(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062479
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】逐次成形装置および逐次成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20240501BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20240501BHJP
B21D 31/00 20060101ALI20240501BHJP
B21D 22/18 20060101ALI20240501BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B21D22/20 Z
B21D24/00 Z
B21D31/00 Z
B21D22/18
B21D22/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170314
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤村 政敏
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徳利
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆道
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA26
4E137BA01
4E137BA05
4E137BA06
4E137BA07
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA05
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】種々の断面ハット状の成形品を少量でも効率的に製作することが可能な逐次成形装置を提供する。
【解決手段】本発明は、左右の側部より中央部が突出した断面ハット状に板材を逐次成形する装置(D)である。板材の成形方向に沿って前後に配設された前ツール群(1)および後ツール群(2)と、前ツール群および後ツール群をそれぞれ作動させる前アクチュエータ群(3)および後アクチュエータ群(4)とを少なくとも備える。前ツール群は、それぞれ上下に対向して設けられる一対の前左ツール(11)、前右ツール(12)および前中ツール(13)を備える。後ツール群は、それぞれ上下に対向して設けられる一対の後左ツール(21)、後右ツール(22)および後中ツール(23)を備える。前中ツールと後中ツールは、左右幅の変更が可能でもよい。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の側部より中央部が突出した断面ハット状に板材を逐次成形する装置であって、
該板材の成形方向に沿って前後に配設された前ツール群および後ツール群と、
該前ツール群および該後ツール群をそれぞれ作動させる前アクチュエータ群および後アクチュエータ群と、を少なくとも備え、
該前ツール群は、
上下に対向して設けられ該板材の左側部を挟持する前左ツールと、
上下に対向して設けられ該板材の右側部を挟持する前右ツールと、
上下に対向して設けられ該板材の中央部を成形または挟持する前中ツールとを備え、
該後ツール群は、
上下に対向して設けられ該板材の左側部を挟持する後左ツールと、
上下に対向して設けられ該板材の右側部を挟持する後右ツールと、
上下に対向して設けられ該板材の中央部を成形または挟持する後中ツールとを備え、
該前アクチュエータ群は、
該前左ツールを作動させる前左アクチュエータと、
該前右ツールを作動させる前右アクチュエータと、
該前中ツールを作動させる前中アクチュエータとを備え、
該後アクチュエータ群は、
該後左ツールを作動させる後左アクチュエータと、
該後右ツールを作動させる後右アクチュエータと、
該後中ツールを作動させる後中アクチュエータとを備える逐次成形装置。
【請求項2】
前記側部から前記中央部への前記板材の流動を調整する流動調整手段を備える請求項1に記載の逐次成形装置。
【請求項3】
前記前中ツールと前記後中ツールの左右幅を変更できる幅変更手段を備える請求項1に記載の逐次成形装置。
【請求項4】
前記板材を成形方向に沿って相対的に逐次移送させ得る移送手段を備える請求項1に記載の逐次成形装置。
【請求項5】
前記移送手段は、前記板材を相対的に往復動させ得る請求項4に記載の逐次成形装置。
【請求項6】
前記成形方向は、直線状および/または曲線状である請求項1に記載の逐次成形装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の逐次成形装置を用いて、前記板材を断面ハット状に逐次成形する方法。
