(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062256
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】高力ボルト摩擦接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20240430BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20240430BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
F16B5/02 U
F16B43/00 Z
C23C28/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170127
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 天志郎
(72)【発明者】
【氏名】小橋 知季
(72)【発明者】
【氏名】中安 誠明
【テーマコード(参考)】
3J001
3J034
4K044
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA02
3J001GB01
3J001HA02
3J001JA10
3J001KA21
3J034AA09
4K044AA02
4K044AB05
4K044BA17
4K044BB03
4K044BC01
4K044CA11
4K044CA16
4K044CA18
(57)【要約】
【課題】接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された接合面を有する鋼材を含む高力ボルト摩擦接合において、接合部のすべり係数を効率的に向上できる。
【解決手段】高力ボルト摩擦接合構造10は、第一ボルト孔11Bの周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面11Aを有する第一鋼材11と、第一鋼材11の第一接合面11Aに重ねられる第二接合面12Aと、第二ボルト孔12Bとを有する第二鋼材12と、第一鋼材11と第二鋼材12とを摩擦接合させる高力ボルト14及びナット16と、第一鋼材11に接し、第一ボルト孔11Bの第一鋼材11の第一接合面11Aの側に第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径d以上の孔径d´を有する拡径部EPが形成されたボルト孔20を有する座金部材18と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ボルト孔の周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面を有する第一鋼材と、
前記第一鋼材の前記第一接合面に重ねられる第二接合面と、第二ボルト孔とを有する第二鋼材と、
前記第一鋼材と前記第二鋼材とを摩擦接合させる高力ボルト及びナットと、
前記第一鋼材に接し、前記第一接合面の側に前記第一ボルト孔の孔径以上の孔径を有する拡径部が形成されたボルト孔を有する座金部材と、
を備える、高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項2】
前記座金部材は、
一方の面が前記高力ボルト又は前記ナットに接する平座金部と、
前記平座金部と前記第一鋼材との間に配置され、前記拡径部としての底部と、前記底部の外側から前記高力ボルトの側又はナットの側に延びる側壁部とを有し、前記底部と前記側壁部とによって前記平座金部に対応する凹部が形成された補助座金部と、を有する、
請求項1に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項3】
前記拡径部の前記第一鋼材の側の孔径と前記第一ボルト孔の孔径との孔径差をdx、前記第一鋼材の板厚をt1としたとき、
前記孔径差dxを前記板厚t1で除した、対板厚孔径差dx/t1は、0超、1.5以下である、
請求項1又は2に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項4】
前記第一鋼材は、めっき鋼板であり、
前記表面処理は、りん酸塩処理である、
請求項1又は2に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項5】
一対の前記座金部材を備え、
一対の前記座金部材のうち一方の前記座金部材は、前記高力ボルトの頭部と前記第一鋼材との間に配置され、
他方の前記座金部材は、前記ナットと前記第二鋼材との間に配置される、
請求項1又は2に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項6】
前記第一鋼材の板厚は、前記第二鋼材の板厚より薄い、
請求項1又は2に記載の高力ボルト摩擦接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高力ボルト摩擦接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1及び2のように、鋼材同士が高力ボルトで摩擦接合される高力ボルト摩擦接合構造が知られている。高力ボルト摩擦接合構造では、高力ボルトから鋼材に加えられる接触圧と、すべり係数との積によって、すべり耐力が決定される。
【0003】
特許文献1には、めっき鋼板の接合面にりん酸塩処理を施すことによって、接合部のすべり係数を向上させる技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、接合面にアルミニウム溶射処理を施すことによって接合部のすべり係数を向上させる技術が開示されている。アルミニウム溶射処理は、接触圧が小さいほどすべり係数が高くなる摩擦面処理である。また、特許文献2では、高力ボルトと鋼材との間に板状の板厚増設部材が設けられる。板厚増設部材によって、高力ボルトと鋼材との間の板厚方向に沿った長さが延長されることによって、接触圧が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-049008号公報
【特許文献2】特開2015-121252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本開示者らは、特許文献1に開示されているめっき鋼板の接合面にりん酸塩処理された接合部のすべり係数は、特許文献2のように接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された接合面と同様の挙動を示すと考え、高力ボルト摩擦接合構造を対象として、座金の内縁の位置とすべり係数の値との関係を検討した。
【0007】
なお、座金の内径は、施工時の位置合わせ作業を容易にするため、一般に、鋼材のボルト孔の孔径より小さい。このため、鋼材同士が高力ボルトで摩擦接合された状態では、座金の内縁は、鋼材のボルト孔の内壁より高力ボルトの側に突出する。
【0008】
検討の結果、座金の内縁が鋼材のボルト孔の内壁より高力ボルトの軸部側に突出した状態では、接触圧の分布状態に起因して、接合面の表面処理によって得られるすべり係数が限定されることが分かった。すなわち、すべり係数を効率的に得られず、結果、すべり耐力が向上し難い。
【0009】
この点、特許文献2には、接触圧のピーク位置と接合面の表面処理によるすべり係数向上効果との関係は、何ら検討されていない。
【0010】
本開示は、接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された接合面を有する鋼材を含む高力ボルト摩擦接合において、接合部のすべり係数を効率的に向上できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る高力ボルト摩擦接合構造は、第一ボルト孔の周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面を有する第一鋼材と、第二ボルト孔を有し、前記第一鋼材の前記第一接合面に第二接合面が重ねられた第二鋼材と、前記第一鋼材と前記第二鋼材とを摩擦接合させる高力ボルト及びナットと、前記第一鋼材に接し、前記第一接合面の側に前記第一ボルト孔の孔径以上の孔径を有する拡径部が形成されたボルト孔を有する座金部材と、を備える。
