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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062529
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】抗菌フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240501BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240501BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20240501BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240501BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
A01N59/16 A
A01N25/00 102
A01N25/34 A
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170417
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠也
(72)【発明者】
【氏名】村井 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅幸
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AB24C
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA23B
4F100CA30B
4F100CA30C
4F100EH46
4F100EJ86
4F100JB07
4F100JC00B
4F100JC00C
4F100YY00B
4F100YY00C
4H011AA01
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA07
4H011DC10
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】耐水性を向上可能にした抗菌フィルムを提供する。
【解決手段】基材20と、基材20に支持された第1抗菌層21と、第1抗菌層21に対して基材20とは反対側で第1抗菌層21を覆う被覆層22と、を備える抗菌フィルム10であって、第1抗菌層21は、樹脂成分、および抗菌成分を含み、被覆層22は、樹脂成分を含み、抗菌成分は、銀系抗菌剤であり、被覆層22における第1抗菌層21とは反対側の表面を純水に24時間密着させたときに、表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に支持された第1層と、
前記第1層に対して前記基材とは反対側で前記第1層を覆う第2層と、
を備える抗菌フィルムであって、
前記第1層は、樹脂成分、および抗菌成分を含み、
前記第2層は、樹脂成分を含み、
前記抗菌成分は、銀系抗菌剤であり、
前記第2層における前記第1層とは反対側の表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上である
抗菌フィルム。
【請求項2】
前記第1層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項3】
前記第2層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含む
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項4】
前記第2層の厚さは、0.3μm以上3μm以下である
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項5】
前記第1層の総質量に対して、前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の割合は、0.1質量%以上5質量%以下である
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項6】
前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、0.5μm以上5μm以下である
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項7】
前記第1層が含む前記樹脂成分と、前記第2層が含む前記樹脂成分とは、同一種類の樹脂を含む
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項8】
前記第2層は、抗菌成分を含まない
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項9】
前記第2層は、抗菌成分を含まず、
前記第1層の厚さは、前記第2層の厚さよりも薄く、
前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、前記第1層の厚さと前記第2層の厚さとの合計よりも小さい
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項10】
前記第2層は、銀系抗菌剤を含む
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項11】
前記第2層は、銀系抗菌剤を含み、
前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、前記第1層の厚さよりも大きく、かつ前記第2層の厚さよりも大きい
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項12】
前記第2層は、銀系抗菌剤を含み、
前記第2層における前記銀系抗菌剤の含有率は、前記第1層における前記銀系抗菌剤の含有率以上である
請求項1に記載の抗菌フィルム。
【請求項13】
基材と、
前記基材に支持された抗菌層と、
を備える抗菌フィルムであって、
前記抗菌層は、樹脂成分、および抗菌成分を含み、
前記抗菌成分は、銀系抗菌剤であり、前記基材と前記抗菌層との境界、および前記抗菌層の厚さ方向における途中にそれぞれ偏在し、
前記抗菌層における前記基材とは反対側の表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上である
抗菌フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌フィルムは、抗菌成分として銀、銅、亜鉛などの金属を含有する。例えば、特許文献1,2に記載の抗菌フィルムは、金属粒子の一部がフィルムの表面に露出するように、金属粒子を保持した抗菌層を備える。抗菌層の製造は、金属粒子を練り込んだ樹脂成分の溶融押出によって抗菌層を成形する方法、あるいは金属粒子と樹脂成分とを含む塗液を基材に塗布して形成する方法を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6690144号公報
【特許文献2】特開平10-87849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日常生活等における種々の用途に用いられている抗菌フィルムの新たな適用場面として、抗菌フィルムが水に接触するような場合が検討されはじめている。抗菌フィルムが水に接触し続けることは、金属粒子そのものや金属イオンを抗菌フィルムから溶出させて抗菌フィルムの抗菌効果を消失させてしまう。そこで、抗菌フィルムの適用場面に水と接触するような場面を新たに含められるよう、耐水性の高い抗菌フィルムが求められはじめている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
上記課題を解決するための抗菌フィルムは、基材と、前記基材に支持された第1層と、前記第1層に対して前記基材とは反対側で前記第1層を覆う第2層と、を備える抗菌フィルムであって、前記第1層は、樹脂成分、および抗菌成分を含み、前記第2層は、樹脂を含み、前記抗菌成分は、銀系抗菌剤であり、前記第2層における前記第1層とは反対側の表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上である。
【0006】
