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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062173
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】調湿装置及び不織布製造装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/04 20060101AFI20240430BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240430BHJP
   B05B 1/20 20060101ALN20240430BHJP
   B05B 12/18 20180101ALN20240430BHJP
【FI】
D01D5/04
D04H1/728
B05B1/20
B05B12/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170006
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 俊人
【テーマコード(参考)】
4D073
4F033
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4D073BB01
4D073DB10
4D073DB17
4D073DB25
4F033BA02
4F033DA05
4F033EA02
4F033LA02
4L045AA01
4L045BA03
4L045BA34
4L045CA24
4L045CB10
4L045CB18
4L045DA08
4L045DA45
4L045DC09
4L047AB08
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】外気が侵入する調湿空間内の湿度の均一化を図る。
【解決手段】調湿装置Bは、壁面13~18で囲まれ、設備20が収容された調湿空間12と、底壁面14に開口し、外気66が調湿空間12内に侵入することを許容する侵入口50と、侵入口50から調湿空間12内に侵入した外気66を誘導する誘導エア65が吐出されるエアノズル61と、を備えている。侵入口50から調湿空間12内に侵入した外気66は、誘導エア65によって誘導されるので、ランダムに流動したり不均一に拡散したりすることを抑制される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面で囲まれ、設備が収容された調湿空間と、
前記壁面に開口し、外気が前記調湿空間内に侵入することを許容する侵入口と、
前記侵入口から前記調湿空間内に侵入した前記外気を誘導する誘導エアが吐出されるエアノズルと、を備えている調湿装置。
【請求項2】
前記エアノズルが、前記侵入口の近傍に配置されている請求項1に記載の調湿装置。
【請求項3】
前記誘導エアは、前記外気を前記誘導エアの流れに取り込むことによって誘導する請求項2に記載の調湿装置。
【請求項4】
前記侵入口がスリット状に開口しており、
前記エアノズルが、前記侵入口に沿うように開口して、前記誘導エアを層流状に吐出する請求項3に記載の調湿装置。
【請求項5】
前記侵入口が、前記調湿空間を構成する前記壁面のうち底壁面に開口しており、
前記誘導エアが、前記外気よりも低湿度のエアであって、前記エアノズルから上向きに吐出される請求項3又は請求項4に記載の調湿装置。
【請求項6】
前記調湿空間を構成する前記壁面のうち、天井面又は周壁面の上端部に、前記調湿空間内の気体を外部へ排出する排気装置が設けられている請求項5に記載の調湿装置。
【請求項7】
前記誘導エアが、前記調湿空間の湿度を調整するための調湿エアである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の調湿装置。
【請求項8】
前記調湿エアが、前記誘導エア用の前記エアノズルのみから吐出される請求項7に記載の調湿装置。
【請求項9】
前記設備として、高電圧を印加して原料液を微細化することにより、シート状基材に堆積した状態の極細繊維を得る電界紡糸装置を設けた請求項1から請求項4のいずれかの前記調湿装置と、
