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  • 特開-可撓管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062456
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】可撓管
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20240501BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
F16L11/04
B32B1/08 B
B32B27/30 D
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170287
(22)【出願日】2022-10-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000134534
【氏名又は名称】株式会社トヨックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 健一
(72)【発明者】
【氏名】大蔵 優
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111CB03
3H111DA26
3H111DB10
4F100AK01B
4F100AK17A
4F100AK41D
4F100AK46B
4F100AK51C
4F100AK51E
4F100AL09C
4F100AL09E
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100DA11
4F100DG04C
4F100JB07A
4F100JB16B
4F100JK07A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで用いられる、溶出物が少なく柔軟な可撓管を提供する。
【解決手段】本発明の可撓管は、フッ素樹脂からなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、ASTM D790で測定された曲げ弾性率が500~1200MPaであって、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、ASTM D790で測定された曲げ弾性率が500~1200MPaであって、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である可撓管。
【請求項2】
前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である、請求項1に記載の可撓管。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで用いられる、溶出物が少なく柔軟な可撓管に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は耐薬品性、耐熱性、耐候性、ガスバリア性等の優れた特性を有し溶出物が少なく、流体に直接接触する材料にフッ素樹脂を使用した可撓管は、種々の産業分野で使用されているが、フッ素樹脂は硬く高価であることから、外周面に熱可塑性樹脂を積層しフッ素樹脂の使用量を抑えた積層ホースが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、燃料バリア性や耐薬品性、耐熱性に優れたエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFE)を内層材料に使用し、機械特性や耐久性に優れたポリアミドを外層材料として積層した燃料用ホースが開示されている。また、特許文献2では、PVDFからなる内層と熱可塑性樹脂からなる外層を共有結合することで炭化水素燃料及び燃料蒸気に対して高い耐性を有する燃料用ホースが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの燃料用ホースは燃料バリア性や耐薬品性には優れるものの柔軟性に乏しく、特に飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場など配管自由度が求められる用途において、可撓管が描く円の半径(曲げ半径)が小さくなるよう設置すると、可撓管がキンクし流路を閉塞するという問題があった。
そこで、外周面に積層する熱可塑性樹脂としてより柔軟なポリウレタンを使用した積層ホースが提案されている。
【0005】
特許文献3では、ETFEからなる内層に、ポリアミド層とポリウレタン層とを積層した、柔軟 性に優れた食品用ホースが開示されている。
