(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062482
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】レプチン抵抗性改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/238 20060101AFI20240501BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240501BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/744 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/17 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/346 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/284 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/234 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/236 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/534 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/539 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/634 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/708 20060101ALI20240501BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61K36/238
A61P3/06
A61P3/04
A61K36/744
A61K36/17
A61K36/65
A61K36/346
A61K36/284
A61K36/234
A61K36/236
A61K36/484
A61K36/534
A61K36/53
A61K36/539
A61K36/634
A61K36/708
A61K36/9068
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170325
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】緒方 美咲
(72)【発明者】
【氏名】川島 孝則
(72)【発明者】
【氏名】千葉 殖幹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 隆二
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB04
4C088AB14
4C088AB26
4C088AB30
4C088AB38
4C088AB40
4C088AB43
4C088AB58
4C088AB60
4C088AB81
4C088BA08
4C088MA07
4C088NA14
4C088ZA70
4C088ZC33
(57)【要約】
【課題】 痩せる前にレプチン抵抗性を改善する作用を有する新たな剤を提供する。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、防風通聖散が、体重が有意に減少する前すなわち脂肪量が減少する前に、レプチン抵抗性を改善する作用を有することを見出した。すなわち、本発明は、防風通聖散を有効成分として含有する、レプチン抵抗性改善剤を提供する。また、本発明は、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤であって、レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、レプチン抵抗性改善剤を提供する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散を有効成分として含有する、レプチン抵抗性改善剤。
【請求項2】
防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤であって、前記レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ前記対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、レプチン抵抗性改善剤。
【請求項3】
防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法。
【請求項4】
防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法であって、前記レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ前記対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レプチン抵抗性改善剤に関する。より詳細には、本発明は、体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性を改善するレプチン抵抗性改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レプチンは、脂肪組織より分泌されるホルモンであり、視床下部にあるレプチン受容体を介して摂食抑制作用を示す。レプチンは、交感神経の活性化により、エネルギー消費増大を促し、体重を減少させる。
【0003】
レプチンは、生体のエネルギー蓄積状態が十分なときに分泌され、食欲の抑制およびエネルギー代謝の亢進を促す。一方、エネルギー蓄積状態が不十分なときには、血清レプチン濃度が低下することにより、食欲抑制が解除され、脂肪組織における脂肪の分解が低下する。このように、レプチンは、肥満を抑制する作用を有する。
【0004】
しかし、肥満などの脂質代謝異常により血清レプチン濃度が上昇すると、レプチンに対する感受性が低下し、レプチン抵抗性となることが報告されている。レプチン抵抗性となった場合、レプチンを投与しても、レプチンに応答せず、食欲の抑制や体重減少などの効果が得られない。肥満の多くがレプチン抵抗性によるものともいわれている。
【0005】
レプチン抵抗性を改善する方法の1つとして、運動および食事療法等を行うことによって、レプチンを分泌する脂肪組織を減少させることにより血中レプチン濃度を減少させる方法が知られている。しかし、レプチン抵抗性のため食欲が旺盛となっている者にとって、脂肪組織を減少させることは非常に困難である。
【0006】
