IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人ファインセラミックスセンターの特許一覧

特開2024-62168光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法
<>
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図1
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図2
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図3
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図4
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図5
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図6
  • 特開-光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062168
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20240430BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01M11/00 R
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170000
(22)【出願日】2022-10-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 地熱発電導入拡大研究開発/超臨界地熱資源技術開発 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】笠原 順三
【テーマコード(参考)】
2G050
2G086
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050BA03
2G050EB07
2G086DD02
2G086DD03
(57)【要約】
【課題】 光ファイバを水が存在する環境下で使用した場合の劣化状態を評価することができる光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法を提供する。
【解決手段】 光ファイバの劣化評価装置10は、1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を連続的に照射する光源20と、光源20から照射される該光が入射され、水が存在する水存在環境下に保持される試験区間31を有する測定対象の光ファイバ30と、光ファイバ30を透過した透過光の光スペクトルを測定する光スペクトラムアナライザ40と、光源20と光スペクトラムアナライザ40との間に配置され、該水存在環境が内部に形成される容器50を備え、容器50の内部に光ファイバ30の試験区間31が配置される環境模擬装置5Aと、を備え、得られた光スペクトルの経時変化に基づいて、光ファイバ30の劣化状態を評価する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を連続的に照射する光源と、
該光源から照射される該光が入射され、水が存在する水存在環境下に保持される試験区間を有する測定対象の光ファイバと、
該光ファイバを透過した透過光の光スペクトルを測定する光スペクトラムアナライザと、
該光源と該光スペクトラムアナライザとの間に配置され、該水存在環境が内部に形成される容器を備え、該容器の内部に該光ファイバの該試験区間が配置される環境模擬装置と、
を備え、
得られた該光スペクトルの経時変化に基づいて、該光ファイバの劣化状態を評価することを特徴とする光ファイバの劣化評価装置。
【請求項2】
前記環境模擬装置は、前記容器を加熱する加熱装置と、該容器に加圧された水を供給する加圧水供給装置と、を備え、該容器の内部に高温高圧の前記水存在環境を形成する請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項3】
前記水存在環境は、気相および液相の少なくとも一方の状態の水を有する環境である請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項4】
前記水存在環境の温度は室温以上600℃以下、圧力は大気圧以上25MPa以下である請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項5】
前記水存在環境は、超臨界水が存在する環境である請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項6】
前記光ファイバの劣化状態を、任意の二つの時間の前記光スペクトルを用いて算出される、光透過損失および水酸基(OH基)による吸収損失の少なくとも一方により評価する請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項7】
前記試験区間とは別に配置される参照用光ファイバを備え、
測定対象の前記光ファイバの光路は、該試験区間を経由する試験光路と、該試験区間を経由せずに該参照用光ファイバを経由する参照光路と、を有し、
該試験光路と該参照光路とを切り替えて、前記光スペクトラムアナライザにより各々の光スペクトルを測定し、該試験光路を経由した場合の光スペクトルと、該参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルと、を用いて該光ファイバの劣化状態を評価する請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項8】
前記試験光路と前記参照光路とを切り替える光スイッチを備える請求項7に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項9】
前記光ファイバの前記試験区間は、長さ1m以上の直線状を呈する請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項10】
前記環境模擬装置は、前記容器の内部に配置される金属管を備え、
