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特開2024-62450転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062450
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/00 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B61L23/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170280
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知禎
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM15
5H161NN12
(57)【要約】
【課題】列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく転落検知エリアを設定することが可能な転落検知装置を提供する。
【解決手段】転落検知装置4は、データ取得部11、停車位置判定部15、転落検知エリア設定部13を備える。データ取得部11は、列車の車両の側面の高さ位置であって列車が停車した際に車両の連結部分に対向する位置に設置された走査器ユニット3a,3b,3cからの出力データを取得する。停車位置判定部15は、走査器ユニット3a,3b,3cの位置を中心とする出力データの対称性に基づいて、列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する。転落検知エリア設定部13は、停車位置判定部15において判定された列車の停車位置を基準に、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道駅のプラットホームの下方における前記鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、前記列車が停車した際に前記車両と前記車両との連結部分に対向する位置に設置され前記車両と前記プラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得するデータ取得部と、
前記センサ装置の位置を中心とする前記出力データの対称性に基づいて、前記プラットホームにおける前記列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する停車位置判定部と、
前記停車位置判定部において判定された前記列車の停車位置を基準に、予め設定された前記プラットホームにおける前記列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の前記出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する隙間転落検知エリア設定部と、
を備えている転落検知装置。
【請求項2】
前記データ取得部において取得された前記出力データに基づいて、前記センサ装置において検出された物体の検出結果として、前記センサ装置を中心として前の車両と後ろの車両とに対応する双峰性を有するヒストグラムを作成するヒストグラム作成部を、さらに備えている、
請求項1に記載の転落検知装置。
【請求項3】
前記停車位置判定部において判定された前記列車の停車位置に対応する前記出力データを基準にして、前記データ取得部において当該出力データが取得された所定時間前、および所定時間後に取得された出力データに基づいて、予め設定された前記停車許容範囲に対応する時間帯を算出する時間帯算出部を、さらに備えている、
請求項1または2に記載の転落検知装置。
【請求項4】
前記停車位置判定部において、前記所定の停車位置からのずれがあると判定された場合には、
前記時間帯算出部は、前記所定の停車位置からのずれ量に応じて、前記停車許容範囲に対応する時間帯を算出する、
請求項3に記載の転落検知装置。
【請求項5】
前記時間帯算出部は、前記データ取得部において取得された前記出力データと、前記鉄道駅に入線して停車する全ての前記列車の運行ダイヤ情報とに基づいて、前記停車許容範囲に対応する時間帯を算出する、
請求項3に記載の転落検知装置。
【請求項6】
前記隙間転落検知エリア設定部は、前記列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の前記出力データを重ね合わせたデータにおいて、前記プラットホームと前記車両との間における検知される物体が存在しないエリアに、隙間転落検知エリアを設定する、
請求項1または2に記載の転落検知装置。
【請求項7】
前記データ取得部において取得された前記出力データを、平日のデータと土休日のデータとに分類する取得データ分類部を、さらに備えている、
請求項1または2に記載の転落検知装置。
【請求項8】
前記データ取得部は、前記列車の運行情報としてのダイヤ情報を取得する、
請求項1または2に記載の転落検知装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の転落検知装置と、
前記データ取得部に対してデータを送信する前記センサ装置と、
を備えた転落検知システム。
【請求項10】
鉄道駅のプラットホームの下方における前記鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、前記列車が停車した際に前記車両と前記車両との連結部分に対向する位置に設置され、前記車両と前記プラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得するデータ取得ステップと、
前記センサ装置の位置を中心とする前記出力データの対称性に基づいて、前記プラットホームにおける前記列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する停車位置判定ステップと、
前記停車位置判定ステップにおいて判定された前記列車の停車位置を基準に、前記プラットホームにおける前記列車の所定の停車位置の許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の前記出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する隙間転落検知エリア設定ステップと、
を備えた転落検知方法。
【請求項11】
鉄道駅のプラットホームの下方における前記鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、前記列車が停車した際に前記車両と前記車両との連結部分に対向する位置に設置され、前記車両と前記プラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得するデータ取得ステップと、
前記センサ装置の位置を中心とする前記出力データの対称性に基づいて、前記プラットホームにおける前記列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する停車位置判定ステップと、
前記停車位置判定ステップにおいて判定された前記列車の停車位置を基準に、前記プラットホームにおける前記列車の所定の停車位置の許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の前記出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する隙間転落検知エリア設定ステップと、
を備えた転落検知方法をコンピュータに実行させる転落検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道駅のプラットホームからの転落者を検知する転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道駅では、鉄道利用者が、誤ってプラットホームから軌道上へ転落することがある。また、列車が鉄道駅で停止しているときには、鉄道利用者が、プラットホームと列車との間の隙間へ転落することがある。このため、これら軌道転落および隙間転落を検知して、関係者(指令員、駅係員、車掌あるいは運転士など)に発報するシステムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1および2には、レーザを偏向しながら射出して2次元的な走査範囲を形成するレーザスキャナを備えた転落検知システムについて開示されている。レーザスキャナは、レーザを水平に射出する姿勢で、プラットホームよりも下方かつ軌道よりも上方の高さに設置されており、当該高さに形成された水平な走査範囲内の任意領域が監視領域として設定されることで、物体が監視領域内に存在するか否かを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-095649号公報
