(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062181
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】法枠の3次元点群データ処理システム
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240430BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240430BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
E02D17/20 103Z
G01C15/00 104Z
G01B11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170015
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 充
(72)【発明者】
【氏名】平尾 裕斗
【テーマコード(参考)】
2D044
2F065
【Fターム(参考)】
2D044DB11
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA22
2F065AA28
2F065AA53
2F065AA58
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF12
2F065QQ21
2F065QQ31
2F065RR05
2F065RR09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高精度で、効率的な法枠の3次元点群データ処理システムを提供する。
【解決手段】法枠の3次元点群データ処理システムXは、法枠が構築された法面の3次元点群データを取得する取込手段100と、取込手段100で取得した元データを編集する編集手段200と、を有する。編集手段200は、元データを三角形群データに変換する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法枠が構築された法面の3次元点群データを取得する取得手段と、
この取得手段で取得した元データを編集する編集手段とを有し、
この編集手段は、前記元データを三角形群データに変換する、
ことを特徴とする法枠の3次元点群データ処理システム。
【請求項2】
前記編集手段は、
前記元データ上において球を転がすことで3接点群データを得、この3接点群データから三角形群データを作成するボール・ピボッティング・アルゴリズムを利用する手段であり、
前記球を相対的に小さなものとすることで前記法枠内が相対的に描かれる非凸形状三角形群データの作成と、前記球を相対的に大きなものとすることで前記法枠内が相対的に描かれない凸形状三角形群データの作成とを行い、
前記非凸形状三角形群データ及び凸形状三角形群データを対照することで編集データを得る、
請求項1に記載の法枠の3次元点群データ処理システム。
【請求項3】
前記編集手段は、
前記非凸形状三角形群データ及び前記凸形状三角形群データを重ね合わせ、両三角形群データの相違から前記法枠の表面を算出する、
請求項2に記載の法枠の3次元点群データ処理システム。
【請求項4】
前記編集手段で得た編集データに基づいて、梁長、枠中心間隔、枠幅、法長、延長、及び法枠面積の少なくともいずれか1種以上を算出する算出手段を有する、
請求項1に記載の法枠の3次元点群データ処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法枠の3次元点群データ処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面に構築された法枠の出来形を計測する方法としては、例えば、レーザスキャナで法面の三次元点群データを取得し、この三次元点群データを解析して法面に並行な面を推定し、この推定面に基づいて法枠の出来形を算出する方法が存在する(特許文献1参照。)。この方法によると、計測作業の安全性及び効率化が図られる。
【0003】
しかしながら、特許文献1の方法は法枠の出来形を計測するために特化した方法ではなく、より高精度で、かつ効率的な法枠工における3次元点群データの処理システムの開発が模索されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高精度で、効率的な法枠の3次元点群データ処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は、
法枠が構築された法面の3次元点群データを取得する取得手段と、
この取得手段で取得した元データを編集する編集手段とを有し、
この編集手段は、前記元データを三角形群データに変換する、
ことを特徴とする法枠の3次元点群データ処理システムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、高精度で、効率的な法枠の3次元点群データ処理システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0010】
本形態の処理システムは、例えば
図1に示すような法面Gに構築された法枠Fの出来形を算出するシステムである。本例において、法枠Fは、複数の縦梁F1及び複数の横梁F2によって格子状に構築されている。
【0011】
本形態の処理システムにおいては、法枠Fの構築された法面Gの3次元点群データを元データとして利用する。この3次元点群データは、例えば、地上型レーザー測量を行うことにより得ることができる。また、例えば、空中写真測量を行い、得られた画像データを3次元点群データに変換することで用意することができる。この3次元点群データに画像データから変換するにあたっては、例えば、Metashape、Pix4D等の市販ソフトを利用することができる。