【0012】
本開示では、第一鋼材は、第一ボルト孔の周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面を有する。また、第一鋼材に接する座金部材のボルト孔において第一接合面の側に、第一ボルト孔の孔径以上の孔径を有する拡径部が形成される。
【0013】
拡径部が形成された座金部材によって、接触圧のピークの位置が、第一鋼材の第一ボルト孔の縁から外側にシフトする。このため、本実施形態の接触圧の分布では、ピークの位置から外側に向かうに従って接触圧が漸減するパターンの領域が、座金部材のボルト孔の孔径が第一鋼材の第一ボルト孔の孔径未満である場合より、外側にシフトする。また、接触圧のピークの位置と第一鋼材の第一ボルト孔の縁との間にも、接触圧が外側から内側に向かって漸減するパターンが形成される。結果、表面処理が施された接合面の中で、接触圧が分布する領域の面積が増える。
【0014】
このため、表面処理によって得られるすべり係数向上効果を、座金部材のボルト孔の孔径が第一鋼材の第一ボルト孔の孔径未満である場合と比べ、より活用できる。よって、接合部のすべり係数を効率的に向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された接合面を有する鋼材を含む高力ボルト摩擦接合において、接合部のすべり係数を効率的に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する、
図3(A)中の1-1線断面図である。
【
図2】本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する斜視図である。
【
図3】
図3(A)は、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する平面図であり、
図3(B)は、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する側面図である。
【
図4】比較例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図5】本実施形態の第1変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図6】本実施形態の第2変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図7】本実施形態の第3変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図8】本実施形態の第4変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図9】第4変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する斜視図である。
【
図10】第4変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造の補助座金部材を説明する斜視図である。
【
図11】本実施形態の第5変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図12】
図12(A)は、本実施形態の第6変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する平面図であり、
図12(B)は、
図12(A)中の12B-12B線断面図である。
【
図13】本実施形態の第7変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する断面図である。
【
図14】実験において得られた、接触圧とすべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図15】実験において得られた、鋼材の断面を撮影した写真である。
【
図16】実施例における解析モデルに係る高力ボルト摩擦接合構造を説明する側面図である。
【
図17】第1解析例においてCASE1の解析モデルから得られた結果を説明するグラフである。
【
図18】第1解析例においてCASE2の解析モデルから得られた結果を説明するグラフである。
【
図19】第1解析例においてCASE3の解析モデルから得られた結果を説明するグラフである。
【
図20】第2解析例においてCASE1の解析モデルを用いて補助座金部の板厚の影響を説明するグラフである。
【
図21】第2解析例においてCASE3の解析モデルを用いて、補助座金部の板厚の影響を説明するグラフである。
【
図22】第2解析例においてCASE1の解析モデルを用いて、補助座金部の孔径の影響を説明するグラフである。
【
図23】第2解析例においてCASE3の解析モデルを用いて、補助座金部の孔径の影響を説明するグラフである。
【
図24】第2解析例においてCASE1の解析モデルを用いて、補助座金部の外径の影響を説明するグラフである。
【
図25】本実施形態で設定される換算すべり係数と実験値との対応を説明するグラフである。
【
図26】第3解析例において孔径比と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図27】第4解析例において孔径比と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図28】第4解析例において板厚比と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図29】第4解析例において外径比と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図30】第5解析例において対板厚孔径差と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図31】第6解析例において、補助座金部によって板厚を増大させた場合と鋼材の板厚を増大させた場合とのそれぞれの板厚増大方法と、換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図32】第7解析例において、拡径部として段差部又はテーパー部が設けられた場合における、拡径部と換算すべり係数との関係を説明するグラフである。
【
図33】第8解析例において、CASE1のA-2及びA-2´の解析モデルを用いて、座金部材と鋼材との接触面積の違いが接触圧分布に及ぼす影響を説明するグラフである。
【
図34】第8解析例において、CASE1のA-3及びA-3´の解析モデルを用いて、座金部材と鋼材との接触面積の違いが接触圧分布に及ぼす影響を説明するグラフである。
【
図35】第8解析例において、CASE1のA-4及びA-4´の解析モデルを用いて、座金部材と鋼材との接触面積の違いが接触圧分布に及ぼす影響を説明するグラフである。
【
図36】第8解析例において、CASE1のA-5及びA-5´の解析モデルを用いて、座金部材と鋼材との接触面積の違いが接触圧分布に及ぼす影響を説明するグラフである。
【
図37】第8解析例において、CASE1のA-6及びA-6´の解析モデルを用いて、座金部材と鋼材との接触面積の違いが接触圧分布に及ぼす影響を説明するグラフである。
【
図38】第8解析例において、CASE1の解析モデルを用いて、座金部材と被接合部材の接触面積の違いが換算すべり係数に及ぼす影響を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本開示の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。ただし、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0018】
<高力ボルト摩擦接合構造>
本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を、