上記構成によれば、銀系抗菌剤を含む第1層が第2層によって覆われるため、水が第1層に直接接触することが抑えられる。これにより、第1層が水に直接接触することによって第1層の抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。そのうえ、第2層の表面における単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上であるため、第1層が第2層に覆われる構成であっても、抗菌フィルムの抗菌効果が得られる。結果として、抗菌フィルムの耐水性が高まる。
【0007】
上記抗菌フィルムにおいて、第1層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含めてもよい。
上記抗菌フィルムにおいて、第2層の樹脂成分は、アクリル樹脂を含めてもよい。
上記抗菌フィルムにおいて、第2層の厚さは0.3μm以上3μm以下でもよい。
【0008】
上記抗菌フィルムにおいて、前記第1層の総質量に対して、前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の割合は、0.1質量%以上5質量%以下でもよい。
上記抗菌フィルムにおいて、前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、0.5μm以上5μm以下でもよい。
【0009】
上記抗菌フィルムにおいて、前記第1層が含む前記樹脂成分と、前記第2層が含む前記樹脂成分とは、同一種類の樹脂を含めてもよい。
上記各構成によれば、抗菌フィルムの耐水性を高める効果の実効性が高まる。
【0010】
上記抗菌フィルムにおいて、第2層は抗菌成分を含まなくてもよい。
上記抗菌フィルムにおいて、前記第2層は、抗菌成分を含まず、前記第1層の厚さは、前記第2層の厚さよりも薄く、前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、前記第1層の厚さと前記第2層の厚さとの合計よりも小さくてもよい。
【0011】
上記抗菌フィルムにおいて、第2層は抗菌成分を含めてもよい。
上記抗菌フィルムにおいて、前記第2層は、銀系抗菌剤を含み、前記抗菌フィルムが含む前記銀系抗菌剤の平均粒子径は、前記第1層の厚さよりも大きく、かつ前記第2層の厚さよりも大きくてもよい。
【0012】
上記抗菌フィルムにおいて、前記第2層は、銀系抗菌剤を含み、前記第2層における前記銀系抗菌剤の含有率は、前記第1層における前記銀系抗菌剤の含有率以上であってもよい。
【0013】
上記各構成によれば、抗菌フィルムの耐水性が高まるなかでも、第2層が水に直接接触することによって抗菌フィルムの抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。
上記課題を解決するための抗菌フィルムは、基材と、前記基材に支持された抗菌層と、を備える抗菌フィルムであって、前記抗菌層は、樹脂成分、および抗菌成分を含み、前記抗菌成分は、銀系抗菌剤であり、前記基材と前記抗菌層との境界、および前記抗菌層の厚さ方向における途中にそれぞれ偏在し、前記抗菌層における前記基材とは反対側の表面を純水に24時間密着させたときに、前記表面の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上である。
【0014】
上記構成によれば、基材と抗菌層との境界に偏在する銀系抗菌剤が、抗菌層の厚さ方向における途中に偏在する銀系抗菌剤よりも樹脂成分によって厚く覆われる。このため、基材と抗菌層との境界に偏在する銀系抗菌剤が、抗菌層の厚さ方向における途中に偏在する銀系抗菌剤よりも、水に直接接触することが抑えられる。これにより、基材と抗菌層との境界に偏在する銀系抗菌剤の抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。そのうえ、抗菌層の表面における単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上であるため、基材と抗菌層との境界に偏在する銀系抗菌剤が樹脂成分によって厚く覆われるとしても、抗菌フィルムの抗菌効果が得られる。結果として、抗菌フィルムの耐水性が高まる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の抗菌フィルムによれば、抗菌フィルムの耐水性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、抗菌フィルムの第1実施形態における層構造を示す断面図である。
図2図2は、参考例の抗菌フィルムにおける一部を拡大して示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態の抗菌フィルムの一部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、抗菌フィルムの第2実施形態における層構造を示す断面図である。
図5図5は、第2実施形態の抗菌フィルムの一部を拡大して示す断面図である。
図6図6は、試験例のAgイオンの溶出量と抗菌活性値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1図3を参照して、抗菌フィルムの第1実施形態を説明する。なお、本実施形態における抗菌フィルムは、食品包装用、日用雑貨用、建材用、電子機器用、車両用部材用の種々の用途に用いられる。
【0018】
[抗菌フィルム10の層構成]
図1に示すように、抗菌フィルム10は、基材20と、第1層の一例である第1抗菌層21と、第2層の一例である被覆層22と、を備える。
【0019】
基材20は、第1抗菌層21を支持する。被覆層22は、第1抗菌層21に対して基材20とは反対側に配置される。被覆層22は、第1抗菌層21を覆う。第1抗菌層21の下面は、基材20に接している。第1抗菌層21の上面は、被覆層22に接している。被覆層22の下面は、第1抗菌層21の上面に追従する形状を有する。
【0020】
被覆層22において第1抗菌層21に接する下面とは反対側の上面は、抗菌フィルム10の表面である。被覆層22の上面は、抗菌フィルム10において抗菌作用を発現する作用面である。
【0021】
第1抗菌層21は、抗菌成分と樹脂成分とを含む。第1抗菌層21に含まれる抗菌成分は、銀系抗菌剤である。被覆層22は、樹脂成分を含み、かつ銀系抗菌剤などの抗菌成分を含まない。銀系抗菌剤を含む第1抗菌層21は、銀系抗菌剤を含まない被覆層22に覆われている。
【0022】
第1抗菌層21、および被覆層22は、別々に塗布、および塗液の硬化によって形成される。第1抗菌層21、および被覆層22の各々は、塗布膜である。
<基材20>
基材20の材料は、基材20に第1抗菌層21の塗布形成できる材料であればよい。基材20は、単層構造体でもよいし、多層構造体でもよい。基材20の材料は、例えば、樹脂フィルムである。樹脂フィルムの材料例は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミドからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
基材20の厚さは、基材20に第1抗菌層21を塗布形成できる厚さであればよい。基材20の厚さは、基材20の搬送性や、第1抗菌層21、および被覆層22を形成するための塗工性を高める観点から、4μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。
【0024】
<第1抗菌層21>
第1抗菌層21の樹脂成分は、熱硬化性樹脂でもよいし、紫外線硬化性樹脂でもよい。第1抗菌層21を構成する樹脂成分は、銀系抗菌剤を含有しながらも均一な硬化が得られやすい観点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂の一例は、アクリル系樹脂でもよいし、ウレタン系樹脂でもよいし、エポキシ系樹脂でもよい。
【0025】
第1抗菌層21は、基材20の上面に、第1抗菌層21を形成するための塗液である第1抗菌層塗液を塗布し、これにより形成された膜の硬化によって形成される。第1抗菌層塗液は、第1抗菌層21の樹脂成分を形成するための主剤や硬化剤、銀系抗菌剤、分散助剤や安定化剤等の必要に応じた助剤を含む。第1抗菌層塗液は、第1層塗液の一例である。
【0026】
第1抗菌層塗液の塗布方法は、例えば、バーコート法、スピンコート法、オフセットコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等の公知の方法である。塗液からなる膜の硬化方法は、第1抗菌層21の樹脂成分の硬化型に応じた方法であり、加熱乾燥でもよいし、紫外線照射でもよい。
【0027】
第1抗菌層21を形成する塗液は、二液硬化型でもよいし、一液硬化型でもよい。二液硬化型の塗液の成分は、主剤であるポリオール成分と、硬化剤であるイソシアネート成分とを含有してもよい。ポリオール成分は、アクリルポリオールでもよいし、ポリエステルポリオールでもよいし、ポリエーテルポリオールでもよいし、エポキシポリオールでもよい。イソシアネート成分は、トリレンジイソシアネートでもよいし、ヘキサメチレンジイソシアネートでもよいし、メタキシレンジイソシアネートでもよい。