【0012】
ここで、3次元点群データとは、処理の対象となる法枠F及びこの法枠Fが構築された法面Gに含まれる各構成要素の空間位置情報(3次元空間上に表現された位置情報)を表す点データの集合体である。
【0013】
図2に示すように、本形態の処理システムXは、以上のようにして用意した3次元点群データを元データとして取り込む取込手段100と、この取込手段100において取り込んだ元データを編集する編集手段200と、この編集手段200で編集した編集データから法枠Fの出来形を算出する算出手段300と、この算出手段300で算出したデータを出力する出力手段400とを有する。
【0014】
本形態の取込手段100は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等のデータ取込(入力)装置で構成される。
【0015】
本形態の編集手段200は、元データを三角形群データに変換する演算処理装置等の手段である。この変換にあたっては、例えば、Alpha shapes、Poisson surface reconstruction、Delaunay Triangulation等のアルゴリズムを利用することができる。ただし、ボール・ピボッティング・アルゴリズム(Ball Pivoting Algorithm)を利用するのが好ましい。
【0016】
この点、ボール・ピボッティング・アルゴリズムとは、元データ上において球(ボール)を転がすことで球及び元データが接する3接点の集合(3接点群)データを得、この3接点群データを三角形の集合(三角形群(TIN:triangulated irregular network)データに変換するアルゴリズムである。
【0017】
本アルゴリズムにおいては、例えば、まず、元データ上に球を落とす。これにより、球が元データに引っ掛かり、最初の三角形を形成する3点(頂点)が決まる。次に、最初の三角形のエッジ(辺)を超えるように球を転がす(ピボットする)。これにより、球は新しい場所で安定し、新たな三角形を形成する3点(頂点)が決まる。以上のピボットを繰り返し、編集の対象となる元データを覆うような三角形の集合(メッシュ)を形成する。本アルゴリズムを利用して元データを三角形群の集合(データ)に変換することで、法枠Fの出来形を算出するという点においては必要なデータを保持しつつも、データ量を大幅に減らすことができ、法枠Fの出来形を高精度で、かつ効率的に算出することができるようになる。
【0018】
ボール・ピボッティング・アルゴリズムをどのように利用するかについては、種々考えることができるが、以下の利用形態を推奨する。
まず、前提として、
図3,4に示すように(本説明においては、2次元的に示しているが実際には3次元である。)、ボール・ピボッティング・アルゴリズムにおける球を符号C1,C2で表す。そして、この球C1,C2を元データ10上において転がすことで球C1,C2及び元データ10が接する3接点の集合(3接点群)データを得、この3接点群データを結合する等して三角形群データL1,L2を得る。
【0019】
一方、三角形群データL1,L2を得るにあたっては、球を相対的に小さな球C1とすることで法枠F内が相対的に描かれる非凸形状三角形群データL1の作成と、球を相対的に大きな球C2とすることで法枠F内が相対的に描かれない凸形状三角形群データL2の作成とを行う。これは、転がす球の半径が小さければ元データ10と接する頻度が増すため短い線分の集合が得られ、法枠内の形状がより詳細に描かれたデータ(非凸形状三角形群データL1)が作成され、他方、転がす球の半径が大きければ(通常、縦梁F1や横梁F2の間隔よりも大きな球。)、法枠内の底の部分に接する前に隣接する縦梁F1や横梁F2の表面に接してしまうため、元データ10と接する頻度が減り、長い線分の集合が得られ、法枠内の形状が相対的に描かれない(法枠内が埋まった)データ(凸形状三角形群データL2)が作成されことによる。
【0020】
なお、以上において「相対的に」とは、2種類の球C1,C2や2種類のデータL1,L2をそれぞれ比較した場合において、他方より大きいか小さいか、あるいは詳細か否かを意味するものであり、絶対的なものではないとする趣旨である。また、以上では、転がす球が2種類であり、2種類のデータが作成されることを想定しているが、必要により2種類以上の複数種の球を利用し、複数種のデータを作成することもできる。
【0021】
以上のようにして作成した非凸形状三角形群データL1及び凸形状三角形群データL2は、これらを対照することで編集データを得る。具体的には、
図5に示すように、非凸形状三角形群データL1及び凸形状三角形群データL2を重ね合わせ、両三角形群データL1,L2の相違から法枠F(縦梁F1や横梁F2)の表面を算出する。つまり、法枠Fの表面(法枠自体)部分においては法枠Fの内側(枠内)FG部分におけるのと比べて2つの三角形群データL1,L2に大きな相違Dがないため、2つの三角形群データL1,L2の離間距離(D)を把握すれば、法枠Fの表面(の位置)を把握・算出することができるのである。
【0022】
以上のようにして算出した法枠Fの表面を示す編集データからは、好ましくは、梁長(梁延長)、枠中心間隔、枠幅、法長、延長、及び法枠面積の少なくともいずれか1種以上を算出し、この算出値を適宜出力する。この出力先は、例えば、ディスプレイ等の表示装置、印刷装置、USBメモリー等の記憶装置などである。
【0023】
法枠Fの表面を示す編集データから出来形を算出する方法は特に限定されないが、例えば、梁長を算出する場合であれば以下の方法(法枠の出来形算出方法)によることを推奨する。
すなわち、非凸形状三角形群データL1及び凸形状三角形群データL2から算出した法枠の表面データは複数の三角形(頂点の組合せ)で構成されるところ、この中には、
