(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006236
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】試料吸引用チップ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01N35/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106942
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000137476
【氏名又は名称】株式会社マルコム
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】原田 学
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058EB01
2G058ED12
2G058ED21
2G058ED31
2G058ED35
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、均一に液面が維持できなくなった少量の試料でも確実に吸引できるとともに、吸引した試料をサンプル管に注入する際に、サンプル管内で試料がはねたり他の液体と混ざったりすることなく静かに注入可能な試料吸引用チップを提供すること。
【解決手段】分注装置Wに給排気可能に接続可能な上部開口部111が設けられた取付部110と、試料を保持する保持部121が設けられた中間部120と、試料を吸引/排出する吐出口133が設けられた先端部130とを有した試料吸引用チップ100であって、吐出口133から続く先端部130の一部または全部が挿入部122を成し、挿入部122の最大外径は、サンプル管の開口部分の内径よりも小さく形成され、吐出口133の中心は、中間部120の中心軸Bから離れた位置にあること。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル管に入った血液等の試料を分注する分注装置にエアチューブを介して給排気可能に接続可能な上部開口部が設けられた取付部と、吸引した試料を一時的に保持する保持部が設けられた中間部と、試料を吸引/排出する吐出口が設けられた先端部とを有した筒状の試料吸引用チップであって、
前記取付部は、前記中間部の上部に形成され、
前記先端部は、前記中間部の下部に形成され、
前記取付部と前記中間部と前記先端部とは、前記上部開口部と前記保持部と前記吐出口とを連通し、
前記吐出口から続く前記先端部の一部または全部が挿入部を成し、
前記挿入部の最大外径は、少なくともサンプル管の開口部分の内径よりも小さく形成され、
前記吐出口の中心は、前記中間部の中心軸から離れた位置にあることを特徴とする試料吸引用チップ。
【請求項2】
前記中間部の中心軸から前記吐出口の下端の最外部までの距離は、前記中間部の中心軸から前記挿入部の最外部までの距離以上であることを特徴とする請求項1に記載の試料吸引用チップ。
【請求項3】
前記吐出口は、前記中間部の中心軸と垂直な面で開口されていることを特徴とする請求項1に記載の試料吸引用チップ。
【請求項4】
前記先端部は、前記中間部に接続される先端接続基部と、前記先端接続基部の下端から前記吐出口までを接続する吐出筒とを有し、
前記先端接続基部の中心軸は、前記中間部の中心軸と同一であり、
前記吐出筒は、前記先端接続基部と前記吐出口とを最短距離で接続することを特徴とする請求項1に記載の試料吸引用チップ。
【請求項5】
前記先端部は、前記中間部に接続される先端接続基部と、前記先端接続基部の下端から前記吐出口までを接続する吐出筒とを有し、
前記先端接続基部の中心軸は、前記中間部の中心軸と同一であり、
前記吐出筒の中心軸は、前記先端接続基部の中心軸から20度~80度傾いていることを特徴とする請求項1に記載の試料吸引用チップ。
【請求項6】
前記中間部の表面のうち、前記吐出口の最外部が配置されている方向側には、半径方向外方に突出した指示突起が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の試料吸引用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル管に入った血液等の試料を分注する分注装置に接続して使用する試料吸引用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サンプル管に入った血液等の試料を処理する際に分注装置に接続して使用する試料吸引用チップとして、引用文献1に記載の試料の遠心分離方法において使用される試料吸引用チップが公知である。
この特許文献1に記載の試料吸引用チップ(ピペットチップ4)は、分注装置(自動遠心分離処理装置)に使用され、チップ昇降ユニット(伸縮スタンド11)の上方に設けられたホルダ(ピペットホルダ12)に取り付けられたピペット5の先端に取り付けられているものである。