しかしながら、食品、化粧品、香料、医薬品などの製造工場では、製造過程における製品の品質管理のため可撓管からの可塑剤などの溶出を抑制することが必要である。これらの食品用ホースは、ETFE層の厚みが規定されておらず、柔軟性を得るためにETFE層の厚みを薄くした場合、ポリアミド層に含まれる可塑剤などがETFE層を通過し、流体に溶出するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4247103号公報
【特許文献2】特表2020-535986公報
【特許文献3】特許第4696293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで用いられる、溶出物が少なく柔軟な可撓管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の(1)~(2)の本発明により達成される。
(1) フッ素樹脂からなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、ASTM D790で測定された曲げ弾性率が500~1200MPaであって、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である。
【0009】
(2) 前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である、前記(1)に記載の可撓管。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などに用いられる、溶出物が少なく柔軟な可撓管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の可撓管の溶出性試験の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の可撓管の好適な実施形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る可撓管は、例えば飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などに用いられる、溶出物が少なく柔軟な可撓管である。
【0013】
<第一樹脂層>
第一樹脂層はフッ素樹脂から形成される。導電性を付与するためにカーボン系や金属系の導電性フィラーを添加してもよいが、これに限定されるものではない。
第一樹脂層の厚みは0.05~0.5mmが好ましく、より好ましくは0.1~0.4mmである。当該厚みが0.05mmより薄いと第二樹脂層の可塑剤などの溶出物を透過し流体を汚染するため、食品、化粧品、香料、医薬品やそれらの原料を流す可撓管として使用できない。一方、0.5mmより厚いと溶出物の透過は抑えられるものの、曲げた際にキンクが発生しやすくなり、小さい曲げ半径で配管が可能な可撓管を得ることが出来ない。従って、当該厚みを前記範囲のものとすることにより、第一樹脂層の柔軟性及び可塑剤の透過耐性が向上し、溶出物が少なく、小さい曲げ半径で設置してもキンクしない、従来にない柔軟な可撓管を得ることが出来る。
【0014】
また、第一樹脂層の厚みが可撓管全体の厚みに対して16%より大きいと、可撓管を曲げた時に、第一樹脂層の外側にある他の層が第一樹脂層の断面円形形状を保持できず、断面形状が扁平することでキンクが発生する。第一樹脂層の厚みが可撓管全体の厚みに対して1%より小さいと、可撓管を曲げた時の曲げ方向内側で、第一樹脂層が外側にある他の層の圧縮方向の動きに追従し、第一樹脂層にシワが発生することで、シワを起点として可撓管がキンクするため好ましくない。
【0015】
第一樹脂層には流体を汚染せず、流体からの腐食などの影響を受けない材料が好ましい。具体的にはフッ素樹脂であり、例示するならばエチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレン/クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライドターポリマー(THV) 、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレンコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などがあげられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、高い機械的強度と溶融成形性を有するETFEであり、より好ましくは酸変性した接着性官能基が付与された接着性ETFEである。
【0016】