【特許文献2】特開2007-038991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の転落検知システムでは、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された転落検知システムでは、転落検知センサに検知エリアの設定は、検知漏れが生じないようにできるだけ広く設定されるとともに、列車の車両や駅ホーム下の凹凸等を誤って転落者として検知してしまう誤検知を回避するように設定されることが望ましい。
【0006】
このため、鉄道駅に入線して停車する複数種類の実車両を鉄道駅に停車させてデータを取得し、停車位置のずれも考慮しながら転落検知エリアを設定することは現実的ではない。
そこで、設置された転落検知センサを用いて数日間のデータを取得し、バラツキを考慮した列車の停車位置データに基づいて、転落検知エリアを設定することも考えられる。
【0007】
しかし、このような方法では、数日間取得したデータが、所定の停車許容範囲内においてばらつきが小さい場合や、当該鉄道駅に停車する全ての列車の車両を網羅できておらず、設定された転落検知エリアでは高精度な転落検知を行うことは困難であった。
本発明の課題は、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく転落検知エリアを設定することが可能な転落検知装置、転落検知システム、転落検知方法および転落検知プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る転落検知装置は、データ取得部と、停車位置判定部と、隙間転落検知エリア設定部と、を備えている。データ取得部は、鉄道駅のプラットホームの下方における鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、列車が停車した際に車両と車両との連結部分に対向する位置に設置され車両とプラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得する。停車位置判定部は、センサ装置の位置を中心とする出力データの対称性に基づいて、プラットホームにおける列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する。隙間転落検知エリア設定部は、停車位置判定部において判定された列車の停車位置を基準に、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する。
【0009】
ここでは、鉄道駅のプラットホームから転落した転落者を検知するための転落検知エリアの設定に際し、出力が安定的に対称性を持つ部分(車両の連結部分)に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に設置されたセンサ装置からのセンサ出力の対称性を確認して列車の停車位置のばらつき(位置ずれ)を検出し、その停車位置を基準に所定の停車許容範囲に対応する所定時間前後のセンサ出力を重ね合わせて隙間転落検知エリアを設定する。
【0010】
ここで、一般的に、列車は、同じ列車は同じ形状の車両によって編成されている。よって、車両の連結部分に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に、転落検知を行うセンサ装置が設置された場合には、センサ装置からの出力は、センサ装置の位置を中心とする左右対称となる。
停車許容範囲とは、例えば、その鉄道駅、列車の種類ごとに予め設定され、鉄道利用者がスムーズに乗降することが可能な列車の停車位置のずれの許容範囲であって、基準位置から-1.0~1.0m等の範囲で設定される。
【0011】
これにより、列車が停車した際に、センサ装置からの出力データの対称性を確認することで、所定の停車位置からの列車の位置ずれの有無を判定し、その位置ずれの有無に応じて、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定することで、数日間にわたるデータ収集を行うことなく、隙間転落検知エリアを設定することができる。
この結果、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができる。
【0012】
第2の発明に係る転落検知装置は、第1の発明に係る転落検知装置であって、データ取得部において取得された出力データに基づいて、センサ装置において検出された物体の検出結果として、センサ装置を中心として前の車両と後ろの車両とに対応する双峰性を有するヒストグラムを作成するヒストグラム作成部を、さらに備えている。
これにより、センサ装置からの出力データの対称性を分かりやすく表示するためのヒストグラムを作成することで、センサ装置から見て左右に停車した車両の側面部分を検知した2つの山(双峰性)の対称性を表示することができる。
【0013】
第3の発明に係る転落検知装置は、第1または第2の発明に係る転落検知装置であって、隙間転落検知エリア設定部は、停車位置判定部において判定された列車の停車位置に対応する出力データを基準にして、データ取得部において当該出力データが取得された所定時間前、および所定時間後に取得された出力データに基づいて、予め設定された停車許容範囲に対応する時間帯を算出する時間帯算出部を、さらに備えている。
【0014】
ここで、鉄道駅に入線してくる列車は、乗客人数(重さ)や天候(雨、雪等)等の諸条件に応じてブレーキをかけてから停車するまでの制動距離が変化する。
このため、各鉄道駅には、入線してきた列車の停車位置として、鉄道利用者がスムーズに乗降することが可能な停車許容範囲(例えば、±1m)が予め設定されている。
これにより、停車位置判定部において判定された列車の停車位置に対応する出力データを基準にして、当該出力データが取得された所定時間前後に取得された出力データから停車許容範囲に対応する時間帯を算出することで、停車許容範囲の両端付近の出力データを含むデータを用いて、高精度な隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0015】
第4の発明に係る転落検知装置は、第3の発明に係る転落検知装置であって、停車位置判定部において、所定の停車位置からのずれがあると判定された場合には、時間帯算出部は、所定の停車位置からのずれ量に応じて、停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
これにより、センサ装置からの出力データの左右対称性のずれから停車位置からのずれがあると判定された場合でも、そのずれ量を考慮して停車許容範囲の両端に停車した場合の出力データを用いて隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0016】
第5の発明に係る転落検知装置は、第3の発明に係る転落検知装置であって、時間帯算出部は、データ取得部において取得された出力データと、鉄道駅に入線して停車する全ての列車の運行ダイヤ情報とに基づいて、停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
これにより、列車ごとに車両の形状が異なる場合でも、列車の運行ダイヤ情報を用いてどの列車が入線してきたかを認識して停車許容範囲内に対応する出力データを重ねて表示することで、車両の種類まで考慮した高精度な隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0017】
第6の発明に係る転落検知装置は、第1または第2の発明に係る転落検知装置であって、隙間転落検知エリア設定部は、列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせたデータにおいて、プラットホームと車両との間における検知される物体が存在しないエリアに、隙間転落検知エリアを設定する。
これにより、上述した停車許容範囲内における複数の出力データを重ね合わせて隙間転落検知エリアを設定することで、数日間にわたってデータ取得することなく、高精度な隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0018】
第7の発明に係る転落検知装置は、第1または第2の発明に係る転落検知装置であって、データ取得部において取得された出力データを、平日のデータと土休日のデータとに分類する取得データ分類部を、さらに備えている。
これにより、平日ダイヤでのみ走行する列車と土休日ダイヤでのみ走行する列車とをカバーするように、それぞれのデータを分類し、それぞれの列車ごとに、最適な隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0019】
