(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062461
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 651A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170295
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 瑞季
(72)【発明者】
【氏名】黄 雲生
(72)【発明者】
【氏名】間島 裕大
(72)【発明者】
【氏名】張 洪銘
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211CA20
3L211DA27
3L211FB12
3L211GA03
3L211GA26
(57)【要約】
【課題】ホットガス暖房運転の始動時に行われる準備運転を円滑に実行し、所望の暖房性能を得る。
【解決手段】車両用空調装置は、圧縮機、室内熱交換部、及び、外部熱交換部を含む冷媒回路と、室内熱交換部を内部に配置した空調ユニットと、冷媒回路及び空調ユニットを制御する制御装置とを備え、冷媒回路は、圧縮機で圧縮した冷媒の少なくとも一部を室内熱交換部及び外部熱交換部を経由することなく減圧して圧縮機に戻すホットガスバイパスを有し、制御装置は外部熱交換部において冷媒に吸熱させず、圧縮機で圧縮した冷媒の一部を室内熱交換部で放熱させて車室内を暖房するホットガス暖房運転を実行可能であり、ホットガス暖房運転の始動時に、冷媒が所定の状態になるまで、室内熱交換部における放熱をさせず又は抑制させて冷媒回路に冷媒を循環させる準備運転を行い、少なくとも準備運転の実行中に、車室内への吹出風量に対する風量調整を制限する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、室内熱交換部、及び、外部熱交換部を含む冷媒回路と、
前記室内熱交換部を内部に配置した空調ユニットと、
前記冷媒回路及び前記空調ユニットを制御する制御装置と、を備えた車両用空調装置において、
前記冷媒回路は、前記圧縮機で圧縮した冷媒の少なくとも一部を、前記室内熱交換部及び前記外部熱交換部を経由することなく減圧して前記圧縮機に戻すホットガスバイパスを有し、
前記制御装置は、
前記外部熱交換部において冷媒に吸熱させず、前記圧縮機で圧縮した冷媒の一部を前記室内熱交換部で放熱させて車室内を暖房するホットガス暖房運転を実行可能であり、
ホットガス暖房運転の始動時に、冷媒が所定の状態になるまで、前記室内熱交換部における放熱をさせず又は抑制させて、前記冷媒回路に冷媒を循環させる準備運転を行い、
少なくとも前記準備運転の実行中に、前記空調ユニットから車室内への吹出風量に対する乗員による風量調整を制限する、車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御装置は、吹出風量の変更が予め定めた範囲内となる前記風量調整を許容する、請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記準備運転の実行開始から所定期間は、前記風量調整を禁止し、
前記所定期間の経過後は、吹出風量の変更が予め定めた範囲内となる前記風量調整を許容する、請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記準備運転の実行中は、前記風量調整を禁止し、
前記ホットガス暖房運転中であって前記準備運転の終了後は、吹出風量の変更が予め定めた範囲内となる前記風量調整を許容する、請求項1記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の燃焼系の熱源を持たない電動車両(EV:Electric Vehicle)や燃焼系の熱源の熱量が少ない車両用の空調装置として、ヒートポンプ(冷媒回路)を熱源とする空調装置が知られている。
【0003】
ヒートポンプを利用した空調装置は、暖房運転時には、外部熱交換器を吸熱器として機能させ、外気から暖房熱源を得ている。このため、外気温が極低温になると、外気からの吸熱が難しくなり、暖房能力が大きく低下することになる。これに対して、例えばPTCヒータ等の電気式加熱器を用いて熱源を確保すると、バッテリの消費量が大きくなって、電動車両等の場合には航続可能距離への悪影響が懸念されると共に、PTCヒータの装備で空調装置の製造コストが嵩むことになる。
