(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062115
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】複合材パイプの製造方法、複合材パイプ
(51)【国際特許分類】
B29C 43/34 20060101AFI20240430BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240430BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240430BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20240430BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240430BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
B29C43/34
B29C70/42
B29C70/10
B29C43/18
B29K105:08
B29L23:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169899
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸生
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AD16
4F204AD21
4F204AG03
4F204AG08
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FF05
4F204FG02
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AC03
4F205AD16
4F205AD21
4F205AG03
4F205AG08
4F205HA02
4F205HA08
4F205HA25
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC05
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HL02
4F205HL15
4F205HL22
4F205HM13
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】中子から容易に脱型する。
【解決手段】本開示に係る複合材パイプの製造方法は、軸線方向に延びる中子の外周面に、プリプレグ積層体を巻き付ける工程と、中子に巻きつけられたプリプレグ積層体を外周側からプレスしながら加熱する工程と、を含み、プリプレグ積層体は、中子の外周面に接触するとともに、軸線方向に対して斜めに交差する二軸方向に延びるバイアスクロス繊維からなるバイアスクロス材と、バイアスクロス材の外周側に積層されて、軸線方向及び中子の外周面の周方向の二軸方向に延びる格子状クロス繊維からなる格子状クロス材と、格子状クロス材の外周側に積層されて、繊維基材及び繊維基材に含侵された樹脂を有するシート状のプリプレグと、を有し、プレスしながら加熱する工程では、プリプレグの樹脂を溶融させて、格子状クロス材及びバイアスクロス材にプリプレグの樹脂を含侵させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる中子の外周面に、プリプレグ積層体を巻き付ける工程と、
前記中子に巻きつけられたプリプレグ積層体を外周側からプレスしながら加熱する工程と、
を含み、
前記プリプレグ積層体は、
前記中子の外周面に接触するとともに、前記軸線方向に対して斜めに交差する二軸方向に延びるバイアスクロス繊維からなるバイアスクロス材と、
前記バイアスクロス材の外周側に積層されて、前記軸線方向及び前記中子の外周面の周方向の二軸方向に延びる格子状クロス繊維からなる格子状クロス材と、
前記格子状クロス材の外周側に積層されて、繊維基材及び前記繊維基材に含侵された樹脂を有するシート状のプリプレグと、
を有し、
前記プレスしながら加熱する工程では、前記プリプレグの前記樹脂を溶融させて、前記格子状クロス材及び前記バイアスクロス材に前記プリプレグの前記樹脂を含侵させる
複合材パイプの製造方法。
【請求項2】
前記バイアスクロス材に前記格子状クロス材を積層した第一積層部を複数繰り返し積層し、複数積層された前記第一積層部の最外周の前記格子状クロス材の外周側に前記プリプレグを積層する
請求項1に記載の複合材パイプの製造方法。
【請求項3】
前記第一積層部に他の前記第一積層部を積層する際に、前記第一積層部と、他の前記第一積層部との間に、前記樹脂を含む樹脂シートを挟み込み、
