(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062540
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、および、弾性波デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240501BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170430
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】518453730
【氏名又は名称】三安ジャパンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098202
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕臣
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA26
5J097BB02
5J097BB11
5J097EE08
5J097FF04
5J097HA03
5J097JJ06
5J097JJ09
5J097KK10
(57)【要約】
【課題】弾性波デバイスを構成するデバイスチップの熱を外部に放熱しやすくする構造を、その構造の複雑化を招くことなく、かつ、その製造工程の複雑化を招くことなく、合理的に備えさせる。
【解決手段】共振器7の形成された機能面3aと、この機能面3aに対向する背面3bとを持ったデバイスチップ3を備えてなる弾性波デバイス1である。前記機能面3aは、所定の境界Lに囲まれた面内に前記共振器7を位置させる主要面部3eと、前記主要面部3e外に位置される付随面部3gとからなり、前記デバイスチップ3における前記主要面部3eと前記背面3bとに挟まれた部分となる主要部3fの体積に占める圧電体3rの割合が、前記デバイスチップ3における前記付随面部3gと前記背面3bとに挟まれた部分となる付随部3hの体積に占める前記圧電体rの割合よりも大きくなるようにしてなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器の形成された機能面と、この機能面に対向する背面とを持ったデバイスチップを備えてなる弾性波デバイスであって、
前記機能面は、所定の境界に囲まれた面内に前記共振器を位置させる主要面部と、前記主要面部外に位置される付随面部とからなり、
前記デバイスチップにおける前記主要面部と前記背面とに挟まれた部分となる主要部の体積に占める圧電体の割合が、前記デバイスチップにおける前記付随面部と前記背面とに挟まれた部分となる付随部の体積に占める前記圧電体の割合よりも大きくなるようにしてなる、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記付随部の全体又はその一部を、前記圧電体よりも熱伝導率の高いセラミクスから構成させてなる、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
共振器の形成された機能面と、この機能面に対向する背面とを持ったデバイスチップを備えてなる弾性波デバイスであって、
前記機能面は、所定の境界に囲まれた面内に前記共振器を位置させる主要面部と、前記主要面部外に位置される付随面部とからなり、
前記デバイスチップにおける前記付随面部と前記背面とに挟まれた部分となる付随部の体積に占める熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合が、前記デバイスチップにおける前記主要面部と前記背面とに挟まれた部分となる主要部の体積に占める前記熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合よりも大きくなるようにしてなる、弾性波デバイス。
【請求項4】
前記主要部を構成する島状残存部と、この島状残存部の周囲にあって前記主要面部よりも前記背面側に位置する受け面を形成させるエッチング加工部と、このエッチング加工部の前記受け面上に堆積されて前記付随部を構成する埋め戻し部とを備えてなる、請求項1又は請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
請求項1又は請求項3に記載の弾性波デバイスの製造方法であって、
前記デバイスチップとなるウエハの一面に共振器を形成するステップと、
前記ウエハの他面側であって前記デバイスチップの前記主要部となる領域にマスクすると共に、前記デバイスチップの前記付随部となる領域にエッチングを施すステップと、
