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特開2024-62175情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062175
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/36 20060101AFI20240430BHJP
   G01V 1/01 20240101ALI20240430BHJP
   G01H 9/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01V1/36
G01V1/00 D
G01H9/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170008
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】片上 智史
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB19
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB17
2G105DD02
2G105EE01
2G105GG00
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】DAS手法においてcycle skippingが生じ地震波形が正確に記録できなかったチャンネルにおいても、地震動振幅値を利用することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】情報処理装置は、後方散乱光の位相の変化の時系列のデータを取得する取得部と、cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出する抽出部と、第1地震波形と第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する推定部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方散乱光の位相の変化の時系列のデータを取得する取得部と、
cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出する抽出部と、
前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する推定部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記第1地震波形の所定区間の振幅と、前記第2地震波形の所定区間の振幅を算出し、
前記第1地震波形の所定区間の振幅と、前記第2地震波形の所定区間の振幅との比を算出し、
前記第2地震波形に前記比を乗じて、前記cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記所定区間は、地震波におけるS波走時の二倍以降のコーダ波部分である、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記第1地震波形のコーダ波部分に対してcoda normalized methodを用いて振幅を算出し、前記第2地震波形のコーダ波部分に対して前記coda normalized methodを用いて振幅を算出する、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記抽出部は、前記取得部が取得した信号を周波数領域に変換し、変換した前記周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、前記第1周波数成分の第1周波数より高い周波数の第2周波数の成分の比に基づいて、前記第1地震波形と前記第2地震波形を抽出する、
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記抽出部は、前記周波数領域に変換した前記周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、前記第2周波数の成分の比を算出し、前記比が所定値以上の場合に前記cycle skippingが生じていないチャンネルであると判別し、前記比が所定値未満の場合に前記cycle skippingが生じているチャンネルであると判別する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記第2地震波形は、前記第1地震波形に対して10チャンネル以内の近傍のチャンネルである、
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記推定部は、
前記cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形のコーダ波部分の第1スペクトルを算出し、前記cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形のコーダ波部分の第2スペクトルを算出し、
算出した前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとの比を算出し、
算出した前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとの比を、前記第2スペクトルに乗じることで、前記cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルを算出し、
算出した前記cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルを時間領域に変換して前記cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を算出する、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項9】
情報処理装置が、
後方散乱光の位相の変化の時系列のデータを取得し、
cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出し、
前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する、
情報処理方法。
【請求項10】
情報処理装置のコンピュータに、
後方散乱光の位相の変化の時系列のデータを取得させ、
cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出させ、
前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定させる、
プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーケーブルを地震計センサとして利用するDistributed acoustic sensing(DAS)技術を用いた地震観測手法がある(例えば非特許文献1参照)。DAS手法は、光ファイバーケーブルに沿ったひずみ変化を測定する手法であり、従来型の地震計と比べ低コストで線状に密に地震動を長期モニタリングすることが可能なツールとして期待されている。また、DAS手法は、光ファイバーケーブル内に存在する散乱体で発せられた後方散乱波の位相変化によってひずみを計測する。計測機から光ファイバーケーブルに光パルスを入射させると、光ファイバー中にわずかに含まれる不純物(散乱体)によって散乱された光が計測機に戻ってくる。ケーブルに振動が加わると、ケーブルが伸び縮みし戻ってくる散乱光の位相が変化する。この散乱光の位相の変化を解析することで、光ファイバーケーブルの任意の場所での伸び縮み(ひずみ)を検出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Satoshi Ide, Eiichiro Araki, et al, “Very broadband strain-rate measurements along a submarine fiber-optic cable off Cape Muroto, Nankai subduction zone, Japan”, Ide et al. Earth, Planets and Space (2021) 73:63,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、サンプリング間隔内で位相変化が大きな振幅が光ファイバーケーブルに入力された場合、cycle skippingが生じ正確な振幅値が記録されないと言う課題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、DAS手法においてCycle skippingが生じ地震波形が正確に記録できなかったチャンネルにおいても、地震動振幅値を利用することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る情報処理装置は、後方散乱光の位相の変化(位相差、位相の揺らぎ)の時系列のデータを取得する取得部と、cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出する抽出部と、前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する推定部と、を備える情報処理装置である。
【0007】
(2)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記推定部が、前記第1地震波形の所定区間の振幅と、前記第2地震波形の所定区間の振幅を算出し、前記第1地震波形の所定区間の振幅と、前記第2地震波形の所定区間の振幅との比を算出し、前記第2地震波形に前記比を乗じて、前記cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する、上記(1)に記載の情報処理装置である。
【0008】
(3)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記所定区間が、地震波におけるS波走時の二倍以降のコーダ波部分である、上記(2)に記載の情報処理装置である。
【0009】
(4)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記推定部が、前記第1地震波形のコーダ波部分に対してcoda normalized methodを用いて振幅を算出し、前記第2地震波形のコーダ波部分に対して前記coda normalized methodを用いて振幅を算出する、上記(3)に記載の情報処理装置である。
【0010】
(5)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記取得部が取得した信号を周波数領域に変換し、変換した前記周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、前記第1周波数成分の第1周波数より高い周波数の第2周波数の成分の比に基づいて、前記第1地震波形と前記第2地震波形を抽出する、上記(1)から(4)のうちのいずれか1つに記載の情報処理装置である。
【0011】
(6)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記抽出部が、前記周波数領域に変換した前記周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、前記第2周波数の成分の比を算出し、前記比が所定値以上の場合に前記cycle skippingが生じていないチャンネルであると判別し、前記比が所定値未満の場合に前記cycle skippingが生じているチャンネルであると判別する、上記(5)に記載の情報処理装置である。
【0012】
(7)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記第2地震波形が、前記第1地震波形に対して10チャンネル以内の近傍のチャンネルである、上記(1)から(6)のうちのいずれか1つに記載の情報処理装置である。
【0013】