【0004】
冷媒回路の圧縮機から吐出された高温高圧冷媒を利用するホットガス暖房は、吸熱を行わない暖房方式であり、極低温環境下で有効な暖房として期待されている。このホットガス暖房は、車両用空調装置の室内熱交換器を放熱器(室内コンデンサ)として機能させ、これに圧縮機から吐出された高温高圧冷媒を直接流入させ、放熱器から出た冷媒は、減圧した後、外部熱交換器を経由させることなく、アキュムレータを介して圧縮機に戻す(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホットガス暖房を効果的に継続運転させるためには、冷媒回路における放熱を極力室内コンデンサに限定して、冷媒回路の放熱量と圧縮機の消費エネルギー(入熱量)をバランスさせることが必要になる。また、室内コンデンサでの放熱で凝縮した液冷媒を蒸発させること無くガス化して圧縮機に戻すことが必要になる。
【0007】
これを実現するために、圧縮機を出た高温高圧冷媒を室内コンデンサで放熱させた後、減圧して圧縮機に戻す冷媒流路に加えて、圧縮機を出た高温高圧冷媒を一部分岐して、熱交換器を経由すること無く減圧して圧縮機に戻す、ホットガス暖房用のバイパス冷媒流路(ホットガスバイパス)を設けることが行われている。
【0008】
このようなホットガスバイパスを設けると、室内コンデンサでの放熱で凝縮した液冷媒に、ホットガスバイパスを経由したガス冷媒を混合させて、ガスリッチの冷媒にしてから圧縮機に戻すことができるようになる。また、ホットガスバイパスを流れる冷媒流量を増やすことで、室内コンデンサでの放熱量を抑制することができるので、ホットガスバイパスを流れる冷媒流量を調整することで、冷媒回路の放熱量と圧縮機への入熱量のバランスを維持することができるようになる。
【0009】
このようなホットガス暖房の運転においては、室内コンデンサで所定の放熱を得るために、圧縮機の消費エネルギーをある程度高めておくことが必要になる。このために、ホットガス暖房運転の始動時において、室内コンデンサでの放熱を無くす又は抑えた状態で圧縮機を作動させ、循環する冷媒に蓄えられるエネルギー量を高めておく、準備運転を行うことがなされている。
【0010】
このような準備運転中は、ある程度圧縮機の消費エネルギーが高められ、循環する冷媒に蓄えられるエネルギー量が上がった(冷媒圧力が上がった)状態になるまで、車両用空調装置の送風機の回転を停止又は減速させて、室内コンデンサでの放熱を無くす又は抑えることがなされているが、車両用空調装置に対する乗員の調整で、送風機の風量を高める調整がなされてしまうと、この準備運転を効果的に行うことができなくなり、準備運転に要する時間が長くなってしまうか、或いはホットガス暖房を行うのに必要な冷媒状態が得られず、ホットガス暖房による所望の暖房性能が得られなくなる問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、ホットガス暖房運転の始動時に行われる準備運転を円滑に実行し、ホットガス暖房による所望の暖房性能が得られるようにすること、が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
圧縮機、室内熱交換部、及び、外部熱交換部を含む冷媒回路と、前記室内熱交換部を内部に配置した空調ユニットと、前記冷媒回路及び前記空調ユニットを制御する制御装置と、を備えた車両用空調装置において、前記冷媒回路は、前記圧縮機で圧縮した冷媒の少なくとも一部を、前記室内熱交換部及び前記外部熱交換部を経由することなく減圧して前記圧縮機に戻すホットガスバイパスを有し、前記制御装置は、前記外部熱交換部において冷媒に吸熱させず、前記圧縮機で圧縮した冷媒の一部を前記室内熱交換部で放熱させて車室内を暖房するホットガス暖房運転を実行可能であり、ホットガス暖房運転の始動時に、冷媒が所定の状態になるまで、前記室内熱交換部における放熱をさせず又は抑制させて、前記冷媒回路に冷媒を循環させる準備運転を行い、少なくとも前記準備運転の実行中に、前記空調ユニットから車室内への吹出風量に対する乗員による風量調整を制限する、車両用空調装置。