(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062502
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】低温ガス用タンク、低温ガス用タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/00 20060101AFI20240501BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23K9/00 501L
B23K9/23 C
B23K9/23 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170366
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亨尚
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊之
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001CA02
4E001DC00
4E001DF05
4E081YL04
4E081YL07
4E081YX02
4E081YX08
(57)【要約】
【課題】溶接部において十分な靱性を確保する。
【解決手段】低温ガス用タンクは、-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンクであって、炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材と、複数のタンク板材同士が溶接された溶接部と、を備え、溶接部を形成する溶接材料は、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンクであって、
炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材と、
複数の前記タンク板材同士が溶接された溶接部と、を備え、
前記溶接部を形成する溶接材料は、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料である低温ガス用タンク。
【請求項2】
前記溶接材料は、前記タンク板材とは異種金属である
請求項1に記載の低温ガス用タンク。
【請求項3】
前記溶接材料は、前記タンク板材よりも、ニッケルを多く含む
請求項1又は2に記載の低温ガス用タンク。
【請求項4】
前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを30~80%含有する
請求項1又は2に記載の低温ガス用タンク。
【請求項5】
前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを40~75%含有する
請求項4に記載の低温ガス用タンク。
【請求項6】
前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを50~70%含有する
請求項5に記載の低温ガス用タンク。
【請求項7】
前記高マンガン鋼用の溶接材料は、マンガンを11%以上含む高マンガン鋼を溶接するための溶接材料である
請求項1又は2に記載の低温ガス用タンク。
【請求項8】
前記タンク板材は、引張強さが590N/mm2を超える鋼材である
請求項1又は2に記載の低温ガス用タンク。
【請求項9】
-10℃~-80℃で貯蔵される液化ガスを貯留する低温ガス用タンクの製造方法であって、
炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材を準備する工程と、
前記タンク板材同士を、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料、を用いて継手溶接する工程と、
を含む低温ガス用タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温ガス用タンク、低温ガス用タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を用いて製造される各種の物品においては、物品に応じた所要の強度と靭性とを備えることが要求されている。例えば、特許文献1には、降伏強度500N/mm2以上かつ引張強度610N/mm2以上である高強度の鋼材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、貨物温度が-10℃以下となるような低温の液化ガスを収容するタンクでは、タンクを形成する材料の厚さ、強度、靭性等が、規則によって定められている。このため、タンクを構成する鋼製の板材同士を接合する溶接部においても、所要の靱性を確保することが要求されている。特に舶用のタンクでは、脆性破壊防止の観点から、溶接後に熱処理を実施して溶接残留応力を除去することが規則上要求される場合がある。しかし、この熱処理後に溶接部の靭性が低下してしまう可能性が有る。そのため、鋼製の板材に、特許文献1に開示されたような鋼材を用いたとしても、溶接部においては所要の靱性が確保できない可能性がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、溶接部において十分な靱性を確保することができる低温ガス用タンク、低温ガス用タンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る低温ガス用タンクは、-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンクである。前記低温ガス用タンクは、複数のタンク板材と、溶接部と、を備えている。前記複数のタンク板材は、炭素マンガン鋼からなる。前記溶接部は、複数の前記タンク板材同士が溶接されている。前記溶接部を形成する溶接材料は、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料である。
【0007】