ピペット5の上方には、エアチューブ(エア吸引口8とエア排出口9)が接続され、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)内へ試料を吸引する際はエアチューブ(エア排出口9)からピペット5内を吸気し、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)内の試料を取り出す際はエアチューブ(エア吸引口8)からピペット5内へ空気を供給するものであり、エアチューブ(エア排出口9およびエア吸引口8)からの吸気および空気の供給を制御することで、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)内への試料の吸引および取り出しの速度を制御できるものである。
【0003】
また、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)に蒸発防止液3および試料1の上澄み液を吸引する際は、チップ昇降ユニット(伸縮スタンド11)の伸縮によって高さを調整し、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)の先端を遠心分離処理が完了したサンプル管(遠心管2)内の蒸発防止液3と試料1との界面より下に位置させた後でエアチューブ(エア吸引口9)からの吸引を開始して蒸発防止液3および試料1の上澄み液を試料吸引用チップ(ピペットチップ4)内へ吸引するものである。
さらに、蒸発防止液3および試料1の吸引によりサンプル管(遠心管2)内の液面が降下し、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)が液面から離脱した際は、試料吸引用チップ(ピペットチップ4)の先端から空気が吸われ始めることによる負圧の変化を検知して、エアチューブ(エア吸引口9)からの吸引を自動的に停止するものである。
【0004】
さらに、蒸発防止液3を回収した後、同様の吸引方法や注射器等を使用して、遠心分離された試料1内の回収対象であるペレットを回収するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献等で公知の分注装置の試料吸引用チップには、未だ改善の余地があった。
【0007】
すなわち、特許文献1で公知の試料吸引用チップは、蒸発防止液や試料を吸引する先端部が試料吸引用チップの中心軸上に位置しているため、試料を試料吸引用チップで回収して空のサンプル管に分注する際、サンプル管の内壁面に沿うように静かに試料を注入できず、サンプル管への試料注入時の衝撃で試料が液はねを起こしてサンプル管外へ溢れる虞があった。
また、サンプル管内に試料を注入する際に周囲の空気を巻き込みやすくなり、試料が酸化しやすい物質の場合、空気と混ざり合って変質してしまう虞があった。
また、サンプル管内に比重液が予め注入されている場合、サンプル管内に試料を注入する際の勢いで比重液と試料とが混ざり合って液面の境界が不鮮明になってしまう虞があった。
【0008】
また、吸引対象の試料が少なくなり、試料の液面が均一に維持できなくなりサンプル管内の一部に偏った場合、試料吸引用チップの先端が試料に届かずに吸引できなくなる虞があった。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、均一に液面が維持できなくなった少量の試料でも確実に吸引できるとともに、吸引した試料をサンプル管に注入する際に、サンプル管内で試料がはねたり他の液体と混ざったりすることなく静かに注入可能な試料吸引用チップを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の試料吸引用チップは、サンプル管に入った血液等の試料を分注する分注装置にエアチューブを介して給排気可能に接続可能な上部開口部が設けられた取付部と、吸引した試料を一時的に保持する保持部が設けられた中間部と、試料を吸引/排出する吐出口が設けられた先端部とを有した筒状の試料吸引用チップであって、前記取付部は、前記中間部の上部に形成され、前記先端部は、前記中間部の下部に形成され、前記取付部と前記中間部と前記先端部とは、前記上部開口部と前記保持部と前記吐出口とを連通し、前記吐出口から続く前記先端部の一部または全部が挿入部を成し、前記挿入部の最大外径は、少なくともサンプル管の開口部分の内径よりも小さく形成され、前記吐出口の中心は、前記中間部の中心軸から離れた位置にあることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る試料吸引用チップによれば、吐出口の中心は、中間部の中心軸から離れた位置にあるため、例えば、サンプル管内で均一に液面が維持できなくなった少量の試料でも、サンプル管や試料吸引用チップを傾けることなく、試料吸引用チップを中間部の中心軸が回転中心となるように回転することのみで、吐出口を試料に容易に近づけることができる。
また、吐出口をサンプル管の内壁面に簡単に近づけることができ、吸引した試料をサンプル管の内壁面に沿わせて静かに注入できる。
これによって、サンプル管内で試料がはねたり他の液体や空気等と混ざることを防止でき、サンプル管内での他の液体との境界を鮮明に維持することもできる。
【0012】
請求項2に記載の構成によれば、中間部の中心軸から吐出口の下端の最外部までの距離は、中間部の中心軸から挿入部の最外部までの距離以上であるため、サンプル管や試料吸引用チップを傾けることなく、吐出口をサンプル管の内壁面により確実に近づけることができ、吸引した試料をサンプル管の内壁面に沿わせてより確実に静かに注入できる。
請求項3に記載の構成によれば、吐出口は、中間部の中心軸と垂直な面で開口されているため、吐出口が液面に対向する向きに開口し、吸引対象の試料がサンプル管内の層の薄い分離層であっても確実に試料のみを吸引できる。