図6に示すように、梁間(図示例では横梁F2間。),に位置する頂点を含む三角形Tx等の解析を困難にする三角形が含まれる。そこで、まず、法枠F表面を構成する三角形の各辺(線分)から、隣り合う三角形が共有(重複)する線分を削除する。そして、この削除の後に残る線分を結合することで、法枠外周F3及び枠内形状F4を示す連続線をそれぞれ作成する。また、この連続線(線分の集合)の中で相互に隣接する線分がつくる角度が90°に近い場合、例えば、90±25°の場合は、当該相互に隣接する線分の共有点を隅角点11とし(
図7の(1)参照)、法枠外周F3及び枠内形状F4の各連続線から、隅角点11以外(不要な頂点14。
図7参照の(1)参照。)を削除した制約線分を作成する。
【0024】
続いて、例えば、制約条件付きDelaunay分割を利用する等して、隅角点11及び制約線分から三角形の集合を作成する。そして、各三角形の重心、法枠外周F3、枠内形状F4に基づき内外判定を行い、解析不要な三角形15を特定する(
図7の(2)参照)。具体的には、例えば、
図8に示すように、三角形f2は頂点p2,p4,p5、辺e3,e4,e5で構成され、三角形f1,f3と隣接し、辺e3,e5を共有するというように、頂点、辺、三角形の空間的位置関係を把握し、解析に不要な三角形15を除く法枠表面を構成する三角形を対象に、隣り合う三角形の個数等を求める。
【0025】
例えば、正方形に近い2つの三角形(3辺に接する)は、重複線分の中点から4辺の中点にそれぞれ中心線を作成する。2辺に接する三角形は、共有する辺の中点に中心線を作成する。1辺に接する三角形は、隣接三角形の接続状況を加味して中心線を作成する。なお、3辺に接する、2辺に接する、あるいは1辺に接するにおける「接する」とは、同一頂点を有する線分で三角形が隣接していることを意味する。
【0026】
そして、各条件で抽出した中心線を縦横の優勢度(軸との関係)や接続の直進性を加味して連結し、連続線に変換する。この連続線は、必要に応じてDouglasPeuckerアルゴリズム等を利用して頂点の間引きや連続線の平滑化を行う。このようにして得られた線分(枠中心線)FLや枠交点FCをもとに(
図9参照)、梁長等の出来形数量を算出する。
【0027】
ただし、隅角点11を取得した後の作業は、例えば、以下のように改良することができる。
すなわち、
図10に示すように、隅角点11,12において(端部の隅角点は符号12で示す。)、斜距離が短い4点(端部12の場合は2点。)の座標平均等から中心点11x,12xを求める。次に、
図11に示すように、この中心点11x,12xのうち中心点間を接続した線分が法枠外周(連続線)F3や、枠内形状(連続線)F4と交差しない条件や距離等で探索し、不要な線分13を把握することで梁長等の出来形を算出する。
【0028】
(その他)
以上のように出来形を算出するにあたっては、通常、精度管理や密度管理等も行うが、この管理は、演算処理の前に演算処理とは別に行うことができる。
【0029】
また、以下、出来形の算出について付言しておく。
梁長(梁延長)は、例えば、数量の把握、管理項目の計測頻度、枠内面積の算出、水切りボリュームの把握のために計測する。凹凸がある法面では、1本の梁を端部2か所を含む計測箇所を指定して細かく計測する必要がある。その際には1辺の長さを枠中心間隔の設計長以上にして連続計測した累積を1本の梁長として計測する。なお、連続計測時は法枠交点を指定するというようなルールはなく、例えば、法枠の形状を確認しながら、形状に沿うように交点以外に法面の折れ点を指定し、かつ枠間隔の設計値以上(例えば、設計長が2.0mの場合2.0m間隔以上)になるように計測する。そして、測定頻度は全ての梁となる。したがって、作業負荷が極めて大きく、本形態の処理システム・方法は、極めて有益である。
【0030】
枠中心間隔は、例えば、枠延長100mにつき1ヶ所、枠延長100m以下のものは1施工箇所につき2ヶ所の測定頻度となる。したがって、総延長980mの場合は10箇所となる。計測方法は、例えば、計測箇所の端部を構成する2箇所を計測し、法枠に対する点間距離を枠中心間隔とする。
【0031】
枠幅・枠の高さは、枠延長100mにつき1ヶ所、枠延長100m以下のものは1施工箇所につき2ヶ所の計測頻度である。計測方法は、例えば、計測箇所の法枠に直交する測線から±50mmの範囲内で、高さにおいては高さの端部を構成する2箇所の鉛直距離(高低差)を算出し、幅においては幅を構成する2箇所の水平距離を算出する。
【0032】
法長は、施工延長40mにつき1箇所、延長40m以下のものは1施工箇所につき2箇所の計測頻度である。計測方法は、梁長同様、1辺の長さを枠中心間隔以上にし、3次元座標を結んだ斜距離の累積を法長とする。例えば、測点箇所の横断図を作図し、横断図上で法枠の上端から下端までを形状に沿うように計測する。
【0033】
延長は、1施工箇所毎の計測頻度である。計測方法は、梁長同様、1辺の長さを枠中心間隔以上にし、3次元座標を結んだ斜距離の累積を延長とする。1本の横梁を端部から端部まで計測することになる。
【0034】
法枠面積は、例えば、数量の把握、枠内面積の算出等のために計測する。計測方法は、例えば、法枠表面の形状を面的に計測する。従来の方法においては、例えば、全ての交点を計測者が選択し、座標を取得する必要があり、梁長の次に作業負荷が大きい作業であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、法枠の3次元点群データ処理システムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 元データ
11,12 隅角点
11x,12x 隅角中心点
13 不要な線分
14 不要な頂点
15 不要な三角形
100 取込手段
200 編集手段
300 算出手段
400 出力手段
C1,C2 球(ボール)
D 離間距離(相違)
F 法枠
F1 縦梁
F2 横梁
F3 法枠外周
F4 枠内形状
FC 枠交点
FL 枠中心線
FG 枠内
G 法面
L1 非凸形状三角形群データ
L2 凸形状三角形群データ
Tx 解析を困難にする三角形
X 処理システム