【請求項8】
非把持状態の前記板材を所定位置まで移送する移送工程と、
該移送工程後の板材を前記後ツール群により把持する把持工程と、
該後ツール群による把持状態にある該板材を前記前ツール群で成形する成形工程と、
を順に繰り返し行なう請求項7に記載の逐次成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材を断面ハット状に逐次成形する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
中央部が側部に対して突出した断面ハット状(つば付き帽子状)の成形品や断面溝型(コの字)状の成形品等は、高い機械的性質(剛性、強度等)が求められる構造部材などに用いられる。一般的に、このような成形品は、平板(素材)を大きな金型でプレス成形して大量生産される。
【0003】
しかし、形状の種々異なる成形品を少量生産する場合、成形品毎に金型を用意してプレス成形すると、各成形品の製造コストが大幅に増大する。そこで、大きな金型を用いずに、成形品の多品種少量生産にも対応できる成形方法が種々提案されており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―77169
【特許文献2】WO2015/56351
【特許文献3】特開2019-111537
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】36th IDDRG Conference - Materials Modelling and Testing for Sheet Metal Forming, Journal of Physics:Conf. Series 896 (2017) 012038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの文献も、ロール成形を利用した方法を提案している。しかし、そのような方法では、成形装置が長大化し、また、得られる成形品の形状自由度はさほど大きくない。従って、そのような方法では、多品種少量生産される成形品の製造コストの大幅な低減を図ることは困難である。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来と異なる手法により、様々なハット形状の成形品を製作できる逐次成形装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、成形品よりも小さい複数のツール(成形型)を協働させ、板材を少しづつ成形することを繰り返すことにより、様々なハット形状の成形品を製作することを着想すると共にこれを具現化させた。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《逐次成形装置》
(1)本発明は、左右の側部より中央部が突出した断面ハット状に板材を逐次成形する装置であって、該板材の成形方向に沿って前後に配設された前ツール群および後ツール群と、該前ツール群および該後ツール群をそれぞれ作動させる前アクチュエータ群および後アクチュエータ群と、を少なくとも備え、該前ツール群は、上下に対向して設けられ該板材の左側部を挟持する前左ツールと、上下に対向して設けられ該板材の右側部を挟持する前右ツールと、上下に対向して設けられ該板材の中央部を成形または挟持する前中ツールとを備え、該後ツール群は、上下に対向して設けられ該板材の左側部を挟持する後左ツールと、上下に対向して設けられ該板材の右側部を挟持する後右ツールと、上下に対向して設けられ該板材の中央部を成形または挟持する後中ツールとを備え、該前アクチュエータ群は、該前左ツールを作動させる前左アクチュエータと、該前右ツールを作動させる前右アクチュエータと、該前中ツールを作動させる前中アクチュエータとを備え、該後アクチュエータ群は、該後左ツールを作動させる後左アクチュエータと、該後右ツールを作動させる後右アクチュエータと、該後中ツールを作動させる後中アクチュエータとを備える逐次成形装置である。
【0010】
(2)本発明の逐次成形装置(単に「装置」ともいう。)によれば、前ツール群と後ツール群を構成する各ツールを協働させて板材を逐次成形することにより、所望する様々なハット形状の成形品を、少量でも低コストで製作できる。また、一回あたりの加工量(成形量)や成形荷重の低減により、装置の小型化やコンパクト化も図られる。さらに、様々なハット形状に対応できる汎用性(共通性)に優れた小型ツールを用いることにより、ツールのコスト低減、ひいては各成形品の製作コスト低減も図られる。このようにして本発明の装置を用いれば、所望するハット形状の成形品を少量でも、低コストで効率的に製作(生産)することが可能となる。