前記シート状基材の巻取りを行う巻取りロールと、前記シート状基材の繰出しを行う繰出しロールとを有し、少なくとも一方の前記ロールが前記調湿空間の外部に配置されている搬送装置とを備え、
前記シート状基材を通過させるための開口部の一部が、前記侵入口となっており、
前記調湿空間内において前記シート状基材に前記極細繊維が堆積することによって不織布が製造される不織布製造装置。
【請求項10】
前記調湿空間内における前記シート状基材の搬送経路が、前記電解紡糸装置の上方において前記シート状基材の下面に極細繊維を堆積させる水平経路と、前記水平経路の端部に連なる上下方向の鉛直経路とを含み、
前記調湿空間を構成する前記壁面のうち底壁面において、前記鉛直経路を確保するための開口部の一部が、前記侵入口となっており、
前記エアノズルが、前記侵入口に沿うように開口して、前記誘導エアを層流状に吐出し、
前記誘導エアが、前記外気よりも低湿度のエアであって、前記エアノズルから上向きに吐出される請求項9に記載の不織布製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿装置及び不織布製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ナノ繊維製造用の電界紡糸装置が開示されている。この電界紡糸装置は、均一な品質のナノ繊維を製造する手段として工程気体供給部を備えている。工程気体供給部は、紡糸ユニットとナノ繊維収集部との間の紡糸領域(電界紡糸が行われる空間)に、湿度を制御するための工程気体を供給する。工程気体の供給によって紡糸領域の湿度が一定に維持することにより、ナノ繊維の品質の均一化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013-506768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置の紡糸領域は開放された空間であるため、工程気体とは異なる湿度の空気が混入する虞がある。この対策として、紡糸ユニットとナノ繊維収集部と紡糸領域を、外部から区画された紡糸室内に収容することが考えられる。しかし、ナノ繊維収集部が不織布用のシート状基材であって、ナノ繊維収集部が、紡糸室の外部に配置したドラムの間で搬送される場合には、紡糸室の壁面にナノ繊維収集部の搬送経路となる開口部を空ける必要がある。この場合、開口部から紡糸室内に侵入した外気が、紡糸領域内に混入すると、紡糸領域の湿度の均一化を実現することができなくなる。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、外気が侵入する調湿空間内における湿度の均一化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の開示の調湿装置は、
壁面で囲まれ、設備が収容された調湿空間と、
前記壁面に開口し、外気が前記調湿空間内に侵入することを許容する侵入口と、
前記侵入口から前記調湿空間内に侵入した前記外気を誘導する誘導エアが吐出されるエアノズルと、を備えている。
【0007】
第2の開示の不織布製造装置は、
前記設備として、高電圧を印加して原料液を微細化することにより、シート状基材に堆積した状態の極細繊維を得る電界紡糸装置を設けた第1の開示の調湿装置と、
前記シート状基材の巻取りを行う巻取りロールと、前記シート状基材の繰出しを行う繰出しロールとを有し、少なくとも一方の前記ロールが前記調湿空間の外部に配置されている搬送装置とを備え、
前記シート状基材を通過させるための開口部の一部が、前記侵入口となっており、
前記調湿空間内において前記シート状基材に前記極細繊維が堆積することによって不織布が製造される。
【発明の効果】
【0008】
第1の開示の調湿装置は、侵入口から調湿空間内に侵入した外気が、誘導エアによって誘導されるので、ランダムに流動したり不均一に拡散したりすることを抑制される。これにより、外気が侵入する調湿空間内の湿度の均一化を図ることができる。第2の開示の不織布製造装置は、外気が侵入する調湿空間内の湿度が均一化されることによって、シート状基材に堆積させた繊維の厚さである目付の均一化が実現されるので、良質な不織布を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1の調湿装置及び不織布製造装置の断面図