前記プレスしながら加熱する工程では、前記プリプレグの前記樹脂に加えて、前記樹脂シートの前記樹脂を溶融させて、前記プリプレグ及び前記樹脂シートの前記樹脂を前記格子状クロス材及び前記バイアスクロス材に含侵させる
請求項2に記載の複合材パイプの製造方法。
【請求項4】
前記プリプレグ積層体を巻き付ける工程では、
前記プリプレグ積層体をプレスする方向と交差する方向を向く前記中子の外面の外周側に前記バイアスクロス材及び前記格子状クロス材の周方向の端縁を配置する
請求項1から3の何れか一項に記載の複合材パイプの製造方法。
【請求項5】
前記プリプレグ積層体を巻き付ける工程では、
少なくとも樹脂含侵されていない前記バイアスクロス材及び前記格子状クロス材をのり付けしながら巻きつける
請求項1から3の何れか一項に記載の複合材パイプの製造方法。
【請求項6】
軸線方向に延びる筒状をなし、前記軸線方向に対して斜めに交差する二軸方向に延びるバイアスクロス繊維からなるバイアスクロス材と、
前記バイアスクロス材の外周側に積層された筒状をなし、前記軸線方向及び前記筒状の軸線を中心とした周方向の二軸方向に延びる格子状クロス繊維からなる格子状クロス材と、
前記格子状クロス材の外周側に積層された筒状をなす繊維基材と、
樹脂からなり、前記バイアスクロス材、前記格子状クロス材及び前記繊維基材を内包するとともに前記軸線を中心とした筒状をなすパイプ本体と、
を備える複合材パイプ。
【請求項7】
前記バイアスクロス材に前記格子状クロス材を積層した第一積層部が、複数積層されている
請求項6に記載の複合材パイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材パイプの製造方法、複合材パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、角筒状の中子にプリプレグを巻回及び積層して、分割型を用いて加熱及び加圧しながら成形するFRP(Fiber Reinforced Plastics)製角パイプの成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている成型方法では、加熱及び加圧後に冷却してから脱型することとなるが、巻回及び積層したプリプレグは冷却時の熱収縮が大きく、中子の脱型が困難になる場合があるという課題がある。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、中子から容易に脱型することが可能な複合材パイプの製造方法、複合材パイプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために以下の構成を採用する。
本開示の一態様によれば、複合材パイプの製造方法は、軸線方向に延びる中子の外周面に、プリプレグ積層体を巻き付ける工程と、前記中子に巻きつけられたプリプレグ積層体を外周側からプレスしながら加熱する工程と、を含む。前記プリプレグ積層体は、前記中子の外周面に接触するとともに、前記軸線方向に対して斜めに交差する二軸方向に延びるバイアスクロス繊維からなるバイアスクロス材と、前記バイアスクロス材の外周側に積層されて、前記軸線方向及び前記中子の外周面の周方向の二軸方向に延びる格子状クロス繊維からなる格子状クロス材と、前記格子状クロス材の外周側に積層されて、繊維基材及び前記繊維基材に含侵された樹脂を有するシート状のプリプレグと、を有する。前記プレスしながら加熱する工程では、前記プリプレグの前記樹脂を溶融させて、前記格子状クロス材及び前記バイアスクロス材に前記プリプレグの前記樹脂を含侵させる。
【0006】
本開示の一態様によれば、複合材パイプは、筒状をなし、該筒状の軸線に対して斜めに交差する二軸方向に延びるバイアスクロス繊維からなるバイアスクロス材と、前記バイアスクロス材の外周側に積層された筒状をなし、前記軸線の延びる軸線方向及び前記軸線を中心とした周方向の二軸方向に延びる繊維からなる格子状クロス材と、前記格子状クロス材の外周側に積層された筒状をなす繊維基材と、樹脂からなり、前記バイアスクロス材、前記格子状クロス材及び前記繊維基材を内包するとともに前記軸線を中心とした筒状をなすパイプ本体と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、中子から容易に脱型することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態における複合材パイプを示す斜視断面図である。
【
図2】本開示の実施形態における複合材パイプの断面図である。
【
図3】本開示の実施形態におけるバイアスクロス材を拡大した平面図である。
【
