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特開2024-62264車両の制御方法及び車両の制御システム
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  • 特開-車両の制御方法及び車両の制御システム 図1
  • 特開-車両の制御方法及び車両の制御システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062264
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/27 20190101AFI20240430BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20240430BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20240430BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240430BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240430BHJP
   G01C 21/36 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B60L58/27
B60L58/12
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L15/20 J
G01C21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170140
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 容康
【テーマコード(参考)】
2F129
5H125
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129DD49
2F129EE02
2F129EE57
2F129EE72
2F129EE78
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB00
5H125BC19
5H125CA18
5H125CD09
5H125DD18
5H125DD19
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE51
5H125EE61
5H125FF27
(57)【要約】
【課題】バッテリの暖機を効率良く行える車両の制御方法を提供する。
【解決手段】車両駆動用のモータを含む電動パワートレインと、モータに電力を供給可能なバッテリとを備え、バッテリの暖機を実行可能な車両の制御方法が提供される。この制御方法では、バッテリ温度が所定の値以下の場合に、車両の走行シーン及びバッテリのSOCに基づき、バッテリの暖機を実行するか否かを判断し、暖機を実行すると判断した場合、電動パワートレインからの廃熱を利用してバッテリを暖機するように制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用のモータを含む電動パワートレインと、前記モータに電力を供給可能なバッテリとを備え、前記バッテリの暖機を実行可能な車両の制御方法であって、
前記バッテリ温度が所定の値以下の場合に、前記車両の走行シーン及び前記バッテリのSOCに基づき、前記バッテリの暖機を実行するか否かを判断し、
前記暖機を実行すると判断した場合、前記電動パワートレインからの廃熱を利用して前記バッテリを暖機するように制御する、
車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記バッテリ温度が所定の値以下であって、前記走行シーンとして、前記電動パワートレインの発熱量が所定の値よりも小さいシーンであって、且つ前記バッテリのSOCが第1の所定値以下である場合、前記バッテリの暖機を実行すると判断し、
前記電動パワートレインの損失を増加させて前記電動パワートレインの廃熱を増加させ、前記バッテリの暖気を実行する、
車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記車両は、道路情報を取得するナビゲーション装置を備え、
前記バッテリ温度が所定の値以下であって、前記走行シーンとして、前記道路情報から、前記車両が高速道路の手前を走行中、高速道路を走行中、登坂路または降坂路を走行中のいずれかのシーンであると判断され、且つ前記バッテリのSOCが第1の所定値以下の場合、前記バッテリの暖機を実行すると判断する、
車両の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御方法であって、
前記走行シーンとして、前記車両が高速道路の手前を走行中、登坂路または降坂路を走行中のいずれかのシーンであると判断され、前記バッテリの暖機を実行する場合、前記電動パワートレインの損失を増加させて前記電動パワートレインの廃熱を増加させ、前記バッテリの暖機を実行し、
前記走行シーンとして、前記車両が高速道路を走行中であると判断され、前記バッテリの暖機を実行する場合、前記電動パワートレインの損失を増加させずに前記バッテリの暖機を実行する、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御方法であって、
前記バッテリ温度が所定の値以下であって、前記車両が降坂路を走行中であり、且つ前記バッテリのSOCが前記第1の所定値以下の場合、当該降坂路の走行時には、登坂路の走行時よりも前記電動パワートレインの損失を増加させて、前記電動パワートレインの廃熱をより増加させる、
車両の制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記車両は、道路情報を取得するナビゲーション装置を備え、
前記バッテリ温度が所定の値以下であり、前記走行シーンとして、前記道路情報から、前記車両から所定の距離内に充電設備があるシーンと判断されて、且つ前記バッテリのSOCが第1の所定値以下の場合、前記バッテリの暖機を実行すると判断する、
車両の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の制御方法であって、
前記車両から所定の距離内に充電設備があると判断されて、前記バッテリの暖機を実行する場合、前記バッテリのSOCが前記第1の所定値より小さい第2の所定値以下のときは、前記電動パワートレインの損失をより増加させて、前記電動パワートレインの廃熱をより増加させる、
車両の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の車両の制御方法であって、