図2図1のX-X線断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
【0011】
第1の開示において、前記エアノズルが、前記侵入口の近傍に配置されていることが好ましい。この構成によれば、エアノズルが侵入口の近傍に配置されているので、侵入口とエアノズルとの間のデッドスペースが小さく、省スペース化又は小型化を図ることができる。
【0012】
第1の開示において、前記誘導エアは、前記外気を前記誘導エアの流れに取り込むことによって誘導することが好ましい。この構成によれば、外気を誘導エアの流れに取り込んで誘導するので、外気のランダムな流動や不均一な拡散を抑制し易い。
【0013】
第1の開示において、前記侵入口がスリット状に開口しており、前記エアノズルが、前記侵入口に沿うように開口して、前記誘導エアを層流状に吐出することが好ましい。この構成によれば、スリット状の侵入口から侵入した外気は、侵入口に沿って吐出される層流状の誘導エア内に均一に取り込まれるので、誘導エアと外気の混合流における湿度のバラツキが抑制される。これにより、調湿空間内における湿度の不均一を抑制できる。
【0014】
第1の開示において、前記侵入口が、前記調湿空間を構成する前記壁面のうち底壁面に開口しており、前記誘導エアが、前記外気よりも低湿度のエアであって、前記エアノズルから上向きに吐出されることが好ましい。この構成によれば、外気は、比重が誘導エアよりも小さいので、上向きの誘導エアの流れを乱すことなく、誘導エアに取り込まれる。
【0015】
第1の開示において、前記調湿空間を構成する前記壁面のうち、天井面又は周壁面の上端部に、前記調湿空間内の気体を外部へ排出する排気装置が設けられていることが好ましい。この構成によれば、誘導エアと外気との混合流の流動経路が、排気装置に向かう経路として安定するので、外気のランダムな流動や不均一な拡散を抑制し易い。
【0016】
第1の開示において、前記誘導エアが、前記調湿空間の湿度を調整するための調湿エアであることが好ましい。この構成によれば、誘導エアが、調湿空間内の湿度を調整するための調湿エアとしての機能を兼ね備えているので、調湿エア専用のエアノズルの数を減らし、省スペース化と設備コストの低減を図ることができる。
【0017】
第1の開示において、前記調湿エアが、前記誘導エア用の前記エアノズルのみから吐出されることが好ましい。この構成によれば、誘導エア用のエアノズルの他に調湿専用エアのノズルを設ける場合に比べると、省スペース化と、設備コストの更なる低減が可能である。
【0018】
第2の開示において、前記調湿空間内における前記シート状基材の搬送経路が、前記電解紡糸装置の上方において前記シート状基材の下面に極細繊維を堆積させる水平経路と、前記水平経路の端部に連なる上下方向の鉛直経路とを含み、前記調湿空間を構成する前記壁面のうち底壁面において、前記鉛直経路を確保するための開口部の一部が、前記侵入口となっており、前記エアノズルが、前記侵入口に沿うように開口して、前記誘導エアを層流状に吐出し、前記誘導エアが、前記外気よりも低湿度のエアであって、前記エアノズルから上向きに吐出されることが好ましい。この構成によれば、外気は、比重が誘導エアよりも小さいので、層流状をなす上向きの誘導エアの流れを乱すことなく、誘導エアに均一に取り込まれる。したがって、誘導エアと外気の混合流における湿度のバラツキが抑制され、調湿空間内における湿度の不均一を抑制できる。
【0019】
[実施形態1]
本開示を具体化した実施形態1を、図1図2を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。本実施形態1において、前後の方向については、図2におけるF方向を前方と定義する。左右の方向については、図1,2におけるR方向を右方と定義する。左右方向と幅方向を同義で用いる。上下の方向については、図1におけるH方向を上方と定義する。
【0020】
本実施形態1の不織布製造装置Aは、調湿装置Bと電界紡糸装置20と搬送装置30とを備えて構成されている。調湿装置Bは、箱形の筐体10を有する。筐体10内には電界紡糸装置20と搬送装置30とが収容されている。筐体10の内部空間は、水平な隔壁部11によって上下に区画されている。筐体10のうち隔壁部11よりも上方の空間は、所定の湿度に保つための調湿空間12として機能する。調湿空間12は、天井面13と、隔壁部11の上面である底壁面14と、前壁面15と、後壁面16と、右壁面17と、左壁面18の6つの壁面で囲まれている。前壁面15と後壁面16と右壁面17と左壁面18は、周壁面19を構成する。隔壁部11の外周縁は、周壁面19に対して気密を保持した状態で繋がっている。周壁面19の上端縁と天井面13の外周縁は、気密を保持した状態で繋がっている。