前記フッ素樹脂はASTM D790で測定された曲げ弾性率が500~1200MPaである。曲げ弾性率はフッ素樹脂の数平均分子量に依存し、数平均分子量の目安とすることが出来る。すなわち、曲げ弾性率が高いほど数平均分子量が高く、曲げ弾性率が低いほど数平均分子量が低い。従って、曲げ弾性率が500MPa未満だと数平均分子量が低く分子鎖の絡み合いが少なく、分子鎖間の自由体積が大きくなり溶出物を透過しやすく、曲げ弾性率が1200MPaより大きいと数平均分子量が高く溶融成形性が低下し、柔軟な可撓管を得ることが出来ない。好ましくは、曲げ弾性率が600~1100MPaである。
【0017】
ここで、例えば食品に使用する可撓管に関する規格として、EUでは「(EU)Reg.No.10/2011(プラスチック施行規則)」、日本では「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号) 器具及び容器包装規格」がある。日本の規格基準によると、油脂及び脂肪性食品の疑似溶媒としてヘプタンを溶出液として可撓管に封入し、25℃で60分静置した溶出液中の溶出物の量が150ppm以下であることを規格値としており、規格値の150ppmを上回ると溶出物が体内滞留し、その結果として発がん性などのリスクがあがるという問題がある。本発明の可撓管においても、可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である。好ましくは120ppm以下で、より好ましくは90ppm以下、更に好ましくは60ppm以下である。
【0018】
さらに、本発明の可撓管は、可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃(ヘプタンの沸点は98℃)で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である。好ましくは120ppm以下で、より好ましくは90ppm以下、更に好ましくは60ppm以下である。
【0019】
さらに、本発明の可撓管は、可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃(ヘプタンの沸点は98℃)で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下であることが好ましい。温度と溶出時間をより溶出しやすい条件にしても溶出量が食品衛生法の基準値を下回ることから、本発明の可撓管は溶出が極々少量で、溶出物の体内残留による発がん性などのリスクが従来になく抑えられるものである。
【0020】
上記の条件を満たし、且つ、食品に使用する可撓管としては、酒類など、アルコールを含む極性物質を流すこともあり、前記規格基準における酒類の疑似溶媒である20%エタノールを溶媒として封入し60℃で30分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が、規格値である30ppm以下であることがより好ましい。
【0021】
<第二樹脂層>
第二樹脂層は第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂から形成され、柔軟性、熱安定性、光安定性、耐候性などの機能を発現させるため添加剤を添加してもよい。添加剤としては、柔軟性を付与する可塑剤や安定剤などあり、例えば可塑剤としては分子量200~400のヒドロキシ安息香酸アルキル系可塑剤などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
第二樹脂層には柔軟性がありフッ素樹脂への接着性に優れた材料が好ましく、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーや、これらの相互混合材料、それらを従来公知の方法で処理した変性樹脂などがあげられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、ISO178で測定された曲げ弾性率が200~1300MPaのポリアミド11やポリアミド12、ポリアミド系エラストマー、およびこれらの相互混合材料である。
第二樹脂層の厚みは機械的強度と柔軟性の0.05~0.4mmが好ましく、より好ましくは0.1~0.35mmである。当該厚みを前記範囲のものとすることにより、第二樹脂層が柔軟性に優れるため好ましい。
【0023】
<第三樹脂層>
第三樹脂層は熱可塑性樹脂から形成され、柔軟性、熱安定性、光安定性、耐候性などの機能を発現させるため添加剤を添加してもよい。添加剤としては、柔軟性を付与する可塑剤や安定剤などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
第三樹脂層には柔軟性に優れた材料が好ましく、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーや、これらの相互混合材料などがあげられるが、これに限定されるものではない。好ましくは機械的強度が低く柔軟性に優れたポリウレタン系エラストマーであり、より好ましくはJIS K 7311で測定されたショアA硬度60~95、反発弾性40~70%のエステル系、カプロ系、カーボネート系、エーテル系のポリウレタンエラストマーである。
