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特開2024-62228被処理水の処理方法、キレート剤由来物質の分解装置および浄化処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062228
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】被処理水の処理方法、キレート剤由来物質の分解装置および浄化処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20240430BHJP
【FI】
C02F1/461 101C
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170091
(22)【出願日】2022-10-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第32回廃棄物資源循環学会 研究発表会(開催日:令和3年10月25日~27日) https://www.heigensha.co.jp/jwma/43rd/program/,https://www.heigensha.co.jp/jwma/43rd/program/084/(ウェブサイトの掲載日:令和3年11月16日) 第32回廃棄物資源循環学会 研究発表会講演集(発行日:令和3年12月27日) 第43回全国都市清掃研究・事例発表会(開催日:令和4年1月25日~27日) 福岡大学 産学官連携研究機関 資源循環・環境制御システム研究所 令和3年度研究成果報告(開催日:令和4年6月23日) 第33回廃棄物資源循環学会 研究発表会 講演原稿(令和4年8月29日) 第33回廃棄物資源循環学会 研究発表会(開催日:令和4年9月20日~22日)
(71)【出願人】
【識別番号】512048594
【氏名又は名称】特定非営利活動法人環境技術支援ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 壯太郎
(72)【発明者】
【氏名】劉 佳星
(72)【発明者】
【氏名】為,田 一雄
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA08
4D061DB19
4D061DC06
4D061DC09
4D061EA03
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB14
4D061EB16
4D061EB17
4D061EB19
4D061EB37
4D061EB39
4D061GA06
4D061GC14
(57)【要約】
【課題】被処理水中に含まれるジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解することができる、被処理水の処理方法を提供する。
【解決手段】ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤と塩化物イオンとを含む被処理水Wbの処理方法であって、陽極室12と陰極室14と陽極室12および陰極室14の間に設けられた中間室16とを有する反応槽10の中間室16に被処理水Wbを通液しながら、陽極室12と陰極室14との間に電圧を印加し、被処理水Wb中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解する分解工程を有する、被処理水の処理方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤と塩化物イオンとを含む被処理水の処理方法であって、
前記被処理水を通電して、前記被処理水中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解し、処理水を得る分解工程を有する、被処理水の処理方法。
【請求項2】
前記被処理水中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分を、それぞれ、50%以上分解する、請求項1に記載の被処理水の処理方法。
【請求項3】
前記分解工程が、陽極部と、陰極部と、前記陽極部および前記陰極部に接し、イオン交換膜で仕切られていない流路とを有する反応槽の前記流路に前記被処理水を通液するとともに、前記陽極部と前記陰極部との間に電圧を印加して分解を行う工程である、請求項1または2に記載の被処理水の処理方法。
【請求項4】
前記分解工程に供される前記被処理水の前記キレート剤の濃度が50~500ppmであり、前記塩化物イオンの濃度が0.5~3質量%である、請求項1または2に記載の被処理水の処理方法。
【請求項5】
前記被処理水が、廃棄物の最終処分場から排出される浸透水および/または海面処分場から排出される余水である、請求項1または2に記載の被処理水の処理方法。
【請求項6】
前記分解工程の前に、前記被処理水中のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液を調整するカルシウム除去工程を有する、請求項5に記載の被処理水の処理方法。
【請求項7】
被処理水中のジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解するキレート剤由来物質の分解装置であって、
陽極部と、陰極部と、前記陽極部および前記陰極部に接し、前記被処理水が流れる流路と、を有する反応槽と、
前記陽極部と前記陰極部との間に電圧を印加する電源と、を備えたキレート剤由来物質の分解装置。
【請求項8】
前記流路が、イオン交換膜で仕切られていない、請求項7に記載のキレート剤由来物質の分解装置。
【請求項9】
廃棄物の最終処分場から排出される浸透水および/または海面処分場から排出される余水の浄化処理システムであって、
前記浸透水および/または前記余水を貯留する原水槽と、
前記浸透水および/または前記余水中のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液を調整するカルシウム除去設備と、