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明によると、ホットガス暖房運転の始動時に行われる準備運転を円滑に実行し、ホットガス暖房による所望の暖房性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置のシステム構成例を示した説明図。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の制御装置を示した説明図。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両用空調装置のホットガス暖房運転における冷媒回路の動作を示した説明図。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の吸熱暖房運転における冷媒回路の動作を示した説明図。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の基本動作フローを示した説明図。
【
図6】本発明の実施形態に係る車両用空調装置が備える空調ユニットの動作フローを示した説明図。
【
図7】本発明の実施形態に係る車両用空調装置が備える空調ユニットの動作フローの変形例を示した説明図。
【
図8】車両用空調装置を備える電動車両(EV)における制御装置の構成例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。なお、図中の冷媒回路10における太線は、冷媒が流れている冷媒流路を示し、太線のうち黒の太線は高圧冷媒の流れ、グレーの太線は減圧後の低圧冷媒の流れを示している。また、冷媒回路10における破線は、冷媒が流れていない冷媒流路を示している。
【0016】
[システム構成]
図1に、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1の構成例を示す。ここに示す構成例は一例であり、具体的な構成に特に限定されるものでは無い。
【0017】
車両用空調装置1は、冷媒回路10と空調ユニット20を備えている。冷媒回路10は、圧縮機2と、空調ユニット20の内部に設けられる室内熱交換器21,22と、車室外に設けられる外部熱交換器11を含み、これらが冷媒流路に沿って配備されている。室内熱交換器21,22は、空調ユニット20内を流れる空気と冷媒が熱交換するために設けられ、外部熱交換器11は、車室外にて外気と冷媒が熱交換するために設けられる。
【0018】
冷媒回路10の圧縮機2は、冷媒を圧縮して循環させる。圧縮機2にて圧縮された冷媒は、適宜選択される冷媒流路において、例えば膨張弁である、第1減圧部V1、第2減圧部V2、第3減圧部V3、第4減圧部V4を経由することで必要な圧力に減圧される。冷媒回路10には、冷媒流路を切り替えるための流路切替弁12,13が設けられ、また、冷媒の流通方向を規制するための逆止弁14,15が必要に応じて設けられている。そして、冷媒回路10における圧縮機2の直ぐ上流側には、液状冷媒を回収して冷媒を気液分離するアキュムレータ16が設けられている。
【0019】
空調ユニット20は、前述したように、室内熱交換器21,22を内部に備えており、送風機23によって室内又は室外から導入された空気が、室内熱交換器21,22を選択的に通過して室内に吹き出される。空調ユニット20には、エアダンパ24が設けられている。図示のようなエアダンパ24の全開時には、送風機23によって導入された空気は、室内熱交換器21,22の両方を通過して室内に吹き出され、エアダンパ24の全閉時には、送風機23によって導入された空気は、室内熱交換器22のみを通過して室内に吹き出される。空調ユニット20に設けられるもう一つのエアダンパ25は、送風機23に導入する空気を室内外で切り替えるものであり、室外に繋がる空気導入口25Aと室内に繋がる空気導入口25Bを選択的に閉止する。
【0020】
なお、前述した外部熱交換器11及び室内熱交換器21,22では、冷媒と空気とが直接熱交換する例について説明したが、冷媒と熱交換した熱媒体を介して冷媒と空気とが間接的に熱交換してもよい。すなわち、熱媒体を介して空気の熱を冷媒に吸熱させたり、熱媒体を介して冷媒の熱を空気に放熱したりする構成としてもよい。
【0021】