前記光ファイバの前記試験区間は、該容器の内部に該金属管に挿入された状態で配置され、該金属管を介して前記水存在環境下に保持される請求項1に記載の光ファイバの劣化評価装置。
【請求項11】
測定対象の光ファイバの試験区間を、水が存在する水存在環境下に保持した状態で、光源から1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を該光ファイバに連続的に入射させ、光スペクトラムアナライザにより該光ファイバを透過した透過光の光スペクトルを測定し、得られた該光スペクトルの経時変化に基づいて、該光ファイバの劣化状態を評価することを特徴とする光ファイバの劣化評価方法。
【請求項12】
前記水存在環境は、気相および液相の少なくとも一方の状態の水を有する環境である請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項13】
前記水存在環境の温度は室温以上600℃以下、圧力は大気圧以上25MPa以下である請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項14】
前記水存在環境は、超臨界水が存在する環境である請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項15】
前記光ファイバの劣化状態を、任意の二つの時間の前記光スペクトルを用いて算出される、光透過損失および水酸基(OH基)による吸収損失の少なくとも一方により評価する請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項16】
前記試験区間とは別に配置される参照用光ファイバを準備し、
測定対象の前記光ファイバの光路を、該試験区間を経由する試験光路と、該試験区間を経由せずに該参照用光ファイバを経由する参照光路と、に切り替えて、前記光スペクトラムアナライザにより各々の光スペクトルを測定し、該試験光路を経由した場合の光スペクトルと、該参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルと、を用いて該光ファイバの劣化状態を評価する請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項17】
前記試験光路と前記参照光路との切り替えを、光スイッチを用いて行う請求項16に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【請求項18】
前記試験区間は、金属管に挿入されており、該金属管を介して前記水存在環境下に保持される請求項11に記載の光ファイバの劣化評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバを水が存在する環境下で使用した場合の劣化状態を評価する光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、大容量かつ広帯域の通信が可能な高性能の通信媒体であり、海底光ケーブルなどの長距離通信媒体などとして広く使用されている。近年では、情報通信用としてだけでなく、温度や振動を検知するセンサ用として、インフラ監視や地下構造の評価などに活用されている。光ファイバの信頼性を向上させるためには、強度を高め、光透過損失(伝送損失)を低減することが重要である。例えば、ガラスファイバに水素ガスが接触すると、ガラスファイバの中に水素分子が拡散し、それにより光が吸収されてしまう。また、ガラスファイバの構造欠陥に水素分子がトラップされ、水酸基(OH基)が生成されることによっても光が吸収されてしまう。このため、光透過損失を低減するためには、ガラスファイバへの水素の侵入を抑制することが有効である。ガラスファイバの強度を高め、水素の侵入を抑制するという観点から、ガラスファイバに樹脂や金属を被覆した光ファイバが実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-337766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバの劣化挙動を使用環境に応じて予め把握することは、光ファイバの修理や取り替え時期などを計画する上で重要である。光ファイバの劣化は、光透過損失の増加として現れる。光透過損失を生じさせる原因としては、前述した水酸基による吸収損失の他、レイリー散乱損失、曲げ損失、側面からの不均一な圧力により生じるマイクロベンディングなどが知られている。例えば、特許文献1には、光ファイバの屈曲による劣化状態を検出する方法として、光ファイバに異なる複数の波長の光を入射させ、透過光を波長ごとに分波し、分波した波長ごとに測定された光透過損失の差に基づいて、光ファイバの屈曲度を測定する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、光ファイバの屈曲の度合いしか測定することはできない。
【0005】
他には、OTDR(光学時間領域反射率計)を用いて、光ファイバに光パルスを送信した時の後方散乱光の波形により、光透過損失を測定する方法が知られている。しかしながら、光透過損失を生じさせる原因は、光の波長により変化する。このため、特定の波長の光を入射させて光透過損失を測定した場合、その波長に対応した原因による光透過損失しか測定されないため、それ以外の劣化原因を特定することは難しい。
【0006】
また、光ファイバの使用環境は様々であり、通常のドライ環境に加えて、蒸気中や水中などで光ファイバを使用する場合がある。あるいは、地中深くの領域で通信や測定をする場合、高温、高圧、酸性といった厳しい環境下で長期間に亘る使用が想定される。特に、超臨界水(温度374℃以上、圧力22MPa以上の状態の水)が存在するような領域は過酷な環境である。例えば、300℃を超える環境下では、樹脂や金属からなる被覆層が腐食したり、被覆層中を水素が移動してガラスファイバの性能を劣化させやすい。しかしながら、実際の使用環境における光ファイバの劣化を連続的に評価する技術は、未だ確立されていない。なかでも、高温、高圧で水が存在する厳しい環境下で使用される光ファイバについては、寿命に関するデータがほとんどないのが現状である。