前記低濃度カルシウム溶液中のジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解する請求項7または8に記載のキレート剤由来物質の分解装置と、を備えた浄化処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水の処理方法、キレート剤由来物質の分解装置および浄化処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
国土が狭く、最終処分場用地の確保が極めて困難な我が国においては、焼却等中間処理の導入により減容化、無害化、資源化を行った後、残渣を埋立て処分している。その結果、一般廃棄物においては最終処分される廃棄物の80%程度を焼却残渣が占めるようになった。焼却残渣のうち、飛灰は特別管理一般廃棄物であるためPb等の溶出防止のため有機キレート剤処理を中心とした不溶化処理を行ったのちに埋立て処分されている。
【0003】
埋め立てられた廃棄物の層に雨水などが浸透することで、廃棄物やその処理剤に由来する様々な有機物・無機物が溶出した浸出水(浸透水)が発生する。これらの溶出した成分を除去するために、浸出水は浄化処理システムで浄化処理された後、河川などの公共水域に放出されている(特許文献1)。図4は、一般的な浸出水の浄化処理システムの一例である。このように、浸出水の浄化処理システムでは、通常、カルシウム除去(Ca除去)の後、生物的処理、凝集沈殿処理、砂ろ過処理、活性炭処理等が行われ、浸出水中CODや、BOD、窒素成分などが除去されている。
【0004】
しかし、キレート剤処理を行った飛灰を埋め立てると、浸出水中に残留キレート剤や、キレート剤由来のCOD成分や窒素成分が溶出してくる。これらは、難分解性であるため、浸出水浄化処理プロセスにおいて処理阻害を引き起こしたり、硝化阻害を引き起こしたりすることが確認されており、適正な浸出水浄化処理を行う上で障害となっている。
【0005】
飛灰用の有機キレート剤(重金属捕捉剤)としては、ジチオカルバミン酸系キレート剤(アルキルアミン系ジチオカルバミン酸化合物)や、ピペラジン系キレート剤(ピペラジン系ジチオカルバミン酸化合物)のようなジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤が広く用いられている。これらの残留キレートについてはオゾン処理や促進酸化法による分解が可能であることが実験的に確認されている(非特許文献1)。また、活性炭による吸着や逆浸透膜法(Reverse Osmosis Membrane Method, 以下RO)により、キレート剤を分離できることが確認されている(非特許文献2,3)が分解は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-277492号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】宋雨霖:排ガス処理薬剤や飛灰処理キレートが埋立管理に与える影響と対策に関する研究,pp51-64(2019)
【非特許文献2】内田正信,樋口壯太郎,為田一雄:残留キレートに対する活性炭処理の適応性,第31回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集,pp369-370(2020)
【非特許文献3】花嶋孝生他:逆浸透膜処理による残留キレート除去,第31回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集,pp359-360(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、オゾン処理や促進酸化法による残留キレートの分解では、キレート剤由来のCOD成分や窒素成分の分解は困難であった。また、活性炭による吸着や逆浸透膜法は、分離後に、分離されたキレート剤をさらに処理する必要があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被処理水中に含まれるジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、キレート剤に由来するCOD成分およびキレート剤に由来する窒素成分(以下、「キレート剤由来物質」という場合がある。)のそれぞれの少なくとも一部を分解することができる、被処理水の処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、被処理水中に含まれるキレート剤由来物質を分解することができる、キレート剤由来物質の分解装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、キレート剤由来物質を含む浸出水および/または余水を浄化処理することができる、浄化処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0011】
<1> ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤と塩化物イオンとを含む被処理水の処理方法であって、前記被処理水を通電して、前記被処理水中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解し、処理水を得る分解工程を有する、被処理水の処理方法。
<2> 前記被処理水中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分を、それぞれ、50%以上分解する、前記<1>に記載の被処理水の処理方法。
<3> 前記分解工程が、陽極部と、陰極部と、前記陽極部および前記陰極部に接し、イオン交換膜で仕切られていない流路とを有する反応槽の前記流路に前記被処理水を通液するとともに、前記陽極部と前記陰極部との間に電圧を印加して分解を行う工程である、前記<1>または<2>に記載の被処理水の処理方法。
<4> 前記分解工程に供される前記被処理水の前記キレート剤の濃度が50~500ppmであり、前記塩化物イオンの濃度が0.5~3質量%である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
<5> 前記被処理水が、廃棄物の最終処分場から排出される浸透水および/または海面処分場から排出される余水である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
