(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006224
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ペースト食品
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20240110BHJP
A23L 29/281 20160101ALI20240110BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240110BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240110BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L29/281
A23L5/00 N
A23L5/00 M
A23L33/125
A23L33/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106922
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】行光 由莉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B018LB06
4B018LB10
4B018LE04
4B018MD36
4B018MD70
4B018ME02
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF07
4B035LC03
4B035LC06
4B035LC16
4B035LE02
4B035LG15
4B035LG21
4B035LG42
4B035LK04
4B035LK19
4B035LP01
4B035LP21
4B041LC03
4B041LC05
4B041LD01
4B041LH02
4B041LH04
4B041LK14
4B041LK36
4B041LP03
(57)【要約】
【課題】 易嚥下性を目的としてペースト食品を調製する場合、通常、水分含量75~80%となるところ、高栄養(とくに高たんぱく質又は高炭水化物)をも目的としてこれを調製しようとすれば、水分含量はそれより低くなってかたさと付着性が上昇し、嚥下性が悪化する。そこで、本発明の目的は、高栄養でありながらも容易に咀嚼・嚥下できるかたさと付着性を備えたペースト食品を提供することにある。
【解決手段】 高栄養(とくに高たんぱく質又は高炭水化物。たんぱく質にあっては5~40%)となるよう設計したことに起因して低水分となったペースト食品(水分含量75%以下)において、DE18未満の澱粉の分解物、好ましくはヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を5~20%となるよう含有させることにより、上記課題は解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DE18未満の澱粉の分解物を5~20%含み、水分75%以下及びかたさ10,000N/m2以下であるペースト食品。
【請求項2】
DE18未満のヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を5~20%含み、水分75%以下及びかたさ10,000N/m2以下であるペースト食品。
【請求項3】
たんぱく質を5~40%含む、請求項1又は2記載のペースト食品。
【請求項4】
DE18未満の澱粉の分解物を含んでなる、水分75%以下であるペースト食品のかたさ調整用組成物。
【請求項5】
DE18未満のヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を含んでなる、水分75%以下であるペースト食品のかたさ調整用組成物。
【請求項6】
ペースト食品がたんぱく質を5~40%含むものである、請求項4又は5記載のペースト食品のかたさ調整用組成物。
【請求項7】
かたさ10,000N/m2以下とするための、請求項4又は5記載のペースト食品のかたさ調整用組成物。
【請求項8】
DE18未満の澱粉の分解物をペースト食品中に5~20%となるよう添加し、かたさ10,000N/m2以下とする、ペースト食品のかたさ調整方法。
【請求項9】
DE18未満の澱粉の分解物をたんぱく質5~40%のペースト食品中に5~20%となるよう添加する、かたさ10,000N/m2以下のペースト食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼・嚥下困難者が喫食しやすいペースト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