図1~
図3を参照しつつ説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造10は、第一鋼材11と、第二鋼材12と、高力ボルト14と、ナット16と、座金部材18と、を備える。
【0019】
図3(A)に示すように、本実施形態では、4つの高力ボルト摩擦接合構造10が、第一鋼材11と第二鋼材12との間の接合部に構成されている。
図3(B)に示すように、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造10の摩擦面の数は、1面である。なお、本開示では、鋼材同士の接合部に構成される高力ボルト摩擦接合構造10の個数は、1つ以上、任意である。
【0020】
(第一鋼材)
図1に示すように、第一鋼材11は、高力ボルト摩擦接合構造10における2つの被接合部材のうちの一方の鋼材である。第一鋼材11は、板厚方向(すなわち、
図1中の上下方向)に沿ってほぼ一定の板厚t1を有するめっき鋼板である。なお、本開示では、第一鋼材としての鋼板は、めっき鋼板に限定されない。
【0021】
第一鋼材11は、第一ボルト孔11Bと、第一ボルト孔11Bの周囲に接触圧が小さいほど、すべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面11Aとを有する。第一鋼材11の第一接合面11Aは、第二鋼材12の第二接合面12Aと接触する。第一ボルト孔11Bの開口部の形状は円形状である。第一ボルト孔11Bは、板厚方向に沿ってほぼ一定の孔径dを有する。
【0022】
(第二鋼材)
第二鋼材12は、高力ボルト摩擦接合構造10における2つの被接合部材のうちの他方の鋼材である。第二鋼材12は、板厚方向に沿ってほぼ一定の板厚t2を有するめっき鋼板である。なお、本開示では、第二鋼材としての鋼板は、めっき鋼板に限定されない。また、本実施形態では、第二鋼材12の板厚t2は、第一鋼材11の板厚t1と同じであるが、本開示では、第二鋼材12の板厚は、第一鋼材11の板厚と異なってもよい。
【0023】
第二鋼材12は、第二ボルト孔12Bと、第二ボルト孔12Bの周囲に接触圧が小さいほど、すべり係数が大きくなる表面処理が施された第二接合面12Aとを有する。第二鋼材12の第二接合面12Aは、第一鋼材11の第一接合面11Aに重ねられる。
【0024】
第二ボルト孔12Bの開口部の形状は円形状である。第二ボルト孔12Bは、板厚方向に沿ってほぼ一定の孔径dを有する。本実施形態では、第二鋼材12の第二ボルト孔12Bの孔径dは、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径dと同じであるが、本開示では、第二鋼材12の第二ボルト孔12Bの孔径は、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径と異なってもよい。
【0025】
(表面処理)
本実施形態では、第一鋼材11の第一接合面11Aと第二鋼材12の第二接合面12Aとに施される表面処理は、りん酸塩処理である。りん酸塩処理としては、塗布型であってもよいし、或いは、浸漬型であってもよい。なお、
図1中において第一鋼材11の第一接合面11Aとは反対側の上面と第二鋼材12の第二接合面12Aとは反対側の下面とに対する表面処理は、必須ではない。
【0026】
また、本開示では、接合部の接合面に施される表面処理は、りん酸塩処理に限定されず、例えばアルミ溶射等の他の表面処理であってもよい。
【0027】
(被接合部材)
本実施形態では、第一鋼材11と第二鋼材12とは、例えば薄板鋼板である。本開示では、被接合部材は、薄板鋼板に限定されず、厚板鋼板であってもよい。本開示では、鋼材の板厚は任意である。また、本実施形態では、第一鋼材11と第二鋼材12とは、鋼板に限定されない。本開示では、被接合部材は、いわゆる金物や形鋼等であってもよい。本開示では、高力ボルト摩擦接合構造10が適用される部分が、板状であればよい。
【0028】
また、本開示では、被接合部材の個数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。すなわち、被接合部材の個数は、任意である。例えば、本開示では、第一鋼材11と第二鋼材12との間に、被接合部材としての他の鋼材が、1つ以上重ね合わせられてもよい。
【0029】
また、第一鋼材11の第二鋼材12とは反対側に、被接合部材としての他の鋼材が、1つ以上重ね合わせられてもよいし、第二鋼材12の第一鋼材11とは反対側に、被接合部材としての他の鋼材が、1つ以上重ね合わせられてもよい。すなわち、本開示では「第一鋼材」及び「第二鋼材」の表現は、接合部を形成する2つの鋼材を表すものであって、特定の位置に配置された鋼材を表すものではない。
【0030】
(高力ボルト及びナット)
高力ボルト14及びナット16は、第一鋼材11と第二鋼材12とを摩擦接合させる連結部材である。高力ボルト14の軸部は、一定の軸径Dを有する。高力ボルト14の軸部は、第一ボルト孔11Bと第二ボルト孔12Bとに差し込まれる。
【0031】
なお、本実施形態で用いられる高力ボルト14は、高力六角ボルトであるが、本開示の高力ボルト14は、六角ボルトに限定されず、例えばトルシア形であってもよい。また、本開示では、ナット16の形状も適宜変更できる。
【0032】
(座金部材)
本実施形態では、高力ボルト摩擦接合構造10は、一対の座金部材18を備える。一対の座金部材18のうち一方の座金部材18は、高力ボルト14の頭部と第一鋼材11との間に配置されると共に、他方の座金部材18は、ナット16と第二鋼材12との間に配置される。すなわち、
図1中の上側に位置する一方の座金部材18は、第一鋼材11に接すると共に、
図1中の下側に位置する他方の座金部材18は、第二鋼材12に接する。
【0033】
座金部材18は、リング状であると共に、平面視で、中央にボルト孔20を有する。座金部材18の外縁の形状と内縁の形状とは、円形状である。本実施形態の座金部材18は、1つの平座金部のみによって構成される。座金部材18は、ボルト軸径Dにあわせてほぼ一定の外径Dwとほぼ一定の板厚twとを有する。座金部材18は、例えば鋼板部材によって作製できる。
【0034】
(拡径部)
本実施形態では、
図1中の上側の座金部材18の場合、ボルト孔20の第一鋼材11の側に、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径d以上の孔径d´を有する拡径部EPが形成される。すなわち、d≦d´である。
【0035】
なお、本実施形態では、説明の便宜のため、座金部材18と鋼材とが接触した状態において、座金部材18の「底面」は、鋼材の側の面を意味すると共に、座金部材18の「頂面」は、鋼材とは反対側の面を意味すると定義する。すなわち、底面の側の領域は、第一接合面の側の領域、又は、第二接合面の側の領域を意味する。また、頂面の側の領域は、高力ボルト14の頭部の側の領域、又は、ナット16の側の領域を意味する。
【0036】
本実施形態では、座金部材18の平座金部の底面の側の孔径d´と頂面の側の孔径dwとがほぼ同じである。すなわち、板厚方向における拡径部EPの孔径の全体が、第一ボルト孔11Bの孔径d以上にほぼ一様に拡径されている。拡径部EPによって接合部のすべり係数を向上できる。
【0037】
なお、本実施形態では、第一ボルト孔11Bの中心と第二ボルト孔12Bの中心と座金部材18のボルト孔20の中心とが、同じ軸線C上に揃えられた状態が例示されたが、本開示では、これに限定されず、それぞれの中心がずれた状態であっても排除されない。
【0038】
(比較例)
一方、
図4に示すように、比較例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Zでは座金部材18Zにおいて、ボルト孔20の底面の側の領域に、拡径部EPが形成されない。すなわち、比較例では、ボルト孔20の底面の側の孔径d´は、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径dより小さい。このため、本実施形態のように、拡径部EPによって接合部のすべり係数を向上することができない。
