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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062503
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20240501BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20240501BHJP
   B23K 37/08 20060101ALI20240501BHJP
   B24B 9/04 20060101ALI20240501BHJP
   B65D 88/06 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K9/00 501L
B23K37/08 D
B24B9/04 C
B65D88/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170369
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亨尚
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊之
【テーマコード(参考)】
3C049
3E170
4E081
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049CA01
3C049CB01
3C049CB06
3E170AA03
3E170AB29
3E170DA01
3E170KA05
3E170KA08
3E170KC01
3E170VA20
4E081YL01
4E081YX02
(57)【要約】
【課題】溶接部全体で、より均一に靱性を高める。
【解決手段】タンクの製造方法は、タンクを構成する鋼製の板材を継手溶接することでタンクを製造するタンクの製造方法であって、互いに対向する板材の端部同士の間に、板材の表面側に向かって複数の溶接層が順次積層されるように溶接を行う工程と、下層の溶接層に対して上層の溶接層が積層されるに先立ち、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクを構成する鋼製の板材を継手溶接することで前記タンクを製造するタンクの製造方法であって、
互いに対向する前記板材の端部同士の間に、前記板材の表面側に向かって複数の溶接層が順次積層されるように溶接を行う工程と、
下層の前記溶接層に対して上層の前記溶接層が積層されるに先立ち、前記下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程と、
を含むタンクの製造方法。
【請求項2】
前記溶接を行う工程では、前記下層の溶接層に対して前記上層の溶接層を溶接により積層する際、前記上層の溶接層からの入熱により、前記表層部の一部が除去された前記下層の溶接層を再熱する
請求項1に記載のタンクの製造方法。
【請求項3】
前記下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程では、前記下層の溶接層に対して前記上層の溶接層を積層した際に、前記上層の溶接層からの入熱による再熱範囲が、前記表層部の一部を除去した後の前記下層の溶接層の全体に及ぶよう、前記下層の溶接層の表層部の一部を除去する
請求項1又は2に記載のタンクの製造方法。
【請求項4】
前記下層の溶接層に対して前記上層の溶接層を積層した際に、前記上層の溶接層からの入熱による、前記下層の溶接層における再熱範囲を取得する工程と、
前記再熱範囲を取得する工程で取得された前記再熱範囲に基づき、前記下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程で、前記下層の溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程と、を更に含む
請求項1又は2に記載のタンクの製造方法。
【請求項5】
複数の前記溶接層のうち,最も前記板材の前記表面側に位置する前記溶接層の少なくとも一部を除去する
請求項1又は2に記載のタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料を用いて製造される各種の物品においては、物品に応じた所要の強度と靭性とを備えることが要求されている。例えば、特許文献1には、鋼板の多層盛突合せ溶接継手において、表面溶接層と裏面溶接層間に、超音波打撃処理により圧縮残留応力が付与されて靭性が向上した改質層を形成する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-229692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、貨物温度が-10℃以下となるような低温の液化ガスを収容するタンクでは、タンクを形成する材料の厚さ、強度、靭性等が、規則によって定められている。このため、タンクを構成する鋼製の板材同士を接合する溶接部においても、所要の靱性を確保することが要求されている。これに対し、特許文献1に開示されたような構成により、靱性が向上した改質層を形成したとしても、改質層以外の部分では、靱性が向上していない可能性がある。溶接部の靱性を高めるには、溶接部全体で、より均一に靱性を高めることが望まれる。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、溶接部全体で、より均一に靱性を高めることができるタンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るタンクの製造方法は、タンクを構成する鋼製の板材を継手溶接することで前記タンクを製造するタンクの製造方法である。