また、車両用空調装置1は、必要に応じて、熱媒体回路30を備える。熱媒体回路30は、循環ポンプ31にて熱媒体を循環させ、ヒータ(ECH:Electric Coolant Heater)32にて熱媒体を加熱したり、温調対象熱交換器33にてバッテリ等の温調対象物の廃熱回収等を行ったりする。また、冷媒回路10と熱媒体回路30には、冷媒が流れる流路34Aと熱媒体が流れる流路34Bにて冷媒と熱媒体との熱交換を行う冷媒熱媒体熱交換器34が設けられている。
【0022】
[制御装置]
車両用空調装置1は、
図2に示す制御装置100を備える。制御装置100は、各種の入力信号(空調指示信号や充電機接続信号など)とセンサ部40からの検出信号に基づいて、前述した、冷媒回路10と空調ユニット20、必要に応じて、熱媒体回路30を制御する。
【0023】
制御装置100に検出信号を入力するセンサ部40は、例えば、外気温度や外気湿度等の外気状態を検出する外気センサ41、圧縮機2の消費電力(消費エネルギー)を検出するため圧縮機電流センサ42、冷媒の状態を検出する冷媒温度センサ43と冷媒圧力センサ44、車室内の乗員の有無を検出する乗員センサ45、空調ユニット20の送風温度を検出する送風温度センサ46などを備えている。これらのセンサは、一例である。センサ部40は、制御装置100が各種制御を行う際に必要な情報を検出する各種のセンサが備えられている。
【0024】
制御装置100の制御対象は、冷媒回路10においては、圧縮機2、第1減圧部V1、第2減圧部V2、第3減圧部V3、第4減圧部V4などであり、空調ユニット20においては、送風機23、エアダンパ24,25などであり、熱媒体回路30においては、循環ポンプ31などである。また、制御装置100は、制御装置100の処理結果に従って、車両用空調装置1を制御する。
【0025】
[ホットガス暖房運転]
ホットガス暖房運転は、外部熱交換器11において冷媒に吸熱させず、圧縮機2で圧縮した冷媒の一部又は全部を室内熱交換器21で放熱させて車室内を暖房する。
【0026】
図3にて、ホットガス暖房運転(準備運転を含む)における冷媒回路10の動作を説明する。この動作では、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒の一部は、室内熱交換器21と流路切替弁12を通り、第3減圧部V3にて減圧されて低圧冷媒になり、冷媒熱媒体熱交換器34を通り、アキュムレータ16にて気液分離がなされて、圧縮機2に戻る。この際、冷媒回路10では、第1減圧部V1を全閉にすることで、外部熱交換器11には冷媒を流さない。また、第4減圧部V4を全閉にして、室内熱交換器22には冷媒を流さない。
【0027】
冷媒回路10は、圧縮機2で圧縮した冷媒の少なくとも一部を、室内熱交換器21及び外部熱交換器11を経由することなく減圧して圧縮機2に戻すホットガスバイパス10Vを有する。ホットガスバイパス10Vでは、圧縮機2の直ぐ下流の分岐点P1で高温高圧の冷媒の一部を分岐し、第2減圧部V2(ホットガス弁)で減圧して、アキュムレータ16の直ぐ上流側の合流点P2で、第3減圧部V3で減圧された低圧冷媒に合流させる。
【0028】
このようなホットガスバイパス10Vを設けることで、室内熱交換器21での放熱で凝縮した液冷媒に、ホットガスバイパス10Vを経由したガス冷媒を混合させて、ガスリッチの冷媒にしてから圧縮機2に戻すことができるようになる。また、ホットガスバイパス10Vを流れる冷媒流量を増やすことで、室内熱交換器21での放熱量を抑制することができ、第2減圧部V2(ホットガス弁)の開閉で、ホットガスバイパス10Vを流れる冷媒流量を調整することで、冷媒回路10の放熱量と圧縮機2への入熱量のバランスを維持させることができる。
【0029】
ホットガス暖房運転時の冷媒の流れは、室内熱交換器21を経由する流路では、第3減圧部V3で減圧されるので、それより上流側は高圧冷媒になり、それより下流側は低圧冷媒になる。この際、低圧側流路における冷媒熱媒体熱交換器34では熱交換がなされないことが、暖房能力を維持する上で重要になる。そして、空調ユニット20においては、送風機23にて導入された空気が、室内熱交換器21での放熱で加熱されて、車室内に吹き出される。
【0030】
[準備運転]
