(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062215
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】溶融浴の浴面高さの測定方法及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/04 20060101AFI20240430BHJP
C25C 3/20 20060101ALI20240430BHJP
C25C 7/08 20060101ALI20240430BHJP
G01F 23/284 20060101ALI20240430BHJP
G01F 23/2962 20220101ALI20240430BHJP
【FI】
C25C3/04
C25C3/20
C25C7/08 Z
G01F23/284
G01F23/2962
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170071
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松山 遼
【テーマコード(参考)】
2F014
4K058
【Fターム(参考)】
2F014AC06
2F014FB01
2F014FC01
4K058AA30
4K058BA05
4K058BB05
4K058CB03
4K058CB13
4K058CB17
4K058DD03
4K058FB02
4K058GA15
4K058GB37
(57)【要約】
【課題】溶融浴の浴面高さを良好に測定することができる測定方法及び、金属マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の測定方法は、溶融塩電解を行う電解槽2内の溶融浴Bmの浴面高さを測定する方法であって、非接触式レベル計6を用いて、溶融浴Bmと非接触で前記浴面高さの測定を行うというものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解を行う電解槽内の溶融浴の浴面高さを測定する方法であって、
非接触式レベル計を用いて、溶融浴と非接触で前記浴面高さの測定を行う、浴面高さの測定方法。
【請求項2】
前記非接触式レベル計が、レーダー式レベル計又は超音波式レベル計であり、
レーダー式レベル計又は超音波式レベル計により、溶融浴の浴面に向けて電磁波又は超音波を照射するとともに、前記電磁波又は超音波の前記浴面での反射波を検出し、該照射から検出までの時間に基づいて浴面高さを算出することを含む、請求項1に記載の浴面高さの測定方法。
【請求項3】
前記非接触式レベル計が、レーダー式レベル計である、請求項2に記載の浴面高さの測定方法。
【請求項4】
前記電解槽が内部に、隔壁で区画された回収室及び電解室を有し、
前記回収室内の溶融浴の浴面高さを測定する、請求項1に記載の浴面高さの測定方法。
【請求項5】
前記電解槽又は、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体に設置した前記非接触式レベル計を用いて、溶融浴の浴面高さを測定する、請求項1に記載の浴面高さの測定方法。
【請求項6】
塩化マグネシウムの溶融塩電解により、金属マグネシウムを製造する方法であって、
前記溶融塩電解の間、請求項1~5のいずれか一項に記載の浴面高さの測定方法を行う、金属マグネシウムの製造方法。
【請求項7】
前記溶融塩電解の間、前記溶融浴中に不活性ガスを供給しない、請求項6に記載の金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩電解を行う電解槽内の溶融浴の浴面高さを測定する方法及び、塩化マグネシウムの溶融塩電解により、金属マグネシウムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融塩電解は、たとえば金属マグネシウムの製造等に用いられる。金属マグネシウムの製造では、電解槽内に塩化マグネシウムを含む溶融塩を溜めて溶融浴とし、陽極と陰極との間に電圧を印加する。それにより、溶融浴中にて塩化マグネシウムの電気分解が行われ、金属マグネシウム及び塩素が得られる。
【0003】
溶融塩電解で製造された金属マグネシウムは、クロール法にて四塩化チタンを金属チタンに還元することに使用する場合がある。このとき、高純度の金属チタンを得るには、四塩化チタンの還元に使用する金属マグネシウムも、不純物含有量が十分に少なく純度が高いことが求められる。
