(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062516
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】感熱記録体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/44 20060101AFI20240501BHJP
B41M 5/42 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B41M5/44 220
B41M5/42 220
B41M5/42 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170392
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000205306
【氏名又は名称】大阪シーリング印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】福西 寛也
【テーマコード(参考)】
2H026
【Fターム(参考)】
2H026AA07
2H026DD48
2H026DD55
2H026FF11
2H026FF15
(57)【要約】
【課題】水ぶくれの発生を抑制して耐水性を向上させた感熱記録体を提供する。
【解決手段】基材2上に、感熱記録層4を備えると共に、感熱記録層4上に保護層5を備える感熱記録体であって、保護層5は、コアシェル型樹脂のシェル部を有しないコア型樹脂を含有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、感熱記録層を備えると共に、前記感熱記録層上に保護層を備える感熱記録体であって、
前記保護層は、コアシェル型樹脂のシェル部を有しないコア型樹脂を含有する、
感熱記録体。
【請求項2】
前記保護層は、中間層とトップコート層とを含み、前記中間層及び前記トップコート層の少なくともいずれか一方の層は、前記コア型樹脂を含有する、
請求項1に記載の感熱記録体。
【請求項3】
前記保護層は、コアシェル型樹脂を含有する、
請求項2に記載の感熱記録体。
【請求項4】
前記基材と前記感熱記録層との間に、アンダーコート層を備える、
請求項3に記載の感熱記録体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱記録体に関し、更に詳しくは、耐水性に優れた感熱記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱記録体は、サーマルヘッド等の加熱によって発色し、記録画像が得られるものであり、ファクシミリ、自動券売機、科学計測器、あるいはCRT医療計測器等のアウトプット用のプリンターなどの広範な用途に使用されている。
【0003】
感熱記録体では、基材と感熱記録層との間に、アンダーコート層を設けて、感熱記録層の表面を平滑にし、サーマルヘッドとの密着性を高めて感度を向上させるようにしたものが知られている。このアンダーコート層に、水溶性高分子を含有させたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
感熱記録体が水に濡れると、感熱記録体を構成する各層の間に水が浸入することがある。浸入した水が外に逃げず、感熱記録体の内部(層間)に溜まると、水ぶくれ(膨潤)が発生する。このような水ぶくれが発生すると、その水ぶくれが発生した層を起点として、感熱記録体の層(水ぶくれが発生した層およびその上層部分)が剥離し易くなるという問題がある。
【0006】
上記した特許文献1では、アンダーコート層用塗工液の塗工性を向上させるために、水溶性高分子を多く含有させている。水溶性高分子は水との親和性が高い。このため、感熱記録体が水に濡れて層間に水が浸入すると、アンダーコート層の周辺に水が溜まり易い状態となる。その結果、感熱記録体に水ぶくれが生じて、層が剥離し易くなる虞がある。
【0007】
また、感熱記録体において、層が剥離し易い状態は、層間の密着性が不安定な状態と言える。つまり、感熱記録体に水ぶくれが発生し易くなることで、耐水性に悪影響を及ぼす虞も生じる。
【0008】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであって、水ぶくれの発生を抑制して耐水性を向上させた感熱記録体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0010】
(1)本発明に係る感熱記録体は、基材上に、感熱記録層を備えると共に、前記感熱記録層上に保護層を備える感熱記録体であって、
前記保護層は、コアシェル型樹脂のシェル部を有しないコア型樹脂を含有する。
【0011】
本発明に係る感熱記録体によると、感熱記録層上の保護層に含有されているコア型樹脂は、親水性のシェル部を有していない。このため、感熱記録体に水が浸入しても膨張しにくい。また、感熱記録層を形成する塗液の乾燥時には、コア部同士が凝縮して、保護層に水の抜け道となる空隙が形成される。これにより、浸入した水が感熱記録体の外へ抜け易くなり、浸入した水による水ぶくれの発生を抑制することができる。
【0012】
また、上記のように水ぶくれの発生が抑制されることにより、層間の密着性が維持され得る。その結果、感熱記録体の耐水性を向上させることができる。