【0039】
<変形例>
次に、本実施形態の第1変形例~第7変形例に係るそれぞれの高力ボルト摩擦接合構造を、
図5~
図13を参照しつつ説明する。第1変形例~第7変形例においても、拡径部EPによって接合部のすべり係数を向上できる。なお、以下の第1変形例~第7変形例の説明においては、
図1中に例示された本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造10と異なる点について主に説明すると共に、本実施形態と同様の構造については、重複説明を省略する。
【0040】
(第1変形例)
図5に示すように、第1変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Aでは、座金部材18は、接合部において高力ボルト14の頭部の側にのみ設けられる。すなわち、拡径部EPを有する座金部材18の個数は、1つのみである。なお、本開示では、座金部材18は、接合部においてナット16の側にのみ設けられてもよい。第1変形例のように、本開示では、拡径部EPを有する座金部材18は、高力ボルト14の頭部側とナット16側とのうち、少なくとも一方に配置されればよい。
【0041】
(第2変形例)
図6に示すように、第2変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Bでは、座金部材18Bのボルト孔20を形成する内壁面において、底面の側の領域が、頂面の側の領域よりも部分的に拡径される。具体的には、第2変形例では、ボルト孔20が頂面の側の孔径dwと底面の側の孔径d´との互いに異なる2つの孔径を有するように、座金部材18Bの頂面と底面との間に、1つの段差が形成される。なお、本開示では、本段差の個数は1つに限定されず、2つ以上、任意である。
【0042】
第2変形例では、底面の側の孔径d´の方が、頂面の側の孔径dwより大きい。底面の側の孔径d´を有する領域が、座金部材18Bの拡径部EPである。なお、第2変形例のように、頂面の側の孔径dwが、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径dより小さい場合、ボルト締め作業の際、高力ボルト14と第一ボルト孔11Bとを位置合わせし易い。
【0043】
(第3変形例)
図7に示すように、第3変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Cでは、座金部材18Cのボルト孔20を形成する内壁面において、底面の側の領域が、頂面の側の領域よりも部分的に拡径される。具体的には、第3変形例では、ボルト孔20が頂面の側の孔径dwと底面の側の孔径d´とを有すると共に、座金部材18Cの頂面と底面との間に、1つのテーパー部(すなわち、傾斜面)が形成される。なお、本開示では、テーパー部の個数は、1つに限定されず、互いに異なる傾斜角度を有する2つ以上のテーパー部が形成されてよい。
【0044】
第3変形例では、底面の側の孔径d´の方が、頂面の側の孔径dwより大きい。第3変形例では、テーパー部が形成された部分が、座金部材18Cの拡径部EPである。すなわち、拡径部EPでは、ボルト孔20の孔径が、板厚方向に沿って、頂面から底面に向かうに従って、徐々に大きくなる。なお、本開示では、第2変形例のテーパー部と第3変形例の段差部との組み合わせによって拡径部が構成されてもよい。
【0045】
(第4変形例)
図8に示すように、第4変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Dでは、座金部材18Dは、平座金部18D1と、補助座金部18D2と、を有する。
【0046】
(平座金部)
図9に示すように、平座金部18D1は、一方の面、すなわち頂面が高力ボルト14又はナット16に接するリング状の部材である。
【0047】
(補助座金部)
図10に示すように、補助座金部18D2は、平座金部18D1と第一鋼材11との間に配置されるリング状の部材である。補助座金部18D2は、拡径部EPとしての底部19Aと、底部19Aの外側から、高力ボルト14の側又はナット16の側、すなわち平座金部18D1の側に延びる側壁部19Bとを有する。補助座金部18D2には、底部19Aと側壁部19Bとによって、平座金部18D1に対応する凹部19Cが形成される。
【0048】
図8に示すように、補助座金部18D2の内径D´iは、平座金部18D1の外径とほぼ同じである。このため、平座金部18D1は、補助座金部18D2の凹部19Cの内側に嵌合する。また、補助座金部18D2の側壁部19Bの高さは、平座金部18D1の板厚twとほぼ同じである。第4変形例では、座金部材18Dの全体の板厚は、平座金部18D1の板厚twと、補助座金部18D2の底部19Aの板厚t´との和である。
【0049】
第4変形例では、補助座金部18D2のボルト孔20を形成する内壁面において、底部19Aの側の領域が平座金部18D1の側の領域よりも拡径されるように、段差部が形成される。段差部が形成された底部19Aは、座金部材18Dの拡径部EPである。補助座金部18D2の拡径部EPは、板厚方向全体に亘ってほぼ一定の孔径を有する。
図8中には、補助座金部18D2の底面の側の孔径d´sが例示されている。なお、本開示では、座金部材18Dのボルト孔20を形成する内壁面において、平座金部18D1の側の領域と補助座金部18D2の側の領域との両方が、第一ボルト孔11Bの孔径より拡径されてもよい。
【0050】
(第5変形例)
図11に示すように、第5変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Eでは、第4変形例と同様に、座金部材18Eが、平座金部18E1と補助座金部18E2とを有する。また、補助座金部18E2のボルト孔20を形成する内壁面において、底部19Aの側の領域が、平座金部18E1の側の領域よりも拡径される。具体的には、ボルト孔20の孔径が、板厚方向に沿って平座金部18E1の側から底面の側に向かうに従って徐々に大きくなるテーパー部が形成される点が、第4変形例と異なる。第5変形例では、テーパー部が形成された底部19Aは、座金部材18Eの拡径部EPである。
【0051】
第5変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Eの他の構造は、第4変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Dと同様であるため、重複説明を省略する。
【0052】
(第6変形例)
図12(A)に示すように、第6変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Fでは、2つの第二鋼材12のそれぞれの長手方向(すなわち、
図12中の左右方向)の端面同士が、隙間を空けて対向する。また、
図12(B)に示すように、2つの第二鋼材12が、第一鋼材11と第三鋼材13とに挟まれた状態で、4つの高力ボルト14によって摩擦接合された場合が例示されている。
図12(B)に示すように、第6変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Fの摩擦面の数は、2面である。
【0053】
第6変形例では、第一鋼材11と第三鋼材13とは、いわゆる添板として機能する。第6変形例における第一鋼材11と第二鋼材12と第三鋼材13とに例示されるように、本開示では、高力ボルト摩擦接合構造に用いられる被接合部材の個数は、適宜設定できる。
【0054】
(第7変形例)
図13に示すように、第7変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Gでは、第一鋼材11の板厚t1は、第二鋼材12の板厚t2より薄い。すなわち、本開示では、第7変形例のように、第一鋼材11の板厚と第二鋼材12の板厚とは、互いに異なってもよい。
図13中には、2つの座金部材18が、第一鋼材11と第二鋼材12との両方に接して配置された状態が例示されているが、本開示では、座金部材18は、少なくとも、板厚が薄い方の鋼材に接して配置されればよい。
【実施例0055】