前記車両から所定の距離内に充電設備があると判断されて、前記バッテリの暖機を実行する場合、前記バッテリのSOCが前記第2の所定値よりも大きい第3の所定値以上であって、前記第1の所定値以下の場合、前記電動パワートレインの損失をより増加させて、前記電動パワートレインの廃熱をより増加させる、
車両の制御方法。
【請求項9】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記車両は、前記電動パワートレインの廃熱を回収し、前記バッテリに伝達する冷媒回路と、前記冷媒回路を流れる冷媒を、少なくとも、第1の圧縮量、または前記第1の圧縮量よりも圧縮量の小さい第2の圧縮量に圧縮する圧縮機とを備え、
前記バッテリの暖機を実行すると判断した場合、前記電動パワートレインのモータの電流値が所定の値よりも大きいときは、前記冷媒を前記第1の圧縮量に圧縮し、前記電動パワートレインのモータの電流値が前記所定の値以下のときは、前記冷媒を前記第2の圧縮量に圧縮するとともに、前記電動パワートレインの損失を増加させる、
車両の制御方法。
【請求項10】
バッテリの暖機を実行可能な車両の制御システムであって、
車両駆動用のモータを含む電動パワートレインと、
前記モータに電力を供給可能な前記バッテリと、
前記電動パワートレインの廃熱を回収し、前記バッテリに伝達可能な冷媒回路と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記バッテリ温度が所定の値以下の場合に、前記車両の走行シーン及び前記バッテリのSOCに基づき、前記バッテリの暖機を実行するか否かを判断し、前記暖機を実行すると判断した場合、前記電動パワートレインの廃熱により前記バッテリを暖機するように制御する、
車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御方法及び車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両に用いられるバッテリは、外気温が低い場合等、低温状態では、充電効率等の性能が低下する。しかしながら、PTCヒータ等の加熱装置を用いてバッテリを暖機する場合、バッテリからのエネルギー消費が大きく、燃費の低下を引き起こす虞がある。
【0003】
特許文献1には、ヒートポンプシステムとバッテリ温度調整用の冷媒経路を接続し、ヒートポンプシステムによりパワートレイン等からの廃熱をバッテリに提供することで、PTCヒータ等の加熱装置を用いることなくバッテリを暖機する熱制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US2019/0070924 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の制御システムは、車両の走行シーンを考慮して廃熱を利用したバッテリの暖機を行うことが考慮されていない。このため、バッテリの充電性能よりも電動パワートレインの効率を優先させるべき走行シーンにおいて、バッテリの暖機のための廃熱を増加させるために電動パワートレインの損失を増加させてしまう虞がある。即ち、廃熱によるバッテリの暖機を実行することで、電動パワートレインの効率が低下し、車両の運転効率が低下する虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みたものであり、バッテリの暖機を効率良く行える車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、車両駆動用のモータを含む電動パワートレインと、モータに電力を供給可能なバッテリとを備え、バッテリの暖機を実行可能な車両の制御方法が提供される。この制御方法では、バッテリ温度が所定の値以下の場合に、車両の走行シーン及びバッテリのSOCに基づき、バッテリの暖機を実行するか否かを判断し、暖機を実行すると判断した場合、電動パワートレインからの廃熱を利用してバッテリを暖機するように制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動パワートレインからの廃熱を利用したバッテリの暖機を実行するか否かを、車両の走行シーン及びバッテリのSOCに基づき判断する。これにより、廃熱を利用したバッテリの暖機を実行するのに適した走行シーンにおいて、当該暖機を行うことができるため、バッテリの暖機を効率良く行うことができ、車両の運転効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態の車両の制御システムの概略構成図である。
図2図2は、本実施形態のバッテリ暖機制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態による車両の制御方法が適用される制御システム100の概略構成図である。制御システム100は、主に、電気自動車等に搭載される。図1に示すように、制御システム100は、電動パワートレイン10、バッテリ20、電動パワートレイン10とバッテリ20との間に配置されたヒートポンプユニット30、ナビゲーション装置40及びコントローラ50を備える。
【0012】
電動パワートレイン10は、モータ11及びインバータ12を含む。モータ11は、例えば3相モータであり、制御システム100が搭載される車両の駆動輪(図示しない)を駆動する電動機である。インバータ12は、モータ11に電気的に接続され、バッテリ20が出力する直流電力を交流電力に変換してモータ11に供給することにより、モータ11を駆動する。また、モータ11が駆動輪に連れ回されて回転するときには、インバータ12は、モータ11で生じる交流の回生電力を直流電力に変換してバッテリ20に入力することにより、バッテリ20を充電する。なお、インバータ12の動作は、後述のコントローラ50により制御される。
【0013】
また、電動パワートレイン10は、図示しない電動パワートレイン冷却水路上に配置され、電動パワートレイン冷却水路を流れる冷却水により冷却される。電動パワートレイン冷却水路は、その一部のルートが後述のヒートポンプユニット30内を通り、冷却水がヒートポンプユニット30内の電動パワートレイン冷却水路を流れる否かは、不図示の水路切り替え弁によって制御される。冷却水が、ヒートポンプユニット30内の電動パワートレイン冷却水路を流れる場合、冷却水によって回収された電動パワートレイン10の廃熱が、ヒートポンプユニット30に伝達される。なお、電動パワートレイン冷却水路の水路切り替え弁は、後述のコントローラ50により制御される。
【0014】
バッテリ20は、インバータ12を介してモータ11に電気的に接続される。バッテリ20は、モータ11に電力を供給し、モータ11は、バッテリ20から供給される電力により回転駆動し、モータ11の動力により車両が走行する。なお、バッテリ20には、バッテリ20の温度を検出するバッテリ温度センサが備えられている。また、インバータ12とバッテリ20とを電気的に接続する配線上には、バッテリ20の電流値を検出する不図示のバッテリ電流センサが設けられている。バッテリ温度センサにより検出されたバッテリ20の温度、及びバッテリ電流センサにより検出されたバッテリ20の電流値は、後述するコントローラ50に送信される。