【0021】
調湿空間12内の湿度(電界紡糸装置20にとって適正な湿度)は、筐体10外の外気66よりも低く設定されている。調湿空間12内には、均一な湿度の環境下において安定した紡糸機能を発揮する電界紡糸装置20が収容されている。電界紡糸装置20は、複数の紡糸用ノズルヘッド21と、複数のコレクタ電極23とを有している。
【0022】
紡糸用ノズルヘッド21は、前後方向に細長い筒状をなす。複数の紡糸用ノズルヘッド21は、隔壁部11の上面(底壁面14)において左右方向に所定間隔を空けて並列するように配置されている。紡糸用ノズルヘッド21の内部には原料液67(紡糸液)が供給されるようになっている。紡糸用ノズルヘッド21の上面には、複数の紡糸孔22が前後方向に所定ピッチで開口している。紡糸用ノズルヘッド21には、原料液67が接触するように配置された紡糸電極(図示省略)が設けられている。
【0023】
コレクタ電極23は、前後方向に細長い平板状をなす。複数のコレクタ電極23は、複数の紡糸用ノズルヘッド21の上方において水平な向きに配置されている。上下方向に対向する防止用ノズルヘッドの紡糸電極とコレクタ電極23との間には、高電圧が印加されるようになっている。紡糸電極とコレクタ電極23の間に高電圧が印加されて電界が生じると、紡糸用ノズルヘッド21内の原料液67が、紡糸孔22からコレクタ電極23に向けて上方へ噴出するようになっている。噴出した原料液67は、噴出過程で微細化され、ナノレベルの極細繊維(図示省略)となった状態で後述するシート状基材40に堆積されるようになっている。シート状基材40に堆積した極細繊維が、不織布(図示省略)となる。
【0024】
電界紡糸装置20において使用される原料液67は有機溶剤を含むため、筐体10には、調湿空間12内の有機成分を筐体10の外部(大気中)へ排出するための排気装置24が設けられている。排気装置24は、その吸気口(図示省略)が天井面13において調湿空間12内に臨むように配置されている。筐体10を上から視た平面視において、排気装置24は、前後方向における中央で、且つ左右方向における中央部に配置されている。
【0025】
筐体10のうち隔壁部11よりも下方の空間は、収容空間25として機能する。筐体10の外部には、電界紡糸装置20に電力を供給する給電装置(図示省略)や、電界紡糸装置20に原料液67を供給する原料液67供給装置(図示省略)等の紡糸用機器が配置されている。電界紡糸装置20と給電装置との間の配線(図示省略)や、電界紡糸装置20と原料液67供給装置との間の配管は、隔壁部11を気密状に貫通し、収容空間25を構成する壁部の連通口(図示省略)を貫通した状態で設けられている。連通口においては、筐体10の外部の外気66(空気)が収容空間25内へ自由に進入できるようになっている。
【0026】
隔壁部11には、調湿空間12と収容空間25とを連通させる一対の搬送用開口部26が形成されている。搬送用開口部26は、後述する搬送装置30によって搬送されるシート状基材40の搬送経路41を確保するための開口である。平面視において、搬送用開口部26は、右壁面17及び左壁面18と平行をなして前後方向に細長く延びた形状である。一対の搬送用開口部26は、隔壁部11の左右両端部において右壁面17と左壁面18に沿うように配置されている。換言すると、一対の搬送用開口部26は、電界紡糸装置20を左右両側から挟む位置に配置されている。
【0027】
搬送装置30は、シート状基材40を電界紡糸装置20に供給するための装置である。搬送装置30は、1つの繰出しロール31と、1つの巻取りロール32と、左右一対の転向ローラ33と、二対のガイドローラ34,35とを有する。繰出しロール31と巻取りロール32は、収容空間25内に配置されている。繰出しロール31は、前後方向の繰出し軸を中心として回転し得るように支持されている。巻取りロール32は、前後方向の巻取り軸を中心として回転し得るように支持されている。一対の転向ローラ33は、調湿空間12内に配置されている。一対の転向ローラ33は、一対の搬送用開口部26の上方に配置され、前後方向の回転軸を中心として回転可能に支持されている。