ホットガス暖房運転の始動時に行われる準備運転は、冷媒が所定の状態になるまで、室内熱交換器21における放熱をさせず又は抑制させて、冷媒回路10にて冷媒を循環させる。一つの方法では、空調ユニット20の送風機23を停止又は抑制した状態で、前述したホットガス暖房運転での冷媒回路10の動作を実行する。また、別の方法では、空調ユニット20の送風機23を動作させた状態で、エアダンパ24を全閉にして、室内熱交換器21に風が流れないようにして、前述したホットガス暖房運転での冷媒回路10の動作を実行する。
【0031】
準備運転において、前者の方法では、空調ユニット20からの風が止まる又は抑制され、後者の方法では、一先ず、空調ユニット20から室内熱交換器21を通過しない風が流れる。
【0032】
前者の方法で、すなわち、空調ユニット20の送風機23を停止又は抑制した状態での準備運転の実行中に、乗員によって空調ユニット20からの吹出風量を高めるような調整、つまり、送風機23の風量を高める調整がなされ、指示通りに風量調整を行った場合には、準備運転に要する時間が長期化したり、必要な冷媒状態が得られず、ホットガス暖房による所望の暖房性能が得られなかったりする等、準備運転を効果的に行うことができない。そこで、制御装置100は、少なくとも準備運転の実行中には、空調ユニット20から車室内への吹出風量に対する乗員の風量調整を制限する。
【0033】
制御装置100では、風量調整の制限の内容を適宜定めることができる。
例えば、入力された調整指示を無効として、送風機23の動作を禁止し、送風機23が停止又は抑制した状態を維持するように制限することができる。
【0034】
また、予め設定された所定範囲に限って風量調整を許容し、所定範囲を超える風量調整を禁止するように制限することもできる。
例えば、入力された調整指示に係る風量の変更が所定範囲内である場合には、これを許容して調整指示通りに風量調整を行い、入力された調整指示に係る風量の変更が所定範囲を超える場合には、調整指示を無効とする、又は、所定範囲内の風量変更に自動的に調整するように制限する。一例として、入力された調整指示が風量を最大にする指示であった場合に、許容された所定範囲内での最大風量となるように制限して風量調整を行うようにすることができる。なお、風量調整と共に、エアダンパ24の動作も同時に制限することができる。
【0035】
この他、制御装置100は、風量調整の制限を行う期間についても、適宜定めることができる。風量調整の制限を行う期間を、例えば、準備運転の完了までとしたり、準備運転の始動から準備運転が完了する前までの所定期間としたり、準備運転が完了した後に室内熱交換器21における放熱を伴うホットガス暖房運転に移行した後の所定期間が経過するまで、としたりすることができる。
【0036】
このようにすることで、準備運転を、吸放熱バランスを崩さずに円滑に実行し、冷媒に十分なエネルギーを蓄積してからホットガス暖房運転を実行することでホットガス暖房による所望の暖房性能を得ることができる。
【0037】
[吸熱暖房運転]
図4にて、吸熱暖房運転における冷媒回路10の動作を説明する。吸熱暖房運転時の冷媒回路10では、第2減圧部V2、第3減圧部V3、第4減圧部V4、流路切替弁12は、全て全閉になる。
【0038】
吸熱暖房運転では、圧縮機2から吐出された高温高圧冷媒は、空調ユニット20内の室内熱交換器21を通過し、第1減圧部V1にて減圧され、低圧冷媒が外部熱交換器11を通過し、流路切替弁13、逆止弁14、アキュムレータ16を経由して、圧縮機2に戻される。この際、圧縮機2から出た高圧冷媒は、室内熱交換器21にて凝縮・放熱し、第1減圧部V1で減圧され低圧冷媒になり、外部熱交換器11にて吸熱・蒸発して、圧縮機2に戻る。そして、空調ユニット20においては、送風機23にて導入された空気が、室内熱交換器21での放熱で加熱されて、車室内に吹き出される。
【0039】
[基本動作]
制御装置100による車両用空調装置1の基本動作を、
図5にて説明する。車両用空調装置1を動作開始すると、空調指示信号の信号待ち状態になり(ステップS01)、ここで暖房指示が入力されると(ステップS01:YES)、次ステップS02に移行し、暖房指示以外の指示(例えば、冷房指示)が入力されると(ステップS01:NO)、指示に応じた他空調制御に移行する(ステップS01A)。
【0040】
次ステップS02では、ホットガス暖房運転を行うか否かの判断を行う。ホットガス暖房運転は、主には吸熱暖房を行うことができない状況で行われるので、例えば、外気センサ41によって極低温状況が検出された場合など、ホットガス暖房運転を行うべきと判断される場合は(ステップS02:YES)、次ステップS03に移行する。ステップS02にてホットガス暖房運転を行わないと判断した場合は(ステップS02:NO)、前述した吸気暖房運転を行う(ステップS11)。