(8)また、本発明の一態様に係る情報処理装置は、前記推定部が、前記cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形のコーダ波部分の第1スペクトルを算出し、前記cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形のコーダ波部分の第2スペクトルを算出し、算出した前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとの比を算出し、算出した前記第1スペクトルと前記第2スペクトルとの比を、前記第2スペクトルに乗じることで、前記cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルを算出し、算出した前記cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルを時間領域に変換して前記cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を算出する、上記(5)または(6)に記載の情報処理装置である。
【0014】
(9)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る情報処理方法は、情報処理装置が、後方散乱光の位相の変化(位相差)の時系列のデータを取得し、cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出し、前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する、情報処理方法である。
【0015】
(10)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るプログラムは、情報処理装置のコンピュータに、後方散乱光の位相の変化(位相差)の時系列のデータを取得させ、cycle skippingが生じているチャンネルの第1地震波形と、cycle skippingが生じていないチャンネルの第2地震波形を抽出させ、前記第1地震波形と前記第2地震波形との振幅の比を用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
DAS手法においてcycle skippingが生じ地震波形が正確に記録できなかったチャンネルにおいても、地震動振幅値を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】DASの概要を説明するための図である。
図2】DASにおいて強い振幅(加速度)が観測された場合の例を説明するための図である。
図3】第1実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
図4】第1実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
図5】cycle skippingが生じている波形とその近傍の波形とを重ねた波形例を示す図である。
図6図5の各波形を周波数領域で重ねて表示した例を示す図である。
図7】式(2)を用いて各チャンネルの周波数領域の低域と高域の比を計算した例を示す図である。
図8】第2実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
図9】第2実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
図10】cycle skippingが生じているチャンネルの波形と生じていないチャンネルの波形を示す図である。
図11図10の波形を用いて推定した波形を示す図である。
図12】第3実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。
図13】第3実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を用い、繰り返しの説明は省略する。
また、本願でいう「XXに基づいて」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づいて」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0019】
[DASの概要]
まず、DAS(分布型音響計測)の概要を説明する。図1は、DASの概要を説明するための図である。計測機から光ファイバーケーブルに光パルスを入射させると、光ファイバー中にわずかに含まれる不純物(散乱体)によって散乱された光が計測機に戻ってくる。ケーブルに振動が加わると、ケーブルが伸び縮みし戻ってくる信号が変化する。この散乱光の位相の変化を解析することで、光ファイバーケーブルの任意の場所での伸び縮み(ひずみ)を検出することができる。なお、以下の説明において、図1のように、ケーブルの全長を所定間隔(例えば10m)とし、各所定間隔を各チャンネルという。例えばケーブルの全長が10km、所定間隔が10mである場合は、1000チャンネルである。
【0020】
DASによって記録される地震波形St(t,x)は、次式(1)のように記述される。
【0021】
【数1】
【0022】
式(1)において、S(t,x)は発生源、P(t,x)は伝搬経路、G(t,x)は浅部の堆積層、C(t,x)はケーブルのカップリング、Res(t,x)は構造物の応答、Ori(θ)は地震波形の波面に対する回転成分を表す。また、tは時刻、xは位置である。
【0023】
[大きな振幅(位相差)が観測された場合]
次に、DASにおいて大きな振幅(位相差)が観測された場合の例を説明する。図2は、DASにおいて大きな振幅(位相差)が観測された場合の例を説明するための図である。図2において、波形g11~g14の横軸は時刻(sec)、縦軸は位相差である。波形g11は、cycle skippingが生じていないチャンネルの波形例である。波形g12は、cycle skippingが生じているチャンネルの波形例である。波形g13は、波形g11の時刻40~60秒の間の1秒間を時間方向に拡大した波形である。波形g14は、波形g12の時刻40~60秒の間のcycle skippingが生じている1秒間を時間方向に拡大した波形である。
【0024】