第三樹脂層の厚みは、可撓管に適切な柔軟性を付与するため、0.1~5.0mmが好ましく、より好ましくは0.5~3.5mmである。
【0024】
<補強材>
本発明の可撓管は、隣接する層の間に補強材を含むことで補強しても良く、補強材としては、例えば、ポリエステル、PET、ナイロン(登録商標)またはアラミド繊維等からなる複数本または単数本のブレード、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等からなるモノフィラメント、細いモノフィラメント(monofilament:単繊維)を編んだマルチフィラメント、テープ状の糸からなるフラットヤーン(またはテープヤーン)、ステンレス等からなる金属線またはステンレスに類する硬質材料からなるコイル等が挙げられる。
【0025】
<積層構成>
本発明の可撓管は、本発明におけるフッ素樹脂からなる第一樹脂層と熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層を積層した積層構造を含む可撓管である。
本発明の可撓管において、第一樹脂層が耐薬品性を備え溶出物が少なく、第二樹脂層が柔軟性と第一樹脂層との接着性を備えることで、耐薬品性に優れ溶出物が極々少量であり、フッ素樹脂からなる単層チューブと比べて折れにくい可撓管が出来、更に柔軟な第三樹脂層を積層することで、小さい曲げ半径で設置してもキンクしない、従来にない柔軟な可撓管を得ることが出来る。
【0026】
前記基本積層構造を含む限り、それに他の熱可塑性樹脂からなる層を更に積層した可撓管としてもよく、任意の隣接する層間に補強材を備えてもよい。可撓管全体の層数は特に制限されず、少なくとも3層以上、通常は3~8層、好ましくは3~5層である。
可撓管としての全体の肉厚は可撓管の内径と用途に応じた柔軟性や耐圧性などの各種特性を考慮して決定される。耐圧性や耐キンク性、取り扱いの観点から、可撓管の内径が大きくなるにつれ肉厚も増加することが好ましい。具体的には、可撓管の内径(C)と可撓管全体の厚み(D)の比(E)=(D)/(C)が0.4以下であることが好ましい。また、第一樹脂層の厚み(F)と第三樹脂層の厚み(G)の比(H)=(G)/(F)は4.0以上であると、第三樹脂層の厚みが可撓管に柔軟性を付与するのに十分な厚みとなり好ましい。
【0027】
さらに、(E)と(H)から、第一樹脂層の厚みと第三樹脂層の厚みを、内径によって変化する可撓管全体の厚みに対して規定することができ、(E)×(H)が0.8~1.7の範囲を満たすことで、可撓管を曲げた時にキンクの原因となる扁平やシワが抑制された厚みとなり好ましい。
曲げ半径(R)は可撓管の内径が大きくなるにつれ増加する。本発明の可撓管は、曲げ半径(R)を内径(C)で割った値(R)/(C)が15未満であり、(R)/(C)が15未満の場合、小さい曲げ半径で設置してもキンクせず好ましい。好ましくは13未満であり、更に好ましくは11未満である。
【0028】
<積層方法>
本発明の可撓管の成形方法としては、(1)第一樹脂層をなす接着性フッ素樹脂と第二樹脂層をなす熱可塑性樹脂を溶融状態で共押出し成形し、両者を溶融接着して一段で二層構造の可撓管を形成する共押出し成形による方法や、(2)第一樹脂層をなすフッ素樹脂を押出し成形して得られた管の外側表面を、プラズマ放電、コロナ放電などの放電処理、ナトリウムエッチングなどの薬液処理で改質し、種々の接着性官能基を当該表面に導入し、ついで外表面処理されたフッ素樹脂管に第二樹脂層をなす熱可塑性樹脂を押出し成形し積層する方法などがある。
生産性の観点から共押出し成形による方法が好ましく、層間の接着性を向上するために、第一樹脂層は接着性を有するフッ素樹脂を使用することが出来る。
酸変性した接着性を有するフッ素樹脂としては、接着性官能基を導入したETFEとして「Fluon(登録商標) LM-ETFE AH Series(AGC株式会社製)」や「ネオフロン(登録商標) EFEP RPシリーズ(ダイキン工業株式会社製)」などがある。
【0029】
一例として、第一樹脂層に酸変性した接着性フッ素樹脂を使用した場合、第二樹脂層には酸変性した接着性フッ素樹脂と相溶性が良いポリアミド、第三樹脂層にはポリアミドと相溶性が良く耐熱性に優れたポリウレタンエラストマーを使用し、三層を共押出し成形で同時に積層することで、耐薬品性と耐熱性に優れた柔軟な可撓管を得ることが出来る。
本発明の可撓管は、溶出物が少なく、柔軟性に優れるものである。また、耐薬品性、耐熱性、耐食性、耐油性、耐候性等に優れることから、食品用、化粧品用、香料用、医薬品用、医療用、燃料用、冷却液用、純水用、インク用などのチューブ、ホース類として好適に使用することが出来る。