【0028】
二対のガイドローラ34,35は、前後方向の支持軸によって支持されたものであり、一対ずつ左右に分かれて配置されている。右側の一対のガイドローラ34,35は、右側の搬送用開口部26内に収容され、間隔を空けて左右に並ぶように配置されている。左側の一対のガイドローラ34,35は、左側の搬送用開口部26内に収容され、間隔を空けて左右に並ぶように配置されている。
各搬送用開口部26において、左右両ガイドローラ34,35のうち紡糸用ノズルヘッド21(電界紡糸装置20)に近い側のガイドローラ34を、内側ガイドローラ34と定義する。各搬送用開口部26において、紡糸用ノズルヘッド21(電界紡糸装置20)から遠い側のガイドローラ35を、外側ガイドローラ35と定義する。
【0029】
繰出しロール31には未使用のシート状基材40が巻き付けられている。巻取りロール32には、繰出しロール31から繰り出されたシート状基材40が巻き取られている。繰出しロール31から巻取りロール32に至るシート状基材40の搬送経路41は、鉛直方向上向きの右側鉛直経路42と、水平方向左向きの水平経路43と、鉛直方向下向きの左側鉛直経路44とから構成されている。上向きの右側鉛直経路42は、繰出しロール31から繰り出されて右側の搬送用開口部26のガイドローラ34,35の隙間を通り、右側の転向ローラ33に至る経路である。水平経路43は、コレクタ電極23の下面に対して近接して対向する高さにおいて、右側の転向ローラ33から左側の転向ローラ33に至る経路である。上向きの右側鉛直経路42は、左側の転向ローラ33から左側の搬送用開口部26のガイドローラ34,35の隙間を通り、巻取りロール32に至る経路である。
【0030】
左右両搬送用開口部26の開口領域の大部分は、いずれも、一対のガイドローラ34,35によって塞がれている。平面視において、搬送用開口部26の開口領域のうち一対のガイドローラ34,35に占められていない領域は、収容空間25内の空気が調湿空間12内へ侵入することを許容する侵入口50となっている。侵入口50は、ガイドローラ34,35と搬送用開口部26の開口縁との隙間、及び一対のガイドローラ34,35間の隙間である。侵入口50の上端は、底壁面14において調湿空間12に臨むように開口している。
【0031】
侵入口50のうち、搬送用開口部26の開口縁において紡糸用ノズルヘッド21に最も近い前後方向の開口縁と、内側ガイドローラ34の外周面との隙間を、第1侵入領域51と定義する。侵入口50のうち、内側ガイドローラ34の外周面とシート状基材40との隙間を、第2侵入領域52と定義する。侵入口50のうち、内側ガイドローラ34及び外側ガイドローラ35の前後両端面と、搬送用開口部26の開口縁における前後両開口縁との隙間を、第3侵入領域53と定義する。侵入口50のうち、シート状基材40と外側ガイドローラ35の外周面との隙間を、第4侵入領域54と定義する。侵入口50のうち、搬送用開口部26の開口縁において紡糸用ノズルヘッド21から最も遠い前後方向の開口縁と、外側ガイドローラ35の外周面との隙間を、第5侵入領域55と定義する。第1侵入領域51、第2侵入領域52、第4侵入領域54、及び第5侵入領域55は、いずれも、前後方向に延びたスリット状に開口している。
【0032】
調湿空間12内の湿度を、調湿空間12内でムラなく均一な安定した状態に保つための手段として、調湿装置Bが設けられている。調湿装置Bは、左右対称な一対の誘導用ノズルヘッド60と、誘導用ノズルヘッド60に、湿度と流量が管理された調湿エア(誘導エア65)を供給するための調湿エア供給装置(図示省略)とを備えている。誘導用ノズルヘッド60は、前後方向に細長く延びた形状をなし、底壁面14(隔壁部11の上面)に配置されている。誘導用ノズルヘッド60が配置されている壁面と、侵入口50が開口している壁面は、同じ壁面である。誘導用ノズルヘッド60の上面には、誘導エア65を上向きに吐出するためのエアノズル61が設けられている。エアノズル61は、前後方向(誘導用ノズルヘッド60の長さ方向)に間隔を空けて並ぶように配置された複数の吐出口62によって構成されている。エアノズル61(吐出口62)から吐出される誘導エア65は、調湿空間12内の湿度を調整し且つ均一化させるための調湿エアとしての機能を有する。
【0033】