【0015】
また、バッテリ20は、図示しないバッテリ冷却水路上に配置され、バッテリ冷却水路を流れる冷却水により冷却される。また、バッテリ冷却水路は、その一部のルートが後述のヒートポンプユニット30内を通り、冷却水がヒートポンプユニット30内のバッテリ冷却水路を流れるか否かは、不図示の水路切り替え弁によって制御される。冷却水がヒートポンプユニット30内のバッテリ冷却水路を流れる場合、電動パワートレイン10の廃熱がヒートポンプユニット30を介して当該冷却水に回収される。この場合、バッテリ冷却水路を流れる冷却水により回収された電動パワートレイン10の廃熱により、バッテリ20が暖機される。なお、バッテリ冷却水路の水路切り替え弁は、後述のコントローラ50により制御される。
【0016】
ヒートポンプユニット30は、電動パワートレイン10からの廃熱をバッテリ20に伝熱するユニットであるが、例えば、空調装置に用いられるものを用いることができる。図1に示すように、ヒートポンプユニット30は、冷媒回路31を備える。冷媒回路31は、冷媒が循環する回路であり、冷媒回路31上には、蒸発器32、電動コンプレッサ33、凝縮器34、膨張弁35がこの順で設けられている。
【0017】
蒸発器32は、冷媒回路31上、且つパワートレイン冷却水路上に設けられ、パワートレイン冷却水路を流れる冷却水から電動パワートレイン10の廃熱を吸収して、冷媒回路31を流れる冷媒に伝達し、冷媒を蒸発させる。
【0018】
電動コンプレッサ33は、冷媒回路31を流れる冷媒(ガス)を圧縮し、高温高圧にして出力する圧縮機である。電動コンプレッサ33は、冷媒回路31を流れる冷媒を、圧縮量が大きい第1の圧縮量、または、第1の圧縮量よりも圧縮量が小さい第2の圧縮量に圧縮する。但しこれに限られず、冷媒回路31を流れる冷媒を、さらに上記2種の圧縮量以外の圧縮量(即ち、3種以上の圧縮量)にも圧縮可能に構成されていてもよい。なお、電動コンプレッサ33の動作は、後述のコントローラ50により制御される。
【0019】
凝縮器34は、冷媒回路31上、且つバッテリ冷却水路上に設けられ、電動コンプレッサ33により高温高圧に圧縮された冷媒(ガス)を、バッテリ冷却水路を流れる冷却水により冷却し、凝縮液化する。即ち、凝縮器34は、冷媒の熱を、バッテリ冷却水路を流れる冷却水に放出する熱交換器である。凝縮器34により、電動パワートレイン10の廃熱は、冷媒を介してバッテリ冷却水路を流れる冷却水に伝達される。バッテリ冷却水路を流れる冷却水に伝達された電動パワートレイン10の廃熱により、バッテリ20は暖機される。
【0020】
膨張弁35は、冷媒回路31を流れる冷媒を、微小な孔を通すことで急激に膨張させ、低温低圧にする。
【0021】
ナビゲーション装置40は、地図データベース及び地球測位システム(GPS)等から自車両の現在位置を取得し、取得した自車両の現在位置に基づき、自車両の周囲の道路情報や交通情報を取得する。ナビゲーション装置40により取得された道路情報等は、後述のコントローラ50に送信される。
【0022】
コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RΑM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1または複数のコンピュータで構成される。本実施形態では、コントローラ50は、必要に応じてパワートレイン冷却水路及びバッテリ冷却水路の水路切り替え弁、インバータ12、及び電動コンプレッサ33を制御することにより、電動パワートレイン10の廃熱を利用したバッテリ20の暖機制御(以下、バッテリ20の暖機制御ともいう)を実行するようにプログラムされている。なお、ここでのバッテリ20の暖機制御とは、バッテリ20の温度を上昇させる温調制御を言い、バッテリ20の起動時だけでなく、車両の走行中に、バッテリ20の温度を上昇させる制御を含む。
【0023】
また、コントローラ50は、バッテリ電流センサからバッテリ20の電流値を取得し、当該電流値に基づきバッテリ20の充電容量(SOC)を算出し、取得する。また、車両の制御システム100が搭載される車両は、不図示のアクセル開度センサを備え、コントローラ50は、アクセル開度センサから適宜アクセル開度を取得する。また、車両の制御システム100が搭載される車両は、モータ11の相電流を検出する不図示の相電流センサを備え、コントローラ50は、相電流センサから適宜モータ11の相電流を取得するとともに、モータ11の電流値を算出し、取得する。さらに、コントローラ50は、バッテリ温度センサからバッテリ20の温度を、ナビゲーション装置40から道路情報等を取得する。
【0024】
上記の通り構成された車両の制御システム100では、電動パワートレイン10の廃熱をヒートポンプユニット30の冷媒回路31を介してバッテリ20に伝達することで、バッテリ20を暖機することができる。即ち、PTCヒータ等の加熱装置を用いることなくバッテリ20を暖機することができる。
【0025】
ところで、バッテリが低温の場合に、常に電動パワートレインの廃熱を利用した暖機を実行すると、バッテリの出力性能や充電性能よりも電動パワートレインの効率を優先させるべき走行シーンにおいて、バッテリの暖機のための廃熱を増加させるために電動パワートレインの損失を増加させてしまう虞がある。即ち、バッテリの暖機のために、車両の運転効率が低下し、燃費が低下してしまう虞がある。
【0026】
一方、電動パワートレインの効率よりも、バッテリの出力性能や充電性能を優先させるべき走行シーンにおいて、電動パワートレインの効率を最適化した運転制御を実行すると、バッテリの暖機に必要な廃熱が得られなくなる虞がある。即ち、電動パワートレインを効率化することで、バッテリを暖機できず、バッテリの出力性能や充電性能が低下し、却って運転効率が低下する虞がある。
【0027】
そこで、本実施形態においては、バッテリ20の温度が所定の値以下の場合に、車両の走行シーン及びバッテリ20のSOCに基づき、バッテリ20の暖機を実行するか否かを判断し、暖機を実行すると判断した場合、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機することとした。これにより、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行するのに適した走行シーンにおいて、当該暖機を行うことができるため、バッテリ20の暖機を効率良く行うことができ、車両の運転効率が向上する。
【0028】
以下、本実施形態のバッテリ暖機制御の詳細を説明する。
【0029】