図4】本開示の実施形態における格子状クロス材を拡大した平面図である。
【
図5】本開示の実施形態におけるプリプレグを拡大した平面図である。
【
図6】本開示の実施形態における複合材パイプの製造方法のフローチャートである。
【
図7】本開示の実施形態における中子を示す斜視図である。
【
図8】中子にバイアスクロス材、格子状クロス材、プリプレグを順に積層した状態を示す断面図である。
【
図9】複合材をプレスしながら加熱する装置の概略構成を示す図である。
【
図10】本開示の実施形態の第一変形例におけるプリプレグ積層体を中子に巻き付けた状態を示す断面図である。
【
図11】本開示の実施形態の第二変形例におけるプリプレグ積層体が中子に巻き付けられた状態を示す断面図である。
【
図12】本開示の実施形態の第三変形例における複合材をプレスしながら加熱する装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本開示の一実施形態に係る複合材パイプの製造方法、複合材パイプを図面に基づき説明する。
<実施形態>
(複合材パイプ)
図1、
図2に示すように、本実施形態における複合材パイプ1は、それぞれ軸線方向Daに延びる筒状をなしたバイアスクロス材2と、格子状クロス材3と、繊維基材4と、パイプ本体5と、を備えている。本実施形態では、複合材パイプ1の断面輪郭が矩形状をなし軸線方向Daに延びる角筒状である場合を例示しているが、この形状に限られない。複合材パイプ1の断面輪郭の形状としては、円形状や、矩形状以外の多角形状等を例示できる。なお、軸線方向Daとは、筒状をなす複合材パイプ1の軸線aが延びる方向である。
【0010】
図3は、本開示の実施形態におけるバイアスクロス材を拡大した平面図である。
図4は、本開示の実施形態における格子状クロス材を拡大した平面図である。
図5は、本開示の実施形態における繊維基材4を拡大した平面図である。
バイアスクロス材2は、軸線aに対して斜めに交差する方向である二軸方向に延びるバイアスクロス繊維12からなる。
図3に示すように、本実施形態のバイアスクロス繊維12は、二軸方向D1,D2として、軸線方向Daを0度として、+45度ずれた方向、及び-45度ずれた方向にそれぞれ延びている場合を例示している。なお、バイアスクロス繊維12の延びる方向は、軸線aに対して±45度ずれた二軸方向D1,D2に限られず、例えば、軸線方向Daに対する角度の絶対値が、0度よりも大きく90度よりも小さい範囲であればよく、例えば、20度から70度の角度範囲とするのが好ましく、40度から50度の角度範囲とするのがより好ましい。
【0011】
バイアスクロス材2は、上記の二軸方向D1,D2に延びるバイアスクロス繊維12を経糸及び緯糸として、例えば、平織、綾織、朱子織等した織物である。
図3では、平織の場合を例示している。バイアスクロス繊維12としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を例示できる。このような繊維織物からなるバイアスクロス材2は、樹脂含侵されていない状態では、少なくとも軸線方向Da及び軸線aを中心とした周方向Dcへの伸縮性に優れている。また、本実施形態のバイアスクロス繊維12は、開繊されていない。本実施形態のバイアスクロス繊維12は、開繊されていないため、トウ同士の摩擦が小さくなり、開繊している場合と比較して柔軟性の点で優れている。なお、開繊されていないバイアスクロス繊維12に限られない。例えば、必要十分な柔軟性を担保できる場合等には、開繊されたバイアスクロス繊維12を用いるようにしてもよい。
【0012】
格子状クロス材3は、バイアスクロス材2の外周側に積層されている。軸線方向Da及び周方向Dcの二軸方向に延びる格子状クロス繊維23からなる。
図4に示すように、本実施形態の格子状クロス材3は、軸線aに平行に延びる格子状クロス繊維23と、軸線aと垂直な周方向Dcに延びる格子状クロス繊維23とを含んでいる。言い換えれば、格子状クロス材3の格子状クロス繊維23は、二軸方向として軸線aに対して0度の方向と、軸線aに対して90度の方向とに延びている。
【0013】
格子状クロス材3は、上記の格子状クロス繊維23を経糸及び緯糸として、例えば、平織、綾織、朱子織等した織物である。
図4では、平織の場合を例示している。バイアスクロス繊維12としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を例示できる。
【0014】
繊維基材4は、格子状クロス材3の外周側に積層されている。繊維基材4は、後述するシート状のプリプレグ6の強化繊維からなる。繊維基材4は、平織、綾織、朱子織等した繊維織物や、一方向に延びる方向性を有した繊維や、方向性を有さない不連続繊維により形成される場合を例示できる。
