(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062172
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】バラン回路、半導体装置、およびレーダ
(51)【国際特許分類】
H01P 5/10 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
H01P5/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170005
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大広
(57)【要約】
【課題】 広帯域特性を向上させること。
【解決手段】 実施形態のバラン回路は、第1の入力ポートに通じる線路端とオープンポートに通じる線路端とを有する第1の線路と、第2の入力ポートに通じる線路端と電極に通じる線路端とを有する第2の線路と、第3の入力ポートに通じる線路端と前記電極に通じる線路端とを有する第3の線路とを備え、前記第1の線路の一部と前記第2の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第2の線路の一部が配置され、最内周に前記第1の線路の一部が配置された、第1のスパイラルパターンが形成されており、前記第1の線路の一部と前記第3の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第1の線路の一部が配置され、最内周に前記第3の線路の一部が配置された、第2のスパイラルパターン形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力ポートに通じる線路端とオープンポートに通じる線路端とを有する第1の線路と、
第2の入力ポートに通じる線路端と電極に通じる線路端とを有する第2の線路と、
第3の入力ポートに通じる線路端と前記電極に通じる線路端とを有する第3の線路と
を備え、
前記第1の線路の一部と前記第2の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第2の線路の一部が配置され、最内周に前記第1の線路の一部が配置された、第1のスパイラルパターンが形成されており、
前記第1の線路の一部と前記第3の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第1の線路の一部が配置され、最内周に前記第3の線路の一部が配置された、第2のスパイラルパターンが形成されている、
バラン回路。
【請求項2】
前記第1のスパイラルパターンの中心部と前記第2のスパイラルパターンの中心部とを結ぶ線を境目とする両側のうち、前記第1の入力ポートに通じる線路端が配置される側と同じ側に、前記オープンポートに通じる線路端と、前記第2の入力ポートに通じる線路端と、前記第3の入力ポートに通じる線路端とが配置されている、
請求項1に記載のバラン回路。
【請求項3】
前記第1の入力ポートに通じる線路端は、前記第1のスパイラルパターンの最外周に配置される前記第2の線路の一部の内周側に配置されている、
請求項1に記載のバラン回路。
【請求項4】
前記第1のスパイラルパターンの最内周に配置される前記第1の線路の一部は、ブリッジを介して、前記第2のスパイラルパターンの最内周に配置される前記第3の線路の一部の外周側に配置される前記第1の線路の一部と繋がっている、
請求項1に記載のバラン回路。
【請求項5】
前記第2の入力ポートに通じる線路端は、ブリッジを介して、前記第1のスパイラルパターンの最内周に配置される前記第1の線路の一部の外周側に配置される前記第2の線路の一部と繋がっている、
請求項1に記載のバラン回路。
【請求項6】
前記第1の入力ポートに通じる線路端は、前記第2の入力ポートに通じる線路端よりも、前記第2のスパイラルパターンに近い位置に配置されており、
前記オープンポートに通じる線路端は、前記第3の入力ポートに通じる線路端よりも、前記第1のスパイラルパターンに近い位置に配置されている、
請求項1に記載のバラン回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバラン回路を備える半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のバラン回路を備えるレーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、バラン回路、半導体装置、およびレーダに関する。
【背景技術】
【0002】
バラン(Balun)回路にはいくつかの種類があり、代表的なものとして、差動型、ルスロフ(Ruthroff)型、マーチャント(Marchand)型が挙げられる。これらの中で、マーチャント型は、広帯域特性に優れるものとして知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マーチャント型のバラン回路は、他の種類のバラン回路に比べて広帯域特性に優れるが、回路が複雑であり、回路バランスをとるのが難しい。特に複雑な不要輻射の影響により電磁界的なアンバランスが生じ、安定した周波数範囲が狭くなってしまうことがある。