上記の通り、本実施形態では、バッテリ20の温度が所定の値(以下、温度閾値Tthまたは閾値Tthともいう)以下の場合に、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機(以下、廃熱を利用した暖機ともいう)を実行するか否かを、車両の走行シーン及びバッテリ20のSOCに基づき判断する。具体的には、バッテリ20が温度閾値Tth以下であって、所定の走行シーンであり、且つバッテリ20のSOCが第1の所定の値(以下、第1閾値ともいう)SOCth1以下である場合に、廃熱を利用した暖機を実行するものと判断し、暖機を実行する。そして、廃熱を利用した暖機を実行する所定の走行シーンは、具体的には、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値よりも小さいシーン、自車両が高速道路の手前を走行中、高速道路を走行中、登坂路または降坂路を走行中、及び自車両から所定の距離内に充電設備があるシーンのいずれかのシーンに設定される。なお、バッテリ20の温度閾値Tthは、例えば、バッテリ20の温度がこれ以上下がった場合に、バッテリ20の性能(出力性能、充電性能)に影響が出るような温度に設定され、実験等により決定することができる。また、バッテリ20のSOCの第1閾値SOCth1はある程度低い値に設定され、例えば、ドライバ等がバッテリ20を充電することを考慮し得る程度の値に設定することができるが、これに限られない。
【0030】
電動パワートレイン10(モータ11及びインバータ12)の発熱量が所定の値よりも小さい走行シーンでは、車両が低速走行をしており、モータ11のトルクが小さい。このような場合、電動パワートレイン10の効率よりも、バッテリ20の暖気が優先される。即ち、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値よりも小さい走行シーンにおいて、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が上げられる。インバータ12のキャリア周波数が大きくなると、インバータ12のスイッチング回数が増え損失が増加する。また、モータ11のd軸電流を増やすことで、トルクに影響を与えずに、モータ11の損失が増加される。即ち、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が挙げられることで、電動パワートレイン10の損失が増加し、電動パワートレイン10の廃熱が増加するため、バッテリ20の暖機に必要な廃熱を得ることができる。なお、ここでの発熱量の所定の値は、例えば、モータ11のトルクがある程度小さく、モータ11の運転効率を最適化するより、バッテリ20の出力性能及び充電性能を向上させた方が、車両全体としての運転効率に有利であるような値に設定することができ、実験等により決定することができる。
【0031】
車両(自車両)が高速道路の手前を走行中のシーンでは、モータ11の出力が高い高速道路の走行に備えて、バッテリ20を暖機しておくことが好ましい。従って、高速道路の手前を走行中のシーンにおいて、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が上げられる。これにより、電動パワートレイン10の損失が増加し、電動パワートレイン10の廃熱が増加するため、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0032】
車両(自車両)が高速道路を走行中のシーンでは、モータ11の要求トルクが大きく、モータ11の熱時定数が大きいため、モータ11に熱が溜まり易い。従って、モータ11に溜まった熱をバッテリ20の暖機に流用し易い。このため、高速道路を走行中に廃熱を利用した暖機を実行することが好ましい。従って、高速道路を走行中のシーンにおいて、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、モータ11の出力(要求トルク)が大きいため、電動パワートレイン10の損失を増加する制御は行われず、モータ11に溜まった熱を廃熱することでバッテリ20の暖機が実行される。
【0033】
車両(自車両)が登坂路を走行中のシーンでは、その後の降坂路に備えて、バッテリ20を暖機することが好ましい。即ち、降坂路においては、回生によりバッテリ20が充電されるため、登坂路走行中に場合、バッテリ20を暖機し、バッテリ20の充電効率を高めておくことが好ましい。従って、登坂路走行中のシーンにおいて、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が上げられる。これにより、電動パワートレイン10の損失が増加し、電動パワートレイン10の廃熱が増加するため、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0034】
また、車両(自車両)が降坂路を走行中のシーンでは、回生によりバッテリ20が充電される状態であるため、バッテリ20の充電効率を高めることが好ましい。従って、降坂路を走行中のシーンにおいて、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が上げられる。これにより、電動パワートレイン10の損失が増加し、電動パワートレイン10の廃熱が増加するため、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0035】
なお、降坂路においては、バッテリ20が充電される状態であるとともに、モータ11は主に駆動側に動作しないため、電動パワートレイン10(モータ11)の効率よりも、バッテリ20の暖機をより優先させることが好ましい。従って、降坂路走行時には、登坂路走行時よりも、電動パワートレイン10の損失をより増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱がより増加し、バッテリ20の暖機が強められる。
【0036】
車両(自車両)から所定の距離内に充電設備があるシーンでは、バッテリ20のSOCが第1閾値SOCth1以下の場合、充電設備においてバッテリ20の充電が行われることが予想されるため、バッテリ20の充電効率を高めておくことが好ましい。従って、所定の距離内に充電設備がある場合、廃熱を利用した暖機が実行される。この場合、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流が上げられる。これにより、電動パワートレイン10の損失が増加し、電動パワートレイン10の廃熱が増加するため、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0037】
また、所定の距離内に充電設備がある場合に、バッテリ20のSOCが第1閾値SOCth1より小さい第2の所定値(以下、第2閾値ともいう)SOCth2以下の場合、電動パワートレイン10の損失をより増加させる。ここでの第2閾値SOCth2は、例えば、通常のドライバ等であれば、ほぼ確実に充電を行うようなSOCの値に設定される。SOCが第2閾値SOCth2以下の場合、所定の距離内の充電設備でバッテリ20の充電が行われる可能性が高い。このため、当該充電に備えて、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させることで、バッテリ20の暖機を強め、バッテリ20の充電効率をより高めておく。