<実験>
次に、表面処理としてりん酸塩処理が施された接合面における接触圧がすべり係数に及ぼす影響を確認するための実験について、
図14及び
図15を参照して説明する。
【0056】
ここで、高力ボルト接合部における接合面の接触圧は、ボルトからの距離に応じて異なる。具体的には、ボルトに近いほど接触圧が大きい。本実験は、接触圧がほぼ一定な摩擦面でのすべり係数を評価し、接触圧の違いがすべり係数へ及ぼす影響を把握するために行われた。
【0057】
本試験では、まず、3つの鋼板部材を重ね合わせた状態で、重ね合わせ部の接合面における接触圧の分布がほぼ均一となるように、接合面に対して接触圧を加えた。そして、接触圧をほぼ一定に保ったまま、接合面が面内方向にすべるように、3つの鋼板部材のうちの中央の鋼板部材に対して面内方向に荷重を加えることによって、すべり係数を測定した。また、本試験では、塗布型と浸漬型との2種類のりん酸塩処理のそれぞれについて測定した。
【0058】
図14中には、塗布型のりん酸塩処理の場合に得られた複数のデータ点から算出された近似直線が実線で、また、浸漬型のりん酸塩処理の場合に得られた複数のデータ点から算出された近似直線が破線で、それぞれ例示されている。
図14に示すように、塗布型と浸漬型とのりん酸塩処理のいずれも、接触圧が大きいほどすべり係数が小さくなることが分かった。特に、塗布型の方が、
図14中の近似直線の負の傾きが大きいように、接触圧の影響を大きく受けることが分かった。
【0059】
また、
図15に示すように、塗布型と浸漬型との2種類のりん酸塩処理のそれぞれにおいて、試験後の鋼材のミクロ断面を比較した。
図15中の上段には、塗布型のりん酸塩処理において、接触圧が25MPa、130MPa、300MPaの場合にそれぞれ得られたミクロ断面が例示されている。また、
図15中の下段には、浸漬型のりん酸塩処理において、接触圧が25MPa、130MPa、300MPaの場合にそれぞれ得られたミクロ断面が例示されている。
【0060】
図15に示すように、塗布型の場合、表層のりん酸塩処理層には空隙が散見された。空隙は、塗布薬剤が残存してポリマー化した層である。塗布型の場合、接触圧が大きくなるにつれ、表層の空隙が押し潰されていくことが分かった。すなわち、
図14中のグラフの結果と同様に、塗布型の場合、接触圧に応じて表層の様態が異なり、すべり係数の違いに影響を及ぼすことが分かった。
【0061】
一方、浸漬型の場合、表層は純粋なりん酸亜鉛のみで構成され、空隙は、ほとんど見られなかった。浸漬型の場合、接触圧の違いによる様態の変化は小さいこと、すなわち、塗布型よりも接触圧がすべり係数に及ぼす影響は小さいことが分かった。
【0062】
<解析例>
次に、本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造の解析例を、
図16~
図38を参照して説明する。解析では、高力ボルト摩擦接合構造をモデル化したFEM解析を行い、座金形状が接触圧分布に及ぼす影響を確認した。
図16に示すように、解析では、接合面であるXZ平面内の鋼材の変位を拘束すると共に、板厚方向であるY方向の変位のみ自由に設定した。
【0063】
なお、解析モデルでは、高力ボルトの軸の長さは、解析上の必要性に応じて、高力ボルトの頭部との付け根からナットに含まれる部分までの長さである。また、解析例での鋼材の引張強度は、40k鋼で設定した。ただし、本開示では、鋼材の引張強度は、これに限定されず、適宜変更できる。それぞれの高力ボルト摩擦接合構造の解析モデルのCASE(ケース)のパラメータを以下の表1に示す。
【0064】
【0065】
なお、CASE1及びCASE3におけるそれぞれのD-5のパターンは、各CASEにおける0のパターンと同様に、拡径部が形成されない比較例である。次に、表1中の解析モデルを用いて実施した解析例のそれぞれを以下に説明する。
【0066】
また、表1中、最上段の中央の「平座金部」の項目における孔径の欄には、「dw」及び「d´」の2種類の符号が記載されている。孔径dwは、座金部材の平座金部のボルト孔を全体的に見て、ボルト孔の頂面の側の孔径を表す。一方、孔径d´は、平座金部のボルト孔の底面の側の孔径を表す。表1中の各CASEにおいて、拡径部が形成されない0のパターンと、拡径部が形成されるA、A´及びDのパターンとでは、座金部材がいずれも、板厚方向全体に亘ってほぼ一定の孔径を有する1つの平座金部によって構成されるため、頂面の側の孔径dwと底面の側の孔径d´とのそれぞれの値は、同じである。
【0067】
また、表1中のCASE1及びCASE3において、平座金部の拡径部における頂面の側の孔径dwと底面の側の孔径d´とが異なるB及びCのパターンでは、頂面の側の孔径dwと底面の側の孔径d´とのそれぞれの値は、別々に表示されている。
【0068】
また、表1中のCASE1及びCASE3において、平座金部と補助座金部とを有するDのパターンでは、補助座金部の底面の側の孔径d´sが表示されている。Dのパターンでは、座金部材のボルト孔の頂面の側の孔径は、平座金部の頂面の側の孔径dwである。また、座金部材のボルト孔の底面の側の孔径は、補助座金部の底面の側の孔径d´sである。
【0069】
(第1解析例:接触圧分布について)
第1解析例では、接触圧分布を評価した。
図17中にはCASE1の解析モデルについて、
図18中にはCASE2の解析モデルについて、
図19中にはCASE3の解析モデルについて、それぞれの接触圧分布が例示されている。
【0070】
図17~
図19に示すように、いずれのCASEも同様の傾向が表れた。具体的には、各CASEにおいていずれも最も太い実線で描かれた「0」の解析モデルのように拡径部が形成されない場合、グラフの横軸が0mmの位置において接触圧が最大となると共に、横軸の値が大きくなるにつれて接触圧が小さくなる。
【0071】
一方、拡径部が形成された
図17中のCASE1のA-1~A-6の解析モデルでは、平座金部のボルト孔の孔径d´が大きくなるほど、接触圧のピーク位置がボルト孔から遠ざかった。また、平座金部のボルト孔の孔径d´が大きくなるほど、鋼材と座金部材とが接触する領域が鋼材のボルト孔縁から遠くなり、横軸が0mmの位置における接触圧が抑制された。また、同様の傾向が、
図18中のCASE2のA-1~A-7の解析モデル、及び、
図19中のCASE3のA-1~A-7の解析モデルにおいても確認された。
【0072】
(第2解析例:補助座金部について)
第2解析例では、補助座金部について評価した。
図20~
図24は、CASE1の解析モデルから得られた接触圧分布のグラフを示す。また、
図21及び
図23は、CASE3の解析モデルから得られた接触圧分布のグラフを示す。
【0073】
(1)補助座金部の板厚の影響
図20中には、CASE1の0、A-2、D-1~D-4の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、補助座金部の板厚t´と共に、それぞれ例示されている。また、
図21中には、CASE3の0、A-2、D-1~D-4の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、補助座金部の板厚t´と共に、それぞれ例示されている。
図20及び
図21に示すように、補助座金部の板厚t´が大きくなるほど、接触圧の影響範囲、すなわち接触圧影響範囲が大きくなり、接触圧のピーク値を抑制できることが確認された。
【0074】
(2)補助座金部の孔径の影響
図22中には、CASE1の0、A-2、D-5、D-2、D-6の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、補助座金部のボルト孔の底面側の孔径d´sと共に、それぞれ例示されている。また、
図23中には、CASE3の0、D-5、D-2、D-6の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、補助座金部のボルト孔の底面側の孔径d´sと共に、それぞれ例示されている。
図22及び
図23に示すように、補助座金部の底面の側の孔径d´sを第一鋼材の第一ボルト孔の孔径d(16mm)よりも拡径することによって、接触圧のピーク位置をボルトから遠ざけ、かつ接触圧影響範囲を大きくし、接触圧のピーク値を抑制できることが分かった。
