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特開2024-62541ゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062541
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240501BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240501BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240501BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/15
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170431
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】児玉 勇司
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ07
5B146DJ11
5B146EA02
(57)【要約】
【課題】得られる摩擦係数の計算精度が高いゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】ゴムと路面とのシミュレーション方法は、コンピュータで数値解析可能な要素で構成されたゴムを表し、かつ粘弾性特性が付与されたゴムモデルと、路面を表す路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度とを決定して、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析を実施し、ゴムモデルと路面モデルとを荷重方向と直交する方向に移動させて、荷重方向と直交する方向の反力と、接触圧を得る。スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成し、接触圧に基づいて決定された荷重を用いて第2の工程~第7の工程を繰り返して実行して、荷重と反力とを用いて摩擦係数を算出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムを表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成され、かつ粘弾性特性が付与されたゴムモデルと、路面を表す、前記コンピュータで数値解析可能な要素で構成された路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度とを決定する第1の工程と、
前記ゴムモデルと前記路面モデルとの前記接触解析を実施する第2の工程と、
前記ゴムモデルと前記路面モデルとを前記相対移動速度で、荷重方向と直交する方向に相対的に移動させる第3の工程と、
前記ゴムモデルと前記路面モデルとの前記相対的な移動により、前記ゴムモデルと前記路面モデルとの間に生じた、前記荷重方向と直交する前記方向の反力を得る第4の工程と、
前記ゴムモデルと前記路面モデルとの前記相対的な移動により、前記ゴムモデルと前記路面モデルとの接触部に生じた接触圧を得る第5の工程と、
スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成する第6の工程と、
前記接触圧に基づいて、縮小した前記ゴムモデルと前記路面モデルとの接触解析における前記荷重を決定する第7の工程と、
前記第7の工程で決定された前記荷重を用いて、前記第2の工程~前記第7の工程を繰り返して実行する第8の工程と、
前記各ゴムモデルでの前記荷重と、前記荷重方向と直交する前記方向の前記反力とを用いて摩擦係数を算出する第9の工程とを有する、ゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第8の工程において、2回以上のスケールの縮小を行い、前記第2の工程~前記第7の工程を繰り返して実行する、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記ゴムモデル又は前記路面モデルの最大スケールが1000mm以下であり、最小スケールが0.1μm以上である、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記路面モデルは、一部が曲線を用いてモデル化されている、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記路面モデルは、実路面の表面形状を計測して得られる変位又は座標値を用いてモデル化されている、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記ゴムモデルの前記荷重方向と直交する前記方向の長さは、前記ゴムモデルと前記路面モデルとの接触長さの2~20倍である、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記ゴムモデルの厚さは、前記路面モデルの最大振幅の5~20倍である、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項8】
前記路面モデルは、前記ゴムモデルとの接触領域に複数の凹凸を有し、前記ゴムモデルと前記路面モデルの接触領域において、前記路面モデルの複数の前記凹凸のうち、両端の凸部以外の反力を、前記第9の工程における前記摩擦係数の算出に用いる、請求項1~7のいずれか1項に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項9】
前記ゴムモデルは、タイヤのトレッドゴムの物性値の情報が付与されている、請求項1に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
