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特開2024-62179ココアバターの食感に関わる品質評価法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062179
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ココアバターの食感に関わる品質評価法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240430BHJP
   G01N 33/03 20060101ALI20240430BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A23D9/00
G01N33/03
A23D9/00 500
A23G1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170012
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉本 沙紀
(72)【発明者】
【氏名】永安 弘宜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
【テーマコード(参考)】
4B014
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG14
4B014GK07
4B014GL06
4B014GP01
4B014GP12
4B014GQ17
4B026DC06
4B026DG01
4B026DK01
4B026DX02
(57)【要約】
【課題】テンパリング、エイジング、複数サンプル用意の手間を省き、ココアバターのスナップ性をコントロール、推定すること。
【解決手段】ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロールする方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロールする方法。
【請求項2】
1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スナップ性を、試料形状:99×11×6mm、温度条件:15℃、測定治具:ステンレス製直径10mm円柱3本による3点曲げ、測定速度:40mm/min、測定時下部間距離:60mmの分析条件で、測定される破断強度が、1.00~1.30kgfの範囲となるようにする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性を推定する方法。
【請求項5】
1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
チョコレートに使用されるココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性をコントロールする方法。
【請求項7】
1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
チョコレートに使用されるココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性を推定する方法。
【請求項9】
POP、POS、SOSの含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ココアバターの食感に関わる品質を評価するための測定方法に関し、特に、テンパリングエイジング後のココアバターの物性をコントロール、及び推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートを食した際の歯ごたえ、すなわちパキッとした食感(スナップ性)は、チョコレートの品質において重要な要因である。このようなチョコレートの物性はチョコレートの主原料であるココアバターの物性に多大に影響される。
ココアバターのスナップ性は、ココアバターをテンパリング、エイジングした後のココアバターを官能評価することや破断強度を測定することにより評価可能である。しかしながら、このような評価方法は、テンパリングエイジング後でなければ実行できず、また、物性評価をする際一般的には、測定誤差を考慮し、複数サンプルを用意する必要がある。そのため、テンパリング前のココアバターからテンパリング、エイジング後のココアバターの物性を推定できる手法が望まれている。
【0003】
一般的に、ココアバターは含有するトリグリセリド、特に1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)と1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)と1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の含有比率と、含まれる脂肪酸の組成で特徴づけられる。
このため、ココアバター中の脂肪酸組成、及びPOPとPOSとSOSをはじめとするトリグリセリドの含有比率が同じ場合、ココアバターの品質は同等であると推定されていた。
特許文献1~3では、カカオバターそのものを分別して得られるステアリン画分によって、スナップ性と耐熱性をチョコレートに付与する検討がなされている。
しかしながら、脂肪酸の組成と、トリグリセリドの含有比率だけでは、チョコレートの食感をコントロール、推定することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-034989号公報
【特許文献2】特開2000-109879号公報
【特許文献3】特開2000-273482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ココアバターの脂肪酸組成及びPOP、POS、SOSのトリグリセリドの含有比率が同等でも、テンパリング、エイジング後のスナップ性が異なるココアバターがあることを見出した。
【0006】
すなわち、脂肪酸組成及びPOPとPOSとSOSのトリグリセリドの含有比率がほぼ同一であるために、同等品質であると考えられていたココアバターにおいて、食感が異なる場合があることを見出し、本発明にいたった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、ココアバター中のジグリセリド画分に注目し、ココアバター中の脂肪酸組成及びトリグリセリド含有比率に加えてココアバター中のジグリセリド含有率を調整することで、当該ココアバターのテンパリング、エイジング後のスナップ性をコントロール、及び推定できる方法を提供できる。