【0004】
ところで、上記の溶融塩電解の間は、電気分解により溶融浴中の塩化マグネシウムが消費され、また溶融浴に塩化マグネシウムを補給すること等により、溶融浴の浴面高さが変動し得る。溶融浴の浴面高さに関し、特許文献1には、「溶融塩浴に浸漬させて配置されて内部に供給されたアルゴン等の圧力値から液面のレベルを測定する鋼製管状のレベル計」についての記載がある。
【0005】
また、特許文献2には、「浴面レベル維持のために浴面下に設置された容器状の構造物内に不活性ガスを供給し、また前記構造物内から不活性ガスを排出することにより、浴面レベルを調整する浴面調整装置を装備した溶融塩電解槽であって、前記構造物内へ不活性ガスを供給する不活性ガス供給系として、通常操業時に溶融塩の電解消費による浴面レベル低下を補う際に不活性ガス供給量を制御して浴面レベルの変動を抑制する精密制御系と、電解生成金属の汲み出し作業に伴う浴面レベルの異常低下時に不活性ガス供給量を急増させて浴面レベルを回復させる高速制御系とを具備する溶融塩電解槽」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-065355号公報
【特許文献2】特開2015-140459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶融浴の浴面高さを測定するには、レベル計としての不活性ガス供給管の先端側を溶融浴中に浸漬させ、そこから溶融浴中にアルゴン等の不活性ガスを供給することがある。ここでは、不活性ガスの供給により溶融浴中に気泡を発生させながら、その際の供給ガスの圧力値(背圧)をヘッド圧として計測し、当該圧力値から浴面高さを算出する。
【0008】
このようにして溶融浴中に不活性ガスを供給して浴面高さを測定すると、溶融塩電解で製造される金属マグネシウムの純度が低下することが新たにわかった。高純度の金属マグネシウムを製造するには、溶融浴中に不活性ガスを供給することなしに、溶融浴の浴面高さをある程度高い精度で測定できる手法が望まれる。
【0009】
この発明の目的は、溶融浴の浴面高さを良好に測定することができる測定方法及び、金属マグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の浴面高さの測定方法は、溶融塩電解を行う電解槽内の溶融浴の浴面高さを測定する方法であって、非接触式レベル計を用いて、溶融浴と非接触で前記浴面高さの測定を行うというものである。
【0011】
上記の測定方法では、前記非接触式レベル計が、レーダー式レベル計又は超音波式レベル計であり、レーダー式レベル計又は超音波式レベル計により、溶融浴の浴面に向けて電磁波又は超音波を照射するとともに、前記電磁波又は超音波の前記浴面での反射波を検出し、該照射から検出までの時間に基づいて浴面高さを算出することを含むことが好ましい。
【0012】
特に前記非接触式レベル計は、レーダー式レベル計であることが好適である。
【0013】
前記電解槽が内部に、隔壁で区画された回収室及び電解室を有することがある。この場合、上記の測定方法で、前記回収室内の溶融浴の浴面高さを測定することが好ましい。
【0014】
上記の測定方法では、前記電解槽又は、前記電解槽の開口部を覆蓋する蓋体に設置した前記非接触式レベル計を用いて、溶融浴の浴面高さを測定することが好ましい。
【0015】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、塩化マグネシウムの溶融塩電解により、金属マグネシウムを製造する方法であって、前記溶融塩電解の間、上記のいずれかの浴面高さの測定方法を行うというものである。
【0016】
上記の金属マグネシウムの製造方法では、前記溶融塩電解の間、前記溶融浴中に不活性ガスを供給しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、溶融浴の浴面高さを良好に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る浴面高さの測定方法を使用することができる溶融塩電解装置の一例を示す、溶融浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図3】溶融塩電解装置の他の例を示す、
図2と同様の断面図である。
【
図4】参考例の浴面高さの測定方法が行われる溶融塩電解装置を示す、溶融浴の深さ方向に沿う断面図である。