【0007】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、光ファイバを水が存在する環境下で使用した場合の劣化状態を評価することができる光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示の光ファイバの劣化評価装置は、1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を連続的に照射する光源と、該光源から照射される該光が入射され、水が存在する水存在環境下に保持される試験区間を有する測定対象の光ファイバと、該光ファイバを透過した透過光の光スペクトルを測定する光スペクトラムアナライザと、該光源と該光スペクトラムアナライザとの間に配置され、該水存在環境が内部に形成される容器を備え、該容器の内部に該光ファイバの該試験区間が配置される環境模擬装置と、を備え、得られた該光スペクトルの経時変化に基づいて、該光ファイバの劣化状態を評価することを特徴とする。
【0009】
本開示の光ファイバの劣化評価装置(以下、単に「本開示の劣化評価装置」と称する場合がある)においては、測定対象の光ファイバのうちの試験区間が、環境模擬装置の容器内に形成される水存在環境下に保持される。水存在環境を実際の使用環境と同じか近い環境にすることにより、実際の使用時における光ファイバの状態を模擬することができる。光源からは光が連続的に照射され、光スペクトラムアナライザにより透過光の光スペクトルが連続的に測定される。よって、実際の使用環境を模擬した状態で、光ファイバの光スペクトルを連続的に測定することができ、光ファイバの透過特性の経時変化を得ることができる。また、本開示の劣化評価装置においては、1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを測定する。当該波長範囲の光スペクトルを測定すると、光透過損失の原因が、例えば、水酸基による吸収損失なのか、またはそれ以外の現象によるものなのかを特定することができる。また、シリカガラスを主成分とするガラスファイバの光透過損失は、レイリー散乱および赤外線吸収の影響を受けるため、光ファイバには、両者の影響が少ない波長(例えば1550nm)の光が使用されることが多い。よって、1000nm以上1700nm以下の波長範囲における劣化評価が重要になる。このように、本開示の劣化評価装置によると、水存在環境下で使用される光ファイバの劣化状態を評価することができ、測定された光スペクトルにより劣化原因を特定することができる。
【0010】
(2)上記構成において、前記環境模擬装置は、前記容器を加熱する加熱装置と、該容器に加圧された水を供給する加圧水供給装置と、を備え、該容器の内部に高温高圧の前記水存在環境を形成する構成としてもよい。本構成によると、例えば、高温高圧の熱水が存在するような水存在環境を、容器内に容易に形成することができる。
【0011】
(3)上記いずれかの構成において、前記水存在環境は、気相および液相の少なくとも一方の状態の水を有する環境である構成としてもよい。本構成によると、実際の使用環境に応じて、蒸気のみの環境、蒸気と液体の水とが共存する環境、液体の水のみが存在する環境などを模擬することができる。
【0012】
(4)上記いずれかの構成において、前記水存在環境の温度は室温以上600℃以下、圧力は大気圧以上25MPa以下である構成としてもよい。本構成によると、常温常圧の水が存在する環境だけでなく、高温高圧の熱水が存在するような水存在環境や、超臨界水が存在する環境など、実際の使用環境に応じた様々な環境を模擬することができる。
【0013】
(5)上記(1)または(2)の構成において、前記水存在環境は、超臨界水が存在する環境である構成としてもよい。本構成によると、例えば、地中深くの過酷な環境を模擬して、光ファイバの劣化状態を評価することができる。
【0014】
(6)上記いずれかの構成において、前記光ファイバの劣化状態を、任意の二つの時間の前記光スペクトルを用いて算出される、光透過損失および水酸基(OH基)による吸収損失の少なくとも一方により評価する構成としてもよい。本構成においては、任意の二つの時間の間に生じた光透過損失に基づいて、光ファイバの劣化状態を評価する。例えば、所定の波長範囲の全体において、光透過損失の値が予め設定した基準値より大きい場合を、「劣化」と評価することができる。また、横軸を波長、縦軸を光透過損失として示されたグラフにおいて、波長1390nm付近に水酸基による吸収損失が出現している場合を、「劣化」と評価することができる。
【0015】
(7)上記いずれかの構成において、前記試験区間とは別に配置される参照用光ファイバを備え、測定対象の前記光ファイバの光路は、該試験区間を経由する試験光路と、該試験区間を経由せずに該参照用光ファイバを経由する参照光路と、を有し、該試験光路と該参照光路とを切り替えて、前記光スペクトラムアナライザにより各々の光スペクトルを測定し、該試験光路を経由した場合の光スペクトルと、該参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルと、を用いて該光ファイバの劣化状態を評価する構成としてもよい。
【0016】
光源から連続して照射される光は、常に一定の強度を維持することは難しく、多少のゆらぎが生じる場合がある。光スペクトラムアナライザにおいても、大気中の水分などの影響を受け、信号強度が変化する場合がある。このため、参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルを基準スペクトルとして測定し、それを基準にして試験光路による本来の光スペクトルを解析することで、光源および光スペクトラムアナライザにおけるゆらぎや不確実性などの本来の劣化原因以外の要素を排除して、光ファイバの光透過特性を正確に測定することができる。
【0017】
(8)上記(7)の構成において、前記試験光路と前記参照光路とを切り替える光スイッチを備える構成としてもよい。本構成によると、光スイッチの操作により、試験光路と参照光路との切り替えを容易に行うことができる。
【0018】
(9)上記いずれかの構成において、前記光ファイバの前記試験区間は、長さ1m以上の直線状を呈する構成としてもよい。試験区間の長さが1m以上あると、水存在環境による影響を十分に反映した測定を行うことができ、劣化評価の精度が向上する。また、試験区間を直線状に配置することにより、光ファイバの曲率による光透過特性の変化を排除して、経時的要素、環境からの要素による本来の劣化原因を正確に測定することができる。
【0019】