第8の発明に係る転落検知装置は、第1または第2の発明のいずれか1つに係る転落検知装置であって、データ取得部は、列車の運行情報としてのダイヤ情報を取得する。
これにより、取得したダイヤ情報から列車の情報を取得することで、形状が異なる車両によって編成される列車ごとに、最適な隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0020】
第9の発明に係る転落検知システムは、第1または第2の発明に係る転落検知装置と、データ取得部に対してデータを送信するセンサ装置と、を備えている。
これにより、上述したように、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することが可能なシステムを構築することができる。
【0021】
第10の発明に係る転落検知方法は、データ取得ステップと、停車位置判定ステップと、隙間転落検知エリア設定ステップと、を備えている。データ取得ステップでは、鉄道駅のプラットホームの下方における鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、列車が停車した際に車両と車両との連結部分に対向する位置に設置され車両とプラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得する。停車位置判定ステップでは、センサ装置の位置を中心とする出力データの対称性に基づいて、プラットホームにおける列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する。隙間転落検知エリア設定ステップでは、停車位置判定ステップにおいて判定された列車の停車位置を基準に、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する。
【0022】
ここでは、鉄道駅のプラットホームから転落した転落者を検知するための転落検知エリアの設定に際し、出力が安定的に対称性を持つ部分(車両の連結部分)に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に設置されたセンサ装置からのセンサ出力の対称性を確認して列車の停車位置のばらつき(位置ずれ)を検出し、その停車位置を基準に所定の停車許容範囲に対応する所定時間前後のセンサ出力を重ね合わせて隙間転落検知エリアを設定する。
ここで、一般的に、列車は、同じ列車は同じ形状の車両によって編成されている。よって、車両の連結部分に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に、転落検知を行うセンサ装置が設置された場合には、センサ装置からの出力は、センサ装置の位置を中心とする左右対称となる。
停車許容範囲とは、例えば、その鉄道駅、列車の種類ごとに予め設定され、鉄道利用者がスムーズに乗降することが可能な列車の停車位置のずれの許容範囲であって、基準位置から-1.0~1.0m等の範囲で設定される。
【0023】
これにより、列車が停車した際に、センサ装置からの出力データの対称性を確認することで、所定の停車位置からの列車の位置ずれの有無を判定し、その位置ずれの有無に応じて、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定することで、数日間にわたるデータ収集を行うことなく、隙間転落検知エリアを設定することができる。
この結果、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができる。
【0024】
第11の発明に係る転落検知プログラムは、データ取得ステップと、停車位置判定ステップと、隙間転落検知エリア設定ステップと、を備えた転落者検知方法をコンピュータに実行させる。データ取得ステップでは、鉄道駅のプラットホームの下方における鉄道駅に入線した列車の車両の側面の高さ位置であって、列車が停車した際に車両と車両との連結部分に対向する位置に設置され車両とプラットホームとの間の隙間に転落した転落者を検知するセンサ装置からの出力データを取得する。停車位置判定ステップでは、センサ装置の位置を中心とする出力データの対称性に基づいて、プラットホームにおける列車の所定の停車位置からのずれの有無を判定する。隙間転落検知エリア設定ステップでは、停車位置判定ステップにおいて判定された列車の停車位置を基準に、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する。
【0025】
ここでは、鉄道駅のプラットホームから転落した転落者を検知するための転落検知エリアの設定に際し、出力が安定的に対称性を持つ部分(車両の連結部分)に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に設置されたセンサ装置からのセンサ出力の対称性を確認して列車の停車位置のばらつき(位置ずれ)を検出し、その停車位置を基準に所定の停車許容範囲に対応する所定時間前後のセンサ出力を重ね合わせて隙間転落検知エリアを設定する。
【0026】
ここで、一般的に、列車は、同じ列車は同じ形状の車両によって編成されている。よって、車両の連結部分に対向する位置であって車両の側面の高さ位置に、転落検知を行うセンサ装置が設置された場合には、センサ装置からの出力は、センサ装置の位置を中心とする左右対称となる。
停車許容範囲とは、例えば、その鉄道駅、列車の種類ごとに予め設定され、鉄道利用者がスムーズに乗降することが可能な列車の停車位置のずれの許容範囲であって、基準位置から-1.0~1.0m等の範囲で設定される。
【0027】
これにより、列車が停車した際に、センサ装置からの出力データの対称性を確認することで、所定の停車位置からの列車の位置ずれの有無を判定し、その位置ずれの有無に応じて、予め設定されたプラットホームにおける列車の停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定することで、数日間にわたるデータ収集を行うことなく、隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0028】
この結果、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る転落検知装置によれば、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る転落検知装置を含む転落検知システムの構成を示す制御ブロック図。
図2図1の転落検知システムに含まれる転落検知装置の構成を示す制御ブロック図。
図3】(a)は、駅のプラットホームに列車が不在の状態において光走査器による走査範囲を示す平面図。(b)は、駅のプラットホームに列車が在線の状態において光走査器による走査範囲を示す平面図。
図4】駅のプラットホームの下部空間に設置された光走査器と駅に停止した列車との位置関係を示す、列車の進行方向から見た断面図。
図5】(a)は、列車が駅のプラットホームに不在の状態における転落検知エリアを示す斜視図。(b)は、列車が駅のプラットホームに在線の状態における隙間転落検知エリアを示す斜視図。
図6図2の上走査器から出力され、列車が所定の基準停車位置に停車した場合における出力データを示す図。
図7図6の出力データについて、電車の車両の形状の特徴、駅構造物の特徴等を示す図。
図8図7の出力データに基づいて作成されたセンサ出力ヒストグラムを示す図。
図9図2の上走査器から出力され、列車が所定の基準停車位置よりも1m手前に停車した場合における出力データを示す図。
図10図9の出力データに基づいて作成されたセンサ出力ヒストグラムを示す図。
図11図2の上走査器から出力され、列車が所定の基準停車位置よりも1m超過した位置に停車した場合における出力データを示す図。
図12図11の出力データに基づいて作成されたセンサ出力ヒストグラムを示す図。
図13図2の転落検知装置によって実施される転落検知方法の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態に係る転落検知装置について、図1図13を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、本実施形態では、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
また、出願人は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0032】
以下の説明において、「長手方向」は、鉄道駅のプラットホームPの長手方向である(図3の紙面左右方向、図4の紙面直交方向)。長手方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの延在方向、および、軌道R上の車両Cの車長方向と略平行である。「幅方向」は、プラットホームPの幅方向(図3の紙面上下方向、図4の紙面左右方向)である。幅方向は、プラットホームPに隣接した軌道Rの軌間方向、および、軌道R上の車両Cの車幅方向と略平行である。幅方向の「内側」または「内方」は、プラットホームPの幅中心に近づく側または方向である。幅方向の「外側」または「外方」は、プラットホームPの幅中心から遠ざかる側または方向である。