【実施例0030】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
なお、測定項目である、溶出性、柔軟性は下記の方法によって測定した。
【0031】
<溶出性>
溶出性は、実施例1~30、及び比較例1~7の可撓管から、ヘプタンを封入したときの接液部の表面積が400cmとなるよう試験サンプルをそれぞれ5本ずつ切り出し、図1のように試験サンプルに25℃のヘプタンを封入し試験サンプルの両端をホースクリップで密封し、25℃の恒温槽に60分静置する。試験溶液の採取量中の蒸発残留物の量から、溶出性は以下の判定とした。
◎;溶出量が90ppm以下→溶出物の体内滞留による発がん性などのリスクが極めて少なく安全に使用できる
〇;溶出量が90ppmより多く120ppm以下→安全に使用できる範囲ではあるがやや不安がある
△;120ppmより多く150ppm以下→安全に使用できる範囲ではあるが不安がある
×;150ppmより多い→規格値を満たさず使用できない
また、同様の試験を80℃、90分で行い、試験溶液の採取量中の蒸発残留物の量から、溶出性は以下の判定とした。
◎;溶出量が90ppm以下→溶出物の体内滞留による発がん性などのリスクが極めて少なく安全に使用できる
〇;溶出量が90ppmより多く120ppm以下→安全に使用できる範囲ではあるがやや不安がある
△;120ppmより多く150ppm以下→安全に使用できる範囲ではあるが不安がある
×;150ppmより多い→規格値を満たさず使用できない
【0032】
<柔軟性>
柔軟性は実施例1~30、及び比較例1~7の可撓管を曲げることで評価した。23℃環境下で、直交する2方向の直径の比が1:1の円形となるように可撓管を曲げ、可撓管の外径が通常時の90%まで扁平した時の可撓管が描く円の半径(曲げ半径)Rを測定した。一般に曲げ半径Rは可撓管の内径が大きくなるにつれ増加するため、その評価には可撓管の内径(C)、曲げ半径(R)の比を用いて
(R)/(C)が11未満を◎、11以上13未満を〇、13以上15未満を△、15以上を×とした。
【0033】
<総合評価>
25℃での溶出量と柔軟性の評価◎~×をもとに、×が1つでもあると1点、△が1つでもあると2点、〇が1つでもあると3点、どちらも◎で80℃での溶出量が△のときを3点、どちらも◎で80℃での溶出量が〇のときを4点、どちらも◎で80℃での溶出量も◎を5点として5段階で総合評価した。
【0034】
実施例に示す可撓管を作成するにあたって、下記の特徴を有する接着性ETFE1~7、プラズマ放電処理したPFA1を準備した。
接着性ETFE1~7の曲げ弾性率は、重合時のエチレン、テトラフルオロエチレンのモル比を変えることで操作し、接着性は、重合時に仕込むエチレン、テトラフルオロエチレンの合計モル数に対して0.4モル%に相当する量の無水イタコン酸を同時に仕込むことで得た。
プラズマ放電処理したPFA1は、曲げ弾性率が800MPaであるPFAの表面をプラズマ処理により改質し、カルボキシル基を導入させることで得た。
プラズマ処理は、特許第5935051号公報の実施例に記載の方法で行い、プラズマ処理用ガスとして、アルゴン、二酸化炭素、メタンを95:4:1の割合で混合した混合ガスを使用し、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの合計モル数に対して0.4モル%に相当する量のカルボキシル基を導入した。
曲げ弾性率はASTM D 790で測定した。
接着性ETFE1は、曲げ弾性率が1200MPaである。
接着性ETFE2は、曲げ弾性率が770MPaである。
接着性ETFE3は、曲げ弾性率が500MPaである。
接着性ETFE4は、曲げ弾性率が1000MPaである。
接着性ETFE5は、曲げ弾性率が600MPaである。
接着性ETFE6は、曲げ弾性率が1500MPaである。
接着性ETFE7は、曲げ弾性率が400MPaである。
【0035】
実施例1は、表1に示す通り接着性ETFE1からなる第一樹脂層と、可塑剤として分子量250~350のヒドロキシ安息香酸アルキル系可塑剤を添加した曲げ弾性率300MPaのポリアミド12(ポリプラ・エボニック株式会社製 ZL1105)からなる第二樹脂層と、ショアA硬度83、反発弾性45%のカーボネート系ポリウレタンエラストマー(大日精化工業株式会社製 P-880)からなる第三樹脂層を、第一樹脂層が厚み0.5mm、第二樹脂層が厚み0.2mm、第三樹脂層の厚みが1.3mmとなるよう共押出し成形で一体に溶融成形した後、編組機を用いてポリエステル繊維を巻回し、その外側にカーボネート系ポリウレタンエラストマー(大日精化工業株式会社製 P-880)からなる厚み1.5mmの最外層を押出し成形して積層し、内径19mm、外径26mmの可撓管を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2~30、及び比較例3~7は、表1に示す値を取るよう各層の材質と厚みを適宜操作し、実施例1と同様の手法で可撓管を得た。