【0008】
本発明者らは、ココアバターに含まれるジグリセリド量が、テンパリング、エイジング後のココアバターのスナップ性と相関があることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テンパリング、エイジング、複数サンプル用意の手間を省き、迅速にココアバターのスナップ性を推定できる。
すなわち、本発明によれば、ジグリセリド分析によるココアバター品質評価には、エイジング期間を必要としないため、短期間での評価が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本開示を説明する。
本発明は、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロールする方法である。
さらに、本発明は、POP、POS、SOSの含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロールする方法である。
本発明は、前記スナップ性を、試料形状:99×11×6mm、温度条件:15℃、測定治具:ステンレス製直径10mm円柱3本による3点曲げ、測定速度:40mm/min、測定時下部間距離:60mmの分析条件で、測定される破断強度が、1.00~1.30kgfの範囲となるようにする、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロールする方法である。
【0011】
さらに、本発明は、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性を推定する方法である。
本発明は、POP、POS、SOSの含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性を推定する方法である。
【0012】
さらに、本発明は、チョコレートに使用されるココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性をコントロールする方法である。
本発明は、POP、POS、SOSの含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターをチョコレートに使用するにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性をコントロールする方法である。
【0013】
さらに、本発明は、チョコレートに使用されるココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性を推定する方法である。
本発明は、POP、POS、SOSの含有比率及び脂肪酸組成が同等である前記ココアバターをチョコレートに使用するにおいて、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整することによる、チョコレートのスナップ性を推定する方法である。
【0014】
(ココアバター)
ココアバターはカカオ豆の脂肪分であり、主に、カカオリカーから圧搾して製造される。ココアバターは、カカオ豆中に40から50%(カカオマス中では約55%)含まれている。主に菓子(特に、チョコレート)、薬品、軟膏、化粧品の原料として利用される。カカオリカーから圧搾した直後のココアバターは、若干の非脂肪カカオ分を含有するため、薄黄色であり、未脱臭のココアバターには独特の匂いがある。脱臭処理を行うことで、白色・無味・無臭に近くなる。ココアバターを構成する脂肪酸のうち、95%がオレイン酸(C18:1)、ステアリン酸(C18:0)、パルミチン酸(C16:0)の3種類の脂肪酸である。
【0015】
(トリグリセリド)
トリグリセリドとはグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したものである。ココアバターのトリグリセリドのうち、1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)及び1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の3種が約80%を占めるといわれる。
ココアバターに含まれるトリグリセリド含有比率が同等であるとは、第一のココアバターの1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)の含有割合が、第二のココアバターの1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)含有割合の90%~110%であり、第一のココアバターの1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)の含有割合が、第二のココアバターの1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)含有割合の90%~110%であり、第一のココアバターの1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の含有割合が、第二のココアバターの1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)含有割合の90%~110%であることをいう。
【0016】
(脂肪酸)
脂肪酸は、炭素、水素、酸素の3種類の原子で構成され、炭素原子が鎖状につながり、その一方の端にカルボキシル基を有する。このカルボキシル基が、グリセロールの水酸基と縮合して、トリグリセリド、ジグリセリド、あるいはモノグリセリドが形成される。
ココアバターの脂肪分を構成する主な脂肪酸はステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸であり、次にリノール酸が含まれることが知られる。
脂肪酸は、炭素数と、二重結合の数によって表記される。例えば、ステアリン酸は、炭素を18個含み、二重結合を含まないため、(C18:0)と表記される。オレイン酸は、(C18:1)、パルミチン酸は(C16:0)、リノール酸は(C18:2)である。