【0013】
(2)本発明の一実施態様では、前記保護層は、中間層とトップコート層とを含み、前記中間層及び前記トップコート層の少なくともいずれか一方の層は、前記コア型樹脂を含有する。
【0014】
この実施態様によると、保護層は2つの層を有するため、どちらかの層にコア型樹脂が含有されればよい。このため、コア型樹脂と、中間層あるいはトップコート層とのマッチングを考慮した上で、適切なコア型樹脂を含有させることができる。
【0015】
(3)本発明の好ましい実施態様では、前記保護層は、コアシェル型樹脂を含有する。
【0016】
この実施態様によると、保護層は、コアシェル型樹脂をさらに含有する。コアシェル型樹脂は、コア型樹脂の周りをシェルが包み込んでいる。つまり、保護層にコアシェル型樹脂を含有させると、コアではない部分は全てシェルによる空隙がないため、成膜性が良好である。これにより、保護層は塗工性に優れる。
【0017】
(4)本発明の一実施態様では、前記基材と前記感熱記録層との間に、アンダーコート層を備える。
【0018】
この実施態様によると、アンダーコート層を備えている。このため、基材に特有の凹凸が均される。これにより、感熱記録体を構成する各層でも凹凸が減少する。よって、サーマルヘッドには、より平滑な保護層が当接することになる。この結果、サーマルヘッドとの密着性を高めて、印字品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る感熱記録体によれば、感熱記録層上の保護層に含有されているコア型樹脂は、親水性のシェル部を有していないので、水が浸入しても膨張しにくく、また、感熱記録層を形成する塗液の乾燥時にコア部同士が凝縮して、保護層に水の抜け道となる空隙を形成するので、浸入した水が抜け易くなり、浸入した水による水ぶくれの発生を抑制することができ、耐水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る感熱記録体の構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は感熱記録体への水の浸入を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は水ぶくれの発生状態の評価基準を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る感熱記録体の構成を示す概略断面図である。
【0023】
この実施形態の感熱記録体1は、シート状の基材2と、アンダーコート層3と、加熱によって発色する感熱記録層4と、保護層5とを備え、これらがこの順に積層されている。この実施形態では、保護層5は、中間層6、及び、中間層6上に形成されたトップコート層7を有する。
【0024】
[基材]
基材2としては、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、クラフト紙、これらの紙基材にポリエチレンなどの熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙などの紙類、合成紙、また、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリスチレンフィルムなどの合成樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0025】
[アンダーコート層]
アンダーコート層3は、サーマルヘッドから与えられた熱の放散を防ぐ断熱性やクッション性等の機能を有するものである。このアンダーコート層3は、例えば、変性スチレンブタジエン共重合体等の結着剤に、充填剤として、中空粒子を添加させて形成される。
【0026】
断熱性を有するアンダーコート層3を設けることにより、印字の感度が向上するため、サーマルヘッドの印加電圧の上昇を抑制することができ、結果として、サーマルヘッドの焼付きを抑制することができる。
【0027】
なお、充填剤として、中空粒子以外を用いてもよく、例えば、焼成カオリン、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカゲル、活性白土、タルク、クレー、カオリナイト、ケイソウ土、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ポリスチレン樹脂粒子、尿素-ホルマリン樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子を挙げることができる。また、これらの充填剤は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
[感熱記録層]
感熱記録層4を形成する材料としては、加熱により発色する染料、顕色剤、結着剤、滑剤、増感剤、保存性向上剤、及び顔料などが挙げられる。
【0029】