【0028】
第1抗菌層21の銀系抗菌剤は、銀担持担体でもよいし、銀粒子でもよいし、銀化合物粒子でもよい。銀系抗菌剤の安定性を高めることが要求される場合、銀系抗菌剤は、担体と、担体に担持された銀とを備える銀担持担体であることが好ましい。
【0029】
銀担持担体を構成する担体の材料例は、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、活性炭、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイトなどの多孔性担持体や、マグネシウム・アルミニウム・リン酸ガラス、マグネシウム・カルシウム・リン酸・硼酸ガラス、亜鉛・マグネシウム・アルミニウム・カルシウム・ナトリウム・硼酸・リン酸ガラス、マグネシウム・ナトリウム・リン酸ガラス、マグネシウム・亜鉛・アルミニウム・カルシウム・ナトリウム・硼酸・リン酸ガラスなどのガラス系材料である。粒度分布の安定性、分散性、抗菌活性の安定性の向上を要求される場合、担体の材料は、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
銀担持担体の平均粒子径は、体積基準のメジアン径(D50)である。抗菌活性や分散性の向上を要求される場合、銀担持担体の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上3μm以下であることがさらに好ましい。銀担持担体の平均粒子径は、第1抗菌層21の厚さよりも厚くてもよいし、第1抗菌層21の厚さよりも薄くてもよいし、第1抗菌層21の厚さと等しくてもよい。銀担持担体の平均粒子径は、抗菌フィルム10の厚さよりも厚くてもよいし、抗菌フィルム10の厚さよりも薄くてもよいし、抗菌フィルム10の厚さと等しくてもよい。
【0031】
抗菌フィルム10、および抗菌フィルム10を構成する各層の厚さは、測定対象の断面における厚さの標本値の平均値である。厚さの標本値は、測定対象の断面において1mmの間隔を空ける10点の測定点から得られた厚さの測定値のうち測定値の平均値との差が平均値の50%以上である測定点を除外した標本の厚さである。
【0032】
第1抗菌層21の厚さは、銀担持担体の平均粒子径より薄くてもよいし、銀担持担体の平均粒子径よりも厚くてもよいし、銀担持担体の平均粒子径と等しくてもよい。第1抗菌層21の厚さは、被覆層22の厚さよりも薄くてもよいし、被覆層22の厚さよりも厚くてもよいし、被覆層22の厚さと等しくてもよい。
【0033】
第1抗菌層21の厚さは、第1抗菌層21の厚さの均一性、第1抗菌層21の塗工性、第1抗菌層21の機械的な耐久性、および抗菌活性の向上を要求される場合、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。第1抗菌層21の厚さは、第1抗菌層21の基材20に対する密着性の向上、および第1抗菌層21の硬化に要する負荷の軽減を要求される場合、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0034】
第1抗菌層21の厚さは、抗菌フィルム10の耐水性の向上を要求される場合、被覆層22の厚さよりも薄いことが好ましい。耐水性の向上の実効性を高めることを要求される場合、第1抗菌層21の厚さは、被覆層22の厚さよりも薄く、かつ銀系抗菌剤の平均粒子径は、第1抗菌層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さいことが好ましい。
【0035】
第1抗菌層21の総質量に対する銀系抗菌剤の質量の割合は、抗菌フィルム10の抗菌活性の向上を要求される場合、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。第1抗菌層21の総質量に対する銀系抗菌剤の質量の割合は、第1抗菌層塗液における銀系抗菌剤の分散性の向上を要求される場合、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
<被覆層22>
被覆層22の樹脂成分は、熱硬化性樹脂でもよいし、紫外線硬化性樹脂でもよい。被覆層22を構成する樹脂成分は、第1抗菌層21の表面に対する追従性が得られやすい観点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。被覆層22を構成する熱硬化性樹脂は、第1抗菌層21の材料に例示した樹脂でもよい。被覆層22を構成する樹脂成分は、第1抗菌層21を構成する樹脂成分と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
被覆層22は、被覆層22を形成するための塗液である被覆層塗液を第1抗菌層21の上面に塗布し、これにより形成された膜の硬化によって形成される。被覆層塗液は、上述した樹脂成分の原料である主剤、硬化剤、および有機溶媒等の必要に応じた補助成分を含む。
【0038】
被覆層塗液の塗布方法は、例えば、バーコート法、スピンコート法、オフセットコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等の公知の方法が用いられればよい。塗液からなる膜の硬化方法は、被覆層22の樹脂成分の硬化型に応じた方法であり、加熱乾燥でもよいし、紫外線照射でもよい。
【0039】
被覆層22の厚さは、銀担持担体の平均粒子径より薄くてもよいし、銀担持担体の平均粒子径よりも厚くてもよいし、銀担持担体の平均粒子径と等しくてもよい。被覆層22の厚さは、第1抗菌層21の厚さよりも薄くてもよいし、第1抗菌層21の厚さよりも厚くてもよいし、第1抗菌層21の厚さと等しくてもよい。
【0040】
被覆層22の厚さは、被覆層22の厚さの均一性、被覆層22の塗工性、被覆層22の機械的な耐久性、および抗菌活性の向上を要求される場合、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。被覆層22の厚さは、被覆層22の第1抗菌層21に対する密着性、および抗菌活性の向上、ならびに被覆層22の硬化に要する負荷の軽減を要求される場合、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0041】
被覆層22の厚さは、抗菌フィルム10の耐水性の向上を要求される場合、第1抗菌層21の厚さよりも厚いことが好ましい。耐水性の向上の実効性を高めることを要求される場合、被覆層22の厚さは、第1抗菌層21の厚さよりも厚いことが好ましい。この際、銀系抗菌剤の平均粒子径は、第1抗菌層21の厚さよりも大きく、第1抗菌層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さいことが好ましい。さらに、第1抗菌層21の総質量に対する銀系抗菌剤の質量の割合は、1質量%以上であることが好ましい。
【0042】
[溶出量Ev]
抗菌フィルム10におけるAgイオンの溶出量Evについて説明する。
抗菌フィルム10の表面、すなわち被覆層22の上面を、純水に24時間密着させたときに、抗菌フィルム10の単位面積あたりに溶出するAgイオンの量は、0.1ng/cm以上である。Agイオンの溶出量Evが0.1ng/cm以上であれば、抗菌フィルム10によって十分な抗菌効果が得られる。
【0043】
抗菌フィルム10は、第1抗菌層21を覆う被覆層22を有するため、抗菌フィルム10が長時間にわたり水に曝された場合にも、第1抗菌層21が含む銀系抗菌剤の溶出が抑えられる。このため、抗菌効果の低下を抑えることができる。
【0044】
単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evは、下記(a)から(d)の方法によって測定される。
(a)抗菌フィルム10を1辺が5cmの正方形状に成形した試験片を用意し、試験片の表面、すなわち被覆層22の上面に、0.4mLの純水を滴下する。そして、純水の滴下後の試験片の表面に、1辺が4cmのポリエチレンフィルムを密着させる。これにより、試験片の表面のうち、ポリエチレンフィルムに覆われている領域が、純水で均一に濡れる。したがって、Agイオンの溶出の測定対象面積は、16cmである。
【0045】
(b)上記(a)の処理後の試験片をシャーレに静置し、このシャーレを、温度:35±1℃、湿度:90%RH以上の環境下に置いて、24時間経過させる。
(c)上記(b)の処理後、試験片の表面を純水で洗い出し、洗い出しに用いた純水を遠沈管に回収する。そして、回収した液を、遠沈管に希硝酸を加えて希釈して、Agイオンの溶出量Evの測定のための抽出液とする。
【0046】