【0075】
(3)補助座金部の外径の影響
図24中には、CASE1の0、D-7~D-9、D-2の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、補助座金部の外径D´と共に、それぞれ例示されている。
図24に示すように、補助座金部の外径D´を大きくすることで、補助座金部と鋼材との接触面積を大きくし、接触圧の影響範囲を大きくすることができ、接触圧のピーク値を抑制できることが分かった。
【0076】
(換算すべり係数)
次に、
図14から得られた知見と、第1解析例及び第2解析例の結果を用いて設定された、本実施形態で用いられる換算すべり係数の算出方法を、
図25を参照して説明する。
【0077】
具体的には、
図14中で例示された、微小区間での接触圧とそれに対応するすべり係数とを掛け合わせることによって、微小区間でのすべり耐力を算出できる。算出されたすべり耐力を、以下の換算式を用いて、接触圧が生じている範囲内で累積すると共に、高力ボルトの張力で除すことによって、見かけのすべり係数としての換算すべり係数μ´を算出することができる。
【0078】
(換算式)
【数1】
σ(x):摩擦面の接触圧分布
μ´(x):摩擦面のすべり係数分布
N:ボルトによる接触力の合計値
x:鋼材のボルト孔縁からの距離
l:接触圧が発生している範囲の長さ
μ´:換算すべり係数
【0079】
図25中には、
図14中の塗布型のりん酸塩処理の試験から得られた実験値と、それぞれの実験値と対応する換算すべり係数μ´とを表す3つのデータ点が、黒丸で例示されている。また、
図25中には、
図14中の浸漬型のりん酸塩処理の試験から得られた実験値と、それぞれの実験値と対応する換算すべり係数μ´とを表す2つのデータ点が、薄い灰色のデータ点で例示されている。
【0080】
図25に示すように、換算すべり係数μ´と実験値とは、概ね1対1の良好な対応であること、すなわち、上記の換算式を用いて実際のすべり係数を概ね具体的に評価できることが分かった。以下の解析例では、各解析結果における換算すべり係数μ´を比較し、諸パラメータが換算すべり係数μ´に及ぼす影響を確認した。
【0081】
(第3解析例:孔径比と換算すべり係数との関係について)
第3解析例では、孔径比と換算すべり係数との関係について評価した。孔径比は、座金部材における平座金部の底面の側の孔径d´又は補助座金部の底面の側の孔径d´sを、第一鋼材の第一ボルト孔の孔径dで除すことによって得ることができる。
【0082】
図26中には、CASE1の0、A-1~A-6の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。また、
図26中には、CASE2の0、A-1~A-7の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。また、
図26中には、CASE3の0、A-1~A-7の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い四角形(◇)で例示されている。
【0083】
図26に示すように、座金部材の孔径を拡径することで、換算すべり係数μ´を大きくできることが確認された。一方、いずれのCASEでも、特定の孔径において、換算すべり係数μ´がピークを有することが分かった。
【0084】
(第4解析例:補助座金部と換算すべり係数との関係について)
第4解析例では、補助座金部と換算すべり係数との関係について評価した。
【0085】
(1)補助座金部の孔径の影響
具体的には、補助座金部の孔径の影響を、孔径比を用いて解析した。
図27中には、CASE1のD-2、D-5、D-6の解析モデルにおいて得られた孔径比d´s/dと、孔径比d´s/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。また、
図27中には、CASE1の0の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い三角形(△)で例示されている。
【0086】
また、
図27中には、CASE3のD-3、D-5、D-6の解析モデルにおいて得られた孔径比d´s/dと、孔径比d´s/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。また、
図27中には、CASE3の0の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白丸(〇)で例示されている。
【0087】
図27に示すように、孔径比が大きくなるほど、換算すべり係数μ´が大きくなることが確認された。また、第一鋼材の板厚t1が比較的小さいCASE1の場合、ピーク値が形成されることが確認された。
【0088】
(2)補助座金部の板厚の影響
具体的には、補助座金部の板厚の影響を、板厚比を用いて解析した。板厚比は、座金部材における平座金部の板厚tw又は補助座金部の底部の板厚t´を、第一鋼材の板厚t1で除すことによって得ることができる。
【0089】
図28中には、CASE1のD-1~D-4の解析モデルにおいて得られた板厚比t´/t1と、板厚比t´/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。また、
図28中には、CASE3のD-1~D-4の解析モデルにおいて得られた板厚比t´/t1と、板厚比t´/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。
【0090】
図28に示すように、板厚比が大きいほど、換算すべり係数μ´が大きくなることが確認された。
【0091】
(3)補助座金部の外径の影響
具体的には、補助座金部の外径の影響を、第一鋼材の第一ボルト孔の孔径に対する外径比を用いて解析した。外径比は、座金部材における平座金部の外径Dw又は補助座金部の外径D´を、第一鋼材の第一ボルト孔の孔径dで除すことによって得ることができる。
【0092】
図29中には、CASE1のD-2、D-7~D-9の解析モデルにおいて得られた、外径比D’/dと、外径比D’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。また、
図29中には、CASE1の0の解析モデルにおいて得られた外径比Dw/dと、外径比Dw/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い三角形(△)で例示されている。
【0093】
図29に示すように、外径比D’/dが大きくなるほど、換算すべり係数が大きくなることが確認された。また、外径比D’/dの大きさが特定の値を超えると、換算すべり係数μ´は、ほとんど変わらない、換言すると、飽和することが分かった。これは、接触圧の影響範囲が、ほとんど変わらないためである。
【0094】
(第5解析例:対板厚孔径差について)
第5解析例では、それぞれの解析モデルにおける対板厚孔径差dx/t1と換算すべり係数μ´との関係について評価した。孔径差dxは、拡径部の第一鋼材の側の孔径、すなわち、座金部材における平座金部の底面の側の孔径d´又は補助座金部の底面の側の孔径d´sと、第一鋼材のボルト孔の孔径dとの差である。また、対板厚孔径差dx/t1は、孔径差dxを第一鋼材の板厚t1で除すことによって得ることができる。
【0095】
また、
図30中の縦軸は、換算すべり係数比を示す。換算すべり係数比は、それぞれのCASEの換算すべり係数μ´を、同じCASE内の比較例のCASEの0における換算すべり係数μ´で除すことによって算出される。
【0096】
図30中には、CASE1の0、A-1~A-6の解析モデルにおいて得られた対板厚孔径差dx/t1と、対板厚孔径差dx/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。また、
図30中には、CASE2の0、A-1~A-7の解析モデルにおいて得られた対板厚孔径差dx/t1と、対板厚孔径差dx/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。また、