染料であるロイコ染料としては、例えば、3-(N-イソブチル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-イソペンチル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-o-クロロアニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-p-トルイジノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-p-トルイジノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソペンチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エトキシプロピル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-シクロヘキシル-N-メチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-n-プロピル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-p-トルイジノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-8-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-ブロモフルオラン、3-ジブチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、
3-ジペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジメチルアミノ-5-メチル-7-メチルフルオラン、3-ピロリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン等を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記の顕色剤としては、フェノール系顕色剤及び非フェノール系顕色剤のいずれも使用することができる。
【0031】
非フェノール系の顕色剤としては、フェノール性水酸基を有しない公知の顕色剤を特に限定なく使用することができ、例えば、2,2-ビス[(4-メチル-3-フェノキシカルボニルアミノフェニル)ウレア]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス(pトリルスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、2’-(3-フェニルウレイド)ベンゼンスルホンアニリド、N-(p-トルエンスルホニル)-N'-(3-p-トルエンスルホニルオキシフェニル)ウレア等を用いることができる。
【0032】
また、顕色剤として、下記式(1)で表されるジフェニルスルホン化合物、及び、下記式(2)で表されるウレアウレタン化合物を使用することができる。
【0033】
【0034】
【0035】
その他の顕色剤としては、例えば、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2’-メチレンビス(4-クロロフェノール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、ポリ(4-ヒドロキシ安息香酸)、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,4-ビス(フェニルスルホニル)フェノール、α-{4-[(4-ヒドロキシフェニル)スルホニル]フ
ェニル}-ω-ヒドロキシポリ(重合度n=1~7)(オキシエチレンオキシエチレンオキシ-p-フェニレンスルホニル-p-フェニレン)、3,5-ビス(α-メチルベンジル)サリチル酸、ビス[4-(n-オクチルオキシカルボニルアミノ)サリチル酸亜鉛]、4-ヒドロキシベンゼンスルホンアニリド、N-(2-ヒドロキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシフェニル)チオ]アセトアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシフェニル)チオ]アセトアミド、4-[[4-[4-[4-[[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]スルホニルフェノキシ]ブトキシ]フェニル]スルホニル]フェノール、4-tert-ブチルフェノール・ホルムアルデヒド重縮合物、1-フェニル-3-(4-メチルフェニルスルホニル)ウレア等が挙げられる。
【0036】
更に、顕色剤として、N-[2-(3-フェニルウレイド)フェニル]ベンゼンスルホンアミドを使用することができる。この化合物は下記式(3)で表され、例えば、日本曹達株式会社から商品名NKK1304として入手可能である。
【0037】
【0038】
上記の結着剤としては、例えば、変性スチレンブタジエン共重合体、変性スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプン、変性デンプン、カゼイン、ゼラチン、にかわ、アラビアゴム、ポリアミド、ポリアクリルアミド、変性ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、メチルビニル-無水マレイン酸共重合体、イソプロピレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、アクリル酸エステル、アクリルニトリル、メチルビニルエーテルなどの水系樹脂を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