波形g14において、1秒間のうち約0.4~0.8秒の期間、cycle skippingの影響で正確な波形が取得できていない。破線g15、g16は、期待される本来の波形のイメージである。
このように、サンプリング間隔内に置いて差分が±πを超えた場合は、位相のcycle skippingが生じ正確な値が記録されない。この結果、従来技術では、地震発生後、地震動によって構造物が受けた被害等を推定する際、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動振幅値を正確に評価することができなかった。
【0025】
<第1実施形態>
[情報処理装置の構成例]
図3は、本実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。図3のように、情報処理装置1は、例えば、発光部11と、受光部12と、抽出部13と、出力部15と、記憶部16を備える。
抽出部13は、例えば、FFT131と、判定部132を備える。
なお、図3に示した構成例は一例であり、これに限らない。例えば、発光部11と受光部12は、外部装置が備えていてもよい。
【0026】
発光部11は、光ファイバーケーブルの一端に入射する測定用の入射光を発光する。
【0027】
受光部12は、測定用の入射光が光ファイバーケーブル内の散乱体で散乱し戻ってくる時系列の散乱波を受光する。すなわち、受光部12は、後方散乱光の位相の変化(位相差、位相の揺らぎ)の時系列のデータを取得する。受光部12は、受光した信号を、光電気変換により電気信号に変換して出力する。
【0028】
抽出部13は、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形(第1地震波形)を抽出する。
【0029】
FFT131は、受光部12が出力する電気信号を、例えば高速フーリエ変換で周波数領域に変換する。
【0030】
判定部132は、例えば次式(2)を用いて周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値未満を、cycle skippingが生じているチャンネル(第1地震波形)として選択する。そして、判定部132は、次式(2)を用いて周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値超過を、cycle skippingが生じていないチャンネル(第2地震波形)として選択する。なお、式(2)において、S=max[|X(fk1)|]は周波数領域の低域(例えば10Hz未満)成分の最大値、S=max[|X(fk2)|]は周波数領域の高域(例えば10Hz以上)成分の最大値である。
【0031】
【数2】
【0032】
なお、判定部132は、互いに近傍の周波数領域に変換された2つのチャンネルの、高周波数領域成分または低周波数領域成分の大きさの差が所定値以上の組み合わせを、cycle skippingが生じているチャンネルと生じていないチャンネルとして選択するようにしてもよい。
【0033】
出力部15は、抽出部13が抽出した結果を外部装置に出力する。外部装置は、例えば、タブレット端末、スマートフォン、専用端末、パーソナルコンピュータ、印字装置、画像表示装置等である。
【0034】
記憶部16は、情報処理装置1が処理に用いるプログラム、数式、値、演算途中の値等を記憶する。
【0035】
[処理手順]
次に、情報処理装置1が行う処理手順例を説明する。図4は、本実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
【0036】
(ステップS1)発光部11は、測定用の入射光を発光し、光ファイバーケーブルの一端に入射する。
【0037】
(ステップS2)受光部12は、戻ってきた散乱波を受光し、受光した信号を電気信号に変換して出力する。
【0038】
(ステップS3)FFT131は、受光部12が出力する電気信号を、高速フーリエ変換で周波数領域に変換する。
【0039】
(ステップS4)判定部132は、周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値未満を、cycle skippingが生じているチャンネルとして選択する。判定部132は、周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値超過を、cycle skippingが生じていないチャンネルとして抽出する。
【0040】
[時間領域の波形例と周波数領域の波形例]
図5は、cycle skippingが生じている波形とその近傍の波形とを重ねた波形例を示す図である。図5において、横軸は時刻(sec)、縦軸は位相を正規化した値である。画像g51は、cycle skippingが生じているチャンネル433と、その近傍のcycle skippingが生じていないチャンネル428の波形である。画像g52は、cycle skippingが生じているチャンネル2655と、その近傍のcycle skippingが生じていないチャンネル2662の波形である。画像g53は、cycle skippingが生じているチャンネル5402と、その近傍のcycle skippingが生じていないチャンネル5394の波形である。画像g54は、cycle skippingが生じているチャンネル6143と、その近傍のcycle skippingが生じていないチャンネル6137の波形である。
【0041】
図6は、図5の各波形を周波数領域で重ねて表示した例を示す図である。横軸は周波数(Hz)であり、縦軸はフーリエ振幅である。画像g61は、図5の画像g51の各信号を周波数領域に変換して重ねて表示している。画像g62は、図5の画像g52の各信号を周波数領域に変換して重ねて表示している。画像g63は、図5の画像g53の各信号を周波数領域に変換して重ねて表示している。画像g64は、図5の画像g54の各信号を周波数領域に変換して重ねて表示している。また、符号g611、g621、g631およびg641は、cycle skippingが生じていないチャンネルの周波数領域の成分である。符号g612、g622、g632およびg642は、cycle skippingが生じているチャンネルの周波数領域の成分である。
【0042】