【0041】
ステップS03では、冷媒回路10における冷媒の状態や始動前の暖房運転の状況等から、冷媒回路10における外部熱交換器11や冷媒熱媒体熱交換器34などに凝縮した冷媒が溜まっているか否かを判断し、冷媒が溜まっていて冷媒回収が必要であると判断される場合は(ステップS03:YES)、冷媒回収処理を行う(ステップS04)。また、ステップS03にて、冷媒回収が必要無いと判断した場合は(ステップS03:NO)、冷媒回収処理(ステップS04)はスキップする。なお、暖房終了後のステップS09,S10にて、冷媒回収処理を行っている場合には、ここでのステップS03,S04を省略することができる。
【0042】
ステップS05では、ホットガス暖房運転の始動時に行われる前述した準備運転が行われる。準備運転では、前述したホットガス暖房運転における冷媒回路10の動作を、冷媒回路10からの放熱がない又は抑制された状態で行い、循環する冷媒を高圧状態にして、冷媒にエネルギーを蓄積させる。この準備運転(ステップS05)においては、前述したように、空調ユニット20の送風機23は停止させる。
【0043】
そして、ステップS06にて、ホットガス暖房運転を行うのに適する冷媒状態になったと判断されるまで、準備運転(ステップS05)は継続される(ステップS06:NO)。
【0044】
冷媒圧力の検出結果や圧縮機2の消費電力の検出結果などで、準備運転において冷媒に十分なエネルギーが蓄積されたことが確認されると、準備運転完了の判断がなされ(ステップS06:YES)、送風を伴うホットガス暖房運転が実行される(ステップS07)。
【0045】
ホットガス暖房運転は、暖房終了指示が入力されるまで実行され(ステップS08:NO)、暖房終了指示が入力されると(ステップS08:YES)、ステップS03,S04と同様に、冷媒回収の必要性判断(ステップS09)と必要な場合の冷媒回収処理(ステップS10)を行い、空調動作を終了する。なお、次回空調動作時にステップS03,S04を実行する場合には、ステップS09,S10を省略することができる。
【0046】
ステップS11で吸熱暖房運転が行われた場合には、その後の暖房終了指示まで運転継続され(ステップS12:NO)、暖房終了指示が出されると(ステップS12:YES)、冷媒回収の必要性判断(ステップS09)と必要な場合の冷媒回収処理(ステップS10)を行い、空調動作を終了する。
【0047】
[空調ユニットの調整動作]
制御装置100による空調ユニット20の基本的な調整動作を、
図6にて説明する。車両用空調装置1の動作を開始すると、空調指示信号の信号待ち状態になる(ステップS21)。ステップS21で入力された空調指示信号がホットガス暖房指示である場合には(ステップS21:YES)、次ステップS22に移行し、ホットガス暖房指示以外の指示(例えば、冷房指示)である場合には(ステップS21:NO)、指示に応じた他空調制御における空調ユニット20の調整動作に移行する(ステップS41)。他空調制御における空調ユニット20の調整動作が開始されると、後述するステップS42からステップS46の処理を行う。
【0048】
ホットガス暖房運転の始動時には、まず冷媒回路10の動作を、冷媒回路10からの放熱がない又は抑制された状態で行い、循環する冷媒を高圧状態にして、冷媒にエネルギーを蓄積させる準備運転を行う。このため、空調ユニット20では、送風機23の動作を停止すると共に(ステップS22)、エアダンパ24を全閉として(ステップS23)、室内熱交換器21にて冷媒が放熱しないようにする。
【0049】
制御装置100は、準備運転の実行中であっても、空調ユニット20に対する乗員の調整指示、すなわち、空調ユニット20から車室内へ吹き出される吹出風量に対する風量調整又は室内の設定温度に対する温度調整の入力があるかを監視しているが、準備運転の実行中は、調整指示の入力があった場合でも入力された調整指示を、予め定めた制限内容に沿って制限する(ステップS24)。
【0050】
準備運転において冷媒に十分なエネルギーが蓄積されたことが確認されると、準備運転完了の判断がなされ(ステップS25:YES)、室内熱交換器21で冷媒の放熱を伴うホットガス暖房運転が実行される。
