(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062431
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】紙製エンボス緩衝材
(51)【国際特許分類】
B65D 81/03 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B65D81/03 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170245
(22)【出願日】2022-10-25
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】593119170
【氏名又は名称】柏原加工紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】西川 章子
【テーマコード(参考)】
3E066
【Fターム(参考)】
3E066AA24
3E066BA01
3E066CA03
3E066DB01
3E066JA23
3E066KA20
3E066LA30
(57)【要約】
【課題】本発明は、単一の紙基材にエンボス加工を施し形成された多数の凹凸形状が緩衝性に優れた、運送のための梱包にも使用できるエンボス緩衝材を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明の紙製エンボス緩衝材は、単一の紙基材にエンボス加工を施し複数の凹凸部が形成された緩衝材において、前記凹凸部が、凸形状の上面中央近傍に凹部を備えたこと、を特徴とする。また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、一の前記凹凸部が、隣接する他の前記凹凸部とエンボス加工を施して得られる補強部によって架橋されること、を特徴とする。
【選択図】
図1b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の紙基材にエンボス加工を施し複数の凹凸部が形成された緩衝材において、
前記凹凸部が、
凸形状の上面中央近傍に凹部を備えたこと、
を特徴とする紙製エンボス緩衝材。
【請求項2】
一の前記凹凸部が、
隣接する他の前記凹凸部とエンボス加工を施して得られる補強部によって架橋されること、
を特徴とする請求項1に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項3】
前記補強部が、
一の前記凹凸部から隣接する他の前記凹凸部に架橋され、該補強部を含んだ前記凹凸部の形状が対称性を有していること、
を特徴とする請求項2に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項4】
前記凹凸部が、
前記凹凸部の高さが、
1.5mm以上、3mm以下であり、
前記凹部の深さが、
凹凸部の高さの2/3以上、凸部の高さ未満であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項5】
前記補強部が、
凹凸部の高さの1/3以上、1/2以下であること、
を特徴とする請求項2又は請求項3に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項6】
前記凹凸部が、
円錐台形状の上面中央近傍に逆円錐台形状の凹部を備えたこと、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項7】
複数の前記凹凸部が、
紙基材の任意の位置において、所定の間隔を繰り返して直線状の列をなして配置され、複数の列を備える際には、隣接する列は、前記所定の間隔の繰り返し周期の位相を1/2ずらして配置すること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する紙製エンボス緩衝材。
【請求項8】
加熱されたエンボスロールと受けロールとが押圧された状態で回転し、前記両ロールの間にシート状の紙基材のロール紙を通過させて凹凸模様を転写させる紙製エンボス緩衝材の製造方法において、
前記エンボスロールが、
金属製円柱形状の彫刻ロールであって、外周面に施された複数の凹凸部が、凸形状の上面中央近傍に凹部を備え、