図5に示す繊維基材4は、平織した繊維織物である場合を例示している。繊維基材4を構成する繊維としては、樹脂を含侵可能な繊維であれば如何なる繊維であってもよい。繊維基材4としては、バイアスクロス材2や格子状クロス材3と同様に、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を例示できる。なお、繊維基材4が平織の繊維織物である場合の繊維の向きは、
図5に示す向きに限られない。
【0015】
図2に示すように、パイプ本体5は、マトリックスと称される部分であり、合成樹脂(以下、単に樹脂と称する)からなる。パイプ本体5は、バイアスクロス材2、格子状クロス材3及び繊維基材4を内包している。パイプ本体5は、軸線aを中心とした筒状をなしている。パイプ本体5を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂と、熱可塑性樹脂とを例示できる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂を例示できる。なお、これら熱硬化性樹脂は一種又は二種以上の混合物として用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドを例示できる。
【0016】
(複合材パイプの製造方法)
次に、上述した複合材パイプ1の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図6は、本開示の実施形態における複合材パイプの製造方法のフローチャートである。
図7は、本開示の実施形態における中子を示す斜視図である。
図8は、中子にバイアスクロス材、格子状クロス材、プリプレグを順に積層した状態を示す断面図である。
図9は、複合材をプレスしながら加熱する装置の概略構成を示す図である。
【0017】
図6に示すように、実施形態の複合材パイプ1の製造方法では、プリプレグ積層体を巻き付ける工程S01と、プレスしながら加熱する工程S02とを含んでいる。
プリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、軸線方向Daに延びる中子40(
図7参照)の外周面41に、プリプレグ積層体30(
図8参照)を巻き付ける。本実施形態のプリプレグ積層体30は、樹脂を含侵していないバイアスクロス材2と、樹脂を含侵していない格子状クロス材3と、樹脂含侵されているプリプレグ6と、を有している。プリプレグ6は、シート状に形成され、繊維基材4及び繊維基材4に含侵された樹脂により構成されている。
【0018】
(プリプレグ積層体を巻き付ける工程)
中子40は、軸線方向Daに延びる角筒状に形成されている。つまり、軸線aに垂直な中子40の断面輪郭は矩形状をなしている。中子40は、例えば、アルミニウム等の金属により形成することができる。角筒状をなす本実施形態の中子40は、その外面(外周面)を形成する四つの平面41a,41b,41c,41dを有している。
【0019】
図8に示すように、プリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、まず、中子40の外周面41にバイアスクロス材2を巻き付ける。より具体的には、バイアスクロス材2を中子40の外周面41に巻きつける際、バイアスクロス繊維12(
図4参照)が軸線方向Daに対して斜めに交差する二軸方向D1,D2に延びるように巻き付ける。また、バイアスクロス材2は、樹脂含侵されていないため、のり付けしながら中子40に巻き付ける。のり付けを行うための糊としては、スチレンにエポキシ樹脂を溶かした溶材を例示できる。のり付けの方法としては、スプレー糊としてバイアスクロス材2に吹き付けたり、刷毛塗りしたりしてもよい。また、のり付けを行う箇所としては、巻き始めの端縁2a及び巻き終わりの端縁2bの近傍を例示できる。
【0020】
次いで、プリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、格子状クロス材3をバイアスクロス材2の外周側に巻き付ける。より具体的には、格子状クロス材3をバイアスクロス材2の外周側に巻きつける際、格子状クロス繊維23(
図5参照)が軸線方向Da及び周方向Dcの二軸方向に延びるように巻き付ける。また、格子状クロス材3は、バイアスクロス材2と同様に、樹脂含侵されていないため、のり付けしながらバイアスクロス材2の外周側に巻き付ける。なお、糊、のり付けの方法、及び、のり付け箇所は、上述したバイアスクロス材2と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0021】
プリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、更に、格子状クロス材3の外周側にプリプレグ6を巻き付ける。プリプレグ6としては樹脂の体積含有率(言い換えれば、プリプレグの樹脂の体積率)の高い織物プリプレグを用いている。樹脂の体積含有率が高いプリプレグ6としては、繊維の体積含有率が50%未満のプリプレグを例示できる。
【0022】
本実施形態のプリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、バイアスクロス材2の周方向Dcの端縁である巻き始めの端縁2a、巻き終わりの端縁2bは、後述するプレスする方向Dp(
図9参照)と交差する方向を向く中子40の外周面41の外周側に配置している。同様に、本実施形態のプリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、格子状クロス材3の周方向Dcの端縁である巻き始めの端縁3a、巻き終わりの端縁3bは、後述するプレスする方向Dp(
図9参照)と交差する方向を向く中子40の外面の外周側に配置している。
【0023】
ここで、本実施形態では、巻き始めの端縁2a、巻き終わりの端縁2b、巻き始めの端縁3a、及び、巻き終わりの端縁3bは、何れも、周方向Dcで平面41aの外周側となる位置に配されている場合を例示しているが、この配置に限られない。軸線aを挟んで平面41aと背合わせの配置となる平面41cの外周側に配されていてもよい。また、端縁2a,2b,3a,3bは、平面41aの外周側と平面41cの外周側とに分散配置されていてもよい。さらに、プリプレグ6の巻き始めの端縁6a及び巻き終わりの端縁6bも、後述するプレスする方向Dp(
図9参照)と交差する方向を向く中子40の外周面41の外周側に配置するようにしてもよい。なお、本実施形態の端縁2a,2b,3a,3b,6a,6bは、それぞれ軸線方向Daに延びている。しかし、これら端縁2a,2b,3a,3b,6a,6bは、軸線方向Daに対して傾斜する方向に延びていてもよい。
【0024】
(プレスしながら加熱する工程)
プレスしながら加熱する工程S02では、プレスしながらプリプレグ6の樹脂を溶融させて、格子状クロス材3及びバイアスクロス材2に、溶融したプリプレグ6の樹脂を含侵させる。より具体的には、
図9に示すように、中子40と、この中子40の外周面41に巻きつけられたプリプレグ積層体30とを型50内に配置する。本実施形態の型50は、有底筒状の下型51と、下型51の開口を閉塞可能な上型52とを備えている。そして、上型52が下型51の底面53に近づく方向をプレスする方向Dpとして、図示しないプレス装置によりプレス可能となっている。また、下型51及び上型52は、図示しない加熱装置により所定温度で加熱可能となっている。これにより、型50内に配置されたプリプレグ積層体30は、所定時間プレスされながら所定温度で加熱される。ここで、所定時間及び所定温度とは、プリプレグ6の樹脂が溶けて格子状クロス材3及びバイアスクロス材2に十分に含侵して硬化可能な時間及び温度であり、プリプレグ6の樹脂の種類等に応じて設定される。
【0025】
格子状クロス材3及びバイアスクロス材2に含侵した樹脂が硬化すると、プレス及び加熱を終了する。これにより、中子40に巻き付けられたプリプレグ積層体30が、バイアスクロス材2と、格子状クロス材3と、繊維基材4と、これらを内包するパイプ本体5とを備えた複合材パイプ1になる。
その後、型50内で成形された複合材パイプ1は、所定時間放置するなどして冷却された後に、型50から脱型される。また、型50から脱型された複合材パイプ1の内周側には、中子40が残った状態であるため、複合材パイプ1から軸線方向Daに中子40を抜き取る。
【0026】
(作用効果)
上述した実施形態では、プリプレグ積層体30が、中子40の外周面41に接触するとともに、軸線方向Daに対して斜めに交差する二軸方向D1,D2に延びるバイアスクロス繊維12からなるバイアスクロス材2と、バイアスクロス材2の外周側に積層されて、軸線方向Da及び中子40の外周面41の周方向Dcの二軸方向に延びる格子状クロス繊維23からなる格子状クロス材3と、格子状クロス材3の外周側に積層されて、繊維基材4及び繊維基材4に含侵された樹脂を有するシート状のプリプレグ6と、を備えている。そして、プレスしながら加熱する工程S02では、プリプレグ6の樹脂を溶融させて、格子状クロス材3及びバイアスクロス材2にプリプレグ6の樹脂を含侵させている。
【0027】
上記プレスしながら加熱する工程S02では、中子40が加熱されて熱膨張する。この際、格子状クロス繊維23が周方向Dcに延びていることから、中子40が熱膨張することを抑える力が働く。一方で、中子40が冷却されて収縮する際には、周方向Dcに延びる格子状クロス繊維23により樹脂の収縮を抑えることができる。そのため、成形された複合材パイプ1が中子40に追従して収縮することを抑えることができ、したがって、容易に中子40から脱型することが可能となる。
