(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062140
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/06 20060101AFI20240430BHJP
H01M 10/08 20060101ALI20240430BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/449 20210101ALN20240430BHJP
H01M 50/451 20210101ALN20240430BHJP
【FI】
H01M10/06 L
H01M10/08
H01M50/44
H01M50/437
H01M50/414
H01M50/46
H01M50/489
H01M50/449
H01M50/451
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169941
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE28
5H021HH03
5H028AA05
5H028AA06
5H028HH01
(57)【要約】
【解決手段】正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在する樹脂製の多孔質フィルムと、正極板および負極板の間に介在し、かつ正極板と接触している不織布と、電解液と、を備え、電解液中の化学的酸素要求量は、160mg/L以下である、鉛蓄電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、
負極板と、
前記正極板および前記負極板の間に介在する樹脂製の多孔質フィルムと、
前記正極板および前記負極板の間に介在し、かつ前記正極板と接触している不織布と、
電解液と、
を備え、
前記電解液中の化学的酸素要求量は、160mg/L以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記不織布が、ガラス繊維および有機繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含むマットである、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記化学的酸素要求量は、100mg/L以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記化学的酸素要求量は、1.0mg/L以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記不織布が、前記正極板の表面に固定されている、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記多孔質フィルムは、100μm以上300μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記不織布は、30μm以上800μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記多孔質フィルムは、端部の少なくとも一部に、前記不織布で覆われていない領域を有する、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を含む。鉛蓄電池のセパレータには、様々な性能が要求される。セパレータとしては、一般にポリオレフィン製の多孔質フィルムが使用されている。
【0003】
特許文献1は、「正極板と負極板と電解液とセパレータとを備えた鉛蓄電池において、前記セパレータは多孔質シートとガラスマットから成り、前記電解液がアルミニウムイオンを0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上0.2mol/L以下含有することを特徴とする、鉛蓄電池」を提案している。
【0004】
特許文献2は、「正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、前記負極板と前記セパレータとの間に配置された膜体と、電解液と、前記正極板、前記負極板、前記セパレータ、前記膜体及び前記電解液を収容する電槽と、を備え、前記膜体は、平均細孔径が15μm以下の細孔を有し、満充電容量に対する残容量の割合が90%以下となるように用いられる、液式鉛蓄電池」を提案している。
【0005】
特許文献3は、「一つ又は複数の隔壁によって二つ以上の領域に区切られた電槽を準備する工程と、複数の正極板と複数のポリオレフィン製のセパレータと複数の不織布と複数の負極板とをそれぞれ含む、二つ以上の極板群を準備する工程と、前記電槽の前記領域に前記極板群を収容する工程と、前記電槽内に電解液を供給する工程と、を備え、前記電槽の前記領域に前記極板群を収容する際、前記極板群の厚さ方向の圧縮力を前記隔壁から前記極板群に付与しながら、前記領域に対して前記極板群を押し込む、液式鉛蓄電池の製造方法であって、前記領域の幅をXmmとし、化成後の電池から取り出したときの前記極板群の厚さをYmmとすると、XとYは-1.1≦X-Y≦1.2を満たす、液式鉛蓄電池の製造方法」を提案している。
【0006】
特許文献4は、「電解液中に0.5mg/L以上3mg/L以下の還元性有機物を含むことを特徴とする鉛蓄電池」を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-84362号公報
【特許文献2】国際公開第2018-105134号公報
【特許文献3】特開2020-174058号公報
【特許文献4】特開2005-251394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両用の鉛蓄電池には、重負荷寿命試験において優れた寿命性能(重負荷寿命性能)を確保することが求められる。重負荷寿命試験では、鉛蓄電池が大電流で深放電された後、放電電気量とほぼ同量の充電電気量が充電される。そのため、優れた重負荷寿命性能を得るためには、副反応を抑制することが重要である。副反応に充電電気量の一部が消費されると充電不足になる。その場合、鉛蓄電池の放電深度がさらに深くなるため、正極電極材料が次第に軟化し、正極板から脱落して寿命に至る。特にトラック、タクシーなどの比較的振動の激しい商用車両ではその傾向が大きい。
【0009】
これに対し、正極板および負極板の間に介在し、かつ正極板と接触する不織布を設けると、軟化した正極電極材料の脱落を低減することができる。
【0010】
しかし、正極板および負極板の間に不織布を設けると、電解液中のイオン伝導に対する物理的障壁が増大し、抵抗が高くなるため、コールドクランキング電流(Cold Cranking Ampere:CCA)性能が低下する。
【0011】
以上のように、一定程度の副反応が生じ得る状態においては、高いCCA性能を確保しながら、優れた重負荷寿命性能を確保することは難しい。一方、近年は、アイドリングストップ機能を装備する車両やマイクロハイブリッド車両に適用するために、より優れた重負荷寿命性能とCCA性能を有する鉛蓄電池が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一側面は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在する樹脂製の多孔質フィルムと、前記正極板および前記負極板の間に介在し、かつ前記正極板と接触している不織布と、電解液と、を備え、前記電解液中の化学的酸素要求量は、160mg/L以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0013】
鉛蓄電池において、高いCCA性能を確保しながら、優れた重負荷寿命性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかを任意に組み合わせることができる。複数の材料が例示される場合、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、本開示は、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項の組み合わせを包含する。つまり、技術的な矛盾が生じない限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。
【0017】
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、使用される状態に配置された鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。なお、正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。例えば液式電池では、耳部は、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0018】