図6のように、cycle skippingが生じていないチャンネルの周波数領域の成分と、cycle skippingが生じているチャンネルの周波数領域の成分とには、高域の大きさの差が所定値以上である。
【0043】
図7は、式(2)を用いて各チャンネルの周波数領域の低域と高域の比を計算した例を示す図である。横軸はチャンネル、縦軸は低域の大きさと高域の大きさの比である。本実施形態では、この比が所定値以上の場合にcycle skippingが生じていないチャンネルであると判定し、この比が所定値未満の場合にcycle skippingが生じているチャンネルであると判定する。
【0044】
以上のように、本実施形態では、スペクトル形状を用いてcycle skippingが生じているチャンネルを判断するようにした。
これにより、本実施形態によれば、cycle skippingが生じていないチャンネルと、cycle skippingが生じているチャンネルを判断することができる。
【0045】
<第2実施形態>
本実施形態では、cycle skippingが生じているチャンネルの波形と、cycle skippingが生じていない波形の、コーダ波部分の時間領域の振幅比を用いて、cycle skippingが生じているチャンネルの波形の正解値を推定する。
【0046】
図8は、本実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。図8のように、情報処理装置1Aは、例えば、発光部11と、受光部12(取得部)と、抽出部13Aと、推定部14と、出力部15と、記憶部16を備える。
抽出部13Aは、例えば、FFT131と、判定部132を備える。
推定部14は、例えば、振幅値算出部141と、比算出部142と、補正算出部143を備える。なお、図8に示した構成例は一例であり、これに限らない。例えば、発光部11と受光部12は、外部装置が備えていてもよい。
【0047】
抽出部13Aは、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)を抽出する。抽出部13Aは、チャンネル毎に所定区間の信号を抽出する。なお、抽出部13Aは、第1実施形態の抽出部13と同様の処理によってcycle skippingが生じているチャンネルを抽出する。なお、実施形態では、所定区間として、S(t,x)、P(t,x)のチャンネル間の違いを低減させるため、例えば地震波形においてS(t,x)、P(t,x)に依らず一定の減衰波形を示す地震波におけるS波走時の二倍以降のコーダ波部分を用いた。なお、所定区間は、これに限らない。
【0048】
推定部14は、抽出部13が抽出したcycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)とを用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する。
【0049】
振幅値算出部141は、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間の例えばコーダ波部分の振幅を算出する。振幅値算出部141は、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間の例えばコーダ波部分の振幅を算出する。なお、振幅値算出部141は、地震波形Stの所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅を、例えばcoda normalized method(コーダ正規化法)(例えば、参考文献1参照)を用いて算出する。なお、coda normalized methodは、地震源のスペクトル振幅を一定の経過時間におけるコーダ波のスペクトル振幅で規格化するもので、1つの観測点で得られたデータから減衰係数を測定することができる。なお、算出に用いる手法は、これに限らない。また、cycle skippingが生じていないチャンネルは、cycle skippingが生じているチャンネルの近傍(例えば±10チャンネル以内)が好ましい。
【0050】
参考文献1;PHILLIPS, W. S. and K. AKI, “Site amplification of coda waves from local earthquakes in central California”, Bulletin of the Seismological Society of America, Vol.76, No3, p627-648, 1986
【0051】
比算出部142は、振幅値算出部141が算出したcycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅との比を算出する。
【0052】
補正算出部143は、比算出部142が算出した比を、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x)に乗じることで、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を算出する。
【0053】
出力部15は、推定部14が推定したcycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を外部装置に出力する。外部装置は、例えば、タブレット端末、スマートフォン、専用端末、パーソナルコンピュータ、印字装置、画像表示装置等である。
【0054】
記憶部16は、情報処理装置1が処理に用いるプログラム、数式、値、演算途中の値等を記憶する。
【0055】
[推定原理]
次に、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を推定する原理について説明する。
cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)は、上述した式(1)のように表すことができる。近傍のcycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)は、次式(3)のように表せる。*は波形の畳み込みを示す。
【0056】
【数3】
【0057】