前記タンクの製造方法は、溶接を行う工程と、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程と、を含む。前記溶接を行う工程は、互いに対向する前記板材の端部同士の間に、前記板材の表面側に向かって複数の溶接層が順次積層されるように溶接を行う。下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程は、下層の前記溶接層に対して上層の前記溶接層が積層されるに先立ち、下層の溶接層の表層部の一部を除去する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のタンクの製造方法によれば、溶接部全体で、より均一に靱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係るタンクの製造方法により製造されたタンクの断面図である。
図2】本開示の実施形態に係るタンクを構成する鋼製のタンク板材同士の溶接部を示す断面図である。
図3】本開示の実施形態に係るタンクの製造方法の手順を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施形態に係るタンクの製造方法の、溶接層における再熱範囲を取得する工程、溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程を、模式的に示す図である。
図5】本開示の実施形態に係る溶接を行う工程により、一層目の溶接層を形成した状態を示す図である。
図6】本開示の実施形態に係る下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程により、一層目の溶接層の表層部の一部を除去した状態を示す図である。
図7】本開示の実施形態に係る溶接を行う工程により、二層目の溶接層を形成した状態を示す図である。
図8】本開示の実施形態に係る下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程により、二層目の溶接層の表層部の一部を除去した状態を示す図である。
図9】本開示の実施形態に係る最表層の溶接層を形成する工程により、最表層の溶接層を形成した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態に係るタンクの製造方法について、図1図9を参照して説明する。
(タンクの構成)
図1に示すように、この実施形態のタンク1は、例えば液化二酸化炭素等の液化ガスを貯留可能なタンクである。船舶の船体、洋上浮体設備の浮体本体、陸上の液化ガス貯蔵施設等に設置される。本実施形態で例示するタンク1は、タンク1は、円筒状をなしている。タンク1は、筒状部2と、鏡板部3と、を備えている。筒状部2は、その中心軸方向Dcに延びている。この実施形態において、筒状部2は、円筒状に形成され、その中心軸方向Dcに直交する断面形状が円形をなしている。鏡板部3は、筒状部2の中心軸方向Dcの両端部にそれぞれ配置されている。各鏡板部3は、半球等の球面状をなし、筒状部2の中心軸方向Dcの開口を閉塞している。なお、タンク1は、円筒状に限られるものではなく、球形、方形等、他の形状であってもよい。
【0010】
図2は、本開示の実施形態に係るタンクを構成する鋼製の板材同士の溶接部を示す断面図である。
図2に示すように、タンク1は、複数枚の鋼製の板材20を継手溶接することによって形成されている。タンク1を構成する板材20は、例えば、高強度調質鋼等の金属材料により形成されている。この実施形態において、板材20の板厚方向Dtにおける厚さは、例えば、10~100mm程度である。
【0011】
この実施形態の板材20同士は、V形開先である断面V字状の開先部21Vを有している。開先部21Vにおいて、互いに対向する板材20の端部20aのそれぞれは、傾斜面20sを有している。互いに対向する板材20の傾斜面20s同士は、板厚方向Dtの第一側Dt1の表面20fから、板厚方向Dtの第二側Dt2の表面20gに向かって、板材20同士の対向する対向方向Daにおける間隔を漸次接近させるように形成されている。開先部21Vは、板材20同士の対向方向Da、及び板材20の板厚方向Dtに直交する方向(図2の紙面に直交する方向)に延びている。
【0012】
互いに対向する板材20の端部20a同士は、溶接部30を介して接合されている。溶接部30は、板材20の端部20a同士の間に形成されている。溶接部30は、多層溶接により形成されている。多層溶接では、互いに対向する板材20の端部20a同士の間に、溶接を複数回繰り返すことで溶接部30が形成される。多層溶接は、1回あたりの溶接時における板材20への入熱量を抑える場合に好適である。
【0013】
溶接部30は、複数の溶接層31を有している。本実施形態では、溶接部30の溶接層31として、六つの溶接層311~316が形成される(図9参照)。なお、図2においては、六つの溶接層311~316のうち、五つの溶接層311~315のみが図示されている。溶接層311~316は、板厚方向Dtの第二側Dt2から板厚方向Dtの第一側Dt1の表面20fに向かって順に積層される。なお、複数の溶接層31の層数は、板材20の板厚等によって設定されるものであり、適宜変更可能である。
溶接層311~315のそれぞれの表層部31aの一部は、後に詳述するように、除去されている。
【0014】
(タンク製造方法の手順)