【0033】
軌道Rは、道床と、その上に設けられた一対のレールとを含む。列車Tは、レールに沿って軌道R上を走行する。列車Tは、1両の車両Cで構成され、または、連結器を介して2両以上の車両Cを順次に連結することによって構成される。プラットホームPは、軌道Rと幅方向に隣接して設定され、その上面は軌道Rよりも上方に位置する。
軌道Rの状態には、図3(a)に示す「不在状態」と、図3(b)に示す「在線状態」とが含まれる。不在状態では、軌道R上に列車Tが存在せず、軌道Rの上方が広く開放される。不在状態において、鉄道利用者は、プラットホームPの上面で列車Tの到着を待つ。在線状態では、軌道R上で列車Tが停止している。在線状態において、鉄道利用者は、プラットホームPと列車Tの車両Cとの間に形成される隙間Dを跨いで、プラットホームPの上面から列車Tに乗り、または、列車TからプラットホームPの上面へ降り立つ。
【0034】
(1)転落検知システム1の構成
本実施形態に係る転落検知システム1は、プラットホームPを備えた鉄道駅に適用され、プラットホームPから誤って転落した鉄道利用者を検知する。検知の対象は、不在状態でプラットホームPから軌道Rまで転落した「軌道転落者」と、在線状態で隙間Dへ転落した「隙間転落者」との両方である。隙間転落者には、軌道Rまで落下する者もいれば、隙間Dに挟まって宙吊りになる者もいるが、そのどちらも検知の対象である。
【0035】
なお、軌道Rの状態には、不在状態から在線状態への過渡状態としての「入線状態」と、在線状態から不在状態への過渡状態としての「出線状態」とが含まれる。
また、本実施形態に係る転落検知システム1は、図1に示すように、プラットホームPの下部空間に設置された走査装置3と、走査装置3と接続された転落検知装置4と、パトライト(登録商標)等のシステム状態表示器5および転落警報器6と、軌道回路7と、記憶装置8と、表示装置9と、を備えている。
【0036】
走査装置3は、図2図4に示すように、プラットホームPの下部空間において、プラットホームPと隣接した軌道Rに沿って設けられており、複数の走査器ユニット3a,3b,3cを有している。各走査器ユニット3a,3b,3cは、上下一対で配置された上走査器(センサ装置)31および下走査器32を含む。複数の走査器ユニット3a,3b,3cは、長手方向に間隔をおいて設定された複数の設置位置それぞれに設置されている。
【0037】
上・下走査器31,32は、例えば、レーザ光を所定の角度範囲内で走査する2Dレーザスキャナであって、図2に示すように、発光部33、偏向部34、受光部35、検知部36、距離算出部37を有している。
発光部33は、レーザ光のような走査光SLを発光する。
偏向部34は、ガルバノミラーのような偏向器、および、偏向器を回転駆動するアクチュエータを有する。発光部33で発光された走査光SLは、偏向部34によって偏向されながら射出される。これにより、2次元的な走査範囲SRが形成される。走査範囲SR内に物体が存在すると、走査光SLがその物体で反射する。
【0038】
受光部35は、走査光SLの反射光を受光する。
検知部36は、発光部33から照射されてから受光部35で受光された反射光を受光するまでの時間に基づいて、走査範囲SR(更に言えば、走査範囲SR内に設定された転落監視領域)に物体が存在するか否かを検知する。
距離算出部37は、受光部35において受光した反射光を受光するまでの時間の情報に応じて、光を反射した物体までの距離を算出する。
【0039】
上・下走査器31,32は、図4に示すように、プラットホームPよりも下方かつ軌道Rよりも上方に設置されている。上走査器31は、下走査器32よりも上方に設置されている。
上走査器31は、主として、列車Tの車両CとプラットホームPとの間の隙間Dで宙吊りになった隙間転落者を検知する。上走査器31の上下方向の位置は、このような役割を果たすための適値(例えば、軌道から約700~800mm上方、あるいは、プラットホームPから約600mm下方)の高さ位置に調整される。
【0040】
下走査器32は、主として、軌道転落者を検知する。このため、下走査器32は、軌道Rの構成要素を検知しないことを求められる。下走査器32の上下方向の位置は、このような役割を果たすための適値(例えば、軌道から約250mm上方)に調整される。
上・下走査器31,32は、軌道Rよりも幅方向内方、更には、プラットホームPの端縁よりも幅方向内方に設置されている。プラットホームPの下方には、プラットホームPの端縁から見て幅方向内方に奥まった空間が形成されることがある。走査器ユニット3a,3b,3cの設置位置は、例えば、このような空間内に設定されており、当該空間内で上・下走査器31,32の上下方向および幅方向における位置が調整される。
【0041】
上・下走査器31,32は、走査光SLが幅方向外方へ水平に射出されて水平面内で偏向される姿勢で、設置されている。これにより、上・下走査器31,32が、プラットホームPよりも下方かつ上・下走査器31,32から見て幅方向外方に、2つの水平な走査範囲SRを形成する。
走査光SLの偏向範囲は、図3に示すように、約-5°~185°の角度範囲で設定されている。走査範囲SRは、平面視において、対応する上・下走査器31,32から幅方向に延びる基準線RLに対して線対称の半円形状に形成される。複数の走査範囲SRが、長手方向に並べられ、かつ、互いに部分的にオーバラップされるようにして、複数の走査器ユニット3a,3b,3cによって形成される。
【0042】
各走査範囲SR内に、転落監視領域が設定される。上・下走査器31,32は、それぞれ、走査範囲SR内の物体(転落者または車輪)の存否を検知することができる。そして、上・下走査器31,32は、それぞれが設定された転落監視領域内の物体の存在を検知したときに、その旨を示す検出信号を出力する。
転落監視領域のサイズおよび場所は、軌道の状態に応じて変更される。本実施形態に係る上・下走査器31,32においては、複数の転落監視領域を、同一の走査範囲SR内における互いに異なる領域に同時的に設定することが可能である。また、同時的に設定される2以上の転落監視領域を、同一の走査範囲SR内で部分的に互いにオーバラップさせることも可能である。
【0043】
本実施形態では、走査器ユニット3a,3b,3cのそれぞれの設置位置が、長手方向において車両2両分の長さに相当する間隔をおいて設定されている。各設置位置は、停車中の列車Tの車両連結部と幅方向に対向する位置である。
長手方向一方側(図3の紙面左側)の末端に設置された走査器ユニット3aは、1両目および2両目の車両連結部と対向する。その隣に設置された走査器ユニット3bは、末端の走査器ユニット3aから車両2両分の長さだけ離されており、3両目および4両目の車両連結部と対向する。
【0044】
上・下走査器31,32にそれぞれ設定される転落監視領域は、長手方向に車両2両分の長さを有している。転落監視領域は、設置位置から見て長手方向一方側の車両Cと他方側(図3の紙面右側)の車両Cとの2両が停止する領域と対応する。
複数の走査器ユニット3a,3b,3cにそれぞれ設定される複数の転落監視領域は、長手方向に連なる。したがって、列車Tが停車する全領域が監視の対象となる。
【0045】
ただし、走査器ユニット3a,3b,3cは、単数でも複数でもよく、特に限定されない。走査器ユニット3a,3b,3cの個数は、転落監視領域の長手方向における寸法や、プラットホームPの有効長や、軌道R上で停止すると想定されている列車Tの最大長に応じて、適宜変更可能である。
例えば、プラットホームPと列車Tの車両Cとの間の隙間が広くなりやすい曲線状の部分にのみ、走査器ユニット3a,3b,3cが設置されており、プラットホームPの一部において転落検知が実施されてもよい。
【0046】
転落検知装置4は、図2に示すように、走査装置3と接続されており、走査装置3から出力された検知結果に基づいて、プラットホームPからの転落者を検知する。転落検知装置4は、転落者を検知すると、関係者に知らせるために転落警報器6に発報動作を行わせる。
システム状態表示器5は、例えば、パトライト(登録商標)等の表示装置であって、後述する転落者を検知した場所を示す表示や、走査器ユニット3a,3b,3cの上・下走査器31,32に生じた異常の内容等を表示する。
【0047】
転落警報器6は、列車運行を管理する指令所に設けられ指令員に向けて警報を発する、あるいは、鉄道駅に設けられ駅係員に向けて警報を発する、あるいは、列車Tの制御車に設けられ運転士あるいは車掌に向けて警報を発する警報器を含む。警報器は、警告音等の音情報を出力するスピーカまたはブザーでもよいし、警告メッセージを表示するディスプレイ、または警告光を照射するランプであってもよい。
【0048】