(d)上記(c)の処理により得た抽出液に対し、原子吸光光度法を用いて、Agイオン量を測定する。測定結果に基づき、下記(式1)を用いて、単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evを算出する。
Agイオンの溶出量Ev(ng/cm)=Agイオン量測定結果(ng/mL)×抽出液の量(mL)×抽出液の希釈倍率/測定対象面積(cm)…(式1)
【0047】
[作用]
上記抗菌フィルム10の作用について図2,3を参照して参考例の作用と共に説明する。図2は、被覆層22を備えていない参考例の抗菌フィルムの断面構造を模式的に示す。図3は、本実施形態における抗菌フィルム10の断面構造を模式的に示す。
【0048】
図2に示すように、参考例の抗菌フィルムでは、抗菌フィルムの最表面に、銀系抗菌剤の粒子である抗菌粒子Pmを含む第1抗菌層21が配置される。抗菌粒子Pmは、抗菌フィルムの表面に露出しているか、露出していると見做せる程度に、第1抗菌層21を構成する樹脂の極薄い膜によって覆われている。
【0049】
こうした構成では、抗菌フィルムの表面が水に接触するまでは、抗菌フィルムの抗菌効果が得られやすい。一方、抗菌フィルムの表面が水に接触すると、抗菌粒子Pmが抗菌フィルムの表面から直ちに溶出する。結果として、参考例の抗菌フィルムが水に接触すると、参考例の抗菌フィルムの抗菌効果が失われてしまう。
【0050】
図3に示すように、上記抗菌フィルム10では、第1抗菌層21を被覆層22が覆うため、抗菌粒子Pmが抗菌フィルム10の表面に露出しておらず、抗菌粒子Pmは被覆層22によって覆われている。抗菌粒子Pmが抗菌フィルム10の表面に露出していないと、抗菌フィルム10の抗菌効果が得られないと考えられていた。しかし、本願の発明者による鋭意研究の結果、単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evが0.1ng/cm以上であれば、抗菌粒子Pmが被覆層22に覆われる抗菌フィルム10であっても、十分な抗菌効果が得られることが確認された。そして、抗菌粒子Pmが被覆層22に覆われるため、抗菌フィルム10が水に接触した場合でも、抗菌粒子Pmの溶出が抑えられて、抗菌フィルム10の抗菌効果が得られ続ける。
【0051】
以上、第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)銀系抗菌剤を含む第1抗菌層21が被覆層22によって覆われるため、水が第1抗菌層21に直接接触することが抑えられる。これにより、第1抗菌層21が水に直接接触することによって第1抗菌層21の抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。そのうえ、被覆層22の表面における単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上であるため、第1抗菌層21が被覆層22に覆われる構成であっても、抗菌フィルム10の抗菌効果が得られる。結果として、抗菌フィルム10の耐水性が高まる。
【0052】
(1-2)銀系抗菌剤の混練された樹脂成分の溶融押出によって製造される抗菌フィルム10であれば、銀系抗菌剤の高い保持力による耐水性が得られやすい。一方で、銀系抗菌剤の分散した塗液から製造される抗菌フィルム10では、銀系抗菌剤が水に溶出しやすい。このため、抗菌フィルム10が塗布膜に銀系抗菌剤を含む場合、上記(1-1)に準じた効果が著しい。
【0053】
(1-3)第1抗菌層21の樹脂成分と、被覆層22の樹脂成分とが、アクリル樹脂のように同一種類の樹脂を含む場合、第1抗菌層21と被覆層22との間の密着性が高められる。
【0054】
(1-4)第1抗菌層21の厚さが被覆層22の厚さよりも薄く、かつ銀系抗菌剤の平均粒子径が第1抗菌層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さい場合、被覆層22が水に直接接触することによって抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。このため、抗菌フィルム10が有する本来の抗菌効果について低下が抑えられる。
【0055】
(第2実施形態)
図4図5を参照して、抗菌フィルムの第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1抗菌層21を覆う第2層の構成が第1実施形態とは異なる。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0056】
[抗菌フィルム11の層構成]
図4に示すように、第2実施形態における抗菌フィルム11は、基材20と、第1層の一例である第1抗菌層21と、第2層の一例である第2抗菌層23と、を備える。
【0057】
基材20は、第1実施形態における20と同様の構成を有する。第1抗菌層21は、第1実施形態における第1抗菌層21と同様の構成を有する。第2抗菌層23は、第1抗菌層21に対して基材20とは反対側に配置される。第2抗菌層23は、第1抗菌層21を覆う。第1抗菌層21の上面は、第2抗菌層23に接している。第2抗菌層23の下面は、第1抗菌層21の上面に追従する形状を有する。
【0058】
第2抗菌層23において第1抗菌層21に接する下面とは反対側の上面は、抗菌フィルム11の表面である。第2抗菌層23の上面は、抗菌フィルム11において抗菌作用を発現する作用面である。
【0059】
第1抗菌層21は、抗菌成分と樹脂成分とを含む。第1抗菌層21に含まれる抗菌成分は、銀系抗菌剤である。第2抗菌層23もまた、抗菌成分と樹脂成分とを含む。第2抗菌層23に含まれる抗菌成分もまた、銀系抗菌剤である。銀系抗菌剤を含む第1抗菌層21は、銀系抗菌剤を含む第2抗菌層23に覆われている。
【0060】
第1抗菌層21、および第2抗菌層23は、別々に塗布、および塗液の硬化によって形成される。第1抗菌層21、および第2抗菌層23の各々は、塗布膜である。第1抗菌層21と第2抗菌層23との積層体は、抗菌フィルム11における1つの抗菌層の一例である。抗菌フィルム11の銀系抗菌剤は、基材20と第1抗菌層21との境界、および抗菌フィルム11の抗菌層の厚さ方向における途中にそれぞれ偏在している。抗菌層の厚さ方向における途中は、第1抗菌層21と第2抗菌層23との境界である。基材20と第1抗菌層21との境界、および抗菌層の厚さ方向における途中に銀系抗菌剤が偏在することは、銀系抗菌剤の下部の位置が、基材20と第1抗菌層21との境界、および抗菌層の厚さ方向における途中の特定部位に偏っていることである。
【0061】
<第2抗菌層23>
第2抗菌層23の樹脂成分は、熱硬化性樹脂でもよいし、紫外線硬化性樹脂でもよい。第2抗菌層23を構成する樹脂成分は、銀系抗菌剤を含有しながらも均一な硬化が得られやすい観点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。第2抗菌層23の樹脂成分は、第1抗菌層21の樹脂成分として第1実施形態に例示した樹脂成分の少なくとも1種である。第2抗菌層23の樹脂成分は、第1抗菌層21を構成する樹脂成分と同一でもよいし、異なってもよい。第2抗菌層23が第1抗菌層21に密着しやすい観点から、第2抗菌層23を構成する樹脂成分の少なくとも1種は、第1抗菌層21を構成する樹脂成分に含まれることが好ましい。
【0062】
第2抗菌層23は、第1抗菌層21の上面に、第2抗菌層23を形成するための塗液である第2抗菌層塗液を塗布し、これにより形成された膜の硬化によって形成される。第2抗菌層塗液は、第2抗菌層23の樹脂成分を形成するための主剤や硬化剤、銀系抗菌剤、安定化剤や分散助剤等の必要に応じた助剤を含む。第2抗菌層塗液は、第2層塗液の一例である。
【0063】
第2抗菌層塗液の塗布方法は、例えば、バーコート法、スピンコート法、オフセットコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等の公知の方法である。塗液からなる膜の硬化方法は、第2抗菌層23の樹脂成分の硬化型に応じた方法であり、加熱乾燥でもよいし、紫外線照射でもよい。
【0064】
第2抗菌層23を形成する塗液は、二液硬化型でもよいし、一液硬化型でもよい。二液硬化型の塗液の成分は、第1抗菌層21を形成する塗液の成分として第1実施形態に例示した成分の少なくとも1種である。
【0065】
第2抗菌層23の銀系抗菌剤は、第1抗菌層21の銀系抗菌剤として第1実施形態に例示した銀系抗菌剤の少なくとも1種である。第2抗菌層23を構成する銀系抗菌剤は、第1抗菌層21を構成する銀系抗菌剤と同一でもよいし、異なってもよい。第2抗菌層23を構成する銀担持担体の平均粒子径は、第1抗菌層21を構成する銀担持担体の平均粒子径よりも小さくてもよいし、第1抗菌層21を構成する銀担持担体の平均粒子径よりも大きくてもよいし、第1抗菌層21を構成する銀担持担体の平均粒子径と等しくてもよい。