前記エッチングが施された領域にセラミクスを堆積させて埋め戻すステップとを含む、弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モバイル通信機器などにおいて周波数フィルタなどとして使用するのに適した弾性波デバイスの改良、および、その製造に適した製造方法の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信機器などにおいて周波数フィルタなどとして使用される弾性波デバイスとして、パッケージ基板にバンプを介してデバイスチップを実装させてなるものがある(
図12参照)。
【0003】
図12中、符号100はパッケージ基板、符号101はデバイスチップ、符号102はバンプ、符号103はデバイスチップ側に形成されたバンプパッド(電極パッド)、符号104はパッケージ基板100側に形成されたバンプパッド(電極パッド)、符号105は弾性波デバイスをマザーボードに接続するための外部電極パッドである。デバイスチップ101とパッケージ基板100との間には前記バンプ102及びバンプパッド103、104の厚さ分の隙間が形成される。パッケージ基板100の一面側には封止樹脂層106が前記隙間を気密封止するように形成されており、これにより弾性波デバイスは中空構造部107(内部空間ないしエアキャビティ)を備えている。デバイスチップ101は前記中空構造部107に臨んだ領域にIDT電極を含む共振器108などの機能素子を有している。
【0004】
ここで、弾性波デバイスにおいては少なからず挿入損失により熱が生じるが、デバイスチップを構成する圧電体は熱伝導率が低く放熱性が悪い。圧電体として利用されるタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムの熱伝導率は約4から6W/mK程度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、この種の弾性波デバイスに対し、これを構成するデバイスチップの熱を外部に放熱しやすくする構造を、その構造の複雑化を招くことなく、かつ、その製造工程の複雑化を招くことなく、合理的に備えさせる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、第一の観点から、弾性波デバイスを、共振器の形成された機能面と、この機能面に対向する背面とを持ったデバイスチップを備えてなる弾性波デバイスであって、
前記機能面は、所定の境界に囲まれた面内に前記共振器を位置させる主要面部と、前記主要面部外に位置される付随面部とからなり、
前記デバイスチップにおける前記主要面部と前記背面とに挟まれた部分となる主要部の体積に占める圧電体の割合が、前記デバイスチップにおける前記付随面部と前記背面とに挟まれた部分となる付随部の体積に占める前記圧電体の割合よりも大きくなるようにしてなる、ものとした。
【0007】
前記付随部の全体又はその一部を、セラミクスから構成させるようにすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0008】
また、前記課題を達成するために、この発明にあっては、第二の観点から、弾性波デバイスを、
共振器の形成された機能面と、この機能面に対向する背面とを持ったデバイスチップを備えてなる弾性波デバイスであって、
前記機能面は、所定の境界に囲まれた面内に前記共振器を位置させる主要面部と、前記主要面部外に位置される付随面部とからなり、
前記デバイスチップにおける前記付随面部と前記背面とに挟まれた部分となる付随部の体積に占める熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合が、前記デバイスチップにおける前記主要面部と前記背面とに挟まれた部分となる主要部の体積に占める前記熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合よりも大きくなるようにしてなる、ものとした。
【0009】
また、前記第一の観点および第二の観点にかかる弾性波デバイスを、前記主要部を構成する島状残存部と、この島状残存部の周囲にあって前記主要面部よりも前記背面側に位置する受け面を形成させるエッチング加工部と、このエッチング加工部の前記受け面上に堆積されて前記付随部を構成する埋め戻し部とを備えたものとすることが、この発明の態様の一つとされる。
【0010】
また、前記課題を達成するために、この発明にあっては、第三の観点から、弾性波デバイスの製造方法を、前記第一の観点および第二の観点にかかる弾性波デバイスの製造方法であって、
前記デバイスチップとなるウエハの一面に共振器を形成するステップと、
前記ウエハの他面側であって前記デバイスチップの前記主要部となる領域にマスクすると共に、前記デバイスチップの前記付随部となる領域にエッチングを施すステップと、