【0051】
ホットガス暖房運転の実行中は、設定温度の調整や吹出風量の調整に係る調整指示入力を受け付ける。温度調整指示が入力されると(ステップS42:YES)、入力された調整指示に応じてエアダンパ24の開度を制御して(ステップS43)、室内熱交換器21において冷媒の放熱により加熱される空気の割合を調整する。一方、風量調整指示が入力されると(ステップS44:YES)、送風機23の回転速度を調整指示に応じた速度に制御する(ステップS45)ことで空調ユニット20から車室内へ吹き出される風量を調整する。
【0052】
ホットガス暖房運転を含む空調が行われた場合には、その後の空調動作終了指示まで運転継続され(ステップS46:NO)、空調動作終了指示が出されると(ステップS46:YES)、空調ユニット20における調整動作を終了する。
【0053】
[空調ユニットの調整動作の他の例]
制御装置100による空調ユニット20の調整動作の他の例について、
図7にて説明する。なお、
図7において、
図6と同一の動作を行うステップには、同一の符号を付している。
車両用空調装置1の動作を開始すると、空調指示信号の信号待ち状態になる(ステップS21)。ステップS21で入力された空調指示信号がホットガス暖房指示である場合には(ステップS21:YES)、次ステップS22に移行し、ホットガス暖房指示以外の指示(例えば、冷房指示)である場合には(ステップS21:NO)、指示に応じた他空調制御における空調ユニット20の調整動作に移行する(ステップS41)。他空調制御における空調ユニット20の調整動作が開始されると、後述するステップS42からステップS46の処理を行う。
【0054】
ホットガス暖房運転の始動時には、まず冷媒回路10の動作を、冷媒回路10からの放熱がない又は抑制された状態で行い、循環する冷媒を高圧状態にして、冷媒にエネルギーを蓄積させる準備運転を行う。このため、空調ユニット20では、送風機23の動作を停止すると共に(ステップS22)、エアダンパ24を全閉として(ステップS23)、室内熱交換器21にて冷媒が放熱しないようにする。
【0055】
制御装置100は、準備運転の実行中であっても、空調ユニット20に対する乗員の調整指示、すなわち、空調ユニット20から車室内へ吹き出される吹出風量に対する風量調整又は室内の設定温度に対する温度調整の入力があるかを監視する。調整指示の入力があった場合には、後述する所定期間において、入力された調整指示を無効とし(ステップS26)、風量調整及び温度調整をいずれも禁止する。
【0056】
風量調整及び温度調整をいずれも禁止する期間は、準備運転の始動から所定期間継続し、所定期間が経過すると(ステップS27:YES)、調整指示の入力に対して一定範囲内での調整を許容する。ここで、所定期間は適宜定めることができ、例えば、所定期間の完了時を、準備運転実行中の任意のタイミング、準備運転の完了時、あるいは、室内熱交換器21の放熱を伴うホットガス暖房運転に移行した後の任意のタイミング、ホットガス暖房運転の完了時、等、とすることができる。
【0057】
すなわち、所定期間が経過の判断がなされた後に(ステップS27:YES)、温度調整指示がなされた場合は(ステップS28:YES)、入力された調整指示に対して予め定めた一定範囲内に限ってエアダンパ24の開度を制御して(ステップS29)、室内熱交換器21において冷媒の放熱により加熱される空気の割合を調整する。一方、風量調整指示がなされた場合は(ステップS30:YES)、送風機23の回転速度を予め定めた一定範囲内に限って制御する(ステップS31)ことで空調ユニット20から車室内へ吹き出される風量を調整する。
上記動作は、その後の空調動作終了指示まで運転継続され(ステップS32:NO)、空調動作終了指示が出されると(ステップS32:YES)、空調ユニット20における調整動作を終了する。
【0058】
前述のステップS21で入力された空調指示信号が、ホットガス暖房指示以外の指示(例えば、冷房指示)である場合には(ステップS21:NO)、指示に応じた他空調制御における空調ユニット20の調整動作に移行し(ステップS41)、設定温度に対する温度調整や吹出風量に対する風量調整に係る調整指示入力を受け付ける。
【0059】