(10)上記いずれかの構成において、前記環境模擬装置は、前記容器の内部に配置される金属管を備え、前記光ファイバの前記試験区間は、該容器の内部に該金属管に挿入された状態で配置され、該金属管を介して前記水存在環境下に保持される構成としてもよい。
【0020】
本構成において、試験区間の光ファイバは、容器内の水存在環境に直接触れることはない。このため、光透過損失として、波長1390nm付近に水酸基による吸収損失が出現した場合、金属管を介して水素が光ファイバに侵入したと判断することができる。本構成によると、光ファイバの劣化状態を評価することに加えて、金属管の水素透過性なども評価することができる。
【0021】
(11)本開示の光ファイバの劣化評価方法は、測定対象の光ファイバの試験区間を、水が存在する水存在環境下に保持した状態で、光源から1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を該光ファイバに連続的に入射させ、光スペクトラムアナライザにより該光ファイバを透過した透過光の光スペクトルを測定し、得られた該光スペクトルの経時変化に基づいて、該光ファイバの劣化状態を評価することを特徴とする。
【0022】
本開示の光ファイバの劣化評価方法(以下、単に「本開示の劣化評価方法」と称する場合がある)によると、水存在環境を実際の使用環境と同じか近い環境にすることにより、光ファイバの実際の使用時を模擬した状態で、透過光の光スペクトルを連続的に測定することができる。また、1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを測定することにより、光透過損失の原因が、例えば、水酸基による吸収損失なのか、またはそれ以外の現象によるものなのかを特定することができる。このように、本開示の劣化評価方法によると、水存在環境下で使用される光ファイバの劣化状態を評価することができ、測定された光スペクトルにより劣化原因を特定することができる。
【0023】
(12)上記(11)の構成において、前記水存在環境は、気相および液相の少なくとも一方の状態の水を有する環境である構成としてもよい。本構成によると、実際の使用環境に応じて、蒸気のみの環境、蒸気と液体の水とが共存する環境、液体の水のみが存在する環境などを模擬して、光スペクトルを測定することができる。
【0024】
(13)上記(11)または(12)の構成において、前記水存在環境の温度は室温以上600℃以下、圧力は大気圧以上25MPa以下である構成としてもよい。本構成によると、常温常圧の水が存在する環境だけでなく、高温高圧の熱水が存在するような水存在環境や、超臨界水が存在する環境など、実際の使用環境に応じた様々な環境を模擬して、光スペクトルを測定することができる。
【0025】
(14)上記(11)の構成において、前記水存在環境は、超臨界水が存在する環境である構成としてもよい。本構成によると、例えば、地中深くの過酷な環境を模擬して、光ファイバの劣化状態を評価することができる。
【0026】
(15)上記(11)ないし(14)のいずれかの構成において、前記光ファイバの劣化状態を、任意の二つの時間の前記光スペクトルを用いて算出される、光透過損失および水酸基(OH基)による吸収損失の少なくとも一方により評価する構成としてもよい。本構成においては、任意の二つの時間の間に生じた光透過損失に基づいて、光ファイバの劣化状態を評価する。例えば、所定の波長範囲の全体において、光透過損失の値が予め設定した基準値より大きい場合を、「劣化」と評価することができる。また、横軸を波長、縦軸を光透過損失として示されたグラフにおいて、波長1390nm付近に水酸基による吸収損失が出現している場合を、「劣化」と評価することができる。
【0027】
(16)上記(11)ないし(15)のいずれかの構成において、前記試験区間とは別に配置される参照用光ファイバを準備し、測定対象の前記光ファイバの光路を、該試験区間を経由する試験光路と、該試験区間を経由せずに該参照用光ファイバを経由する参照光路と、に切り替えて、前記光スペクトラムアナライザにより各々の光スペクトルを測定し、該試験光路を経由した場合の光スペクトルと、該参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルと、を用いて該光ファイバの劣化状態を評価する構成としてもよい。
【0028】
本構成によると、参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルを基準スペクトルとして測定し、それを基準にして試験光路による本来の光スペクトルを解析することで、光源および光スペクトラムアナライザにおけるゆらぎや不確実性などの本来の劣化原因以外の要素を排除して、光ファイバの光透過特性を正確に測定することができる。
【0029】
(17)上記(16)の構成において、前記試験光路と前記参照光路との切り替えを、光スイッチを用いて行う構成としてもよい。本構成によると、光スイッチの操作により、試験光路と参照光路との切り替えを容易に行うことができる。
【0030】
(18)上記(11)ないし(17)のいずれかの構成において、前記試験区間は、金属管に挿入されており、該金属管を介して前記水存在環境下に保持される構成としてもよい。本構成によると、光ファイバの劣化状態を評価することに加えて、金属管の水素透過性なども評価することができる。
【発明の効果】
【0031】
本開示の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法によると、水存在環境下で使用される光ファイバの劣化状態を評価することができ、測定された光スペクトルにより劣化原因を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第一実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を示す模式図である。
図2】第二実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を示す模式図である。
図3】第三実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を示す模式図である。
図4】第四実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を示す模式図である。
図5】劣化評価試験1における光透過損失の測定結果を示すグラフである。
図6】劣化評価試験2において、参照用光スペクトルを用いずに算出された光透過損失の測定結果を示すグラフである。