関係者は、警報に基づいて、転落への対処、および、転落に付随する二次事故を未然に防ぐための措置を採ることができる。
軌道回路7は、軌道転落監視対象駅における列車の在線、不在を検知して、転落検知装置4に対して軌道回路信号を送信する。軌道回路7は、一例として、プラットホームPと隣接する軌道Rを検知範囲とする軌道回路であってもよい。軌道回路7は、プラットホームPの長手方向両端部の屋根に設置され、車両Cの上面または側面の存否を検知する車両検知センサによって構成されてもよい。
【0049】
本実施形態の転落検知システム1では、後述する隙間転落検知エリアを設定する処理が、軌道回路7からの軌道回路信号に基づいて、列車が在線時(停車時)に取得されたデータを用いて実施される。
記憶装置8は、転落検知装置4に接続されており、例えば、走査装置3から受信したRAWデータや、転落検知結果等のログデータが保存されている。
表示装置9は、例えば、液晶表示装置であって、転落検知等の検知結果等を表示する。
【0050】
(2)転落検知装置4
転落検知装置4は、一例として、CPUと、ROM、RAMおよびEEPROM等のメモリと、入出力インタフェースとを備えるコンピュータによって構成される。コンピュータは、単体でもよいし、物理的に分散された複数のコンピュータの複合でもよい。メモリは、このようなコンピュータに転落検知方法を実行させるための転落検知プログラムを記憶している。CPUは、メモリに保存された転落検知プログラムを読み込んで、転落検知プログラムに従って転落検知方法に係る情報処理を行う。メモリは、転落検知プログラムのほか、転落検知方法の実行に際して必要な情報またはデータを一時的に記憶することもできる。
【0051】
転落検知装置4は、CPUが転落検知プログラムを読み込んで実行することで、図2に示すように、制御部10、データ取得部11、軌道情報取得部12、転落検知エリア設定部13、転落検知部14、停車位置判定部15、ヒストグラム作成部16、時間帯算出部17、取得データ分類部18および出力部20を有している。
制御部10は、データ取得部11、軌道情報取得部12、転落検知エリア設定部(隙間転落検知エリア設定部)13、転落検知部14、停車位置判定部15、ヒストグラム作成部16、時間帯算出部17、取得データ分類部18および出力部20と接続されており、各部を制御する。
【0052】
データ取得部11は、上・下走査器31,32から、例えば、受光部35において反射光を受光するまでの時間のデータ、検知部36において検知された検知結果、距離算出部37において算出された転落検知エリア内に存在する物体までの距離データ等を受信する。
また、データ取得部11は、鉄道駅に入線してくる列車の車両情報、平日および土休日の運行ダイヤデータを含むダイヤ情報を取得する。
【0053】
軌道情報取得部12は、軌道の状態を示す情報を取得する。本実施形態では、軌道情報取得部12は、軌道の状態として、在線状態であるか、不在状態であるか、これら2つの状態のいずれでもないか(過渡状態であるか)を示す情報を取得する。
転落検知エリア設定部13は、取得された軌道の状態等に応じて、上・下走査器31,32にそれぞれ設定されるべき転落を監視する転落監視領域を所定のパターンの中から1つ選択し、選択されたパターンの転落監視領域を上・下走査器31,32にそれぞれ設定する。転落検知エリア設定部13は、軌道の状態に応じて、転落監視領域のパターン、転落検知システム1の検知の対象、あるいは、転落検知システム1の動作モードを切り換える。
【0054】
また、本実施形態では、転落検知エリア設定部(隙間転落検知エリア設定部)13は、列車Tの停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせたデータにおいて、プラットホームPと車両Cとの間における検知される物体が存在しないエリアに、隙間転落検知エリアを設定する。
なお、転落検知エリア設定部13による転落検知エリアの設定については、後段にて詳述する。
【0055】
転落検知部14は、データ取得部11において上下走査器31,32から取得された出力データに基づいて、所定の判定ロジックに従って、転落検知エリア設定部13において設定された転落検知エリアにおけるプラットホームPからの転落者の有無を判定する。
停車位置判定部15は、上走査器31の位置を中心とする出力データの対称性、つまり、後述するヒストグラム作成部16において作成されたヒストグラムを用いて、プラットホームPにおける列車Tの所定の停車位置からのずれの有無を判定する。
【0056】
ヒストグラム作成部16は、データ取得部11において取得された出力データに基づいて、上走査器31において検出された物体の検出結果として、上走査器31を中心として前の車両と後ろの車両とに対応する双峰性を有するヒストグラムを作成する。
時間帯算出部17は、停車位置判定部15において判定された列車Tの停車位置に対応する出力データを基準にして、データ取得部11において当該出力データが取得された所定時間前、および所定時間後に取得された出力データに基づいて、予め設定された停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
【0057】
例えば、予め設定された停車許容範囲が基準停車位置から前後に-1.0~1.0mに設定されており、実際に停車した列車Tが基準停車位置に正確に停車した場合には、列車Tが-1.0mの位置にある停車直前の出力データおよび+1.0mの位置にある発車直後の出力データを取得し、その時間を算出する。
また、時間帯算出部17は、停車位置判定部15において所定の停車位置からのずれがあると判定された場合には、所定の停車位置からのずれ量に応じて、停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
【0058】
同様に、例えば、予め設定された停車許容範囲が基準停車位置から前後に-1.0~1.0mに設定されており、実際に停車した列車Tが基準停車位置から+0.5mの位置に停車した場合には、列車Tが-1.5mの位置にある停車直前の出力データおよび+0.5mの位置にある発車直後の出力データを取得し、その時間を算出する。
さらに、時間帯算出部17は、データ取得部11において取得された出力データと、鉄道駅に入線して停車する全ての列車Tの運行ダイヤ情報とに基づいて、停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
【0059】
取得データ分類部18は、データ取得部11において取得された出力データを、平日のデータと土休日のデータとに分類する。これにより、土休日ダイヤでのみ運行される特殊な形状の車両CがプラットホームPに停車した状態で必要なデータを含むようにヒストグラムが作成されることで、当該鉄道駅に停車する全ての種類の車両Cに対して適切な転落検知エリアを設定することができる。
【0060】
出力部20は、転落検知部14が転落者を検知した場合に、転落警報器6に警報動作を行わせる指令を出力する。また、出力部20は、例えば、パトライト(登録商標)等のシステム状態表示器5に対して、走査器ユニット3a,3b,3cの上・下走査器31,32に生じた異常の内容等を出力する。さらに、出力部20は、表示装置9に対して、転落検知等の結果を出力する。
【0061】
本実施形態の転落検知システム1では、以上のように、転落検知システム1に含まれる少なくとも1つの上走査器31を、車両Cと車両Cとの連結部分に対向するように、かつ、軌道のレール面から70~80cmの高さ位置に設置する。
これにより、図4に示すように、走査光SLが車両Cの車体側面(車両Cの連結部分を挟んで前方の車両Cの車体と後方の車両Cの車体)を捉えることができる。したがって、列車TがプラットホームPにおける所定の停車位置に停車した場合には、図6に示すように、上走査器31の前後に停車している車両Cを検出した左右略対称なセンサ出力を得ることができる。
【0062】
図6に示すデータは、上走査器31が設置されたセンサ位置を原点とし、上走査器31の走査によって検出された物体(駅構造物、停車した車両Cの部品等)とそれぞれの物体までの距離を示している。
本実施形態では、左右略対称なセンサ出力(図6参照)を利用し、上走査器31付近の軌道に相当する領域において、車両Cが停車した際のセンサ出力のヒストグラムの双峰(上走査器31からみて前側の車両Cと後ろ側の車両C)の対称性から停車位置を把握する。そして、停車直前および発車直後におけるセンサ出力のヒストグラムの対称性(双峰)の動きに基づいて、停車許容範囲内において車両Cが移動する時間帯を検出し、停車直前から発車直後における停車許容範囲に対応する時間帯のセンサ出力を重ね合わせたデータを作成する。
これにより、数日間に渡るセンサ出力を集計して重ね合わせデータを作成することなく、重ね合わせデータに干渉しないエリアを、隙間転落検知エリアとして設定することができる。
【0063】
(転落監視領域)