近傍のチャンネル間の信号の場合は、数十m以内におけるS(t,x)、P(t,x)が大きく変化しないため、ほぼ等しい波形が記録されると見なせる。すなわち、式(1)、式(3)において、S(t,x)=S(t,x+1)、P(t,x)=P(t,x+1)と見なせる。この結果、St(t,x)とSt(t,x+1)との比βは、次式(4)となる。
【0058】
【数4】
【0059】
このことより、cycle skippingが生じているチャンネルと、その近傍におけるcycle skippingが生じていないチャンネルとのDASで記録された地震波形の違いは、同一の地震波形に限ると、振幅値の比を取ることで明らかにできる。
これにより、cycle skippingしていないチャンネルの波形からcycle skippingしたチャンネルの波形を推定することができる。あるいは、G(t,x)*C(t,x)*Res(t,x)のチャンネル間の比を用いてcycle skippingしていないチャンネルの波形からcycle skippingしたチャンネルの波形を推定することができる。
【0060】
[処理手順]
次に、情報処理装置1が行う処理手順例を説明する。図9は、本実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
【0061】
(ステップS11)発光部11は、測定用の入射光を発光し、光ファイバーケーブルの一端に入射する。
【0062】
(ステップS12)受光部12は、戻ってきた散乱波を受光し、受光した信号を電気信号に変換して出力する。
【0063】
(ステップS13)抽出部13Aは、チャンネル毎に所定区間の信号を抽出する。抽出部13Aは、受光部12が出力する電気信号を、高速フーリエ変換で周波数領域に変換する。抽出部13Aは、周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値未満を、cycle skippingが生じているチャンネルとして選択する。抽出部13Aは、周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値超過を、cycle skippingが生じているチャンネルとして選択する。
【0064】
(ステップS14)振幅値算出部141は、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅を算出する。
【0065】
(ステップS15)比算出部142は、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅との比を算出する。
【0066】
(ステップS16)補正算出部143は、比算出部142が算出した比を、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)に乗じて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を算出する。
【0067】
(ステップS17)出力部15は、補正後のcycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を外部装置に出力する。
【0068】
[確認結果]
次に、上述した方法で地震動波形を推定した結果例を、図10図11を用いて説明する。
図10は、cycle skippingが生じているチャンネルの波形と生じていないチャンネルの波形を示す図である。波形g21は、cycle skippingが生じているチャンネルの波形である。図10の波形g101は、cycle skippingが生じていないチャンネルの波形である。波形g101、g111の横軸は時刻(sec)、縦軸は位相を正規化した値である。例えば、波形g111において、32768(2^15)がπに対応し、-32768(2^15)が-πに対応する。
【0069】
図11は、図10の波形を用いて推定した波形を示す図である。図10において、横軸は時刻(sec)、縦軸は位相を正規化した値である。
画像g120は、図10のcycle skippingが生じているチャンネルの波形g101とcycle skippingが生じていないチャンネルの波形g111の振幅比を算出した結果を用いて、推定した波形である。波形g121はcycle skippingが生じているチャンネルの波形であり、図10の波形g111である(波形g111と画像g120とでは縦軸のスケールが異なっている)。また、波形g122は、推定した波形である。
また、画像g130と画像g140は、画像g120の一部を抜き出して拡大した画像である。画像g130と画像g140のように、cycle skipping部以外は位相や振幅が一致している。
【0070】
上述した実施形態において、例えば、既に光ファイバーケーブルが敷設されていてもよく、新たに光ファイバーケーブルを敷設するようにしてもよい。上述した実施形態は、既に光ファイバーケーブルが例えば線路沿い等に敷設されている鉄道に用いることができる。
【0071】
このように、本実施形態によれば、cycle skippingが生じ地震波形が正確に記録できなかったチャンネルにおいても、地震動振幅値を利用することができ、光ファイバーケーブルに沿った線状に非常に高密度な地震観測網を構築することができる。鉄道には線路に沿って光ファイバーケーブルが敷設されている。本実施形態によれば、それらにDASを適用することで、いち早く鉄道沿線で地震動を検知することができ脱線防止に繋がり、また地震時の構造物被害箇所の数m毎の選定が可能となり、迅速な運転再開を可能となる。
【0072】
なお、サンプリングするチャンネル毎の間隔の長さは、環境等に応じて設定するようにしてもよい。また、サンプリングの間隔は等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。
【0073】
<第3実施形態>
本実施形態では、cycle skippingが生じているチャンネルの波形と、cycle skippingが生じていない波形の、コーダ波部分の周波数領域の振幅比を用いて、cycle skippingが生じているチャンネルの波形の正解値を推定する。
【0074】
図12は、本実施形態に係る情報処理装置の構成例を示す図である。図12のように、情報処理装置1Bは、例えば、発光部11と、受光部12(取得部)と、抽出部13Bと、推定部14Bと、出力部15と、記憶部16を備える。