巻出しロールから引き出されたシート状のロール紙に噴霧装置によって霧状の水が吹き付けられ前記ロール紙を柔軟にする工程と、
前記エンボスロールに前記受けロールが押圧され回転しつつ、該両ロール間に水が噴霧された前記ロール紙を通過させることにより、該ロール紙に前記エンボスロールの凹凸部の形状を転写させる工程と、
エンボス加工された後にシート状の前記ロール紙を巻取りロールに巻き取る工程と、
を有すること、
を特徴とする紙製エンボス緩衝材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙基材にエンボス加工を施して形成される凹凸形状によって緩衝性を備え、包装した物品を外力から保護する紙製エンボス緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、梱包に用いられる緩衝材は、空気を内包した中空部を複数備えた合成樹脂製気泡緩衝材が多く用いられている。合成樹脂製気泡緩衝材は、保管する場合、又は廃棄する場合においても、中空部が嵩張り、取り扱いに困ることがある。
【0003】
また、合成樹脂製気泡緩衝材は、梱包材や段ボール箱内面に貼付されたり、封筒の内側に貼付されたりすることによって内容物を保護するために使用される場合があるが、使用後に廃棄するためには、包装紙や梱包材から分離したうえで廃棄を行う必要があり、手間が掛かり面倒である。
【0004】
さらには、合成樹脂は、自然界において分解されることがないため、陸上から海洋に流れ込むことによって海洋プラスチックごみが年々増加し世界的な環境問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-81195号公報
【特許文献2】特開2018-177304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
紙製の緩衝材としては、従来「片段ボール60」と呼ばれる
図8に示したライナー62に中芯64のみを貼付した緩衝材が使用されることがある。これは、段ボールの片側のライナー62を取り付けていない状態である。「片段ボール60」は、中芯64の管状のたわみによって形成される空気層長手方向に対して垂直方向には柔らかく曲げることができ、復元しやすいが、空気層長手方向に曲げようとした場合には、中芯64の管状のたわみを折り曲げて塑性を変形させなければならず、曲げるためには大きな力が必要となり、一旦曲げると復元することはできず、取り扱いにくい課題がある。
【0007】
従来技術の保管、廃棄又は環境に関する問題を解決するため、合成樹脂製気泡緩衝材に代替する紙製の梱包に使用することができる緩衝材が開発され、先行技術文献が開示されている。
【0008】
特許文献1では、再生紙を用いてエンボス加工を施すことで無数の加圧部が形成され、当該加圧部によって複数枚のエンボス紙が癒着されることによって多重構造に構成された緩衝機能を備えた紙製の包装用シートが開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、紙基材は、坪量が220g/m2以上、420g/m2以下の3層以上の多層抄きによる多層紙であり、エンボス加工による凹凸形状は、紙基材の全面に高さが紙基材の肉厚よりも大きく、かつ3mm以下であり、前記凹凸形状は、凸部の頂上に平坦部を有することを特徴とする物品を保護する紙製の緩衝包装用シートが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1のように山形の凹凸形状を有するエンボス紙を多層構造にした緩衝シートでは、緩衝性を増すためには、層数を増やすことになり再生紙ではあるもののコストが上昇することになる。また、層数が増すほどに緩衝紙はハニカム構造となり柔軟性が失われ、取り扱いが容易ではなくなる課題がある。
【0011】
特許文献2においても、紙基材は3層以上の多層抄きによる多層紙であり、コストが上昇することになる。また、特許文献2では、凹凸の形状が、凸部の頂上に平坦部を有する構造であるが、平坦部が広くなるにしたがって、物品を包装して持ち運ぶ際に台形部が陥没し緩衝性が損なう可能性が高まる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、単一の紙基材にエンボス加工を施し形成された多数の凹凸形状が緩衝性に優れた、運送のための梱包にも使用できるエンボス緩衝材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の紙製エンボス緩衝材は、単一の紙基材にエンボス加工を施し複数の凹凸部が形成された緩衝材において、前記凹凸部が、凸形状の上面中央近傍に凹部を備えたこと、を特徴とする。