前記エッチングが施された領域にセラミクスを堆積させて埋め戻すステップとを含む、ものとした。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、この種の弾性波デバイスを構成するデバイスチップの熱を外部に放熱しやすくする構造を、デバイスチップにおける前記主要部と前記付随部とを前記のように構成することにより、その構造の複雑化を招くことなく、かつ、その製造工程の複雑化を招くことなく、合理的に備えさせることができる。これによって、付随部を通じてデバイスチップの外部に熱を逃がしやすくして、弾性波デバイスの耐電力性などの信頼性を適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、この発明の一実施の形態にかかる弾性波デバイスを構成するデバイスチップの構成図であり、
図2のA-A線位置でデバイスチップを見て示している。
【
図2】
図2は、前記弾性波デバイスの断面構成図であり、
図1におけるB-B線相当位置で断面にしている。
【
図3】
図3は、前記弾性波デバイスの断面構成図であり、
図1におけるC-C線相当位置で断面にしている。
【
図4】
図4は、前記弾性波デバイスの断面構成図であり、
図1におけるD-D線相当位置で断面にしている。
【
図5】
図5は、前記弾性波デバイスを構成するデバイスチップの斜視構成図である。
【
図6】
図6は、前記デバイスチップに形成される共振器の一例を示した構成図である。
【
図7】
図7は、前記デバイスチップに形成される回路の一例を示した構成図である。
【
図8】
図8は、前記弾性波デバイスの製造工程中のステップの一つを示した平面構成図であり、前記デバイスチップとなるウエハの一部の様子を示している。
【
図9】
図9は、前記弾性波デバイスのの製造工程の各ステップを示した要部断面構成図であり、a図、b図、c図、d図の順で進行する。
【
図10】
図10は、前記弾性波デバイスのの製造工程の各ステップを示した要部断面構成図であり、
図9に続く工程を示しており、e図、f図の順で進行する。
【
図12】
図12は、従来の弾性波デバイスの断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1~
図11に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について、説明する。この実施の形態にかかる弾性波デバイス1は、モバイル通信機器などにおいて周波数フィルタなどとして使用するのに適したものである。
【0014】
かかる弾性波デバイス1は、パッケージ基板2の一面2aに、共振器7の形成された機能面3aを向き合わせて前記パッケージ基板2に実装されたデバイスチップ3を備えている。
【0015】
典型的には、前記デバイスチップ3は、一辺を0.5ないし1mmとし、厚さを0.15ないし0.2mmとする四角形の板状をなすように構成される。また、前記パッケージ基板2は、一辺を0.7ないし3mmとし、厚さを0.15ないし0.2mmとする四角形の板状をなすように構成される。弾性波デバイス1は厚さを0.4ないし0.6mm程度とする。
【0016】
その断面構造を
図2に示す。図中符号3はデバイスチップ、符号3aはその機能面、符号3bは機能面3aに対向する背面、符号7は共振器、符号3cはデバイスチップ3側のバンプパッド(電極パッド)、符号2はパッケージ基板、符号2bはパッケージ基板2側のバンプパッド、符号4は金などの導電性金属からなるバンプ、符号2cはパッケージ基板2の前記一面2aに対向する他面に形成された弾性波デバイス1を図示しないマザーボードに接続するための外部電極パッドである。
【0017】
前記共振器7を含む前記デバイスチップ3側の回路9(
図7に一例を示す。)と前記パッケージ基板2側の回路(図示は省略する。)とは、デバイスチップ3側のバンプパッド3cとパッケージ基板2側のバンプパッド2bとの間に介在されて、両バンプパッド2b、3cにそれぞれ固着されたバンプ4によって電気的に接続されている。バンプパッド2b、3cおよびバンプ4はなじみの良い金属同士、典型的には金やアルミニウムから構成されて接合される。
【0018】
パッケージ基板2の一面2a(デバイスチップ3の実装側の面)とこの一面2aに向き合うデバイスチップ3の機能面3aとの間には、前記バンプ4及びバンプパッド2b、3cの厚さ分の隙間が形成される。
【0019】
このようにパッケージ基板2の一面2a上にデバイスチップ3を実装させた状態から、パッケージ基板2の一面2a側に、封止樹脂層5が形成される。封止樹脂層5は、デバイスチップ3の機能面3aに対向する背面3bと、デバイスチップ3の厚さ方向に沿った側面3dとを覆うと共に、デバイスチップ3の縁側においてデバイスチップ3とパッケージ基板2との間の前記隙間に入り込んでデバイスチップ3の全周に亘って前記隙間を気密封止している。これにより、デバイスチップ3の機能面3aとパッケージ基板2の一面2aとの間には中空構造部6(内部空間ないしエアキャビティ)が形成されている。