図7】劣化評価試験2において、参照用光スペクトルを用いて算出された光透過損失の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法の実施の形態について説明する。
<第一実施形態>
まず、第一実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を説明する。図1に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を説明するための模式図を示す。説明の便宜上、図1においては、環境模擬装置の容器内を透過して示す(以下の図2図4においても同じ)。図1に示すように、劣化評価装置10は、光源20と、測定対象の光ファイバ30と、光スペクトラムアナライザ40と、環境模擬装置5Aと、を備えている。
【0034】
光源20は、ハロゲンランプを使用した白色光源であり、1000nm以上1700nm以下の波長範囲を含む光を連続的に照射する。光ファイバ30の一端部は、光源20に接続されている。光ファイバ30には、光源20から照射される光が連続的に入射する。光ファイバ30は、シングルモード型であり、ガラスファイバとその外周を被覆する保護層とを有している。ガラスファイバは、シリカガラスを主成分とし、中心部のコアとその外周を被覆するクラッドとから構成されている。保護層は、ポリイミド膜からなる。光ファイバ30は、試験区間31を有している。試験区間31の長さは1mである。光スペクトラムアナライザ40は、光の成分を波長ごとに分解して光パワーを測定し、横軸(X軸)を波長、縦軸(Y軸)を光パワー(単位[dBm])として光スペクトルを表示する。光ファイバ30の他端部は、光スペクトラムアナライザ40に接続されている。光スペクトラムアナライザ40は、光ファイバ30を透過した透過光の光スペクトルを測定する。
【0035】
環境模擬装置5Aは、光源20と光スペクトラムアナライザ40との間に配置されている。環境模擬装置5Aは、容器50と、給水バルブ51と、排水バルブ52と、温度制御装置53と、を備えている。容器50は、一方向に延在する直方体状を呈している。容器50の内部には、図示しない給水タンクから給水バルブ51を介して水が供給される。供給された水は、排水バルブ52を介して外部に排出される。光スペクトルの測定時、容器50の内部には水が充填されている。温度制御装置53は、容器50の外周を被覆するように配置されている。温度制御装置53は、ヒーター530を備えており、容器50を加熱可能である。ヒーター530は、本開示における加熱装置の概念に含まれる。光スペクトルの測定時、容器50の内部は15℃、大気圧の状態に保持されている。光ファイバ30の試験区間31は、容器50の内部に直線状に配置されている。試験区間31は、15℃、大気圧で液相の水が存在する水存在環境下に保持されている。
【0036】
次に、本実施形態の光ファイバの劣化評価方法を説明する。まず、光源20から光を連続的に100時間照射して、光スペクトラムアナライザ40により、光ファイバ30を透過した透過光の1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを測定する。次に、所定時間経過時の光スペクトルを選択し、測定開始時の光スペクトルと、選択した所定時間経過時の光スペクトルと、における縦軸の光パワー値(単位[dBm])の差を計算して、初期からの透過光量の変化、すなわち光透過損失(単位[dB])を算出する。そして、所定の波長範囲の全体において、光透過損失の値が予め設定した基準値より大きければ、光ファイバ30は劣化したと評価する。具体的には、横軸を波長、縦軸を光透過損失として示されたグラフ(以下、「光透過損失グラフ」と称す場合がある)において、所定の波長範囲のベースラインが予め設定した基準値より大きければ、光ファイバ30は劣化したと評価する。また、波長1390nm付近の光透過損失が他の波長領域のそれよりも大きくなっている場合、具体的には、光透過損失グラフにおいて、波長1390nm付近にピークが見られた場合には、OH基による吸収損失が大きいと判断して光ファイバ30は劣化したと評価する。
【0037】
次に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法の作用効果を説明する。劣化評価装置10においては、光源20として白色光源を使用する。このため、1000nm以上1700nm以下の波長範囲を含む光を連続的に照射することができる。光ファイバ30の試験区間31は、容器50内に形成された15℃、大気圧で液相の水が充填された容器50に配置される。これにより、15℃、大気圧の水中で使用される光ファイバ30の劣化状態を評価することができ、測定された光スペクトルにより劣化原因を特定することができる。試験区間31の長さは1mであり、容器50の内部に直線状に配置される。これにより、水存在環境による影響を十分に反映した測定を行うことができ、劣化評価の精度が向上する。また、光ファイバ30の曲率による光透過特性の変化を排除して、経時的要素、環境からの要素による本来の劣化原因を正確に測定することができる。
【0038】
<第二実施形態>
本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第一実施形態のそれとの第一の相違点は、環境模擬装置が、給水バルブおよび排水バルブに替えて、加圧給水ポンプおよび減圧排水バルブを備えている点である。第二の相違点は、光スペクトルの測定時、容器の内部には250℃、24MPaで液相の水が存在する水存在環境が形成されている点である。ここでは、主に相違点を説明する。図2に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を説明するための模式図を示す。図2中、図1と対応する部材については同じ符号で示す。
【0039】
図2に示すように、劣化評価装置11における環境模擬装置5Bは、容器50と、加圧給水ポンプ54と、減圧排水バルブ55と、温度制御装置53と、を備えている。加圧給水ポンプ54は、図示しない給水タンクから送られる水を加圧して、容器50の内部に供給する。減圧排水バルブ55は、容器50内の加圧された水を減圧して外部に排出する。これにより、容器50の内部には、圧力24MPaに加圧された加圧水が充填されている。加圧給水ポンプ54は、本開示における加圧水供給装置の概念に含まれる。容器50の内部は、温度制御装置53のヒーター530により加熱され、250℃に保持されている。このようにして、容器50の内部に高温高圧の熱水が存在する環境が形成されている。すなわち、光スペクトルの測定時、試験区間31は、250℃、24MPaで液相の水が存在する水存在環境下に保持されている。