【0038】
また、所定の距離内に充電設備がある場合に、バッテリ20のSOCが第2閾値SOCth2よりも大きい第3の所定値(以下、第3閾値ともいう)SOCth3以上であって、第1閾値SOCth1以下の場合にも、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。この場合、バッテリ20のSOCはやや余裕がある状態であるため、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を強めることができる。
【0039】
図2は、本実施形態のバッテリ20の暖機制御を説明するフローチャートである。以下の制御は、いずれもコントローラ50により、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0040】
イグニッションスイッチがオンにされるなどして、自車両の車両システムがオンされた場合、または以下で説明するバッテリ20の暖機制御が終了してから所定時間経過後、バッテリ20の暖機制御が開始される。
【0041】
ステップS101において、コントローラ50は、バッテリ温度センサにより検出されたバッテリ(図2では、BTとする)20の温度が閾値Tth以下であるか否かを判断する。バッテリ20の温度が閾値Tthよりも大きい場合、バッテリ20を暖機する必要がないため、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。一方、バッテリ20の温度が閾値Tth以下である場合、コントローラ50は、ステップS102の処理を実行する。
【0042】
ステップS102において、コントローラ50は、バッテリ電流センサから取得したバッテリ20の電流値に基づき算出したバッテリ20のSOCが、第1閾値SOCth1以下であるか否かを判断する。バッテリ20のSOCが第1閾値SOCth1より大きい場合、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。一方、バッテリ20のSOCが第1閾値SOCth1以下である場合、コントローラ50は、ステップS103の処理を実行する。
【0043】
ステップS103において、コントローラ50は、車両(自車両)が高速道路を走行中のシーンであるか否かを判断する。高速道路を走行中のシーンであるか否かは、ナビゲーション装置40からの道路情報に基づき判断されるが、必ずしもこれに限られない。例えば、アクセル開度、アクセル操作頻度等から判断してもよい。高速道路を走行中の場合、コントローラ50は、廃熱を利用した暖機を実行するステップS104の処理を実行する。一方、高速道路を走行中ではないと判断した場合、コントローラ50は、ステップS105の処理を実行する。
【0044】
ステップS104において、コントローラ50は、電動パワートレイン冷却水路を流れる冷却水、及びバッテリ冷却水路を流れる冷却水が、ヒートポンプユニット30内を通るように、水路切り替え弁を制御する。これにより、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機が開始される。また、前述のとおり、車両(自車両)が高速道路を走行中のシーンでは、モータ11の要求トルクが大きく、モータ11の熱時定数が大きいため、モータ11に熱が溜まり易い。従って、ステップS104では、モータ11に溜まった熱によりバッテリ20を暖機する。即ち、ステップS104では、電動パワートレイン10の損失は増加させずに、バッテリ20の暖機を実行する。
【0045】
ステップS104で、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0046】
高速道路を走行中ではない場合、コントローラ50は、ステップS105において、電動パワートレイン(図2ではePTとする)10の発熱量が所定の値よりも小さいか否かを判断する。電動パワートレイン10の発熱量が所定の値よりも小さい場合、コントローラ50は、廃熱を利用した暖機を実行するステップS106及びステップS107の処理を実行する。一方、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値以上の場合、コントローラ50は、ステップS107の処理を実行する。
【0047】
ステップS106において、コントローラ50は、電動パワートレイン冷却水路を流れる冷却水、及びバッテリ冷却水路を流れる冷却水が、ヒートポンプユニット30内を通るように、水路切り替え弁を制御する。これにより、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機が開始される。
【0048】
また、ステップS107において、コントローラ50は、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0049】
ステップS107において、電動パワートレイン10の損失を増加させ、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0050】
ステップS105において、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値以上の場合、コントローラ50は、ステップS108において、車両(自車両)が高速道路の手前を走行中のシーンであるか否かを判断する。高速道路の手前を走行中か否かは、ナビゲーション装置40からの道路情報に基づき判断される。高速道路の手前を走行中の場合、コントローラ50は、廃熱を利用した暖機を実行するステップS109及びステップS110の処理を実行する。一方、高速道路の手前を走行中ではない場合、コントローラ50は、ステップS111の処理を実行する。
【0051】
ステップS109において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。
【0052】
また、ステップS110において、コントローラ50は、ステップS107と同様に、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0053】
ステップS110において、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0054】
なお、車両(自車両)が高速道路に到着するまでに、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくならなかった場合には、高速道路走行中におけるステップS105の制御が実行される。
【0055】
