(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062415
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】窒化ガリウムベースの高電子移動度トランジスタの改良型バックバリア
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023182388
(22)【出願日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】18/049,064
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100173565
【弁理士】
【氏名又は名称】末松 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・コッフィー
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GR07
5F102HC01
(57)【要約】
【課題】窒化ガリウムベースの高電子移動度トランジスタの改良型バックバリアを提供すること。
【解決手段】基板と、基板の上の1%から6%の間のAlの含有率を有するAlGaNバッファ層と、バッファ層の上の約10%のInを有するInGaN層と、InGaN層の上のGaNチャネル層と、チャネル層の上のAlGaNバリア層とを含む、高電子移動度トランジスタ(HEMT)デバイス。一実施形態では、バッファ層がAl0.04Ga0.96Nであり、InGaN層が厚さ約2nmであり、バリア層がAl0.34Ga0.66Nである。HEMTデバイスは、基板とバッファ層との間の核形成層、バッファ層とInGaN層との間のGaNスペーサ層、および/または、チャネル層とバリア層との間のAlN中間層を含み得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上の、10%未満のAlの含有率を有するAlGaNバッファ層と、
前記バッファ層の上の、20nm未満の厚さを有するInGaN層と、
前記InGaN層の上のチャネル層と、
前記チャネル層の上のバリア層とを含む、電界効果トランジスタ(FET)デバイス。
【請求項2】
前記バッファ層内の前記Alの含有率が1%から6%の間である、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項3】
前記バッファ層がAl0.04Ga0.96Nである、請求項3に記載のFETデバイス。
【請求項4】
前記InGaN層が約10%のInの含有率を有する、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項5】
前記InGaN層がIn0.1Ga0.9Nである、請求項4に記載のFETデバイス。
【請求項6】
前記InGaN層が約2nmの厚さを有する、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項7】
前記チャネル層がGaNである、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項8】
前記バリア層がAlGaNである、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項9】
前記バリア層がAl0.34Ga0.66Nである、請求項8に記載のFETデバイス。
【請求項10】
前記基板と前記バッファ層との間の核形成層をさらに含む、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項11】
前記バッファ層とInGaN層との間のGaNスペーサ層をさらに含む、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項12】
前記チャネル層と前記バリア層との間のAlN中間層をさらに含む、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項13】
前記基板がSiC、サファイア、GaN、AlNまたはSi基板である、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項14】
前記FETデバイスが高電子移動度トランジスタデバイスである、請求項1に記載のFETデバイス。
【請求項15】
基板と、
前記基板の上の、1%から6%の間のAlの含有率を有するAlGaNバッファ層と、
前記バッファ層の上の、約10%のInを有するInGaN層と、