【0014】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、一の前記凹凸部が、隣接する他の前記凹凸部とエンボス加工を施して得られる補強部によって架橋されること、を特徴とする。
【0015】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、前記補強部が、一の前記凹凸部から隣接する他の前記凹凸部に架橋され、該補強部を含んだ前記凹凸部の形状が対称性を有していること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、前記凹凸部が、前記凹凸部の高さが、1.5mm以上、3mm以下であり、前記凹部の深さが、凹凸部の高さの2/3以上、凸部の高さ未満であること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、前記補強部が、凹凸部の高さの1/3以上、1/2以下であること、を特徴とする。
【0018】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、前記凹凸部が、円錐台形状の上面中央近傍に逆円錐台形状の凹部を備えたこと、を特徴とする。
【0019】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材は、複数の前記凹凸部が、紙基材の任意の位置において、所定の間隔を繰り返して直線状の列をなして配置され、複数の列を備える際には、隣接する列は、前記所定の間隔の繰り返し周期の位相を1/2ずらして配置すること、を特徴とする。
【0020】
本発明の紙製エンボス緩衝材の製造方法は、加熱されたエンボスロールと受けロールとが押圧された状態で回転し、前記両ロールの間にシート状の紙基材のロール紙を通過させて凹凸模様を転写させる紙製エンボス緩衝材の製造方法において、前記エンボスロールが、金属製円柱形状の彫刻ロールであって、外周面に施された複数の凹凸部が、凸形状の上面中央近傍に凹部を備え、巻出しロールから引き出されたシート状のロール紙に噴霧装置によって霧状の水が吹き付けられ前記ロール紙を柔軟にする工程と、前記エンボスロールに前記受けロールが押圧され回転しつつ、該両ロール間に水が噴霧された前記ロール紙を通過させることにより、該ロール紙に前記エンボスロールの凹凸部の形状を転写させる工程と、エンボス加工された後にシート状の前記ロール紙を巻取りロールに巻き取る工程と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、凹凸部が、凸形状の上面中央近傍に凹部を備えることによって、リング部の上方から負荷を受けた際に、凹部の底が凹凸部の底に相当する紙基材基準面を越えた位置に存在する物品や梱包材、重なり合っている本発明の紙製エンボス緩衝材に当接し、凹部傾斜部が凹凸部外周傾斜部とともに凹凸部上面のリング部を支えることによって、リング部が押しつぶされ凹凸部が塑性変形することを防止する効果を奏する。
【0022】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、隣接する凹凸部に架橋する補強部を備えることによって、凹凸部の弾性及び強度が向上し、凹凸部が塑性変形して破損することを防止する効果を奏する。
【0023】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、凹凸部を中心にして対称又はパターン化して補強部を配設することにより、凹凸部に掛かる外力による負荷をバランスよく分散させて凹凸形状が塑性変形して破損することを防止する効果を奏する。
【0024】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、凹凸部が、紙基材基準面から上面までの高さが1.5mm以上3mm以下であること、凹部の深さが、凹凸部の高さの2/3以上、凹凸部の高さ未満であることによって、エンボス加工を行う際に、紙基材が破損せず、高い緩衝性を備えることができる効果を奏する。