本開示に係る鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型電池)でもよいが、電解液中の化学的酸素要求量(COD)の低減による作用効果を有効活用できる点で液式電池(ベント型電池)が好ましい。
【0019】
鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備える。電解液は硫酸を含む。正極板および負極板と電解液との間で硫酸イオンが移動することで充電と放電が進行する。放電時には、硫酸イオンが正極板および負極板に移動するため、電解液の密度が低下する。充電時には、硫酸イオンが正極板および負極板から電解液中に移動するため、電解液の密度が上昇する。
【0020】
正極板と負極板とセパレータは極板群を構成する。極板群は電解液とともにセルを構成する。1つの極板群は1つのセルを構成する。鉛蓄電池は1つの以上の電極群を具備することで1つ以上のセルを具備する。1つの極板群に含まれる正極板および負極板の枚数に特に限定はない。本開示に係る鉛蓄電池が具備する極板群は、例えば、正極板と負極板を合計で12枚以上含む。複数の極板群は、通常それぞれ個別のセル室に収容されて互いに直列に接続される。
【0021】
正極板は、正極電極材料を含む。正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質として、充電時には少なくとも二酸化鉛を含み、放電時には少なくとも硫酸鉛を含む。
【0022】
負極板は、負極電極材料を含む。負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質として、充電時には少なくとも鉛を含み、放電時には少なくとも硫酸鉛を含む。
【0023】
(1)本開示の一実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在する樹脂製の多孔質フィルムと、前記正極板および前記負極板の間に介在し、かつ前記正極板と接触している不織布と、電解液と、を備え、前記電解液中の化学的酸素要求量(COD)は、160mg/L以下である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、高いCCA性能と優れた重負荷寿命性能を有する。これは、電解液中のCODを調整することで、深放電による正極電極材料の軟化の進行による正極集電体と正極電極材料との結合力の低下が抑制されるためと考えられる。不織布を用いる場合、正極電極材料の脱落は軽減できるが、深放電による正極電極材料の軟化自体は進行する。一方、CODを160mg/L以下とする場合、充電受入性が向上するため、放電深度が過度に深くならず、正極電極材料の軟化が進行しにくくなり、正極集電体と正極電極材料との結合力の低下による抵抗の増大が抑制され、不織布による抵抗増大の影響がCCA性能に反映されにくくなると考えられる。
【0025】
また、電解液中の有機物は、正極板表面での酸化分解により充電受入性を低下させるだけでなく、電解液中のイオン伝導を阻害することにより、充電および放電の両方の反応に影響を及ぼす。電解液中のCODが160mg/Lを超える場合、電解液中のイオン伝導が阻害され、放電反応が阻害されるため、CCA性能が低下する。これに対し、電解液中のCODを160mg/L以下に低減することでイオン伝導が阻害されにくくなるため、高いCCA性能が得られる。このようなCOD低減によるCCA性能向上の効果は、多孔質フィルムに加えて不織布を正極板と負極板との間に介在させた場合にも有効に発揮される。以上のことから、多孔質フィルムと不織布とを正極板と負極板との間に介在させ、電解液中のCODを一定範囲以下とすることで、高いCCA性能と重負荷寿命性能を兼ね備えた鉛蓄電池を得ることができる。
【0026】
(2)上記(1)に記載の鉛蓄電池において、前記不織布は、ガラス繊維および有機繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含むマットであってもよい。
【0027】
上記(2)に記載の鉛蓄電池では、ガラス繊維は耐酸化性に優れ、有機繊維は柔軟性と正極電極材料との密着性に優れているため、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する効果が大きい。
【0028】
(3)上記(1)または(2)に記載の鉛蓄電池において、CODは、100mg/L以下であってもよい。
【0029】
上記(3)に記載の鉛蓄電池では、放電性能が顕著に向上するため、より高いCCA性能と、より優れた重負荷寿命性能を得ることができる。
【0030】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、CODは、1.0mg/L以上であってもよい。
【0031】
上記(4)に記載の鉛蓄電池は、CODが小さすぎない点で、CODの制御が容易である。よって、鉛蓄電池の構成要素の選択の幅が広くなる。また、CODが小さい場合、充電受入性が高いため重負荷寿命試験では満充電状態まで充電されるが、CODが小さすぎないことで正極に対向する多孔質フィルムの酸化劣化が生じにくくなる。よって、より良好なCCA性能と重負荷寿命性能が達成され得る。
【0032】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、前記不織布が、前記正極板の表面に固定されていてもよい。
【0033】
上記(5)に記載の鉛蓄電池では、正極板と不織布とが一体化されているため、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する効果が大きい。また、不織布で覆われる正極板の表面積が大きくなるため、CODを小さくすることによる放電性能の向上効果が顕著に発現する。
【0034】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、前記多孔質フィルムは、100μm以上300μm以下の厚さを有してもよい。
【0035】
上記(6)に記載の鉛蓄電池では、多孔質フィルムが十分に薄く、かつ高い強度を有するため、より高いCCA性能と、より優れた重負荷寿命性能を得ることができる。
【0036】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、前記不織布は、30μm以上800μm以下の厚さを有してもよい。
【0037】
上記(7)に記載の鉛蓄電池では、不織布が十分に薄く、かつ高い強度を有するため、より高いCCA性能と、より優れた重負荷寿命性能を得ることができる。
【0038】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池において、前記多孔質フィルムは、端部の少なくとも一部に、前記不織布で覆われていない領域を有してもよい。
【0039】
上記(8)に記載の鉛蓄電池によれば、不織布のサイズを、内部抵抗の増大を抑制しつつ、軟化した正極電極材料の脱落を抑制するのに十分なサイズとすることができる。
【0040】
多孔質フィルムは、単独でセパレータとして使用し得る。よって、多孔質フィルムのみをセパレータと称してもよい。不織布は、多孔質フィルムと協働してセパレータとしても機能する。よって、多孔質フィルムと不織布を合わせてセパレータと称してもよい。
【0041】
多孔質フィルムと不織布とを正極板と負極板との間に介在させることは、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する上で効果的である。しかし、電解液中のCODが一定範囲を超える場合、不織布を採用することによる重負荷寿命性能の改善の程度は限定的であることを発明者らは見出した。
【0042】
不織布の有無にかかわらず、電解液中の化学的酸素要求量(COD)が所定範囲を超える場合、電解液中の有機物が正極板表面で酸化分解される副反応が生じることにより、正極板の充電受入性が低下する。一方、重負荷寿命試験では、放電時には放電電気量が大きい(例えばDOD20~50%)ため、深放電による正極電極材料の軟化が進行し、正極集電体と正極電極材料との結合力が低下し、抵抗が増大する。不織布により正極電極材料の脱落は軽減できるが、軟化自体を抑制することはできない。
【0043】
これに対し、電解液中のCODを160mg/L以下に制御する場合、電解液中の有機物の濃度が低減される。そのため、活物質の充電反応に対する副反応の割合が小さくなり、充電不足による正極電極材料の軟化が進行しにくくなる。