本実施形態の転落検知装置4では、図3に示すように、軌道の状態に応じて走査装置3に選択的に設定される転落監視領域のパターンとして、不在状態で設定されるパターンである軌道監視領域ARと、在線状態で設定されるパターンである隙間監視領域(隙間転落検知エリア)ADとが設定されている。
【0064】
軌道監視領域ARは、図3(a)に示すように、軌道Rの上部空間を覆うように設定される。軌道転落者は、転落の過程で軌道監視領域AR内に入る。よって、軌道監視領域AR内に物体が存在するとの検知結果に基づき、軌道Rの幅方向全体にわたって、軌道転落者を検知することができる。
隙間監視領域ADは、上述した上走査器31からの出力データの対称性を利用して設定される隙間転落検知エリアであって、図3(b)に示すように、軌道監視領域ARよりも幅方向に狭く、隙間D内に設定される。隙間転落者のうち軌道Rまで達した者は、転落の過程で隙間監視領域AD内に入る。宙吊りになった者も、隙間監視領域AD(特に、上隙間監視領域ADU)内で留まる。よって、隙間監視領域AD内に物体が存在するとの検知結果に基づき、隙間転落者を検知することができる。
【0065】
(軌道監視領域)
走査装置3は、長手方向に並ぶ複数の走査器ユニット3a,3b,3cで構成される。
軌道監視領域ARは、図3(a)に示すように、複数の走査器ユニット3a,3b,3cごとに設定される軌道監視領域ARa,ARb,ARcを長手方向に連ねることによって構成される。
【0066】
各走査器ユニット3a,3b,3cは、上述したように、上下一対で設けられた上・下走査器31,32で構成されている。
走査器ユニット3aの軌道監視領域ARaは、上走査器31に設定される上軌道監視領域ARaUと、下走査器32に設定される下軌道監視領域ARaLとで構成される。他の走査器ユニット3b,3cの軌道監視領域ARb,ARcについても、これと同様である。
【0067】
すなわち、複数の上走査器31が長手方向に沿って並べられ、かつ、複数の下走査器32が長手方向に沿って並べられている。走査装置3の軌道監視領域ARは、上軌道監視領域ARUと、下軌道監視領域ARLとで構成されている。
上軌道監視領域ARUは、複数の上走査器31に設定された複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcUを長手方向に連ねることによって形成されている。下軌道監視領域ARLは、上軌道監視領域ARUよりも低い位置に設定され、複数の下走査器32に設定された複数の下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcLを長手方向に連ねることによって形成されている。
【0068】
複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcUは、長手方向に並ぶように設定されている。また、複数の下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcLは、複数の上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcUとそれぞれ対応して設定されている。各下軌道監視領域ARaL,ARbL,ARcLは、対応する上軌道監視領域ARaU,ARbU,ARcUと長手方向において略同じ位置に設定されている。
【0069】
図5(a)は、列車Tが不在状態で走査器ユニット3aに設定される軌道監視領域ARaを示す斜視図である。本実施形態では、上軌道監視領域ARaUが、走査器ユニット3aの上走査器31によって形成される単一の走査範囲SR内に設定された複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4を長手方向に連ねることによって形成されている。下軌道監視領域ARaLも、走査器ユニット3aの下走査器32によって形成される単一の走査範囲SR内に設定された複数の下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4を長手方向に連ねることによって形成されている。
【0070】
このように、複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4が、長手方向に並ぶように設定されている。また、複数の下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4が、複数の上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4とそれぞれ対応して設定されている。各下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4は、対応する上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4と長手方向において略同じ位置に設定されている。
【0071】
別の走査器ユニット3b,3cにおいても、これと同様である。セグメント数は、1つの走査器ユニットにおいて上下同じであれば、どのように設定されていてもよい。本実施形態では、単なる一例として、いずれの走査器ユニット3a,3b,3cにおいても、セグメント数が4である。
一例として、上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4は、上軌道監視領域ARaUを長手方向に等分割することによって形成されている。本例では、上軌道監視領域ARaUは、長手方向が長辺となる長方形状であり、長辺の長さは車両2両分(約40m)である。上セグメントARaU1,ARaU2,ARaU3,ARaU4も、平面視で概略長方形状であり、その長辺の長さは、車両半分の長さと概ね等しい。下セグメントARaL1,ARaL2,ARaL3,ARaL4についても、これと同様である。
【0072】
(隙間監視領域)
隙間監視領域ADについても、軌道監視領域ARと同様であるが、プラットホームPに停車している在線状態の列車Tの車両Cの一部、プラットホームP側の物体等を、誤って転落者として誤検知しないように、既存の物体を避けるように設定される。隙間監視領域ADは、複数の走査器ユニット3a,3b,3cごとに設定される隙間監視領域ADa,ADb,ADcを長手方向に連ねることによって構成される。
【0073】
走査器ユニット3aの隙間監視領域ADaは、上走査器31に設定される上隙間監視領域ADaUと、下走査器32に設定される下隙間監視領域ADaLとで構成される。他の走査器ユニット3b,3cの隙間監視領域ADb,ADcについても、これと同様である。また、走査装置3の隙間監視領域ADは、上隙間監視領域ADUと、下隙間監視領域ADLとで構成されている。上隙間監視領域ADUは、複数の上走査器31に設定された複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcUを長手方向に連ねることによって構成される。下隙間監視領域ADLは、上隙間監視領域ADUよりも低い位置に設定され、複数の下走査器32に設定された複数の下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcLを長手方向に連ねることによって構成される。
【0074】
複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcUが、長手方向に並ぶように設定されている。また、複数の下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcLが、複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcUとそれぞれ対応して設定されている。各下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcLは、対応する上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcUと長手方向において略同じ位置に設定されている。
【0075】
図5(b)は、在線状態で走査器ユニット3aに設定される隙間監視領域ADaを示す斜視図である。本実施形態では、単なる一例として、走査器ユニット3aの隙間監視領域ADaは、軌道監視領域ARa(図5(a)を参照)とは異なり、複数のセグメントに細分されていない。ただし、複数の上隙間監視領域ADaU,ADbU,ADcUが、部分的に互いにオーバラップされていてもよい。付随して、複数の下隙間監視領域ADaL,ADbL,ADcLも、部分的に互いにオーバラップされていてもよい。
【0076】
ここで、隙間転落検知エリアの設定について、さらに詳細に説明すれば以下の通りである。
すなわち、隙間転落検知エリアを設定するために、データ取得部11は、平日/土休日のダイヤ各々1日分のセンサ出力データと営業車両停車時刻情報を収集する。