【0013】
請求項4に記載の構成によれば、先端接続基部の中心軸は、中間部の中心軸と同一であり、吐出筒は、先端接続基部と吐出口とを最短距離で接続しているため、試料をサンプル管内に注入する際、試料は先端接続基部から吐出口までを傾斜した吐出筒内を流れ、滑らかにサンプル管の内壁面に沿って流れていくことができ、より一層静かに試料を注入することができる。
請求項5に記載の構成によれば、先端接続基部の中心軸は、中間部の中心軸と同一であり、吐出筒の中心軸は、先端接続基部の中心軸から20度~80度傾いているため、試料をサンプル管内に注入する際、試料は先端接続基部から吐出口までを20度~80度で傾斜した吐出筒内を流れ、滑らかにサンプル管の内壁面に沿って流れていくことができ、より一層静かに試料を注入することができる。
【0014】
請求項6に記載の構成によれば、中間部の表面のうち、吐出口の最外部が配置されている方向側には、半径方向外方に突出した指示突起が形成されているため、サンプル管内を外部から直接確認しなくても、指示突起の向きを確認するだけで吐出口の位置を把握できる。
これによって、例えば、サンプル管や試料が不透明であったり、暗室内での作業であっても、吐出口の位置を正確に把握でき、確実に吸引対象の試料を吸引できるとともに、サンプル管の内壁面に吐出口を沿わせて試料を注入できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pの概略図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100の正面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100のA部拡大図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S1内の全血BWの吸引手順1を示す正面図。
【
図5】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S1内の全血BWの吸引手順2を示す正面図。
【
図6】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S1内の全血BWの吸引手順3を示す正面図。
【
図7】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S2内への全血BWの注入手順1を示す正面図。
【
図8】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S2内への全血BWの注入手順2を示す正面図。
【
図9】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S3内の単核球MSの吸引手順1を示す正面図。
【
図10】本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Pによる、サンプル管S2内への単核球MSの吸引手順2を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100について、図面に基づいて説明する。
なお、分注装置Pは、一部の構成を除いて図示しない。
【0017】
分注装置Wは、
図1に示すように、サンプル管に入った血液等の試料を吸引して別のサンプル管に分注したり、サンプル管から所望の成分を吸引する装置であり、ピストン昇降ユニットPMと、ポンプPと、チップ昇降ユニットTMとを有するものである。
ピストン昇降ユニットPMは、ピストンPTを先端に有するピストンロッドPLを昇降可能に接続し、ポンプPは、ピストンPTの昇降によって後述する試料吸引用チップ100による試料の吸引および分注の操作が可能であり、エアチューブTを介してホルダHに接続されている。
ポンプPとホルダHとを接続するエアチューブTには、差圧微分圧力センサPSが取り付けられている。
ホルダHは、チップ昇降ユニットTMに昇降可能且つ回転可能に接続されている。
また、分注装置Wは、ピストン昇降ユニットPMおよびチップ昇降ユニットTMを制御して、吸引作業や分注作業を自動的に実施可能な制御部(図示しない)をさらに有している。
【0018】
本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100は、
図2および
図3に示すように、中空の筒状に形成されており、ホルダHに着脱可能に取り付けられ、ホルダHに取り付けられる取付部110と、取付部110の下部に接続する中間部120と、中間部120の下部に接続する先端部130とを有する。
【0019】
取付部110は、上部開口部111を有し、ホルダHを介してエアチューブTと連通し、着脱可能に接続されている。
【0020】
中間部120は、吸引した試料を一時的に保持する保持部121と、サンプル管内に進入する挿入部122とを有し、挿入部122の外周面は、下方に向かうに従って徐々に外径が小さくなるテーパ状に形成されている。
また、中間部120の上部には、半径方向外方に突出した指示突起123が形成されている。
【0021】
先端部130は、中間部120の下端に接続する先端接続基部131と、先端接続基部131から下方に延びる吐出筒132と、吐出筒132の下端から開口した吐出口133とを有している。
