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特開2024-62278コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法及びその測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062278
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法及びその測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240430BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/545 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170159
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】506286928
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪府立病院機構
(71)【出願人】
【識別番号】000162478
【氏名又は名称】ミナリスメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】大川 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】貫戸 紀子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直之
(72)【発明者】
【氏名】椎田 真史
(57)【要約】
【課題】コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法及び測定試薬の提供。
【解決手段】試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子と反応させることを備える、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法であって、上記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、方法、又はその方法に用いる試薬。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子と反応させることを備える、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法であって、
前記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、
方法。
【請求項2】
前記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化1】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応が、抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片の非存在下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ラテックス粒子の平均粒径が100nm~300nmである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記反応が、抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片の非存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定するための試薬であって、
前記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、
試薬。
【請求項7】
前記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化2】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項6に記載の試薬。
【請求項8】
抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片を含まない、請求項6又は7に記載の試薬。
【請求項9】
前記ラテックス粒子の平均粒径が100nm~300nmである、請求項6又は7に記載の試薬。
【請求項10】
抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片を含まない、請求項9に記載の試薬。
【請求項11】
被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、前記被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法であって、
前記測定が、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、
方法。
【請求項12】
被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、炎症を伴う肺疾患の診断を補助する方法であって、
前記測定が、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、
方法。
【請求項13】
前記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化3】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記炎症を伴う肺疾患が、間質性肺炎、肺がん及び慢性閉塞性肺疾患からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項15】
さらに、前記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること及び前記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及び/又はアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出することを備える、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項16】
コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、炎症を伴う肺疾患の診断薬。
【請求項17】
前記炎症を伴う肺疾患が、間質性肺炎、肺がん及び慢性閉塞性肺疾患からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項16に記載の診断薬。
【請求項18】
前記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化4】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項16又は17に記載の診断薬。
【請求項19】
コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子、及び
抗ヒト免疫グロブリンG抗体
を含む、請求項11又は12に記載の方法を行うための、キット。
【請求項20】
前記炎症を伴う肺疾患が、間質性肺炎、肺がん及び慢性閉塞性肺疾患からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化5】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法及びその測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の翻訳後修飾の1つに糖鎖修飾があり、近年、様々な疾患マーカーとして、糖鎖修飾されたタンパク質(糖タンパク質)の研究が盛んに行われている。糖タンパク質を臨床検査の指標とする場合、糖タンパク質の量的変化に加えて、質的変化、すなわち修飾された糖鎖の構造(糖鎖構造)の変化も重要な指標になり得る。例えば、糖タンパク質α-フェトプロテイン(AFP)のN結合型糖鎖にフコースが付加されたα-フェトプロテインL3(AFP-L3)に関して、全AFPに占めるAFP-L3の割合(AFP-L3%)が、肝細胞がんの診断の指標として有用であることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
ヒト免疫グロブリンG(以下では、「ヒトIgG」とも記載する。)も糖タンパク質であり、様々な糖鎖構造を有するヒトIgGが存在する。その中でも、疾患に関連した質的変化を生ずるものとして、ヒトIgGのFc領域に含まれる重鎖297番目のアスパラギンに結合したN-アセチルグルコサミンの6位と、フコースの1位とがα1-6結合した糖鎖構造を有するヒトIgG(以下では、「コアフコシル化ヒトIgG」とも記載する。)が知られている(非特許文献2)。コアフコシル化ヒトIgGに含まれる該フコースは、コアフコースと呼ばれる。
【0004】
特許文献1には、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgG(コアフコシル化ヒトIgG)に結合し、かつ、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない抗コアフコシル化ヒトIgG抗体が開示されている。当該抗体と、抗ヒトIgG抗体とを用いるコアフコシル化ヒトIgGのサンドイッチELISA法であって、不溶性担体としてマイクロタイタープレートを用いる方法も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/052041号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】相川 修一,他:「ミュータスワコーi30によるAFP,AFP-L3,PIVKA IIの基礎的検討および肝細胞癌診断における有用性」医学検査 Vol.63,p161-167(2014)
【非特許文献2】Roy Jefferis "Glycoforms of Human IgG inHealth and Disease" Trends in Glycoscience and Glycotechnology vol.21, p105-107 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたELISA法による測定方法を用いて、生体試料などの高濃度でコアフコシル化ヒトIgGを含有する試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する場合、ELISA法は高感度な測定法であるため、試料を高倍率で希釈しなければ有意な測定を行うことができず、希釈誤差が生じてしまう。
【0008】
そこで、本開示の課題は、希釈誤差が抑制された、試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によると、ELISA法のような過度な試料の希釈を行うことなく、試料中のコアフコシル化ヒトIgGが測定可能であることを見いだした。
【0010】
さらに、本発明者らは、試料としてヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの割合の変動が生じる疾患に罹患した被験者由来の生体試料を用いた場合、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、ELISA法と比較して、従来法であるヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの存在割合を指標とした評価により近く、かつ統計的有意差をもって罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができることを見出し、本開示を完成させた。