【0044】
電解液中のCODが少ないほど、電解液中の有機物の濃度は低下し、充電時の副反応の量は減少する。よって、電解液中のCODが少ないほど、充電効率が改善して重負荷寿命試験における寿命が長くなると想定される。しかし、実際には、充電量が多くなることで、正極側で発生した酸素が樹脂製の多孔質フィルムの酸化劣化を生じさせるため、必ずしも重負荷寿命は向上せず、かえって低下することがある。酸化劣化した多孔質フィルムは、亀裂もしくは破れを生じ、正極と負極との間で内部短絡を引き起こして鉛蓄電池は寿命に達する。
【0045】
これに対し、正極板と負極板との間に不織布を配置し、不織布を正極板に接触させることで、正極板近傍で発生した酸素による多孔質フィルムの酸化劣化を抑制することができる。また、不織布を正極板に接触した状態とすることで、過充電状態もしくは過放電状態となった正極電極材料が軟化して脱落することを抑制することもできる。この点も重負荷寿命性能の向上に寄与する。
【0046】
本明細書中、重負荷寿命性能とは、定格容量(5時間率容量)を100%とするとき、1回の放電の深さが20%以上の領域(重負荷領域とも称される。)までの放電と充電とを繰り返したときの寿命性能である。重負荷寿命性能の試験条件の詳細は後述する。
【0047】
不織布は、正極板の表面に接触していればよいが、正極板の表面に固定されていてもよい。不織布が正極板の表面に固定され、正極板と不織布とが一体化されることで、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する効果が大きくなる。この場合、不織布で覆われる正極板の表面積が大きくなるため、重負荷寿命性能は、CODの値により強く影響されるようになる。よって、CODを低減することによる重負荷寿命性能の向上効果がより顕著に発現する。正極板の表面に不織布を固定する方法は、特に限定されないが、未化成の状態の正極板の表面に不織布を押圧して貼り付け、その後、化成することにより固定する方法などが挙げられる。
【0048】
正極電極材料の質量の負極電極材料の質量に対する比(以下、「Mp/Mn比」とも称する。)は、例えば1.2以上であり、1.3以上でもよい。Mp/Mn比は、1.4以下でもよい。Mp/Mn比の好ましい範囲は、例えば、1.2以上1.4以下であり、1.3以上1.4以下でもよい。正極電極材料の質量とは、1枚の正極板が有する正極電極材料の質量である。負極電極材料の質量とは、1枚の負極板が有する負極電極材料の質量である。Mp/Mn比を1.2以上まで大きくすることは、負極電極材料の使用量を減少させることを意味する。換言すれば、Mp/Mn比を1.2以上にすることで鉛蓄電池を軽量化できるとともに低コスト化できる。また、Mp/Mn比が1.2以上である場合、正極板の負荷を軽減できるため、正極板の軟化、脱落を抑制しやすくなる。
【0049】
本開示に係る鉛蓄電池は、アイドリングストップ・スタート(ISS)制御される車両用として適している。ISS制御される車両に搭載される鉛蓄電池は、深いDODまで放電されるため、不織布を用いることによる正極電極材料の脱落を抑制する効果と、CODを制御することによるCCA性能の改善効果がより顕著に発現される。
【0050】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(単位:V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、20時間率電流I20の2倍の電流2I20で、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。なお、20時間率電流I20とは、定格容量に記載のAhの数値の1/20の電流(A)のことである。以下、定格容量として記載された、単位をAhとする数値を、単に「定格容量」という。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、20時間率電流I20の5倍の電流5I20で、2.67V/セル(定格電圧12Vの鉛蓄電池においては16.00V)の定電流定電圧充電を行い、総充電時間が24時間になった時点で充電を終了した状態である。
【0051】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電状態まで充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池を満充電状態まで充電するタイミングは、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を充電してもよい。
【0052】
本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0053】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
以下、鉛蓄電池の構成要素の例について説明する。
【0055】
(正極板)
正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを備える。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。なお、正極板には、導電層、マット、ペースティングペーパなどの貼付部材が貼り付けられ得る。貼付部材は正極板と一体で使用されるため、極板の構成要素に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0056】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法は、例えば、エキスパンド加工でもよく、打ち抜き(パンチング)加工でもよい。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させやすい。
【0057】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度に優れるPb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる金属層を有してもよく、金属層は1層でもよく、複数層でもよい。
【0058】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質を含む。正極活物質は、二酸化鉛、硫酸鉛などを含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含み得る。添加剤は、補強材、アンチモン化合物などを含み得る。補強材としては、例えば、無機繊維、有機繊維などが挙げられる。
【0059】
未化成の正極板は、正極集電体と正極集電体に充填された正極ペーストを熟成し、乾燥させることにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、水および硫酸を含む混合物を混練することで調製される。正極ペーストは、必要に応じて、添加剤を含み得る。添加剤は、補強材、アンチモン化合物などを含み得る。このような正極板は、ペースト式正極板とも称される。
【0060】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬し、極板群を充電することにより行ってもよい。化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0061】
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを備える。負極電極材料は、負極集電体に保持されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、導電層、マット、ペースティングペーパなどの貼付部材が貼り付けられ得る。貼付部材は負極板の構成要素に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0062】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法は、エキスパンド加工でもよく、打ち抜き(パンチング)加工でもよい。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させやすい。
【0063】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。負極集電体に用いる鉛合金は、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる金属層を有してもよく、金属層は1層でもよく、複数層でもよい。