【
図5】実施例及び比較例の各方法で測定した浴面高さの経時的な変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る浴面高さの測定方法は、溶融塩電解を行う電解槽内の溶融浴の浴面高さを測定する方法である。
【0020】
この測定方法では、非接触式レベル計を用いて、当該レベル計を溶融浴と接触させずに、浴面高さの測定を行う。非接触式レベル計によれば、溶融浴と非接触で浴面高さを測定することができるので、その測定は溶融浴に実質的に影響を及ぼさない。それにより、この実施形態では、先述した従来技術の測定方法のように溶融浴中に不活性ガスを供給する場合の金属マグネシウムの純度の低下を抑制することができる。また、非接触式レベル計により、溶融浴の浴面高さを良好に測定することが可能である。
【0021】
なお、金属マグネシウムの製造では、電解槽内に塩化マグネシウムを含む溶融塩を溜めて溶融浴とし、当該溶融浴中にて塩化マグネシウムの電気分解(溶融塩電解)が行われ、金属マグネシウム及び塩素が得られる。上記の溶融塩電解の間は、電気分解により溶融浴中の塩化マグネシウムが消費され、また溶融浴に塩化マグネシウムを補給すること等により、溶融浴の浴面高さが変動し得る。本実施形態によれば、この測定方法を適用して、かかる溶融浴の浴面高さを測定し、その変動により浴面レベルの異常を検知して状況に応じて適切な対応を行うことができる。
【0022】
上記の測定方法は、一例として
図1に示す溶融塩電解装置1で使用することができる。ここでは、
図1の溶融塩電解装置1を用いて詳細な実施形態について説明するが、この発明は、
図1に示すものに限らず、種々の溶融塩電解装置で実施することが可能である。
【0023】
(溶融塩電解装置)
図示の溶融塩電解装置1は、内部を溶融浴Bmとする耐火煉瓦製で容器状の電解槽2と、電解槽2内の溶融浴Bm中に部分的に浸漬させる陽極3a及び陰極3bを含む電極3と、電解槽2の上方側の開口部を覆蓋する蓋体5とを備えるものである。
【0024】
ここで、この例では、電解槽2の内部に、実質的に深さ方向(
図1の上下方向)に沿って配置された隔壁4が設けられている。隔壁4により、電解槽2の内部は、
図1の右側に位置して電気分解が行われる電解室2aと、
図1の左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた金属マグネシウムが流れ込んで該金属マグネシウムが溶融塩との密度差により上方側に溜まる回収室2bとに区画されている。なお、蓋体5は、たとえば
図1に示すように、電解槽2における電解室2a側の開口部を覆う部分と回収室2b側の開口部を覆う部分とに分割されたものとすることがある。
【0025】
隔壁4は、図示の例では、蓋体5に近接させて上方側に配置されている。これにより、隔壁4と電解槽2の内部の底面との間に、回収室2bから電解室2aへの溶融浴Bmの移動を可能にする溶融塩循環路4aが形成される。また、隔壁4の溶融塩循環路4aよりも上方側の部分に設けた溶融金属流路4bにより、電解室2aから回収室2bへの金属マグネシウムの流入が可能になる。隔壁4は、
図1では左右二箇所に分かれて設置されているが、溶融塩循環路4a及び溶融金属流路4bを設けることができれば、その形状や個数等の構成を適宜変更することができる。
【0026】
またここで、電極3は、電解槽2の内部の電解室2a側に配置されており、溶融浴Bmの深さ方向と平行な向きで並んで配置された部分を有する。電極3には、図示しない電源等に接続される陽極3a及び陰極3bが含まれる。
【0027】
電極3は、少なくとも陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、溶融浴Bm中の塩化マグネシウムの電気分解を行うことができる。他方、電気分解の金属マグネシウム生成効率向上等の観点からは、
図2に示すところから解かるように、陽極3aと陰極3bとの間に、電源に接続されず陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する一枚以上、たとえば二枚の複極3cをさらに有することが好ましい。但し、このような複極3cは必ずしも必要ではない。
【0028】
図1及び
図2の溶融塩電解装置1は、いずれも板状の陽極3a、陰極3b及び複極3cを並べて配置したものであるが、