【0066】
第2抗菌層23の厚さは、第2抗菌層23に含まれる銀担持担体の平均粒子径より薄くてもよいし、当該銀担持担体の平均粒子径よりも厚くてもよいし、当該銀担持担体の平均粒子径と等しくてもよい。第2抗菌層23の厚さは、第1抗菌層21に含まれる銀担持担体の平均粒子径より薄くてもよいし、当該銀担持担体の平均粒子径よりも厚くてもよいし、当該銀担持担体の平均粒子径と等しくてもよい。第2抗菌層23の厚さは、第1抗菌層21の厚さよりも薄くてもよいし、第1抗菌層21の厚さよりも厚くてもよいし、第1抗菌層21の厚さと等しくてもよい。
【0067】
第2抗菌層23の厚さは、第2抗菌層23の厚さの均一性、第2抗菌層23の塗工性、第2抗菌層23の機械的な耐久性、および抗菌活性の向上を要求される場合、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。第2抗菌層23の厚さは、第2抗菌層23の第1抗菌層21に対する密着性の向上、および第2抗菌層23の耐水性の向上を要求される場合、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0068】
抗菌フィルム11が含む銀系抗菌剤の平均粒子径は、抗菌フィルム11の耐水性の向上に実効性を高めることが要求される場合、第1抗菌層21の厚さよりも大きく、かつ第2抗菌層23の厚さよりも大きいことが好ましい。この際、抗菌フィルム11が含む銀系抗菌剤の平均粒子径は、1μm以上3μm以下であることが好ましく、第1抗菌層21の厚さと第2抗菌層23の厚さとの合計は、1μm以上3μm以下であることがさらに好ましい。
【0069】
第2抗菌層23の総質量に対する第2抗菌層23に含まれる銀系抗菌剤の割合は、抗菌フィルム11の耐水性の向上に実効性を高めることが要求される場合、第1抗菌層21の総質量に対する第1抗菌層21に含まれる銀系抗菌剤の割合以上であることが好ましい。この際、抗菌フィルム11が含む銀系抗菌剤の平均粒子径は、1μm以上3μm以下であることが好ましい。また、第1抗菌層21と第2抗菌層23との総質量に対する第1抗菌層21と第2抗菌層23とに含まれる銀系抗菌剤の割合は、0.05質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
[溶出量Ev]
第2実施形態においても、抗菌フィルム11の表面、すなわち第2抗菌層23の上面を、純水に24時間密着させたときの、単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evは、0.1ng/cm以上である。これにより、抗菌フィルム11によって、十分な抗菌効果が得られる。
【0071】
図5に示すように、第1抗菌層21に含まれる抗菌粒子Pm1は、抗菌フィルム11の表面に露出しておらず、抗菌粒子Pm1は、第2抗菌層23が含む樹脂によって覆われている。第2抗菌層23に含まれる抗菌粒子Pm2は、第2抗菌層23が塗布膜であることから、第1抗菌層21と第2抗菌層23との境界付近に沈降しやすく、第1抗菌層21の樹脂成分のなかに粒子下部が埋没するように沈降することもあり得る。そして、基材20に第2抗菌層23が直接に成膜された場合と比較して、抗菌粒子Pm2上の樹脂成分は厚くなりやすい。ただし、抗菌粒子Pm2は、抗菌フィルム11の表面に露出することもあり得る。
【0072】
このように、先の図2に示した参考例の抗菌フィルムと比較して、抗菌フィルム11では、少なくとも第1抗菌層21の抗菌粒子Pm1は溶出しにくい。そして、抗菌フィルム11が水に接触した場合にも、第1抗菌層21の抗菌粒子Pm1が第2抗菌層23の抗菌粒子Pm2と比べて溶出しにくい分だけ、抗菌フィルム11が本来の抗菌効果を失うことが抑えられる。また、第2抗菌層23の抗菌粒子Pm2が第1抗菌層21の抗菌粒子Pm1よりも露出しやすい分だけ、抗菌フィルム11が本来の抗菌効果を発現しやすい。すなわち、抗菌フィルム11は、抗菌フィルム11に含まれる抗菌成分を、水に接触する前に抗菌効果を発現しやすい抗菌粒子Pm1と、水に接触した後に抗菌効果を発現しやすい抗菌粒子Pm2とに二分する。
【0073】
以上、第2実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(2-1)銀系抗菌剤を含む第1抗菌層21が第2抗菌層23によって覆われるため、水が第1抗菌層21に直接接触することが抑えられる。これにより、第1抗菌層21が水に直接接触することによって第1抗菌層21の抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。そのうえ、第2抗菌層23の表面における単位面積あたりに溶出するAgイオンの量が0.1ng/cm以上であるため、第1抗菌層21が第2抗菌層23に覆われる構成であっても、抗菌フィルム11の抗菌効果が得られる。結果として、抗菌フィルム11の耐水性が高まる。
【0074】
(2-2)抗菌フィルム11が塗布膜に銀系抗菌剤を含む場合、上記(1-2)に準じた効果と同じく、上記(2-1)に準じた効果が著しい。
(2-3)抗菌フィルム11が含む銀系抗菌剤の平均粒子径が第1抗菌層21の厚さよりも大きく、かつ第2抗菌層23の厚さよりも大きい場合、上記(2-1)に準じた効果を得る実効性が高まる。
【0075】
(2-4)第2抗菌層23の総質量に対する第2抗菌層23に含まれる銀系抗菌剤の割合が、第1抗菌層21の総質量に対する第1抗菌層21に含まれる銀系抗菌剤の割合以上である場合、第2抗菌層23が水に直接接触することによって抗菌フィルム11の抗菌効果が低下してしまうことが抑えられる。
【0076】
(試験例)
抗菌フィルム10の具体的な試験例を説明する。
<Agイオンの溶出量Evと抗菌効果との関係>
Agイオンの溶出量Evが異なる試験例1~12の抗菌フィルム10を作製して、Agイオンの溶出量Evと抗菌効果との関係を解析した。
【0077】
[抗菌フィルム10の作製]
・抗菌層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗菌剤(PTC-NT ANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、試験例の抗菌層塗液を作製した。
【0078】
・被覆層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、試験例の被覆層塗液を作製した。
【0079】
・第1抗菌層21、および被覆層22の形成
基材20として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材20に試験例の抗菌層塗液をスポイトで1mL~2mLだけ滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて、基材20に試験例の抗菌層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、試験例の第1抗菌層21を形成した。
【0080】
第1抗菌層21が十分に乾燥した後、第1抗菌層21の上に被覆層塗液をスポイトで1mL~2mL滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)を用いて第1抗菌層21に被覆層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、試験例の被覆層22を形成した。
【0081】
基材20、第1抗菌層21、および被覆層22を備える積層体を、温度:40℃,湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、塗布膜のエージングを行った。これにより、試験例の抗菌フィルム10を得た。
【0082】
ここで、抗菌層塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合を、0.100質量%以上1.000質量%以下の範囲で変更し、また被覆層22の厚さを0μm以上7μm以下の範囲で変更することによって、相互にAgイオンの溶出量Evが異なる試験例1~12の抗菌フィルム10を得た。なお、被覆層22の厚さが0μmである試験例は、被覆層22の形成を割愛した試験例であって、被覆層22を備えていない。
【0083】
なお、試験例1~12のすべてについて、第1抗菌層21の厚さは1μmである。第1抗菌層21、および被覆層22の厚さは、ミクロトーム(ウルトラミクロトーム UC7:ライカマイクロシステムズ社製)を用いてブロック切削法により得た抗菌フィルム10の断面を、光学顕微鏡(BX51:オリンパス社製)で観察することにより得た。厚さの測定では、1視野につき5つの測定点での厚さの測定を2視野について実施し、合計で10の測定点の厚さの平均値を、測定対象の層の厚さとした。