図30中には、CASE3の0、A-1~A-7の解析モデルにおいて得られた対板厚孔径差dx/t1と、対板厚孔径差dx/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い四角形(◇)で例示されている。
【0097】
また、
図30中には、CASE1のD-2、D-5、D-6の解析モデルにおいて得られた対板厚孔径差dx/t1と、対板厚孔径差dx/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、薄い灰色の三角形で例示されている。また、
図30中には、CASE3のD-3、D-5、D-6の解析モデルにおいて得られた対板厚孔径差dx/t1と、対板厚孔径差dx/t1に対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、薄い灰色の丸で例示されている。
【0098】
図30に示すように、いずれのCASEでも、対板厚孔径差dx/t1が0.50~1.50付近で、換算すべり係数μ´がピークを有することが確認された。
【0099】
また、
図30の結果より、本実施形態では、対板厚孔径差dx/t1が、0超、1.5以下である場合、拡径部が形成されない比較例の場合に比べて1.0倍以上のすべり係数を得られることが分かった。対板厚孔径差dx/t1が、下限値の0以下の場合、又は、上限値の1.5を超えると、1.0以上のすべり係数を得られない場合がある。なお、本開示では、対板厚孔径差dx/t1が、1.5を超えてもよい。
【0100】
(第6解析例:板厚増大方法の比較について)
第6解析例では、接合部の板厚を増大する方法と換算すべり係数μ´との関係について評価した。具体的には、
図31に示すように、それぞれ締付け厚が同じであるように、補助座金部によって板厚を増大させた場合と鋼材の板厚を増大させた場合とにおいて、孔径比を用いてそれぞれの板厚増大方法における換算すべり係数μ´を評価した。
【0101】
図31中には、CASE1のD-2、D-5、D-6の解析モデルにおいて得られた孔径比d´s/dと、孔径比d´s/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い四角形(◇)で例示されている。また、
図31中には、CASE2の0、A-2、A-4の解析モデルにおいて得られた孔径比d’/dと、孔径比d’/dに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。
【0102】
図31中において孔径比が約1.1以上の範囲の結果から分かるように、孔径比が比較的大きい範囲においては、補助座金部を用いる板厚増大方法の方が、換算すべり係数μ´が、鋼材の板厚を増大させる方法より、小さくなることが分かった。
図31に示すように換算すべり係数μ´が小さくなる理由は、第5解析例で説明したように、換算すべり係数μ´が、ピークを越えるためである。
【0103】
また、第6解析例では、補助座金部を用いる場合、孔径比が1.1程度を超えると、逆にすべり係数が低下した。このため、補助座金部の仕様は、対板厚孔径差dx/t1が、0超、1.5以下の範囲内で設定されることが好ましいことが分かった。
【0104】
(第7解析例:段差部とテーパー部とについて)
第7解析例では、拡径部をそれぞれ形成する段差部とテーパー部とについて評価した。具体的には、段差部又はテーパー部の高さ比を用いて解析した。高さ比e/twは、座金部材における平座金部の段差部又はテーパー部の高さeを、平座金部の板厚twで除すことによって得ることができる。
【0105】
図32中には、CASE1の0の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白丸(〇)で例示されている。また、
図32中には、CASE1のB-1~B-3の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、薄い灰色の丸で例示されている。
【0106】
また、
図32中には、CASE1のC-1~C-4の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒丸(●)で例示されている。また、
図32中には、CASE3の0の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、白い三角形(△)で例示されている。
【0107】
また、
図32中には、CASE3のB-1~B-3の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、薄い灰色の三角形で例示されている。また、
図32中には、CASE3のC-1~C-4の解析モデルにおいて得られた高さ比e/twと、高さ比e/twに対応する換算すべり係数μ´とを表すデータ点が、黒い三角形(▲)で例示されている。
【0108】
図32に示すように、いずれのCASEにおいても、段差部又はテーパー部の高さ比e/twが変わっても、ほぼ同じと見做せる程度の換算すべり係数μ´を得ることができた。すなわち、段差部及びテーパー部の高さ比e/twの換算すべり係数μ´に対する影響は、比較的小さいことが確認された。
【0109】
(第8解析例:接触面積の違いについて)
第8解析例では、接触面積の違いと換算すべり係数μ´との関係について評価した。
【0110】
図33中には、CASE1のA-2の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、実線で、また、CASE1のA-2´の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、破線で、それぞれ例示されている。また、
図34中には、CASE1のA-3の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、実線で、また、CASE1のA-3´の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、破線で、それぞれ例示されている。
【0111】
図35中には、CASE1のA-4の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、実線で、また、CASE1のA-4´の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、破線で、それぞれ例示されている。また、
図36中には、CASE1のA-5の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、実線で、また、CASE1のA-5´の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、破線で、それぞれ例示されている。また、
図37中には、CASE1のA-6の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、実線で、また、CASE1のA-6´の解析モデルにおいて得られた接触圧分布が、破線で、それぞれ例示されている。
【0112】
表1中のA´-2~A´-6の解析モデルは、座金部材と鋼材との接触面積がCASE0と同一となるように、座金部材の外径を調整したものである。一方、A-2~A-6の解析モデルは、CASE0と同じ外径(32mm)を有する。
図33~
図37に示すように、A´-2~A´-6の接触面積の方がA-2~A-6の解析モデルの接触面積より大きいため、接触圧の影響範囲が大きくなり、結果、接触圧のピーク値の絶対値が小さくなることが分かる。
【0113】
また、
図38に示すように、〇で例示されたA´-2~A´-6の解析モデルの換算すべり係数μ´の方が、●で例示されたA-2~A-6の解析モデルの換算すべり係数μ´より大きい。一方、換算すべり係数μ´のピーク位置は、ほぼ同じである。すなわち、孔径比が大きいほど、A-2~A-6の解析モデルの換算すべり係数μ´とA´-2~A´-6の解析モデルの換算すべり係数μ´との差が大きくなる。これは、接触面積が一定であるA´-2~A´-6の解析モデルの場合に比べ、A-2~A-6の解析モデルにおけるそれぞれの接触面積が、孔径が大きいほど小さくなるためである。