ステップS108において、高速道路の手前を走行中ではないと判断した場合、コントローラ50は、ステップS111において、車両(自車両)が登坂路を走行中であるか否かを判断する。登坂路を走行中か否かは、ナビゲーション装置40の道路情報及びアクセル開度に基づき判断することができる。即ち、道路情報により、車両(自車両)が走行中の道路が、所定の値以上の斜度を有し、且つ、アクセル開度が登坂路走行中と見なすことができる程度に大きい場合に、登坂路を走行中であると判断することができる。但し、登坂路走行中か否かの判断方法は、これに限られない。登坂路走行中と判断した場合、コントローラ50は、廃熱を利用した暖機を実行するステップS112及びステップS113の処理を実行する。一方、登坂路走行中ではない場合、コントローラ50は、ステップS114の処理を実行する。
【0056】
ステップS112において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。
【0057】
また、ステップS113において、コントローラ50は、ステップS107と同様に、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0058】
ステップS113において、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0059】
なお、車両(自車両)が登坂路走行中に、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくならなかった場合であって、登坂路の次に降坂路が続く場合には、降坂路において後述のステップS115~S116の制御が実行される。
【0060】
ステップS111において、登坂路を走行中ではないと判断した場合、コントローラ50は、ステップS114において、車両(自車両)が降坂路を走行中であるか否かを判断する。降坂路を走行中か否かは、ナビゲーション装置40の道路情報及びアクセル開度に基づき判断することができる。即ち、道路情報により、車両(自車両)が走行中の道路が、所定の値以上の斜度を有し、且つ、アクセルがオフの状態であれば、降坂路を走行中であると判断することができる。但し、降坂路走行中か否かの判断方法は、これに限られない。降坂路走行中と判断した場合、コントローラ50は、廃熱を利用した暖機を実行するステップS115及びステップS116の処理を実行する。一方、降坂路走行中ではない場合、コントローラ50は、ステップS117の処理を実行する。
【0061】
ステップS115において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。
【0062】
また、ステップS116において、コントローラ50は、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。但し、降坂路を走行中の場合、回生によりバッテリ20が充電される状態であるため、バッテリ20の充電効率をより高めることが好ましい。また、降坂路においては、モータ11は主に駆動側に動作しないため、電動パワートレイン10(モータ11)の効率化を優先させる必要がなく、且つ、回生によりバッテリ20の電力が補われる状態である。従って、ステップS118においては、登坂路走行中におけるステップS113よりも電動パワートレイン10の損失をより増加させる。これにより、バッテリ20の暖機が強められる。
【0063】
ステップS116において、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0064】
ステップS114において、降坂路を走行中ではないと判断した場合、コントローラ50は、ステップS117において、車両(自車両)から所定の距離内に充電設備があるか否かを判断する。所定の距離内に充電設備があるか否かは、ナビゲーション装置40の道路情報に基づき判断することができる。所定の距離内に充電設備があると判断した場合、コントローラ50は、ステップS118及びステップS119の処理を実行する。一方、所定の距離内に充電設備が無い場合、コントローラ50は、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行せずに、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0065】
ステップS118において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。
【0066】
次に、ステップS119において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。また、ステップS121において、コントローラ50は、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0067】
ステップS119において、電動パワートレイン10の損失を増加させると、コントローラ50は、ステップS120において、バッテリ電流センサから取得したバッテリ20の電流値に基づき算出したバッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2以下であるか否かを判断する。バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2より大きい場合、コントローラ50は、ステップS121において、バッテリ20のSOCが、第3閾値SOCth3以上であるか否かを判断する。なお、第2閾値SOCth2及び第3閾値SOCth3は第1閾値SOCth1よりも小さく、第2閾値SOCth2は第3閾値SOCth3よりも小さい(即ち、第2閾値SOCth2<SOCth3<SOCth1)。バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2より大きく、第3閾値SOCth3より小さい場合、コントローラ50は、ステップS119におけるバッテリ20の暖機を継続し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。一方、バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2以下である場合、または第3閾値SOCth3以上である場合、コントローラ50は、ステップS122及びステップS123の処理を実行する。
【0068】
ステップS120において、コントローラ50は、ステップS106と同様に、水路切り替え弁を制御し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を開始する。また、ステップS121において、コントローラ50は、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させる。これにより、電動パワートレイン10の廃熱が増加し、バッテリ20の暖機に必要な廃熱が得られる。
【0069】
ステップS121において、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなる、または、充電施設に到着すると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0070】
バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2以下である場合、または第3閾値SOCth3以上である場合、コントローラ50は、ステップS122において、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流をより増加させ、電動パワートレイン10の損失をより増加させる。即ち、バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2以下の場合、ほぼ確実に充電設備でバッテリ20の充電が行われるため、当該充電に備えて、バッテリ20のSOCが、第2閾値SOCth2より大きい場合よりも、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。また、バッテリ20のSOCが、第3閾値SOCth3以上である場合には、バッテリ20のSOCはやや余裕がある状態であるため、バッテリ20のSOCが、第3閾値SOCth3より小さい場合よりも、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。これにより、バッテリ20の暖機が強められる。
【0071】
ステップS122において、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を実行し、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなる、または、充電施設に到着すると、コントローラ50は、バッテリ20の暖機制御を終了する。
【0072】
なお、上記バッテリ20の暖機制御の工程において、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11の電流を増加させる場合、インバータ12やモータ11を構成する素子の発熱が大きくなるが、コントローラ50は、当該素子の耐熱温度を超えないようにインバータ12のキャリア周波数を制御する。
【0073】
以上のとおり、車両(自車両)が高速道路を走行中の場合、電動パワートレイン10の損失を増加させずに、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行する。一方、車両(自車両)が高速道路の手前、登坂路または降坂路を走行中の場合、または車両(自車両)から所定の距離内に充電設備がある場合には、電動パワートレイン10の損失を増加させて、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行する。
【0074】
但し、電動パワートレイン10の損失を増加させて廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行するか否かの判断方法は、上記に限られず、例えば、モータ11の電流値に基づき判断してもよい。具体的には、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行する場合において、コントローラ50は、モータ11の電流値が所定の値よりも大きいときは、ヒートポンプユニット30の電動コンプレッサ(圧縮機)33による冷媒の圧縮量を第1の圧縮量に制御し、モータ11の電流値が所定の値以下の場合、第2の圧縮量に制御する。即ち、モータ11の電流値が大きい場合、ドライバからの駆動要求がある状態であるため、モータ11は、運転効率が最適になるように駆動される。これにより、モータ11の損失が最小化し、モータ11の発熱が減る。従って、モータ11の電流値が所定の値よりも大きい場合には、コンプレッサ(圧縮機)33の圧縮量を第2の圧縮量よりも大きい第1の圧縮量に制御し、発熱量を増やすことで、バッテリ20の暖機に必要な熱を得る。また、この場合、モータ11及びインバータ12には、大きな電流が流れているため、必然的にモータ11及びインバータ12からの廃熱もバッテリ20の暖機に活用できる。即ち、モータ11の電流値が所定の値よりも大きい場合、電動パワートレイン10の損失を増加させて廃熱を増加させる制御は行わない。一方、モータ11の電流値が小さい場合、モータ11の要求トルクが小さいため、モータ11の運転効率よりもバッテリ20の暖機を優先させ、インバータ12のキャリア周波数またはモータ11のd軸電流を増加させ、電動パワートレイン10の損失を増加させることで、電動パワートレイン10の廃熱を増加させる。なお、ここでの所定の値は、例えば、モータ11の要求トルクが、バッテリ20の出力性能や充電性能の向上よりもモータ11の運転効率を優先させた方が車両全体の運転効率にとって好ましい場合における、当該トルクに対応したモータ11の電流値に設定され、実験等により決定することができる。
【0075】
上記した実施形態の車両の制御方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0076】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下の場合に、車両の走行シーン及びバッテリ20のSOCに基づき、バッテリ20の暖機を実行するか否かを判断する。そして、暖機を実行すると判断した場合、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。このように、電動パワートレイン10からの廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行するか否かを、車両の走行シーン及びバッテリ20のSOCに基づき判断する。これにより、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行するのに適した走行シーンにおいて、当該暖機を行うことができるため、バッテリ20の暖機を効率良く行うことができ、車両の運転効率が向上する。
【0077】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であって、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値よりも小さいシーンであって、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下である場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断する。そして、電動パワートレイン10の損失を増加させて、電動パワートレイン10の廃熱を増加させることで、廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行する。このように、電動パワートレイン10の発熱量が所定の値よりも小さい場合、即ち、モータ11のトルクが小さい場合に、電動パワートレイン10の効率よりも、バッテリ20の暖気を優先する。これにより、車両全体としての運転効率が向上する。