【0011】
《逐次成形方法》
本発明は、逐次成形方法としても把握される。例えば、本発明は、上述した装置具を用いて、板材を断面ハット状に逐次成形する方法でもよい。より具体的にいうと、例えば、非把持状態の前記板材を所定位置まで移送する移送工程と、該移送工程後の板材を前記後ツール群により把持する把持工程と、該後ツール群による把持状態にある該板材を前記前ツール群で成形する成形工程と、を順に繰り返し行なってもよい。なお、把持状態は、ツール群の全体または一部により板材が挟持されて、送り方向または成形方向(通常は前後方向)に関して板材が拘束されている状態である。非把持状態は、ツール群により板材が挟持されていない状態であり、板材が送り方向または成形方向へ移動可能な状態である。
【0012】
《その他》
(1)本明細書でいう「上・下」、「前・後」、「左・右」は、位置関係を明確にするため便宜的に用いている。「上」(上方、上側等)や「下」(下方、下側等)は必ずしも鉛直方向に沿っていなくてもよい。支障がない限り、通常、鉛直方向を上下方向とすればよい。
【0013】
特に断らない限り、「前」(前方、前側等)は成形方向の先方側、「後」(後方、後側等)はその反対側とする。成形方向は、逐次成形の進行方向である。なお、成形方向は、直線状でも、曲線状(円弧状を含む。)でも、それらの複合線状でもよい。
【0014】
「左」(左方、左側等)と「右」(右方、右側等)は、その成形方向(後側から前側を観た向き)を基準とする。板材を往復動させつつ逐次成形するとき、その進行方向(成形方向)は往路と復路で逆向きになるため、「前・後」と「左・右」も往路と復路で逆転する。
【0015】
本明細書でいう「相対的」とは、板材とツール群の少なく一方が移動すればよいことを意味する。例えば、ツール群に対して板材を後方へ移動させると、前方(成形方向)に向って逐次成形が進行することになる。
【0016】
「中央部」と「側部」は板材の相対的な位置関係を示している。「右側部」と「左側部」の幅は同じでも異なってもよい。「中央部」は、「右側部」と「左側部」の中間にあればよく、板材の中心線に対して左右対称でなくてもよい。断面ハット状の成形品でいえば、中央部が頂部、側部がフランジ部となる。なお、中央部の両側にそれぞれできるフランジ部は、成形品の形態により、適宜、左フランジ部と右フランジ部または外(側)フランジ部と内(側)フランジ部ともいう。
【0017】
(2)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、本明細書でいう「x~ymm」はxmm~ymmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】逐次成形装置(一例)の概要を模式的に示す平面図である。
【
図2A】その装置を構成するツール群を示す斜視図である。
【
図3A】成形中の装置を後方から観た模式図である。
【
図3B】成形中の装置の前後断面を右方から観た模式図である。
【
図4A】その装置による逐次成形(一例)の開始時を模式的に示す平面図である。
【
図4B】その次の成形工程時を模式的に示す平面図である。
【
図4C】さらに後続する成形工程時を模式的に示す平面図である。
【
図4D】その逐次成形の一行程目の中間時を模式的に示す平面図である。
【
図4E】その逐次成形の一行程目の終了時を模式的に示す平面図である。
【
図5A】等断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図5B】頂部の深さが変化する等幅ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図5C】鞍型等幅ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図5D】頂部の深さが変化する鞍型等幅ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図6A】逐次成形装置(他例)を模式的に示す平面図である。
【
図6B】その成形中の装置を後方から観た模式図である。
【
図7A】頂部の幅が変化する等深ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図7B】頂部の幅と深さが変化するハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図7C】頂部の幅が変化する鞍型等深ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【