上記の滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸金属塩、パラフィン、酸化パラフィン、ポリエチレン、及び、酸化ポリエチレン等を用いることができる。これらの滑剤は一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
上記の増感剤としては、従来の感熱記録紙分野で公知のものは全て使用可能であり、特に制限されない。例えば、1,2-ビス-(3-メチルフェノキシ)エタン、ワックス類、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸アニリド、ナフトール誘導体、ナフタレン誘導体、芳香族エーテル、芳香族カルボン酸誘導体、芳香族スルホン酸エステル誘導体、炭酸又はシュウ酸ジエステル誘導体、ビフェニル誘導体、ポリエーテル誘導体、ターフェニル誘導体、スルホン誘導体等、常温で固体、好ましくは約70℃以上の融点を有するものなどを用いることができる。なお、これらの増感剤は、単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記の保存性向上剤としては、例えば、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、4,4,ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3ートリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)ブタン、トリス(2,6-ジメチル-4-t-ブチル-3-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4-(2-メチルグリシルオキシ)-4’-ベンジルオキシジフェニルスルホン、2,2’ -メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’ -メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、ジエチルチオウレア、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)等を用いることができる。また、公知の紫外線吸収剤、界面活性剤を添加してもよい。なお、これら保存性向上剤は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
上記の顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、ケイソウ土、タルク、カオリン、焼成カオリン、炭酸マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、尿素-ホルマリン樹脂などの無機、ならびに有機顔料を用いることができる。なお、これら顔料は、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
[保護層]
この実施形態の保護層5は、中間層6と、トップコート層7とを備えている。中間層6は、感熱記録層4の耐水性や耐薬品性等を向上させる機能を有する。トップコート層7は、サーマルヘッドに対する感熱記録層4のマッチング性を向上させて、感熱記録層4における発色が適切に行われるようにする。
【0044】
感熱記録体は、層間の密着性が弱い箇所や、水に濡れることで密着性が弱くなった箇所から水が浸入し、膨張して水ぶくれが発生し易い。
【0045】
例えば、
図2に示すように、感熱記録体11が水に濡れ、基材12とアンダーコート層13との間に水18が浸入した場合、水が感熱記録体11から抜けきらず、基材12とアンダーコート層13との間に溜まる。これにより、基材12とアンダーコート層13との間で浸入した水が膨張し、水ぶくれが生じ易い。
【0046】
水ぶくれが発生した箇所を指で擦ると、その水ぶくれが発生した層を起点として、上層部分がまとめて簡単に剥離し易くなる。これにより、印字情報等が脱落する虞が生じ易い。
【0047】
このような水ぶくれの発生を抑制するためには、感熱記録体1に浸入した水を、感熱記録体1の外に逃がす必要がある。そこで、
図1に示される本実施形態では、感熱記録層4上の保護層5を構成する中間層6及びトップコート層7の少なくともいずれか一方の層に、コアシェル型樹脂のシェル部を有しないコア型樹脂が含有される。
【0048】
保護層5(すなわち、中間層6及にトップコート層7の少なくともいずか一方の層)にコア型樹脂を含有すると、コア型樹脂は、感熱記録層を形成する塗液の乾燥時に凝縮されて、コア型樹脂を含む層の膜に空隙が形成される。この空隙を水が通ることによって、感熱記録体1の層間に浸入した水を外部へ逃がすことができる。
【0049】
ここで、本実施形態では、コア型樹脂とは、コアシェル型樹脂のシェル部を有しない樹脂であり、コア部のみの樹脂を意味する。
【0050】
この実施形態では、疎水性アクリルのコア部と親水性アクリルのシェル部を有するコアシェル型のカルボキシル基含有アクリル樹脂のシェル部を有しないコア型樹脂を使用している。