【0028】
さらに、バイアスクロス材2に予め樹脂を含侵させていた場合、樹脂の含侵する量が多くなり過ぎて、樹脂が硬化する際に複合材パイプ1の板厚方向への収縮が先に起こり易くなる可能性が有る。しかし、上記実施形態では、樹脂を含侵していないバイアスクロス材2を中子40に巻きつけて、プリプレグ6の樹脂を溶融させて含侵させているため、含侵する樹脂の量が多くなり過ぎることを抑制でき、その結果、バイアスクロス材2の硬化収縮を抑えることが可能となる。
【0029】
また、バイアスクロス材2は、軸線方向Da及び周方向Dcに伸縮性を有している。このようなバイアスクロス材2を中子40に巻きつけることで、中子40を抜き取る際に、格子状クロス材3に掛かる負荷を軽減して、格子状クロス材3を保護することができる。
【0030】
上述した実施形態のプリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、更に、プリプレグ積層体30をプレスする方向Dpと交差する方向を向く中子40の外面の外周側にバイアスクロス材2及び格子状クロス材3の周方向Dcの端縁2a,2b,3a,3cを配置している。
これにより、プレス成形する際に、バイアスクロス材2及び格子状クロス材3の周方向Dcの端縁2a,2b,3a,3cの位置に掛かる負荷を軽減できる。
【0031】
上述した実施形態のプリプレグ積層体を巻き付ける工程S01では、さらに、樹脂含侵されていないバイアスクロス材2及び格子状クロス材3をのり付けしながら巻きつけている。
これにより、樹脂含侵されていないバイアスクロス材2及び格子状クロス材3を中子40の外周側に容易に巻き付けることが可能となる。
【0032】
(実施形態の第一変形例)
次に、本開示の実施形態の第一変形例を図面に基づき説明する。この実施形態の第一変形例は、上述した実施形態に対して、バイアスクロス材2及び格子状クロス材3を追加したものである。そのため、上述した実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複する説明を省略する。
【0033】
図10は、本開示の実施形態の第一変形例におけるプリプレグ積層体を中子に巻き付けた状態を示す断面図である。
図10に示すように、実施形態の第一変形例におけるプリプレグ積層体130は、バイアスクロス材2に格子状クロス材3を積層した第一積層部123を複数備えている。具体的には、この実施形態の第一変形例におけるプリプレグ積層体130は、中子40の外周側に二つの第一積層部123を有している。そして、これら二つの第一積層部123のうち外周側に積層された第一積層部123の外周側に、プリプレグ6が積層されている。
【0034】
この実施形態の第一変形例によれば、複数の格子状クロス材3を積層することとなるため、冗長性を持たせることができるとともに、強度を向上することが可能となる。また、一般に、板厚を増加させると硬化収縮力が大きくなるが、複数の格子状クロス材3を積層して強度を向上させているため、この硬化収縮力に対抗することが可能となる。したがって、中子40から容易に脱型可能としつつ、複合材パイプ1の板厚を容易に増加させることができる。さらに、隣り合う二つの格子状クロス材3の間に積層されたバイアスクロス材2をクッションとして機能させることができるため、プレスや膨張収縮時に隣り合う二つの格子状クロス材3同士が干渉せず、格子状クロス材3へ掛かる負荷を軽減することが可能となる。
なお、
図10では、第一積層部123を中子40に二重に巻き付ける場合を一例にして説明したが、第一積層部123を積層する数は二つに限られず、例えば、三つ以上であってもよい。
【0035】
(実施形態の第二変形例)
図11は、本開示の実施形態の第二変形例におけるプリプレグ積層体が中子に巻き付けられた状態を示す断面図である。
上述した実施形態の第一変形例では、プリプレグ積層体130が、複数の第一積層部123を備える場合について説明した。この実施形態の第一変形例の場合、第一積層部123の数が増えるにつれて、最も外周側に積層されたプリプレグ6の樹脂だけでは、全てのバイアスクロス材2及び全ての格子状クロス材3に樹脂を含侵させることが困難になる可能性がある。
【0036】
そこで、この実施形態の第二変形例では、
図11に示すプリプレグ積層体230のように、隣り合う第一積層部123の間に、内周側に配置された第一積層部123へ樹脂を供給するための樹脂シート106を挟み込むようにしてもよい。
【0037】