【0084】
[Agイオンの溶出量測定]
試験例1~12のそれぞれの抗菌フィルム10について、第1実施形態に記載の方法で、単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evを算出した。Agイオン量の測定には、ファーネス型原子吸光光度計(ZA3700:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0085】
[抗菌活性の測定]
試験例1~12のそれぞれの抗菌フィルム10について、JISZ2801:2010(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠した抗菌試験を実施した。試験条件は下記の通りである。
・菌種:大腸菌(E.coli)、菌株番号NBRC 3972
・菌液接種量:0.4mL
・未加工試験片:各試験例から抗菌剤を割愛されたフィルム。サイズは5cm×5cmとした。
・カバーフィルム:無添加ポリエチレンフィルム
・抗菌活性値Rの計算:下記(式2)により、抗菌活性値Rを求めた。下記(式2)において、生菌数Utは、未加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値、生菌数Atは、抗菌加工試験片(試験例の抗菌フィルム10)の24時間後の生菌数の対数値の平均値を示す。
抗菌活性値R=生菌数Ut-生菌数At …(式2)
【0086】
[評価結果]
表1は、試験例1~12の抗菌フィルム10について、Agイオンの溶出量Ev、および抗菌試験によって得られた抗菌活性値Rを示す。抗菌試験は、試験N1、および試験N2の2回にわたり実施し、それぞれの試験N1,N2で抗菌活性値Rを求めた。図6は、試験例1~12について、Agイオンの溶出量Evと抗菌活性値Rとの関係を示すグラフである。
【0087】
なお、試験例1,2,7の抗菌フィルム10は、被覆層22を割愛されている。試験例3~6,8~12の抗菌フィルム10は、被覆層22を備える。試験例5,6,10,11,12のAgイオンの溶出量Evは、検出限界以下であった。
【0088】
【表1】

抗菌フィルム10として抗菌効果を得るためには、抗菌活性値Rが2.0以上であることが必要であり、抗菌活性値Rが3.0以上であることが好ましい。抗菌活性値Rが2.0未満である場合には、抗菌効果がないと判断され、抗菌フィルム10としての性能が不十分である。
【0089】
表1、および図6に示すように、Agイオンの溶出量Evが0.1ng/cm以上であれば、被覆層22を有する抗菌フィルム10であっても、2回の抗菌試験の双方で2.0以上の抗菌活性値Rが得られていることから、安定した抗菌効果が得られることが確認された。
【0090】
(実施例)
実施例1~12、および比較例1~4の抗菌フィルム10を作製して、抗菌フィルム10の耐水性について解析した。
【0091】
[実施例1]
・第1層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合が0.100質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、実施例1の第1層塗液を作製した。
【0092】
・第2層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、実施例1の第2層塗液を作製した。
【0093】
・第1層、および第2層の形成
基材20として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材20に実施例1の第1層塗液をスポイトで1mL~2mLだけ滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて、基材20に実施例1の第1層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、実施例1の第1層を形成した。
【0094】
第1層が十分に乾燥した後、第1層上に第2層塗液をスポイトで1mL~2mL滴下して、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#5のバーを用いて、実施例1の第2層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、実施例1の第2層を形成した。
【0095】
基材20、第1層、および第2層を備える積層体を、温度:40℃,湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、塗布膜のエージングを行った。これにより、0.100質量%の銀系抗菌剤を含む1.0μmの第1層に、0.3μmの第2層が積層された、実施例1の抗菌フィルム10を得た。実施例1の抗菌フィルム10は、第1層として第1抗菌層21、第2層として被覆層22を有し、第1実施形態における抗菌フィルム10に相当する。
【0096】
[実施例2]
実施例1の製法から、第2層のコーターバーをワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーに変更し、それ以外に実施例1と同様の製法を用いて、実施例2の抗菌フィルム10を形成した。これにより、1.0μmの第1抗菌層21に1.0μmの被覆層22が積層された、実施例2の抗菌フィルム10を得た。
【0097】
[実施例3]
実施例1の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を1.000質量%に、第2層のコーターバーをワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーにそれぞれ変更し、これら以外に実施例1と同様の製法を用いて、実施例3の抗菌フィルム10を形成した。これにより、1.000質量%の銀系抗菌剤を含む1.0μmの第1抗菌層21に、3.0μmの被覆層22が積層された、実施例3の抗菌フィルム10を得た。
【0098】
[実施例4]
実施例1の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を5.000質量%に、第2層のコーターバーをワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーにそれぞれ変更し、これら以外に実施例1と同様の製法を用いて、実施例4の抗菌フィルム10を形成した。これにより、5.000質量%の銀系抗菌剤を含む1.0μmの第1抗菌層21に、3.0μmの被覆層22が積層された、実施例4の抗菌フィルム10を得た。
【0099】
[実施例5]
・第1層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合が0.050質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、実施例5の第2層塗液を作製した。
【0100】
・第2層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合が0.050質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、実施例5の第1層塗液を作製した。
【0101】
・第1層、および第2層の形成
基材20として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材20に実施例5の第1層塗液をスポイトで1mL~2mLだけ滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて、基材20に実施例5の第1層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、実施例5の第1層を形成した。
【0102】
第1層が十分に乾燥した後、第1層上に実施例5の第2層塗液をスポイトで1mL~2mLだけ滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて、実施例5の第1層上に実施例5の第2層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、実施例5の第2層を形成した。
【0103】
これにより、0.050質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1層に、0.050質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2層が積層された、実施例5の抗菌フィルム11を得た。実施例5の抗菌フィルム11は、第1層として第1抗菌層21を有し、第2層として第2抗菌層23を有する、第2実施形態における抗菌フィルム11に相当する。