【0051】
保護層5には、必要に応じて、滑剤、充填剤等の添加剤が添加される。
【実施例0052】
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明の特徴構成について更に詳細に説明する。
【0053】
本件発明者は、保護層5を構成する中間層6及びトップコート層7にコア型樹脂を含有する実施例1~7の感熱記録体と、中間層6及びトップコート層7のいずれにもコア型樹脂を含有しない比較例1,2の感熱記録体を作製し、耐水性試験を行って水ぶくれの発生状態を評価した。
【0054】
各実施例1~7及び比較例1,2では、感熱記録層4の影響を検討するために、4種類の異なる感熱記録層4について耐水性試験を行った。
【0055】
なお、各実施例1~7の感熱記録体、及び、比較例1,2の感熱記録体の基材2、アンダーコート層3は共通である。基材2には、上質紙を使用し、アンダーコート層3には、結着剤として変性スチレンブタジエン共重合体を使用し、中空粒子を添加した。
【0056】
先ず、4種類の感熱記録層4について、下記表1に基づいて説明する。
【0057】
【0058】
表1に示される4種類の感熱記録層a~dでは、ロイコ染料は、共通とし、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン(山田化学社製、BLACK400)を使用した。
【0059】
顕色剤としては、4種類の各感熱記録層a~dについて、4種類の顕色剤1~顕色剤4をそれぞれ使用した。
【0060】
感熱記録層aでは、顕色剤1として、下記式(4)で示されるN-N´-ジ-[3-(p-トルエンスルホニルオキシ)フェニル]尿素(三光社製、S-176)を使用した。
【0061】
【0062】
感熱記録層bでは、顕色剤2として、3―[(3―フェニルウレイド)フェニル]―4―メチルベンゼンスルホナート(日本化薬社製、TG-MD)を使用した。
【0063】
感熱記録層cでは、顕色剤3として、4-アリルオキシ-4’-ヒドロキシ-ジフェニルスルホン(日本化薬社製、TG-SH )を使用した。
【0064】
感熱記録層dでは、顕色剤4として、4-ヒドロキシフェニル(4’-n-プロポキシフェニル)スルホン(三菱化学社製、トミラックKN)を使用した。
【0065】
保存性向上剤としては、感熱記録層b,dでは、保存性向上剤1を使用し、感熱記録層cでは、保存性向上剤2を使用した。
【0066】
保存性向上剤1は、4,4'-ビス(3-(フェノキシカルボニルアミノ)メチルフェニルウレイド)ジフェニルスルホン(ケミプロ化成社製、UU)である。
【0067】
保存性向上剤2は、下記式(5)で示されるフェノール系のジフェニル架橋型化合物(日本曹達社製、D-90)である。
【0068】
【0069】
増感剤としては、感熱記録層a~cについて、共通の増感剤である、1,2-ビス(3-メチルフェノキシ)エタン(三光社製、KS232)を使用した。
【0070】
次に、実施例1~7及び比較例1,2に使用した樹脂について、下記表2に基づいて説明する。
【0071】
【0072】
保護層の形成に使用した樹脂は、カルボキシル基含有アクリル樹脂であって、疎水性アクリルのコア部と親水性アクリルのシェル部を有するコアシェル型アクリル樹脂と、このコアシェル型アクリル樹脂のシェル部を有しないコア部からなるコア型樹脂である。なお、コアシェル型樹脂のコア部と、コア型樹脂のコア部とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0073】
このカルボキシル基含有アクリル樹脂は、SiOH基(シラノール基)を含まないアクリル樹脂、すなわち、シラン変性していないアクリル樹脂である。SiOH基は、架橋剤を必要とせずに自己架橋するので、ポットライフが短いという欠点があるが、本実施形態のカルボキシル基含有アクリル樹脂は、そのような欠点がない。
【0074】
表2に示すように、6種類の樹脂1~6を使用した。表2には、これら樹脂1~6が、コアシェル型樹脂であるか、コア型樹脂であるかを示す「タイプ」、各樹脂1~6の「固形分」の濃度、回転数60rpmにおける「粘度(mPa・s)」をそれぞれ示している。
【0075】
具体的には、樹脂1は、コアシェル型樹脂であり、固形分の濃度が25%であり、回転数60rpmにおける粘度が496mPa・sである。
【0076】
樹脂2は、コアシェル型樹脂であり、固形分の濃度が20%であり、回転数60rpmにおける粘度が328mPa・sである。
【0077】
樹脂3は、コアシェル型樹脂であり、固形分の濃度が20%であり、回転数60rpmにおける粘度が220mPa・sである。
【0078】
樹脂4は、コア型樹脂であり、固形分の濃度が20%であり、回転数60rpmにおける粘度が532mPa・sである。
【0079】
樹脂5は、コアシェル型樹脂であり、固形分の濃度が25%であり、回転数60rpmにおける粘度が608mPa・sである。
【0080】
樹脂6は、コア型樹脂であり、固形分の濃度が20%であり、回転数60rpmにおける粘度が576mPa・sである。
【0081】
これらの樹脂1~6を使用した実施例1~7及び比較例1,2の中間層6及びトップコート層7の構成を、下記表3に示す。
【0082】
【0083】