図7D】頂部の幅と深さが変化する鞍型ハット断面状の成形品例を模式的に示した正面図、平面図および左右の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、逐次成形装置や逐次成形方法のみならず、得られた成形品にも適宜該当し、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0020】
《板材》
(1)材質
板材(素材)は、鉄系、アルミニウム系、マグネシウム系、チタン系等のいずれでもよい。代表的な板材は鋼板(例えば高張力鋼板)である。ここでいう「~系」は、材質が純金属または合金であることを意味する。
【0021】
板材の厚さ(板厚)は、一定でもよいし、領域により異なっていてもよい。板厚は、例えば、0.3~7mmさらには0.5~3mm程度である。
【0022】
(2)形態
板材は、所望する成形品に応じた形態であるとよい。板材の幅は、一定でもよいし、変化(例えばテーパ状)していてもよい。板材は、方形状(ストレート状)でも、湾曲状(弧状等)でもよい。
【0023】
板材は、単板でもよいし、複数枚の板材(例えば鋼板とアルミニウム合金板)が接合された合板でもよい。逐次成形に供される板材(素材)は、平板状でも、曲面状でも、既に前加工された中間品等でもよい。
【0024】
《ツール》
各ツールは、上下に対向する一対からなり、板材を成形したり、板材を挟持(把持)したりできる。
【0025】
断面ハット状の成形に関わる中ツール(前中ツール、後中ツール)、右ツール(前右ツール、後右ツール)および左ツール(前左ツール、後左ツール)の肩部は、丸められているとよい。肩部の稜線は、直線状でも、曲線状(例えば円弧状)でもよく、板材の中央部に形成される頂部の(長手方向)形態に対応しているとよい。例えば、頂部が直線状に延在する断面ハット状の成形品を逐次成形する場合なら、肩部の稜線は前後方向(成形方向)へ延在する直線状でもよい。また、頂部が円弧状に延在する断面ハット状の成形品を逐次成形する場合なら、肩部の稜線は、肩部の位置(例えば回転中心からの距離)に応じた曲率半径を有する円弧状であるとよい。
【0026】
板材を挟持する右ツールおよび左ツールの対向面間には、中ツールによる板材の成形時(押込み時)に、側部から中央部へ流入する板材の流動(張出し抵抗力)を調整する流動調整手段が設けられるとよい。これにより、逐次成形時に生じ得る皺等の抑制が図られる。
【0027】
流動調整手段は、例えば、右ツールや左ツールの対向面間に設けたビード(突起)と、そのビードを逃すビード溝とからなる。その対向面の一方側に設けられるビードの突出量は、例えば、ビード自体の変更により調整してもよいし、介在させるスペーサ(プレート)の厚さにより調整してもよい。
【0028】
その対向面の他方側に設けられるビード溝は、ビードのみならず、板材にも(過度に)接触しない程度の深さがあるとよい。
【0029】
中ツール、右ツールおよび左ツールの側壁(左・右側壁、内・外周側壁)は、板材の成形や挟持に関与しない限り、その形態を問わない。側壁が断面ハット状の成形に関わるとき、その傾度、面構成(平面、曲面等)が頂部の(長手方向)形態に応じて調整されるとよい。
【0030】
板材の中央部に形成される頂部の幅は、長手方向に一定でもよいし、変化してもよい。その幅を変化させる場合、例えば、中ツールに左右幅(両肩部の間隔)を変更する幅変更手段を設けるとよい。幅変更手段は、例えば、中ツールを左右に分割した分割ツールと、それらの距離を変化させる調整具とにより実現される。また、中ツールの左右方向への拡縮に応じて、右ツールと左ツールも左右方向に変位(スライド)してもよい。
【0031】
《アクチュエータ》
ツールはアクチュエータにより上下動する。アクチュエータは、ツールを所望の位置に保持できる機構を備えるとよい。例えば、アクチュエータの駆動源は、例えば、電動や油圧等である。アクチュエータが各ツール毎(上側と下側にある各ツール毎)に設けられると、逐次成形の自由度が拡大し得る。
【0032】
《移送》
一成形毎(前中ツールによる押込みがなされる毎)に、板材をツール群に対して所定量(長さ、角度)ずつ、成形方向へ相対移動させられる移送手段を設けるとよい。通常、ツール群を移動させるよりも板材を移動させる方が、装置の小型化や簡素化を図り易い。移送手段は、板材を相対的に往復動させ得ると好ましい。移送手段の駆動源は、例えば、油圧等でもよいが、電動に依れば、移動方向の反転や移動量の制御が容易になる。
【0033】
移送手段による板材の移動方向は、成形品の形態に応じて、一次元(X軸)方向のみでも、二次元(X軸、Y軸)方向でも、三次元(X軸、Y軸、Z軸)方向でもよい。このような移送手段として、ボールスプライン、リニアガイド等からなる電動アクチュエータの他、ロボットハンドを用いてもよい。
【0034】
板材自体を移送させる場合、ハット形状への影響が小さい部位を把持するとよい。例えば、頂部が形成される板材の前端部や後端部である。