図3に示す形状及び配置の陽極13a、陰極13b及び複極13cを備える溶融塩電解装置11としてもよい。この溶融塩電解装置11は、溶融浴Bmの深さ方向に沿って電解槽12の内外に延びる四角柱等の柱状もしくは板状の陽極13aと、陽極13aの周囲を取り囲んで陽極13aから間隔をおいて配置した四角筒状等の角筒状の陰極13bと、陽極13aと陰極13bとの間に配置した角筒状の複極13cとを有するものである。また、図示は省略するが、電極は、円柱状の陽極並びに、円筒状の陰極及び複極を有するものとすることもできる。角筒状の複極13cや円筒状の複極は省略する場合がある。
図3の溶融塩電解装置11の陽極13a、陰極13b及び複極13c以外の構成については、
図1及び
図2の溶融塩電解装置1と実質的に同様とすることができるので、その詳細な説明は省略する。
図3の溶融塩電解装置1では、陽極13a、陰極13b及び複極13cを配置した電解室12aと、図示しない回収室とを区画する隔壁14が、陰極13bと並行に設けられている。
【0029】
なお、溶融塩電解装置1はさらに、図示しないが、回収室2b等に配置されて、溶融浴Bmの温度調整を行う熱交換器としての温度調整管等を備えることがある。
【0030】
主として溶融浴Bmを構成する溶融塩には、塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩が含まれ得る。この支持塩は、塩化マグネシウムと混合した際に晶出温度を低下させ、かつ、粘度を低下させる電解質を意味する。支持塩は具体的には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、フッ化マグネシウム(MgF2)及びフッ化カルシウム(CaF2)からなる群から選択される少なくとも一種とすることができる。晶出温度とは、二種類以上の電解質からなる溶融塩を液体の状態から温度を下げたときに、ある一種類の電解質成分が固体として析出し始める晶出という現象が起きる温度をいう。仮に溶融塩が一種類だけである場合、液体の状態から温度を下げたときに、凝固点で全体が固体となるため、晶出温度は凝固点、すなわち融点に相当する。なお、電気分解で塩化マグネシウムを優先的に分解させるため、支持塩としては、塩化マグネシウムより分解電圧が高い電解質を用いることが一般的である。
【0031】
溶融塩電解装置1を用いて行う溶融塩電解では、電解室2aでの塩化マグネシウムの電気分解により、MgCl2→Mg+Cl2の反応に基づいて、陰極3bの表面で還元反応により溶融金属である金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、陽極3aの表面で酸化反応により塩素(Cl2)ガスが発生する。
【0032】
より詳細には、溶融浴Bmの対流により、
図1に示すように、溶融塩が回収室2bから底部側の溶融塩循環路4aを経て電解室2aに流動する。電解室2aでは、溶融塩中の塩化マグネシウムが電気分解され、金属マグネシウムが生成される。そして、この金属マグネシウムは、隔壁4の浴面Sb側の溶融金属流路4bを通って回収室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい金属マグネシウムは、回収室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まる。回収室2bで浮上した金属マグネシウムは、図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、このような溶融塩電解によれば、金属マグネシウムを製造することができる。また、それとともに塩素ガスが得られる。
【0033】
溶融塩電解で生成された金属マグネシウムは、金属チタンを生産するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、チタン鉱石の塩化にそれぞれ用いることができる。溶融塩電解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
【0034】
上述した溶融塩電解装置1では、金属マグネシウムに限らず、金属アルミニウムや金属亜鉛を製造することもできる。また、溶融塩電解装置1を用いた溶融浴で製造された金属は、四塩化チタンに限らず金属塩化物の還元に使用することで、金属チタン以外に金属ジルコニウム、金属ハフニウム又は金属ケイ素の生産に用いることも可能である。
【0035】
(浴面高さの測定)
この発明の実施形態では、電解槽2内の溶融浴Bmの浴面高さを測定するに当たり、