前記InGaN層の上のGaNチャネル層と、
前記チャネル層の上のAlGaNバリア層とを含む、高電子移動度トランジスタ(HEMT)デバイス。
【請求項16】
前記バッファ層がAl0.04Ga0.96Nである、請求項15に記載のHEMTデバイス。
【請求項17】
前記InGaN層が約2nmの厚さである、請求項15に記載のHEMTデバイス。
【請求項18】
前記バリア層がAl0.34Ga0.66Nである、請求項15に記載のHEMTデバイス。
【請求項19】
前記基板と前記バッファ層との間の核形成層と、前記バッファ層と前記InGaN層との間のGaNスペーサ層と、前記チャネル層と前記バリア層との間のAlN中間層とをさらに含む、請求項15に記載のHEMTデバイス。
【請求項20】
基板と、
前記基板の上の核形成層と、
前記核形成層の上の、約4%のAlの含有率を有するAlGaNバッファ層と、
前記バッファ層の上のGaNスペーサ層と、
前記スペーサ層の上の、約10%のInと約2nmの厚さを有するInGaN層と、
前記InGaN層の上のGaNチャネル層と、
前記チャネル層の上のAlN中間層と、
前記中間層の上のAlGaNバリア層とを含む、高電子移動度トランジスタ(HEMT)デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、一般には窒化ガリウム(GaN)ベースの高電子移動度トランジスタ(HEMT)に関し、より具体的には、低Al%AlGaNバッファ層と薄いInGaN層とを含むGaNベースのHEMTに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]トランジスタの技術分野では電解効果トランジスタ(FET)がよく知られており、HEMT、MOSFET、MISFET、FinFETなどの様々な種類がある。典型的なFETは、シリコン、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムガリウムヒ素(InGaAs),インジウムアルミニウムヒ素(InAlAs)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)などの様々な半導体層を含む。場合によっては、半導体層は、層内のキャリアの数を増大させるためにボロンおよびシリコンなどの様々な不純物でドーピングされ、層のドーピングレベルが高いほどその特定の半導体材料の導電率が高くなる。FETは、ソース端子とドレイン端子とゲート端子も含み、半導体層のうちの1つまたは複数の層がチャネル層であり、ソース端子とドレイン端子とに電気的に接続している。ソース端子とドレイン端子との間に印加された電位差が、ソース端子とドレイン端子との間のチャネル層をN型またはP型の電気キャリアが流れることを可能にする。ゲート端子に印加された電気信号が、チャネル層におけるキャリアを変化させる電界を形成し、ゲート電圧のわずかな変化がチャネル層におけるキャリアの数の大きな変動を生じさせて、ソース端子とドレイン端子との間からの電流の流れを変化させる。
【0003】
[0003]HEMTデバイスは、多くの用途、特に高周波用途または高速用途を有する広く普及しているトランジスタデバイスである。GaN HEMTデバイスは、典型的には、すべて当業者にはよく知られている、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア、シリコンなどの適切な基板上にエピタキシャル成長される。典型的なHEMTデバイスは、交互になったシリコンと炭素の結晶層を含むSiC基板を有する場合がある。エピタキシャル成長を促進するのを助けるためにSiC基板上に、多くの場合、AlN層などの核形成層が堆積され、核形成層は、核形成層と後続のデバイス層の結晶構造の配向がガリウム配向を有するように、基板のシリコン面を有する側に成長させる。典型的には核形成層の上に、限られた欠陥を有する結晶構造を与えるバッファ層を成長させ、バッファ層は典型的にはGaNまたは低Al%AlGaNである。バッファ層上にGaNチャネル層が堆積され、チャネル層上にAlGaNバリア層が堆積され、チャネル層とバリア層との界面に電子の流れのための2次元電子ガス(2-DEG)層が形成される。
【0004】