図3は、本開示の実施形態に係るタンクの製造方法の手順を示すフローチャートである。図4は、本開示の実施形態に係るタンクの製造方法の、溶接層における再熱範囲を取得する工程、溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程を、模式的に示す図である。
図3に示すように、本実施形態に係るタンク1の製造方法S10は、溶接層における再熱範囲を取得する工程S11と、溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程S12と、溶接を行う工程S13と、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14と、最表層の溶接層を形成する工程S15と、最表層の溶接層の少なくとも一部を除去する工程S16と、を含んでいる。
【0015】
溶接層における再熱範囲を取得する工程S11では、下層の溶接層31における再熱範囲を取得する。ここで、後述する溶接を行う工程S13では、板厚方向Dtの第二側Dt2から第一側Dt1に向かって、溶接を複数回繰り返すことで、溶接層311~315、及び最表層の溶接層316を順次積層して形成する。このとき、先行して形成される下層の溶接層31には、後から上層の溶接層31を溶接する際の溶接熱が入熱される。この溶接層における再熱範囲を取得する工程S11では、図4に示すように、下層の溶接層31Aに対して上層の溶接層31Bを積層した際に、上層の溶接層31Bからの入熱による、下層の溶接層31Aにおける再熱範囲Aを取得する。すなわち、上層の溶接層31Bによる入熱は、下層の溶接層31Aの全体に及ぶとは限らず、下層の溶接層31Aにおいて、上層の溶接層31Bと接触(実際には、一部重なり合う)する部分から、上層の溶接層31Bからの入熱が及ぶ範囲を、再熱範囲Aとして所得する。再熱範囲Aとは、上層の溶接層31Bからの入熱によって、下層の溶接層31Aの靱性が高まり、予め設定した基準以上に回復する領域である。
【0016】
溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程S12では、溶接層における再熱範囲を取得する工程S11で取得された再熱範囲Aに基づき、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲を設定する。下層の溶接層31の表層部31aの一部は、後に詳述する下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14で除去する。下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲は、この範囲を除去した後に残る下層の溶接層31の全体に対し、上層の溶接層31Bによる入熱により、靱性が基準以上に高まる(回復する)ように設定する。この実施形態では、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲を、下層の溶接層31において、再熱範囲A以外の範囲Bの板厚方向Dtにおける厚さTにより設定する。なお、表層部31aの除去は、例えば、ディスクグラインダー等の工具を用いた切削により行うことができる。
【0017】
溶接を行う工程S13では、互いに対向する板材20の端部20a同士の間で、溶接を行う。具体的には、板厚方向Dtの第二側Dt2から、互いに対向する板材20の傾斜面20s同士の間で、溶接部30の延びる方向(図2において紙面に直交する方向)に溶接を行う。
【0018】
下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14では、下層の溶接層31に対して上層の溶接層31が積層されるに先立ち、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する。下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14では、溶接を行う工程S13における溶接によって形成された溶接層31を、下層の溶接層31とする。下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14では、溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程S12で設定した寸法Tに基づき、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する。下層の溶接層31の表層部31aの一部の除去には、例えばグラインダーが用いられる。
【0019】
上記の溶接を行う工程S13と、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14とを所定回数繰り返すことで、溶接層311~315を順次積層して形成する。
【0020】
図5は、本開示の実施形態に係る溶接を行う工程により、一層目の溶接層を形成した状態を示す図である。図6は、本開示の実施形態に係る下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程により、一層目の溶接層の表層部の一部を除去した状態を示す図である。
具体的には、まず、図5に示すように、溶接を行う工程S13において、互いに対向する板材20の端部20a同士の間で、板厚方向Dtの第二側Dt2の位置で溶接を行うことで、一層目の溶接層311を形成する。次いで、図6に示すように、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14において、一層目の溶接層311(下層の溶接層31に相当)に対して二層目の溶接層312(上層の溶接層31に相当)が積層されるに先立ち、一層目の溶接層311の表層部31aの一部を、寸法Tだけ除去する。