<6> 前記分解工程の前に、前記浸出水中のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液を調整するカルシウム除去工程を有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0012】
<7> 被処理水中のジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解するキレート剤由来物質の分解装置であって、陽極部と、陰極部と、前記陽極部および前記陰極部に接し、前記被処理水が流れる流路と、を有する反応槽と、前記陽極部と前記陰極部との間に電圧を印加する電源と、を備えたキレート剤由来物質の分解装置。
<8> 前記流路が、イオン交換膜で仕切られていない、前記<7>に記載のキレート剤由来物質の分解装置。
【0013】
<9> 廃棄物の最終処分場から排出される浸透水および/または海面処分場から排出される余水の浄化処理システムであって、前記浸透水および/または前記余水を貯留する原水槽と、前記浸透水および/または前記余水中のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液を調整するカルシウム除去設備と、前記低濃度カルシウム溶液中のジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解する前記<7>または<8>に記載のキレート剤由来物質の分解装置と、を備えた浄化処理システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被処理水中に含まれるジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解することができる、被処理水の処理方法が提供される。また、被処理水中に含まれるジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤、キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解することができる、キレート剤由来物質の分解装置が提供される。さらに、これらキレート剤由来物質を含む浸透水および/または余水を浄化処理することができる、浄化処理システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】キレート剤由来物質の分解装置の一例を示す模式図である。
図2】浸出水の浄化処理システムの模式図の一例である。
図3】浸出水を浄化処理する方法のフロー図の一例である。
図4】一般的な浸出水の浄化処理システムの模式図の一例である。
図5】実施例で用いた実験装置の反応室の構成を説明するための図である。
図6】実施例で用いた実験装置の模式図である。
図7】実施例で用いたガス洗浄瓶の概略図である。
図8】処理前の各被処理水のPIP系キレート剤の濃度と、分解処理によるキレート剤の分解率との関係をプロットした図である。
図9】処理前の各被処理水のDTC系キレート剤の濃度と、分解処理によるキレート剤の分解率との関係をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0017】
<被処理水の処理方法>
本発明は、ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤と塩化物イオンとを含む被処理水の処理方法であって、前記被処理水を通電して、前記被処理水中の前記キレート剤、前記キレート剤に由来するCOD成分および前記キレート剤に由来する窒素成分のそれぞれの少なくとも一部を分解し、処理水を得る分解工程を有する、被処理水の処理方法(以下、「本発明の処理方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0018】
上記の通り、ピペラジン系キレート剤やジチオカルバミン系キレート剤といった有機キレート剤は、難分解性有機物として知られている。本発明者らは、このような有機キレート剤を含む被処理水に電気を流すことで、有機キレート剤を効率的に分解でき、さらに、有機キレート剤由来のCOD成分や有機キレート剤由来の窒素成分も分解できるという知見を得た。有機キレート剤やキレート剤由来のCOD成分、窒素成分は、N2やCO2などのガスにガス化し除去されていると推察される。
【0019】
本発明のような処理方法とすることで、ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤に加えて、COD成分や窒素成分を効率的に分解することができる。なお、CODとは、化学的酸化要求量(Chemical Oxygen Demand)を意味し、COD成分とは、COD分析において測定される成分を意味する。また、窒素成分は、全窒素(T-N)分析において測定される成分を意味する。
【0020】
(被処理水)
本発明の処理方法にて処理される被処理水は、ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤と塩化物イオンとを含む水溶液であり、廃棄物の最終処分場(内陸処分場や海面処分場)からの浸透水(浸出水)や、海面処分場における余水、工場等からの排水などが挙げられる。
【0021】
ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤は、「N-(C=S)-S」で表される構造を含む化合物である。このような化合物は、アミンまたはピペラジンと、二硫化炭素とを反応させることで得ることができ、キレート剤として、脂肪族アミン系ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩;芳香族アミン系ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩;ポリアミン系ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩;ポリアミン系ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩;ピペラジン系ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上含まれてもよい。