【0035】
《成形品》
断面ハット状の成形品は、その用途や詳細な形状を問わない。成形品は、例えば、自動車の車体に用いられる構造部材(各種ピラー、レール、メンバー(フレーム)、サイドシル、センタートンネル、ルーフパネル、アンダーボディ等)に用いられる。
【実施例0036】
板材(素材)を断面ハット状に逐次成形装置とそれによる成形過程について、具体例を示しつつ本発明をさらに詳しく説明する。
【0037】
[第1実施例]
《逐次成形装置》
(1)概要
一例である逐次成形装置D(単に「装置D」という。)を
図1、
図2A~
図2C(これら併せて「
図2」という。)、
図3A、
図3B(両図を併せて「
図3」という。)に模式的に示した。なお、特に断らない限り、各方向は次のように定める。図中に矢印で示した方向を、前後方向、上下方向および左右方向とする。上下は鉛直方向を基準とし、左右は後方から前方へ向う方向を基準とする。適宜、後方から前方へ向う方向が逐次成形の進行する方向(成形方向)となる場合について主に説明する。
【0038】
装置Dは、前ツール群1と、後ツール群2と、前ツール群1を作動させる前アクチュエータ群3と、後ツール群2を作動させる後アクチュエータ群4と、断面ハット状に成形される板材m(鋼板等)を、リンク51、52(両者を併せて「リンク5」という。)を介して自在に移送させ得るスライドテーブル61、62(両者を併せて「スライドテーブル6」という。)と、それらを設置するフレーム9とを備える。なお、スライドテーブル6は、リニアガイド、サーボモータ等からなる電動アクチュエータ(図略)により、平面(XY座標/X軸:左右方向、Y軸:前後方向)上の任意点へ高精度に移動(変位)できる。リンク5の上下方向(Z軸)の移動については後述する。
【0039】
(2)ツール
前ツール群1は、前側の左右に配列された前左ツール11と、前右ツール12と、前中ツール13とからなる。前左ツール11は、左側の上下に配置された一対の前左上ツール111と前左下ツール112からなる。前右ツール12は、右側の上下に配置された一対の前右上ツール121と前右下ツール122からなる。前中ツール13は、中央側の上下に配置された一対の前中上ツール131と前中下ツール132からなる。
【0040】
後ツール群2は、後側の左右に配列された後左ツール21と、後右ツール22と、後中ツール23とを備える。後左ツール21は、左側の上下に配置された一対の後左上ツール211と後左下ツール212からなる。後右ツール22は、右側の上下に配置された一対の後右上ツール221と後右下ツール222からなる。後中ツール23は、中央側の上下に配置された一対の後中上ツール231と後中下ツール232からなる。
【0041】
前左上ツール111と後左上ツール211には、下面側にある凹部にビード1114とビード2114が嵌装される。前右上ツール121と後右上ツール221には、下面側にある凹部にビード1214とビード2214が嵌装される。
【0042】
また、前左下ツール112、後左下ツール212、前右下ツール122および後右下ツール222の各上面側には、ビード1114、2114、1214、2214をそれぞれ受容して逃すビード溝が設けられている。各ビード溝の深さは、挟持した板材mが接触しない程度とすればよい。
【0043】
板材mがフランジ部となる左側から頂部となる中央側へ流入するときの張出し抵抗力が、各ビードの突出量により調整される。その突出量は、ツールとビードの間に介装されるプレート2115、2215(スペーサ)等の厚さにより変更可能である。このようなビード(さらにはプレート)が、本発明でいう板材の流動調整手段に相当する。
【0044】
前中上ツール131と後中上ツール231の下方移動(押し込み)により、板材mは断面ハット状に成形される。このとき、前中上ツール131の左肩部131a(図示略)および右肩部131bと後中上ツール231の左肩部231aおよび右肩部231bとに板材mが摺接する。同様に、前左下ツール112の右肩部112bおよび後左下ツール212の右肩部212bと前右下ツール122の左肩部122aおよび後右下ツール222の左肩部222aとにも板材mが摺接する。各肩部は、板材mを滑らかに摺接させるため、角部が丸め(曲率半径:r)られている。
【0045】
なお、各ツール群に対して板材mを円弧状に相対回転させつつ逐次成形する場合(
図4A等参照)、
図2Cに示すように、各肩部の摺接面は、その回転半径に応じた湾曲面となっているとよい。具体的にいうと、例えば、その回転中心Oがツール群の右方延長線上にあるとき、右肩部112b、212b、左肩部122a、222a、左肩部131a、231aおよび右肩部131b、231bはそれぞれ、その回転中心Oからみた稜線の曲率半径がR1b、R2a、R3a、R3bとなる湾曲面で構成されているとよい。