抽出部13Bは、例えば、FFT131と、判定部132を備える。
推定部14Bは、例えば、振幅値算出部141Bと、比算出部142Bと、補正算出部143Bを備える。なお、図12に示した構成例は一例であり、これに限らない。例えば、発光部11と受光部12は、外部装置が備えていてもよい。
【0075】
抽出部13Bは、第1実施形態と同様の処理によって、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)を抽出する。抽出部13B、チャンネル毎に所定区間の信号を抽出する。すなわち、抽出部13Bは、受光部12(取得部)が取得した信号を周波数領域に変換し、変換した周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、第1周波数成分の第1周波数より高い周波数の第2周波数の成分の比に基づいて、第1地震波形と前記第2地震波形を抽出する。また、抽出部13Bは、周波数領域に変換した周波数領域の成分のうち第1周波数成分と、第2周波数の成分の比を算出し、比が所定値以上の場合にcycle skippingが生じていないチャンネルであると判別し、比が所定値未満の場合にcycle skippingが生じているチャンネルであると判別する。なお、実施形態では、所定区間として、S(t,x)、P(t,x)のチャンネル間の違いを低減させるため、例えば地震波形においてS(t,x)、P(t,x)に依らず一定の減衰波形を示す地震波におけるS波走時の二倍以降のコーダ波部分を用いた。なお、所定区間は、これに限らない。
【0076】
推定部14Bは、抽出部13Bが抽出したcycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)とを用いて、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形を推定する。
【0077】
振幅値算出部141Bは、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間の例えばコーダ波部分の第1スペクトルSt(f,x)を算出する。振幅値算出部141Bは、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間の例えばコーダ波部分の第2スペクトルSt(f,x+1)を算出する。なお、振幅値算出部141Bは、地震波形Stの所定区間(例えばコーダ波部分)の振幅を、例えばcoda normalized method(コーダ正規化法)(例えば、参考文献2参照)を用いて算出する。なお、coda normalized methodは、地震源のスペクトル振幅を一定の経過時間におけるコーダ波のスペクトル振幅で規格化するもので、1つの観測点で得られたデータから減衰係数を測定することができる。なお、算出に用いる手法は、これに限らない。また、cycle skippingが生じていないチャンネルは、cycle skippingが生じているチャンネルの近傍(例えば±10チャンネル以内)が好ましい。
【0078】
参考文献2;Kazuo Yoshimoto, Haruo Sato, “Frequency-dependent attenuation of P and S waves in the Kanto area, Japan, based on the coda-normalization method”, Geophysical Journal International Vol. 114, Issue 1, 165-174, 1993
【0079】
比算出部142Bは、振幅値算出部141Bが算出したcycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)の第1スペクトルSt(f,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)の第2スペクトルSt(f,x+1)との比を算出する。
【0080】
補正算出部143Bは、比算出部142Bが算出した比を、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の第2スペクトルSt(f,x+1)に乗じることで、cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルSt’(f,x)を算出し、これに逆FFTを実施し、補正値であるcycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を算出する。
【0081】
[推定原理]
次に、cycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St’(t,x)を算出する原理について説明する。
cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)は、上述した式(1)のように表すことができ、周波数成分は次式(5)のように表せる。×は乗算を示し、周波数領域ではそれぞれの要素を乗算で表すことができる。
【0082】
【数5】
【0083】
近傍のcycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)は、上述した式(5)のように表すことができ、周波数成分は次式(6)のように表せる。
【0084】
【数6】
【0085】
近傍のチャンネル間の信号の場合は、数十m以内におけるS(f,x)、P(f,x)が大きく変化しないため、ほぼ等しい波形が記録されると見なせる。すなわち、式(5)、式(6)において、S(f,x)=S(f,x+1)、P(f,x)=P(f,x+1)と見なせる。この結果、St(f,x)とSt(f,x+1)との比は、次式(7)となる。
【0086】
【数7】
【0087】
