運転データを処理することによって特徴量を生成する(S12)。学習部230は、特徴量を使用して分類モデル240を学習する(S14)。
【0056】
図11は、分類装置200による分類手順を示すフローチャートである。第2取得部250は、患者がドライビングシミュレータ100を操作することによって第2運転データを取得する(S50)。第2生成部254は、第2運転データを処理することによって特徴量を生成する(S52)。分類部256は、特徴量を分類モデル240に入力することによって患者の運転を分類する(S54)。
【0057】
本実施例によれば、BACを変えながら健常者から取得した第1運転データをもとに生成した特徴量により分類モデルを学習させ、患者から取得した第2運転データをもとに生成した特徴量に対して分類モデルを使用するので、精神疾患患者の運転を分類できる。また、BACを変えながら健常者から取得した第1運転データをもとに生成した特徴量により分類モデルを学習させるので、患者の運転を分類するための分類モデルを学習できる。また、BACに対するしきい値0.5mg/mLを設定して分類モデルを学習するので、運転技能低下を正確に判定できる。また、変数重要度の高い指標を使用するので、分類の精度を向上できる。また、変数重要度をもとに指標を選択するので、処理量を低減できる。また、学習処理を実行する第1装置と、分類処理を実行する第2装置とが別であるので、構成の自由度を向上できる。また、学習処理と分類処理を1つの装置において実行するので、構成の自由度を向上できる。
【0058】
本開示の一態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の分類システムは、ドライビングシミュレータを健常者が操作した場合の第1運転データであって、複数種類の血中アルコール濃度のそれぞれに対応した第1運転データを取得する第1取得部と、第1取得部において取得した第1運転データから指標を血中アルコール濃度毎に抽出する第1抽出部と、第1抽出部において抽出した指標がしきい値以上の血中アルコール濃度に対応する場合、指標に運転技能低下ラベルを付与し、第1抽出部において抽出した指標がしきい値より小さい血中アルコール濃度に対応する場合、指標に運転技能通常ラベルを付与する付与部と、第1抽出部において抽出した指標を標準化することによって特徴量を血中アルコール濃度毎に生成する第1生成部と、付与部において付与した運転技能低下ラベルと運転技能通常ラベルのうちの1つと、第1生成部において生成した特徴量とを分類モデルに入力することによって、分類モデルを学習する学習部と、ドライビングシミュレータを患者が操作した場合の第2運転データを取得する第2取得部と、第2取得部において取得した第2運転データから指標を抽出する第2抽出部と、第2抽出部において抽出した指標を標準化することによって特徴量を生成する第2生成部と、学習部において学習させた分類モデルに、第2生成部において生成した特徴量を入力することによって、患者の運転技能が低下しているか、通常であるかを分類する分類部と、を備える。
【0059】
この態様によると、血中アルコール濃度を変えながら健常者から取得した第1運転データをもとに分類モデルを学習させ、患者から取得した第2運転データに対して分類モデルを使用するので、精神疾患患者の自動車の運転技能を評価できる。
【0060】
第1抽出部において抽出される指標は、SDLP(Standard Deviation of Lateral Position)、LSR(Lightmost Distance)を少なくとも含んでもよい。第2抽出部において抽出される指標は、SDLP、LSRを少なくとも含んでもよい。この場合、変数重要度の高い指標を使用するので、分類の精度を向上できる。
【0061】
第1抽出部において複数種類の指標が生成されており、変数重要度をもとに、複数種類の指標から、1種類以上の指標を選択する選択部をさらに備えてもよい。学習部は、選択部において選択された1種類以上の指標を使用してもよい。この場合、変数重要度をもとに指標を選択するので、処理量を低減できる。
【0062】
第1取得部と第1抽出部と付与部と第1生成部と学習部は、第1装置において実行され、第2取得部と第2抽出部と第2生成部と分類部は、第1装置とは異なる第2装置において実行されてもよい。この場合、学習処理を実行する第1装置と、分類処理を実行する第2装置とが別であるので、構成の自由度を向上できる。
【0063】
第1取得部と第1抽出部と付与部と第1生成部と学習部と第2取得部と第2抽出部と第2生成部と分類部は、1つの装置において実行されてもよい。この場合、学習処理と分類処理を1つの装置において実行するので、構成の自由度を向上できる。
【0064】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0065】
10 ユーザ、 100 ドライビングシミュレータ、 110 コンピュータ、 120 プロジェクタ、 130 スクリーン、 140 椅子、 150 ハンドル、 160 アクセル・ブレーキ、 200 分類装置、 210 第1処理部、 212 第2処理部、 220 第1取得部、 222 第1抽出部、 224 付与部、 226 第1生成部、 228 選択部、 230 学習部、 240 分類モデル、 250 第2取得部、 252 第2抽出部、 254 第2生成部、 256 分類部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11