咀嚼・嚥下困難者(以下、単に嚥下困難者という。)は喫食時に誤嚥しやいため、食事として提供される食材は、舌や歯茎で容易につぶすことができるようミンチ状としたり、飲み込みやすいようペースト状としたり、その分離液が気管に流入しないようゲル化剤でゲル化・ゾル化したりなどの工夫がされる。しかし、易咀嚼性・易嚥下性(以下、単に易嚥下性という。)を目的に食材をミンチ状、ペースト状、ゲル状又はゾル状としても、経時的に又は冷凍解凍などにより離水が生じてこれを誤嚥するため、離水を極力抑える必要がある。
【0003】
また、一方で、嚥下困難者は必然的に食事の摂取量が少なくなり、低栄養状態となりがちなため、少量で十分な栄養素を摂取できる食品形態の設計が重要となる。しかし、例えば、低用量で十分なたんぱく質量を摂取するためにはまずその食品の水分量を減らす(たんぱく質含量を上げる)ことが考えられるが、水分量を減らすと食品は硬くなるばかりか口内付着性が大きくなって誤嚥しやすくなる。そこで、十分な栄養素と容易な咀嚼・嚥下性とを兼ね備えた食品形態の設計を検討する必要がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、澱粉性食品(粥、うどん)にα-アミラーゼ、ネイティブジェランガム及び寒天を同時に添加し、硬さ500~2000N/m2、付着量3g以下の易嚥下性の澱粉性食品(粥、うどん)を調製する方法が開示され、特許文献2には、たんぱく質性食材、とりわけ肉類・魚類といった繊維性構造を有する食材を蛋白分解酵素で分解し、卵白やゲル化剤を適量配合して加熱凝固させた時の固さが1,000~15,000N/m2、付着性1000J/m3以下、凝集性0.2~0.9となる易嚥下性ゲル状食品が開示されている。
【0005】
しかし、酵素による分解工程が入ると、その分解程度に依存して固さや付着性が異なることとなるためにその微妙な調整が難しく、また、卵白は熱不可逆性の熱凝固ゲルを形成して飲み込み時の感触が好ましくない。そこで、でん粉性又はたんぱく質性の栄養素が豊富でありながらも、酵素分解や熱凝固ゲル化剤を必要としない、簡便な易嚥下性ペースト食品の調製方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-271985号公報
【特許文献2】特開2014-62号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
易嚥下性のペースト食品を調製する場合、通常、水分含量が75~85%となるところ、高栄養(とりわけ高たんぱく質又は高炭水化物)をも目的としてこれを調製しようとすれば、水分含量はそれより低減し、かたさと付着性が上昇して嚥下性が悪化する。そこで、本発明の目的は、高栄養でありながらも咀嚼・嚥下困難者が容易に嚥下できるかたさと付着性を備えたペースト食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高栄養(とりわけ高たんぱく質又は高炭水化物)となるよう設計したことに起因して低水分となったペースト食品(水分含量75%以下)において、DE18未満の澱粉分解物及び/又はヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を5~20%となるよう含有させることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下[1]~[11]からなるものである。
[1]DE18未満の澱粉の分解物を5~20%含み、水分75%以下及びかたさ10,000N/m2以下であるペースト食品。
[2]澱粉の分解物がヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物である、前記[1]記載のペースト食品。
[3]たんぱく質を5~40%含む、前記[1]又は[2]に記載のペースト食品。
[4]DE18未満の澱粉の分解物を含んでなる、水分75%以下であるペースト食品のかたさ調整用組成物。
[5]澱粉の分解物がヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物である、前記[4]記載のペースト食品のかたさ調整用組成物。
[6]ペースト食品がたんぱく質を5~40%含むものである、前記[4]又は[5]に記載のペースト食品のかたさ調整用組成物。
[7]かたさ10,000N/m2以下とするための、前記[4]~[6]のいずれかに記載のペースト食品のかたさ調整用組成物。
[8]DE18未満の澱粉の分解物をペースト食品中に5~20%となるよう添加し、かたさ10,000N/m2以下とする、ペースト食品のかたさ調整方法。
[9]澱粉の分解物がヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物である、前記[8]記載のペースト食品のかたさ調整方法。