前記路面モデルは、前記ゴムモデルと前記路面モデルの接触領域に複数の凹凸を有し、前記路面モデルの複数の前記凹凸のうち、両端の凸部以外の反力を、前記第9の工程における前記摩擦係数の算出に用いる、請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
前記ゴムモデルは、タイヤのトレッドゴムの物性値の情報が付与されている、請求項10に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いたゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラムに関し、特に、数値解析を用いてゴムと路面との摩擦係数を求めるシミュレーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、タイヤを試作することなくタイヤの性能を予測、評価するために、コンピュータを用いた有限要素法(FEM)等の数値解析を利用してタイヤのシミュレーションが行われている。
具体的には、タイヤを有限要素法によりモデル化したタイヤモデルに内圧充填処理をし、路面モデルに設定した負荷荷重で接地させる処理をし、さらに、タイヤモデルを転動させる処理を行う。この時、路面モデルとタイヤモデルの間には摩擦係数が付与される。これにより、タイヤの転がり抵抗、コーナリング特性、制駆動特性、又は摩耗特性を予測評価することができる。
このようなタイヤモデルを用いたタイヤのシミュレーションにおいて、摩擦係数には予め設定された値が与えられる場合が多い。また、タイヤと路面との間の摩擦係数の値は、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定されることもある。
しかしながら、上述のように摩擦係数を設定する場合、トレッドゴムの種類が変化すると粘弾性特性も変わるため、計算結果が実測値と合うように摩擦係数の値を試行錯誤して、摩擦係数を再設定する必要がある。
【0003】
このため、例えば、特許文献1には、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータがタイヤのシミュレーションを行う際に、摩擦係数の値を、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定する必要がなく、ゴムの粘弾性特性を利用して摩擦係数の値を設定してシミュレーションを行うタイヤのシミュレーション方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021‐133815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1では、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法を、コンピュータが、タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときのゴムの接地圧、及びゴムが路面に対して滑り速度を持って滑るときのゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、タイヤのシミュレーションを行うとき、タイヤが路面と接するときのタイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び接地面の各位置における路面に対する滑り速度の情報から、ゴム摩擦情報を用いて接地面の各位置における摩擦係数を計算し、計算した摩擦係数を用いてタイヤのシミュレーションを行っている。
【0006】
上述の特許文献1では、ミクロモデルの解析によって得られた摩擦係数をマクロモデルへ入力して解析を行うが、接触させるための荷重の決め方について具体的な記載がなく、ミクロモデルで得られた情報(摩擦係数)をマクロモデルに伝達して解析しているため、計算精度を担保することが困難である。
タイヤと路面との間の摩擦係数はタイヤの基本的な性能指数でためその予測ニーズは高く、数学的モデル又は数値解析を用いて摩擦係数を予測する試みがなされているが、十分な計算精度で摩擦係数を得ることができないのが現状である。
本発明の目的は、得られる摩擦係数の計算精度が高いゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、発明[1]は、ゴムを表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成され、かつ粘弾性特性が付与されたゴムモデルと、路面を表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成された路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度とを決定する第1の工程と、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析を実施する第2の工程と、ゴムモデルと路面モデルとを相対移動速度で、荷重方向と直交する方向に相対的に移動させる第3の工程と、ゴムモデルと路面モデルとの相対的な移動により、ゴムモデルと路面モデルとの間に生じた、荷重方向と直交する方向の反力を得る第4の工程と、ゴムモデルと路面モデルとの相対的な移動により、ゴムモデルと路面モデルとの接触部に生じた接触圧を得る第5の工程と、スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成する第6の工程と、接触圧に基づいて、縮小したゴムモデルと路面モデルとの接触解析における荷重を決定する第7の工程と、第7の工程で決定された荷重を用いて、第2の工程~第7の工程を繰り返して実行する第8の工程と、各ゴムモデルでの荷重と、荷重方向と直交する方向の反力とを用いて摩擦係数を算出する第9の工程とを有する、ゴムと路面とのシミュレーション方法である。
【0008】
発明[2]は、第8の工程において、2回以上のスケールの縮小を行い、第2の工程~第7の工程を繰り返して実行する、発明[1]に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