【0020】
デバイスチップ3は、前記機能面3aにおける中空構造部6に臨んだ部分に、共振器7を備えたものとなっている。
【0021】
デバイスチップ3は、弾性波を伝搬させる機能を持つ。デバイスチップ3には、典型的には、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの圧電体3rが用いられる。また、デバイスチップ3は、これら圧電体3rを、サファイア、シリコン、アルミナ、スピネル、水晶またはガラスなどの支持体3sに積層させて、構成される場合もある。
【0022】
図6にSAWフィルタとなる共振器7の一例を示す。共振器7はIDT電極7cと、IDT電極7cを挟むようにして形成される反射器7dとを有する。IDT電極7cは、電極対からなり、各電極対は弾性波の伝搬方向xに長さ方向を交叉させるように平行配列された複数の電極指7e同士をこれらの一端側においてバスバー7fで接続させてなる。反射器7dは、弾性波の伝搬方向xに長さ方向を交叉させるように平行配列された複数の電極指7eの端部間をバスバー7fで接続させてなる。
かかる共振器7は、典型的には、フォトリソグラフィ技術により形成された導電性金属膜によって構成される。
また、かかる共振器7は、一つのデバイスチップ3上に、複数形成される場合もある。
【0023】
図7に一つのデバイスチップ3上に備えられる回路9の一例の概念を示す。符号7aは入出力ポート間に直列に接続された共振器7、符号7bは入出力ポート間に並列に接続された共振器7、符号8はグランド、符号9aは配線パターンを示す。共振器7の数や配置は必要に応じて変更される。すなわち、
図7の回路によってラダー型フィルタが構成されるようになっている。
【0024】
デバイスチップ3における機能面3aは、主要面部3eと付随面部3gとから構成されている。主要面部3eは、機能面3aの一部であって、所定の境界Lに囲まれた面内に前記共振器7を位置させる領域である。付随面部3gは、機能面3aの一部であって、前記主要面部3e外に位置される領域である。
【0025】
前記境界Lは、デバイスチップ3の設計において設定される境界であって、図示の例では機能面3aに認識可能な形で設けられてはいない。典型的には、
図6に示されるように、共振器7を構成するパターンとの間に5μm程度の距離sを開けた位置を境界Lとして設定する。
【0026】
図示の例では、前記境界Lは、デバイスチップ3の一辺に平行をなす境目L1(境界線)と、前記一辺に隣り合う他の一辺に平行をなす境目L2とを持つ設定となっている。例えば、
図1における一番上に位置される主要面部3eは、
図1の上下方向に間隔を開けて規定された一対の境目L1と、
図1の左右方向に間隔を開けて規定された一対の境目L2とによって囲まれた左右方向に長い四角形の領域として設定されている。
【0027】
図示の例では、デバイスチップ3の機能面3aに複数の共振器7が形成されており、各共振器7に対応して機能面3aに複数の主要面部3eが設定されている。
【0028】
デバイスチップ3の機能面3aにおける前記のように設定された主要面部3e以外の領域が前記付随面部3gとして設定される。図示の例では、おおむね、デバイスチップ3の四つの隅部3iの近傍に位置する領域と、隣り合う隅部3i間に亘る四つの縁部3jの近傍に位置する領域とが、付随面部3gに設定されている。また、隣り合う主要面部3e間に挟まれた領域も付随面部3gに設定されている。図示の例では、かかる付随面部3gに、バンプパッド3c、および、配線パターン9a(
図1において図示は省略する。)が形成されるようになっている。図示の例では、各主要面部3eは付随面部3gに取り囲まれた状態になっており、また、主要面部3eとデバイスチップ3の縁部との間にはいずれの位置においても付随面部3gが位置されるようになっている。
【0029】
そして、この実施の形態にあっては、前記デバイスチップ3における前記主要面部3eと前記背面3bとに挟まれた部分となる主要部3fの体積に占める圧電体3rの割合が、前記デバイスチップ3における前記付随面部3gと前記背面3bとに挟まれた部分となる付随部3hの体積に占める圧電体3rの割合よりも大きくなるようにしてある。
【0030】
より具体的には、かかる主要部3fとは、デバイスチップ3における、主要面部3eと、デバイスチップ3の機能面3aに直交する向きから主要面部3eを見たときにこの主要面部3eの真裏に位置される主要面部3eと実質的に等しい広さと主要面部3eに倣った輪郭とを持ったデバイスチップ3の背面3bの一部(以下、この背面3bの一部を対応主要面部3kと称する。)とに挟まれた部分を意味している。