【0011】
すなわち、本開示は以下の[1]~[36]に関する。
[1]試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子と反応させることを備える、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法であって、上記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、方法。
[2]上記反応に用いる抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体は、1種類の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片である、[1]に記載の方法。
[3]上記反応に用いる抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに対するモノクローナル抗体である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化1】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]上記反応が、抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片の非存在下で行われる、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6]上記ラテックス粒子の平均粒径が100nm~300nmである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7]抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片と、ラテックス粒子との結合が化学結合である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]上記反応が緩衝液を含む水性媒体中で行われる、[1]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9]抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定するための試薬であって、上記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、試薬。
[10]上記反応に用いる抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、1種類の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片である、[9]に記載の試薬。
[11]上記反応に用いる抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに対するモノクローナル抗体である、[9]又は[10]に記載の方法。
[12]上記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化2】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、[9]~[11]のいずれか1つに記載の試薬。
[13]抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体及びその抗体断片を含まない、[9]~[12]のいずれか1つに記載の試薬。
[14]上記ラテックス粒子の平均粒径が100nm~300nmである、[9]~[13]のいずれか1つに記載の試薬。
[15]さらに緩衝液を含む、[9]~[14]のいずれか1つに記載の試薬。
[16]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、上記被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法。
[17]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること並びに上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及び/又はアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出することを備える、上記被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法。
[18]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法又は診断を補助する方法。
[19]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、及び、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定値が基準値以下である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、上記測定値が基準値より大きい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していないと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法。
[20]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、及び、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定値が基準値以下である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性が高いと判定し、上記測定値が基準値より大きい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない可能性が高いと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患の炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法又は炎症を伴う肺疾患の診断を補助する方法。
[21]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びヒト免疫グロブリンGの測定値を用いて、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出すること、及び、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値以下である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、上記測定値が基準値より大きい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していないと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法。
[22]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びヒト免疫グロブリンGの測定値を用いて、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出すること、及び、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値以下である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性が高いと判定し、上記測定値が基準値より大きい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない可能性が高いと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法又は炎症を伴う肺疾患の診断を補助する方法。
[23]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びヒト免疫グロブリンGの測定値を用いて、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出すること、及び、得られたアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値以上である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、上記測定値が基準値より小さい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していないと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法。
[24]被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定すること、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びヒト免疫グロブリンGの測定値を用いて、上記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出すること、及び、得られたアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値以上である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性が高いと判定し、上記測定値が基準値より小さい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない可能性が高いと判定すること、を備える、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法又は炎症を伴う肺疾患の診断を補助する方法。
[25]コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定において、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片を用いる、[16]~[24]のいずれか1つに記載の方法。
[26]上記抗体又はその抗体断片がラテックス粒子と結合している、[25]に記載の方法。
[27]コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定がラテックス凝集法により行われる、[26]に記載の方法。
[28](a)コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片、及び(b)抗ヒト免疫グロブリンG抗体を含む、[17]及び[21]~[27]のいずれか1つに記載の方法を行うための、キット。
[29](a)コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片、及び(b)コアフコシル化ヒトIgGの測定値が基準値以下である場合には、被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、コアフコシル化ヒトIgGの測定値が基準値より大きい場合には、被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患していないという判定する、という基準に従って判定を行う旨が説明された添付文書、を含む、[16]~[28]のいずれか1つに記載の方法を行うための、キット。