【0021】
図7は、本開示の実施形態に係る溶接を行う工程により、二層目の溶接層を形成した状態を示す図である。図8は、本開示の実施形態に係る下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程により、二層目の溶接層の表層部の一部を除去した状態を示す図である。
次に、図7に示すように、溶接を行う工程S13において、互いに対向する板材20の端部20a同士の間で、一層目の溶接層311(下層の溶接層31に相当)に対し、板厚方向Dtの第一側Dt1に、二層目の溶接層312(上層の溶接層31に相当)を積層するように溶接を行う。このとき、二層目の溶接層312を溶接する際の入熱により、一層目の溶接層311が再熱される。一層目の溶接層311は、表層部31aの一部が除去されている。このため、二層目の溶接層312からの入熱により、表層部31aの一部が除去された一層目の溶接層311の全体の靱性が高まる(言い換えれば、回復する)。
【0022】
次いで、図8に示すように、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14において、二層目の溶接層312(下層の溶接層31に相当)に対して三層目の溶接層313(上層の溶接層31に相当)が積層されるに先立ち、二層目の溶接層311の表層部31aの一部を、寸法Tだけ除去する。
【0023】
この後は、溶接を行う工程S13、下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程S14を同様に繰り返すことで、三層目の溶接層313~五層目の溶接層315を順次積層していく。
【0024】
図9は、本開示の実施形態に係る最表層の溶接層を形成する工程により、最表層の溶接層を形成した状態を示す図である。
その後、最表層の溶接層を形成する工程S15では、図9に示すように、板厚方向Dtにおいて最も第一側Dt1側(最も表面20f側)に位置する六層目の溶接層316を、五層目の溶接層315に積層するように溶接を行うことで形成する。板厚方向Dtにおいて最も第一側Dt1側(最も表面20f側)に位置する最表層の溶接層316は、表面20fから板厚方向Dtの第一側Dt1に盛り上がるように形成する。
【0025】
次いで、最表層の溶接層の少なくとも一部を除去する工程S16では、最も板材20の表面20f側に位置する溶接層31の少なくとも一部を除去する。複数の溶接層31のうち、溶接層311~314は、後から他の溶接層31が形成される際の入熱によって、靱性の回復とともに、残留応力が緩和されている。溶接層315は、後から最表層の溶接層316が形成される際の入熱によって、靱性の回復とともに、残留応力が緩和されている。これに対し、板厚方向Dtの第一側Dt1で最後に形成される最表層の溶接層316には、残留応力が生じている。そこで、最も板材20の表面20f側に位置する最表層の溶接層316の少なくとも一部を除去する。これにより、最表層の溶接層316において、再熱されていない部分を除去し、残留応力を局所的に低減する。なお、図2においては、溶接層316の全てを除去した場合を例示している。
このようにして、本実施形態における板材20同士が接合される。これにより、互いに対向する板材20の端部20a同士の間に、複数の溶接層31が積層された溶接部30が形成される。
【0026】
(作用効果)
上記実施形態のタンクの製造方法S10では、下層の溶接層31に対して上層の溶接層31が積層されるに先立ち、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去している。これにより、上層の溶接層31を下層の溶接層31に対して積層するように溶接する際、上層の溶接層31から下層の溶接層31に入熱がなされる。下層の溶接層31の表層部31aの一部が除去されているので、上層の溶接層31からの入熱により、下層の溶接層31が再熱され、下層の溶接層31の靱性が高まる。複数の溶接層31を順次積層する度に、上層の溶接層31からの入熱により、最終的に、溶接部30の全体に再熱がなされ、靱性が高められる。その結果、溶接部30全体で、より均一に靱性を高めることができる。また、溶接部30の全体に再熱がなされることによって、溶接部30における残留応力を低減することもできる。
【0027】
また、上記実施形態では、上層の溶接層31を溶接により積層する際、上層の溶接層31からの入熱により、表層部31aの一部が除去された下層の溶接層31を再熱することによって、下層の溶接層31の全体を再熱することができる。
【0028】
また、上記実施形態では、下層の溶接層31に対して上層の溶接層31を積層した際に、上層の溶接層31からの入熱による再熱範囲Aが、表層部31aの一部を除去した後の下層の溶接層31の全体に及ぶので、下層の溶接層31の全体の靱性を高めることができる。
【0029】
また、上記実施形態では、上層の溶接層31からの入熱による、下層の溶接層31における再熱範囲Aを取得しておく。これにより、上層の溶接層31からの入熱が、表層部31aの一部を除去した後の下層の溶接層31の全体に及ぶよう、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲を適切に設定することができる。
【0030】
また、上記実施形態では、板材20の表面20f側に位置する溶接層316の少なくとも一部を除去することによって、表面20f側に位置する溶接層316において、再熱されていない部分を除去し、残留応力を局所的に低減することができる。