比較例1は、表1に示す通り接着性ETFE2を、厚みが0.2mmとなるよう押出し成形し、内径9mm、外径9.4mmの単層のチューブを得た。
比較例2は、表1に示す通りポリアミドエラストマー(Arkema社製 Pebax(登録商標)MX1205)からなる第一樹脂層と、可塑剤として分子量250~350のヒドロキシ安息香酸アルキル系可塑剤を添加した曲げ弾性率300MPaのポリアミド12(ポリプラ・エボニック株式会社製 ZL1105)からなる第二樹脂層と、ショアA硬度83、反発弾性45%のカーボネート系ポリウレタンエラストマー(大日精化工業株式会社製 P-880)からなる第三樹脂層を、第一樹脂層が厚み0.2mm、第二樹脂層が厚み0.2mm、第三樹脂層の厚みが1.6mmとなるよう共押出し成形で一体に溶融成形した後、編組機を用いてポリエステル繊維を巻回し、その外側にカーボネート系ポリウレタンエラストマー(大日精化工業株式会社製 P-880)からなる最外層を可撓管全体の厚みが3.5mmとなるよう押出し成形して積層し、内径19mm、外径26mmの可撓管を得た。
【0038】
実施例1~30は、第一樹脂層の厚みが0.05~0.5mmの範囲内で、且つ、可撓管全体の厚みに対して第一樹脂層の厚みが1~16%であることから、総合評価が2点以上と、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに十分な柔軟性を備え溶出物が少ない。
その中でも、実施例10~20は総合評価が4点以上で、80℃での<溶出性>が〇以上(90ppmより多く120ppm以下)、且つ、<柔軟性>が〇以上(11以上13未満)と溶出物が少なく柔軟性が優れており、特に、実施例10~17は総合評価が5点以上で、80℃での<溶出性>が◎(90ppm以下)、且つ、<柔軟性>が◎(11未満)と溶出物が少なく柔軟性がさらに優れている。
比較例1~7は総合評価が1点(<溶出性><柔軟性>のいずれかが×)で、<溶出性><柔軟性>のいずれかが不良な評価結果となった。
【0039】
比較例1は、単層構造であることから溶出は発生せず、<溶出性>の評価はできなかった。また、可撓管を曲げた際に断面円形形状を保持する外層がないことから<柔軟性>は×(15以上)と不良な評価結果となり、溶出物はないものの、柔軟性が著しく低く、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに十分な柔軟性を備えない。
比較例2は、<柔軟性>が◎(11未満)と柔軟性に優れるものの、第一樹脂層の樹脂自体から可塑剤の溶出があり、<溶出性>が×(150ppmより多い)と溶出物が多く、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに溶出性が好ましくない。
比較例3は、第一樹脂層の厚みが0.03mmと薄いことから<柔軟性>が◎(11未満)と柔軟性に優れるものの、第一樹脂層を可塑剤などが透過しやすく、<溶出性>が×(150ppmより多い)と不良な評価結果となり、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに溶出性が好ましくない。
比較例4は、第一樹脂層の厚みが0.8mmと厚いことから第一樹脂層を可塑剤などが透過しにくく、<溶出性>が◎(50ppm以下)と溶出物が少ないものの、<柔軟性>は×(15以上)と不良な評価結果となり、柔軟性が著しく低く、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに十分な柔軟性を備えない。
【0040】
比較例5は、第一樹脂層の曲げ弾性率が1500MPaと大きいことから、<溶出性>が◎(50ppm以下)と溶出物が少ないものの、<柔軟性>は×(15以上)と不良な評価結果となり、柔軟性が著しく低く、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに十分な柔軟性を備えない。
比較例6は、第一樹脂層の曲げ弾性率が400MPaと小さいことから、<柔軟性>が◎(11未満)と柔軟性に優れるものの、第一樹脂層を可塑剤などが透過しやすく、<溶出性>が×(150ppmより多い)と不良な評価結果となり、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに溶出性が好ましくない。
比較例7は、第一樹脂層の厚みが0.05~0.5mmの範囲内で、第一樹脂層を可塑剤などが透過しにくく、<溶出性>が◎(50ppm以下)と溶出物が少ないものの、可撓管全体の厚みに対して第一樹脂層の厚みが20%と厚いため、第一樹脂層の外側にある他の層が第一樹脂層の断面円形形状を保持できず扁平し、<柔軟性>は×(15以上)と不良な評価結果となり、柔軟性が著しく低く、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに十分な柔軟性を備えない。