温度調整指示が入力されると(ステップS42:YES)、入力された調整指示に応じてエアダンパ24の開度を制御して(ステップS43)、室内熱交換器21において冷媒の放熱により加熱される空気の割合を調整する。一方、風量調整指示が入力されると(ステップS44:YES)、送風機23の回転速度を調整指示に応じた速度に制御する(ステップS45)ことで空調ユニット20から車室内へ吹き出される風量を調整する。
【0060】
前述の動作は、その後の空調動作終了指示まで運転継続され(ステップS46:NO)、空調動作終了指示が出されると(ステップS46:YES)、空調ユニット20における調整動作を終了する。
【0061】
なお、
図7の例では、調整指示を一定範囲内で調整する動作(ステップS28からステップS31)し、指示に応じて空調動作を終了させる例について説明したが、例えば、調整指示を一定範囲内で調整する動作(ステップS28からステップS31)の後に、調整指示通りに風量及び温度を調整する動作(ステップS42からステップS45)を行ってもよい。
【0062】
また、
図6及び
図7では、ステップS22において送風機23を停止し、ステップS23においてエアダンパ24を全閉とする例について説明したが、冷媒の状態やその他条件に応じて送風機23の回転速度を抑制するように調整したり、エアダンパ24を予め定めた開度となるように調整したりしてもよい。
【0063】
[電動車両(EV)における制御装置の構成]
車両用空調装置1が備える制御装置100は、
図7に示すように、電動車両(EV)の制御を行う各種ECU(Electronic Control Unit)に車載ネットワークLを介して接続された一つのECUとして構成される。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、入出力I/F(Interface)104、車内通信I/F(Interface)105などを備え、各ハードウェアは、バス106を介して相互に接続されている。
【0064】
CPU101は、ROM102に記憶されている各種プログラムを実行することにより、制御装置100の制御を実行する。ROM102は、不揮発性メモリである。例えば、ROM102は、CPU101により実行されるプログラム、CPU101がプログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM103は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等の主記憶装置である。例えば、RAM103は、CPU101がプログラムを実行する際に利用する作業領域として機能する。入出力I/F104は、EVに設置される各種センサやモニタに接続され、CPU101にデータを入力すると共に、CPU101が演算処理したデータを出力する。車内通信I/F105は、車載ネットワークLに接続されることで、EVに設定された他のECUとのデータ送受信を制御する。
【0065】
制御装置100は、入出力I/F104や車内通信I/F105を介して、周辺の環境情報関するデータ或いはEVの運転状況に関するデータが入力されることで、CPU101が実行するプログラムによって、前述した車両用空調装置1の制御を実行する。
【0066】
EVには、バッテリBが搭載されている。バッテリBには、バッテリプラグBPに充電機のプラグPSを接続することで充電が行われ、バッテリBを介して車両用空調装置1への給電が行われる。バッテリプラグBPにプラグPSが接続されている状態は、充電機接続信号として、車載ネットワークLを介して制御装置100に送信される。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:車両用空調装置,2:圧縮機,
10:冷媒回路,10V:ホットガスバイパス,11:外部熱交換器,
12,13:流路切替弁,14,15:逆止弁,16:アキュムレータ,
20:空調ユニット,21,22:室内熱交換器,23:送風機,
30:熱媒体回路,31:循環ポンプ,32:ヒータ,
33:温調対象熱交換器,34:冷媒熱媒体熱交換器,
24,25:エアダンパ,25A,25B:空気導入口,
40:センサ部,41:外気センサ,42:圧縮機電流センサ,
43:冷媒温度センサ,44:冷媒圧力センサ,45:乗員センサ,
46:送風温度センサ,
100:制御装置,
V1:第1減圧部,V2:第2減圧部,V3:第3減圧部,V4:第4減圧部