【0040】
本実施形態の光ファイバの劣化評価方法は、第一実施形態のそれと同じであるため説明を省略する。本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第一実施形態のそれとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の劣化評価装置11の環境模擬装置5Bは、加圧給水ポンプ54を備えている。加圧給水ポンプ54と温度制御装置53のヒーター530とにより、高温高圧の熱水が存在するような水存在環境を、容器50内に容易に形成することができる。これにより、熱水中で使用される光ファイバ30の劣化状態を評価することができ、測定された光スペクトルにより劣化原因を特定することができる。測定対象の光ファイバ30は、ポリイミド膜からなる保護層を有する。劣化評価装置11によると、高温高圧の熱水が存在する環境下における保護層の耐久性などについても確認することができる。
【0041】
<第三実施形態>
本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第二実施形態のそれとの相違点は、本実施形態の劣化評価装置は、試験区間とは別に配置される参照用光ファイバと、光スイッチと、を備えている点である。ここでは、主に相違点を説明する。図3に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を説明するための模式図を示す。図3中、図2と対応する部材については同じ符号で示す。
【0042】
劣化評価装置12は、光源20と光スペクトラムアナライザ40との間に、光スイッチ61を備えている。光スイッチ61には、光ファイバ30のうち試験区間31を含む中間部32と、試験区間31に替えて配置される参照用光ファイバ60と、が接続されている。光ファイバ30の光路は、光スイッチ61を介して、試験区間31を含む中間部32を経由する試験光路33(図3中、実線矢印で示す)と、試験区間31を経由せずに参照用光ファイバ60を経由する参照光路34(図3中、点線矢印で示す)と、を有している。光スペクトルの測定時、試験光路33と参照光路34とは、光スイッチ61により適宜切り替えられる。光スペクトラムアナライザ40は、試験光路33を経由した場合の光スペクトルと、参照光路34を経由した場合の光スペクトルと、の両方を測定する。
【0043】
次に、本実施形態の光ファイバの劣化評価方法を説明する。第一実施形態と同様に、光源20から光を連続的に100時間照射して、光スペクトラムアナライザ40により、光ファイバ30の試験光路33を透過した透過光の1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを測定する。その間、30分間に一回の割合で、光スイッチ61により、試験光路33と参照光路34とを切り替えて、光スペクトラムアナライザ40により、参照光路34を透過した透過光の1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを測定する。そして、試験光路33における、測定開始時と所定時間経過時との光スペクトルを用いて光透過損失を算出する際に、予め各々の光スペクトルを、参照光路34において測定された参照用光スペクトルを用いて補正しておく。具体的には、試験光路33の光スペクトルにおける縦軸の光パワー値(単位[dBm])から、参照用光スペクトルにおける縦軸の光パワー値(単位[dBm])を差し引いておく。結果、第一実施形態と同様に、所定の波長範囲の全体において、光透過損失の値が予め設定した基準値より大きければ、光ファイバ30は劣化したと評価する。また、波長1390nm付近の光透過損失が他の波長領域のそれよりも大きくなっていれば、OH基による吸収損失が大きいと判断して光ファイバ30は劣化したと評価する。
【0044】
次に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法の作用効果を説明する。本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第二実施形態のそれとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の劣化評価装置12は、参照用光ファイバ60と光スイッチ61とを備えている。光スイッチ61により、光ファイバ30の光路は、試験区間31を経由する試験光路33と、参照用光ファイバ60を経由する参照光路34と、に切り替えられる。そして、光スペクトラムアナライザ40により、試験光路33を経由した場合の光スペクトルと、参照光路34を経由した場合の光スペクトル(参照用光スペクトル)と、の両方が測定される。参照用光スペクトルを基準にして試験光路33における光スペクトルを解析することで、光源20および光スペクトラムアナライザ40におけるゆらぎや不確実性などの本来の劣化原因以外の要素を排除して、光ファイバ30の光透過特性を正確に測定することができる。また、光スイッチ61を用いることにより、試験光路33と参照光路34との切り替えを容易に行うことができる。
【0045】
<第四実施形態>
本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第二実施形態のそれとの第一の相違点は、環境模擬装置が金属管を備えている点である。第二の相違点は、光スペクトルの測定時、容器の内部には500℃、24MPaで超臨界水が存在する水存在環境が形成されている点である。第三の相違点は、光ファイバの保護層が銅膜からなる点である。ここでは、主に相違点を説明する。図4に、本実施形態の光ファイバの劣化評価装置の構成を説明するための模式図を示す。図4中、図2と対応する部材については同じ符号で示す。
【0046】
図4に示すように、劣化評価装置13における環境模擬装置5Cは、容器50、加圧給水ポンプ54、減圧排水バルブ55、温度制御装置53に加えて、金属管56を備えている。金属管56は、ニッケル基合金製であり、円筒形状を呈している。金属管56は、容器50の長手方向に添って容器50の内部に配置されている。金属管56には、光ファイバ35の試験区間31を含む一部分が挿入されている。金属管56の両端部は容器50の外側に延出し、両端面は封止されている。光ファイバ35は、シリカガラスを主成分とするガラスファイバと、銅膜からなる保護層と、を有している。