【0046】
各ツールはブロック片であるが、それらが協働して成形(金)型を構成すると考えることもできる。この観点から敢えていうなら、前中上ツール131および後中上ツール231はパンチに相当し、前中下ツール132および後中下ツール232はパンチホルダまたはパッドに相当し得る。また前左下ツール112および後左下ツール212と前右下ツール122および後右下ツール222とはダイに相当し得る。さらに前左上ツール111および後左上ツール211と前右上ツール121および後右上ツール221とはダイホルダまたはブランクホルダに相当し得る。
【0047】
(3)アクチュエータ
前アクチュエータ群3は、前左ツール111、112、前右ツール121、122および前中ツール131、132をそれぞれ個別に作動させる前左アクチュエータ311、312(図示略)、前右アクチュエータ321、322(図示略)および前中アクチュエータ331、332からなる。
【0048】
後アクチュエータ群4は、後左ツール211、212、後右ツール221、222および後中ツール231、232をそれぞれ個別に作動させる後左アクチュエータ411、412、後右アクチュエータ421、422および後中アクチュエータ431、432からなる。
【0049】
図3に示すように、ツール毎に個別に設けた各アクチュエータは、各ツールを上下方向に移動可能であると共に所定位置で保持し得る。各アクチュエータは、例えば、ボールねじ、サーボモータ等からなる電動アクチュエータ(シリンダー)である。
【0050】
《逐次成形方法》
装置Dを用いて板材mから断面ハット状の成形品を作製する過程(工程)を例示しつつ、逐次成形方法について具体的に説明する。ここでは、その一例として、略扇形状(中心角θ/例えば60°)の板材mを、円弧帯状で等断面なハット状の成形品へ逐次成形する場合を取り上げて説明する。
【0051】
(1)初期
図4Aに示すように、装置Dへ板材mをセットする。具体的にいうと、次の通りである。先ず、前ツール群1と後ツール群2を構成する各上下ツール間に板材mを載置する。板材mの中央部前端側に設けた把持片m1をロッド513の後端部にピン511で枢支する。同様に板材mの中央部後端側に設けた把持片m2をロッド523の前端部にピン521で枢支する。
【0052】
ロッド513の前端部は、スライドテーブル61の中央付近に設けた上下動可能なスリーブ512に枢支されている。同様にロッド523の後端部は、スライドテーブル62の中央付近に設けた上下動可能なスリーブ522に枢支されている。スリーブ512、522は、ボールスプライン機構により上下動可能となっている。こうして板材mは、スライドテーブルと上下動するボールスプライン機構の組合せ(移送手段)により、三次元的な移動が可能となっている。
【0053】
ここでは特に断らない限り、スライドテーブル6がリンク5を介して、板材mを中心Oまわりに、水平面上に左回転(反時計回転)させるものとする。適宜、中心Oに近い側を「内(側)」、中心Oから遠い側を「外(側)」という。
【0054】
次に、
図4Aに示すように、スライドテーブル6を作動させて、前ツール群1に板材mの後端辺付近を並列させる。前左ツール11と前右ツール12で、板材mの後端辺付近にある左側部(左フランジ部/外フランジ部)と右側部(右フランジ部/内フランジ部)を上下方向から挟持(把持)する(側部把持工程/ステップS10)。
【0055】
前中下ツール132を逐次成形する1ステップの加工量分(単位加工量:Δw/例えば1mm程度)だけ予め下降させておく。その状態で、前中上ツール131をΔwだけ下降させて板材mを押し込む(成形工程/ステップS11)。なお、前中上ツール131と前中下ツール132は、略同時に下降させてもよい。
【0056】
(2)逐次成形
前ツール群1を作動させて、板材mの上下面を挟持している把持状態から、非把持状態(解放状態)にする。具体的にいうと、前左上ツール111、前右上ツール121および前中上ツール131を、ハット断面の高さ(頂部深さ)を考慮した所定の解放量(Δh/例えば10mm程度)だけ上昇させて板材mから離す(解放工程/ステップS20)。このとき、後ツール群2は解放状態のままである。
【0057】
スライドテーブル6を作動させて、解放状態の板材mを所定の送り量(α/例えば2°)だけ回転させる(移送工程/ステップS21)。このとき、
図4Bに示すように、後ツール群2に板材mの後端辺付近が略並列した状態となる。
【0058】
後ツール群2を構成する後左ツール21、後右ツール22および後中ツール23で、板材mの後端辺付近にできた外側の左フランジ部、内側の右フランジ部および中央側の頂部をそれぞれ上下方向から把持する(把持工程/ステップS22)。後中ツール23による頂部の把持と、後左ツール21と後右ツール22によるフランジ部の把持とは、略同時でも、先後があってもよい。