【0064】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質を含む。負極活物質は、鉛、硫酸鉛などを含む。負極電極材料は、質量基準で100ppm以上300ppm以下のBi元素を含んでもよい。負極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含み得る。添加剤は、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどを含み得る。
【0065】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸、合成有機防縮剤などが挙げられる。合成有機防縮剤は、例えばフェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物などであり得る。有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。負極電極材料中の有機防縮剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上1質量%以下である。
【0066】
炭素質材料としては、カーボンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用い得る。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。負極電極材料中の炭素質材料の含有率は、例えば、0.1質量%以上3質量%以下である。
【0067】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有率は、例えば、0.1質量%以上3質量%以下である。
【0068】
未化成の負極板は、負極集電体と負極集電体に充填された負極ペーストを熟成し、乾燥させることにより得られる。熟成は、室温より高温かつ高湿度の雰囲気下で行うことが好ましい。負極ペーストは、鉛粉、水および硫酸を含む混合物を混練することで調製される。負極ペーストは、必要に応じて、添加剤を含み得る。添加剤は、ビスマス化合物(例えば、硫酸ビスマス)、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどを含み得る。
【0069】
未化成の負極板を化成することにより負極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬し、極板群を充電することにより行ってもよい。化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛を含む。
【0070】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンなどを含んでもよい。電解液の20℃における密度は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における密度は、1.35以下であってもよい。なお、これらの密度は、満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0071】
電解液中のCODが少ないほど、電解液中のイオン伝導が阻害されることが少なくなるため、電池抵抗が低減する。よって、電解液中のCODが少ないほど、CCA性能と重負荷寿命性能が向上すると想定される。しかし、COD量を1mg/L未満に制御することは容易ではない場合があり、鉛蓄電池の構成要素の選択の幅が狭くなる可能性がある。また、実際には、電解液中のCODが少な過ぎると、正極側で発生した酸素が樹脂製の多孔質フィルムの酸化劣化を生じさせるため、必ずしも重負荷寿命は向上せず、かえって低下することがある。そのようなデメリットを抑制し、より良好なCCA性能と重負荷寿命性能を達成する観点からも、電解液中のCOD量を1mg/L以上に制御することが望ましい。
【0072】
電解液中のCODは、160mg/L以下であればよいが、120mg/L以下でもよい。より高いCCA性能と、より優れた重負荷寿命性能を得るために、電解液中のCODを100mg/L以下としてもよく、50mg/L以下としてもよく、30mg/L以下としてもよく、25mg/L以下としてもよい。また、電解液中のCODは、1mg/L以上でもよく、5mg/L以上でもよく、8mg/L以上でもよい。電解液中のCODの好ましい範囲は、例えば、1mg/L以上160mg/L以下であり、1mg/L以上120mg/L以下でもよく、5mg/L以上100mg/L以下でもよく、5mg/L以上50mg/L以下でもよい。
【0073】
電解液中のCOD量は、例えば、以下の方法で制御し得る。以下の方法を一つ採用してもよく、複数組み合わせてもよい。
(1)電解液中の有機系添加剤の濃度を調整する。
(2)電解液以外の構成要素に含まれる有機成分の含有率を調整する。「電解液以外の構成要素」としては、多孔質フィルム、正極板または負極板の集電体、並びに正極電極材料または負極電極材料が挙げられる。すなわち、(2)の方法は次の3つの方法に大別できる。
(2-1)多孔質フィルムに含まれる比較的低分子量の有機系添加剤の含有率を制御する。有機系添加剤としては、浸透剤、オイルなどが挙げられる。
(2-2)正極板もしくは負極板の集電体または集電体に加工する前の金属板に付着した切削油の少なくとも一部を洗浄等により除去する。
(2-3)正極電極材料もしくは負極電極材料に含まれる有機成分および炭素質材料の少なくとも一方の含有率を制御する。電極材料に含まれる有機成分には有機防縮剤も含まれる。
【0074】
集電体または金属板の洗浄には、有機溶剤を用い得る。有機溶剤としては、例えば、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、アミド、およびスルホキシドから選択される少なくとも一種が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノールが挙げられる。ケトンとしては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンが挙げられる。エステルとしては、例えば、酢酸エチルが挙げられる。エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフランが挙げられる。アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。スルホキシドとしては、例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0075】
電解液中のCODを過度に上昇させないように、集電体または金属板の洗浄に用いる有機溶剤として、水洗により除去しやすい有機溶剤、水と混和する有機溶剤などを用いることが望ましい。洗浄時間は、例えば、水と混和する有機溶剤中で3秒以上であることが好ましい。洗浄時間の上限は特に限定されず、例えば、60秒以下であってもよい。
【0076】
鉛蓄電池の組み立てに供される電解液は、有機系添加剤を含んでもよい。有機系添加剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。しかし、鉛蓄電池に含まれる電解液中のCOD量を低く抑える観点から、鉛蓄電池の組み立てに供される電解液は、有機系添加剤を含まないことが好ましい。
【0077】
電解液のCODは、JIS K 0102-1:2021の「17.2酸性過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)」に準拠して測定される。
COD(CODMn)は、下記式により求められる。このとき、CODMnは、有効数字2桁、小数第1位、および下限値<0.5で求められる。
CODMn=(滴定値-BL)×F×1000/V×0.2
滴定値:電解液から調製したサンプルの滴定に要した5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液の量(mL)
ブランク(BL):蒸留水を用いた試験での滴定に要した5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液の量(mL)
F:5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液のファクター
V:電解液から調製したサンプル(滴定に用いられたサンプル)の量(mL)
0.2:5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液1mLの酸素相当量(mg)
【0078】