【0047】
容器50の内部には、圧力24MPaに加圧された加圧水が充填されている。また、容器50の内部は、温度制御装置53のヒーター530により加熱され、500℃に保持されている。このようにして、容器50の内部に超臨界状態の水存在環境が形成されている。すなわち、光スペクトルの測定時、試験区間31は、金属管56を介して、500℃、24MPaで超臨界水が存在する水存在環境下に保持されている。
【0048】
本実施形態の光ファイバの劣化評価方法は、第一実施形態のそれと同じであるため説明を省略する。本実施形態の光ファイバの劣化評価装置と第二実施形態のそれとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態の劣化評価装置13によると、光ファイバ35の試験区間31は、金属管56を介して、超臨界水中に保持される。これにより、超臨界水中で使用される光ファイバ35の劣化状態を評価することができると共に、光ファイバ35への水素侵入の有無により、金属管56の水素透過性などを確認することができる。
【0049】
<その他の実施形態>
以上、本開示の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法の四つの形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。本開示の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法は、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0050】
[光ファイバ]
測定対象の光ファイバの構成、材質などは特に限定されず、用途、使用環境に応じて適宜選択すればよい。一般的な光ファイバは、ガラスファイバとその外周を被覆する保護層とを有する。ガラスファイバは、シリカガラスを主成分とするコアとクラッドとから構成される。ガラスファイバは、シングルモード、マルチモードのいずれでもよい。保護層は、一層でも複数層から構成されていてもよい。保護層を構成する材料としては、アクリレート、ポリイミドなどの樹脂、金、白金、銅、アルミニウムなどの耐熱性および耐腐食性を有する金属、炭素材料などが挙げられる。
【0051】
光ファイバは、水が存在する水存在環境下に保持される試験区間を有する。試験区間の長さは特に限定されないが、1m以上にすることにより、水存在環境による影響を十分に反映した測定を行うことができ、劣化評価の精度を向上させることができる。容器内における試験区間の配置形態は、直線状でも湾曲した状態でもよい。直線状に配置すると、光ファイバの曲率による光透過特性の変化を排除して、経時的要素、環境からの要素による本来の劣化原因を正確に測定することができる。湾曲した状態で配置する場合、曲率半径はできるだけ大きい方が望ましく、例えば1m以上であるとよい。
【0052】
本開示の劣化評価装置は、試験区間とは別に配置される参照用光ファイバを備えてもよい。参照用光ファイバの構成、材質、長さなどは特に限定されないが、測定対象の光ファイバと同様に、ガラスファイバとその外周を被覆する保護層とを有する構成が望ましい。保護層の好適な材料は、前述した測定対象の光ファイバのそれと同じである。参照用光ファイバの構成、材質、長さなどは、測定対象の光ファイバと同じでも異なってもよい。参照用光ファイバを備える場合、光ファイバの光路を、試験区間を経由する試験光路と、試験区間を経由せずに参照用光ファイバを経由する参照光路と、から構成し、二つの光路を切り替えて、各々の光スペクトルを測定する。試験光路を経由した場合の光スペクトルを、参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルにより補正することで、光源および光スペクトラムアナライザにおけるゆらぎや不確実性などの本来の劣化原因以外の要素を排除して、光ファイバの光透過特性を正確に測定することができる。試験光路と参照光路とを切り替えるタイミングは、適宜決定すればよい。例えば、試験光路における測定を20~30分間行ったら、参照光路における測定を5分間行うサイクルを繰り返せばよい。試験光路と参照光路とを切り替える手段は、特に限定されないが、例えば、光スイッチなどが好適である。
【0053】
[光源]
光源は、1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光を連続的に照射できるものであれば限定されない。例えば、ハロゲンランプ、キセノンアークランプなどを使用する白色光源や、LEDを用いて構成する光源が挙げられる。なお、光透過損失の原因の一つである曲げ損失については、波長1000nm未満の領域で、曲率により光パワー(透過光量)が大きく変化する。このため、波長1000nm未満の光スペクトルを測定した場合には、光ファイバの曲率による光透過特性の変化が主となり、経時的要素、環境からの要素による本来の劣化原因を正確に反映することが難しい。反対に、波長1700nmより大きい領域では、光パワーが小さいため評価に適さない。
【0054】
[環境模擬装置]
環境模擬装置は、内部に水存在環境が形成される容器を備える。容器の大きさ、材質については、形成する水存在環境に応じて適宜選択すればよい。例えば、高温高圧の水存在環境を形成する場合、容器には耐熱性、耐圧性などが要求される。環境模擬装置は、容器内部に所望の水存在環境を形成できるよう、容器に他の装置を組み合わせて構成してもよい。例えば、高温高圧の水存在環境を形成する場合、環境模擬装置は、容器と、容器を加熱する加熱装置と、容器に加圧された水を供給する加圧水供給装置と、を備える構成にするとよい。
【0055】
容器内部に形成される水存在環境は、水が存在していればよい。すなわち、容器内部には、水だけが存在してもよく、水以外に空気、他のガスが存在していてもよい。例えば、温度、圧力を調整し、気相および液相の少なくとも一方の状態の水を有する環境にすることができる。地中深くの領域などの高温高圧の環境、さらには超臨界水が存在する環境などを模擬するためには、容器内の温度を室温以上600℃以下、圧力を大気圧以上25MPa以下に調整可能にするとよい。