【0059】
既述したステップS10と同様に、前左ツール11と前右ツール12で板材mの左部と右部を上下方向から把持する(側部把持工程/ステップS23)。さらにステップS11と同様に、前中ツール13により板材mの中央部を押し込んで頂部を成形する(成形工程/ステップS24)。
【0060】
その後、前ツール群1と後ツール群2を作動させて、板材mの把持状態を解放する。具体的にいうと、前左上ツール111、前右上ツール121および前中上ツール131と、後左上ツール211、後右上ツール221および後中上ツール231とをそれぞれ、Δhだけ上昇させて板材mを解放状態にする(解放工程/ステップS30)。さらにその後、
図4Cに示すように、既述したステップS21~ステップS24を繰り返す。
【0061】
このような逐次成形が板材mの中央付近(Σα≒θ/2)まで進行した状態を
図4Dに示した。また、逐次成形が板材mの上端辺付近(Σα≒θ)まで進行した状態を
図4Eに示した。
【0062】
図4Aに示す状態から
図4Eに示す状態へ至る1行程分の逐次成形により、頂部深さ:Δw(例えば1mm)である円弧状に湾曲した等断面ハット状の成形品が得られる。
【0063】
より深い頂部を形成する場合、上述した逐次成形をさらに繰返し行なうとよい。このとき、1行程が終了する度に、逐次成形が施された板材mを
図4Aに示す状態に戻して、上述した逐次成形を繰返し行うこともできる。もっとも、
図4Eに示す状態から板材mを逆向き(時計まわり)へ順に送り、逐次成形を繰返し行うとより効率的である。後者の場合、既述した前ツール群1の作動と後ツール群2の作動とが往路と復路で入れ替わる。板材mの往復動は、所望の深さの頂部が形成された時点で(何回目かの往路の終了時点でも)止めればよい。
【0064】
《成形品》
装置Dによる逐次成形により得られる断面ハット状の成形品を、
図5A~
図5D(これらを併せて「
図5」という。)に例示した。円弧帯状に湾曲した断面ハット状の成形品(単に「カーブ品」という。)は既述した方法により得られる。ストレートに延在する断面ハット状の成形品(単に「ストレート品」という。)は、スライドテーブル6による板材mの送りを、前後方向へ直線状に行なうことにより得られる。このように、成形品の全体的な概形は、板材mの移送形態により調整される。
【0065】
頂部の形態や長手方向の断面変化等は、前中上ツール131、後中上ツール231、前左下ツール112、後左下ツール212、前右下ツール122および後右下ツール222の形態、構造、作動等により調整され得る。
【0066】
図5Aには、頂部pの幅と深さが共に一定な等断面のストレート品s11とカーブ品c11を例示した。図中には、それぞれの正面図、平面図および左右側面図を模式的に示した(以下同様)。なお、頂部pの両側にできる左フランジ部f1、右フランジ部f2または外フランジ部fo、内フランジ部fiの各幅は、成形品のフランジ部の目標幅に応じて調整され、ハット状断面の側部の幅に相当する(以下同様)。
【0067】
図5Bには、頂部の深さが長手方向に一定割合で変化する等幅なストレート品s12とカーブ品c12を例示した。頂部の深さの変化は、例えば、前中ツール13と後中ツール23の下降量(Δw)を長手方向に沿って変動させることにより実現され得る。このとき、前中上ツール131および後中上ツール231の各下面と、前中下ツール132および後中下ツール232の各上面とを、長手方向に沿った傾斜面にしてもよい。
【0068】
図5Cには、頂部の幅と深さが一定な等断面であると共に長手方向に関して上方に反った鞍型ストレート品s13と鞍型カーブ品c13を例示した。鞍型成形は、例えば、前ツール群1と後ツール群2の上下方向の移動量を長手方向に沿って変動させることにより得られる。このとき、前左上ツール111、前右上ツール121、前中上ツール131、後左上ツール211、後右上ツール221および後中上ツール231の各下面と、前左下ツール112、前右下ツール122、前中下ツール132、後左下ツール212、後右下ツール222および後中下ツール232の各上面とを、長手方向に沿った湾曲面にしてもよい。
【0069】
図5Dには、頂部の深さが長手方向に変化する等幅な鞍型ストレート品s14と鞍型カーブ品c14を例示した。既述したように、例えば、頂部の深さ変化は、前中ツール13と後中ツール23の下降量(Δw)を長手方向に沿って変動させて実現される。また、鞍型成形は、前左上ツール111、前右上ツール121、後左上ツール211および後右上ツール221の各下面と、前左下ツール112、前右下ツール122、後左下ツール212および後右下ツール222の各上面をフランジ部の長手方向に沿った湾曲面とし、さらに前中上ツール131および後中上ツール231の各下面と、前中下ツール132および後中下ツール232の各上面とを頂部の長手方向に沿った湾曲面とすることにより実現される。