【0078】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であって、車両が高速道路の手前を走行中のシーンであると判断され、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。このように、高速道路の手前を走行中のシーンにおいて、モータ11の出力が高い高速道路の走行に備えて、バッテリ20を暖機しておくことで、車両の運転効率が向上する。
【0079】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であって、車両が高速道路を走行中のシーンであると判断され、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。このように、モータ11の要求トルクが大きく、モータ11に熱が溜まり易い高速道路の走行中に、モータ11に溜まった熱を利用してバッテリ20の暖機を実行することで、バッテリ20を効率良く暖機することができる。
【0080】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であって、車両が登坂路を走行中のシーンであると判断され、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。このように、回生によりバッテリ20が充電される降坂路に備えて、登坂路走行中にバッテリ20を暖機し、バッテリ20の充電性能を高めておくことで、回生によるバッテリ20の充電効率が向上する。
【0081】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値以下であって、車両が降坂路を走行中のシーンであると判断され、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。回生によりバッテリ20が充電される状態である降坂路走行中にバッテリ20を暖機することで、回生によるバッテリ20の充電効率が向上する。
【0082】
本実施形態の車両の制御方法は、車両が高速道路の手前を走行中、登坂路または降坂路を走行中のいずれかのシーンであると判断され、バッテリ20の暖機を実行する場合、電動パワートレイン10の損失を増加させて、電動パワートレイン10の廃熱を増加させてバッテリ20の暖機を実行する。一方、車両が高速道路を走行中であると判断され、バッテリ20の暖機を実行する場合、電動パワートレイン10の損失を増加させずにバッテリ20の暖機を実行する。即ち、バッテリ20の出力性能や充電性能を高める方が、車両全体の運転効率が向上する、高速道路の手前を走行中、登坂路または降坂路を走行中の場合には、モータ11の運転効率よりもバッテリ20の暖機を優先させて、電動パワートレイン10の損失を増加させる。一方、モータ11に熱が溜まり易い高速道路の走行中には、電動パワートレイン10の損失を増加させずにバッテリ20の暖機を実行する。このように、各走行シーンに適した方法で廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行するため、車両の運転効率がより向上する。
【0083】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であって、車両が降坂路を走行中であり、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、当該降坂路の走行時には、登坂路の走行時よりも電動パワートレイン10の損失を増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。これにより、バッテリ20が回生により充電される状態であるとともに、モータ11は主に駆動側に動作しない降坂路の走行時において、登坂路の走行時よりも、バッテリ20の暖機が強められる。従って、回生によるバッテリ20の充電効率がより向上するとともに、車両の運転効率が向上する。
【0084】
本実施形態の車両の制御方法は、バッテリ20の温度が所定の値Tth以下であり、車両から所定の距離内に充電設備があるシーンと判断され、且つバッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1以下の場合、バッテリ20の暖機を実行すると判断し、電動パワートレイン10からの廃熱を利用してバッテリ20を暖機するように制御する。これにより、車両が充電設備に到着する前に、バッテリ20の充電性能を高めておくことができ、充電設備におけるバッテリ20の充電効率が向上する。
【0085】
本実施形態の車両の制御方法は、車両から所定の距離内に充電設備があると判断されて、バッテリ20の暖機を実行する場合、バッテリ20のSOCが第1の所定値SOCth1より小さい第2の所定値SOCth2以下のときは、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。このように、バッテリ20のSOCがより小さいときに、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、バッテリ20の暖機を強めることで、充電設備におけるバッテリ20の充電効率をより向上させることができる。
【0086】
本実施形態の車両の制御方法は、車両から所定の距離内に充電設備があると判断されて、バッテリ20の暖機を実行する場合、バッテリ20のSOCが第2の所定値SOCth2よりも大きい第3の所定値SOCth3以上であって、第1の所定値SOCth1以下の場合、電動パワートレイン10の損失をより増加させて、電動パワートレイン10の廃熱をより増加させる。このように、バッテリ20のSOCが第3の所定値SOCth3以上であり、SOCにやや余裕がある状態である場合に、電動パワートレイン10の損失を増加させて、バッテリ20の暖機を強めることで、バッテリ20の出力性能や充電設備におけるバッテリ20の充電効率をより向上させることができる。
【0087】
なお、本実施形態においては、ヒートポンプユニット30の冷媒水路を流れる冷却水を用いて電動パワートレイン10の廃熱をバッテリ20に伝熱することで廃熱を利用したバッテリ20の暖機を実行しているが、必ずしもこれに限られない。電動パワートレイン10の廃熱をバッテリ20に伝熱する方法は、既知の如何なる方法を用いてもよい。
【0088】
また、本実施形態においては、バッテリ20の温度が閾値Tthより大きくなると、バッテリ20の暖機制御を終了するものとしたが、必ずしもこれに限られず、閾値Tthよりもある程度大きくなるまで、バッテリ20の暖機を継続させてもよい。
【0089】
また、本実施形態のフローチャートにより説明した各走行シーンの判断の順序は一例であり、これに限るものではなく、判断の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0091】
10、電動パワートレイン,11、モータ,12、インバータ,20、バッテリ,30、ヒートポンプユニット,40、ナビゲーション装置,50、コントローラ,100、車両制御システム
図1
図2