【0056】
さらに、環境模擬装置は、容器内部に配置される金属管を備えてもよい。金属管は、全体が容器内部に配置されなくてもよく、少なくとも光ファイバの試験区間が挿入される部分が容器内部に配置されればよい。金属管の径、長さは、容器の大きさ、光ファイバの配置形態などに応じて適宜決定すればよい。また、金属管の材質としては、機械的特性に優れ、耐熱性が高く、水分の存在下で酸化しにくく、水素透過性が低いという観点から、ニッケル、ニッケル量が50wt%以上のニッケル基合金、ステンレス合金などが挙げられる。
【0057】
[劣化評価方法]
本開示の光ファイバの劣化評価装置および劣化評価方法においては、得られた光スペクトルの経時変化に基づいて、光ファイバの劣化状態を評価する。例えば、測定開始時と所定時間経過時など、任意の二つの時間の光スペクトルを用いて光透過損失を算出し、光透過損失の値、水酸基による吸収損失の有無などにより、劣化状態を評価すればよい。また、光ファイバの光路を試験光路と参照光路とに分け、各々の光路を透過する透過光の光スペクトルを測定する場合には、試験光路を経由した場合の光スペクトルを参照光路を経由した場合の参照用光スペクトルにより補正して、光ファイバの劣化状態を評価すればよい。
【実施例0058】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0059】
<劣化評価試験1>
測定対象として、シリカガラスを主成分とするガラスファイバと、その外周を被覆する保護層と、を有するシングルモードの光ファイバを準備した。保護層は、内側からアモルファスカーボン膜と銅膜とが積層された二層構造を有している。以下、準備した光ファイバを「第一の光ファイバ」と称す。第一の光ファイバを超臨界水中で使用した場合を想定し、上記第四実施形態の劣化評価装置(前出図4参照)を用いて劣化状態を評価した。第一の光ファイバうち、超臨界水に暴露する試験区間の長さは2mとした。
【0060】
まず、第一の光ファイバの試験区間を含む一部分を環境模擬装置の金属管に挿入し、一端部を白色光源(ファイバーラボ(株)製「ファイバ結合白色光源」)に接続し、他端部を光スペクトラムアナライザ(横河計測(株)製「光スペクトラムアナライザ」)に接続した。次に、環境模擬装置の容器内部に、500℃、24MPaの超臨界水が存在する環境を形成し、この状態で白色光源から光を連続的に照射して、第一の光ファイバを透過した透過光の1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを光スペクトラムアナライザにより測定した。測定時間は16時間とした。得られた光スペクトルのうち、測定開始から12時間、15時間、16時間経過時の三つの光スペクトルを使用して、各々の光透過損失を算出した。図5に、測定開始から12時間、15時間、16時間経過時の光透過損失の測定結果を示す。
【0061】
図5に示すように、測定開始から12時間後においては、光透過損失の値は比較的小さく、波長1390nm付近にピークもほとんど見られなかった。よって、劣化は小さいと評価することができる。他方、測定開始から15時間後においては、12時間後と比較して、1200nm~1600nmの波長範囲の全体で光透過損失の値が大きくなり(ベースラインが上がり)、波長1390nm付近にOH基による吸収損失による大きなピークが見られた。これにより、金属管を介して光ファイバに水素が侵入したことが推測され、他の要因を含めて劣化が進んでいることが確認できる。さらに、測定開始から16時間後になると、光透過損失の値が大きく増加して、劣化がさらに進行したことが確認できる。
【0062】
<劣化評価試験2>
測定対象として、劣化評価試験1で使用した第一の光ファイバと保護層の構成のみが異なる第二の光ファイバを準備した。第二の光ファイバの保護層は、内側からアモルファスカーボン膜とポリイミド膜とが積層された二層構造を有している。第二の光ファイバを、250℃、24MPa下の熱水中で使用した場合を想定し、上記第三実施形態の劣化評価装置(前出図3参照)を用いて劣化状態を評価した。第二の光ファイバうち、熱水に暴露する試験区間の長さは2mとした。
【0063】
まず、第二の光ファイバを、光スイッチを介して、白色光源(同上)と光スペクトラムアナライザ(同上)とに接続した。第二の光ファイバの光路は、光スイッチにより、試験区間を経由する試験光路と、参照用光ファイバを経由する参照光路と、の二つに分岐されている。次に、環境模擬装置の容器内部に、250℃、24MPaの熱水が存在する環境を形成し、この状態で白色光源から光を連続的に照射して、第二の光ファイバの試験光路を透過した透過光の1000nm以上1700nm以下の波長範囲の光スペクトルを、光スペクトラムアナライザにより測定した。測定時間は100時間とした。途中、30分間に一回の割合で、光スイッチにより試験光路から参照光路に切り替えて、参照光路を透過した透過光の光スペクトルを光スペクトラムアナライザにより測定した。得られた光スペクトルのうち、測定開始から47時間、93時間経過時の二つの光スペクトルを使用して、各々の光透過損失を算出した。光透過損失の算出は、一つは、参照光路を経由して測定された光スペクトルを用いずに行い、もう一つは、当該参照用光スペクトルを用いて行った。図6に、参照用光スペクトルを用いずに算出された光透過損失の測定結果を示す。図7に、参照用光スペクトルを用いて算出された光透過損失の測定結果を示す。
【0064】
図6図7に示すように、算出方法によらず、測定開始から時間が経過すると、波長範囲の全体で光透過損失の値が大きくなり(ベースラインが上がり)、劣化が進んでいることが確認できる。また、図6図7とを比較すると、図7に示した結果の方がノイズが小さく、波長1390nm付近に出現するOH基による吸収損失によるピークなどが認識しやすいことがわかる。
【符号の説明】
【0065】
10、11、12、13:劣化評価装置、20:光源、30、35:光ファイバ、31:試験区間、32:中間部、33:試験光路、34:参照光路、40:光スペクトラムアナライザ、5A、5B、5C:環境模擬装置、50:容器、51:給水バルブ、52:排水バルブ、53:温度制御装置、54:加圧給水ポンプ(加圧水供給装置)、55:減圧排水バルブ、56:金属管、530:ヒーター(加熱装置)、60:参照用光ファイバ、61:光スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7