吐出筒132は、先端接続基部131から下方に向かうと共に、指示突起123の突出方向に傾斜して形成され、吐出筒132の中心軸Cは、中間部120の中心軸Bから傾いて形成されている。
吐出口133は、中間部120の中心軸Bと垂直な面で開口されている。
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Wによる、試料(全血BW)の吸引手順について、
図4乃至
図6を用いて説明する。
なお、説明のため、
図4乃至
図6にはピストン昇降ユニットPM、ピストンロッドPL、ピストンPT、ポンプP、差圧微分圧力センサPSは図示しない。
【0023】
まず、
図4に示すように、遠心分離された血液(血漿BPおよび全血BW)が入ったサンプル管S1を試料吸引用チップ100の下方に固定し、制御部(図示しない)からチップ昇降ユニットTMに指示を出してホルダHごと試料吸引用チップ100を下降し、
図5に示すように、先端部130をサンプル管S1内へ進入させる。
このとき、ポンプPは空気を僅かに吸引するように作動しており、吐出口133からは空気が試料吸引用チップ100内に吸引されている。
【0024】
この状態で、吐出口133がサンプル管S1内の血漿BPに到達すると、吐出口133から血漿BPが僅かに吸引されることで吐出口133からの吸引時の抵抗が変化することで、差圧微分圧力センサPSの出力値も変化する。
さらに試料吸引用チップ100を下降させ、吐出口133が全血BWの層に到達すると、血漿BPと全血BWの吸引時の抵抗が異なるため、差圧微分圧力センサPSの出力値が再度変化する。
この差圧微分圧力センサPSの出力値の変化を制御部(図示しない)が読み取ることで、吐出口133がサンプル管S1内のどの層に到達したか認識できる。
すなわち、制御部(図示しない)は吐出口133が吸引対象である全血BW層に到達したことを差圧微分圧力センサPSの出力値によって認識するとともに、チップ昇降ユニットTMに指示を出し、全血BW層を十分に吸引可能な高さで試料吸引用チップ100の下降を停止させることができる。
【0025】
さらに、
図6に示すように、ポンプPを作動させて吐出口133から全血BWを所定量吸引した後、ポンプPを停止してからチップ昇降ユニットTMによって試料吸引用チップ100を上昇させてサンプル管S1から離脱させる。
【0026】
次に、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Wによる、試料(全血BW)の注入手順について、
図7および
図8に基づいて説明する。
なお、説明のため、
図7および
図8にはピストン昇降ユニットPM、ピストンロッドPL、ピストンPT、ポンプP、差圧微分圧力センサPSは図示しない。
【0027】
まず、
図7に示すように、比重液DLが入ったサンプル管S2を試料吸引用チップ100の下方に固定し、制御部(図示しない)からチップ昇降ユニットTMに指示を出してホルダHごと試料吸引用チップ100を下降し、
図8に示すように、吐出口133をサンプル管S2内の比重液DLよりも上方の所定の位置まで進入させる。
【0028】
次に、ポンプPを作動させ、吐出口133からサンプル管S2内へ全血BWを注入するが、全血BWを注入する際は比重液DLと混ざらないように静かに注入することが好ましく、具体的には、サンプル管S2の内周壁に吐出口133を近づけ、サンプル管S2の内周壁に沿って静かに流れるように全血BWを注入することが好ましい。
なお、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100は、吐出筒132が先端接続基部131から下方に向かうと共に、指示突起123の突出方向に傾斜して形成されているため、サンプル管S2を傾ける等することなく、サンプル管S2または試料吸引用チップ100を水平方向に若干量移動させることのみで、簡単に吐出口133をサンプル管S2の内周壁に近づけることができる。
【0029】
また、吐出筒132の中心軸Cは、中間部120の中心軸Bから傾いて形成されているため、全血BWをサンプル管内に注入する際、全血BWは滑らかにサンプル管S2の内壁面に沿って流れていくことができ、より一層静かに全血BWを注入できるものである。
なお、中心軸Cの中心軸Bからの傾き角度Dは、20度~80度の角度であることが好ましい。
試料吸引用チップ100内の全血BWの注入が終わると、吐出口133からの吐出時の抵抗が変化することで、差圧微分圧力センサPSの出力値が変化するため、制御部(図示しない)は差圧微分圧力センサPSの出力値の変化を読み取り、ポンプPを停止するとともに、チップ昇降ユニットTMに指示を出し、試料吸引用チップ100を上昇させてサンプル管S2から離脱させる。
【0030】
次に、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100を装着した分注装置Wによる、サンプル管S3内の単核球MSの吸引手順について、
図9および
図10に基づいて説明する。
なお、説明のため、
図9および
図10にはピストン昇降ユニットPM、ピストンロッドPL、ピストンPT、ポンプP、差圧微分圧力センサPSは図示しない。
【0031】
サンプル管S3内には、
図9に示すように、全血BWの分離した成分と比重液DLが成分ごとに層を形成した状態で入っており、サンプル管S3の下方から、赤血球濃厚液BD、比重液DL、単核球MS、血漿BPの各層が形成されている。