そして、より具体的には、前記付随部3hとは、デバイスチップ3における前記主要部3f以外の部分を意味している。
【0031】
弾性波デバイスにおいては少なからず挿入損失により熱が生じるが、デバイスチップ3を構成する圧電体3rは熱伝導率が低く放熱性が悪い。前記タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムの熱伝導率は約4から6W/mK程度である。前記のようにデバイスチップ3に主要面部3eとそれに対応した主要部3f、付随面部3gとそれに対応した付随部3hを設定し、主要部3fの体積に占める圧電体3rの割合が付随部3hの体積に占める圧電体3rの割合よりも大きく、すなわち、付随部3hの体積に占める圧電体3rの割合が主要部3fの体積に占める圧電体3rの割合よりも小さくなるようにすれば、付随部3hを通じてデバイスチップ3の外部に熱を逃がしやすくして、弾性波デバイスの耐電力性などの信頼性を向上させることが可能となる。
【0032】
主要部3fの体積は、おおむね主要面部3eと対応主要面部3kとデバイスチップ3の厚さ(機能面3aと背面3bとの間の距離)とにより算出される。付随部3hの体積は、デバイスチップ3の全体積から主要部3fの体積を除いた値となる。
【0033】
好ましくは、前記デバイスチップ3における付随部3hの体積に占める熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合が、前記デバイスチップ3における主要部3fの体積に占める前記熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合よりも大きくなるようにする。
【0034】
かかる付随部3hは、その全体又はその一部を、圧電体3rよりも熱伝導率の高いセラミクスから構成させることが好ましい。
かかるセラミクスとしては、典型的には、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナを用いることが好ましい。
セラミクスの形成条件によって値に差は生じるものの、窒化アルミニウムの熱伝導率は130ないし230W/mK程度、窒化ケイ素の熱伝導率は20ないし100W/mK程度、アルミナの熱伝導率は20ないし40W/mK程度である。
【0035】
より詳細には、図示の例では、前記デバイスチップ3は、前記主要部3fを構成する島状残存部3mと、この島状残存部3mの周囲にあって前記主要面部3eよりも前記背面3b側に位置する受け面3oを形成させるエッチング加工部3nと、このエッチング加工部3nの前記受け面3o上に堆積されて前記付随部3hを構成する埋め戻し部3pとを備えた構成となっている。
【0036】
デバイスチップ3となる後述のウエハ10を全体として圧電体3rによって構成した場合、
図2~
図4に示されるように、島状残存部3mは主要面部3eと背面3bとに亘る範囲で圧電体3rによって構成される。
この場合、埋め戻し部3pを圧電体3rよりも熱伝導率の高いセラミクスによって構成することで、付随部3hの体積に占める圧電体3rの割合を主要部3fの体積に占める圧電体3rの割合よりも小さくすることができる。
【0037】
一方、デバイスチップ3となる後述のウエハ10を、
図11に示されるように、機能面3a側に位置されるタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムからなる圧電体3rと、背面側に位置する支持体3sとの積層構造とした場合、島状残存部3mは主要面部3e側では圧電体3rにより構成され、背面3b側では支持体3sによって構成される。
この場合、埋め戻し部3pを熱伝導率を10W/mK以上とする物質によって構成することで、付随部3hの体積に占める熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合を主要部3fの体積に占める熱伝導率を10W/mK以上とする物質の割合よりも大きくすることができる。
【0038】
いずれの場合も、デバイスチップ3の機能面3aは全体としてタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムからなる圧電体3rにより構成される。一方、デバイスチップ3の背面3bは、
図1~
図10に示される場合には対応主要面部3kではタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムからなる圧電体3rにより構成され、付随面部3gではセラミクスにより構成され、
図5に示されるように両者の境界Lが認識可能となる。また、デバイスチップ3の裏面は、