[30]コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片を含む、炎症を伴う肺疾患の診断薬。
[31]炎症を伴う肺疾患の診断薬を製造するための、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片の使用。
[32]炎症を伴う肺疾患の診断に用いる、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片。
[33]上記抗体又はその抗体断片がラテックス粒子と結合している、[28]~[32]のいずれか1つに記載のキット、診断薬、使用又は抗体若しくはその抗体断片。
[34]コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定がラテックス凝集法により行われる、又は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定をラテックス凝集法により行うための、[28]~[33]のいずれか1つに記載のキット、診断薬、使用又は抗体若しくはその抗体断片。
[35]上記コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに含まれる、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖は、下記式(I):
【化3】

で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、[25]~[34]のいずれか1つに記載の方法、キット、診断薬、使用又は抗体若しくはその抗体断片。
[36]上記炎症を伴う肺疾患が、間質性肺炎、肺がん及び慢性閉塞性肺疾患からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[16]~[35]のいずれか1つに記載の方法、キット、診断薬、使用又は抗体若しくはその抗体断片。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によって、ELISA法のような過度な試料の希釈を行うことなく、試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定することができる。
【0013】
さらに、試料として、ヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの存在割合の変動が生じる疾患に罹患した被験者由来の生体試料を用いた場合、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、ELISA法と比較して、従来法であるヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの存在割合を指標とした評価により近く、かつ統計的有意差をもって罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができる。
【0014】
さらに、試料として、炎症を伴う肺疾患に罹患した患者由来の生体試料を用いた場合、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、統計的有意差をもって、健常人と、炎症を伴う肺疾患患者との鑑別診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体、抗アコアフコシル化ヒトIgG抗体、抗アコアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及び抗ヒトIgG抗体について説明した図である。
図2図2は、参考例1において、健常人から採取した血清、肺がん患者から採取した血清、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者から採取した血清及び間質性肺炎患者から採取した血清について、ELISA法の結果に基づいて算出したコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比を示す図である。「**」は「P<0.005」を、「****」は「P<0.0001」を示す。
図3図3は、実施例3において、健常人及び間質性肺炎患者から採取した血清について、ラテックス凝集法によってコアフコシル化ヒトIgGを測定した結果を示す図である。
図4図4は、実施例3において、健常人及び間質性肺炎患者から採取した血清について、ELISA法によってコアフコシル化ヒトIgGを測定した結果を示す図である。図中の「ns」は、統計学的な有意差がなかったことを示す。
図5図5は、実施例3において、健常人及び間質性肺炎患者から採取した血清について、ELISA法によって測定したコアフコシル化ヒトIgG及び全ヒトIgGの測定値に基づいて算出したコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比を示す図である。
図6図6は、実施例4において、健常人から採取した血清、肺がん患者から採取した血清、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者から採取した血清及び間質性肺炎患者から採取した血清について、ラテックス凝集法の結果から得られたコアフコシル化ヒトIgG量を示す図である。「*」は「P<0.05」を、「**」は「P<0.005」を、「***」は「P<0.0005」を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本開示において、コアフコースとは、ヒト免疫グロブリンG(以下では、「ヒトlgG」とも記載する。)のFc領域の297番目のアスパラギンに結合しているN結合型糖鎖に含まれる単糖のうち、該アスパラギンに直接結合しているN-アセチルグルコサミン、すなわち、還元末端GlcNAc(還元末端N-アセチルグルコサミン)の6位の炭素と、α1-6結合したフコースをいう。N結合型糖鎖は、還元末端N-アセチルグルコサミンに各種の単糖がグリコシド結合によって繋がった化合物であれば特に限定されず、単糖としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース、キシロース及びシアル酸等が挙げられる。グリコシド結合とは、単糖のヘミアセタールと他の単糖のヒドロキシル基との間の結合をいい、例えば、2つのN-アセチルグルコサミンの間の結合、2つのマンノースの間の結合、マンノースとN-アセチルグルコサミンとの間の結合及びN-アセチルグルコサミンとフコースとの間の結合等が挙げられ、これらの結合様式として、例えばα1-3結合、α1-6結合及びβ1-4結合等が挙げられる。
【0018】
本開示において、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG(以下では、「コアフコシル化ヒトIgG」とも記載する。)とは、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトlgGである。コアフコシル化ヒトIgGは、少なくとも1つのFc領域にコアフコースが結合しているN結合型糖鎖が含まれていればよく、2つのFc領域にコアフコースが結合しているN結合型糖鎖が含まれていてもよい。コアフコースが結合しているN結合型糖鎖としては、例えば以下の式に示すN結合型糖鎖を挙げることができる。
【化4】
【0019】
本開示において、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG(以下では、「アコアフコシル化ヒトIgG」とも記載する。)とは、ヒトlgGの2つのFc領域の297番目のアスパラギンに結合しているN結合型糖鎖に含まれる還元末端GlcNAcのいずれにもコアフコースが結合していないヒトlgGである。アコアフコシル化ヒトIgGに含まれるN結合型糖鎖、すなわちコアフコースが結合していないN結合型糖鎖としては、例えば以下の式に示すN結合型糖鎖を挙げることができる。
【化5】
【0020】
本開示に係るコアフコシル化ヒトIgG及びアコアフコシル化ヒトIgGが結合する抗原の種類は特に限定されず、例えば、自己抗原、同種抗原(alloantigen)、ウイルス由来抗原及び細菌由来抗原等が挙げられる。自己抗原としては細胞核内抗原等が挙げられ、同種抗原としては主要組織適合遺伝子複合体抗原(MHC抗原)等が挙げられ、ウイルス由来抗原としてはB型肝炎ウイルスのHBs抗原、C型肝炎ウイルスのコア抗原等が挙げられ、細菌由来抗原としてはグラム陰性菌外膜のO抗原、百日咳菌の百日咳毒素等が挙げられる。
【0021】
本開示において、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体(以下では、「抗コアフコシル化ヒトIgG抗体」とも記載する。)とは、コアフコシル化ヒトIgGに結合する抗体の総称である。すなわち、図1に示すように、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体には、コアフコシル化ヒトIgG及びアコアフコシル化ヒトIgGの両方に結合する抗体(以下では、「抗ヒトIgG抗体」とも記載する。)並びにコアフコシル化ヒトIgGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒトIgGに結合しない抗体(以下では、「抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体」とも記載する。)の両者が包含される。
【0022】
本開示において、抗アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体(以下では、「抗アコアフコシル化ヒトIgG抗体」とも記載する。)とは、アコアフコシル化ヒトIgGに結合する抗体の総称である。すなわち、図1に示すように、抗アコアフコシル化ヒトIgG抗体には、コアフコシル化ヒトIgG及びアコアフコシル化ヒトIgGの両方に結合する抗体(抗ヒトIgG抗体)並びにコアフコシル化ヒトIgGに結合せず、かつ、アコアフコシル化ヒトIgGに結合する抗体(以下では、「抗アコアフコシル化ヒトIgG選択的抗体」とも記載する。)の両者が包含される。
【0023】
本開示の一側面は、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子と反応させることを備える、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定する方法であって、上記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、方法である。すなわち、本開示の一側面は、試料中のコアフコシル化ヒトIgGを抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子と反応させることを備える、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法である。
【0024】
本開示において、試料は、コアフコシル化ヒトIgGを含む可能性がある試料であれば特に制限はなく、例えば、全血、血漿、血清、尿、腹水、髄液、唾液、羊水、尿、汗及び膵液等の生体試料並びに遺伝子組換え微生物、遺伝子組換え動物細胞若しくは培養癌細胞の細胞可溶化物若しくは培養上清等を挙げることができる。微生物としては、例えば酵母が挙げられ、動物細胞としては、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)が挙げられる。培養癌細胞としては、例えば、培養膵癌細胞、培養大腸癌細胞、培養肝癌細胞、培養胆道癌細胞、培養乳癌細胞及び培養卵巣癌細胞等が挙げられる。