【0005】
発明が解決しようとする課題は、広帯域特性を向上させることのできる、バラン回路、半導体装置、およびレーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のバラン回路は、第1の入力ポートに通じる線路端とオープンポートに通じる線路端とを有する第1の線路と、第2の入力ポートに通じる線路端と電極に通じる線路端とを有する第2の線路と、第3の入力ポートに通じる線路端と前記電極に通じる線路端とを有する第3の線路とを備え、前記第1の線路の一部と前記第2の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第2の線路の一部が配置され、最内周に前記第1の線路の一部が配置された、第1のスパイラルパターンが形成されており、前記第1の線路の一部と前記第3の線路の一部とが渦巻き状に並走し、最外周に前記第1の線路の一部が配置され、最内周に前記第3の線路の一部が配置された、第2のスパイラルパターン形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係るマーチャント型バラン回路のレイアウトの概念(モデル)を示す図である。
【
図2】
図2は、バラン回路の基本的な電気的等価回路を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るマーチャント型バラン回路を実装した半導体装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、半導体装置のブリッジ10b近傍における縦断面形状を示す図である。
【
図5】
図5は、半導体装置の金属層40及びビアホール構造部40a近傍における縦断面形状を示す図である。
【
図6】
図6は、周波数に対するポート毎の分配振幅を示すグラフである。
【
図7】
図7は、周波数に対する各ポートの挿入損比を示すグラフである。
【
図8】
図8は、周波数に対する各ポートの分配振幅差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0009】
図1は、実施形態に係るマーチャント型バラン回路のレイアウトの概念(モデル)を示す図である。また、
図2は、バラン回路の基本的な電気的等価回路を示す図である。
【0010】
本実施形態では、周波数変換器に用いられるマーチャント型バラン回路の例を挙げる。本実施形態に係るマーチャント型バラン回路は、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)の形態で半導体装置に実装される。さらにこの半導体装置はレーダのRF部に搭載されるものとする。
【0011】
図1に示されるマーチャント型バラン回路は、第1の入力ポート1(以降、「ポート1」と称す)とオープンポート1’(以降、「ポート1’」と称す)とを繋ぐ第1の線路10と、第2の入力ポート2(以降、「ポート2」と称す)とグランド(GND)とを繋ぐ第2の線路20と、第3の入力ポート3(以降、「ポート3」と称す)とグランド(GND)とを繋ぐ第3の線路30とを備える。
【0012】
当該バラン回路では、第1の線路10の線路部分11と第2の線路20の線路部分21との電磁結合(electromagnetic coupling)により、第1のランゲカプラ(Lange Coupler)が構成される。また、第1の線路10の線路部分12と第3の線路30の線路部分31との電磁結合により、第2のランゲカプラが構成される。
【0013】
図2に示される電気的等価回路においては、上記したポート1,2,3は、それぞれ、アナログポート(RFポート、ローカルポート、インタフェースポート等)に接続される。それぞれのアナログポートから見たインピーダンスは原理的には等価であるため、どのポートがどの端子に割り当てられても良い。但し、それぞれのアナログポートの周波数インピーダンスは理想的な50Ωからずれているため、補正用パラメータ変換回路などが付加されることがある。更に、バランスを取るための補助的なキャパシタやインダクタンスが付加される場合もあるが、基本的な回路は二対のトランスを備えていることに変わりはない。
図2の例では、ポート1は、トランス部Tr1の一次側に接続され、ポート2,3は、トランス部Tr1の二次側に(ポート2についてはトランスT1の二次側に、ポート3についてはトランスT2の二次側に)接続されている。
【0014】
図2に示される回路を半導体装置に適用する場合、MSL(Microwave Strip Line)を用いてトランスをランゲカプラで実現するのが最も一般的である。本実施形態においても同様の手法を用いる。すなわち、