左右方向において、誘導用ノズルヘッド60は、搬送用開口部26と、複数の紡糸用ノズルヘッド21のうち搬送用開口部26に最も近い紡糸用ノズルヘッド21との間に配置されている。平面視において、誘導用ノズルヘッド60のエアノズル61(複数の吐出口62)は、電界防止装置における左右両端縁に沿うように配置されている。詳細には、エアノズル61は、第1侵入領域51の近傍に位置し、第1侵入領域51及び第2侵入領域52に沿って並ぶように配置されている。誘導用ノズルヘッド60(エアノズル61)は、平面視において、侵入口50の開口範囲の外部に配置されている。複数の紡糸用ノズルヘッド21の間には、誘導用ノズルヘッド60は配置されていない。
【0034】
誘導用ノズルヘッド60の前後長(エアノズル61の形成領域の前後長)は、紡糸用ノズルヘッド21の前後長よりも長く、搬送用開口部26の前後長よりも長い。複数の吐出口62のうち最前端に位置する吐出口62は、紡糸用ノズルヘッド21の前端及び搬送用開口部26の前端よりも前方に位置する。誘導用ノズルヘッド60の前端部に開口する複数の吐出口62は、水平経路43におけるシート状基材40の前縁よりも前方に位置する。複数の吐出口62のうち最前端に位置する吐出口62は、紡糸用ノズルヘッド21の前端及び搬送用開口部26の前端よりも前方に位置する。誘導用ノズルヘッド60の後端部に開口する複数の吐出口62は、水平経路43におけるシート状基材40の後端よりも後方に位置する。
【0035】
次に、本実施形態1の作用を説明する。電界紡糸を行う際には、搬送装置30によってシート状基材40を搬送しながら、紡糸用ノズルヘッド21の紡糸孔22から原料液67を上方へ噴出し、微細化された極細繊維が、水平経路43においてシート状基材40の下面に堆積される。シート状基材40に堆積した極細繊維を乾燥させたものが、不織布となる。極細繊維がシート状基材40に堆積されるときに、シート状基材40の鉛直経路42,44と水平経路43によって囲まれた空間、即ち、紡糸孔22から噴出した原料液67が紡糸用ノズルヘッド21と水平経路43との間で微細化される微細化空間29が、外気66よりも低い湿度(例えば、5%~10%)で、且つ均一な湿度であれば、シート状基材40における極細繊維の堆積量(目付)が安定し、均一になる。
【0036】
しかし、電界紡糸の工程では、排気装置24が調湿空間12内における原料液67の有機成分を含む空気を排出しているため、調湿空間12内は外気66よりも低圧(負圧)になっている。そのため、筐体10外の外気66が、収容空間25と侵入口50(搬送用開口部26)とを通って調湿空間12内に侵入し続けている。外気66の湿度は、調湿内において適正とされる湿度よりも高いため、外気66が微細化空間29に混入すると、原料液67の微細化の状態や、シート状基材40への極細繊維の堆積量(目付)が不均一となる。
【0037】
この対策として、調湿空間12内には、誘導用ノズルヘッド60のエアノズル61から誘導エア65を吐出している。誘導エア65は、前後方向に沿った配置された複数の吐出口62から上向きに吐出されるので、第1侵入領域51、第2侵入領域52及びシート状基材40と平行な層流状(流速の低いエアカーテン状)をなす。層流状の誘導エア65は、第1侵入領域51及び第2侵入領域52から調湿空間12に侵入した外気66を取り込みながら微細化空間29内に拡散していく。誘導エア65よりも湿度が高い外気66は、誘導エア65よりも比重が小さいので、誘導エア65の流れを乱すことなく誘導エア65に取り込まれる。したがって、外気66を取り込んだ誘導エア65は、ランダムに拡散することがなく、外気66を取り込んだ誘導エア65の湿度は、均一化された状態を維持する。
【0038】
微細化空間29内では、外気66を取り込みながらも湿度が均一に保たれた誘導エア65が通過することによって、適正で均一化された湿度に保たれる。微細化空間29を通過した誘導エア65は、水平経路43におけるシート状基材40の前端縁から前方へ、後端縁から後方へ向きを変え、水平経路43の上方に配置されている排気装置24を通って大気中(筐体10の外部)へ排出される。
【0039】
前後両端部の第3侵入領域53から調湿空間12に侵入した外気66は、誘導エア65の前端部と後端部に取り込まれる。誘導エア65の前端部と後端部は、外気66を取り込んだ状態で、シート状基材40の鉛直経路42,44に沿って上昇し、排気装置24によって排出される。第4侵入領域54と第5侵入領域55から調湿空間12に侵入した外気66は、誘導エア65には取り込まれず、シート状基材40の鉛直経路42,44に沿って上昇し、排気装置24によって排出される。