【0022】
例えば、キレート剤として、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。式(1)で表される化合物は、二価の金属イオンと反応してキレート錯体を形成するキレート剤であり、ジチオカルバミン酸系キレート剤(DTC系キレート剤)と言われることもある。
【0023】
【化1】
【0024】
式(1)中、R1、R2はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。R1、R2で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等の炭素数1~5の直鎖、分岐又は環状アルキル基等が挙げられる。また、Mで表されるアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等が挙げられる。
【0025】
式(1)で表せるキレート剤としては、具体的には、ジチオカルバミン酸系キレート剤としては、カリウム-ジエチルアミン-N-カルボジチオアートやナトリウム-ジエチルアミン-N-カルボジチオアート等が挙げられる。
【0026】
また、キレート剤として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。式(2)で表される化合物は、二価の金属イオンと反応してキレート錯体を形成するキレート剤であり、ピペラジン系キレート剤(PIP系キレート剤)と言われることもある。
【0027】
【化2】
【0028】
式(2)中、Mはアルカリ金属またはアンモニウムを表す。Mで表されるアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウム等が挙げられる。
【0029】
式(2)で表されるキレート剤としては、具体的には、ピペラジン系キレート剤としては、ジカリウム-ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアートやジナトリウム-ピペラジン-1,4-ジカルボジチオアート等が挙げられる。
【0030】
分解工程では、被処理水に電気を流すため、被処理水の塩化物イオンの濃度は0.5質量%以上(5000ppm以上)であることが好ましい。そのため、被処理水の塩化物イオンの濃度が0.5質量%未満である場合、被処理水は、塩化物イオンの濃度を0.5質量%以上に調整した後、分解工程に供給されることが好ましい。調整する塩化物イオンの濃度の上限は、塩の析出などを考慮して適宜設定されるが、被処理水は、塩化物イオンの濃度を0.5~3質量%に調整した後、分解工程に供給することがより好ましい。塩化物イオンの濃度の調整には、NaClを用いることが一般的である。塩化物イオンの濃度は、塩分濃度で換算し、調整してもよい。
【0031】
被処理水の塩化物イオンの濃度が0.5質量%以上である場合は、そのまま分解工程に供給することができる。一方で、塩化物イオンの濃度が高すぎると処理中に塩が析出するおそれがあるため、分解工程に供される際の被処理水の塩化物イオンの濃度は0.5~3質量%であることが好ましい。そのため、被処理水の塩化物イオンの濃度が3質量%超である場合には、被処理水を塩化物イオンの濃度を0.5~3質量%に調整した後、分解工程に供給することが好ましい。
【0032】
塩化物イオンの濃度が0.5質量%以上の被処理水としては、最終処分場における浸透水や海面処分場における余水などが挙げられる。上記の通り、最終処分場に埋め立てられる廃棄物として、飛灰が大きな割合を占めている。また、海面処分場では海水にさらされている。そのため、浸透水や余水には、塩化物イオンや、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどが高濃度で含まれている。
【0033】
分解工程に供される被処理水中のキレート剤の濃度は、特に制限なく、1000ppm以下や、800ppm以下などとしてもよいが、キレート剤の濃度が高すぎると、キレート剤の分解率が低下する傾向にある。そのため、キレート剤の濃度を500ppm以下に調整して分解工程に供給することが好ましく、300ppm以下、250ppm以下、200ppm以下の順でより低い濃度に調整して分解工程に供給することがより好ましい。また、キレート剤の濃度が低すぎる場合も、キレート剤の分解率が低下する傾向にあるため、キレート剤の濃度は、50ppm以上とすることが好ましく、100ppm以上とすることがより好ましい。
【0034】
例えば、焼却施設で飛灰に添加されるキレート剤量などにもよるが、一般的に、浸透水や余水中には10~500ppmのキレート剤が含まれている。これらを処理する場合には、そのまま分解工程に供してもよいが、適宜、キレート剤の濃度を調製して分解工程に供してもよい。
【0035】
(分解装置)
まず、本発明の処理方法の分解工程を行うことができるキレート剤由来物質の分解装置(以下、単に、「分解装置」と記載する場合がある。)について説明する。キレート剤由来物質の分解装置は、反応槽および電源を備える。反応槽は、陽極部と、陰極部と、陽極部および陰極部に接し、被処理水が流れる流路とを有するものである。また、電源は、陽極部と陰極部の間に電圧を印加し、流路を流れる被処理水に通電する。
【0036】
図1は、キレート剤由来物質の分解装置の一例を示す模式図である。図1に示す分解装置100は、被処理水Wbに通電する反応槽10と、電圧を印加するための電源20と、電極液貯留槽30と、電極液循環手段32を備える。
【0037】
(反応槽)
反応槽10は、陽極部として陽極室12を有し、陰極部として陰極室14を有し、流路として、陽極室12と陰極室14との間に設けられた中間室16を有する。すなわち、反応槽10は、流路内部がイオン交換膜(隔膜)で仕切られていない反応槽の例であり、陽極室12と陰極室14と中間室16からなる3室型の反応槽である。
【0038】
(陽極室)
陽極室12は、仕切板12Bにより中間室16と仕切られた、陽極12Aが配設された部分であり、供給口12iおよび排出口12oを有する。供給口12iは、電極液貯留槽30の流出口30oと循環管40を介して連通されており、排出口12oは、供給口14iに循環管40を介して連通されている。被処理水Wbを処理する際には、電極液貯留槽30の電極液Sが供給口12iから供給される。陽極12Aには、チタン白金電極などを用いることができる。仕切板12Bは、厚み方向に貫通した開口部12bを有する絶縁性部材であり、開口部12bの陽極室12側の端部は陽極12Aに覆われている。