表3では、保護層の形成に使用した樹脂1~6と共に、使用した架橋剤を示しており、樹脂比率及び架橋剤比率を併せて示している。樹脂比率は、樹脂の全重量を100としたときの重量の割合を示し、架橋剤比率は、樹脂100に対する架橋剤の重量割合を示している。
【0084】
架橋剤として使用したポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1は、星光PMC社製のWS4024であり、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂2は、星光PMC社製のWS4027である。
【0085】
また、架橋剤として使用した炭酸ジルコニウムアンモニウム1は、第一稀元素工業社製のジルコゾールAC-7であり、炭酸ジルコニウムアンモニウム2は、サンノプコ社製のAZコート5800MTである。
【0086】
実施例1~7の感熱記録体の保護層A~G、及び、比較例1,2の感熱記録体の保護層H,Iの構成は、次の通りである。
【0087】
(保護層A)
実施例1である保護層Aでは、中間層6は、コアシェル型樹脂1を使用し、架橋剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。トップコート層7は、コア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。
【0088】
(保護層B)
実施例2である保護層Bでは、中間層6は、コアシェル型樹脂2を使用し、架橋剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂2を使用した。トップコート層7は、コア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。
【0089】
(保護層C)
実施例3である保護層Cでは、中間層6は、コア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0090】
(保護層D)
実施例4である保護層Dでは、中間層6は、コアシェル型樹脂5及びコア型樹脂6を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム2を使用した。コアシェル型樹脂5及びコア型樹脂6の樹脂比率は、60及び40とした。
【0091】
トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0092】
(保護層E)
実施例5である保護層Eでは、中間層6は、コアシェル型樹脂2及びコア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。コアシェル型樹脂2及びコア型樹脂4の樹脂比率は、50及び50とした。
【0093】
トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0094】
(保護層F)
実施例6である保護層Fでは、中間層6は、コアシェル型樹脂1及びコア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。コアシェル型樹脂1及びコア型樹脂4の樹脂比率は、50及び50とした。
【0095】
トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0096】
(保護層G)
実施例7である保護層Gでは、中間層6は、コア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用し、トップコート層7は、コア型樹脂4を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1を使用した。
【0097】
(保護層H)
比較例1である保護層Hでは、中間層6は、コアシェル型樹脂1を使用し、架橋剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用し、トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0098】
(保護層I)
比較例2である保護層Iでは、中間層6は、コアシェル型樹脂2を使用し、架橋剤は、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂2を使用し、トップコート層7は、コアシェル型樹脂3を使用し、架橋剤は、炭酸ジルコニウムアンモニウム1及びポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂1を使用した。
【0099】
<耐水性の評価>
以上の実施例1~7の感熱記録体、及び、比較例1,2の感熱記録体の耐水性を次のようにして評価した。
【0100】
すなわち、印字することなく、3cm×4cmの実施例1~7及び比較例1,2の感熱記録体の各試験片を用意する。各試験片を、40℃に温めた水道水100mlを100mlポリカップに入れ、試験片2枚を溶液中に浸す。
【0101】
ポリカップに蓋をして23℃の環境に24時間静置した後、水ぶくれが発生していないかを目視と指擦りで確認し、「1」、「2」、「3」の3段階で評価した。評価の基準は下記の通りである。
【0102】
「1」:サイズの大きさを問わず、水ぶくれが大量に発生した場合である。あるいは、サイズの大きな水ぶくれが試験片を占めるように発生した場合である。