[10]DE18未満の澱粉の分解物をたんぱく質5~40%のペースト食品中に5~20%となるよう添加する、かたさ10,000N/m2以下のペースト食品の製造方法。
[11]澱粉の分解物がヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物である、前記[10]記載のかたさ10,000N/m2以下のペースト食品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高栄養でありながらも易嚥下性のペースト食品を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における「ペースト食品」とは、野菜、果物、豆、穀類、肉、魚介、卵、乳製品、若しくはこれらの加工食品などの食材をそのまま又は加熱してからマッシャーやミキサーなどで破砕、磨砕、裏ごしなどして得た破砕物若しくは磨砕物に、副材料を添加し又は添加しないで、食材が最終的にペースト状となるよう調製された食品をいう。本発明における「ペースト食品」は、咀嚼・嚥下しやすいよう水分を80%前後に調整することによりかたさ・付着性が調整されたものであって、例えば、日本介護食品協議会のUDF区分4の「かまなくてよい」とされる介護食などが想定されるが、この「かまなくてよい」区分に該当する市販の介護食の水分は、その栄養成分表示から75~85%程度であり、たんぱく質含量はせいぜい5%程度である。
(例えば、https://www.kewpie.co.jp/udfood/assets/pdf/udfood_20210909.pdfを参照)。
【0012】
ここで、介護食とは、介護される者が摂食する食品一般を指すが、(1)健康増進法第43条第1項に基づく消費者庁長官の許可を受けて表示販売が可能となる「特別用途食品」の範疇にある「えん下困難者用食品」(許可基準I~III)か、(2)日本介護食品協議会が策定する自主規格「ユニバーサルデザインフード(UDF)」(区分1~4)に該当する「高齢者食品」「そしゃく困難者食品」を指すこともある。本発明のペースト食品は、介護食として用いられることはあるものの、いずれかの介護食区分に限定されるものではない。しかし、便宜上、上記(1)における「許可基準II」(ゼリー状食品又はムース状食品。硬さ1,000~15,000N/m2、付着性3,000J/m3以下、凝集性0.2~0.9)か、上記(2)の「ユニバーサルデザインフード」における「区分4」の物性規格「かたさ上限値3,000N/m2(ゾル)」若しくは「区分3」の物性規格「かたさ上限値10,000N/m2」(ゾル)を目安とすることもできる。
【0013】
本発明のペースト食品の必須成分は、澱粉分解物及びヒドロキシプロピル化澱粉の分解物から選ばれる一以上である。それらの原料となる澱粉の種類はとくに限定されず、馬鈴薯、タピオカ、コーン、米、小麦、甘藷、エンドウ豆、サゴ又はこれらのワキシー種の澱粉から選ばれるいずれか一以上を用いることができ、水に分散させたときに溶解する程度にまで酵素や酸を用いてこれを分解すればよく、具体的には、DE18未満、好ましくはDE15以下又は11以下、より好ましくはDE5以下となるまで分解すればよい。一方、本明細書における「ヒドロキシプロピル化澱粉の分解物」とは、原料澱粉に酸化プロピレンを作用させてヒドロキシプロピル化した澱粉の分解物、又は酸化プロピレンと同時若しくは異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどを作用させて架橋したヒドロキシプロピル化したリン酸架橋澱粉の分解物をいい、上述の澱粉分解物と同程度に分解された分解物であることが好ましい。上述の澱粉分解物とこのヒドロキシプロピル化澱粉の分解物は、いずれも澱粉の分解物であるため、以降、併せて単に「澱粉の分解物」ともいう。
【0014】
本発明のペースト食品における、上記澱粉の分解物の使用割合は、当該食品における内部離水防止の観点から、少なくとも5質量%以上となるよう用いるのが好ましい。また、その使用割合が、さらに10質量%以上、15質量%以上と多くなるほどに嚥下性向上及び付着性低減の効果は得られるものの、コスト面と効果のバランスを考慮すれば、20質量%までにとどめるのがよい。この澱粉の分解物は、粉状のまま食材に混ぜ込んでもよいが、水や調味液といった液体に予め溶解しておき、これを主となる食材(ペースト肉や魚など)に混ぜ込むほうがより均一に分散され、本発明の効果が効率よく発揮される。
【0015】
本発明のペースト食品は、高栄養であることを特徴とする。具体的には、水分が75%以下であることを特徴とする。水分が75%以下と低いということは、すなわち、たんぱく質や炭水化物の栄養素を多く含むということであり、例えば、たんぱく質を5質量%以上かつ炭水化物を5質量%以上含む。なお、この炭水化物には、先述の澱粉の分解物が含まれる。
【0016】