また、血清レプチン濃度を減少させてレプチン抵抗性を改善する剤がいくつか報告されている。たとえば、特許文献1には、ジアシルグリセロールからなるレプチン抵抗性改善剤が記載されている。また、特許文献2には、ジグリセリドを用いて小腸上皮中の脂肪酸滞留を促進し、レプチン抵抗性を改善することが記載されている。
【0007】
このように、レプチン抵抗性を改善することの有用性が注目されており、さらなる新規の剤の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-003376号公報
【特許文献2】特開2002-322052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、抗肥満作用によって白色脂肪組織が減少すれば、レプチン産生が減少し、その結果レプチン抵抗性が改善する可能性がある。しかし、白色脂肪組織が減少する前に、すなわち痩せる前に、レプチン抵抗性を改善することができれば、食欲の正常化によってより効果的に体重を減少させることができる。
【0010】
そこで、本発明は、痩せる前にレプチン抵抗性を改善する作用を有する新たな剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、防風通聖散が、体重が有意に減少する前すなわち脂肪量が減少する前に、レプチン抵抗性を改善する作用を有することを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、防風通聖散を有効成分として含有する、レプチン抵抗性改善剤を提供する。
【0013】
本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤であって、レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、レプチン抵抗性改善剤を提供する。
【0014】
本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法であって、レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、改善方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、痩せる前にレプチン抵抗性を改善することができるため、食欲の正常化によってより効果的に体重を減少させるすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】肥満プロセスにおける体重の変化を示すグラフ。
【
図2】治療プロセスにおける体重の変化を示すグラフ。
【
図3】生理食塩水またはレプチン投与15時間後の摂餌量を示すグラフ。
【
図4】生理食塩水またはレプチン投与24時間後の摂餌量を示すグラフ。
【
図5】生理食塩水投与14時間後、4日目レプチン投与14時間後および5日目レプチン投与14時間後の摂餌量を示すグラフ。
【
図6】生理食塩水投与24時間後、4日目レプチン投与24時間後および5日目レプチン投与24時間後の摂餌量を示すグラフ。
【
図7】生理食塩水投与14時間後、4日目および5日目のレプチン投与14時間後の摂餌量の減少率を示すグラフ。
【
図8】生理食塩水およびレプチン投与時の体重の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、レプチン抵抗性改善剤を提供する。
【0019】
本明細書において、「レプチン抵抗性」とは、対象における通常の状態と比較してレプチンの作用が減弱した状態を意味し、対象にレプチンを投与しても摂食量(摂餌量)が変化しない状態をいう。通常の状態において、ヒトなどの哺乳動物において脂肪組織からレプチンが分泌されるか、あるいはレプチンを投与すると、食欲が減退するとともにエネルギー消費が増大し、体重が減少する。しかし、レプチン抵抗性の場合、レプチンに対する感受性が低下し、レプチンを投与しても食欲の減退が生じず、体重の減少が全くあるいはほとんど起こらない。本明細書において、「レプチン抵抗性を改善する」ことには、対象においてレプチンを投与したときに、レプチンを投与していない状態と比較して食欲が減少することおよび摂食量が減少することが含まれる。
【0020】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、レプチン抵抗性を示すヒトまたは非ヒト動物において、レプチン抵抗性改善剤を投与後、かつ体重および/または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性を改善する。「体重および/または脂肪量が減少する前」とは、「本発明のレプチン抵抗性改善剤の投与前の体重および/または脂肪量と比較して、体重および/または脂肪量の有意な減少がみられる前」と言い換えることができる。
【0021】
レプチン抵抗性は、脂肪組織の減少によって自然に改善する場合があることが知られている。しかし、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、体重および/または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性を改善するため、脂肪組織の減少による改善効果の恩恵を受けることなく、効果を発揮することができる。このように、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、従来の改善剤とは異なり、脂肪組織が減少する前、すなわち痩せる前にレプチン抵抗性を改善し、食欲を正常にすることができる。そのため、食欲が自然に低下し、摂食量が自然に低下するため、無理なく痩せることができる。
【0022】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、防風通聖散を有効成分として含有する。
【0023】
本発明に用いる防風通聖散は、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウおよびカッセキの各生薬によって構成されることができる。
【0024】
防風通聖散における各生薬の分量は、トウキ1.2~1.5重量部、シャクヤク1.2~1.5重量部、センキュウ1.2~1.5重量部、サンシシ1.2~1.5重量部、レンギョウ1.2~1.5重量部、ハッカ1.2~1.5重量部、ショウキョウ0.3~0.5重量部、ケイガイ1.2~1.5重量部、ボウフウ1.2~1.5重量部、マオウ1.2~1.5重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2重量部およびカッセキ3重量部であることができる。
【0025】
本発明において、防風通聖散は、上記生薬の混合物または該混合物から得られた抽出物(エキス)等であることができる。各生薬は、植物そのもの、乾燥して刻んだものまたは粉末としたもの等を用いることができる。抽出物は、公知の方法により調製することができ、たとえば抽出溶媒を用いて常温抽出または加熱抽出することにより調製することができる。必要により、減圧または加圧下で抽出してもよい。得られた抽出エキスは、そのまま使用してもよいし、濃縮または凍結乾燥によって乾固させてから使用してもよい。