図1に示されるバラン回路では、各線路をMSL配線とし、二対のトランスを第1のランゲカプラおよび第2のランゲカプラにて実現する。この場合、第1の線路10の線路部分11は、トランスの一次側線路に相当し、第2の線路20の線路部分21は、二次側線路に相当する。また、第1の線路10の線路部分12は、トランスの一次側線路に相当し、第3の線路30の線路部分31は、二次側線路に相当する。
【0015】
図1に示されるマーチャント型バラン回路は、各線路の配置が、一般的なマーチャント型バラン回路とは異なる。すなわち、
図1に示されるように、ポート1とポート1’とを繋ぐ第1の線路10を境目とする紙面の上側と下側のうち、下側に、第2の線路20の線路部分21と第3の線路30の線路部分31の両方が配置されている。一般的なマーチャント型バラン回路では、第2の線路20の線路部分21と第3の線路30の線路部分31とが、紙面中心に対して点対称の関係となるように配置される。
【0016】
図3は、実施形態に係るマーチャント型バラン回路を実装した半導体装置の構成例を示す図である。
【0017】
図3に示される半導体装置は、基板100(例えば電気的に絶縁性または半絶縁性を有する半導体基板)を上下からそれぞれ挟むように配置される上側の絶縁層101(例えばSiO
2、SiN等の絶縁膜)と下側の電極(GND)102(
図3では図示せず)のうち、絶縁層101上に、マーチャント型バラン回路を備える。なお、
図3の例では、基板100上の絶縁層101の面積が広めに表現されているが、この例に限られるものではない。当該面積は
図3の例よりも小さくてもよい。
【0018】
マーチャント型バラン回路は、二対のスパイラルインダクタンスを形成するものとして、第1のスパイラルパターン60Aおよび第2のスパイラルパターン60Bを有する。第1のスパイラルパターン60Aは、前述した第1のランゲカプラに相当する。第2のスパイラルパターン60Bは、前述した第2のランゲカプラに相当する。
【0019】
具体的には、絶縁層101上に、前述したポート1,1’,2,3が配置されるとともに、基板100下の電極(GND)102に通じるビアホール構造部(金属)40a上に、金属層40が配置される。更に、前述した第1の線路10、第2の線路20、および第3の線路30が絶縁層101上に配置される。各線路は、設計帯域の最小周波数の1/4波長の電気長を有するものとする。
【0020】
第1の線路10は、線路端10a、ブリッジ10b、ブリッジ10c、接続部10d、および線路端10eを有する。第2の線路20は、線路端2a、ブリッジ2b、および線路端2cを有する。第3の線路30は、線路端3a、ブリッジ3b、および線路端3cを有する。
【0021】
1つ目のスパイラルインダクタンスを形成する第1のスパイラルパターン60Aは、第1の線路10の一部(前述した線路部分11に相当)と第2の線路20の一部(前述した線路部分21に相当)とが矩形の渦巻き状に一定の空間(ギャップ)を保ちながら並走することで形成されている。この場合、第1のスパイラルパターン60Aにおいては、最外周に第2の線路20の一部が配置され、最内周に第1の線路10の一部が配置されている。
【0022】
言い換えると、第1のスパイラルパターン60Aにおいては、最外周に二次側線路の巻線が配置され、その内周側に一次側線路の巻線が配置される関係となっており、また、最内周に一次側線路の巻線が配置され、その外側に二次側線路の巻線が配置される関係となっている。
【0023】
2つ目のスパイラルインダクタンスを形成する第2のスパイラルパターン60Bは、第1の線路10の一部(前述した線路部分12に相当)と第3の線路30の一部(前述した線路部分31に相当)とが矩形の渦巻き状に一定の空間(ギャップ)を保ちながら並走することで形成されている。この場合、第2のスパイラルパターン60Bにおいては、最外周に前記第1の線路10の一部が配置され、最内周に第3の線路30の一部が配置されている。
【0024】
言い換えると、第2のスパイラルパターン60Bにおいては、最外周に一次側線路の巻線が配置され、その内周側に二次側線路の巻線が配置される関係となっており、また、最内周に二次側線路の巻線が配置され、その外周側に一次側線路の巻線が配置される関係となっている。
【0025】
すなわち、本実施形態に係るマーチャント型バラン回路は、その外形形状が左側と右側とで非対称となっている。この点は、一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点である。
【0026】
図4は、半導体装置のブリッジ10b近傍における縦断面形状を示す図である。なお、ブリッジ10c,2b,3bも同様の形状を有する。そのため、ここではブリッジ10c,2b,3b近傍の形状の図示や説明を省略し、ブリッジ10b近傍の形状を中心に説明する。
【0027】
半導体装置は、前述したように基板100の上側に絶縁層101を備え、基板100の下側に電極(GND)102を備える。絶縁層101上には、並走する第1の線路10および第2の線路20が配置されている。
【0028】