本開示に係る低温ガス用タンクの製造方法は、-10℃~-80℃で貯蔵される液化ガスを貯留する低温ガス用タンクの製造方法である。前記低温ガス用タンクの製造方法は、タンク板材を準備する工程と、継手溶接する工程と、を含む。前記タンク板材を準備する工程は、炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材を準備する。前記継手溶接する工程は、前記タンク板材同士を、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料、を用いて継手溶接する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の低温ガス用タンク、低温ガス用タンクの製造方法によれば、溶接部において十分な靱性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る低温ガス用タンクの断面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る低温ガス用タンクを構成する鋼製の板材同士の溶接部を示す断面図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る溶接部の溶接材料と、一般的なタンク板材と同系の金属からなる溶接材料との靱性(シャルピー衝撃試験における吸収エネルギー値)を比較する図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る低温ガス用タンクの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る低温ガス用タンク、低温ガス用タンクの製造方法について、
図1~
図4を参照して説明する。
(低温ガス用タンクの構成)
図1に示すように、この実施形態の低温ガス用タンク1は、例えば液化二酸化炭素等の-10℃~-80℃の液化ガスを貯留可能な低温ガス用タンクである。低温ガス用タンク1は、例えば、液化天然ガス(LNG)等の-160℃以下の液化ガスを貯留可能な極低温ガス用タンクとは異なる。
【0011】
低温ガス用タンク1は、船舶の船体、洋上浮体設備の浮体本体、陸上の液化ガス貯蔵施設等に設置される。本実施形態で例示する低温ガス用タンク1は、円筒状をなしている。この低温ガス用タンク1は、筒状部2と、鏡板部3と、を備えている。筒状部2は、その中心軸方向Dcに延びている。この実施形態において、筒状部2は、円筒状に形成され、その中心軸方向Dcに直交する断面形状が円形をなしている。鏡板部3は、筒状部2の中心軸方向Dcの両端部にそれぞれ配置されている。各鏡板部3は、半球等の球面状をなし、筒状部2の中心軸方向Dcの開口を閉塞している。なお、低温ガス用タンク1は、円筒状に限られるものではなく、球形、方形等、他の形状であってもよい。
【0012】
図2は、本開示の実施形態に係る低温ガス用タンクを構成する鋼製の板材同士の溶接部を示す断面図である。
図2に示すように、低温ガス用タンク1は、複数枚の鋼製のタンク板材20を継手溶接することによって形成されている。低温ガス用タンク1を構成するタンク板材20は、JIS-G3128やJIS-G3140、あるいはその他の同等な規格で規定されるような、規格最小引張強さが590N/mm
2から940N/mm
2の鋼材により形成されている。タンク板材20は、高張力鋼板(いわゆるハイテン材)により形成されている。このようなタンク板材20としては、炭素マンガン鋼が例示できる。炭素マンガン鋼は、炭素(C)、マンガン(Mn)、を少なくとも含んでいる。炭素マンガン鋼は、例えば、炭素を0.2%以下、マンガンを2.0%以下含んでいる。
【0013】
本実施形態において、タンク板材20同士は、V形開先である断面V字状の開先部21Vを有している。開先部21Vにおいて、互いに対向するタンク板材20の端部20aのそれぞれは、傾斜面20sを有している。互いに対向するタンク板材20の傾斜面20s同士は、板厚方向Dtの第一側Dt1の表面20fから、板厚方向Dtの第二側Dt2の表面20gに向かって、対向方向Daにおける間隔が漸次接近するよう形成されている。開先部21Vは、タンク板材20同士の対向方向Da、及びタンク板材20の板厚方向Dtに直交する方向(
図2の紙面に直交する方向)に延びている。なお、本実施形態では、開先部21VがV形開先である場合を例示したが、V形開先に限られず、X型開先等であってもよい。
【0014】
互いに対向するタンク板材20の端部20a同士は、溶接部30を介して接合されている。溶接部30は、タンク板材20の端部20a同士の間に形成されている。溶接部30を形成する溶接材料は、タンク板材20とは異種金属である。一般的には、溶接部30を形成する溶接材料としては、タンク板材20と同系の共材の金属、すなわち炭素、及びマンガンを含む共材の溶接材料が用いられる。この実施形態では、溶接部30の溶接材料は、例えば、9%ニッケル鋼用の溶接材料である。9%ニッケル鋼用の溶接材料は、タンク板材20よりもニッケル(Ni)を多く含む。また、溶接部30は、タンク板材20とは異なりオーステナイト組織を有する。
【0015】
溶接部30の溶接材料が9%ニッケル鋼用の溶接材料である場合、この溶接材料は、ニッケルを30~80%含有し、残部にモリブデン、クロム、及び、鉄を含む。さらに残部には、モリブデン、クロム、及び、鉄に加えて、ニオブを含んでいてもよい。ここで、溶接部30の溶接材料が9%ニッケル鋼用の溶接材料である場合、ニッケルの含有量は、40~75%にするのが好ましい。また、溶接部30の溶接材料が9%ニッケル鋼用の溶接材料である場合、ニッケルの含有量は、50~70%であるのがより好ましい。このような9%ニッケル鋼用の溶接材料としては、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等が例示できる。
【0016】
このような溶接部30では、溶接後に、予め設定された条件で溶接部30の残留応力低減のための熱処理が施される。
【0017】
図3は、本開示の実施形態に係る溶接部の溶接材料と、一般的なタンク板材と同系の金属からなる溶接材料との靱性(シャルピー衝撃試験における吸収エネルギー値)を比較する図である。
図3に示すように、タンク板材20よりもニッケルを多く含む溶接部30の溶接材料(9%ニッケル鋼用の溶接材料)は、タンク板材20よりもニッケル(Ni)を多く含まない溶接材料(一般的な、タンク板材の同系の金属からなる共金の溶接材料)に比較し、シャルピー衝撃試験における規定温度での吸収エネルギー値が高い。シャルピー衝撃試験は、溶接部30の試験片に対してハンマーで衝撃を与えて試験片を破壊し、試験片を破壊するために要したエネルギーの大きさを、吸収エネルギー値として取得し、靱性を評価するものである。
【0018】
また、溶接部30の溶接材料(9%ニッケル鋼用の溶接材料)は、タンク板材20よりもニッケル(Ni)を多く含まない溶接材料(一般的な、タンク板材の同系の金属からなる共金の溶接材料)に比較し、溶接後の熱処理を経た後においても、シャルピー衝撃試験における規定温度での吸収エネルギー値が高い。