【0040】
本実施形態1の調湿装置Bは、調湿空間12と、誘導エア65を吐出するエアノズル61とを備えている。調湿空間12は、6つの壁面(天井面13、底壁面14、前壁面15、後壁面16、右壁面17、左壁面18)で囲まれた空間である。調湿空間12内には、調湿が必要な設備である電界紡糸装置20が収容されている。調湿空間12内に臨む底壁面14には、外気66が調湿空間12内に侵入することを許容する侵入口50が開口している。エアノズル61は、誘導用ノズルヘッド60に設けられ、誘導エア65を吐出する。誘導エア65は、侵入口50から調湿空間12内に侵入した外気66を誘導する機能を発揮する。
【0041】
調湿空間12内に侵入した外気66は、誘導エア65によって誘導されるので、外気66が調湿空間12内でランダムに流動したり不均一に拡散したりすることを抑制できる。これにより、調湿空間12内の湿度の均一化を図ることができる。誘導エア65は、外気66を誘導エア65の流れに取り込むことによって誘導するので、外気66のランダムな流動や不均一な拡散を抑制し易い。
【0042】
侵入口50のうち第1侵入領域51と第2侵入領域52は、スリット状に開口している。エアノズル61は、第1侵入領域51と第2侵入領域52に沿うように開口しており、誘導エア65を層流状に吐出する。スリット状の第1侵入領域51と第2侵入領域52から調湿空間12内に侵入した外気66は、第1侵入領域51と第2侵入領域52に沿って吐出される層流状の誘導エア65内に均一に取り込まれる。これにより、誘導エア65と外気66の混合流における湿度のバラツキが抑制される。これにより、調湿空間12内における湿度の不均一を抑制できる。
【0043】
侵入口50のうち第1侵入領域51と第2侵入領域52は、調湿空間12を構成する壁面のうち底壁面14に開口している。誘導エア65は、外気66よりも湿度の低い空気であり、エアノズル61から上向きに吐出される。外気66は、比重が誘導エア65よりも小さいので、誘導エア65は、上向きの流れを乱すことなく、外気66を取り込むことができる。
【0044】
調湿空間12を構成する壁面である天井面13には、調湿空間12内の気体を外部へ排出する排気装置24が設けられている。誘導エア65と外気66との混合流の流動経路が、排気装置24に向かう経路として安定するので、外気66のランダムな流動や不均一な拡散を抑制し易い。
【0045】
誘導エア65は、調湿空間12の湿度を調整するための調湿エアである。誘導エア65が、調湿空間12内の湿度を調整するための調湿エアとしての機能を兼ね備えているので、調湿エア専用のエアノズル61の数を減らし、省スペース化と設備コストの低減を図ることができる。調湿エアは、誘導エア65用のエアノズル61のみから吐出される。誘導エア65用のエアノズル61の他に調湿専用エアのノズルを設ける場合に比べると、省スペース化と、設備コストの更なる低減が可能である。
【0046】
エアノズル61は、侵入口50の近傍において左右に並ぶように配置されているので、侵入口50とエアノズル61との間のデッドスペースが小さい。これにより、左右方向において、調湿空間12の省スペース化又は小型化を図ることができる。
【0047】
本実施形態1の不織布製造装置Aは、上記の調湿装置Bと、搬送装置30とを備えている。調湿装置Bの調湿空間12に収容される設備は、高電圧を印加して原料液67を微細化することにより、シート状基材40に堆積した状態の極細繊維を得る電界紡糸装置20である。搬送装置30は、シート状基材40の巻取りを行う巻取りロール32と、シート状基材40の繰出しを行う繰出しロール31とを有する。巻取りロール32と繰出しロール31は、調湿空間12の外部(収容空間25内)に配置されている。シート状基材40を通過させるための搬送用開口部26の一部が、侵入口50となっている。調湿空間12内においてシート状基材40に極細繊維が堆積することによって不織布が製造される。調湿空間12内の湿度が均一化されることによって、シート状基材40に堆積させた極細繊維の厚さである目付の均一化が実現され、良質な不織布が製造される。
【0048】