【0025】
本開示に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換えモノクローナル抗体等が挙げられる。ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体としては、例えば、受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体等が挙げられる。
【0026】
本発明のハイブリドーマとしては、本発明の抗コアフコシル化ヒトlgGモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマであれば特に制限はなく、例えば、2016年8月30日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマ株18-3D11が挙げられる。
【0027】
本発明のハイブリドーマは、公知の方法、例えば、「モノクローナル抗体」(羊土社、1996年)等に記載されている方法等で製造することができる。
【0028】
本開示において、抗体断片とは、抗原を認識する抗体の一部であって、抗体の可変ドメインを含むか、少なくとも抗原結合領域を含むものをいう。本開示における抗体断片としては、例えば抗体をパパイン処理することにより得られるFab、抗体をペプシン処理することにより得られるF(ab’)、抗体をペプシン処理一還元処理することにより得られるFab’、抗体軽鎖の可変領域(V領域)と抗体重鎖の可変領域(V領域)を人工的に1本のポリペプチドとして繋いだ1本鎖抗体(scFv)、ラクダ科動物等が保有する抗体軽鎖を持たない1本鎖抗体の抗体重鎖の可変領域(VHH領域)断片等が挙げられる。
【0029】
本開示に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及びその抗体断片の製造方法は、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及びその抗体断片を製造し得る方法であれば特に限定されず、例えば、受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマの培養上清から、プロテインA、プロテインG又はヒトlgGのFc領域に結合する抗体等の抗体に結合する分子を用いて採取することにより、得ることができる。より詳細には、例えば特許文献1に記載の方法により得ることができる。
【0030】
本開示に係るラテックス粒子は、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定することができるものであれば特に限定されず、例えば、有機高分子物質の微粒子若しくは無機酸化物の微粒子又は核となる上記微粒子の表面を有機物等で表面処理した微粒子等であってよい。具体的には、例えば、ポリスチレン、スチレンを主成分とする共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂等が挙げられる。上記ラテックス粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本開示に係るラテックス粒子の平均粒径は、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定することができるものであれば特に限定されず、例えば、100nm~300nm、100nm~150nm、150nm~200nm、200nm~250nm又は250nm~300nmであってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計にて測定することができる。平均粒径(D50)は、粒度分布における積算値50%(体積基準)での粒径を平均粒径とする。ラテックス粒子の形状としては、特に制限はなく、例えば、球状、楕円上、凹凸形状等が挙げられる。
【0032】
本開示に係るラテックス粒子と抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片の結合様式は、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片のコアフコシル化ヒトIgGへの結合性を損なわないものであれば特に限定されず、例えば、物理吸着による結合、化学結合による結合等であってよい。物理吸着としては、静電的結合、水素結合、疎水結合等が挙げられる。化学結合としては、共有結合、配位結合等が挙げられる。
【0033】
ラテックス粒子と抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片は、直接結合していてもよく、間接的に結合していてもよい。間接的に結合する方法としては、例えば、ビオチンとアビジン類(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン等)等の一組の親和性物質の特異的結合を利用する方法及びリンカーを介した共有結合によりラテックス粒子に結合する方法等が挙げられる。
【0034】
上記間接的に結合する方法として一組の親和性物質を利用する方法を用いる場合、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子は、一組の親和性物質の一方(A)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片と、一組の親和性物質の他方(a)が結合したラテックス粒子とを結合させることにより得ることができる。このとき、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子は、抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよい。
【0035】
一組の親和性物質A-aの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・ビオチンとアビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)との組み合わせ;
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)とビオチンとの組み合わせ;
【0036】
上記間接的に結合する方法としてリンカーを介した共有結合によりラテックス粒子に結合する方法を用いる場合、リンカーとしては、ラテックス粒子表面の官能基と、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が有する官能基の両者を共有結合できる分子等を用いることができ、例えば、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が有する官能基と反応することができる第1の反応活性基と、ラテックス粒子表面の官能基と反応することができる第2の反応活性基とを同時に持つ分子であって、第1の反応活性基と第2の反応活性基とが異なる基である分子が好ましく用いられる。
【0037】
抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が有する官能基、及びラテックス粒子がその表面に保持している官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、N-ヒドロキシサクシニル基、マレイミド基等が挙げられる。リンカーにおける反応活性基としては、アリルアジド、カルボジイミド、ヒドラジド、アルデヒド、ヒドロキシメチルホスフィン、イミドエステル、イソシアネート、マレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、ペンタフルオロフェニル(PFP)エステル、ソラレン、ピリジルジスルフィド、ビニルスルホン等の基が挙げられる。
【0038】
ラテックス粒子に結合させる抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片の量は、ラテックス粒子に上記抗体又はその抗体断片を結合させる溶液の含有量を基準として、ラテックス粒子100質量部に対して例えば100質量部以上20000質量部以下であってよく、200質量部以上15000質量部以下であってもよく、300質量部以上11000質量部以下であってもよく、400質量部以上8000質量部以下であってもよく、500質量部以上5000質量部以下であってもよい。
【0039】
本開示に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGの反応は、抗原抗体反応である。すなわち、上記反応は、ラテックス粒子の表面に結合した抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片と、試料中のコアフコシル化ヒトIgGが抗原抗体複合体を形成する反応である。上記反応の反応温度としては、抗原抗体反応が生じる反応温度であれば特に制限はなく、通常、0~50℃であり、4~40℃が好ましい。反応時間としては、上記抗原抗体反応をラテックス凝集法により検出可能な反応時間であれば特に制限はなく、通常、1分間~72時間であり、5分間~20時間が好ましい。
【0040】
上記反応は、通常、水性媒体中で行われる。水性媒体としては、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液を含む水性媒体が好ましい。緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001~2.0mol/Lが好ましく、0.005~1.0mol/Lがより好ましく、0.01~0.1mol/Lが特に好ましい。緩衝液の調製に使用される緩衝剤としては、緩衝能を有するものならば特に限定されないが、pH1~11の例えば乳酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリエタノールアミン緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、リジン緩衝剤、バルビツール緩衝剤、イミダゾール緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、トリス緩衝剤、グッド緩衝剤等が挙げられる。緩衝剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
上記グッド緩衝剤としては、例えば2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝剤、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝剤、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝剤、2-[N-(2-アセトアミド)アミノ]エタンスルホン酸(ACES)緩衝剤、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)緩衝剤、2-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸(BES)緩衝剤、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝剤、2-{N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸(TES)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-スルホエチル)ピペラジン(HEPES)緩衝剤、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)緩衝剤、2-ヒドロキシ-3-{[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPSO)緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパン-3-スルホン酸)(POPSO)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)ピペラジン(HEPPSO)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(3-スルホプロピル)ピペラジン(EPPS)緩衝剤、トリシン[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン]緩衝剤、ビシン[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝剤、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノプロパンスルホン酸(TAPS)緩衝剤、2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)緩衝剤、3-(N-シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)緩衝剤、3-(N-シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)緩衝剤等が挙げられる。