【0104】
[実施例6]
実施例5の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.075質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.025質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例5と同様の製法を用いて、実施例6の抗菌フィルム11を形成した。これにより、0.075質量%の銀系抗菌剤を有した0.5μmの第1抗菌層21に、0.025質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23が積層された、実施例6の抗菌フィルム11を得た。
【0105】
[実施例7]
実施例5の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.090質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.010質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例5と同様の製法を用いて、実施例7の抗菌フィルム11を形成した。これにより、0.090質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.010質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23が積層された、実施例7の抗菌フィルム11を得た。
【0106】
[実施例8]
実施例5の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.025質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.075質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例5と同様の製法を用いて、実施例8の抗菌フィルム11を形成した。これにより、0.025質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.075質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23が積層された、実施例8の抗菌フィルム11を得た。
【0107】
[実施例9]
実施例5の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.010質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.090質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例5と同様の製法を用いて、実施例9の抗菌フィルム11を形成した。これにより、0.010質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.090質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23が積層された、実施例9の抗菌フィルム11を得た。
【0108】
[実施例10]
実施例5の製法から、第1層塗液、および第2層塗液のそれぞれの銀系抗菌剤を、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 S1:大日精化工業社製、銀担持量:2質量%、平均粒子径:1μm(体積基準メジアン径))に変更した。そして、実施例5の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.113質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.038質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例5と同様の製法を用いて、実施例10の抗菌フィルムを形成した。これにより、0.113質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.038質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23を積層した、実施例10の抗菌フィルムを得た。
【0109】
[実施例11]
実施例10の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.075質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.075質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例10と同様の製法を用いて、実施例11の抗菌フィルムを形成した。これにより、0.075質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.075質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23を積層した、実施例11の抗菌フィルムを得た。
【0110】
[実施例12]
実施例10の製法から、第1層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.038質量%に、第2層塗液の固形分中の銀系抗菌剤の割合を0.113質量%にそれぞれ変更し、これら以外に実施例10と同様の製法を用いて、実施例12の抗菌フィルムを形成した。これにより、0.038質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第1抗菌層21に、0.113質量%の銀系抗菌剤を含む0.5μmの第2抗菌層23を積層した、実施例12の抗菌フィルムを得た。
【0111】
[比較例1]
・第1層塗液の調製
アクリル化合物を含む主剤(UCクリアー:DIC社製)と、イソシアネートを含むウレタン硬化剤(W-325N:DIC社製)とを用い、主剤と硬化剤との乾燥重量の比が、主剤:硬化剤=10.0:1.7となるように、主剤と硬化剤とを混合した。この混合液に、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 ST:大日精化工業社製、銀担持量:3質量%、平均粒子径:3μm(体積基準メジアン径))を、塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合が0.100質量%となるように添加した。この際、溶媒として酢酸エチル(関東化学製、鹿1級)を用い、塗液中の固形分濃度が0.08質量%となるように溶媒を添加し、マグネチックスターラーを用いて十分に混合することにより、比較例1の第1層塗液を作製した。
【0112】
・第1層の形成
基材20として、A4サイズに切り出したポリエチレンテレフタラート製の二軸延伸フィルム(コスモシャインA4260:東洋紡社製、厚さ:50μm)を用いた。基材20に比較例1の第1層塗液をスポイトで1mL~2mLだけ滴下し、ワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて、基材20に比較例1の第1層塗液を塗工した。塗工後の膜を、80℃に加熱した大気オーブンで1分間乾燥することにより、比較例1の第1層を形成した。
【0113】
基材20、および第1層を備える積層体を、温度:40℃,湿度:20%RHの恒温槽内に96時間静置して、塗布膜のエージングを行った。これにより、1.0μmの第1層を備えた、比較例1の抗菌フィルム10を得た。比較例1の抗菌フィルム10は、第1層として第1抗菌層21を有し、第2層を有さない。比較例1の抗菌フィルム10は、第2層を割愛された第1実施形態、および第2実施形態における抗菌フィルム10に相当する。
【0114】
[比較例2]
比較例1の製法から、第1層塗液の銀系抗菌剤を、銀系抗菌剤(PTC-NTANV 添加剤 S1:大日精化工業社製、銀担持量:2質量%、平均粒子径:1μm(体積基準メジアン径))に変更した。そして、比較例1の製法から、第1塗液中の固形分における銀系抗菌剤の割合を0.150質量%に変更し、これら以外に比較例1と同様の製法を用いて、比較例2の抗菌フィルムを形成した。これにより、0.150質量%の銀系抗菌剤を含む1.0μmの厚さを有した第1抗菌層21を有し、第2層を有さない比較例2の抗菌フィルム10を得た。
【0115】
[比較例3]
実施例1の製法における第2層の形成に際し、第2層塗液をワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて3回にわたり塗り重ねるように変更し、それ以外に実施例1と同様の製法を用いて、比較例3の抗菌フィルムを得た。