ここで、営業車両停車時刻情報は、例えば、特開2022-82088号公報「車両停止判定装置、車両停止判定方法および車両停止判定プログラム」(オムロン株式会社)に記載の方法にて認識することができる。
【0077】
具体的には、上記公報に記載された車両停車判定方法によって列車が停車している時刻を、ログファイルに記憶しておくことで、それを営業車両停車時刻として用いることができる。
ここで、プラットホームPに停車した列車Tの位置が、所定の停車位置にある場合のセンサ出力の例を図7に示す。
【0078】
図7に示すグラフの中央の原点は、上走査器31が設置されたセンサ位置を示しており、Y軸を中心にして左右対称となる出力(列車Tの車両Cの形状の特徴)が示されている。なお、図7において、X=-5.3~5.0、Y=8.0付近の出力は、対向するプラットホームPを検知した結果を示している。また、X=-20~-6.0、Y=0付近の出力およびX=7.0~20.0、Y=0付近の出力は、プラットホームP下の足元灯等の駅構造物を検知した結果を示している。
【0079】
そして、本実施形態の転落検知装置4では、時間帯算出部17が、車両Cと車両Cとの連結部分に対向する位置であって車両Cの側面に対向する高さ位置に設置された、少なくとも1つの上走査器31において収集された出力データと、営業車両停車時刻情報とを用いて、出力データを解析し、車両Cの停車許容範囲の時間帯を算出する。
より詳細には、ヒストグラム作成部16が、データ取得部11において取得された上走査器31からの出力データと営業車両停車時刻情報とに基づいて、列車Tが停車時のセンサ出力データを抽出し、上走査器31付近の軌道エリア(例えば、X=-5.1~5.1(m),Y=0.8~2.5(m))上にプロットされる点について、ヒストグラムを作成する。なお、階級幅は、例えば、0.2(m)とする。
【0080】
列車Tの停車位置が所定の停車位置に丁度停止した場合には、図7に示すように、センサ出力は、Y軸を中心とする左右略対称な出力結果を示す。この出力結果に基づいて、ヒストグラム作成部16によって作成されたヒストグラムは、図8に示すように、おおよそ、X=±2(m)の位置において、ヒストグラムが2つのピーク(双峰)を有し、略左右対称になっていることが分かる。
【0081】
すなわち、ヒストグラムの2つのピーク(双峰)が、センサ位置X=0(m)を中心にして線対称となっている場合には、停車位置が所定の停車位置丁度となっている状態を意味している。この場合には、時間帯算出部17が、停車許容誤差ΔX分だけヒストグラムの2つのピーク(双峰)が動くまで、上走査器31の出力データを逆再生あるいは順再生することで、車両停車許容範囲(例えば、±1.0m)の両端(-1,0mおよび+1,0m)となる時間帯を求める。
【0082】
例えば、停車許容範囲ΔX=±1.0(m)の場合には、まず、車両Cの位置が所定の停車位置より1.0m手前のときの時刻を求めるために、ヒストグラムの2つのピーク(双峰)が-1.0m移動するまで、センサ出力を停車時から逆再生する。
図9および図10は、列車Tの車両Cの位置が所定の停車位置より1.0m手前の地点(基準停車位置から-1.0m地点)にあるときのセンサ出力例とヒストグラムとを示す。
【0083】
図9に示すように、所定の停車位置に停車していた図7のセンサ出力例と比較して、おおよそX=±2.0(m)に位置していたヒストグラムの2つのピーク(双峰)が、おおよそX=-3.0(m)とX=+1.0(m)の位置に左へ移動していることが分かる。ここで、時間帯算出部17は、車両Cが基準停車位置から-1.0m地点の位置にあるときの時刻Tminusを記憶しておく。
【0084】
次に、車両位置が所定の停車位置より1.0m超過したときの時刻を求めるために、ヒストグラムの2つのピーク(双峰)が+1.0mの地点まで移動するまで、センサ出力を停車時から順再生する。
図11および図12は、車両Cの位置が所定の停車位置より1.0m超過した地点(基準停車位置から+1.0m地点)にあるときのセンサ出力例とヒストグラムを示す。
【0085】
図11に示すように、所定の停車位置に停車していた図7のセンサ出力例と比較して、おおよそX=±2.0mに位置していたヒストグラムの2つのピーク(双峰)が、おおよそX=-1mとX=3mの位置に右へ移動していることが分かる。ここで、時間帯算出部17は、車両Cがこの位置にあるときの時刻Tplusを記憶しておく。
これにより、時間帯算出部17は、先に求めた基準停車位置から-1.0m地点に対応する時刻Tminusから、基準停車位置から+1.0m地点に対応する時刻Tplusまでの時間帯を、列車Tの車両Cが停車許容範囲にある場合の時間帯として算出することができる。
【0086】
なお、本実施形態では、列車Tの車両Cの停車位置が所定の停車位置に丁度停車している場合の例を挙げて説明したが、ヒストグラムの2つのピーク(双峰)が、センサ位置X=0mに対して線対象となっていない場合、すなわち、列車Tの停車位置が所定の停車位置からずれている場合には、そのずれ分を考慮して、時間帯算出処理を実施すればよい。
例えば、停車位置におけるヒストグラムの双峰が、おおよそX=-1.5mとX=2.5mに位置しており、停車位置が+0.5mだけ基準停車位置からずれている場合については、以下の処理によって、時間帯算出部17が停車許容範囲に対応する時間帯を算出する。
【0087】
すなわち、停車許容範囲がΔX=±1.0mである場合には、車両Cの位置が所定の停車位置より1.0m手前(-1.0m地点)のときの時刻を求めるためには、ヒストグラムの双峰が左へ-1.5m動くまで、センサ出力を停車時から逆再生し、時間帯算出部17が、-1.5m移動した地点,つまり、許容停車位置の下限値-1.0mの地点にある時の時刻Tminusを記憶しておく。
【0088】
次に、車両Cの位置が基準停車位置より+1.0mのときの時刻を求めるためには、ヒストグラムの双峰が右へ+0.5m動くまで、センサ出力を停車時から順再生し、時間帯算出部17が、+0.5m移動した地点,つまり、許容停車位置の上限値+1.0mの地点にある時の時刻Tplusを記憶しておく。
これにより、時間帯算出部17は、先に求めた基準停車位置から-1.0m地点に対応する時刻Tminusから、基準停車位置から+1.0m地点に対応する時刻Tplusまでの時間帯を、列車Tの車両Cが停車許容範囲にある場合の時間帯として算出することができる。
【0089】
さらに、本実施形態の転落検知装置4では、取得データ分類部18が、上述した停車許容範囲に対応する時間帯における上走査器31からの出力データについて、平日/土休日ダイヤ各々1日分、計2日分(土曜が別ダイヤの時は3日分)に分類して取得する。そして、転落検知エリア設定部13は、平日/土休日ごとに分類された出力データを重ね合わせて、この重ね合わせデータに表示されている物体に干渉しないエリアを、隙間転落検知エリアとして設定する。
【0090】
これにより、必要最小限で実際に取得した上走査器31からの出力データを重ね合わせた物体の検出データを用いて隙間転落検知エリアを設定することができる。このため、鉄道駅のプラットホームPの形状(カーブ、隙間の大小等)ごとに応じて、最大限の隙間転落検知エリアを設定することができるとともに、転落者以外の物体を転落者として誤検知することを回避することができる。
【0091】
なお、このような隙間転落検知エリアの設定処理は、車両Cと車両Cとの連結部分に対向するように設置された、転落検知システム内の少なくとも1つの上走査器31だけでなく、転落検知システム1に含まれる全ての上走査器31について、上述した停車許容範囲内に対応する時間帯における各々の出力データを用いて同様に実施される。
【0092】
<転落検知方法>
本実施形態の転落検知装置4は、以上のような構成により、図13に示すフローチャートに従って、隙間転落検知エリアを設定する。
なお、ここでは、隙間転落検知エリアを設定する処理について説明するが、軌道上の転落検知エリアの設定については別途、上述した構成によって実施される。
すなわち、図13に示すように、ステップS11では、転落検知装置4のデータ取得部11が、上走査器31から、隙間転落検知エリアを設定するための出力データを取得する。また、データ取得部11は、本転落検知システム1が導入された鉄道駅に停車する全ての列車Tの運行情報としてダイヤ情報を取得する。
【0093】
次に、ステップS12では、転落検知装置4のヒストグラム作成部16が、ステップS11において取得された出力データを用いて、左右対称性のあるヒストグラムを作成する。
なお、ステップS11において取得された出力データは、取得データ分類部18によって、平日および土休日のダイヤの分に分類され、ヒストグラム作成部16へ入力される。これにより、ヒストグラム作成部16は、平日のダイヤで取得されたデータと、土休日のダイヤで取得されたデータとを含む出力データを用いて、それぞれのヒストグラムを作成することができる。
【0094】
次に、ステップS13では、転落検知装置4の停車位置判定部15が、ステップS12において作成されたヒストグラムの左右の対称性に基づいて、列車Tの停車位置の基準停車位置からのずれの有無を検出する。