本発明のペースト食品の特徴は、経時的又は冷凍解凍後にも離水が抑制された易嚥下性であることであって、その易嚥下性の指標となりうるUDF区分を目安とすれば、20℃におけるかたさが10,000N/m2以下(UDFの区分3に相当)、又は3,000N/m2以下(UDFの区分4に相当)であり、特別用途食品のえん下困難者用表示許可基準IIを目安とすれば、硬さ1,000~15,000N/m2、付着性3,000J/m3以下及び凝集性0.2~0.9である。ここでいうかたさは、食感計測器、例えば、CREEPMETER RE-33005B((株)山電)のテクスチャー解析ソフトを用い、試料を直径40mmの容器に高さ15mmに充填し、直径20mmプランジャーで圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmの条件で2回圧縮し、測定することで確認できる。一方、凝集性及び付着性は、かたさの測定と同様の機器及び条件で測定することができ、かたさが、1回目の圧縮ピークの高さ(N/m2)で表されるのに対し、付着性は、1回目の圧縮直後の引っ張り過程の負の応力を示すピーク面積(J/m3)、凝集性は、2回目の圧縮ピークと1回目の圧縮ピークの面積比で表される。
【0017】
本発明のペースト食品は、易嚥下性であることと十分な栄養素を備えることに影響しない限り、上記澱粉の分解物以外を含むことができ、例えば、油脂、糖質、糖類、食物繊維、アミノ酸、ビタミン類、鉄、葉酸といった付加的な栄養成分を含むことができる。また、本発明のペースト食品を高温殺菌加熱や冷凍解凍して利用する場合は、かたさ及び栄養組成に影響を及ぼさない範囲において、加工澱粉やゲル化剤の少量を用いることもできる。
【0018】
以下、本発明について具体的に詳述するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【実施例0019】
豚のひき肉をスチームコンベクションオーブン(スチームモード100℃)で15分間加熱し、その最終水分が60%となるよう算出及び計量した水とともにミキサーに投入してペースト状とする(これを対照区とする)。各澱粉の分解物を添加する場合は、計量水に置き換えた量の澱粉の分解物をミキサーに投入し、ペースト状とする(最終水分は60%とはならず減少することになる)。各ペーストを直径40mm、高さ20mmのステンレス製円柱容器にそれぞれ予め均一に充填しておき、20℃で2時間静置してから、直径20mmの樹脂製円柱型プランジャーで試料の中心部を圧縮速度10mm/secで2回連続圧縮(クリアランス5mm)して測定した(CREEPMETER RE-33005B((株)山電)のテクスチャー解析ソフトを使用)。なお、付着性は、1回目の圧縮直後の引っ張り過程の負の応力を示すピーク面積(J/m3)、凝集性は、2回目の圧縮ピークと1回目の圧縮ピークの面積比で表した。
【0020】
各種澱粉の分解物を用いたペースト食品の測定結果を表1に示す。なお、表中、「PDx」は、松谷化学工業(株)の澱粉分解物製品のブランド名「パインデックス」の略であり、「マックス1000」は松谷化学工業(株)の澱粉分解物の製品名、「フードテックス」は、松谷化学工業(株)のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプンの分解物の製品名である。なお、表中、水分、たんぱく質及び炭水化物の数値は、日本食品標準成分表2020年版(八訂)を用いた計算値である。
【0021】
【0022】
その結果、水分が50%と低く、たんぱく質が25%以上と高いペースト食品に対し、DE18未満の澱粉の分解物を5~10%となるよう用いると、かたさ10,000N/m2以下となり、UDF区分3に相当する易嚥下性能が得られることがわかった。また、ヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を用いると、かたさは3,000N/m2以下となり、UDF区分4に相当する易嚥下性能が得られることがわかった。また、それら澱粉の分解物を用いた場合、かたさ15,000N/m2以下、付着性3,000J/m3以下及び凝集性0.2~0.9のすべてを満たすため、高たんぱく質設計でありながら、特別用途食品のえん下困難者用表示許可基準IIの表示も可能となることがわかった。特に、ヒドロキシプロピル化された澱粉の分解物を用いれば、水分が40%と低い高栄養のペースト食品にあっても、かたさ3,000N/m2未満となりUDF区分4に相当する易嚥下性能が得られるため、介護食としては非常に有利である。
【0023】
以上より、DE18未満、好ましくはDE11以下の澱粉の分解物を高栄養ペースト食品における水分に置きかえて用いることにより、易嚥下性があって付着性の低い食品が簡便に得られるため、食品工業用途のみならず、病院、施設、家庭といった内食調理の場面においても、咀嚼・嚥下困難者用の食事を調製する方法として有利に利用できる。