【0039】
(陰極室)
陰極室14は、仕切板14Bにより中間室16と仕切られた、陰極14Aが配設された部分であり、供給口14iおよび排出口14oを有する。供給口14iは、排出口12oと循環管40を介して連通されており、排出口14oは、電極液貯留槽30の流入口30iに循環管40を介して連通されている。被処理水Wbを処理する際には、排出口12oから排出された電極液Sが供給口14iから供給される。陰極14Aには、チタン白金電極などを用いることができる。仕切板14Bは、厚み方向に貫通した開口部14bを有する絶縁性部材である。開口部14bは、開口部12bと対向しており、陰極室14側の端部は陰極14Aに覆われている。
【0040】
(中間室)
中間室16は、陽極室12側の仕切板12Bと陰極室14側の仕切板14Bの間の部分であり、供給口16iおよび排出口16oを有する。中間室16の幅(陽極12Aと陰極14Aとの間の距離)は、0.5~1cm程度である。被処理水Wbは、供給口16iから供給され、中間室16内の電極と接触する領域(開口部12bと開口部14bで挟まれた領域)を通過するときに通電されることで、被処理水Wb中に含まれるピペラジン系キレート剤および/またはジチオカルバミン酸系キレート剤や、それに由来するCOD成分、窒素成分の分解処理が行われ、処理された処理水Waが、排出口16oから排出される。
【0041】
(電極液貯留槽、電極液循環手段)
電極液貯留槽30は、陽極室12および陰極室14に供給される電極液Sを貯留する槽であり、循環管40を介して、陽極室12および陰極室14に接続されている。循環管40の途中には電極液循環手段32(例えば、ポンプ)が設けられている。電極液貯留槽30、陽極室12、陰極室14、循環管40および電極液循環手段32は、電極液貯留槽30の電極液Sが、陽極室12を通った後に、陰極室14を通って、電極液貯留槽30に戻る循環経路を形成しており、被処理水Wbを処理する際には、電極液循環手段32により電極液Sは循環させられる。
【0042】
また、反応槽10や電極液貯留槽30は、キレート剤やそれに由来するCOD、窒素成分の分解により生じたガスを排出するガスの排出口を有してもよい。
【0043】
(電源20)
電源20は、陽極12Aと陰極14Aとの間に電圧を印加する手段である。電源20は、定電流電源であっても、定電圧電源であってもよい。また、電流計や電圧計を備えたものとし、電圧を適宜調整してもよい。
【0044】
なお、キレート剤由来物質の分解装置は、ショートパスを防げる構成であればよく、分解装置100に限定されない。例えば、陽極室と中間室とがイオン交換膜で仕切られ、陰極室と中間室がイオン交換膜で仕切られた構成などであってもよく、反応槽として、3室型の電解槽などのように電気分解の分野で使用されている反応槽を用いてもよい。また、仕切りがない構成としてもよい。
【0045】
(分解工程)
次に、本発明の処理方法の分解工程について、分解装置100を用いた場合を例として説明する。
【0046】
分解工程では、陽極室12(陽極部)と陰極室14(陰極部)との間に電圧を印加しつつ、中間室16(陽極部および陰極部に接し、イオン交換膜で仕切られていない流路)に、被処理水Wbを通水して、被処理水Wb中のキレート剤由来物質(すなわち、キレート剤、キレート剤に由来するCODおよびキレート剤に由来する窒素成分)を分解する。
【0047】
具体的には、電極液Sを、電極液循環手段32により、電極液貯留槽30、陽極室12および陰極室14の間で循環させ、電源20より陽極12Aと陰極14Aの間に電圧を印加しつつ、被処理水Wbを供給口16iより供給することで、中間室16内で被処理水Wb中のキレート剤由来物質が分解される。電極液Sとしては、硫酸ナトリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができ、硫酸ナトリウム水溶液が好ましい。
【0048】
通電条件は、分解装置の構成に応じて適宜設定されるものであるが、電圧は、1.0~25.0Vや、5.0~20.0V、9.0~15.0Vなどとすることができる。電流値は、1.0~10Aや、2.0~8.0A、3.0~5.0Aなどとすることができる。電流密度は、0.02~0.2A/cm2や、0.04~0.15A/cm2、0.08~0.1A/cm2などとすることができ、0.04A/cm2以上や0.08A/cm2以上が好ましい。処理時間(陽極と陰極とで挟まれた電気が流れる領域における滞留時間)は、30~60分や、40~50分とすることができる。
【0049】
中でも、被処理水のキレート剤の濃度を50~500ppmに、塩化物イオンの濃度を0.5~3質量%に調整し、電極液として硫酸ナトリウム水溶液を用いて、電流密度0.04A/cm2以上で分解工程を行うことが好ましい。
【0050】
本発明の処理方法における分解工程では、キレート剤の分解率50%以上や、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%などを達成することができる。キレート剤の分解率(除去率)は、「(被処理水中のキレート剤の質量-処理水中のキレート剤の質量)/被処理水中のキレート剤の質量×100(%)」で求めることができる。この分解工程により、例えば、銅比濁法で測定した際の処理水中のキレート剤の濃度を、10ppm以下や、5ppm以下、1ppm以下、検出限界以下まで低減させることができる。
【0051】
また、本発明の処理方法における分解工程では、被処理水中のCOD成分を除去することができ、分解工程におけるCODの分解率50%以上や、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%などを達成することができる。COD分解率(除去率)は、「(被処理水中のCOD-処理水中のCOD)/被処理水中のCOD×100(%)」で求めることができる。なお、CODは、JIS K 0102(2019)の工場排水試験法に基づいて過マンガン酸カリウム法により測定することができる。
【0052】