[0004]現在、この技術分野ではAlGaN/GaN HEMTのバックバリアを形成するために2つの手法が使用されている。第1の手法は、GaNチャネル層とGaNバッファ層との間に薄いInGaN層を採用し、第2の手法は、低Al%AlGaNバッファ層の上にGaNチャネル層を成長させる。第1の手法は、第2の手法より高いブレークダウン電圧と、チャネル層からウエハの裏側までのより低い熱抵抗を生じさせる。第1の手法のHEMTのターンオフ特性は、第2の手法ほど鋭くない。低電圧では、これはHEMTの第2の手法より低い相互コンダクタンスと、より負のピンチオフ電圧と、より低いRFゲインにつながる。しかし、第2の手法は、第1の手法と比較して、より低いブレークダウン電圧と、チャネル層からウエハの裏側までのより高い熱抵抗を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]第1の手法は、電圧に依存しない伝導バンドバックバリアを形成するために薄いInGaN層における分極を使用し、これは典型的にはAlGaN/GaN界面から少なくとも10nmに位置する。伝導バンドにおいて十分に大きいバリアを生じさせるためには、フェルミ準位と交差するかまたは交差しそうなInGaNにおける伝導バンドを生じさせる厚さとIn含有率を使用する必要がある。InGaN伝導バンドがフェルミ準位と交差するため、InGaN層にはいくらかの電子が存在し、その結果、InGaN層のないHEMTと比較して、ゲート電圧によるHEMTのより急峻でないオフ状態からオン状態への遷移が起こる。
【0006】
[0006]第2の手法は、低Al%AlGaN上にGaNチャネル層を成長させる。AlGaNとGaNとの格子定数の差が、GaNチャネル/AlGaNバッファ界面において正味分極電荷を生じさせる。この分極電荷が、チャネル層に、AlGaNバリア/GaNチャネル界面に電子をさらに閉じ込める電界を生じさせる。チャネル層における伝導バンドの上昇は、分極電界にチャネル層の厚さを乗じた値である。この結果、チャネル層において大きな伝導バンド上昇を生じさせる約50nmの厚さとなる。AlGaNバッファ層における低Al%に起因して、AlGaNバッファ層とGaNチャネル層との伝導バンド不連続は、チャネル層における電子の閉じ込めにごくわずかしか寄与しない。ドレイン電圧が上昇するにつれて、短チャネル効果が発生する可能性があり、ドレイン電圧に起因する電界が分極に起因する電界を相殺する可能性がある。これが起こると、チャネル層における電子の閉じ込めが低下し、AlGaNバッファ層手法は有効でなくなる。この結果、第1の手法と比較してブレークダウン電圧が低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】低Al%AlGaNバッファ層と薄いInGaN層とを有するAlGaN HEMTデバイスを示す断面図である。
【
図2】薄いInGaNバッファ層が除去された
図1に示すAlGaN HEMTデバイスの伝導バンド図である。
【
図3】低Al%AlGaNバッファ層がGaNバッファ層に置き換えられた、
図1に示すAlGaN HEMTデバイスの伝導バンド図である。
【
図4】
図1に示すAlGaN HEMTデバイスの伝導バンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0011]低Al%AlGaNバッファ層と薄いInGaN層とを含むGaNベースのHEMTに関する本開示の実施形態の以下の説明は、例示的な性質のものに過ぎず、いかなる点でも本開示またはその適用または用途を限定することは意図されていない。
【0009】
[0012]以下で詳述するように、本開示は、HEMTの動作時のすべての電圧について、知られているデバイスに優るHEMTのRFパフォーマンス向上につながるデバイスチャネル層における電子の閉じ込めの向上をもたらすHEMTを提案する。この新規な手法は、低Al%AlGaNバッファ層上に成長させたGaNチャネル層に薄いInGaN層を挿入する。GaN層とAlGaNバッファ層との格子定数の差に起因する分極電界が、InGaN層の伝導バンドがフェルミ準位と交差するのを防ぎ、上述の第2の手法から得られるゲート電圧によるオフ状態からオン状態への急峻な遷移を維持する。ドレイン電圧を上昇させると、分極電界をドレイン電圧によって生じた電界によって相殺することができ、これで薄いInGaN層によって生じる伝導バンドバリアによってチャネル層への電子の閉じ込めがもたらされることになる。この結果として、第2の手法が同じ設計について生じさせることができるよりも高いブレークダウン電圧となる。
【0010】
[0013]
図1は、知られているエピタキシャル成長技術を使用してHEMTデバイス10の様々なエピタキシャル層またはデバイス層を上に堆積または成長させる基板12を含むHEMTデバイス10のデバイス断面図である。基板12は、SiC、サファイア、GaN、AlN、Siなど、本明細書で説明されている目的に適した任意の基板とすることができる。デバイス層の適正なエピタキシャル成長のための基礎層を設けるために、基板12上に核形成層14を成長させ、この層14はたとえばGaN、AlGaNまたはAlNとすることができる。核形成層14上にAlGaNバッファ層16を成長させ、バッファ層16は以下で説明する理由で、低い含有率、たとえば1%~6%のAlを有する。非限定的な一実施形態では、バッファ層16はAl