このようにすることで、プレスしながら加熱する工程S02では、プリプレグ6の樹脂に加えて、樹脂シート106の樹脂を溶融させて、これらプリプレグ6及び樹脂シート106の樹脂を格子状クロス材3及びバイアスクロス材2に含侵させることが可能となる。
したがって、複数の第一積層部123を備える場合に、プリプレグ6のみでは内周側の第一積層部123への樹脂の供給量が不足するような場合であっても、隣り合う第一積層部123の間に挟まれた樹脂シート106から必要十分な量の樹脂を内側の第一積層部123に容易に供給することが可能となる。
なお、樹脂シート106を用いる場合について説明したが、樹脂シート106は、樹脂を供給できる構成であればよく、例えば、プリプレグ6と同様に、繊維に樹脂を含侵させたプリプレグであってもよい。
【0038】
(その他の実施形態)
本開示は上述した各実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上述した実施形態の型50の形状に限られない。例えば、実施形態で示した型50よりも複数のパーツから構成された割型であってもよい。
【0039】
図12は、本開示の実施形態の第三変形例における複合材をプレスしながら加熱する装置の概略構成を示す図である。
また、上述した実施形態では、上型52が下型51の底面53に近づく方向をプレスする方向Dpとしたが、プレスする方向は、一方向に限られない。例えば、
図12に示す本実施形態の第三変形例のような型150を用いて、上記プレスする方向Dpと交差する方向からも同時にプレスするようにしてもよい。型150は、下型151と、上型152と、二つの楔型54と、を備えている。
【0040】
下型151は、有底筒状をなし、上方に向かって開口している。下型151は、その内部空間を区画する下面55と二つの第一側面56と二つの第二側面(図示せず)と、を備えている。下面55は、上型52と対向するように形成されている。二つの第一側面56は、下面55から上方に向かって延び、互いに対向するように配置されている。これら二つの第一側面56は、上方に向かって漸次離間するように傾斜している。第二側面(図示せず)は、二つの第一側面56の縁部同士を繋いでいる面である。すなわち、第二側面(図示せず)は、下面55から上方に向かって延びて、互いに対向するように配置されている。上型152は、上述した実施形態の上型52と同様に、下型51の開口を閉塞可能に形成され、下型151の底面153に近づく方向に変位可能となっている。なお、下型151は受け型、上型152は押し型とそれぞれ言い換えることもできる。
【0041】
二つの楔型54は、上型152によってプレスする方向Dpへ押圧可能とされている。二つの楔型54は、二つの第一側面56に沿って上下にスライド可能とされている。楔型54は、第一側面56に接触する外面57と、プリプレグ積層体30に接触する内面58と、を備え、下方に向かって外面が内面に漸次近づく楔状をなしている。
【0042】
このような型150内に、中子40と共にプリプレグ積層体30を配置して、上型152を底面153に近づく方向に変位させることで、二つの楔型54が互いに近づく方向に漸次変位するため、上述したプレスする方向Dpに加えて、このプレスする方向Dpと交差する方向Dp2にもプレスすることが可能となる。
【0043】
また例えば、上記実施形態では、プレスする方向Dpと交差する方向を向く中子40の外面の外周側に端縁2a,2b,3a,3b,6a,6bを配する場合を例示したが、この配置に限られない。例えば、端縁2a,2b,3a,3b,6a,6bは、プレスする方向Dpを向く中子40の外面の外周側に配されるようにしてもよい。
【0044】
<付記>
実施形態に記載の複合材パイプの製造方法及び複合材パイプは、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様によれば複合材パイプの製造方法は、軸線方向Daに延びる中子40の外周面に、プリプレグ積層体30を巻き付ける工程S01と、前記中子40に巻きつけられたプリプレグ積層体30,130,230を外周側からプレスしながら加熱する工程S02と、を含み、前記プリプレグ積層体30,130,230は、前記中子40の外周面に接触するとともに、前記軸線方向Daに対して斜めに交差する二軸方向D1,D2に延びるバイアスクロス繊維12からなるバイアスクロス材2と、前記バイアスクロス材2の外周側に積層されて、前記軸線方向Da及び前記中子40の外周面の周方向Dcの二軸方向に延びる格子状クロス繊維23からなる格子状クロス材3と、前記格子状クロス材3の外周側に積層されて、繊維基材4及び前記繊維基材4に含侵された樹脂を有するシート状のプリプレグ6と、を有し、前記プレスしながら加熱する工程S02では、前記プリプレグ6の前記樹脂を溶融させて、前記格子状クロス材3及び前記バイアスクロス材2に前記プリプレグ6の前記樹脂を含侵させる。