【0103】
「2」:サイズの小さい水ぶくれが、少量発生した場合である。
【0104】
「3」:水ぶくれの発生が無かった場合である。
【0105】
図3は、この3段階の各評価にそれぞれ対応する試験片の表面状態の一例を、代表的に示したものである。
【0106】
図3(a)~(c)は、それぞれ、上記評価基準の「1」~「3」の例を、模式的に示した図である。
【0107】
実施例1~7の感熱記録体の保護層A~G、及び、比較例1,2の感熱記録体の保護層H,Iの評価結果を、下記表4に示す。
【0108】
【0109】
この表4に示されるように、実施例1~3、5~7である保護層A~C、E~Gは、4種類の感熱記録層a~dのいずれについても、評価「3」、すなわち、水ぶくれは発生しなかった。このことから、感熱記録層4の種類によらず、コア型樹脂を保護層5に含有する感熱記録体1では、浸水による水ぶくれの発生を抑制できることが分かった。
【0110】
実施例4である保護層Dも感熱記録層a,bについては、評価「3」であり、水ぶくれは発生しなかった。一方、感熱記録層c,dについては、評価「2」であり、サイズの小さい水ぶくれが、少量発生した。
【0111】
この実施例4である保護層Dは、上記の表3に示すように、コア型樹脂を含有している中間層6のコア型樹脂の樹脂比率が、40である。他の実施例1~3、5~7である保護層A~C、E~Gは、コア型樹脂の樹脂比率が、いずれも50あるいは100であるのに比べて、コア型樹脂の含有量が少なくなっている。
【0112】
このように実施例4である保護層Dでは、他の実施例1~3、5~7に比べて、コア型樹脂の含有量が少ないために、実施例1~3、5~7のように、水ぶくれが発生しないという結果にはならなかったと推察される。しかしながら、中間層6及びトップコート層7のいずれにもコア型樹脂を含有しない比較例1の保護層Hにおける感熱記録層b,dの場合、水ぶくれの評価は、それぞれ評価「1」であった。すなわち、保護層Hにおける感熱記録層b,dの場合は、
図3(c)に示すような、複数の水ぶくれが発生している状態である。これらのような水ぶくれの発生状態と比べると、実施例4では水ぶくれの発生がかなり抑制されていると言える。
【0113】
このような実施例に対して、上記したとおり、比較例1の保護層Hにおける感熱記録層b,dの場合、それぞれ評価「1」であり、感熱記録層cの場合は、評価「2」であった。
【0114】
また、比較例2である保護層Iの感熱記録層a,bの場合、それぞれ評価「1」であり、感熱記録層dの場合は、評価「2」であった。
【0115】
このように、中間層6及びトップコート層7のいずれにもコア型樹脂を含有しない比較例1である保護層Hの感熱記録層b,dの場合と、比較例2である保護層Iの感熱記録層a,bの場合とでは、サイズの大きさを問わず、水ぶくれが大量に発生するか、あるいは、サイズの大きな水ぶくれが試験片を占めるように発生した。すなわち、保護層Hの感熱記録層b,dの場合や、保護層Iの感熱記録層a,bの場合、水ぶくれの発生を抑制することはできない。
【0116】
また、これら比較例では、水ぶくれの発生を抑制することができないため、層間の密着性が維持され難くなる。その結果、感熱記録体の耐水性に悪影響を及ぼし得る。
【0117】
なお、比較例1である保護層Hにおける感熱記録層aの場合、また、比較例2である保護層Iにおける感熱記録層cの場合、それぞれの評価は、水ぶくれの発生が無い評価「3」であったが、評価「3」となる感熱記録層の種類が異なっている。このように比較例1,2では、感熱記録層の種類によって、水ぶくれの抑制効果にばらつきがあることが分かる。よって、比較例1,2では、感熱記録層の種類によらず、水ぶくれの発生を抑制することはできない。
【0118】
これに対して、実施例1~7では、保護層5の中間層6及びトップコート層7の少なくともいずれか一方の層は、親水性のシェル部を有しないコア型樹脂を含有している。上述したとおり、コア型樹脂は、感熱記録層を形成する塗液の乾燥時にコア部同士が凝縮するため、保護層5(すなわち、中間層6及びトップコート層7の少なくともいずれか一方の層)の膜に空隙が形成される。これにより、水が感熱記録体1の層の間に浸入しても、浸入した水はこの空隙を通って感熱記録体1の外に逃げることができる。このため、感熱記録体1は、感熱記録層4の種類によらず、層間に浸入した水が溜まって膨張し、水ぶくれが生じることを抑制できる。
【0119】
ここで、基材2に紙を用い感熱記録体1が水に濡れると、感熱記録体1の側面の他に、基材2に対して大量の水が染み込む。この場合、基材2とアンダーコート層3との間は、他の層間よりも、水との接触が多い。このため、基材2とアンダーコート層3との間で水ぶくれが発生し易い。
【0120】
上記のような場合であっても、本実施形態に係る感熱記録体1では、保護層5(すなわち、中間層6及びトップコート層7の少なくともいずれか一方の層)にコア型樹脂が含まれるため、アンダーコート層3と基材2との間に浸入した水が、アンダーコート層3の上層である保護層5に抜け易くなる。これにより、アンダーコート層3と基材2との間に浸入する水によって発生する水ぶくれを抑制することができる。
【0121】
そして、水ぶくれの発生を抑制できることにより、層間の密着性を維持することができる。その結果、感熱記録体の耐水性を向上させることができる。