また、本発明の処理方法における分解工程では、被処理水中のTOC成分を除去することができ、分解工程におけるTOC除去率50%以上や、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%などを達成することができる。TOC分解率(除去率)は、「(被処理水中のTOC-処理水中のTOC)/被処理水中のTOC×100(%)」で求めることができる。なお、TOCとは、全有機体炭素(Total Organic Carbon)を意味し、TOC成分とは、TOC分析において測定される成分を意味する。TOCは、JIS K 0102(2019)の工場排水試験法に基づいて、燃焼酸化-赤外線式TOC分析法により測定することができる。
【0053】
また、本発明の処理方法における分解工程では、被処理水中の窒素成分を除去することができ、分解工程における窒素除去率50%以上や、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%などを達成することができる。窒素分解率(除去率)は、「(被処理水中の全窒素-処理水中の全窒素)/被処理水中の全窒素×100(%)」で求めることができる。なお、全窒素(T-N)は、JIS K 0102(2019)の工場排水試験法に基づいて紫外線吸光光度法で測定することができる。
【0054】
(浄化処理システム)
次に、本発明の処理方法を利用した浄化処理システムの例として、図2、3に基づいて、浸透水(浸出水)を浄化処理する方法および浄化処理システムについて説明する。図2は、浸透水の浄化処理システムの模式図の一例であり、図3は、浸透水を浄化処理する方法のフロー図の一例である。本発明の処理方法を利用する浸透水の浄化処理は、図2に示す、浸出水W1(浸透水)を貯留する原水槽110と、浸出水W1中のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液W2を調整するカルシウム除去設備120と、低濃度カルシウム溶液W2を処理する分解装置100とを備える浸透水の浄化処理システム200により行うことができる。
【0055】
まず、廃棄物埋め立て処理場から浸出した浸出水W1は、原水槽110に貯留される。原水槽110は、浸出水W1を貯留しつつ、浸出水W1の一部をカルシウム除去設備120に供給する設備である。原水槽110からの浸出水W1の排出量を制御することで、カルシウム除去設備120に供給される浸出水W1の流量が制御される。
【0056】
浸出水W1は、飛灰に起因する塩化物イオン、カルシウムイオンなどの無機塩や、ジチオカルバミン酸構造を含むキレート剤を含む。高濃度のカルシウムイオンなどの無機塩は、配管や機器内でスケーリングを引き起こす。そこで、スケーリングを防止するため、浸出水W1はカルシウム除去設備120に供給され、カルシウム除去設備120において、浸出水W1のカルシウムイオンを除去し、カルシウム濃度が100ppm以下の低濃度カルシウム溶液W2を調整するカルシウム除去工程S1(図3参照)が行われる。
【0057】
カルシウム除去設備120は、原水槽110から供給された浸出水W1中のカルシウムを除去し、低濃度カルシウム溶液W2を調整する設備である。カルシウム除去設備120は、浸出水処理の分野で用いられる設備を用いることができる。
【0058】
カルシウム除去設備120により調整された低濃度カルシウム溶液W2は、分解装置100に供給される。分解装置100の構成は上記の通りであり、分解装置100により、低濃度カルシウム溶液W2中のキレート剤由来物質を分解する分解工程S2(図3参照)が行われる。分解装置100により処理された処理水W3は、CODやBOD、窒素成分が除去されている。
【0059】
また、上記の通り、分解装置100に供給される被処理水は、塩化物イオンの濃度が0.5%以上であることが好ましい。それは、被処理水に通電するためには被処理水が電解質溶液である必要があるため、被処理水である浸出水や余水の塩化物イオン濃度が降水等により希釈され、0.5質量%未満になると通電阻害を起こす傾向にあるためである。そのため、低濃度カルシウム溶液W2の塩化物イオン濃度が0.5質量%以下になった場合は、NaClを加え、塩化物イオン濃度を0.5質量%以上に調整することが好ましい。低濃度カルシウム溶液W2の塩化物イオンの濃度が0.5質量%以上である場合には、低濃度カルシウム溶液W2は、そのまま次の装置に供給される。
【0060】
よって、図2では、カルシウム除去設備120の次に分解装置100が設けられているが、本発明にかかる浄化処理システムはこれに限定されるものではない。例えば、低濃度カルシウム溶液W2の塩化物イオンの濃度が0.5質量%以上となるように濃度をモニター・制御する濃度制御装置を設けてよい。例えば、低濃度カルシウム除去設備120の次に、低濃度カルシウム溶液W2の塩化物イオン濃度やキレート剤の濃度をモニターし、濃度を調整する濃度調整設備を設け、濃度調整設備の次に分解装置100を設けた構成としてもよい。
【0061】
以上のように、本発明の浸透水の浄化処理システムでは、生物処理工程(BOD酸化、硝化、脱窒、再曝気)、沈殿凝集、活性炭処理を省くことができる。また、海面処分場における余水処理についても適用することができ、適正処理ならびに生物処理工程を省くことにより生物汚泥馴養を行う必要がなくなり、生物処理建設費削減、維持管理人員の削減等、経済的処理が可能となる。また、生物処理に用いられるブロワー、ポンプ等の電力に比べて電気分解に用いる電力の方が小さく、環境負荷も削減できる。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<試薬>
キレート剤は、ピペラジン系キレート剤(PIP系キレート剤、栗田工業株式会社製、製品番号S814)とジチオカルバミン酸系キレート剤(DTC系キレート剤、栗田工業株式会社製、製品番号S803)を用いた。塩水は、市販の食塩を溶解して作製した。JIS K 0102(2019)の工場排水試験法に基づき組成分析し、表1に、PIP系キレート剤の組成分析結果を、表2に、DTC系キレート剤の組成分析結果を、表3に、市販の食塩の組成分析結果を示した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
<実験例1>
(実験供試試料)
市販の食塩を用いて塩水(Cl-1%,1,000mL)を作製し、作製した塩水中にPIP系キレート剤200mg/L(200ppm)を添加し、原水とした。