図1に示すように、非接触式レベル計6を用いる。非接触式レベル計6を用いると、該レベル計を溶融浴と接触させずに、浴面高さを測定することができる。このことによれば、浴面高さの測定に際し、
図4に示すような不活性ガス供給管9のレベル計を用いる場合における溶融浴Bm中での気泡の発生(いわゆるバブリング)を伴わないので、溶融塩電解で製造される金属マグネシウムの純度の低下を抑制することができる。
【0036】
バブリングにより金属マグネシウムの純度が低下する理由は、必ずしも明らかではないが、溶融浴Bmの対流で電解槽2内を循環し又は電解槽2内の底部に沈降しているスラッジが、バブリングによって流れの変化を生じ又は巻き上げられて金属マグネシウムに混入することによるものと推測される。バブリングを行うと、溶融塩電解で製造される金属マグネシウムの特にニッケル含有量が有意に増大することがある。このニッケルは、四塩化チタンの還元で副次的に生成された塩化マグネシウムに対して溶融塩電解を行った場合に、その還元に用いられた容器の材質に由来し、当該塩化マグネシウムとともに電解槽2内に持ち込まれてスラッジに含まれたものと考えられる。
【0037】
この実施形態では、非接触式レベル計6を用いるので、不活性ガスを供給することを要しない。これにより、溶融浴Bmの対流等に影響を及ぼさずに、浴面高さを測定することができる。その結果として、溶融塩電解で金属マグネシウムを製造する際に、浴面高さの測定時のバブリングによる金属マグネシウムの純度低下が抑制される。また、金属マグネシウムを製造する溶融塩電解の間は、浴面高さの測定に限らず、それ以外の目的であっても、溶融浴Bm中に不活性ガスを供給しないこと(つまり、不活性ガスでバブリングを生じさせないこと)が好ましい。これにより、さらに純度の高い金属マグネシウムを製造することができる。
【0038】
非接触式レベル計6としては、溶融塩電解で金属マグネシウムを製造する際に浴面高さを測定することが可能な種々のものを使用することができる。具体的には、例えば、レーダー式レベル計や超音波式レベル計が挙げられる。特に、電磁波を使用するレーダー式レベル計は、電解槽2内の雰囲気の影響を受けずに測定が可能であることから好ましい。電磁波のなかでもマイクロ波を照射及び検出するレーダー式レベル計が好適に使用可能である。
【0039】
レーダー式レベル計もしくは超音波式レベル計の非接触式レベル計6は、浴面Sbに向けて電磁波もしくは超音波を照射し、その電磁波もしくは超音波が浴面Sbで反射することによる反射波を検出する。そして、TOF(Time оf Flight)方式では、非接触式レベル計6で電磁波もしくは超音波を照射したときから、非接触式レベル計6で反射波が検出されるときまでにかかった時間より、非接触式レベル計6と浴面Sbとの間の距離を求めることがある。具体的には、照射から検出までの時間(伝搬時間)の半分に、電磁波もしくは超音波の速度を乗じることで、非接触式レベル計6と浴面Sbとの間の距離が求められる。あるいは、位相差検出方式であれば、照射波と反射波との位相差から、浴面Sbとの間の距離を算出する。あるいは、三角測量法を用いて、浴面Sbとの間の距離を算出するものであってもよい。このようにして浴面高さが算出される。
【0040】
上述したなかでも、溶融塩電解における溶融浴Bmの浴面高さの測定には、TOF方式が好ましい。溶融塩電解装置1は、たとえば内部に発生する塩素の漏出を抑制するため、内部の高い気密性を確保する必要があるところ、TOF方式の非接触式レベル計6によれば、蓋体5の貫通穴等の狭い場所であってもそれを介して測定をすることが可能である。また、TOF方式の非接触式レベル計6は、溶融浴Bmの浴面に波が起こったとしても、浴面高さを比較的高い精度で測定することができる。
【0041】
溶融浴Bmの浴面高さの測定は、
図1に示すように、回収室2b内で行うことが好ましい。電解室2aでは、塩素ガスの発生等により浴面Sbの変動が大きく、浴面高さを適切に測定することが困難である場合があるからである。たとえば溶融塩電解の開始時や、回収室2b内の金属マグネシウムの回収直後には、回収室2b内の浴面Sbには溶融塩が存在することがある。あるいは、溶融塩電解が進行し、回収室2b内に金属マグネシウムが蓄積した際には、回収室2b内の浴面Sbには溶融状態の金属マグネシウムが存在し得る。回収室2b内での浴面高さの測定は、浴面Sbに溶融塩又は金属マグネシウムのいずれが存在するかにかかわらず、回収室2b内の溶融浴Bmの浴面Sbに対して行われる。
【0042】