【0042】
本開示に係る水性媒体は、さらに、金属イオン、塩類、糖類、防腐剤、蛋白質、蛋白質安定化剤等を含んでもよい。金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。糖類としては、例えばマンニトール、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質(ストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、バイオエース、プロクリン300、プロキセル(Proxel)GXL等が挙げられる。蛋白質としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児血清(FBS)、カゼイン、ブロックエース(株式会社ケー・エー・シー社製)等が挙げられる。蛋白質安定化剤としては、例えばペルオキシダーゼ安定化緩衝液[Peroxidase Stabilizing Buffer、ダコサイトメーション(DakoCytomation)社製]等が挙げられる。
【0043】
一般に、コアフコシル化ヒトIgGにおいては、ヒトIgGが有する2つのN結合型糖鎖がコアフコシル化されているため、1分子のコアフコシル化ヒトIgGに対し、最大2分子の抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合することができる。したがって、上記反応において、コアフコシル化ヒトIgGは2価抗原として振る舞うことができる。
【0044】
本開示に係る、試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法によれば、試料中のコアフコシル化ヒトIgG量を得ることができる。本開示における「コアフコシル化ヒトIgG量」は、コアフコシル化ヒトIgG濃度の他、測定方法に応じて、単位体積当たりのコアフコシル化ヒトIgGの存在量に基づくシグナル強度(例えば吸光度)としても定量化され表示され得る。コアフコシル化ヒトIgG濃度は、試料の単位量当たりのコアフコシル化ヒトIgGの存在量を意味し、典型的には試料の単位体積当たりのコアフコシル化ヒトIgGの質量又はモル数として表される。また、コアフコシル化ヒトIgG濃度は、必ずしも試料の単位体積当たりのコアフコシル化ヒトIgG量として定量化されるとは限らず、例えば試料の単位重量当たりのコアフコシル化ヒトIgG量でもあり得る。
【0045】
本開示において、ラテックス凝集法とは、試料中の多価抗原と、ラテックス粒子に結合させた抗体又はその抗体断片との抗原抗体反応によって生じるラテックス粒子の凝集の程度を指標として、試料中の抗原を検出及び/又は定量する方法である。上記ラテックス粒子の凝集の程度の評価方法は特に限定されず、例えば、吸光度、散乱光強度又は透過光強度等を、当業者が通常行う方法で測定することにより評価することができる。通常、吸光度、散乱光強度又は透過光強度等の測定は、上記抗原抗体反応を生じさせた反応液又はその希釈液を測定することにより行われる。
【0046】
一実施形態において、上記反応は、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む水性媒体と、希釈していない試料を混和することにより調製した反応液中で行ってもよく、かつ、上記測定は、上記反応液を希釈することなく行ってもよい。希釈工程を備えないことで、希釈誤差を抑制することができる。また、上記反応は、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む水性媒体と、低い希釈倍率で希釈した試料を混和することにより調製した反応液中で行ってもよく、かつ、上記測定は、上記反応液を希釈することなく行ってもよい。低い希釈倍率で試料を希釈するため、希釈誤差を抑制することができる。低い希釈倍率は、1.5倍~30倍であってよく、2.0倍~20倍であってよく、2.0倍~10倍であってよい。一般に、ELISA法に代表される抗原抗体反応を簡便に評価可能な測定方法は、蛍光又は発光等によるシグナル増幅を伴うため高感度であり、結果として有意な測定には、高い希釈倍率で試料を希釈することが必要であるため、希釈誤差が生じてしまう。
【0047】
同様の観点から、試料に対する上記反応及び/又は測定に用いる溶液の総量を抑えることによって、希釈誤差を抑制することができる。試料に対する上記反応及び/又は測定に用いる溶液の総量は、測定時において、体積基準で試料の10000倍以下であってよく、5000倍以下であってもよく、1000倍以下であってよく、500倍以下であってもよく、100倍以下であってもよく、50倍以下であってもよく、30倍以下であってもよい。
【0048】
上記反応における抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子の濃度は、上記反応をラテックス凝集法により検出可能な濃度であれば特に制限はなく、例えば、0.001%(w/v)以上、0.003%(w/v)以上、0.005%(w/v)以上、0.01%(w/v)以上、0.011%(w/v)以上、0.012%(w/v)以上、又は0.013%(w/v)以上であってよい。また、上記反応における抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子の濃度は、例えば、1.0%(w/v)以下、0.8%(w/v)以下、0.6%(w/v)以下、0.4%(w/v)以下、0.2%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下、0.075%(w/v)以下、0.05%(w/v)以下、又は0.025%(w/v)以下であってよい。上記の数値は自由に組み合わせることができる。
【0049】
一実施形態において、上記反応は、抗アコアフコシル化ヒトIgG抗体及びその抗体断片の非存在下で行われてもよい。すわわち、一実施形態において、上記反応は、抗ヒトIgG抗体若しくは抗アコアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及びそれらの抗体断片の非存在下で行われてもよい。試料としてヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの割合の変動が生じる疾患に罹患した被験者由来の生体試料を用いた場合、生体試料中のコアフコシル化ヒトIgG量は、生体試料中の全ヒトIgG量に依存して変動し得るという課題があり、ある個体の生体試料中のコアフコシル化ヒトIgG量が高いことが確認された場合でも、当該個体の生体試料中の全ヒトIgG量がもともと高くそれに依存してコアフコシル化ヒトIgG量が高いのか、それとも、当該個体の生体試料中の全ヒトIgG量はあまり高くないが、コアフコシル化ヒトIgG量だけが高いのか、判断することができない。そのため、コアフコシル化ヒトIgGによる生体試料の評価は、通常、コアフコシル化ヒトIgGに加えて全ヒトIgGも測定し、全ヒトIgG量に占めるコアフコシル化ヒトIgG量(以下、「コアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比」とも記載する。)に基づいて評価される。これに対し、一実施形態に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、ELISA法と比較して、従来法であるヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの存在割合を指標とした評価により近く、かつ統計的有意差をもって罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができる。したがって、一実施形態に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、コアフコシル化ヒトIgG量の変動が生じる疾患を診断又はその補助をする場合において、全ヒトIgG量及びアコアフコシル化ヒトIgG量を測定することなく、簡便に罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができる。
【0050】
上記ラテックス凝集法は、ホールピペット等の溶液分注用の器具、抗原抗体反応のための加温用の恒温槽、吸光度又は散乱光の測定機器などを組み合わせて使用する、いわゆる用手法で実施してもよく、機器上で一連の溶液分注、加温、吸光度又は散乱光の測定を行う、いわゆる自動分析装置を使用して実施してもよい。上記自動分析装置は、特に制限はないが、例えば、試料、測定用試薬又はそれらの混合液の攪拌のため、上記混合液等が入った反応セルへ棒又はヘラ状の攪拌用部材を差し込み、その後に、上記攪拌用部材を前後若しくは左右に移動させる機構、又は、上記攪拌用部材を回転させる機構(以下、ヘラ攪拌機構と記載する)を備えた自動分析装置であってもよく、試料、測定用試薬又はそれらの混合液の攪拌のため、上記混合液等が入った反応セルの外側から超音波をあてる機構(以下、超音波攪拌機構と記載する)を備えた自動分析器であってもよい。
【0051】
上記ヘラ攪拌機構を備えた自動分析装置としては、特に制限はないが、例えば、自動分析装置3500、自動分析装置7180(以上、日立ハイテク社製)、JCA-ZS050自動分析装置クリナライザ BioMajesty(登録商標)ZERO、JCA-BM9130自動分析装置クリナライザ BioMajesty(以上、日本電子社製)、TBA(登録商標)-c16000、TBA-120FR(以上、キヤノンメディカルシステムズ社製)、自動分析装置AU5800、及び自動分析装置AU680(以上、ベックマンコールター社製)が挙げられる。上記超音波攪拌機構を備えた自動分析装置としては、特に制限はないが、例えば、自動分析装置LABOSPECT(登録商標)003、自動分析装置LABOSPECT(登録商標) 006、及び自動分析装置LABOSPECT(登録商標) 008α(以上、日立ハイテク社製)が挙げられる。
【0052】
本開示におけるラテックス凝集法は、感度が高くなるという観点から、試料を超音波で処理すること(超音波処理)を含んでいてもよい。「超音波で処理する」とは、上記のとおり超音波で攪拌することであってもよい。超音波処理は、超音波処理することのできる任意の装置によって行うことができ、例えば、上記の装置が挙げられる。超音波処理の時間は、本開示の測定方法が可能な限り制限されないが、例えば、30秒間以下、20秒間以下、又は10秒間以下であってよい。超音波処理の時間は、例えば、5秒間以上、3秒間以上、1秒間以上、又は0.5秒間以上であってよい。上記の数値は自由に組み合わせることができる。