【0032】
まず、サンプル管S3を試料吸引用チップ100の下方に固定し、制御部(図示しない)からチップ昇降ユニットTMに指示を出してホルダHごと試料吸引用チップ100を下降し、吐出口133をサンプル管S3内の単核球MSの層まで進入させる。
【0033】
次に、単核球MSの層を吐出口133から吸引するが、単核球MSの量は少ないため、十分な単核球MSを吸引するためにはサンプル管S3内の単核球MSをできる限り多く回収する必要がある。
なお、吐出口133は、中間部120の中心軸Bと垂直な面で開口されているため、吐出口133が各液層面に対向する向きに開口し、単核球MSの層がサンプル管S3内の層の薄い分離層であっても、確実に単核球MSの層のみを吸引できる。
ところが、単核球MSの層の吸引を続けると、残り少なくなった単核球MSはサンプル管S3内での層を維持できず、サンプル管S3の内周壁近傍に水滴状に集まってしまうことがある。
このとき、吐出口133から離れた位置で単核球MSが集まることがあるが、本発明の一実施形態に係る試料吸引用チップ100は、吐出筒132が先端接続基部131から下方に向かうと共に、指示突起123の突出方向に傾斜して形成されているため、
図10に示すように、チップ昇降ユニットTMによってホルダHごと試料吸引用チップ100を回転させることで、吐出口133を単核球MSの集まっている位置まで移動させることができ、単核球MSを十分に吸引することができる。
【0034】
なお、サンプル管内の液体が不透明であったり、サンプル管の外周面にラベル等が巻かれている場合等、サンプル管内での吐出口133の高さ方向位置が目視で確認できないことがあるが、前述の通り、差圧微分圧力センサPSの出力値の変化で吐出口133がどの液層に到達しているかを容易に把握することができる。
また、同様の理由でサンプル管内での吐出口133の水平方向位置が目視で確認できないこともあるが、試料吸引用チップ100の中間部120の外周面には指示突起123が突出形成され、吐出筒132は指示突起123の突出方向に傾いているため、指示突起123の向きを目視またはセンサ等で確認することで、サンプル管内での吐出口133の水平方向位置を容易に把握することができる。
【0035】
また、試料吸引用チップ100で吸引および注入する試料は全血に限定されず、例えば、医療や理化学等ライフサイエンス分野で取り扱う血液、体液や、その他様々な液体に使用することができる。
また、本実施形態では試料吸引用チップ100を分注装置WのホルダHに取り付けて自動で試料の吸引および注入の操作をしていたが、吸引および注入の操作は自動でなくてもよく、例えば、ピペット等の先端部に試料吸引用チップ100を接続し、手作業で試料の吸引や注入を実施してもよい。
【0036】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0037】
なお、上述した実施形態では、チップ昇降ユニットによってホルダに接続された試料吸引用チップが昇降移動および回転するものとして説明したが、試料吸引用チップの昇降移動および回転方法はこれに限定されず、例えば、ロボットアームで試料吸引用チップを掴んで昇降移動および回転をさせてもよい。
また、上述した実施形態では、中間部には指示突起が設けられているものとして説明したが、中間部の構成はこれに限定されず、例えば、指示突起がなくてもよく、吐出筒が傾いている方向の中間部の外周面に目視確認できる印をつけてもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、挿入部の外周面は、下方に向かうに従って徐々に外径が小さくなるテーパ状に形成されているものとして説明したが、試料吸引用チップの構成はこれに限定されず、例えば、挿入部の一部または全部が、外径が均一且つサンプル管の内径よりも小さい円筒状に形成されていてもよく、試料吸引用チップ全体が、下方に向かうに従って徐々に外径が小さくなるテーパ状に形成されていてもよい。
また、上述した実施形態では、試料吸引用チップは吐出筒の下端に吐出口を1つ有するものとして説明したが、吐出筒および吐出口の構成はこれに限定されず、例えば、吐出筒と吐出口が2つ以上設けられていてもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、分注装置は差圧微分圧力センサを有するものとして説明したが、分注装置の構成はこれに限定されず、例えば、差圧微分圧力センサがなくてもよい。
【符号の説明】
【0040】
100 ・・・ 試料吸引用チップ
110 ・・・ 取付部
111 ・・・ 上部開口部
120 ・・・ 中間部
121 ・・・ 保持部
122 ・・・ 挿入部
123 ・・・ 指示突起
130 ・・・ 先端部
131 ・・・ 先端接続基部
132 ・・・ 吐出筒
133 ・・・ 吐出口
B ・・・ 中間部の中心軸
C ・・・ 吐出筒の中心軸
D ・・・ 中間部の中心軸から見た吐出筒の中心軸の傾き角度
W ・・・ 分注装置
PM ・・・ ピストン昇降ユニット
TM ・・・ チップ昇降ユニット
PL ・・・ ピストンロッド
PT ・・・ ピストン
PS ・・・ 差圧微分圧力センサ
P ・・・ ポンプ
T ・・・ エアチューブ
H ・・・ ホルダ
S1、S2、S3 ・・・ サンプル管
BP ・・・ 血漿
BW ・・・ 全血
DL ・・・ 比重液
MS ・・・ 単核球
BD ・・・ 赤血球濃厚液