ブリッジ10bは、エアブリッジと呼ばれる構造によりその下方にて並走する第1の線路10および第2の線路20と接触しないように上方にて立体的に交叉する。具体的には、ブリッジ10bは、コイル状(螺旋状)の形状を成しており、ブリッジ10bの下方にある複数本の第1の線路10と第2の線路20との間の各空間には、ブリッジ10bのコイル形状の下側部分を支える複数のバンプ(絶縁物)50が絶縁層101上に配置されている。そのため、ブリッジ10bは、その下側部分が複数のバンプ50により支えられることにより、下方にて並走する第1の線路10および第2の線路20と接触することなく上方にて立体的に交叉することができる。
【0029】
図5は、半導体装置の金属層40及びビアホール構造部40a近傍における縦断面形状を示す図である。
【0030】
図5に示されるように、第2の線路20の線路端2cは、ワイヤ(金属)又はエアブリッジ構造40bにより金属層40と電気的に接続されており、また、第3の線路30の線路端3cは、ワイヤ(金属)又はエアブリッジ構造40bにより金属層40と電気的に接続されている。金属層40は、ビアホール構造部(金属)40aにより、基板100下の電極(GND)102に電気的に接続されている。
【0031】
以下、第1の線路10、第2の線路20、第3の線路30の構成について、具体的に説明する。
【0032】
第1の線路10は、第1のスパイラルパターン60A側において、ポート1に通じる線路端10aから、最外周にある第2の線路20と並走し、共に反時計回りに矩形の渦を巻きながら第1のスパイラルパターン60Aの中心部へ向かう。
【0033】
第1の線路10は、第1のスパイラルパターン60Aの中心部において、線路端10aからの長さが設計帯域の最小周波数の1/4波長の電気長に達する。このとき、第1の線路10は、第1のスパイラルパターン60Aの最内周に位置しており、そこからブリッジ10bを通じて下方の各線路を跨いで、装置中央の絶縁層101に渡る。さらに第1の線路10は、ブリッジ10cにより下方の各線路を跨いで、第2のスパイラルパターン60Bの中心部へ渡る。さらに第1の線路10は、第3の線路30を跨ぎ、接続部10dに達する。
【0034】
第1の線路10は、第2のスパイラルパターン60B側において、接続部10dから、最内周にある第2の線路20と並走し、共に反時計回りに矩形の渦を巻きながら第2のスパイラルパターン60Bの外周部へ向かう。
【0035】
第1の線路10は、第2のスパイラルパターン60Bの外周部において、接続部10dからの長さが設計帯域の最小周波数の1/4波長の電気長に達する。このとき、第1の線路10は、第1のスパイラルパターン60Aの最内周に位置しており、線路端10eに達する。線路端10eは、ポート1'に通じる。
【0036】
第2の線路20は、第1のスパイラルパターン60A側において、ポート2に通じる線路端2aから、ブリッジ2bにより下方の各線路を跨いで、第1のスパイラルパターン60Aの中心部へ渡る。第2の線路20は、第1のスパイラルパターン60Aの中心部において、最内周にある第1の線路10と並走し、共に時計回りに矩形の渦を巻きながら第1のスパイラルパターン60Aの外周部へ向かう。
【0037】
第2の線路20は、第1のスパイラルパターン60Aの外周部において、線路端2aからの長さが設計帯域の最小周波数の1/4波長の電気長に達する。このとき、第2の線路20は、第1のスパイラルパターン60Aの最外周に位置しており、線路端2cに達する。線路端2cは、金属層40およびビアホール構造部40aを通じて、基板100下の電極(GND)102に通じる。
【0038】
第3の線路30は、第2のスパイラルパターン60B側において、ポート3に通じる線路端3aから、ブリッジ3bにより下方の各線路を跨いで、第2のスパイラルパターン60Bの中心部へ渡る。このとき、第3の線路30は、第2のスパイラルパターン60Bの最内周に位置しており、その外周側にある第1の線路10と並走し、共に反時計回りに矩形の渦を巻きながら第2のスパイラルパターン60Bの外周部へ向かう。
【0039】
第3の線路30は、第2のスパイラルパターン60Bの外周部において、線路端3aからの長さが設計帯域の最小周波数の1/4波長の電気長に達する。このとき、第3の線路30は、第2のスパイラルパターン60Bの最外周にある第1の線路10の内周側に位置しており、線路端3cに達する。線路端3cは、金属層40およびビアホール構造部40aを通じて、基板100下の電極(GND)102に通じる。
【0040】
また、
図3に示されるマーチャント型バラン回路は、一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点として、以下に示すような特徴を有する。
【0041】
・各ポートに通じる線路端10a,10e,2a,3aがすべて同じ側(
図3の下側)に配置される点
第1のスパイラルパターン60Aの中心部と第2のスパイラルパターン60Bの中心部とを結ぶ線を境目とする両側のうち、ポート1に通じる線路端10aが配置される側と同じ側に、ポート1'に通じる線路端10eと、ポート2に通じる線路端2aと、ポート3に通じる線路端3aとが配置されている。
【0042】