【0026】
抽出物は、抽出溶媒を用いて抽出した後に、加水分解を行ってもよい。加水分解は、従来公知の任意の方法を用いて行うことができる。また、抽出溶媒を用いて抽出する前に、酵素分解を行ってもよい。酵素分解は、従来公知の任意の方法を用いて行うことができる。
【0027】
抽出物は、抽出溶媒を用いて抽出した後に、濾過、遠心分離および/またはデカンテーション等により固形物を除去したものであることができる。濾過、遠心分離およびデカンテーションは、従来公知の任意の方法を用いて行うことができる。
【0028】
抽出溶媒には、水、生理食塩水、アルコール類(たとえば、メタノール、無水エタノール、エタノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール)、アセトン等のケトン類、エチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類、キシレン、ベンゼンおよびクロロホルム等を用いることができる。なかでも、抽出溶媒として水、メタノールおよびエタノール等のアルコール類またはこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。上述した抽出溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
抽出物は、必要に応じてpHを調整し、ゲル濾過および/または限外濾過にて高分子を除去しても活性が失われることはない。また、抽出物またはその分画成分は、減圧濃縮、限外濾過および/または凍結濃縮等の方法により濃縮してもよい。抽出物は、凍結乾燥、噴霧乾燥および/または平板乾燥等の方法により乾燥した乾燥物、たとえば粉末であってもよい。
【0030】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、任意の形態の製剤であることができる。本発明のレプチン抵抗性改善剤は、経口投与製剤として、たとえば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤;トローチ剤;丸剤;散剤;硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤;顆粒剤;ならびに懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤等の液剤などであることができる。
【0031】
また、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの非経口投与製剤であることができる。本発明のレプチン抵抗性改善剤は、たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0032】
また、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、食用に適した形態であることができ、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状およびペースト状などであってもよい。
【0033】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、医薬品、医薬部外品および食品に通常用いられる任意の成分をさらに含むことができる。たとえば、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含んでもよい。
【0034】
本発明のレプチン抵抗性改善剤に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0035】
結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0036】
崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0037】
滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。着色剤は、医薬品、医薬部外品および食品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0038】
また、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0039】
また、本発明のレプチン抵抗性改善剤は、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、希釈剤、コーティング剤、甘味剤、香料および可溶化剤などを添加してもよい。
【0040】
本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤を対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法を提供する。本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法を提供する。
【0041】
本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤を対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法であって、レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、改善方法を提供する。本発明はまた、防風通聖散を有効成分として含有するレプチン抵抗性改善剤をヒト以外の対象に投与する、レプチン抵抗性の改善方法であって、レプチン抵抗性改善剤を対象に投与後、かつ対象の体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性が改善される、改善方法を提供する。
【0042】
本発明のレプチン抵抗性改善剤の用量は、レプチン抵抗性改善効果を充分に発揮することができる量であればよく、適用する対象、目的および投与方法(摂取方法)に応じて適宜設定することができる。たとえばヒトに経口摂取させる場合、好ましくは、防風通聖散エキスの1日あたりの摂取量が固形分基準で0.001~10質量%となる量であることができ、好ましくは0.1~2質量%となる量であることができる。服用頻度は、1日1~3回の頻度であることができる。服用のタイミングは、特に限定されず、食前、食後または食間であることができ、好ましくは食前のタイミングで服用することができる。
【0043】
本発明のレプチン抵抗性改善剤が適用される対象は、特に限定されず、レプチン抵抗性を示すヒトまたは非ヒト動物であることができる。非ヒト動物には、たとえば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルおよびチンパンジー等の哺乳類が含まれる。