【0067】
(実験装置)
実験装置は、電気透析膜実験装置(株式会社アストム社製アシライザーEX3B)からイオン交換膜を外し、陽極と陰極にそれぞれ接するように、厚み方向に貫通した開口部が形成された加工ゴム板を設置したものを使用した(図5参照)。電極板(陽極と陰極)はチタン-白金電極を使用した。加工ゴム板は、市販の長方形状の天然ゴム板(厚さ5mm)の中心部分を6.1cm×9cmの長方形状に切り抜き作製した。通電面積は55cm2、反応室の幅は1cm、通電が行われる反応領域は55cm3であった。図6に実験装置の模式図を示す。
【0068】
(キレート分解実験)
実験供試試料として、原水800mLを用い、これを原水槽に入れて、通液させながら、電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V、12.0V、15.0Vに変動させる条件で45分通電し、電気分解実験を行った。電極液は5%のNaSO4を用いた。
【0069】
(処理水の分析)
被処理水および分解処理後の処理水中のキレート剤の濃度、COD、TOC、T-Nを測定した。キレート剤の濃度(残留キレート剤)は、銅比濁法により算出し、それぞれの分解率を求めた。CODは、過マンガン酸カリウム法により算出した。TOCは、島津製作所製の全有機体炭素計(TOC-V)を用いて、燃焼酸化-赤外線式TOC分析法により算出した。T-Nは、日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計(V-650)を用いて、紫外線吸光光度法により算出した。
【0070】
表4に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表4に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もND(検出限界以下)であった。COD、TOCおよびT-Nは電圧上昇に伴い、分解率が上昇し、15VではCOD、TOCで85%以上、T-Nでは75%以上であった。
【0071】
【表4】
【0072】
<実験例2>
電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件から、電流値を2.2Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、電気分解実験を行った。
【0073】
表5に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表5に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もNDであった。COD、TOCおよびT-Nは電流値上昇と共に、分解率が上昇し、85.9%~97.9%と高い分解率を示した。
【0074】
【表5】
【0075】
<実験例3>
電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件から、電流値を4.4Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させに変動させる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、電気分解実験を行った。
【0076】
表6に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表6に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もNDであり、COD、TOCおよびT-Nは、いずれの場合も分解率は100%であった。
【0077】
【表6】
【0078】
<実験例4>
電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件から、電圧を9.0Vに固定し、電流値を1.1A,2.2A,4.4Aに変動させる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、電気分解実験を行った。
【0079】
表7に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表7に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もNDであった。CODは、2.2Aで93.4%分解、4.4Aで100%分解された。TOCは、2.2Aで90.4%分解、4.4Aで100%分解された。T-Nは、2.2Aで85.9%分解、4.4Aで100%分解された。
【0080】
【表7】
【0081】
<実験例5>
電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件から、電圧を12.0Vに固定し、電流値を1.1A,2.2A,4.4Aに変動させる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、電気分解実験を行った。
【0082】
表8に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表8に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もNDであった。CODは、2.2Aで96.7%分解、4.4Aで100%分解された。TOCは、2.2Aで94.0%分解、4.4Aで100%分解された。T-Nは、2.2Aで94.9%分解、4.4Aで100%分解された。
【0083】
【表8】
【0084】
<実験例6>
電流値を1.1Aに固定し、電圧を9.0V,12.0V,15.0Vに変動させる条件から、電圧を15.0Vに固定し、電流値を1.1A,2.2A,4.4Aに変動させる条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、電気分解実験を行った。
【0085】
表9に、処理水中のキレート剤の濃度(残留キレート剤)、COD、T-N、TOCの測定結果を示す。表9に示すように、残留キレート剤は、いずれの場合もNDであった。CODは、2.2Aで97.9%分解、4.4Aで100%分解された。TOCは、2.2Aで96.4%分解、4.4Aで100%分解された。T-Nは、2.2Aで97.4%分解、4.4Aで100%分解された。