【0019】
(低温ガス用タンク製造方法の手順)
図4は、本開示の実施形態に係る低温ガス用タンク製造方法の手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、本開示の実施形態に係る低温ガス用タンク1の製造方法S10は、タンク板材20を準備する工程S11と、継手溶接する工程S12と、熱処理を行う工程S13と、を含んでいる。
【0020】
タンク板材20を準備する工程S11では、低温ガス用タンク1を形成するため、炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材20を準備する。
【0021】
継手溶接する工程S12では、
図2に示すように、互いに対向するタンク板材20の端部20a同士の間に、上記したようなタンク板材20よりもニッケル(Ni)を多く含む溶接部30の溶接材料を用い、アーク溶接等により継手溶接を行う。これにより、溶接部30を介してタンク板材20同士が接合される。ここで、この継手溶接する工程S12では、継手溶接の手法としてアーク溶接を例示したが、ホットワイヤ法やレーザ溶接であってもよい。これらホットワイヤ法やレーザ溶接により継手溶接を行った場合、溶接部30への入熱を抑えることができる。これにより、溶接部30の金属が、タンク板材20(母材)の成分によって希釈されて、溶接部30の金属の特性低下、溶接部30の周囲のタンク板材20への熱影響範囲をそれぞれ抑えることができる。
【0022】
熱処理を行う工程S13では、溶接部30に対し、予め設定された条件で熱処理を行う。熱処理を行う工程S13では、熱処理を、溶接部30、及びその周囲の熱影響範囲に対して局所的に行ってもよいし、低温ガス用タンク1の全体に対して行ってもよい。工程S13における熱処理によってなされた入熱により、溶接部30、及びその周囲の熱影響範囲の残留応力が緩和される。
【0023】
(作用効果)
上記実施形態の低温ガス用タンク1、低温ガス用タンク1の製造方法S10では、溶接部30を形成する溶接材料が、9%ニッケル鋼用の溶接材料である。-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1においては、タンク板材20に、590N/mm2を越える引張強さが要求され、炭素、及びマンガンを含む高張力鋼板が用いられる。一般的には、溶接部30を形成する溶接材料としては、タンク板材20と同系の炭素、及びマンガンを含む共材の溶接材料が用いられるが、このような溶接材料は、溶接後に熱処理を行った場合、靱性が低下する場合がある。これに対し、9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接材料が、9%ニッケル鋼用の溶接材料を用いて形成された溶接部30を、溶接後に熱処理しても、熱処理によって低下した後の靱性が、共材の溶接材料よりも高くなる。したがって、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0024】
また、上記実施形態では、溶接材料を、タンク板材20と異種金属とすることで、靱性の高い溶接材料を選定することができ、熱処理後においても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0025】
また、上記実施形態では、溶接材料は、タンク板材20よりも、ニッケルを多く含む。タンク板材20よりもニッケルを多く含む溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0026】
さらに、上記実施形態では、9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを30~80%含有している。ニッケルを30~80%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0027】
また、上記実施形態では、9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを40~75%含有している。ニッケルを40~75%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して特に高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0028】
さらに、上記実施形態では、9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを50~70%含有している。ニッケルを50~70%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較してより一層高くなる。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0029】
また、上記実施形態では、引張強さが590N/mm2を超える鋼材をタンク板材20とすることで、-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1において、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0030】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
上記実施形態では、溶接部30の溶接材料として、9%ニッケル鋼用の溶接材料を中心に例示したが、溶接部30の溶接材料として、高マンガン鋼用の溶接材料を用いることもできる。高マンガン鋼用の溶接材料とは、マンガンを11%以上含む高マンガン鋼を溶接するための溶接材料である。具体的には、高マンガン鋼用の溶接材料は、マンガンを15%以上含有している。高マンガン鋼用の溶接材料は、マンガンの含有量を15~30%にすることが好ましく、マンガンの含有量を18~27%にすることがより好ましい。この高マンガン鋼用の溶接材料により形成される溶接部30は、炭素マンガン鋼からなるタンク板材20とは異なりオーステナイト組織を有する。
【0031】
高マンガン鋼用の溶接材料は、タンク板材20と共材の溶接材料に比較して、残留応力を緩和させるための熱処理を施す前の靱性が高い。このため、高マンガン鋼用の溶接材料による溶接後に溶接部30を熱処理しても、上述した9%ニッケル鋼用の溶接材料と同様に、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0032】