【0025】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、補強部が、紙基材基準面から凹凸部上面までの高さの1/3以上1/2以下の範囲の高さにすることによって、凹凸部が弾力性を損なうことなく強度を保持し塑性変形を防止することができる効果を奏する。
【0026】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、凹凸部を、円錐台形形状とした場合には、角部分を有さず、一点に負荷が集中する箇所がないので、エンボス加工の際に破損する可能性が少ない効果を奏する。また、円形状は任意の方向から外力が掛かった場合であっても、力を分散して受けることができ、多角形の場合のように、角部の一点に力が集中して、塑性変形し破損に至る場合を防止することができる。
【0027】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、直線状に並んで一列をなした凹凸部は等間隔の繰り返し周期で整列しているが、同じ繰り返し周期で整列する隣接する列においては、1/2周期位相をずらすことによって、エンボスロールでエンボス加工を施した後、巻取ロールで紙製エンボス緩衝材を巻き取る際には、凹凸部が2周ごとに積層することになり、隣り合う列で直線に整列する凹凸部の繰返し周期の位相を1/2周期ずらさず凸部が1周ごとに重なる場合と比較して、嵩張りが少なくて済む効果を奏する。また、片段ボールでは物品を包装する場合に凸形状の軸方向に曲げて包装することは剛性が高く困難であるが、本発明に係る紙製エンボス緩衝材には指向性がなく、あらゆる方向に曲げて包装することができる。
【0028】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、合成樹脂を全く使用しないため、海洋プラスチックごみを減少させる役目を担うことができ、世界的な環境問題に貢献することができる。
【0029】
また、本発明の紙製エンボス緩衝材によれば、SDGs(Sustainable Development Goals)の国際社会共通の目標である「海の豊かさを守ろう」に資する。また、再生紙を使用して本発明にかかる紙製エンボス緩衝材を製造することにより、もう一つの目標である「陸の豊かさを守ろう」に資することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1a】本発明に係る凹凸部のみを有する紙製エンボス緩衝材1の斜視図である。
【
図1b】本発明に係る補強部を備えた凹凸部を有する紙製エンボス緩衝材2の斜視図である。
【
図2】本発明に係る紙製エンボス緩衝材2の平面図である。
【
図5】凹凸形状に上方から負荷を掛けた状態を示した側面図である。
【
図6a】補強部16の配置パターンの一例を示した平面図である。
【
図6b】補強部16の配置パターンの他の一例を示した平面図である。
【
図6c】補強部16の配置パターンのさらなる他の一例を示した平面図である。
【
図7】本発明にかかる紙製エンボス緩衝材の製造に使用される紙材用エンボス加工装置40を示す概略図である。
【
図8】従来の紙製緩衝材である片段ボール緩衝材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る紙製エンボス緩衝材を実施するための形態について、図を参照しつつ説明する。
図1aは、本発明に係る凹凸部のみを有する紙製エンボス緩衝材1の斜視図である。
図1bは、本発明に係る補強部を備えた凹凸部を有する紙製エンボス緩衝材2の斜視図である。また、
図2は、本発明に係る紙製エンボス緩衝材2の平面図である。
図3は、
図2におけるA-A線断面図である。
図3では、断面部分以外の部分については、省略した。
図4は、
図2におけるB-B線断面図である。
図4では、断面部分以外の部分については、省略した。本発明に係る紙製エンボス緩衝材は、凹凸部10間に補強部16を架橋して備えることにより、弾力性及び強度が向上する。
【0032】
図1aは、本発明に係る凹凸部のみを有する紙製エンボス緩衝材1の斜視図である。本発明に係る紙製エンボス緩衝材1は、単一の紙基材にエンボス加工を施し複数の凹凸部10が形成されて構成される。