第一のココアバターと第二のココアバターの脂肪酸組成比が同等であるとは、それぞれのステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸の含有割合が、第一のココアバターのステアリン酸の含有割合が、第二のココアバターのステアリン酸含有割合の90%~110%であり、第一のココアバターのオレイン酸の含有割合が、第二のココアバターのオレイン酸含有割合の90%~110%であり、第一のココアバターのパルミチン酸の含有割合が、第二のココアバターのパルミチン酸含有割合の90%~110%であり、第一のココアバターのリノール酸の含有割合が、第二のココアバターのリノール酸含有割合の90%~110%であることをいう。
【0017】
(ジグリセリド)
ジグリセリドとはグリセロールに2分子の脂肪酸がエステル結合したものである。ココアバター中のジグリセリドの含有量は、ココアバターからジグリセリドをカラムで分取して秤量する方法、ガスクロマトグラフィーで測定する方法を挙げられる。ただし、ジグリセリドの測定方法はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(ココアバター中のジグリセリドの含有率)
本発明において、ココアバターのスナップ性をコントロール、及び推定するためには、ココアバター中のジグリセリドの含有率を調整、測定する必要がある。
ココアバター中のジグリセリドの含有率が高くなると、テンパリングエイジング後のココアバターの強度は弱くなる。ココアバター中のジグリセリドの含有率が低くなると、テンパリングエイジング後のココアバターの強度は高くなる。
【0019】
(テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性(破断強度))
テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性に関し、好適な破断強度は、1.00kgf以上である。本発明においては、破断強度は、1.00~1.50kgfが好ましく、1.00~1.30kgfであることがより好ましい。
破断強度が1.00kgf以下であると、硬度が弱く、良好なスナップ性を示さない。さらに、破断強度が1.50kgf以上であると、硬度が強すぎ、良好なスナップ性を示さない。
【0020】
さらに、チョコレートは、その主成分がココアバターなので、チョコレートの物性は、テンパリング後のココアバターの物性に相同していることから、チョコレートのスナップ性も、ココアバター中のジグリセリドの含有率によって、コントロール、あるいは推定することができる。
すなわち、ココアバター中のジグリセリドの含有率をコントロールすることにより、テンパリング後のココアバターのスナップ性をコントロール、推定できることは、ココアバターを含有する最終製品であるチョコレートのスナップ性をコントロール、推定できることとなる。
【0021】
以下の実施例では、本発明にコントロールしたココアバターのスナップ性を評価するため、あるいは、本発明の推定方法を評価するために、スナップ性の測定も行った。従来の測定方法として試料を各測定温度に数時間温調後、レオメーター(サン科学製)で硬さを測定した方法、例えば、アダプターを直径1mmの円柱で突いた時の加重をグラム数で示し、20℃及び25℃での硬さ、即ちレオメーターの加重グラム数により測定する方法が知られる。なお、下記の実施例においては、材料試験機5542(インストロン社製)を使用して、低温下での3点曲げ時の最大荷重(破断強度)を測定した。これは、破断強度が、喫食時に感じるチョコレート等の製品の硬さと相関があるため、材料試験機5542(インストロン社製)を使用する、低温下での3点曲げ時の最大荷重(破断強度)の測定方法を採用した。
【0022】
本発明において、ガスクロマトグラフィー法はオープンカラム分析の確認、簡略化のために採用した。
分析方法(ガスクロマトグラフィー法)
ココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCについて、以下の分析条件により、ガスクロマトグラフィーによって、各サンプル中のモノグリセリド画分、ジグリセリド画分、トリグリセリド画分をそれぞれ選定した。
【0023】
分析条件
装置:7890A(Agilent technologis社製)
カラム:UltraALLOY-PY3(3m×250μm×0.1μm、フロンティアラボ社製)
検出器:FID
キャリアガス:He
流速:1ml/min
スプリット比:50:1
注入口温度:300℃
検出器温度:400℃
昇温条件:150℃~375℃(5℃/min)
注入量:1.0μL
【0024】
各サンプルのモノグリセリド画分、ジグリセリド画分、トリグリセリド画分のピーク位置は、標準試薬やココアバター代替脂及び乳化剤等を用いて決定した。
【0025】
本分析では、乳化剤(モノステアリン酸グリセロール等)を基準にモノグリセリド画分のピーク位置を、ジオレイン酸グリセロール(WAKO製、試薬番号324-32642)を基準にジグリセリド画分のピーク位置を、TRISTEARIN(SIGMA製、試薬番号T-5016)とTRIPALMITIN(SIGMA製、試薬番号T-5888)等を基準にトリグリセリド画分のピーク位置をそれぞれ決定した。
具体的には上記測定条件の場合、モノグリセリド画分としてリテンションタイム(RT)が1.0分~5.0分、ジグリセリド画分としてRTが19.0分~27.0分、トリグリセリド画分としてRTが30.0分~40.0分の各範囲にあるピークを選定した。
【実施例0026】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
分析方法(オープンカラムによる分取)
ココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCについて、以下の分析方法により、カラムクロマトグラフィーによって、各サンプル中のモノグリセリド画分、ジグリセリド画分、トリグリセリド画分をそれぞれ取得した。
【0028】
分析方法
下層から順に脱脂綿、硫酸ナトリウム(無水)3g、ベンゼンで膨潤したシリカゲル(WAKOGEL C200)20g、硫酸ナトリウム(無水)10g、を積層充填したカラム(20mmI.D.×300mm)を作製した。
ココアバター0.3gにベンゼン30mLを加えて温調し、ココアバターを全て溶解させた。