滴定用サンプルは、次のような手順で調製する。まず、初期の満充電状態の鉛蓄電池から電解液を300mL容積の三角フラスコに採取する。電解液の採取量は、最大100mLとし、滴定量が3.5mL~5.5mLの範囲になるように調節する。採取量が100mL未満の場合には、採取量を測定し、希釈後の量が100mLになるまで蒸留水を添加する。このようにして、電解液のサンプルを準備する。また、BL用のサンプルとして、蒸留水100mLを別の300mL容積の三角フラスコに準備する。BLの測定は、電解液から調製されるサンプルの滴定を行う毎に実施する。
【0079】
100mLの電解液のサンプルおよびBL用の蒸留水のサンプルから滴定用のサンプルを次の手順でそれぞれ調製する。まず、上記サンプルに、5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液10mLをホールピペットで加え、撹拌する。次いで、各三角フラスコを、沸騰した水浴中に入れて30分間加熱する。このとき、水浴内の水は常に沸騰した状態で、水浴の液面が、三角フラスコ内の液体の液面以下にならないようにする。30分の加熱の後、三角フラスコを取り出して、直ちに、12.5mmol/L濃度のしゅう酸ナトリウム水溶液10mLをホールピペットで三角フラスコ内の液体に加える。液体の温度が50℃~60℃の範囲内になるまで冷却することによって、滴定用のサンプルを準備する。なお、サンプルが塩化物イオンを含む場合には、500g/L濃度の硝酸銀水溶液2mLをメスピペットで加えて、得られる混合物を、沈殿がなくなり透明な液体になるまでよく攪拌する。白濁が無くならない場合は、白濁が無くなるまで、さらに硝酸銀水溶液を少しずつ加えながら、撹拌する。硝酸銀水溶液は、全体として、各サンプルに含まれる塩化物イオンの当量より、硝酸銀が1g過剰になるような添加量で加える。硝酸銀水溶液は、上記のサンプルに添加される。
【0080】
準備した滴定用のサンプルは、それぞれ、5mmol/L濃度の過マンガン酸カリウム水溶液で滴定する。滴定の際、三角フラスコ内の液体がわずかに紅い色を呈したら滴定を停止し、30秒程度静置して、紅い色が消えていないかを確認する。紅い色が消えた場合には、紅い色が消えなくなるまで、滴定と、静置とを繰り返す。電解液から調製されたサンプルと蒸留水から調製されたサンプルとについて、滴定に要した過マンガン酸カリウム水溶液の量(mL)を、上記式の滴定値およびBLとして用いて、電解液のCODを求める。サンプルの調製において、電解液を蒸留水で希釈した場合には、希釈分を考慮して、希釈前の電解液のCODを算出する。
【0081】
(多孔質フィルム)
多孔質フィルムは、細孔を有する樹脂フィルムである。多孔質フィルムはポリマー材料を含む。多孔質フィルムは、必要に応じて、オイル、無機粒子、浸透剤、造孔剤などの任意成分を含む。樹脂フィルムを構成するポリマー材料(以下、ベースポリマーとも称する。)は、例えば、ポリオレフィンを含む。ポリオレフィンとは、少なくともオレフィン単位(オレフィンに由来するモノマー単位)を含む重合体である。
【0082】
ベースポリマーとして、ポリオレフィンと他のベースポリマーとを併用してもよい。多孔質膜に含まれるベースポリマー全体に占めるポリオレフィンの比率は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。ポリオレフィンの比率は、例えば、100質量%以下である。ベースポリマーをポリオレフィンのみで構成してもよい。
【0083】
ポリオレフィンには、例えば、オレフィンの単独重合体、互いに異なるオレフィン単位を含む共重合体、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体が包含される。オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上のオレフィン単位を含んでいてもよい。また、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上の共重合性モノマー単位を含んでいてもよい。共重合性モノマー単位とは、オレフィン以外で、かつオレフィンと共重合可能な重合性モノマーに由来するモノマー単位である。
【0084】
ポリオレフィンとしては、例えば、少なくともC2-3オレフィンをモノマー単位として含む重合体が挙げられる。C2-3オレフィンとして、エチレンおよびプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などが好ましい。中でも少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンであるポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体などが好ましい。エチレン単位を含むポリオレフィンと他のポリオレフィンとを併用してもよい。
【0085】
多孔質フィルムは、端部の少なくとも一部に、不織布で覆われていない領域を有していてもよい。これにより、軟化した正極電極材料の脱落を抑制しつつ、内部抵抗の増大を抑制することができる。
【0086】
多孔質フィルムは、おおよそ四角形であり、通常、上下端部および両方の側端部の合計4つの端部を有する。1つの端部において、多孔質フィルムの不織布で覆われていない領域の幅(例えば、後述の
図2では、w
p)は、例えば、1mm以上であり、2mm以上であってもよい。この領域の幅は、例えば、5mm以下であり、4.5mm以下または4mm以下であってもよい。多孔質フィルムは、側端部(好ましくは双方の側端部)に不織布で覆われていない領域を有してもよい。端部を圧着して袋状に成形した多孔質フィルムと不織布とを積層した場合、圧着された部分を含む側端部の所定の領域が不織布より外側に露出した状態となる。
【0087】
上記の領域の幅は、1mm以上(または2mm以上)5mm以下、1mm以上(または2mm以上)4.5mm以下、あるいは1mm以上(または2mm以上)4mm以下であってもよい。
【0088】
多孔質フィルムの耐酸化性を高めるために、多孔質フィルムの正極板に対向する表面にリブを設けることが望ましい。リブにより多孔質フィルムと正極板との間に隙間が形成されるため、多孔質フィルムの酸化劣化が軽減される。
【0089】
リブを有する多孔質フィルムは、例えば、ベース部とベース部の表面から立設されたリブとを備える。リブは、ベース部の正極板側の表面のみに設けてもよく、正極板側と負極板側の両方の表面にそれぞれ設けてもよい。多孔質フィルムのベース部とは、多孔質フィルムの構成部位のうち、リブなどの突起を除く部分であり、多孔質フィルムの外形を画定するシート状の部分をいう。
【0090】
リブの高さは、0.05mm以上であってもよい。また、リブの高さは、1.2mm以下であってもよい。リブの高さは、ベース部の表面から突出した部分の高さ(突出高さ)である。
【0091】
多孔質フィルムの領域のうち正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、0.4mm以上であってもよい。多孔質フィルムの領域のうち正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、1.2mm以下であってもよい。
【0092】
多孔質フィルムの正極板側にリブを設ける場合には、不織布で覆われていない領域に設けてもよい。正極電極材料に対向する部分にリブを設ける場合には、隣接するリブ間に不織布を配置してもよい。しかし、不織布との積層の容易さを優先して、多孔質フィルムの正極板側には特にリブを設けなくてもよい。
【0093】
多孔質フィルムは、オイルを含むことが好ましい。オイルには、多孔質フィルムの酸化劣化を抑制する作用があるため、多孔質フィルムにオイルを含ませることで重負荷寿命性能の改善がより顕著になる。
【0094】
多孔質フィルム中のオイルの含有率は、11質量%以上が好ましく、13質量%以上でもよい。多孔質フィルム中のオイルの含有率は、18質量%以下が好ましい。多孔質フィルム中のオイルの含有率の好ましい範囲は、例えば、11質量%以上18質量%以下でもよく、13質量%以上18質量%以下でもよい。オイルの含有率がこのような範囲である場合、多孔質フィルムの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。また、多孔質フィルムの抵抗を比較的低く抑えることができる。
【0095】
オイルとは、室温(20℃以上35℃以下の温度)で液状であり、水と分離する疎水性物質を言う。オイルには、天然由来のオイル、鉱物オイル、合成オイルなどが包含され、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルなどを好ましく用い得る。多孔質フィルムは、オイルを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0096】