【0086】
【表9】
【0087】
<実験例7>
PIP系キレート剤の濃度200mg/Lに設定し、純水に溶解させ、800mLの供試溶液を作製し、電気分解実験を行った。表10に、電気分解の条件および実験結果を示す。なお、キレート剤濃度の定量下限値は、10mg/Lである。
【0088】
【表10】
【0089】
(発生したガスの分析)
電気分解実験では、電極槽からガスが発生した。そこで、電極槽を密閉して、エアバックで発生したガスを回収し、N(窒素原子)およびC(炭素原子)を分析し、それぞれの収支を計算した。
【0090】
エアバッグで回収したガス量は28mLであった。このガスを、供給口Aからガス洗浄瓶に誘導し、洗浄液に通し、排出口Bからガス(B)を回収した。ガス洗浄瓶は、図7に示すように、洗浄液として0.5質量%のH22水溶液を40mL入れたものを2段設置し、3段目に、洗浄液として0.1質量%Ca(OH)2水溶液100mLを入れたガス洗浄瓶を設置したものを用いた。
【0091】
ガスを通した後の0.5質量%のH22水溶液(1,2段目のガス洗浄瓶の洗浄液)は、2段まとめて回収しイオンクロマト法で分析した。その結果、NO3濃度は6×10-3mg/L,NO2濃度は2.1×10-4mg/Lであった。
【0092】
ガスを通した後のCa(OH)2水溶液(3段目のガス洗浄瓶の洗浄液)を回収し、ろ過し、沈殿物の重量を測定した。その結果、沈殿物重量は53mgであった。Ca(OH)2洗浄液で回収したガスの成分予測はCO2と推察される。
【0093】
ガス(B)は9mLであった。ガス洗浄瓶を通したガスをガス検知管で分析を行った結果、N2は5mL、H2は4mLであった。従って、ガスの成分予測はH2、N2、CO2と推察される。
【0094】
以上の実験結果より全体の収支計算を行った。比較のため全ての単位はmolに換算した。
【0095】
Nの収支計算結果を表11に示す。投入と回収のマスバランスは、97.8%(4.4×10-4mol÷4.5×10-4mol=97.8%)であった。よって、窒素に関しては、投入したN分はほとんどガス化して、N2ガスとして回収されており、NOXに分解されたものもあるが、量的には非常に少ないと推察される。
【0096】
【表11】
【0097】
Cの収支計算結果を表12に示す。投入と回収のマスバランスは、96.3%(5.3×10-4mol÷5.5×10-4mol=96.3%)であった。
【0098】
【表12】
【0099】
以上の結果から、PIP系キレート剤は電気分解を受けて、N分とC分は、窒素と二酸化炭素に変換され、ガスとして除去された(COD成分と窒素成分が分解された)と推察される。
【0100】
<実施例8>
(実験装置)
実験装置は電気透析膜実験装置(株式会社アストム社製アシライザーEX3B)を用い、脱塩室および濃縮室に、被処理水を供給しながら、通電し、電気分解実験を行った。被処理水は、PIP系キレート剤またはDTC系キレート剤を用い、キレート濃度を50ppm、100ppm、150ppm、200ppm、250ppm、500ppm、750ppm、1000ppmとし、塩化物イオン濃度を0質量%、1質量%、2質量%とした溶液を調製して用いた。実験条件は、電流値4.4A、電圧9~15V、電極液Na2SO4、室温(20℃)とした。
【0101】
処理水中のキレート剤濃度(脱塩液中のキレート剤濃度と濃縮液中のキレート剤濃度の合計)を測定し、キレート剤の分解率を算出した。図8に、処理前の各被処理水のPIP系キレート剤の濃度と、分解処理によるキレート剤の分解率との関係をプロットした図を示す。図9に、処理前の各被処理水のDTC系キレート剤の濃度と、分解処理によるキレート剤の分解率との関係をプロットした図を示す。その結果、PIP系キレート剤については、被処理水中のキレート剤の濃度150ppm、塩化物イオン濃度2質量%のときにキレート剤の分解率100%を得られた。DTC系キレート剤については、被処理水中のキレート剤の濃度150ppm、塩化物イオン濃度2質量%のときにキレート剤の分解率98%が得られた。
【0102】
<実施例9>:Pb再溶出確認実験
Pbと結合したPIP系キレート剤とDTC系キレート剤両方とも電気分解により再溶出する可能性があるので、Pb再溶出確認実験を行った。PIP系キレート剤とDTC系キレート剤は、同様の傾向を示すので、PIP系キレート剤を例として溶出実験を行った。50gの飛灰、溶液500mLとして溶出試験を行った結果、50gの飛灰に対してPIP系キレート剤を1.6%添加でPbは0mg/Lであった。一方、PIP系キレート剤を添加なしの場合、50g飛灰の中のPb濃度は32mg/Lであった。よって、Pb総量は、16mg(500mL×32mg/L=16mg)であり、このときのPIP系キレート剤の必要量は、800mg(50g×1.6%=0.8g=800mg)であるから、1mgのPbに対してPIP系キレート剤の必要量は50mgとした。
【0103】
実験条件については、Pb標準液を用いてPb濃度10mg/Lの溶液1Lを作製し、その溶液の中にPIP系キレート剤の必要量である500mgを添加した。さらに、溶液の中に市販塩を添加し、塩化物イオン濃度を1質量%に調整し、被処理水とした。調整した被処理水を用いて、実施例8と同様に電気分解実験を行った。その結果、電気分解後の脱塩液および濃縮液からはともにPbは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、最終処分場の浸出水処理などの廃液処理の分野において有用である。
【符号の説明】
【0105】
10 反応槽
12 陽極室
12A 陽極
12B、14B 仕切板
12b、14b 開口部
14 陰極室
14A 陰極
16 中間室
12i、14i、16i 供給口
12o、14o、16o 排出口
20 電源
30 電極液貯留槽
30i 流入口
30o 流出口
32 電極液循環手段
40 循環管
100 分解装置
110 原水槽
120 カルシウム除去設備
200 浸透水の浄化処理システム
S 電極液
W1 浸出水
W2 低濃度カルシウム溶液
W3、Wa 処理水
Wb 被処理水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9