調湿空間12内におけるシート状基材40の搬送経路41が、電解紡糸装置の上方においてシート状基材40の下面に極細繊維を堆積させる水平経路43と、水平経路43の左右端部に連なる上下方向の右側鉛直経路42及び左側鉛直経路44とを含む。調湿空間12を構成する底壁面14において、右側鉛直経路42又は左側鉛直経路44を確保するための搬送用開口部26の一部が、侵入口50となっている。エアノズル61は、侵入口50のうち第1侵入領域51に沿うように開口して、誘導エア65を層流状に吐出する。誘導エア65は、外気66よりも低湿度のエアであり、エアノズル61から上向きに吐出される。外気66は、比重が誘導エア65よりも小さいので、層流状をなす上向きの誘導エア65の流れを乱すことなく、誘導エア65に均一に取り込まれる。したがって、誘導エア65と外気66の混合流における湿度のバラツキが抑制され、調湿空間12内における湿度の不均一を抑制できる。
【0049】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
・本発明は、調湿空間内の設定湿度(適正な湿度)が外気よりも高い場合にも適用できる。
・本発明は、侵入口が、底壁面に限らず、周壁面や天井面に開口している場合にも適用できる。
・本発明は、侵入口がスリット状に開口していない場合にも適用できる。
・本発明は、侵入口がシート状基材の通路である場合に限らず、扉等の開閉部材によって開閉される開口部の隙間や、換気口等である場合にも適用できる。
【0050】
・誘導エアのエアノズルは、侵入口が開口する壁面(底壁面)とは異なる壁面に配置してもよい。
・誘導エアのエアノズルは、侵入口を挟んで電界紡糸装置とは反対側の位置のみに配置してもよく、侵入口と電界紡糸装置との間の位置、及び侵入口を挟んで電界紡糸装置とは反対側の位置の両方に配置してもよい。
・誘導エアのエアノズルは、平面視において、侵入口の開口内に配置してもよい。
・誘導エアのエアノズルは、複数の吐出口が侵入口に沿って並ぶ形態に限らず、1つのスリット状の吐出口で構成されていてもよい。
・エアノズルからの誘導エアの吐出方向は、上向きに限らず、水平な向きでもよく、下向きでもよい。
・平面視における誘導エアのエアノズルの位置は、電界紡糸装置において左右対称な配置であるが、電界紡糸装置において左右非対称な配置でもよい。
・平面視において、誘導エアのエアノズルは、電界防止装置における左右方向中央位置に配置してもよい。
・誘導エアが調湿機能を有する場合において、誘導エアのエアノズルとは別に、調湿専用エアのノズルを設けてもよい。
・誘導エアは、調湿空間内を調湿する機能を有しない空気でもよい。
【0051】
・本発明は、シート状基材の搬送装置を構成する巻取りロールと繰出しロールのうち、いずれか一方のロールが調湿空間内に配置されている場合や、両方のロールが調湿空間内に配置されている場合にも適用できる。
・本発明は、調湿空間内におけるシート状基材の搬送経路が水平方向の経路のみで構成され、2つの侵入口が対向する2つの周壁面に開口している場合や、調湿空間内におけるシート状基材の搬送経路が鉛直方向の経路のみで構成され、2つの侵入口が天井面と底壁面とに開口している場合や、調湿空間内におけるシート状基材の搬送経路がL字形をなしている場合にも適用できる。L字形の搬送経路の場合、2つの侵入口は、周壁面と天井面とに配置、周壁面と底壁面とに配置、平面視において直角に隣り合う2つの周壁面に配置のいずれの配置形態でもよい。
・本発明は、設備が電界紡糸装置以外の装置である場合にも適用できる。
・本発明の調湿装置は、不織布製造装置以外にも適用できる。
・排気装置は、天井面に限らず、周壁面の上端部に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0052】
A…不織布製造装置
B…調湿装置
12…調湿空間
13…天井面(壁面)
14…底壁面(壁面)
15…前壁面(壁面、周壁面)
16…後壁面(壁面、周壁面)
17…右壁面(壁面、周壁面)
18…左壁面(壁面、周壁面)
20…電界紡糸装置(設備)
24…排気装置
26…搬送用開口部(開口部)
30…搬送装置
31…繰出しロール
32…巻取りロール
40…シート状基材
42…右側鉛直経路(鉛直経路)
43…水平経路
44…左側鉛直経路(鉛直経路)
50…侵入口
61…エアノズル
65…誘導エア
66…外気
67…原料液
図1
図2