浴面高さの測定を行う非接触式レベル計6としてのレーダー式レベル計又は超音波式レベル計は、電磁波又は超音波を溶融浴Bmの浴面Sbに照射すること、及び、浴面Sbでのその反射波を検出することが可能であれば、溶融浴Bmに接触しない任意の場所に設置することができる。非接触式レベル計6は、浴面Sbの上方側に位置する蓋体5に設置することが、取扱いを容易にして高精度の測定を行い得ることから好ましい。
図1に示すところでは、蓋体5の、回収室2b側の開口部を覆う部分上に、非接触式レベル計6を設置している。より詳細には、たとえば非接触式レベル計6がレーダー式レベル計である場合、蓋体5に貫通穴を形成し、その貫通穴を、電磁波や反射波が通過可能なバイコール等のガラス板7で密閉することができる。非接触式レベル計6は、ガラス板7を介して電磁波を浴面Sbに向けて照射できるように、ガラス板7上に設けた設置台8に取り付けることができる。蓋体5の貫通穴をガラス板7で密閉することにより、電解槽2内からの塩素ガスの漏出を抑制できる他、溶融浴Bmの熱に対する断熱効果も得られる。但し、非接触式レベル計6は、電解槽2の任意の場所に設置してもよい。
【0043】
上述したような浴面高さの測定は、金属マグネシウムを製造するための溶融塩電解の間に行うことができる。溶融塩電解の間は、浴面高さを連続的もしくは定期的に測定することが望ましい。それにより、溶融浴Bm中の塩化マグネシウムの残留量等を把握することができる。
【実施例0044】
次に、この発明の浴面高さの測定方法を試験的に実施したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されるものではない。
【0045】
図1及び2に示すような構成を備える溶融塩電解装置を用いて溶融塩電解を行い、その間に回収室内の溶融浴の浴面高さを連続的に測定した。この溶融塩電解装置の電解槽は、内壁がAl
2O
3を含む煉瓦からなり、電解室と回収室を備えたものある。電解室側には、複数の黒鉛製の陽極及び、複数の鋼製の陰極を設置し、陽極と陰極の間にはそれぞれ複数の黒鉛製の複極を配置した。溶融浴の溶融塩は、MgCl
2を15質量%~25質量%含み、支持塩としてCaCl
2及びNaClを含むものとした。溶融浴の温度は660℃~690℃程度であった。
【0046】
実施例では、溶融浴の浴面高さの測定は、
図1に示すように、蓋体の、回収室側の開口部を覆う部分上に設置したレーダー式レベル計(VEGA社製のPULS62)を用いて行った。このレーダー式レベル計は、電磁波であるマイクロ波を照射するとともに、対象物でのその反射波を検出し、マイクロ波の照射と反射波の検出との間の時間から、対象物までの距離を測定するものである。
【0047】
また、比較例として、実施例の上記レーダー式レベル計による浴面高さの測定に替えて、
図4に示すような不活性ガス供給管を有するレベル計(Ar式レベル計)を用いて、溶融浴中にアルゴンガスを供給してバブリングを行いながら浴面高さを測定した。比較例は、浴面高さの測定方法を除いて、実施例と実質的に同じ条件とした。
【0048】
実施例及び比較例の各測定方法による浴面高さの経時変化の測定結果を、
図5に示す。
図5からわかるように、レーダー式レベル計によると、浴面高さを、Ar式レベル計による測定と同程度に高精度に測定することが可能であった。
なお、測定結果を図示しないが、上記実施例のように溶融塩電解の間におけるレーダー式レベル計での浴面高さの測定を、「連続的」ではなく「定期的」に行った場合であっても、Ar式レベル計による測定と同程度に高精度に測定することが可能であった。
【0049】
また、上記の実施例及び比較例のそれぞれについて、溶融塩電解で得られた金属マグネシウムのサンプルを採取し、その成分をICP発光分析装置(株式会社日立ハイテク製のPS3520UVDDII)で測定することを、所定の期間にわたって継続して行った。
【0050】
その結果、上記期間に実施例で得られた金属マグネシウムのニッケル含有量の平均値は質量基準で、比較例の同様の平均値に対して47%低下していた。このことから、実施例では、上記レーダー式レベル計による溶融浴の浴面高さの測定に際してバブリングを行わなかったことにより、溶融塩電解の間は溶融浴中に不活性ガス(Arなど)が供給されず、溶融塩電解で得られる金属マグネシウムのニッケル含有量の増大が抑えられたと推測される。
【0051】
以上より、この発明の浴面高さの測定方法によれば、溶融浴の浴面高さを良好に測定できることがわかった。