【0041】
この結果より、フッ素樹脂からなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂が、ASTM D790で測定された曲げ弾性率が500~1200MPaである場合、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下と少なく、柔軟性に優れるものである。さらに、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下と少なく、柔軟性に優れ、飲料を含む食品、化粧品、香料、医薬品やその他の製造工場などで使用するのに溶出物が少なく柔軟性を備える。

図1
【手続補正書】
【提出日】2023-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、数平均分子量に依存する曲げ弾性率が500~1200MPaとなるような分子鎖間の自由体積を有し、前記曲げ弾性率はASTM D790で測定され、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である可撓管。
【請求項2】
前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である、請求項1に記載の可撓管。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性官能基が付与されたフッ素樹脂である接着性ETFE又は接着性官能基としてカルボキシル基を導入したPFAからなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層の外側に設けられ、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層と、前記第二樹脂層の外側に設けられ、熱可塑性樹脂からなる第三樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、数平均分子量に依存する曲げ弾性率が500~1200MPaとなるような分子鎖間の自由体積を有し、前記第二樹脂層の前記熱可塑性樹脂は曲げ弾性率が200~1300MPaであり、前記第三樹脂層の前記熱可塑性樹脂は反弾発性が40~70%であり、前記曲げ弾性率はASTM D790又はISO178に基づいて測定され、可撓管の内径(C)と可撓管全体の厚み(D)の比(E)=(D)/(C)が0.4以下、前記第一樹脂層の厚み(F)と前記第三樹脂層の厚み(G)の比(H)=(G)/(F)が4.0以上、且つ前記比(E)と前記比(H)の積(E)×(H)が0.8~1.7を満たし、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である可撓管。
【請求項2】
前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である、請求項1に記載の可撓管。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性官能基が付与されたフッ素樹脂である接着性ETFE又はプラズマ放電処理したPFAからなる厚みが0.05~0.5mm且つ可撓管全体の厚みに対して1~16%である第一樹脂層と、前記第一樹脂層の外側に設けられ、前記第一樹脂層と異なる熱可塑性樹脂からなる第二樹脂層と、前記第二樹脂層の外側に設けられ、熱可塑性樹脂からなる第三樹脂層とを少なくとも含む可撓管において、前記フッ素樹脂は、数平均分子量に依存する曲げ弾性率が500~1200MPaとなるような分子鎖間の自由体積を有し、前記第二樹脂層の前記熱可塑性樹脂は曲げ弾性率が200~1300MPaであり、前記第三樹脂層の前記熱可塑性樹脂は反発弾性が40~70%であり、前記曲げ弾性率はASTM D790又はISO178に基づいて測定され、可撓管の内径(C)と可撓管全体の厚み(D)の比(E)=(D)/(C)が0.4以下、前記第一樹脂層の厚み(F)と前記第三樹脂層の厚み(G)の比(H)=(G)/(F)が4.0以上、且つ前記比(E)と前記比(H)の積(E)×(H)が0.8~1.7を満たし、前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し25℃で60分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である可撓管。
【請求項2】
前記可撓管にヘプタンを溶媒として封入し80℃で90分静置した溶出液を分析して得られた溶出物の量が150ppm以下である、請求項1に記載の可撓管。