図3に示したように、凸形状の上面中央近傍に凹部14を配設することによってリング部12が備わって凹凸部10が得られる。
【0033】
凹凸部10を平面視した際の外周形状は、多角形状でもよいが、楕円形状でもよい。より好ましくは、リング部12に掛かる負荷を均等に分散することが可能な凹凸部10の中心点を対称の中心とする点対称の形状である。正多角形状では、角部分に負荷が集中するため、角数は多い方が好ましい。円形状が、角部分がなく理想的である。
【0034】
平面視の凹凸部10の中央に配設された凹部14は、凹凸部10上面の外周形状と同じ外周形状の上底を有する台形状の上下を逆にして、かつ、凹部開口部146の幅W3は、凹凸部10外周上端の幅W4未満の長さとして形成され、配設されることが好ましい。
【0035】
凹部傾斜部144の紙基材基準面30からの傾斜角θ2は、凹凸部外周傾斜部124の紙基材基準面30からの傾斜角θ1と鉛直線を対称軸として同角度とし、リング部12の断面は鉛直線に対して対称をなすことが好ましい。リング部12に上方から掛かる負荷に対して均等に力を分散するためである。
【0036】
また、凹部底142の周辺部分は、底中心近傍に達する大きな曲率を有する曲面を備え平坦部はごくわずかである。凹部14の外側に形成されるリング部12が、凹凸部10全周において均等な形状となるように凹部14を配設することが好ましい。また、リング部上面122は、断面視した場合に曲線の山形に形成されることが好ましい。平坦部を形成すると傾斜部との境界に力が集中する角部が生じるためである。
【0037】
エンボス加工を施す紙基材は、封筒や紙袋、包装紙に使用される長いパルプ繊維を原料としたクラフト紙が強度を備えており好適である。バージンパルプを原料としたクラフト紙の場合には、積層する必要がなく単層のクラフト紙を基材として使用できる。しかし、これに限定されるわけではなく、再生紙であってもよく、再生紙の場合には、坪量が大きい厚く強度を備えた紙基材を使用することによって、エンボス加工の際に紙基材が亀裂を生じることを防止することができる。
【0038】
エンボス加工を施す紙基材の厚みは、クラフト紙の場合には坪量50g/m2(厚み60μm)未満ではエンボス加工の際に角部分に亀裂が生じる可能性が高く、坪量220g/m2(厚み300μm)を超えると、エンボス加工によって緩衝性を備える十分な凹凸を得ることができない。したがって、坪量50g/m2(厚み60μm)以上、坪量220g/m2(厚み300μm)以下が好ましい。
【0039】
凹凸部10の大きさに関して、
図3を参照して説明する。まず、凹凸部10の高さH1は、包装品を外力による負荷から保護する目的で弾力を有して緩衝性を備えるためには、凹凸部10の高さH1が1.5mm以上必要となる。また、上記に示した坪量においては、3mm以下でなければエンボス加工の際に紙基材に亀裂が生じる可能性がある。したがって、凹凸部10の高さH1は、1.5mm以上、3mm以下が好ましい。
【0040】
次に、凹部14の深さDは、リング部12上方からの負荷によって凹凸部10が弾性変形した際に凹部底142が紙基材基準面30に届く深さDが適している。
図5に、凹凸部10に上方から負荷を掛けた状態を側面図で示した。リング部12の上方から負荷を受けた際に、凹部底142が凹凸部10の底に相当する紙基材基準面30を越えた位置に存在する物品や梱包材、重なり合っている紙製エンボス緩衝材に当接し、凹部傾斜部144が凹凸部外周傾斜部124とともにリング部12を支えることによって、リング部12が押しつぶされ凹凸部10が塑性変形し破損することを防止する。
【0041】
上述を踏まえ、凹凸部10の高さH1が1.5mm以上、3mm以下であることを考慮すると、凹部14の深さDは、凹凸部10の高さH1の2/3以上、凹凸部10の高さH1未満であることが好ましい。
【0042】
凹部開口部146の幅W3は、凹凸部10が弾力を有する緩衝性を備えるためには、凹部底142の幅W1の等倍以上必要となる。凹部開口部146の幅W3が、凹部底142の幅W1の等倍以下の場合には凹凸部外周傾斜部124の紙基材基準面30からの傾斜角θ1が90度以上となり、リング部12の上方からの負荷によって塑性変形しやすくなる。凹凸部外周傾斜部124の傾斜角θ1については後述する。
【0043】