多孔質フィルムは、無機粒子を含んでもよい。無機粒子としては、例えば、セラミックス粒子が好ましい。セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0097】
多孔質フィルム中の無機粒子の含有率は、例えば、40質量%以上であってもよい。無機粒子の含有率は、例えば、80質量%以下であり、70質量%以下であってもよい。無機粒子の含有率の好ましい範囲は、例えば、40質量%以上80質量%以下であり、40質量%以上70質量%以下でもよい。
【0098】
多孔質フィルムは、シート状でもよく、蛇腹状に折り曲げたシートを多孔質フィルムとして用いてもよい。多孔質フィルムは袋状に形成してもよい。正極板または負極板のうちのいずれか一方を袋状の多孔質フィルムに包んでもよい。
【0099】
多孔質フィルムは、例えば、ベースポリマーと、造孔剤とを含む樹脂組成物をシート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の少なくとも一部を除去することにより得られる。樹脂組成物は、浸透剤(界面活性剤)などを含んでもよい。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ベースポリマーのマトリックス中に微細孔が形成される。シート状の多孔質フィルムは、造孔剤を除去した後、必要に応じて乾燥処理される。延伸処理は、二軸延伸によって行ってもよいが、通常、一軸延伸によって行われる。シート状の多孔質フィルムは、必要に応じて、袋状に加工してもよい。
【0100】
リブを有する多孔質フィルムでは、リブは、樹脂組成物をシート状に押出成形する際に形成してもよい。リブは、樹脂組成物をシート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、各リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0101】
造孔剤としては、室温(20℃以上35℃以下の温度)で液状の液状造孔剤および固体の固形造孔剤などが挙げられる。オイルを液状造孔剤として用いてもよい。この場合、オイルの一部を残存させれば、オイルを含有する多孔質フィルムが得られる。オイルを抽出除去する際、溶剤の種類および組成、抽出条件(抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度など)などを調節することによって、多孔質フィルム中のオイルの含有率が調節される。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。オイルと他の造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。固形造孔剤としては、例えば、ポリマー粉末を用い得る。
【0102】
浸透剤としての界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
多孔質フィルム中の浸透剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であってもよい。多孔質フィルム中の浸透剤の含有率は、10質量%以下であってもよい。電解液中のCODを低く抑え、充電受入性を向上させる観点から、セパレータ中の浸透剤の含有率は、3質量%以下、または1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
【0104】
(不織布)
不織布は、多孔質フィルムと正極板との間に、正極板と接触するように配置されている。例えば、多孔質フィルムが袋状であり、負極板が袋に収容されている場合、袋の外側の双方の表面と正極板との間に不織布を配置してもよい。このとき極板群の端の極板が負極板である場合、袋状の多孔質フィルムの正極板と対向する一方側には不織布を配置し、正極板と対向しない他方側には不織布を配置しなくてもよい。
【0105】
不織布は、ガラス繊維および有機繊維からなる群より選択される少なくとも1種を含むマットであってもよい。以下、ガラス繊維を主成分とするマットをガラス繊維マットと称する。有機繊維を主成分とするマットを有機繊維マットと称する。主成分とはマットの50質量%以上を占める成分をいう。
【0106】
ガラス繊維マットは、ガラス繊維で構成された不織布である。ガラス繊維マットは、吸収ガラスマット(AGM:Absorbed Glass Mat、または、Absorbent Glass Mat)と呼ばれる材料であってもよい。
【0107】
ガラス繊維マットは、全体がガラス繊維で形成されていてもよい。ガラス繊維マット中のガラス繊維の含有率は、90質量%以上または95質量%以上であってもよい。ガラス繊維マット中のガラス繊維の含有率は、100質量%以下である。ガラス繊維マットは、ガラス繊維以外の成分、例えば、有機繊維、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよいが、それらの含有率は、通常、10質量%以下または5質量%以下である。
【0108】
有機繊維マットは、全体が有機繊維で形成されていてもよい。有機繊維マット中の有機繊維の含有率は、90質量%以上または95質量%以上であってもよい。有機繊維マット中の有機繊維の含有率は、100質量%以下である。有機繊維マットは、有機繊維以外の成分、例えば、ガラス繊維、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよいが、それらの含有率は、通常、10質量%以下または5質量%以下である。
【0109】
有機繊維は、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、アセタール化ポリビニルアルコール繊維、ポリウレタン繊維、セルロース繊維などを用い得る。これらの有機繊維は、正極電極材料との親和性が高く、正極板に密着しやすい。そのため、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する効果が高い。
【0110】
ガラス繊維および有機繊維の平均繊維径は、例えば、0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよい。平均繊維径がこのような範囲である場合、軟化した正極電極材料の脱落を抑制する効果が高まる。平均繊維径は、例えば、30μm以下であり、10μm以下であってもよい。この場合、電池の内部抵抗が過度に増加することを抑制できる。また、不織布の比較的高い柔軟性を確保できるとともに、比較的多くの電解液を保持し易い。
【0111】
不織布の平均繊維径は、0.1μm以上(または0.5μm以上)30μm以下、あるいは0.1μm以上(または0.5μm以上)10μm以下であってもよい。
【0112】
不織布の面密度は、例えば、10g/m2以上である。不織布の面密度は、100g/m2以下であってもよく、50g/m2以下であってもよい。
【0113】
不織布の厚さは、例えば、30μm以上であり、50μm以上であってもよい。不織布の厚さは、例えば、800μm以下であり、100μm以下であってもよい。不織布の厚さが上記範囲であることで、不織布が十分に薄く、かつ高い強度を有するため、より高いCCA性能と、より優れた重負荷寿命性能を得ることができる。
【0114】
不織布の空隙率は、例えば、20%以上であり、40%以上であってもよい。空孔率が上記範囲内であることで、電解液の拡散性を確保し、抵抗の増大を抑制できる。不織布の空隙率は、例えば、80%以下であり、70%以下であってもよい。
【0115】
不織布の平均細孔径は、例えば、0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよい。平均細孔径が上記範囲内であることで、不織布を用いることによる抵抗の増加を抑制できる。平均細孔径は、例えば、100μm以下であり、80μm以下であってもよい。平均細孔径が上記範囲内であることで、正極電極材料の脱落を効果的に抑制できる。
【0116】
多孔質フィルムと不織布とを積層してもよい。多孔質フィルムと不織布とは、単に重ねるだけでもよく、接着剤を用いて積層または固定してもよい。また、溶着、または機械的接着などを使用して、多孔質フィルムと不織布とを積層または固定してもよい。溶着の方法としては、例えば、ヒートシールが挙げられる。機械的接着の方法としては、例えば、ギアシールが挙げられる。接着剤としては、例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリオレフィン系接着剤が挙げられる。積層体(セパレータ)の抵抗が高くならないように、接着剤の塗布量は少ない方が好ましい。例えば、接着剤は、多孔質フィルムまたは不織布の接着させる面全体に付与するよりも、部分的に付与することが好ましい。
【0117】
以下、評価、測定方法について説明する。