【0114】
図33~
図38に示すように、同じ外径の場合、内径を大きくすると接触圧のピークが高まり、すべり係数を低下させる場合があること、ただし、外径を大きくして接触面積を増やせばすべり係数を向上できることが分かった。このため、座金部材のボルト孔を拡径する際は、外径も大きくすることによって接触面積を確保することが好ましい。
【0115】
なお、表1中に記載された解析例の結果は、いずれも1つの高力ボルト摩擦接合構造に一対の座金部材が設けられた状態で得られた。一方、開示を省略するが、実際には、1つの高力ボルト摩擦接合構造に1つのみの座金部材が設けられた状態でも解析を行った。解析の結果、1つの高力ボルト摩擦接合構造に1つのみの座金部材が設けられた場合であっても、一対の座金部材が設けられた場合と同様に、接合部のすべり係数の向上を確認できた。
【0116】
(作用効果)
本実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造10では、第一鋼材11は、第一ボルト孔11Bの周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面11Aを有する。また、第一鋼材11に接する座金部材18のボルト孔20において、第一接合面11Aの側である底面の側に、第一ボルト孔11Bの孔径d以上の孔径d´を有する拡径部EPが形成される。
【0117】
拡径部EPが形成された座金部材18によって、接触圧のピークの位置が、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの縁から外側にシフトする。このため、本実施形態の接触圧の分布では、ピークの位置から外側に向かうに従って接触圧が漸減するパターンの領域が、座金部材18のボルト孔20の孔径が第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径未満である場合より、外側にシフトする。また、接触圧のピークの位置と第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの縁との間にも、接触圧が外側から内側に向かって漸減するパターンが形成される。結果、表面処理が施された接合面の中で、接触圧が分布する領域の面積が増える。
【0118】
このため、表面処理によって得られるすべり係数向上効果を、座金部材18のボルト孔20の孔径が第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径未満である場合と比べ、より活用できる。よって、接合部のすべり係数を効率的に向上できる。
【0119】
また、本実施形態では、接触圧が分布する領域の面積が増えることによって、座金部材18と第一鋼材11との接触面積が同じ場合、ピークの絶対値を減らす効果も得られる。また、本実施形態では、すべり係数の向上を図る手段として、拡径部EPを形成するだけで済むので、鋼材の変形や加工が不要である。
【0120】
また、第4変形例及び第5変形例のように、座金部材18が、平座金部18D1と補助座金部18D2とを有する場合、補助座金部18D2の底部19Aの板厚t´の分だけ締付厚が増えるので、鋼材同士の接触分布範囲が広がり、結果、すべり係数が向上する。特に、鋼材の厚みが比較的薄い場合、すべり係数の向上効果が大きい。
【0121】
また、補助座金部18D2の側壁部19Bの径方向に沿った幅の分、座金部材18における第一鋼材11と接触する側の底面の面積を大きくできる。このため、すべり係数が、更に向上する。
【0122】
また、補助座金部18D2の凹部19Cによって、施工時、平座金部18D1のボルト孔と補助座金部18D2のボルト孔とを位置合わせし易い。このため、ボルト孔同士の芯ずれを抑制できる。
【0123】
また、一般的な高力ボルトセットに含まれる平座金を、本実施形態の平座金部18D1として流用することができる。このため、平座金を支持する補助座金部18D2のみを用意するだけで、本実施形態の座金部材18を、手間と負担とを抑えて簡易に構成できる。
【0124】
また、本実施形態では、
図30を用いて説明したように、対板厚孔径差dx/t1が、0超、1.5以下である。このため、拡径部EPの底面の側の孔径d´、第一鋼材11の第一ボルト孔11Bの孔径d、及び第一鋼材11の板厚t1を考慮して、接合部のすべり係数を効率的に向上できる。
【0125】
また、本実施形態では、第一鋼材11が、りん酸塩処理が施されためっき鋼板である。
図9に示すように、本実施形態は、りん酸塩処理が施されためっき鋼板を含む高力ボルト摩擦接合構造10における接合部のすべり係数の向上において、特に有利である。
【0126】
また、本実施形態では、
図5に示すように、拡径部EPを有する座金部材18が高力ボルト14の頭部側とナット16側とのうち少なくとも一方に配置されることによって、すべり係数向上効果を得ることができる。ただし、
図1に示すように、高力ボルト摩擦接合構造10が一対の座金部材18を備えることによって、1つのみの座金部材18が配置される高力ボルト摩擦接合構造10と比べ、すべり係数を更に向上できる。
【0127】
また、第7変形例に示すように、第一鋼材11の板厚t1は、第二鋼材12の板厚t2より薄くてもよい。2つの鋼材の厚みが異なる場合、本実施形態の座金部材18は、少なくとも、板厚が薄い方の鋼材に接して配置される。このため、第7変形例に係る高力ボルト摩擦接合構造10Gによれば、座金部材18が、板厚が厚い方の鋼材にのみ接して配置される場合に比べ、すべり係数の向上効果が大きい。
【0128】
<その他の実施形態>
本開示は、上記の実施形態によって説明されたが、この説明は、本開示を限定するものではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
【0129】
例えば、
図1~
図38中に示した構成を部分的に組み合わせて、本開示を構成することもできる。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0130】
≪付記≫
本明細書からは、以下の態様が概念化される。
【0131】
態様1は、
第一ボルト孔の周囲に接触圧が小さいほどすべり係数が大きくなる表面処理が施された第一接合面を有する第一鋼材と、
前記第一鋼材の前記第一接合面に重ねられる第二接合面と、第二ボルト孔とを有する第二鋼材と、
前記第一鋼材と前記第二鋼材とを摩擦接合させる高力ボルト及びナットと、
前記第一鋼材に接し、前記第一接合面の側に前記第一ボルト孔の孔径以上の孔径を有する拡径部が形成されたボルト孔を有する座金部材と、
を備える、高力ボルト摩擦接合構造。
【0132】
態様2は、
前記座金部材は、
一方の面が前記高力ボルト又は前記ナットに接する平座金部と、
前記平座金部と前記第一鋼材との間に配置され、前記拡径部としての底部と、前記底部の外側から前記高力ボルトの側又はナットの側に延びる側壁部とを有し、前記底部と前記側壁部とによって前記平座金部に対応する凹部が形成された補助座金部と、を有する、
態様1の高力ボルト摩擦接合構造。
【0133】
態様3は、
前記拡径部の前記第一鋼材の側の孔径と前記第一ボルト孔の孔径との孔径差をdx、前記第一鋼材の板厚をt1としたとき、 前記孔径差dxを前記板厚t1で除した、対板厚孔径差dx/t1は、0超、1.5以下である、
態様1又は2の高力ボルト摩擦接合構造。
【0134】
態様4は、
前記第一鋼材は、めっき鋼板であり、
前記表面処理は、りん酸塩処理である、
態様1~3のいずれかの高力ボルト摩擦接合構造。
【0135】
態様5は、
一対の前記座金部材を備え、
一対の前記座金部材のうち一方の前記座金部材は、前記高力ボルトの頭部と前記第一鋼材との間に配置され、
他方の前記座金部材は、前記ナットと前記第二鋼材との間に配置される、
態様1~4のいずれかの高力ボルト摩擦接合構造。
【0136】
態様6は、
前記第一鋼材の板厚は、前記第二鋼材の板厚より薄い、
態様1~5のいずれかの高力ボルト摩擦接合構造。