また、凹部開口部146の幅W3が、凹部底142の幅W1の10倍以上となると、リング部12の上方からの負荷に対する凹凸部外周傾斜部124底に掛かるモーメントが大きくなり、凹凸部10が塑性変形する可能性が高くなる。したがって、凹部開口部146の幅W3は、凹部底142の幅W1の等倍以上、10倍以下が好ましい。
【0044】
前述したように凹凸部10の外周側面には凹凸部外周傾斜部124を備える。凹凸部外周傾斜部124の紙基材基準面30からの傾斜角θ1が45度未満の場合には、リング部上面122に負荷が掛かった場合に凹凸部外周傾斜部124底近傍に掛かるモーメントが大きくなり凹凸部10が塑性変形しやすくなる。また、凹凸部外周傾斜部124の紙基材基準面30からの傾斜角θ1を90度とすると、凹凸部外周傾斜部124は紙基材基準面30から垂直となり、上からの負荷に対して側面である凹凸部外周傾斜部124及び凹部傾斜部144が弾性を利用して力を分散させることができず、凹凸部10は塑性変形しやすくなる。したがって、凹凸部外周傾斜部124の紙基材基準面30からの傾斜角θ1は、45度以上90度未満が好ましい。
【0045】
図1bは、本発明に係る補強部を備えた凹凸部を有する紙製エンボス緩衝材2の斜視図である。複数配置された各々の凹凸部10の間は、補強部16によって架橋される。補強部16は、エンボス加工を施すことによって凹凸部10と同時に形成される。補強部16は、リング部上面122に負荷が掛かった場合に、嵩高に設けられた凹凸部10の弾力性を保持し、かつ、凹凸部10の底部においては剛性を備えて、塑性変形による破損を防止するために設けられる。
【0046】
凹凸部10の弾力性を保持するためには、補強部16の高さH2は凹凸部10の高さH1の1/2以下が好ましい。補強部16の高さH2が、凹凸部10の高さH1の1/2を超えると、リング部上面122に負荷が掛かった場合、リング部12の上部まで補強部16によって固定され、弾性変形する部分が少なくなり、弾力性が低下する。一方で、補強部16の高さH2が、凹凸部10の高さH1の1/3未満になると、リング上面に掛かる負荷によって、リング部12の上部の撓みが大きくなり、凹凸部10底近傍に掛かるモーメントが増大し塑性変形する可能性が高まる。したがって、補強部16の高さH2は、凹凸部10の高さH1の1/3以上、1/2以下であることが好ましい。
【0047】
補強部16側面の紙基材基準面30からの傾斜角θ3が、60度未満の場合には、補強部16の2倍以上の高さを備えたリング部上面122に負荷が掛かった際に凹凸部外周傾斜部124を支持する程度の強度を有することができない。また、補強部16の紙基材基準面30からの傾斜角θ3が90度を超えると、補強部16の下部が上部より小さく不安定になり、十分に凹凸部外周傾斜部124を支持することができず、凹凸部10は塑性変形しやすくなる。したがって、補強部16の紙基材基準面30からの傾斜角θ3は、60度以上90度以下が好ましい。
【0048】
補強部16底の幅はW2、特に限定されないが補強部16と凹凸部10とが多少の遊びを有して紙基材基準面30方向に撓むことを考慮すると、凹凸部10底の幅W5の略1/5が好ましい。
【0049】
図2では、一の凹凸部10から均等角度に六方向に向けて放射状に延びた補強部16を配置した場合を示した。隣接する凹凸部10は等距離に配置されており、隣接する凹凸部10と補強部16とによって、補強部16を一辺とする正三角形に形成されている。補強部16が備わった各々の凹凸部10が同形状であること、すなわち、点対称性を有している場合を示した。
【0050】
複数の凹凸部10によって列20が形成される。
図2には、隣り合う列20において、凹凸部10は位置が交互にずらされている。これは、エンボス加工を施し巻き取る際に、凹凸部10が重なることを避けるためである。また、物品を保護する側面からの理由としては、凹凸部が紙基材に高い密度で形成されていると外力による負荷によって凹凸部が破損しにくく包装された物品を保護する能力が向上することが挙げられる。
【0051】
エンボス加工方法について以下に述べる。
紙材用エンボス加工装置40は、エンボスロール42、受けロール、油圧シリンダ48、巻出しロール44、巻取りロール45およびガイドロール47を主要構成とし、その他駆動部および制御部を備える。
【0052】