【0116】
[比較例4]
実施例1の製法における第2層の形成に際し、第2層塗液をワイヤレスバーコーター(A-Bar:三井電気精機社製)の#18のバーを用いて5回にわたり塗り重ねるように変更し、それ以外に実施例1と同様の製法を用いて、比較例4の抗菌フィルムを得た。
【0117】
[Agイオンの溶出量測定]
実施例1~12、および比較例1~4のそれぞれの抗菌フィルム10,11について、第1実施形態に記載の方法で、単位面積あたりのAgイオンの溶出量Evを算出した。Agイオン量の測定には、ファーネス型原子吸光光度計(ZA3700:日立ハイテクサイエンス社製)を用いた。
【0118】
[抗菌活性の測定]
実施例1~12、および比較例1~4のそれぞれの抗菌フィルム10,11について、耐水試験前の試験片による抗菌試験、および耐水試験後の試験片による抗菌試験を実施した。
【0119】
抗菌試験は、JISZ2801:2010(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠して実施した。試験条件は下記の通りである。
・菌種:大腸菌(E.coli)、菌株番号NBRC 3972
・菌液接種量:0.4mL
・未加工試験片:実施例、および比較例から抗菌剤を割愛されたフィルム。サイズは5cm×5cmとした。
・カバーフィルム:無添加ポリエチレンフィルム
・抗菌活性値Rの計算:下記(式2)により、抗菌活性値Rを求めた。下記(式2)において、生菌数Utは、未加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値、生菌数Atは、抗菌加工試験片(実施例、および比較例の抗菌フィルム10,11)の24時間後の生菌数の対数値の平均値を示す。
抗菌活性値R=生菌数Ut-生菌数At…(式2)
【0120】
耐水試験は、実施例1~12、および比較例1~4のそれぞれの抗菌フィルム10,11から切り出された5cm×5cmの大きさを有する試験片を用いた。次に、試験片の塗布膜が水面に接するように、50mLの純水を入れられたシャーレに試験片を浮かべて、塗布膜が水面に接する状態を25℃の恒温槽で18時間にわたり保管した。そして、18時間後試験片を水面から離して、水面に接していた塗布膜から水分を拭き取り、塗布膜の表面をエタノールで清浄化して、耐水試験後の抗菌試験に用いる試験片を得た。
【0121】
[評価結果]
表2は、実施例1~12、および比較例1~4の抗菌フィルム10,11について、Agイオンの溶出量Ev、および耐水試験前後の抗菌活性値Rを示す。
【表2】
【0122】
実施例1~4の抗菌フィルム10は、銀系抗菌剤を含まない被覆層22に第1抗菌層21を覆われているにも関わらず、0.45ng/cm以上1.85ng/cm以下のAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。実施例1~4の抗菌フィルム10は、耐水試験後にも十分に高い抗菌活性値Rを有することが認められた。そして、実施例1~4の抗菌フィルム10は、耐水試験の前後にそれぞれ抗菌効果を有することが認められた。
【0123】
実施例1の抗菌フィルム10で耐水試験後に抗菌活性値Rが減少する一方、実施例2、および実施例3の抗菌フィルム10では、耐水試験後に抗菌活性値Rが増加、あるいは維持される。このため、第1抗菌層21の厚さが被覆層22の厚さよりも薄く、かつ銀系抗菌剤の平均粒子径が、第1抗菌層21の厚さと被覆層22の厚さとの合計よりも小さい場合、被覆層22によって耐水性の高まる実効性が高められることが認められた。
【0124】
なお、実施例1の抗菌フィルム10が実施例2の抗菌フィルム10よりも高いAgイオンの溶出量Evを有するため、被覆層22の厚さが厚いほどAgイオンの溶出量Evが減少することが認められた。実施例3の抗菌フィルム10が実施例4の抗菌フィルム10よりも高いAgイオンの溶出量Evを有するため、第1抗菌層21に含まれる銀系抗菌剤の密度が高いほどAgイオンの溶出量Evが増加することが認められた。
【0125】
実施例5~9の抗菌フィルム11は、銀系抗菌剤を含む第2抗菌層23からAgイオンが溶出するため、0.17ng/cm以上0.32ng/cm以下のAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。また、実施例5~9の抗菌フィルム11は、銀系抗菌剤を含む塗布膜に水面を接触させていたにも関わらず、耐水試験後にも十分に高い抗菌活性値Rを有することが認められた。そして、実施例5~9の抗菌フィルム11は、耐水試験の前後にそれぞれ抗菌効果を有することが認められた。
【0126】
実施例10~12の抗菌フィルム11は、銀系抗菌剤を含む第2抗菌層23からAgイオンが溶出するため、0.11ng/cm以上0.16ng/cm以下のAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。また、実施例10~12の抗菌フィルム11は、銀系抗菌剤を含む塗布膜に水面を接触させていたにも関わらず、耐水試験後にも十分に高い抗菌活性値Rを有することが認められた。そして、実施例10~12の抗菌フィルム11は、耐水試験の前後にそれぞれ抗菌効果を有することが認められた。
【0127】
実施例5~12の抗菌フィルム11では、いずれにおいても耐水試験後において抗菌効果が認められた。このため、抗菌フィルム11の含む銀系抗菌剤の平均粒子径が第1抗菌層21の厚さよりも大きく、かつ第2抗菌層23の厚さよりも大きい場合、被覆層22によって耐水性の高まる実効性が高められることが認められた。
【0128】
実施例10の抗菌フィルム11で耐水試験後に抗菌活性値Rが減少する一方、実施例11および実施例12の抗菌フィルム11では、耐水試験後に抗菌活性値Rが増加、あるいは維持される。このため、第2抗菌層23における銀系抗菌剤の含有率が第1抗菌層21における銀系抗菌剤の含有率以上である場合、被覆層22によって耐水性の高まる実効性が高められることが認められた。
【0129】
比較例1の抗菌フィルム10は、被覆層22に第1抗菌層21を覆われていないため、1.07ng/cmという高いAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。そして、比較例1の抗菌フィルム10は、耐水試験前であれば抗菌効果を有する一方、耐水試験後では抗菌効果を失ってしまうことが認められた。比較例2の抗菌フィルム10は、被覆層22に第1抗菌層21を覆われていないが、銀系抗菌剤の平均粒径が小さいため、比較例1の抗菌フィルム10よりも低い0.19ng/cmのAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。ただし、比較例2の抗菌フィルム10は、比較例1の抗菌フィルム10と同じく、耐水試験前であれば抗菌効果を有する一方、耐水試験後では抗菌効果を失ってしまうことが認められた。
【0130】
比較例3の抗菌フィルム10は、第1抗菌層21における銀系抗菌剤の割合が0.100質量%であって、かつ被覆層22に第1抗菌層21を覆われているため、0.07ng/cmという低いAgイオンの溶出量Evを有することが認められた。そして、比較例3の抗菌フィルム10は、耐水試験前であれば抗菌効果を有することも認められた。ただし、比較例3の抗菌フィルム10では、第1抗菌層21における銀系抗菌剤の割合が0.100質量%であるため、耐水試験後の抗菌効果が実施例3のようには得られず、耐水試験後では抗菌効果を失ってしまうことが認められた。
【0131】
比較例4の抗菌フィルム10は、第1抗菌層21における銀系抗菌剤の割合が0.100質量%であって、かつ比較例3よりも厚い被覆層22に第1抗菌層21を覆われているため、Agイオンの溶出量Evが認められなかった。そして、比較例4の抗菌フィルム10では、耐水試験前であれ耐水試験後であれ、抗菌効果を有しないことが認められた。
【0132】
上記各実施形態、および実施例は、以下のように変更して実施することもできる。
・第1抗菌層21は、塗布膜に限らず、銀系抗菌剤を練り込んだ樹脂成分の溶融押出によって形成されてもよい。被覆層22は、樹脂成分の溶融押出によって形成されてもよい。第2抗菌層23は、塗布膜に限らず、銀系抗菌剤を練り込んだ樹脂成分の溶融押出によって形成されてもよい。なお、上記(1-2)に記載したように、抗菌フィルム10が塗布膜に銀系抗菌剤を含む場合であれば、上記(1-1)(2-1)に準じた効果が著しい。
【符号の説明】
【0133】
Pm,Pm1,Pm2…抗菌粒子
10,11…抗菌フィルム
20…基材
21…第1抗菌層
22…被覆層
23…第2抗菌層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6