【0031】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
なお、上記実施形態では、開先部21Vを断面V字状としたが、これに限られない。例えば、開先部を断面X字状としてもよい。
【0032】
<付記>
実施形態に記載のタンク1の製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0033】
(1)第1の態様に係るタンク1の製造方法は、タンク1を構成する鋼製の板材20を継手溶接することで前記タンク1を製造するタンク1の製造方法であって、互いに対向する前記板材20の端部20a同士の間に、前記板材20の表面20f側に向かって複数の溶接層31が順次積層されるように溶接を行う工程S13と、下層の前記溶接層31に対して上層の前記溶接層31が積層されるに先立ち、前記下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する工程S14と、 を含む。
【0034】
このタンク1の製造方法は、下層の溶接層31に対して上層の溶接層31が積層されるのに先立ち、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する。これにより、下層の溶接層31を再熱しようとした場合に、下層の溶接層31の全体に入熱することができるため、下層の溶接層31の靱性を高めることができる。その結果、より均一に溶接部30の靱性を高めることができる。また、溶接部30を再熱することによって、溶接部30における残留応力を低減することもできる。
【0035】
(2)第2の態様に係るタンク1の製造方法は、(1)のタンク1の製造方法であって、前記溶接を行う工程S13では、前記下層の溶接層31に対して前記上層の溶接層31を溶接により積層する際、前記上層の溶接層31からの入熱により、前記表層部31aの一部が除去された前記下層の溶接層31を再熱する。
【0036】
これにより、上層の溶接層31を溶接により積層する際、上層の溶接層31からの入熱により、表層部31aの一部が除去された下層の溶接層31を再熱することができる。そのため、複数の溶接層31を順次積層する度に、上層の溶接層31から入熱され、最終的に、溶接部30の全体が再熱されて、溶接部30全体の靱性を高めることができる。
【0037】
(3)第3の態様に係るタンク1の製造方法は、(1)又は(2)のタンク1の製造方法であって、前記下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する工程S14では、前記下層の溶接層31に対して前記上層の溶接層31を積層した際に、前記上層の溶接層31からの入熱による再熱範囲Aが、前記表層部31aの一部を除去した後の前記下層の溶接層31の全体に及ぶよう、前記下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する。
【0038】
これにより、下層の溶接層31に対して上層の溶接層31を積層した際に、上層の溶接層31からの入熱による再熱範囲Aが、表層部31aの一部を除去した後の下層の溶接層31の全体に及ぶので、下層の溶接層31の全体の靱性を高めることができる。
【0039】
(4)第4の態様に係るタンク1の製造方法は、(1)から(3)の何れか一つのタンク1の製造方法であって、前記下層の溶接層31に対して前記上層の溶接層31を積層した際に、前記上層の溶接層31からの入熱による、前記下層の溶接層31における再熱範囲Aを取得する工程S11と、前記再熱範囲Aを取得する工程S11で取得された前記再熱範囲Aに基づき、前記下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する工程S14で、前記下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲を設定する工程S12と、を更に含む。
【0040】
これにより、上層の溶接層31からの入熱が、表層部31aの一部を除去した後の下層の溶接層31の全体に及ぶよう、下層の溶接層31の表層部31aの一部を除去する範囲を適切に設定することができる。
【0041】
(5)第5の態様に係るタンク1の製造方法は、(1)から(4)の何れか一つのタンク1の製造方法であって、複数の前記溶接層31のうち、最も前記板材20の前記表面20f側に位置する前記溶接層316の少なくとも一部を除去する。
【0042】
これにより、板材20の表面20f側に位置する溶接層316の少なくとも一部を除去することによって、表面20f側に位置する溶接層316において、再熱されていない部分を除去し、残留応力を局所的に低減することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…タンク 2…筒状部 3…鏡板部 20…板材 20a…端部 20f…表面 20g…表面 20s…傾斜面 21V…開先部 30…溶接部 31…溶接層、311~316…溶接層 31A…下層の溶接層 31B…上層の溶接層 31a…表層部 A…再熱範囲 Da…対向方向 Dc…中心軸方向 Dt…板厚方向 Dt1…第一側 Dt2…第二側 K…除去する範囲 S10…タンクの製造方法 S11…溶接層における再熱範囲を取得する工程 S12…溶接層の表層部の一部を除去する範囲を設定する工程 S13…溶接を行う工程 S14…下層の溶接層の表層部の一部を除去する工程 S15…最表層の溶接層を形成する工程 S16…最表層の溶接層の少なくとも一部を除去する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9