発明[3]は、ゴムモデル又は路面モデルの最大スケールが1000mm以下であり、最小スケールが0.1μm以上である、発明[1]又は[2]に記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
発明[4]は、路面モデルは、一部が曲線を用いてモデル化されている、発明[1]~[3]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【0009】
発明[5]は、路面モデルは、実路面の表面形状を計測して得られる変位又は座標値を用いてモデル化されている、発明[1]~[4]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
発明[6]は、ゴムモデルの荷重方向と直交する方向の長さは、ゴムモデルと路面モデルとの接触長さの2~20倍である、発明[1]~[5]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
発明[7]は、ゴムモデルの厚さは、路面モデルの最大振幅の5~20倍である、発明[1]~[6]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【0010】
発明[8]は、路面モデルは、ゴムモデルとの接触領域に複数の凹凸を有し、ゴムモデルと路面モデルの接触領域において、路面モデルの複数の凹凸のうち、両端の凸部以外の反力を、第9の工程における摩擦係数の算出に用いる、発明[1]~[7]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
発明[9]は、ゴムモデルは、タイヤのトレッドゴムの物性値の情報が付与されている、発明[1]~[8]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法。
【0011】
発明[10]は、発明[1]~[9]のいずれか1つに記載のゴムと路面とのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させるためのプログラムである。
発明[11]は、路面モデルは、ゴムモデルと路面モデルの接触領域に複数の凹凸を有し、路面モデルの複数の凹凸のうち、両端の凸部以外の反力を、第9の工程における摩擦係数の算出に用いる、発明[10]に記載のプログラム。
発明[12]は、ゴムモデルは、タイヤのトレッドゴムの物性値の情報が付与されている、発明[10]又は[11]に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摩擦係数を高い計算精度で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法に利用されるシミュレーション装置を示す模式図である。
図2】(a)は本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとの接触状態を示す模式図であり、(b)は本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとを相対的に移動させた状態を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
図4】(a)~(d)は本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法を工程順に示す模式図である。
図5】本発明の実施形態の路面モデルの一例を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとの一例を示す模式図である。
図7】(a)~(d)は比較例のゴムと路面とのシミュレーション方法を工程順に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラムを詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
また、以下において「直交」等の角度は、特に記載がなければ、一般的に許容される誤差範囲を含む。
【0015】
[シミュレーション装置]
図1は本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法に利用されるシミュレーション装置を示す模式図である。
本実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法は、摩擦係数を高い計算精度で得ることを目的とするものである。
本実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法は、例えば、図1に示すシミュレーション装置10を用いて実施される。
上述のようにゴムと路面とのシミュレーション方法は、例えば、図1に示すシミュレーション装置10を用いて実施されるが、ゴムと路面とのシミュレーション方法をコンピュータ等のハードウェア及びソフトウェアを用いて実行することができればシミュレーション装置10に限定されるものではなく、ゴムと路面とのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータ等に実行させるためのプログラムでもよい。また、シミュレーション装置10は図1に示す構成に限定されるものではない。
【0016】
シミュレーション装置10は、処理ユニット12と、入力部14と、表示部16とを有する。処理ユニット12は、モデル作成部20、条件設定部22、演算部24、メモリ25、表示制御部26及び制御部27を有する。シミュレーション装置10は、この他に図示はしないがROM(Read Only Memory)等を有する。
処理ユニット12は、制御部27により制御される。また、処理ユニット12においてモデル作成部20、条件設定部22、演算部24及び表示制御部26はメモリ25に接続されており、モデル作成部20、条件設定部22及び演算部24のデータがメモリ25に記憶される。