【0046】
これにより、周方向Dcに延びる格子状クロス繊維23により、中子40が熱膨張するのを抑える力を作用させることができる。一方で、中子40が冷却されて収縮する際には、周方向Dcに延びる格子状クロス繊維23により樹脂の収縮を抑えることができる。そのため、成形された複合材パイプ1が中子40に追従して収縮することを抑えることができる。したがって、容易に中子40から脱型することが可能となる。
【0047】
(2)第2の態様によれば複合材パイプの製造方法は、(1)の複合材パイプの製造方法であって、前記バイアスクロス材2に前記格子状クロス材3を積層した第一積層部123を複数繰り返し積層し、複数積層された前記第一積層部123の最外周の前記格子状クロス材3の外周側に前記プリプレグ6を積層する。
これにより、冗長性を持たせることができるとともに、強度を向上することが可能となる。
【0048】
(3)第3の態様によれば複合材パイプの製造方法は、(2)の複合材パイプの製造方法であって、前記第一積層部123に他の前記第一積層部123を積層する際に、前記第一積層部123と、他の前記第一積層部123との間に、前記樹脂を含む樹脂シート106を挟み込み、前記プレスしながら加熱する工程S02では、前記プリプレグ6の前記樹脂に加えて、前記樹脂シート106の前記樹脂を溶融させて、前記プリプレグ6及び前記樹脂シート106の前記樹脂を前記格子状クロス材3及び前記バイアスクロス材2に含侵させる。
これにより、プリプレグ6のみでは、内側の第一積層部123への樹脂の供給量が不足するような場合であっても、隣り合う第一積層部123の間に挟まれた樹脂シート106から必要十分な量の樹脂を内側の第一積層部123に容易に供給することが可能となる。
【0049】
(4)第4の態様によれば複合材パイプの製造方法は、(1)から(3)の何れか一つの複合材パイプの製造方法であって、前記プリプレグ積層体30,130,230を巻き付ける工程S01では、前記プリプレグ積層体30をプレスする方向Dpと交差する方向を向く前記中子40の外面の外周側に前記バイアスクロス材2及び前記格子状クロス材3の周方向Dcの端縁2a,2b,3a,3bを配置する。
これにより、プレス成形する際に、バイアスクロス材2及び格子状クロス材3の周方向Dcの端縁2a,2b,3a,3cの位置に掛かる負荷を軽減できる。
【0050】
(5)第5の態様によれば複合材パイプの製造方法は、(1)から(4)の何れか一つの複合材パイプの製造方法であって、前記プリプレグ積層体30,130,230を巻き付ける工程では、少なくとも樹脂含侵されていない前記バイアスクロス材2及び前記格子状クロス材3をのり付けしながら巻きつける。
これにより、樹脂含侵されていないバイアスクロス材2及び格子状クロス材3を中子40の外周側に容易に巻き付けることが可能となる。
【0051】
(6)第6の態様によれば複合材パイプは、軸線方向Daに延びる筒状をなし、前記軸線方向Daに対して斜めに交差する二軸方向D1,D2に延びるバイアスクロス繊維12からなるバイアスクロス材2と、前記バイアスクロス材2の外周側に積層された筒状をなし、前記軸線方向Da及び前記筒状の軸線aを中心とした周方向Dcの二軸方向に延びる格子状クロス繊維23からなる格子状クロス材3と、前記格子状クロス材3の外周側に積層された筒状をなす繊維基材4と、樹脂からなり、前記バイアスクロス材2、前記格子状クロス材3及び前記繊維基材4を内包するとともに前記軸線aを中心とした筒状をなすパイプ本体5と、を備える。
これにより、中子40を用いてプレス成形した場合に、パイプ本体5から中子40を軸線方向Daに容易に抜き取ることができる。
【0052】
(7)第7の態様によれば複合材パイプは、(6)の複合材パイプであって、前記バイアスクロス材2に前記格子状クロス材3を積層した第一積層部123が、複数積層されている。
これにより、複合材パイプ1の厚さを、第一積層部123の積層される数に応じて増加させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…複合材パイプ 2…バイアスクロス材 2a,2b,3a,3b,6a,6b…端縁 3…格子状クロス材 4…繊維基材 5…パイプ本体 6…プリプレグ 12…バイアスクロス繊維 23…格子状クロス繊維 30,130,230…プリプレグ積層体 40…中子 41a,41b,41c,41d…平面 41…外周面 50,150…型 51,151…下型 52,152…上型 53…底面 54…楔型 106…樹脂シート 123…第一積層部 a…軸線 D1,D2…二軸方向 Da…軸線方向 Dc…周方向 Dp…プレスする方向 S01…プリプレグ積層体を巻き付ける工程 S02…プレスしながら加熱する工程