【0044】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、特に限定されないが、肥満症の患者または肥満の対象に対して、肥満症の改善の目的で使用することができる。本発明のレプチン抵抗性改善剤は、特に限定されないが、血中レプチン濃度が高値の対象に適用することができ、たとえば血中レプチン濃度が100ng/ml以上を示す対象に適用することができる。本発明のレプチン抵抗性改善剤は、特に血中レプチン濃度が300~700ng/mlの異常高値を示す対象、たとえばレプチン受容体異常症の患者に適用してもよい。
【実施例0045】
〔実施例1〕
防風通聖散エキスは、自社において、一般的な製造方法を用いて各生薬を抽出、濃縮、殺菌および噴霧乾燥することにより調製した。
【0046】
〔試験例1:体重および摂餌量の変化〕
(1.実験材料)
[動物]
雄性C57BL/6JJmsSlc(雄4週齢)50匹を日本SLC株式会社より購入し、自由給水および給餌下にて飼育した。
【0047】
[薬剤]
マウス-レプチン(R&D systems)(lot. VU8021041)は、滅菌した20mMTris-HClに溶解後、投与直前に終濃度0.9%NaClになるように9%NaClを加えた。
【0048】
高脂肪高ショ糖食F2HFHSD(タンパク質17.2%、カロリー比;脂肪54.5%;炭水化物28.3%)は、オリエンタル酵母工業株式会社から入手した。
【0049】
防風通聖散(以下、「BOF」ともいう。)は、実施例1で調製したものを用いた。
【0050】
(2.試験結果)
本試験では、肥満期間(肥満プロセス)を経て、レプチン抵抗性となったかを確認した後、防風通聖散エキスによる治療プロセスを行い、治療効果を確認した。
【0051】
マウスは、表1に示すように、通常食群、未治療群およびF2HFHSD+防風通聖散混餌3%群(BOF3%群)の3つの群に群分けした(n=8~10)。肥満プロセスでは、通常食群に通常食(CE-2;日本クレア(株);3.4kcal/g)を、未治療群およびBOF3%群に高脂肪高ショ糖食F2HFHSD(6.7kcal/g)を給餌した。試験開始13週目から個飼し、16週目から専用給餌器で飼育した。体重は少なくとも週1回に測定し、摂餌量は専用給餌器の馴化が完了した19週目より少なくとも週1回測定した。
【0052】
肥満プロセスにおける体重の変化を
図1および表2に示す。F2HFHSDを給餌した群では、F2HFHSD給餌7週目より通常食群と比較して有意に体重が増加した。下記試験例2に示すように、レプチン感受性評価試験を行い、F2HFHSDを給餌した群ではレプチン抵抗性が発症していることを確認した。
【0053】
【0054】
【0055】
レプチン抵抗性発症を確認後、2日間の休息期間の後、未治療群にはそのままF2HFHSDを給餌し、BOF3%群には、F2HFHSD+防風通聖散混餌3%を給餌した(治療プロセス)。治療プロセス開始後2週間にわたって、体重は週5日、摂餌量は週4日測定した。
【0056】
治療プロセスにおける体重の変化を
図2および表3に示す。BOF3%群では、通常食群、未治療群と同様に、体重減少がほとんどみられなかった。また、BOF3%群の摂餌量減少はほとんどみられなかった(図示せず)。
【0057】
【0058】
〔試験例2:レプチン感受性評価試験〕
防風通聖散による治療前および治療後のそれぞれにおいて、レプチン感受性を評価した。
【0059】
[治療前]
レプチン投与2日前より馴化を目的として生理食塩水を腹腔内投与し、15時間後および24時間後の摂餌量を測定した。3日目にレプチン(5 mg/kg, i.p.)を投与し、同様に15時間後および24時間後の摂餌量を測定した。
【0060】
図3および表4は、レプチン投与前の生理食塩水投与15時間後(Saline)またはレプチン投与15時間後(Leptin)の摂餌量を示し、
図4および表5は、レプチン投与前の生理食塩水投与24時間後(Saline)またはレプチン投与24時間後(Leptin)の摂餌量を示す。通常食群では、レプチン投与によって、レプチン投与前(生理食塩水投与)と比較して有意に摂餌量が減少した(15時間後、約27.6%減少;24時間後:約18.8%減少)ことから、試験系が機能していることが確認された。一方、高脂肪高ショ糖食を給餌した群(未治療群およびBOF3%群)では、レプチン投与によって摂餌量の減少は認められず、レプチン抵抗性を発症していることが確認された。
【0061】
【0062】
【0063】
[治療後]
レプチン投与3日前(治療13日目)より生理食塩水を腹腔内投与し、14時間後および24時間後の摂餌量を測定した。4日目および5日目にレプチン(5mg/kg, i.p.)を投与し、同様に14時間後、24時間摂餌量を測定した。
【0064】
図5および表6は、生理食塩水投与14時間後(saline)、4日目にレプチン1回目投与した後の14時間後(Leptin(左))および5日目にレプチン2回目投与した後の14時間後(Leptin(右))の摂餌量を示す。
図6および表7は、生理食塩水投与24時間後(saline)、4日目レプチン1回目投与した後の24時間後(Leptin(左))および5日目にレプチン2回目投与した後の24時間後(Leptin(右))の摂餌量を示す。
【0065】
図7および表8は、4日目のレプチン1回目投与した後の14時間後、および5日目のレプチン2回目投与した後の14時間後の摂餌量の減少率を示す。なお、摂餌量減少率は、(レプチン投与後摂餌量-レプチン投与前摂餌量)÷レプチン投与前摂餌量×100にて算出した。
【0066】
図5~7に示すように、通常食およびBOF3%群(3%BOF群)において、レプチン投与によって生理食塩水投与時と比較して摂餌量が有意に減少した。生理食塩水投与14時間後と比較して、4日目レプチン投与14時間後では、通常食群は約20.4%、BOF3%群は約19.5%、5日目レプチン投与14時間後では、通常食群は約27.6%、BOF3%群は約37.5%、摂餌量が減少した。一方、未治療群では、摂餌量の減少はほとんど認められなかった。この結果から、BOF3%群では、レプチン抵抗性が改善したことが示された。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
図8および表9は、生理食塩水およびレプチン投与時の体重の推移を示す。
図8に示すように、BOF3%群(3%BOF群)の体重は、未治療群と有意な差はみられなかった。したがって、BOF3%群では、体重の減少を伴わずに、すなわち脂肪量の減少を伴わずにレプチン抵抗性が改善したと考えられる。これらの結果から、防風通聖散は、体重減少すなわち脂肪量減少を介さずに、レプチンに対する感受性を改善する作用を有することが示唆された。
【0071】
本発明のレプチン抵抗性改善剤は、体重または脂肪量が減少する前にレプチン抵抗性を改善することができるため、より優れたレプチン抵抗性改善剤として使用することができる。