0.04Ga
0.96Nである。バッファ層16上にGaNスペーサ層18を成長させ、スペーサ層18上に20nm未満の厚さを有する薄いInGaN層20を成長させる。一実施形態では、薄い層20は、In
0.1Ga
0.9Nであり、厚さが約2nmで、約10%のIn組成を有する。薄い層20上にGaNチャネル層22を成長させ、チャネル層22上に任意によるAlN中間層24を成長させる。中間層24上にAlGaNバリア層26を成長させ、AlGaNバリア層26とGaNチャネル層22との間の圧電分極/自発分極効果が、中間層24とチャネル層22との間に2-DEG層28を生じさせる。非限定的な一実施形態では、バリア層26はAl
0.34Ga
0.66Nである。バリア層26上にソース端子30とドレイン端子32とゲート端子34とを設けるために、適切なパターン形成ステップと金属堆積ステップが行われる。
【0011】
[0014]
図2は、AlGaN HEMTデバイス10の伝導バンド図であるが、ここでは薄いInGaN層20が除去されており、
図3は、AlGaN HEMTデバイス10の伝導バンド図であるが、ここでは低Al%AlGaNバッファ層16がGaNバッファ層に置き換えられており、
図4はAlGaN HEMTデバイス10の伝導バンド図である。
【0012】
[0015]
図2に示すように、バリア層26と中間層24との界面に電子を保持するための主要閉じ込めメカニズムは、GaNチャネル層22と低Al%AlGaNバッファ層16との間の格子定数不一致によって生じる分極誘導電界である。この電界は、高ドレイン電圧における短チャネル効果によって相殺することができ、その結果として低ブレークダウン電圧となる。
【0013】
[0016]
図3に示すように、薄いInGaN層20は、GaNチャネル層22と、バッファ層16を置き換えたGaNバッファ層との間の伝導バンドにおいてバリアを生じさせる。十分に大きいバリアを生じさせるために、層20において約10%のIn含有率が使用されるが、この結果としてフェルミ準位と交差するInGaN層20における伝導バンドとなる。InGaN層20の伝導バンドがフェルミ準位に近い場合、層20を電子が占め始め、それによって、ゲート電圧によるオフ状態からオン状態へのより急峻でない遷移を生じさせる。この結果、より負のピンチオフ電圧とより小さい相互コンダクタンスとより小さいRFゲインになる。薄いInGaN層20の伝導バンドにおけるこのシフトは、ドレイン電圧によって影響されない薄いInGaN層20における分極に起因する。これは、(AlGaNバッファ閉じ込め手法とは異なり)高電圧への閉じ込めを可能にし、その結果、高ブレークダウン電圧となる。
【0014】
[0017]
図4に示すように、薄いInGaN層20は、GaNチャネル層22とGaNスペーサ層18との間の伝導バンドにおいて、外部電界に依存しないバリアを生じさせる。低Al%AlGaNバッファ層16上にスペーサ層18を成長させることで、GaNチャネル層22とInGaN層20とGaNスペーサ層18に存在する分極電界が生じる。この分極電界は、低電圧において電子がInGaN層26を占めるのを防ぎ、それによってゲート電圧によるオフ状態からオン状態への望まれる急峻な遷移と、高い相互コンダクタンスと、より低電圧における高いRFゲインとを生じさせる。低Al%AlGaNバッファ層16上の成長に起因する分極電界を短チャネル効果からのドレイン電圧によって相殺することができる高電圧において、GaNチャネル層22とGaNスペーサ層18との間のInGaN層20によって伝導バンドにおいて生じるバリアが依然として存在し、その結果、高いブレークダウン電圧となる。
【0015】
[0018]以上の説明は、本開示の単なる例示の実施形態を開示し、説明している。当業者は、このような説明からと、添付図面および特許請求の範囲から、以下の特許請求の範囲で定義されている本開示の思想および範囲から逸脱することなくこれに様々な変更、修正および変形を加えることができることが容易にわかるであろう。
【符号の説明】
【0016】
10 HEMTデバイス
12 基板
14 核形成層
16 AlGaNバッファ層
18 GaNスペーサ層
20 薄いInGaN層
22 GaNチャネル層
24 AlN中間層
26 AlGaNバリア層
28 2-DEG層
30 ソース端子
32 ドレイン端子
34 ゲート端子
【外国語明細書】