・線路端10aの配置が一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点
第1の入力ポート1に通じる線路端10aは、第1のスパイラルパターン60Aの最外周に配置される第2の線路20の一部の内周側に配置されている。
【0043】
ブリッジ10b,10cの配置が一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点
第1のスパイラルパターン60Aの最内周に配置される第1の線路10の一部は、ブリッジ10b,10cを介して、第2のスパイラルパターン60Bの最内周に配置される第3の線路30の一部の外周側に配置される第1の線路10の一部と繋がっている。
【0044】
・ブリッジ2bの配置が一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点
ポート2に通じる線路端2aは、ブリッジ2bを介して、第1のスパイラルパターン60Aの最内周に配置される第1の線路10の一部の外周側に配置される第2の線路20の一部と繋がっている。
【0045】
・ポート1,1’に通じる線路端10a,10eの位置が一般的なマーチャント型バラン回路と異なる点
ポート1に通じる線路端10aは、ポート2に通じる線路端2aよりも、第2のスパイラルパターン60Bに近い位置に配置されており、ポート1’に通じる線路端10eは、ポート3に通じる線路端3aよりも、第1のスパイラルパターン60Aに近い位置に配置されている。
【0046】
以下に、このように構成されたバラン回路の広帯域特性を検証した結果を示す。
【0047】
なお、バラン回路はプロセスルールに大きく依存するため、ここでは特定の回路設計ルールにて設計した結果の例を示す。当該設計では、線路幅を15μm、線路間隔を10μm、基板(ガリウムヒ素基板)の厚さを100μmとし、λ/4線路設定の中心周波数を7GHzとしている。
【0048】
図6は、周波数に対するポート毎の分配振幅を示すグラフである。
【0049】
図6のグラフでは、マルチホップ帯域の周波数を4~12GHzとした場合のポート毎の分配振幅を示している。
図6中、波形W1はポート1からポート2への分配振幅を、波形W0はポート1からポート3への分配振幅を示す。
【0050】
図6のグラフから、2つの分配振幅が理想的な対称形になっていることがわかる。これは、不要輻射の影響による電磁界的な非対称が打ち消されているためであり、2つのランゲカプラ間で発生する定在波が小さくなっていると考えられる。4GHz~12GHzの帯域で一般的なバラン回路と比べた場合、ポート毎のロスバランスで3dB近く改善していることを確認できた。
図6中のm11は5GHzにおける分配振幅を示し、m12は9GHzにおける分配振幅を示す。m11とm12とでは、分配振幅の差が殆ど見られないが、一般的なバラン回路では、その分配振幅の差は3dB程度ある。
【0051】
図7は、周波数に対する各ポートの挿入損比を示すグラフである。
【0052】
図7では、挿入損比が波形W2で示されている。
図7中のm21は5GHzにおける挿入損比を示し、m22は9GHzにおける挿入損比を示す。m21とm22とでは、挿入損比の差はわずかであるが、一般的なバラン回路では、その挿入損比の差は0.5dB程度ある。
【0053】
図8は、周波数に対する各ポートの分配振幅差を示すグラフである。
【0054】
図8では、分配振幅差が波形W3で示されている。
図8中のm31は5GHzにおける分配振幅差を示し、m32は9GHzにおける分配振幅差を示す。m21とm22とでは、分配振幅差の違いは殆ど見られない。この点は、一般的なバラン回路と同様である。
【0055】
これらの検証結果から、本実施形態に係るバラン回路の広帯域特性が従来よりも向上していることを確認できた。
【0056】
このように本実施形態に係るバラン回路によれば、広い周波数範囲において、分配振幅、挿入損比、分配振幅差の安定した良好な特性を実現することができる。また、本実施形態に係るバラン回路を搭載した半導体装置を用いることにより、例えばレーダシステムのRF部に適用する場合、4~12GHzに相当するCバンドからXバンドにかけた広いマルチホップが可能になり、しかも送受のバランスが6dB近く改善することが可能になる。このことは、レーダ性能の改善にも大きな影響を及ぼすことになる。
【0057】
以上詳述したように、実施形態によれば、広帯域特性を向上させることができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…第1の入力ポート、1’…オープンポート、2…第2の入力ポート、2a…線路端、2b…ブリッジ、2c…線路端、3…第3の入力ポート、3a…線路端、3b…ブリッジ、3c…線路端、10…第1の線路、10a…線路端、10b…ブリッジ、10c…ブリッジ、10d…接続部、10e…線路端、11,12…線路部分、20…第2の線路、21…線路部分、30…第3の線路、31…線路部分、40…金属層、40a…ビアホール構造部、40b…ワイヤ又はエアブリッジ構造、100…基板、101…絶縁層(絶縁膜)、102…電極(GND)。