【0070】
[第2実施例]
《逐次成形装置》
他例である逐次成形装置D2(単に「装置D2」という。)を
図6Aおよび
図6B(これら併せて「
図6」という。)に模式的に示した。第1実施例の場合と同様な部材等には同符号を付して、それらの詳細な説明を適宜省略した。各方向も第1実施例の場合と同様に、図中に矢印で示した方向を、前後方向、上下方向および左右方向とした。
【0071】
(1)装置D2では、前中ツール13と後中ツール23を構成する各ツールをさらに分割型にして、前中ツール13および後中ツール23の左右幅の拡縮を可能にした。これにより、頂部幅が長手方向に変化した断面ハット状の成形品が得られる。
【0072】
各ツールの構成を具体的にいうと、次の通りである。前中上ツール131は、前中上左ツール1311、前中上右ツール1312およびそれらを中間で連結する前中上ロッド1313とからなる。前中下ツール132は、前中下左ツール1321、前中下右ツール1322およびそれらを中間で連結する前中下ロッド1323とからなる(これらは図示略)。
【0073】
後中上ツール231は、後中上左ツール2311、後中上右ツール2312およびそれらを中間で連結する後中上ロッド2313とからなる。後中下ツール232は、後中下左ツール2321、後中下右ツール2322およびそれらを中間で連結する後中下ロッド2323とからなる。
【0074】
前中上ロッド1313、前中下ロッド1323、後中上ロッド2313および後中下ロッド2323(これらを併せて「連結ロッド」という。)は、それぞれの左右端部が逆ねじ(例えば左端部が左螺子なら右端部は右螺子)になっており、それらを正転または逆転させることにより前中ツール13および後中ツール23の左右幅が拡縮する。
【0075】
連結ロッドの回転(回転量、回転方向)は、逐次成形中の適時に、手動で調整されてもよいが、制御された電動アクチュエータ(サーボモータ等)により連続的または離散的になされるとよい。なお、1ステップ分の成形中(前中上ツール131と後中上ツール231の下降中)に、前中ツール13と後中ツール23の左右幅が変動しないように、連結ロッドの回転を止めるロック機構が設けられているとよい。
【0076】
(2)さらに、前左ツール11、前右ツール12、後左ツール21および後右ツール22もフレーム9に対して左右に変位(スライド)可能であるとよい。これにより、断面ハット状の成形品の形状自由度をより拡大できる。
【0077】
前中ツール13および後中ツール23の左右幅の拡縮と、前左ツール11、前右ツール12、後左ツール21および後右ツール22の左右の変位とは、連動(同期)してなされてもよいし、別個(非同期)になされてもよい。
【0078】
前左ツール11、前右ツール12、後左ツール21および後右ツール22の左右変位も、逐次成形中の適時に、手動で調整されてもよいし、制御された電動アクチュエータ(サーボモータ等)により連続的または離散的になされてもよい。また、それらの左右変位が、少なくとも1ステップ分の成形中(前中上ツール131と後中上ツール231の下降中)に生じないようにする保持機構が設けられていてもよい。
【0079】
《成形品》
装置D2による逐次成形により得られる断面ハット状の成形品を、
図7A~
図7D(これらを併せて「
図7」という。)に例示した。第1実施例の場合と同様に、円弧帯状に湾曲した断面ハット状の成形品は「カーブ品」、ストレートに延在する断面ハット状の成形品は「ストレート品」という。
【0080】
いずれの成形品も、第1実施例で説明した製法や工程をベースにして得られる。但し、各成形品の形態は、板材mの移送形態、各ツール(特に前中上ツール131、後中上ツール231、前左下ツール112、後左下ツール212、前右下ツール122および後右下ツール222)の形態(特に肩部)や作動の他、前中ツール13および後中ツール23の左右幅の拡縮、前左ツール11、前右ツール12、後左ツール21および後右ツール22の左右変位等を調整して実現され得る。
【0081】
図7Aには、頂部の深さが一定で頂部の幅が長手方向に一定割合で変化するストレート品s21とカーブ品c21を例示した。
【0082】
図7Bには、頂部の深さと幅が共に長手方向に一定割合で変化するストレート品s22とカーブ品c22を例示した。
【0083】
図7Cには、頂部の深さが一定で頂部の幅が長手方向に一定割合で変化する鞍型ストレート品s23と鞍型カーブ品c23を例示した。
【0084】
図7Dには、頂部の深さと幅が共に長手方向に一定割合で変化する鞍型ストレート品s24と鞍型カーブ品c24を例示した。
【0085】
このような本発明によれば、種々の断面ハット状の成形品を少量でも効率的に製作することが可能となる。