ココアバターが溶解した溶液を上記カラムにのせ、ベンゼン500mL、ベンゼン-ジエチルエーテル混液(99:1)500mL、ベンゼン-ジエチルエーテル混液(97:3)500mL、ベンゼン-ジエチルエーテル混液(95:5)500mL、ジエチルエーテル500mLで順次溶出し、モノグリセリド画分、ジグリセリド画分、トリグリセリド画分を含有する各画分溶液を得た。
得られた各画分溶液をエバポレーターで溶媒除去し、減圧乾燥後、回収した各画分の重量を測定した。
トリグリセリド画分については、さらに、1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)及び1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)の各画分の比を、GCキャピラリーカラム TC-65TG(ジーエルサイエンス株式会社)を使用して、下記の分析条件で、算出した。
分析条件
装置:7890A(Agilent technologis社製)
カラム:TC-65TG(30m×250μm×0.1μm、ジーエルサイエンス社製)
検出器:FID
キャリアガス:He
流速:1ml/min
スプリット比:35:1
注入口温度:360℃
検出器温度:365℃
昇温条件:200℃(1min hold)~20℃/min~350℃~1℃/min~365℃(6min hold)
注入量:1.0μL
品質によっては(トリグリセリド成分等の融点が極端に異なる等の事情がある場合)、ベンゼン-ジエチルエーテル混液(90:10)500mL等の画分も増やす必要があるが、本実施例では、その必要はなく、上記条件で行った。
【0029】
本実施例で使用したココアバターの、サンプルA、サンプルB、サンプルCの脂肪酸組成を以下の表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
ココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCの脂肪酸組成に関しては、3種のココアバターは、ほぼ同等の脂肪酸組成であることがわかる。
すなわち、サンプルA、サンプルB、サンプルC中の、主要な脂肪酸組成は、表1から、パルミチン酸(C16:0)は、それぞれ26.4%、26.3%、26.2%、ステアリン酸(C18:0)は、それぞれ35.6%、35.5%、36.0%、オレイン酸(C18:1)は、それぞれ32.3%、32.9%、32.3%、リノール酸(C18:2)は、それぞれ3.0%、3.0%、3.1%であり、ほぼ同等の脂肪酸組成であることがわかる。
【0032】
ココアバター中の脂肪酸組成は以下のように測定した。
ココアバターの脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2013年度版 2.4.2.1-2013 脂肪酸組成(FID恒温ガスクロマトグラフ法)に準じた方法で測定した。
分析条件
装置:7890B(Agilent technologis社製)
カラム:TC-70(60m×250μm×0.25μm、ジーエルサイエンス社製)
検出器:FID
キャリアガス:He
流速:1ml/min
スプリット比:100:1
注入口温度:250℃
検出器温度:260℃
昇温条件:186℃(50min hold)
注入量:2.0μL
【0033】
ココアバターのサンプルA、サンプルB,サンプルC中の、ジグリセリドの各含有率は、表2に示した。
【0034】
(実施例2)
ココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCについて、テンパリング、エイジング後の破断強度を以下の条件により測定した。
【0035】
分析方法-物性測定(スナップ性)
スナップ性の官能評価に関しては、指標として、以下の材料試験機を用いた物性値を用いた。
これは低温下での3点曲げ時の最大荷重が、喫食時に感じるチョコレート等の製品の硬さと相関があるためである。
使用機器:材料試験機5542(インストロン社製)
分析条件
試料形状:99×11×6mm
温度条件:15℃
測定治具:ステンレス製直径10mm円柱3本による3点曲げ
測定速度:40mm/min
測定時下部間距離:60mm
上記分析条件により、3点曲げ時の最大荷重(kgf)を評価指標とした。これは試料破断時の荷重(破断強度)である。
【0036】
本実施例では、ココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCを、テンパリング後1週間20℃でエイジングしたものを各試料として使用した。
テンパリング作業等のハンドリング操作でココアバターの品質が変わりやすいため、比較する試料は全て同日に調整した上で、破断強度を測定した。
以上の測定により得られた、テンパリングエイジング後のココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCの破断強度を、表2に示す。
【0037】
以上の実施例1、2で得られた結果を、表2にまとめて示す。
すなわち、実施例1で測定したココアバターのサンプルA、サンプルB、サンプルCの主要な脂肪酸の組成及び含有率、トリグリセリドの組成比、及びジグリセリドの含有率、並びに実施例2で測定したテンパリングエイジング後のサンプルA、サンプルB、サンプルCの破断強度を示した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、ココアバター中の、脂肪酸組成、トリグリセリド含有比率が同等なサンプルA、サンプルB,サンプルCであっても、ココアバター中におけるジグリセリドの含有率が異なる場合、テンパリングエイジング後の破断強度が異なることが容易に理解される。
また、ジグリセリド量が多いほど、破断強度が低い、すなわちスナップ性が低いことが示された。
【0040】
このように、ココアバター中のジグリセリドの含有率から、テンパリングエイジング後のココアバターのスナップ性をコントロール、又は推定できることから、テンパリング作業が必要となる従来の評価方法と比較すると省作業化になるという特有な効果を奏している。
【0041】
さらに、飲食物であるチョコレートは、その主成分がココアバターであることから、テンパリングエイジング後のココアバターの物性により、最終飲食物であるチョコレートの物性も大部分決定されると考えられる。従って、本発明の方法は、チョコレートのスナップ性も同様にコントロール、推定できるものと考えられる。
すなわち、チョコレートの製造において、ココアバター中のジグリセリドの含有率を一定の範囲となるようにコントロールすることにより、最終製品であるチョコレートのスナップ性もコントロールできる。