エンボスロール42は、外周面に凸形状の上面中央近傍に凹部を配設する複数の凹凸部と補強部16とを備える。主として金属製であり、凹凸部は彫刻によって形成される。エンボスロール42はモータなどの駆動部を備え、回転する。エンボスロール42に形成された凹凸部及び補強部16の形状が紙基材に転写され、転写された形状が凹凸の模様となり緩衝性を備えることとなる。
【0053】
受けロールは、エンボスロール42の凹凸形状を転写するために、例えば紙基材がクラフト紙である場合、当該クラフト紙を巻回したロール紙をエンボスロール42に押圧するロールである。
受けロールには、凹凸部及び補強部を備えたエンボスロール42と対をなす彫刻が施された金属製ロール、弾性を有するラバーロールあるいは加工前にエンボスロール42の凹凸部及び補強部になじむ形状に変形させるペーパーロール43が選択的に使用される。通常は、弾性を有するラバーロールを使用されることが多いが、本発明にかかる紙製エンボス緩衝材の製造では、ペーパーロール43を使用する。但し、ペーパーロール43に限定されるものではない。
ペーパーロール43は、エンボス加工を行う前の準備段階において水で濡らしてエンボスロール42に押圧し外周面を変形させて、エンボスロール42の模様を写し取り、次に水に濡らすまで前記写し取られた状態を保持する。
ペーパーロール43は、エンボスロール42と接触してエンボスロール42の回転に従って回転する。
エンボス加工は、ペーパーロール43の外周面が変形し保持された状態で行われる。
【0054】
油圧シリンダ48は、ペーパーロール43をエンボスロール42に押圧させるために働く。
エンボスロール42の回転軸とペーパーロール43の回転軸を結ぶ直線上の斜め下方向からペーパーロール43を押し上げ、エンボスロール42に押圧する。ペーパーロール43とエンボスロール42が接触する部分がエンボス加工部となる。
【0055】
巻出しロール44は、エンボス加工前のロール紙を取り付け、エンボスロール42を回転させるモータの回転速度に応じてシート状のロール紙を送り出す。駆動装置は有しておらず、送り出すシート状のロール紙に弛みが生じないように制動装置が設けられる。
【0056】
巻出しロール44から送出されたロール紙は、ガイドロール47を介して撓んだり軌道を外したりすることなく、エンボス加工部に導入される。ロール紙にはエンボス加工部導入前のガイドロール47上で噴霧装置46によって霧状にされた水が吹き付けられ、ロール紙を柔軟にしてエンボス加工を施しやすくしている。
【0057】
巻取りロール45は、巻取りロール45の回転軸に取り付けられたモータにより、エンボス加工済のシート状のロール紙を巻き取る。巻取り速度が速すぎてエンボス加工済のシート状のロール紙にかかる張力が過大になる状態が発生した場合には、モータに設けられたクラッチによって、エンボス加工済のシート状のロール紙の送り速度に同期させる。
【0058】
巻取りロール45によって、エンボス加工されたロール紙を巻き取る際に、1.5mm以上の凹凸部10を何層も積層すると、嵩高になり取り扱いが難しい。そこで、隣り合う列20の凹凸を交互にずらして加工することによって、凹凸部10が一層ごとにずれることになり、嵩が下がることになる。そこで、紙基材において、隣接する凹凸部10の列20は、所定の間隔の繰り返し周期の位相を1/2ずらして配置される。
【0059】
図2を参照して具体的に紙基材上の凹凸部10の配置を説明する。
図2には、n列目とn+1列目とを図示している。n列目における隣り合う凹凸部10の中心間の距離をLとしている。次のn+1列目の隣り合う凹凸部10の中心間の距離も同様にLとしている。但し、n+1列目の1番目の凹凸部10は、n列目の1番目の凹凸部10から1/2Lの距離だけ列方向に移動された位置に配置され、それ以降の凹凸部10は、中心間の距離をLとして繰り返し直線上に配置されている。
【実施例0060】
図6aは、補強部16の配置パターンの一例を示した平面図である。
図6aでは、一の凹凸部10から四方向に向けて線対称性を有して補強部16を配置した場合を示した。隣接する凹凸部10は等距離に配置されており、隣接する凹凸部10と補強部16とによって、補強部16を一辺とする対称性を有する四角形が形成されている。補強部16が備わった各々の凹凸部10が同形状であること、すなわち、線対称性である場合を示した。
補強部の架橋のパターン形状は、前述の実施例に限らず、紙基材に形成された多数の凹凸部において、凹凸部を保護するためにバランスが取れた位置に補強部が配置されていればよい。