【0053】
ラテックス粒子の凝集の程度を吸光度に基づいて評価する場合、吸光度の測定波長は、通常は340nm~1000nm、好ましくは500nm~900nmで測定すればよい。ラテックス凝集反応を測光する時間は、ラテックス凝集反応が生じている時間を時間当たりの変化速度、あるいは一定時間の変化量によって測光することができる。例えば、吸光度を測定する場合、ラテックス凝集反応が始まってから30秒後から5分後の時間当たりの吸光度変化速度、あるいは一定時間の吸光度変化量によって測光することができる。反応温度は10~50℃であることが好ましく、20~40℃であることがより好ましい。反応時間は適宜決定することができ、例えば汎用自動分析機では5~15分間の反応時間で測定することができる。
【0054】
一実施形態において、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法は、既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて作成されたコアフコシル化ヒトIgG濃度と測定値との関係を表す検量線を作成すること、及び作成された検量線と試料の測定値とから試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定することを含んでもよい。
【0055】
検量線の作成に用いる既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGは特に限定されず、例えば特許文献1に記載された方法により取得することができる。既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGについて、複数の濃度を用意してもよい。
【0056】
本開示の他の一側面は、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定するための試薬であって、上記抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合しない抗体又はその抗体断片である、試薬である。すなわち、本開示の他の一側面は、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定するための試薬である。言い換えれば、本開示の他の一側面に係る試薬は、本開示の一側面に係るラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法に用いる試薬であって、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、試薬である。本開示の一側面に係る試薬における抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及びその抗体断片が結合したラテックス粒子は、上述の本開示の一側面に係るラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法において説明したものを用いることができ、また上述した方法により製造することができる。また、本開示の一側面に係る試薬は、例えば上述の本開示の一側面に係るラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法において説明した方法により使用することができる。
【0057】
一実施形態において、上記試薬は、抗アコアフコシル化ヒトIgG抗体及びその抗体断片を含まない。上述したとおり、試料としてヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの割合の変動が生じる疾患に罹患した被験者由来の生体試料を用いた場合、本開示の一実施形態に係る抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を用いたラテックス凝集法によれば、ELISA法と比較して、従来法であるヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの存在割合を指標とした評価により近く、かつ統計的有意差をもって罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができる。したがって、一実施形態に係る試薬は、全ヒトIgG量及び/又はアコアフコシル化ヒトIgG量を測定するための抗体を含有しなくても、簡便に罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価するために用いることができる。
【0058】
本開示の他の一側面は、被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、上記被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法であって、上記測定が、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、方法である。すなわち、本開示の他の一側面は、被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、上記被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患している否かを判定するためのデータを収集する方法であって、上記測定が、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、方法(以下では、「データ収集方法」とも記載する。)である。
【0059】
本開示の他の一側面は、被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法又は診断を補助する方法であって、前記測定が、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、方法である。すなわち、本開示の他の一側面は、被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを測定することを備える、炎症を伴う肺疾患の診断方法又は診断を補助する方法であって、前記測定が、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法により行われる、方法(以下では、それぞれ「診断方法」「診断補助方法」とも記載する。)である。
【0060】
本開示において、被験者とは、炎症を伴う肺疾患に罹患しているヒト及び炎症を伴う肺疾患に罹患していないヒトの両方を含む概念であり、炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性があるヒトであってもよい。すなわち、一実施形態に係るデータ収集方法、診断方法又は診断補助方法は、例えば炎症を伴う肺疾患への罹患が疑われる症状を示すヒトについての判定又は診断に用いられる方法であってもよく、健康診断等において炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性があるヒトを発見(スクリーニング)するために用いられる方法であってもよく、炎症を伴う肺疾患に罹患しているヒトについて、該肺疾患からの回復をモニタリングするために用いられる方法であってもよい。
【0061】
本開示において、生体試料とは、試料のうち、コアフコシル化ヒトIgGを含有しうるヒト由来の試料であれば特に限定されず、例えばヒト由来の全血、血漿、血清、尿、腹水、髄液、唾液、羊水、尿、汗及び膵液等を挙げることができる。
【0062】
本開示に係る炎症を伴う肺疾患は、肺疾患のうち炎症を伴うものであれば特に限定されず、例えば肺炎、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)又は肺結核等であってよい。また、炎症を伴う肺疾患が肺炎である場合、肺炎の種類は特に限定されず、例えば市中肺炎(CAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)又は院内肺炎(HAP)のいずれであってもよく、肺胞性肺炎又は間質性肺炎のいずれであってもよく、またその原因となる細菌又はウイルス等も特に限定されない。一実施形態において、炎症を伴う肺疾患は、間質性肺炎、肺がん及び慢性閉塞性肺疾患からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0063】
一実施形態において、データ収集方法、診断方法又は診断補助方法は、さらに、生体試料中のヒト免疫グロブリンGを測定すること及び前記生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及び/又はアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出することを備えてもよい。
【0064】
ヒト免疫グロブリンGを測定する方法は、ヒト免疫グロブリンG量を得ることができる方法であれば特に限定されず、例えば、抗ヒト免疫グロブリンG抗体又はその標識体を用いた、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)等の酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光抗体法又はイムノクロマトグラフィー法等であってもよい。
【0065】
本開示に係る抗ヒト免疫グロブリンG抗体は、コアフコシル化ヒトIgG及びアコアフコシル化ヒトIgGの両方に結合する抗体であれば、その動物種の由来等は特に限定されない。抗ヒト免疫グロブリンG抗体及びその標識体は、例えば市販のものを利用することができる。
【0066】
本開示における「ヒト免疫グロブリンG量」は、ヒト免疫グロブリンG濃度の他、測定方法に応じて、単位体積当たりのヒト免疫グロブリンGの存在量に基づくシグナル強度(例えば吸光度)としても定量化され表示され得る。すなわち、一実施形態におけるヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合は、ヒト免疫グロブリンGにおけるシグナル強度に対するコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGにおけるシグナル強度の割合としても表示され得る。
【0067】
ヒト免疫グロブリンG濃度は、試料の単位量当たりのヒト免疫グロブリンGの存在量を意味し、典型的には試料の単位体積当たりのヒト免疫グロブリンGの質量又はモル数として表される。また、ヒト免疫グロブリンG濃度は、必ずしも試料の単位体積当たりのヒト免疫グロブリンG量として定量化されるとは限らず、例えば試料の単位重量当たりのヒト免疫グロブリンG量でもあり得る。ヒト免疫グロブリンG濃度は、例えば、既知濃度のヒト免疫グロブリンGを用いて作成されたヒト免疫グロブリンGと測定値との関係を表す検量線を作成すること、及び作成された検量線と試料の測定値とから試料中のヒト免疫グロブリンG濃度を決定すること等により算出することができる。
【0068】
一実施形態において、データ収集方法、診断方法又は診断補助方法は、上述した生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出することに加えて、さらに、得られたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定値が基準値以下である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、上記測定値が基準値より大きい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していないと判定すること、を備えてもよい。