<付記>
実施形態に記載の低温ガス用タンク1、低温ガス用タンク1の製造方法S10は、例えば以下のように把握される。
【0033】
(1)第1の態様に係る低温ガス用タンク1は、-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1であって、炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材20と、複数の前記タンク板材20同士が溶接された溶接部30と、を備え、前記溶接部30を形成する溶接材料は、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料である。
【0034】
この低温ガス用タンク1は、溶接部30を形成する溶接材料が、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料である。-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1においては、タンク板材20に、590N/mm2を越える引張強さが要求され、炭素、及びマンガンを含む高張力鋼板が用いられる。一般的には、溶接部30を形成する溶接材料としては、タンク板材20と同系の炭素、及びマンガンを含む共材の溶接材料が用いられるが、このような溶接材料は、溶接後に熱処理を行った場合、靱性が大きく低下する。これに対し、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接材料が、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料を用いて形成された溶接部30を、溶接後に熱処理しても、熱処理によって低下した後の靱性が、共材の溶接材料よりも高くなる。したがって、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0035】
(2)第2の態様に係る低温ガス用タンク1は、(1)の低温ガス用タンク1であって、前記溶接材料は、前記タンク板材20とは異種金属である。
【0036】
これにより、溶接材料を、タンク板材20と異種金属とすることで、熱処理後においても、靱性の高い溶接材料を選定することができ、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0037】
(3)第3の態様に係る低温ガス用タンク1は、(1)又は(2)の低温ガス用タンク1であって、前記溶接材料は、前記タンク板材20よりも、ニッケルを多く含む。
【0038】
これにより、タンク板材20よりもニッケルを多く含む溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0039】
(4)第4の態様に係る低温ガス用タンク1は、(1)から(3)の何れか一つの低温ガス用タンク1であって、前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを30~80%含有する。
【0040】
これにより、ニッケルを30~80%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0041】
(5)第5の態様に係る低温ガス用タンク1は、(4)の低温ガス用タンク1であって、前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを40~75%含有する。
【0042】
これにより、ニッケルを40~75%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して特に高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0043】
(6)第6の態様に係る低温ガス用タンク1は、(5)の低温ガス用タンク1であって、前記9%ニッケル鋼用の溶接材料は、ニッケルを50~70%含有する。
【0044】
これにより、ニッケルを50~70%含有する9%ニッケル鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較してより一層高くなる。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0045】
(7)第7の態様に係る低温ガス用タンク1は、(1)から(3)の何れか一つの低温ガス用タンク1であって、前記高マンガン鋼用の溶接材料は、マンガンを11%以上含む高マンガン鋼を溶接するための溶接材料である。
【0046】
これにより、マンガンを11%以上含む高マンガン鋼用の溶接材料は、熱処理前の靱性が、共材の溶接材料に比較して高い。このため、溶接後に溶接部30を熱処理しても、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0047】
(8)第8の態様に係る低温ガス用タンク1は、(1)から(7)の何れか一つの低温ガス用タンク1であって、前記タンク板材20は、引張強さが590N/mm2を超える鋼材である。
【0048】
これにより、引張強さが590N/mm2を超える鋼材をタンク板材20とすることで、-10℃~-80℃の液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1において、溶接部30において十分な靱性を確保することが可能となる。
【0049】
(9)第9の態様に係る低温ガス用タンク1の製造方法S10は、-10℃~-80℃で貯蔵される液化ガスを貯留する低温ガス用タンク1の製造方法S10であって、炭素マンガン鋼からなる複数のタンク板材20を準備する工程S11と、前記タンク板材20同士を、9%ニッケル鋼用の溶接材料、又は高マンガン鋼用の溶接材料、を用いて継手溶接する工程S12と、を含む。
【0050】
この低温ガス用タンク1の製造方法S10は、溶接部30において十分な靱性を確保することができる低温ガス用タンク1を製造することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…低温ガス用タンク 2…筒状部 3…鏡板部 20…タンク板材 20a…端部 20f,20g…表面 20s…傾斜面 21V…開先部 30…溶接部 Da…対向方向 Dc…中心軸方向 Dt…板厚方向 Dt1…第一側 Dt2…第二側 S10…製造方法 S11…タンク板材を準備する工程 S12…継手溶接する工程 S13…熱処理を行う工程