なお、列車Tの停車位置の基準停車位置からのずれの有無は、ヒストグラムごとに検出され、それぞれの列車Tが、所定の停車基準位置からどの程度ずれた位置に停車したかが検出される。
【0095】
次に、ステップS14では、転落検知装置4の時間帯算出部17が、ステップS13において検出された停車基準位置からのずれの有無に応じて、鉄道駅ごとに予め設定されている許容停車範囲の上限値と下限値とに対応する時間帯を算出する。
次に、ステップS15では、転落検知装置4の転落検知エリア設定部13が、ステップS14において算出された時間帯に対応する複数の出力データを重ね合わせたデータを作成する。
【0096】
このとき、重ね合わせたデータには、平日ダイヤ、土休日ダイヤでそれぞれ取得された異なる車両Cの出力データも含まれる。
次に、ステップS16では、転落検知装置4の転落検知エリア設定部13が、ステップS15において作成された重ね合わせたデータを用いて、検出された物体(駅構造物、車両Cの部品等)を避けるように、隙間転落検知エリアを設定する。
【0097】
<主な特徴>
本実施形態の転落検知装置4は、図2に示すように、データ取得部11、停車位置判定部15、転落検知エリア設定部13を備えている。データ取得部11は、鉄道駅のプラットホームPの下方における鉄道駅に入線した列車Tの車両Cの側面の高さ位置であって、列車Tが停車した際に車両Cと車両Cとの連結部分に対向する位置に設置され車両CとプラットホームPとの間の隙間に転落した転落者を検知する上走査器31からの出力データを取得する。停車位置判定部15は、上走査器31の位置を中心とする出力データの対称性に基づいて、列車Tの所定の停車位置からのずれの有無を判定する。転落検知エリア設定部13は、停車位置判定部15において判定された列車Tの停車位置を基準に、予め設定されたプラットホームPにおける列車Tの停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定する。
【0098】
これにより、列車Tが鉄道駅に停車した際に、上走査器31からの出力データの対称性を確認することで、所定の停車位置からの列車Tの位置ずれの有無を判定し、その位置ずれの有無に応じて、予め設定されたプラットホームPにおける列車Tの停車許容範囲内となる所定時間前と所定時間後における複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定することができる。よって、数日間にわたるデータ収集を行うことなく、精度の高い隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0099】
この結果、列車Tの停車位置のばらつきや列車Tごとの車両Cの違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができる。
すなわち、例えば、鉄道駅に新たに転落検知システム1を導入した際等において、隙間転落検知エリア設定のために、運行中の列車TがプラットホームPに停車している時間帯の数日間にわたる出力データの収集において、実際に取得された停車位置が、鉄道業者または駅毎に定められている停車許容範囲に対して、非常にバラツキの小さいデータしか収集できなかった場合でも、停車許容範囲における上限位置と下限位置とを考慮した隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0100】
また、従来は、鉄道業者または鉄道駅毎に定められている停車許容範囲内の停車位置を網羅するために、長期間に渡るデータ収集が必要であった。
本実施形態によれば、停車する列車Tの車両Cの種類ごとにデータを取得できれば、平日/休日各々1日ずつなど短期間のデータ収集を行うだけで、精度の高い隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0101】
よって、実運用時に、所定の停車位置からの誤差が大きい位置に列車Tが停車した場合でも、列車Tの一部が隙間転落検知エリアに支障し、誤って転落者と検知してしまうことはなく、誤発報を回避することができる。
以上により、乗客の転落による危険状況を適切に検知しつつ、誤発報による列車運行の阻害や係員の手間を大幅に軽減することができる。
【0102】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、転落検知装置および転落検知方法として、本発明を実現した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0103】
例えば、上述した転落検知方法をコンピュータに実行させる転落検知プログラムとして本発明を実現してもよい。
この転落検知プログラムは、転落検知装置に搭載されたメモリ(記憶部)に保存されており、CPUがメモリに保存された転落検知プログラムを読み込んで、ハードウェアに各ステップを実行させる。より具体的には、CPUが転落検知プログラムを読み込んで、上述したデータ取得ステップと、停車位置判定ステップと、隙間転落検知エリア設定ステップと、を実行することで、上記と同様の効果を得ることができる。
また、本発明は、転落検知プログラムを保存した記録媒体として実現されてもよい。
【0104】
(B)
上記実施形態では、上走査器31からの出力データから、ヒストグラム作成部16が出力データの対称性を示す2つのピーク(双峰、左右の車両Cの検知結果)を含むヒストグラムを作成し、隙間転落検知エリアを設定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ヒストグラムを作成することなく、センサ装置からの出力データの対称性を利用して、隙間転落検知エリアを設定してもよい。
【0105】
(C)
上記実施形態では、列車Tごとに異なる車両Cによって編成されている場合を想定して、運行ダイヤ情報を取得して、異なる種類の車両Cを含む列車が停車した際の取得されたデータを用いて、隙間転落検知エリアを設定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、ある鉄道駅において、同じ種類の車両によって編成された列車のみが停車する場合には、必ずしもダイヤ情報は必要ではなく、ダイヤ情報を取得せずに、隙間転落検知エリアを設定する構成であってもよい。
【0106】
(D)
上記実施形態では、停車許容範囲として、基準位置から-1.0~1.0m等の範囲で設定された例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、停車許容範囲が、基準位置から-1.0~1.0mの範囲よりも広く設定されていてもよいし、狭く設定されていてもよい。
【0107】
また、鉄道駅の地形(坂道等)を考慮して、基準位置から前後非対称に停車許容範囲が設定されていてもよい。
この場合でも、列車の停車位置から、前後の許容範囲の限界値に対応する時間帯を算出することで、その時間帯に取得された複数の出力データを重ね合わせて、隙間転落検知エリアを設定することができる。
【0108】
(E)
上記実施形態では、データ取得部11が上走査器31から取得した出力データについて、平日および土休日のデータも含むように、取得データ分類部18が、平日と土休日とを分類してデータを取得する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
例えば、平日と土休日とで同じ種類の車両を含む列車しか停車しない場合には、このような出力データの分類を実施しない構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の転落検知装置は、列車の停車位置のばらつきや列車ごとの車両の違いを考慮して、効率よく高精度な転落検知エリアを設定することができるという効果を奏することから、鉄道駅における転落者の有無を検知する各種装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 転落検知システム
3 走査装置
3a,3b,3c 走査器ユニット
4 転落検知装置
5 システム状態表示器
6 転落警報器
7 軌道回路
8 記憶装置
9 表示装置
10 制御部
11 データ取得部
12 軌道情報取得部
13 転落検知エリア設定部(隙間転落検知エリア設定部)
14 転落検知部
15 停車位置判定部
16 ヒストグラム作成部
17 時間帯算出部
18 取得データ分類部
20 出力部
31 上走査器(センサ装置)
32 下走査器
33 発光部
34 偏光部
35 受光部
36 検知部
37 距離算出部
AD 隙間監視領域
AR 軌道監視領域
C 車両
D 隙間
P プラットホーム
R 軌道
SL 走査光
SR 走査範囲
T 列車
X センサ位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13