【0069】
一実施形態において、データ収集方法、診断方法又は診断補助方法は、上述した生体試料中のヒト免疫グロブリンGに占めるアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を算出することに加えて、さらに、得られたアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値以上である場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、上記測定値が基準値より小さい場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していないと判定すること、を備えてもよい。
【0070】
本開示に係る、データ収集方法、診断方法又は診断補助方法は、例えば、被験者の生体試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定、又は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG及びヒト免疫グロブリンG及びの測定により得られる、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG量、又は、ヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG若しくはアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合と、基準値と比較することで判定を行う。すなわち、本開示に係る、データ収集方法又は診断補助方法は、例えば、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG量、又は、ヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値と比べて低下している場合に、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性が高い、と判定し、上記測定値が基準値と比べて上昇している場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない可能性が高いと判定する。また、本開示に係る、データ収集方法又は診断補助方法は、例えば、ヒト免疫グロブリンGに占めるアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値と比べて上昇している場合に、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している可能性が高い、と判定し、上記測定値が基準値と比べて低下している場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない可能性が高いと判定する。また、本開示に係る診断方法は、例えば、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG量、又は、ヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG若しくはアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値と比べて低下している場合に、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している、と判定し、上記測定値が基準値と比べて上昇している場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない、と判定する。また、本開示に係る診断方法は、例えば、ヒト免疫グロブリンGに占めるアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合が基準値と比べて上昇している場合に、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患している、と判定し、上記測定値が基準値と比べて低下している場合には、被験者が炎症を伴う肺疾患に罹患していない、と判定する。
【0071】
本開示のデータ収集方法、診断方法又は診断補助方法に係る基準値は、健常人及び炎症を伴う肺疾患に罹患していると確定診断された患者におけるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG量、又は、ヒト免疫グロブリンGに占めるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG若しくはアコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの割合を参照することにより定めることができる。
【0072】
本開示の他の一側面は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子を含む、炎症を伴う肺疾患の診断薬である。
【0073】
本開示の他の一側面は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子、及び、抗ヒト免疫グロブリンG抗体を含む、本開示の一側面に係るデータ収集方法、診断方法又は診断補助方法を行うための、キットである。
【0074】
本開示の他の一側面は、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGに結合し、かつ、アコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGには結合しない抗コアフコシル化ヒトグロブリンG抗体又はその抗体断片が結合したラテックス粒子、及び、コアフコシル化ヒトIgGの測定値が基準値以下である場合には、被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患していると判定し、コアフコシル化ヒトIgGの測定値が基準値より大きい場合には、被験者が、炎症を伴う肺疾患に罹患していないという判定する、という基準に従って判定を行う旨が説明された添付文書を含む、本開示の一側面に係るデータ収集方法、診断方法又は診断補助方法を行うための、キットである。
【0075】
本開示の一側面に係る診断薬及びキットにおける抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体及びその抗体断片が結合したラテックス粒子は、上述の本開示の一側面に係るラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する方法において説明したものを用いることができ、また上述した方法により製造することができる。また、抗ヒト免疫グロブリンG抗体は、上述した方法により取得することができる。また、本開示の一側面に係る診断薬及びキットは、例えば上述の本開示の一側面に係るデータ収集方法、診断方法及び診断補助方法において説明した方法により使用することができる。
【実施例0076】
以下、本開示を実施例により、更に詳細に説明するが、これらは本開示の範囲を何ら制限するものではない。なお、以下の実施例においては、次のメーカーの試薬類を使用した。
【0077】
カルボキシル基修飾ポリスチレンラテックス(C200:平均粒径200nm)(藤倉化成社製)、Water Soluble Carbodiimide(WSC)(同仁化学研究所社製)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)(同仁化学研究所社製)、リン酸水素二ナトリウム(無水)(関東化学株式会社製)、リン酸二水素ナトリウム(無水)(関東化学株式会社製)、塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(以下、Tween20(登録商標)と記す)(富士フイルム和光純薬社製)、ウシ血清アルブミン(BSA)(シグマアルドリッチ社製)、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体(受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマにより産生される抗体)、抗ヒトIgGポリクローナル抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体溶液(GEヘルスケア・ジャパン社製)、Human IgG HRP-linked whole Ab sheep(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン社製)を使用した。
【0078】
[参考例1:肺疾患患者における、全ヒトIgG量に占めるコアフコシル化ヒトIgG量の割合の測定]
まず、ラテックス凝集法によって試料中のコアフコシル化ヒトIgGを測定する前に、実施例においてコアフコシル化ヒトIgGを測定する試料として用いる健常人から採取した血清(9検体)、肺がん患者から採取した血清(29検体)、COPD患者から採取した血清(31検体)及び間質性肺炎患者から採取した血清(15検体)について、炎症を伴う肺疾患の罹患により血清中のコアフコシル化ヒトIgG量の変動が見られるかをELISA法により検討した。
【0079】
[実験方法1:ELISA法によるコアフコシル化ヒトIgGの測定]
(1-1)抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体固相化プレートの作製
96ウェルのEIA用プレート(住友ベークライト社製)に、100mmol/L 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)で5μg/mLに希釈した抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体を100μL/ウェルずつ分注し、4℃で16時間静置して抗体をプレートに固相した。抗体を含む緩衝液を除去後、ブロッキング溶液[5% BSA及び150mmol/L 塩化ナトリウムを含有する10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)]を分注し、25℃で1時間静置してプレートをブロッキングした。ブロッキング溶液を除去後、コアフコシル化ヒトIgGの測定に使用した。
【0080】
(1-2)検量線の作成
(1-1)で調製した抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体固相化プレートに、コアフコシル化ヒトIgG濃度を値付けされたヒトIgG(既知濃度のヒトIgGに、健常者由来のヒトIgGにおけるコアフコシル化率を乗じて、コアフコシル化ヒトIgG濃度を算出した)をPBSで希釈した標準試料を100μL/ウェルずつ分注した。25℃で2時間静置した後、検体希釈液を除去し、洗浄液(0.005% Tween20を含むPBS溶液)で5回ウェルを洗浄した。次に、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体溶液をPBSで2,000倍に希釈し、この溶液(以下では「標識抗体溶液」とも記載する。)を100μL/ウェルずつ分注した。25℃で1時間静置した後、標識抗体溶液を除去し、洗浄液で5回ウェルを洗浄した。そこに、基質液[0.26mg/mL o-フェニレンジアミン及び0.009% 過酸化水素を含む100mmol/L クエン酸緩衝液(pH 5.0)]を添加し、25℃で10分間静置(暗所)した後、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長492nmで測定した。上記結果より、コアフコシル化ヒトIgG濃度と吸光度との関係を表す検量線を作成した。