(1)多孔質フィルムおよび不織布の分析またはサイズの計測
(試料の準備)
多孔質フィルムおよび不織布の分析またはサイズの計測には、未使用の多孔質フィルムと不織布または使用初期の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した多孔質フィルムと不織布が用いられる。鉛蓄電池から取り出した多孔質フィルムと不織布は、分析または計測に先立って、洗浄および乾燥される。
【0118】
鉛蓄電池から取り出した多孔質フィルムおよび不織布の洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出した多孔質フィルムおよび不織布を純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いで浸漬していた液体から多孔質フィルムと不織布を取り出して、25℃±5℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。
【0119】
(多孔質フィルムおよび不織布の厚さおよびリブの高さ)
多孔質フィルムおよび不織布の厚さは、それぞれの断面写真において、任意に選択した5箇所について多孔質フィルム部分または不織布の厚さを計測し、平均化することによって求められる。
【0120】
リブの高さは、多孔質フィルムの断面写真において、任意に選択される10箇所のベース部表面からのリブの高さを計測し、平均化することにより求められる。
【0121】
(多孔質フィルム中のオイル含有率)
必要であれば多孔質フィルムから不織布を剥がし、接着剤が塗布されていない領域で、多孔質フィルムの電極材料に対向する部分を、短冊状に加工してサンプル(以下、サンプルAと称する)を作製する。多孔質フィルムがリブを有する場合には、サンプルAは、リブを含まないように加工される。
【0122】
サンプルAの約0.5gを採取し、正確に秤量し、初期のサンプルの質量(m0)を求める。秤量したサンプルAを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルに約30分間、超音波を付与することにより、サンプルA中に含まれるオイル分をn-ヘキサン中に溶出させる。次いで、n-ヘキサンからサンプルAを取り出し、大気中、室温(20℃以上35℃以下の温度)で乾燥させた後、秤量することにより、オイル除去後のサンプルの質量(m1)を求める。そして、下記式により、オイルの含有率を算出する。10個のサンプルAについてオイルの含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値を多孔質フィルム中のオイルの含有率とする。
【0123】
オイルの含有率(質量%)=(m0-m1)/m0×100
【0124】
(多孔質フィルム中の無機粒子の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、得られるサンプルを、電気炉(酸素気流中、550℃±10℃)で、約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。サンプルAの質量に占める灰化物の質量の比率(百分率)を算出し、上記の無機粒子の含有率(質量%)とする。10個のサンプルAについて無機粒子の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値を多孔質フィルム中の無機粒子の含有率とする。
【0125】
(多孔質フィルム中の浸透剤の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、室温(20℃以上35℃以下の温度)で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃±1℃まで昇温する。室温から250℃±1℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、サンプルBの質量に占める浸透剤の質量の比率(百分率)を算出し、上記の浸透剤の含有率(質量%)とする。熱重量測定装置としては、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。10個のサンプルAについて浸透剤の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値を多孔質フィルム中の浸透剤の含有率とする。
【0126】
(不織布の平均繊維径)
不織布の平均繊維径は、不織布から取り出した任意の100本の繊維について、その長さ方向に垂直な任意の断面の最大径を求め、平均化することによって求められる。
【0127】
(不織布の面密度)
不織布の電極材料に対向する部分をカットし、接着剤が塗布されていない部分を採取し、計量するとともに、不織布の縦および横のサイズ(換言すると、カットした部分の縦および横のサイズ)を計測する。不織布の縦および横のサイズから面積を算出し、1m2当たりの不織布の質量(g)を面密度として求める。
【0128】
(不織布の空隙率)
空隙率は適当な大きさの直方体状に切り取った試料の寸法、重量、密度を測定し、下記の式に従い、見かけ体積と真体積との比率から算出した値とする。
空隙率(%)=(見かけ体積/真体積)×100
見かけ体積(cm3)=縦(cm)×横(cm)×厚さ(cm)
真体積(cm3)=重量(g)/密度(g/cm3)
【0129】
(不織布の平均細孔径)
不織布の電極材料に対向する部分から接着剤が塗布されていない部分を採取して、縦20mm×横5mmのサイズにカットして測定用サンプルとする。島津製作所社製水銀ポロシメータ「オートポアIV9510」を用いて、水銀圧入法により測定用サンプルの細孔分布を測定する。測定の圧力範囲は、4psia(≒27.6kPa)以上60,000psia(≒414MPa)以下とする。細孔径の範囲は、0.01μm以上50μm以下とする。累積細孔容積が全細孔容積の50%となる細孔径を平均細孔径とする。
【0130】
以下、鉛蓄電池の試験方法を説明する。
(1)CCA性能
JIS D 5301:2019に準拠して、次の手順で、放電開始後30秒目の端子電圧により鉛蓄電池の始動性を評価する。電圧値が大きいほど始動性が高く、内部抵抗が低いことを意味する。
(a)満充電状態まで充電した後、最低16時間、蓄電池を-18℃±1℃の冷却室に置く。
(b)中央にあるいずれかのセルの電解液温度が-18℃±1℃であることを確認後、コールドクランキング電流Iccで30秒放電する。
(c)放電開始後30秒目の端子電圧を記録する。
ここで、コールドクランキング電流Iccは、JIS D 5301:2019に定められる性能ランクに応じた電流値とする。
【0131】
(2)重負荷寿命性能
重負荷寿命性能は次のようにして評価される。
JIS D 5301:2019 9.5.5 寿命試験 b)重負荷寿命試験に準拠して、重負荷試験を行う。より具体的には、まず、満充電状態の鉛蓄電池について、表1に示す放電電流で1時間放電を行い、次いで、表1に示す充電電流で5時間充電を行う。この放電と充電のサイクルを1サイクルとする。なお、放電電流および放電電流は、それぞれ、鉛蓄電池の20時間率容量に合わせて表1に示すように変化させる。試験中、鉛蓄電池は、40℃±2℃の水槽中に配置する。水槽の水面は、蓄電池の上面よりも15mm~25mm下に位置するようにする。数個の鉛蓄電池を水槽内に配置する場合には、隣接する鉛蓄電池間の距離および鉛蓄電池と隣接する水槽の内壁までの距離が、それぞれ、最低25mmとなるようにする。
【0132】
【0133】
試験中、25サイクルごとに、表1に示す放電電流で、鉛蓄電池の端子電圧が10.2Vになるまで連続放電を行い、放電持続時間を記録する。次いで、表1に示す充電電流で、15分ごとに鉛蓄電池の端子電圧または電解液の密度(25℃換算値)が、3回連続して一定値を示すまで充電する。なお、この放電および充電もサイクル数に加算する。
【0134】
上記の試験で測定した放電時間と放電電流との積から求められる容量(Ah)が20時間率容量を1.155で除した値の50%以下に低下し、再び上昇しないことを確認し、試験を終了する。試験終了時までのサイクル数を、重負荷寿命試験における寿命性能の指標とする。容量が再び上昇しないことは、20時間率容量を1.155で除した値の50%以下に容量が低下した後、満充電状態まで充電し、再度上記と同様の放電を行い、このときの放電時間と放電電流との積から求められる容量が20時間率容量を1.155で除した値の50%以下であることに基づいて確認する。なお、寿命となるサイクル数は、25サイクル毎の放電容量をプロットしたサイクル回数と容量とのグラフから、20時間率容量を1.155で除した値の50%以下のときのサイクル数を近似することで求められる。
【0135】