図11に示される場合には対応主要面部3kでは支持体3sにより構成され、付随面部3gでは熱伝導率を10W/mK以上とする物質により構成され、両者の境界Lが認識可能となる。
【0039】
エッチング加工部3nの受け面3oと主要面部3eとの間のデバイスチップ3の厚さ方向3qの距離を小さくすればする程、デバイスチップ3の厚さ方向3qでの埋め戻し部3pの厚みを増加させることができ、放熱性は向上される。
【0040】
図示の例では、付随面部3gに形成されたバンプパッド2b上に形成されたバンプ4を介してデバイスチップ3とパッケージ基板2を接合するようにしていることから、主要部3fに生じた熱を付随部3hから効率的にバンプ4を通じてパッケージ基板2側に逃すようになっている。
【0041】
以上に説明した弾性波デバイス1は、以下のようにすることで、適切且つ合理的に製造し得る。この実施の形態にかかる弾性波デバイス1の製造ステップの要部を
図8ないし
図10に示す。
【0042】
先ず、前記デバイスチップ3となるウエハ10の一面10a上の一つのデバイスチップ3を構成する領域10bに対してそれぞれ、共振器7、バンプパッド3c、図示しない配線パターン9aを形成させる(ステップ1/
図8、
図9(a))。ウエハ10としては典型的にはタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムの単結晶ウエハや、これらの薄ウエハとスピネルなどの支持体3sウエハとを接合してなる、工業規格化された直径4インチウエハ10が用いられ、直径4インチウエハ10の場合一つのウエハ10より2万個程度のデバイスチップ3が生成される。
図8はウエハ10の一部を示しており、同図中符号10cはダイシングラインである。
【0043】
次いで、前記ウエハ10の他面10dにおける前記デバイスチップ3の前記主要部3fとなる領域、具体的には前記対応主要面部3kとなる領域にマスク11を形成する(ステップ2/
図9(b))。
【0044】
次いで、前記ウエハ10の他面10dにおける前記デバイスチップ3の前記付随部3hとなる領域にエッチングを施す(ステップ3/
図9(c))。前記マスク11直下に前記島状残存部3mが形成され、島状残存部3mの周囲に前記受け面3oを残すようにエッチング加工部3n(凹所)を形成させるようにする。このエッチングとしては、異方性を有する反応性イオンエッチングを用いるのが好ましい。
【0045】
次いで、前記マスク11を除去する(ステップ4/
図9(d))。
【0046】
次いで、前記ウエハ10における前記エッチングが施された領域にセラミクス12を堆積させて埋め戻す。
典型的には、熱伝導率を10W/mK以上とするセラミクス12による層を前記ウエハ10の他面10d全体に形成した後(ステップ5/
図10(e))、島状残存部3mの頂面(対応主要面部3k)と実質的に等しくなる高さまで前記セラミクス12による層を研削し、平坦な背面3bを形成させる(ステップ6/
図10(f))。前記セラミクス12による層の形成にはデバイスチップ3に加熱による影響を与えることが少ないエアロゾルデポジション法を用いることが好ましい。
【0047】
この後、前記各領域10bにおいてそれぞれ、バンプパッド3b上にバンプ4を形成させ、
次いで、ウエハ10に対するダイシングにより、ウエハ10から独立したデバイスチップ3を複数生成し、
次いで、ステップ5で得られたデバイスチップ3をパッケージ基板2となる集合基板(図示は省略する、)にフリップチップ実装する。
【0048】
最後に、パッケージ基板2となる集合基板(図示は省略する。)のデバイスチップ3の実装側に封止樹脂層5を形成させると共に、かかる集合基板にダイシングを施すことで、本発明に係る構造を備えた弾性波デバイス1が生成される。
【0049】
なお、当然のことながら、本発明は以上に説明した実施態様に限定されるものではなく、本発明の目的を達成し得るすべての実施態様を含むものである。
【符号の説明】
【0050】
1 弾性波デバイス
2 パッケージ基板
2a 一面
2b バンプパッド
2c 外部電極パッド
3 デバイスチップ
3a 機能面
3b 背面
3c バンプパッド
3d 側面
3e 主要面部
3f 主要部
3g 付随面部
3h 付随部
3i 隅部
3j 縁部
3k 対応主要面部
3m 島状残存部
3n エッチング加工部
3o 受け面
3p 埋め戻し部
3q 厚さ方向
3r 圧電体
3s 支持体
4 バンプ
5 封止樹脂層
6 中空構造部
7、7a、7b 共振器
7c IDT電極
7d 反射器
7e 電極指
7f バスバー
8 グランド
9 回路
9a 配線パターン
10 ウエハ
10a 一面
10b 領域
10c ダイシングライン
10d 他面
11 マスク
12 セラミクス
x 伝搬方向
L 境界
L1 境目
L2 境目
s 距離