【0081】
(1-3)EIA用プレートを用いたコアフコシル化ヒトIgGの測定
上記(1-2)の標準試料の代わりに、PBSで200倍に希釈したヒト血清検体を用いる以外は、(1-2)と同様の方法により、当該ヒト血清検体に対する吸光度を測定した。各検体の測定で得られた吸光度と、(1-2)で作成した検量線とから、ヒト血清検体中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定した。
【0082】
[実験方法2:全ヒトIgGの測定]
(2-1)検量線の作成
96ウェルのEIA用プレート(住友ベークライト社製)に、既知濃度のヒトIgGをPBSで希釈した標準試料を100μL/ウェルずつ分注し、4℃で16時間静置した。洗浄液(0.005% Tween20を含むPBS溶液)で3回洗浄した後、ブロッキング液[5% BSA、150mmol/L 塩化ナトリウムを含有する、10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)]を用いてプレートをブロッキングした(25℃で1時間)。洗浄液で3回洗浄した後、Human IgG, HRP-linked whole Ab sheepを希釈液(1% BSAを含むPBS溶液)で2,000倍に希釈し、この標識抗体溶液を100μL/ウェルずつ分注した。25℃で1時間静置した後、標識抗体溶液を除去し、洗浄液で5回ウェルを洗浄した。基質液[0.26mg/mL o-フェニレンジアミン、0.009% 過酸化水素を含む、100mmol/L クエン酸緩衝液(pH 5.6)]を添加し、25℃で10分間静置(暗所)した後、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長492nmで測定した。上記結果より、ヒトIgG濃度と吸光度との関係を表す検量線を作成した。
【0083】
(2-2)ヒト血清検体の測定とヒトIgG濃度の決定
上記(2-1)の標準試料の代わりに、PBSで400,000倍に希釈したヒト血清検体を用いる以外は、(2-1)と同様の方法により、当該ヒト血清検体に対する吸光度を測定した。各検体の測定で得られた吸光度と、(2-1)で作成した検量線とから、ヒト血清検体中のヒトIgG濃度を決定した。
【0084】
[肺疾患患者における、全ヒトIgG量に占めるコアフコシル化ヒトIgG量の割合の算出]
健常人から採取した血清(9検体)、肺がん患者から採取した血清(29検体)、COPD患者から採取した血清(31検体)及び間質性肺炎患者から採取した血清(15検体)について、実験方法1に従って決定したコアフコシル化ヒトIgG濃度及び実験方法2に従って決定したヒトIgG濃度を用いて、以下の式に従って、全ヒトIgGに占めるコアフコシル化ヒトIgGの割合(以下、「コアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比」とも記載する。)を算出した。
コアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比=(コアフコシル化ヒトIgG濃度)÷(全ヒトIgG濃度)
【0085】
各群のヒト血清検体について、算出された割合を図2に示す。また、多群間解析(one-way ANOVA)の解析結果を表1に示し、対照群(健常人)に対する多重比較(Dunnett’s multiple comparisons test)の解析結果を表2に示す。なお、p値が0.0001未満の場合は、「<0.0001」と記載した。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
図2、表1及び表2の結果より、対照群(健常人)におけるコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比と比較して、肺がん患者、COPD患者及び間質性肺炎患者におけるコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比が統計学的に有意に低下していた。
【0089】
[実施例1:抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体が結合したラテックス粒子溶液の作製]
カルボキシル基修飾ポリスチレンラテックス(C200)を含むラテックス懸濁液(10wt%)を、10mmol/L HEPES水溶液(pH 7.0)で20倍に希釈し、0.5wt% ラテックス懸濁液を調製した。0.5wt% カルボキシル基修飾ポリスチレンラテックス(C200)の懸濁液(1mL)に、1mg/mL Water Soluble Carbodiimide(WSC)を含む10mM HEPES溶液(pH 7.0)(300μL)を添加し、ローテーション攪拌を行なった(25℃、20分間)。ローテーション攪拌後の溶液に、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体(100μg)を加え、ローテーション攪拌を行なった(25℃、60分間)。ローテーション攪拌後の溶液に、10% Tween20溶液(15μL)を添加した後、超音波処理を行った(25℃、10分間)。超音波処理した溶液を遠心分離した(25℃、15,000rpm、30分間)後、上清を除去した。上清除去後の沈殿物に、1% BSA溶液(1mL)を添加し、超音波処理を行った(25℃、10分間)。その後、溶液をローテーション攪拌した(25℃、60分間)。ローテーション攪拌後の溶液を遠心分離した(25℃、15,000rpm、30分間)後、上清を除去した。上清除去後の沈殿物に、0.1% BSAを含む20mmol/L HEPES水溶液(pH 7.0)(1mL)を添加し、懸濁液を調製した。該懸濁液(200μL)を、0.1% BSAを含む20mmol/L HEPES水溶液(pH 7.0)(750μL)で希釈し、抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体が結合したラテックス粒子溶液を調製した。
【0090】
[実験方法3:ラテックス凝集法による試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定]
反応容器中の、実施例1において調製した抗コアフコシル化ヒトIgG選択的抗体が結合したラテックス粒子溶液(950μL)に、ヒト血清(50μL)を添加し、反応液を調製した。当該反応液を転倒混和した後、660nmでの吸光度を測定した。当該反応液をローテーション攪拌(25℃、16時間)した後、660nmでの吸光度を測定した。ローテーション攪拌前後における吸光度の増加量を、各試料における測定値(コアフコシル化ヒトIgG量)とした。
【0091】
[実施例2:コアフコシル化ヒトIgGをラテックス凝集法で測定した場合と、ELISA法で測定した場合の、日差再現性試験]
測定精度を評価する方法の1つとして日差再現性試験がある。日差再現性試験とは、測定日を変えて同一検体を測定したときの測定値のばらつきを評価する試験であり、変動係数(Coefficient of Variation:CV(%)=(標準偏差)/(平均値)×100)で評価することができる。変動係数が小さいほど、測定日ごとの測定値のばらつきが小さく、測定対象物を正確に測定できていると評価することができる。そこで、実験方法3(ラテックス凝集法)及び実験方法1(ELISA法)に従ってコアフコシル化ヒトIgGを測定した場合の、日差再現性試験の結果に比較した。
【0092】
実験方法3及び1に従って、健常人の血清(検体1)を3日間測定し、コアフコシル化ヒトIgG量の変動係数を算出した。変動係数(%)を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
表3の結果より、ラテックス凝集法を用いた日差再現性試験は変動係数が20%未満となり、ELISA法よりも測定値のばらつきを抑制して検体中のコアフコシル化ヒトIgGを測定することができた。一因として、ラテックス凝集法によるコアフコシル化ヒトIgGの測定においては検体の希釈を行う必要がなかったため、希釈誤差が抑制されたことが考えられた。
【0095】
[実施例3:健常人及び間質性肺炎患者由来血清を用いた、コアフコシル化ヒトIgG測定]
参考例1において検体中のコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比の有意な低下が見られた間質性肺炎に関し、ラテックス凝集法又はELISA法を用いたコアフコシル化ヒトIgGの測定によって、全ヒトIgGの測定を行うことなくコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価できるかを検討した。比較のために、参考例1と同様に、ELISA法を用いたコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比の算出も行った。
【0096】
健常人から採取した血清(13例)と間質性肺炎患者から採取した血清(15例)について、実験方法3(ラテックス凝集法)及び実験方法1(ELISA法)に従って、コアフコシル化ヒトIgGを測定した。また、同じ血清について、実験方法1及び2に従ってコアフコシル化ヒトIgG及び全ヒトIgGをELISA法で測定し、測定値を用いて参考例1と同様の方法でコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比を算出した。実験方法3(ラテックス凝集法)によるコアフコシル化ヒトIgGの測定結果を図3に、実験方法1(ELISA法)によるコアフコシル化ヒトIgGの測定結果を図4に、実験方法1、実験方法2及び参考例1の方法によるコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比の算出結果を図5に、それぞれ示す。
【0097】
図4によれば、ELISA法を用いたコアフコシル化ヒトIgGの測定においては、健常人と間質性肺炎患者の間に測定値の有意な差は見られなかった。これに対し、図3によれば、ラテックス凝集法を用いたコアフコシル化ヒトIgGの測定においては、健常人と間質性肺炎患者の間に測定値の有意な差が見られ、図5に示したコアフコシル化ヒトIgG/全ヒトIgG比を指標とした評価の結果により近い結果となった。以上から、ラテックス凝集法を用いて血清中のコアフコシル化ヒトIgG量のみを測定することで、血清中の全ヒトIgG量を測定することなく、統計的有意差をもって罹患の有無に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を評価することができた。
【0098】
[実施例4:ラテックス凝集法による、健常人、肺がん患者、COPD患者及び間質性肺炎患者由来血清中のコアフコシル化ヒトIgGの測定]
参考例1で評価したヒト血清検体について、実験方法3(ラテックス凝集法)に従って、コアフコシル化ヒトIgGを測定した。実験方法3(ラテックス凝集法)によるコアフコシル化ヒトIgGの測定結果を図6に示す。また、多群間解析(one-way ANOVA)の解析結果を表4に示し、対照群(健常人)に対する多重比較(Dunnett’s multiple comparisons test)の解析結果を表5に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
図6、表4及び表5の結果より、対照群(健常人)におけるコアフコシル化ヒトIgG量と比較して、肺がん患者、COPD患者及び間質性肺炎患者におけるコアフコシル化ヒトIgG量が統計学的に有意に低下していた。
以上の結果より、ラテックス凝集法を用いて、炎症を伴う肺疾患患者におけるコアフコシル化ヒトIgG量を測定することにより、健常人と、炎症を伴う肺疾患患者との鑑別診断が可能であることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6