このことより、cycle skippingが生じているチャンネルと、その近傍におけるcycle skippingが生じていないチャンネルとのDASで記録された地震波形の違いは、同一の地震波形に限ると、スペクトルの比を取ることで明らかにできる。これにより、cycle skippingしていないチャンネルの波形からcycle skippingしたチャンネルの波形を推定することができる。あるいは、G(f,x)×C(f,x)×Res(f,x)のチャンネル間の比を用いてcycle skippingしていないチャンネルの波形からcycle skippingしたチャンネルの波形を推定することができる。
【0088】
[処理手順]
次に、情報処理装置1Bが行う処理手順例を説明する。図13は、本実施形態に係る情報処理装置が行う処理手順のフローチャートである。
【0089】
(ステップS21)発光部11は、測定用の入射光を発光し、光ファイバーケーブルの一端に入射する。
【0090】
(ステップS22)受光部12は、戻ってきた散乱波を受光し、受光した信号を電気信号に変換して出力する。
【0091】
(ステップS23)抽出部13Bは、チャンネル毎に所定区間の信号を抽出する。抽出部13Bは、受光部12が出力する電気信号を、高速フーリエ変換で周波数領域に変換する。抽出部13Bは、周波数領域に変換されたチャンネルの、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値未満を、cycle skippingが生じているチャンネルとして選択し、高周波数領域成分と低周波数領域成分の大きさの比が所定値以上の場合にcycle skippingが生じていないチャンネルとして抽出する。
【0092】
(ステップS24)振幅値算出部141Bは、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)のスペクトルSt_cоda(f,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)のスペクトルSt_cоda(f,x+1)を算出する。
【0093】
(ステップS25)比算出部142Bは、cycle skippingが生じているチャンネルの地震波形St(t,x)の所定区間(例えばコーダ波部分)のスペクトルSt_cоda(f,x)と、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)の所定区間(例えばコーダ波部分)のスペクトルSt_cоda(f,x+1)との比β‘を次式(8)によって算出する。
【0094】
【数8】
【0095】
(ステップS26)補正算出部143Bは、比算出部142Bが算出した比を、cycle skippingが生じていないチャンネルの地震波形St(t,x+1)のスペクトルSt(f,x+1)に乗じて、cycle skippingが生じたチャンネルのスペクトルSt‘(f,x)を算出し、それに逆FFTを実施し、補正値であるcycle skippingが生じたチャンネルの地震波形St‘(t,x)を次式(9)によって算出する。
【0096】
【数9】
【0097】
(ステップS27)出力部15は、補正後のcycle skippingが生じたチャンネルの地震動波形St‘(t,x)を外部装置に出力する。
【0098】
[確認結果]
次に、上述した方法で地震動波形を推定した結果例は、第2実施形態の推定結果と同様であり、例えば図10図11となる。
【0099】
上述した実施形態において、例えば、既に光ファイバーケーブルが敷設されていてもよく、新たに光ファイバーケーブルを敷設するようにしてもよい。上述した実施形態は、既に光ファイバーケーブルが例えば線路沿い等に敷設されている鉄道に用いることができる。
【0100】
このように、本実施形態によれば、cycle skippingが生じ地震波形が正確に記録できなかったチャンネルにおいても、地震動振幅値を利用することができ、光ファイバーケーブルに沿った線状に非常に高密度な地震観測網を構築することができる。鉄道には線路に沿って光ファイバーケーブルが敷設されている。本実施形態によれば、それらにDASを適用することで、いち早く鉄道沿線で地震動を検知することができ迅速な列車停止による脱線防止に繋がり、また地震時の構造物被害箇所の数m毎の選定が可能となり、迅速な運転再開を可能となる。
【0101】
なお、サンプリングするチャンネル毎の間隔の長さは、環境等に応じて設定するようにしてもよい。また、サンプリングの間隔は等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。
【0102】
これにより、本実施形態によれば、精度良く効率的にcycle skippingが生じたチャンネルと生じていないチャンネルを選択できる。
【0103】
なお、上述した各実施形態では、取得したデータを処理してcycle skippingが生じたチャンネルの適切な値を推定して提示する例を説明したが、これに限らない。情報処理装置1(または1A、1B)は、このように推定されたデータを用いて、位相差の値が閾値以上の場合に地震や震動が発生している可能性があることを示す情報と、対応するチャンネルまたはチャンネルに対応する地点等を提示するようにしてもよい。この場合、記憶部16は、予めチャンネルに位置を示す情報(例えば緯度経度等)を関連付けて記憶する。
【0104】
なお、上述した手法は、鉄道設備以外にも、例えば海底ケーブル等の設備等にも適用可能である。
【0105】
なお、本発明における情報処理装置1(または1A、1B)の機能の全てまたは一部を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより情報処理装置1(または1A、1B)を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0106】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0107】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0108】
1,1A,1B…情報処理装置、11…発光部、12…受光部、13,13A,13B…抽出部、14,14A,14B…推定部、15…出力部、16…記憶部、141,141B…振幅値算出部、142,142B…比算出部、143,143B…補正算出部、131…FFT、132…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13