補水は、適宜精製水で行うが、連続放電の直前に補水してはならない。
【0136】
本明細書中に記載した事項は、任意に組み合わせることができる。
【0137】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0138】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0139】
図2は、セパレータ4の概略平面図である。セパレータ4は、袋状の多孔質フィルム4aと不織布4bとの積層体である。袋状の多孔質フィルム4aには
図1の負極板2が収容されている。袋状の多孔質フィルム4aは、
図2における下端が折り目になっており、上端が開口になっている。袋状の多孔質フィルム4aの両方の側端部には、重なった多孔質フィルム4aを閉じるように圧着部20が上下方向に直線状に設けられている。そして、袋状の多孔質フィルム4aの両方の側端部には、それぞれ、ガラス繊維マット4bで覆われていない領域21が形成されている。不織布4bの側端は、圧着部20よりも内側に位置している。そのため、領域21の幅w
pは、多孔質フィルム4aの側端から圧着部20(より具体的には、圧着部20の外側の位置)までの幅w
aよりも大きい。
【0140】
セパレータ4は、鉛蓄電池1内では、不織布4bが正極板3と接触するように配置される。
図2のセパレータ4において、裏側が正極板3と接触する場合には、裏側にも表側に示すような不織布4bが設けられる。
【0141】
[実施例]
以下、本発明を実施例および参考例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0142】
《鉛蓄電池E1~E13》
下記の手順で実施例1~13の各鉛蓄電池を作製した。
(1)セパレータの作製
ポリエチレンと、シリカ粒子と、造孔剤としてのパラフィン系オイルと、浸透剤とを含む樹脂組成物を、シート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の一部を除去することによって、片面にリブを有する多孔質フィルムを作製した。
【0143】
既述の手順で求められる多孔質フィルムのオイル含有率は、11~18質量%であり、シリカ粒子の含有率は、60質量%であった。
既述の手順で求められるリブの高さは0.2mmであった。
既述の手順で求められる多孔質フィルムの厚さ(ベース部の厚さ)は、0.2mmで統一した。
【0144】
次に、シート状の多孔質フィルムを内面にリブが配置されるように二つ折りにして袋を形成し、重ね合わせた両端部を圧着して、袋状の多孔質フィルム(平置きした状態のサイズ:縦117mm×横152mm)を得た。圧着部は、多孔質フィルムの側端から2mmの位置より内側で、3mmの幅であった。
【0145】
袋状の多孔質フィルムの両方の外面に、
図2に示すようにガラス繊維マット(大気圧下におけるサイズ:縦117mm×横143mm、厚さ:50μm、平均繊維径:17μm、面密度:10g/m
2、空隙率:80%、平均細孔径:70μm)を接着剤で貼り付けた。多孔質フィルムの横幅は、ガラス繊維マットの横幅よりも大きく、多孔質フィルムの両方の側端部には、ガラス繊維マットが重なっていない領域が4.5mmの幅で形成されていた。
【0146】
なお、多孔質フィルムの比率R、オイル含有率、シリカ粒子の含有率、ベース部の厚さ、リブの高さ、ガラス繊維マットのサイズ、平均繊維径および面密度は、鉛蓄電池の作製前の多孔質フィルムまたはガラス繊維マットについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出した多孔質フィルムまたはガラス繊維マットについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0147】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅137mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0148】
(3)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅137mm、高さ110mm、厚さ1.3mmの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の使用量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について各成分の含有率が、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0149】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、セパレータの袋状の多孔質フィルムに収容した。袋の両方の外表面に貼り付けられたガラス繊維マットが正極板と接触するように負極板と正極板とをセパレータを介して積層した。このようにして、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。
【0150】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれキャストオンストラップ方式で正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび5時間率容量が30Ahの液式の鉛蓄電池を組み立てた。5時間率容量とは、定格容量に記載のAhの数値の1/5の電流(A)で放電するときの容量である。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0151】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における密度は1.285であった。満充電状態の鉛蓄電池から取り出した電解液についてCODが質量基準で表2に示す値になるように調節した。CODは、多孔質フィルムを作製する際の浸透剤の使用量、正極板および負極板のエキスパンド格子の洗浄状態などにより制御した。
【0152】
《鉛蓄電池R1~R15》
セパレータの作製(1)において、袋状の多孔質フィルムの両方の外面にガラス繊維マットを貼り付けなかったこと以外、実施例1~13と同様に、鉛蓄電池を作製した。
【0153】
(5)評価
既述の手順で、鉛蓄電池のCCA性能および重負荷寿命性能を評価した。重負荷寿命性能は、一旦満充電状態にした鉛蓄電池について、既述の手順で評価した。CCA性能は鉛蓄電池R15の30秒目の端子電圧を100、重負荷寿命性能は鉛蓄電池R8の寿命回数を100としたときの相対値によって評価した。
【0154】
評価結果を表2に示す。E1~E13は実施例である。R1~R15は比較例である。
【0155】
【0156】
表2に示されるように、不織布を用いない場合、重負荷寿命性能は、CODにかかわらず不十分であった。これは、CODの制御にかかわらず、正極電極材料の軟化、脱落を抑制できなかったためである。中でも、CODが5mg/L以下、特に1mg/Lの場合、正極側で酸素が発生し、酸化劣化による多孔質フィルムの破損も生じたため、さらに重負荷寿命性能は低下した。
【0157】
一方、不織布を用いた場合には、CODの制御により、CCA性能と重負荷寿命性能が顕著に向上した。すなわち、CODが160mg/L以下の場合、CCA性能と重負荷寿命性能が顕著に向上した。ただしCODが5mg/L以下、特に1mg/Lになると、重負荷寿命性能が低下した。これは、電解液中のCODが少な過ぎるため正極側で発生した酸素によって多孔質フィルムの破損が生じたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示に係る鉛蓄電池は、例えば、アイドリングストップ用途(アイドリングストップシステム車用の鉛蓄電池など)、様々な車両(トラック、タクシー等の商用車、バイクなど)の始動用電源などに適している。また、鉛蓄電池は、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源にも好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示である。本開示に係る鉛蓄電池の用途は、これらに限定されない。アイドリングストップ(Idling Reductionとも言う。)は、ISと称されることがある。
【符号の説明】
【0159】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
4a:多孔質フィルム
4b:ガラス繊維マット
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
20:圧着部
21:多孔質フィルムのガラス繊維マットで覆われていない領域