以下に説明するゴムと路面とのシミュレーション方法において、処理ユニット12の各部で種々の処理がなされる。以下の説明では制御部27により処理ユニット12の各部で種々の処理がなされることについて説明を省略しているが、各部の一連の処理は制御部27により制御される。
【0017】
シミュレーション装置10は、ROM等に記憶されたプログラム(コンピュータソフトウェア)を、制御部27で実行することにより、モデル作成部20、条件設定部22、及び演算部24の各部を機能的に形成するコンピュータ等のハードウェアを用いて構成されてもよいし、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよく、クラウド上で実行されるようにサーバーで構成してもよい。
【0018】
入力部14は、マウス及びキーボード等の各種情報をオペレータの指示により入力するための各種の入力デバイスである。
表示部16は、例えば、ゴムと路面とのシミュレーション方法で得られた摩擦係数の結果、及びゴムと路面とのシミュレーション方法で得られたシミュレーション結果等を表示するものであり、公知の各種のディスプレイが用いられる。また、表示部16には各種情報を出力媒体に表示するためのプリンタ等のデバイスも含まれる。
【0019】
シミュレーション装置10のモデル作成部20は、ゴムを表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成され、かつ粘弾性特性が付与されたゴムモデル30(図2(a)参照)を作成するものである。また、モデル作成部20は、路面を表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成された路面モデル(図2(a)参照)を作成するものである。
ゴムモデル30は、コンピュータで数値解析可能な要素で構成されていれば、特に限定されるものではなく、例えば、有限個の要素にメッシュ分割された有限要素モデルである。
路面モデル32は、コンピュータで数値解析可能な要素で構成されていれば、特に限定されるものではなく、例えば、有限個の要素にメッシュ分割された有限要素モデルである。
【0020】
ゴムモデル及び路面モデルの作成には公知の作成方法を用いることができる。例えば、ゴムモデル及び路面モデルを、それぞれ複数の節点で構成される有限個の要素に分割して、ゴムモデル及び路面モデルを作成する。図形データの場合、コンピュータにて数値解析可能な要素によりモデル化されたデータに変換する。コンピュータで数値解析可能な要素でモデル化されたゴムモデル及び路面モデルとは、それぞれ数値計算可能な離散化モデルであればよく、例えば、FEM等の数値シミュレーションに利用されるメッシュデータでもよく、CADデータ等の設計データでもよい。
ゴムモデル及び路面モデルを構成する要素は、例えば、2次元平面では四辺形要素、3次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素、三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等のコンピュータで解析可能な要素とする。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、3次元モデルでは3次元座標を用いて、2次元モデルでは2次元座標を用いて逐一特定される。
【0021】
なお、ゴムモデルは、特に限定されるものではなく、2次元形状でも、3次元形状でもよく、例えば、長方形状である。
路面モデルは、特に限定されるものではなく、2次元形状でも、3次元形状でもよく、例えば、表面に凹凸を有する路面形状を再現するモデルである。路面モデルは、路面表面を、例えば、所定の振幅、及び所定の周期で変動させたものである。
ゴムモデル及び路面モデルが、2次元モデルの場合、数値解析上、単位奥行長さを有するモデルとなる。また、2次元モデルを、縮小する場合、単位奥行長さは縮小されない。
【0022】
また、ゴムモデルは粘弾性特性が付与されたものである。このため、モデル作成部20は、粘弾性特性をゴムモデルに付与する。この場合、例えば、ゴムモデルを構成する要素に粘弾性特性が与えられる。
ゴムモデルへの粘弾性特性の付与の方法は、特に限定されるものではなく、数値解析ソフトで利用されているものが適宜利用可能である。
粘弾性としては、例えば、Prony級数、及び並列レオロジーフレームワークが挙げられる。
ゴムの弾性特性としては、超弾性モデル(Neo-Hookean、Yoeh等)を用いることが好ましい。
【0023】
ゴムモデルとするものは、最終的に摩擦係数を算出するものであれば、特に限定されるものではない。所定の粘弾性特性を有するゴムをモデル化してゴムモデルとしてもよい。これ以外に、路面と接するタイヤのトレッドゴムをモデル化してゴムモデルとしてもよい。この場合、ゴムモデルに、タイヤのトレッドゴムの物性値の情報を付与することが好ましい。トレッドゴムの物性値は、トレッドゴムの組成に応じた粘弾性及び弾性特性である。トレッドゴムは、例えば、ゴム成分、シリカ、カーボンブラック、シランカップリング剤を含有する。
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、及びクロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
【0024】
実路面は、ゴムよりも固く変形しないものと考えられるため、路面モデルは、物理的な特性として、モデル全体を剛体又はゴムモデルと接触する部分を剛体とすることが好ましい。ここで、剛体とは、ゴムモデルが路面モデルに接触し、その後、ゴムモデルと路面モデルとを相対的に移動させた場合に、路面モデルの変位量がゼロであることをいう。実路面とは、実際の路面のことである。
【0025】
ゴムモデルについては、モデルの形状及びサイズ、並びに粘弾性特性のデータが、例えば、入力部14を介してモデル作成部20に入力されて、モデル作成部20でゴムモデルが作成される。
路面モデルについては、モデルの形状、サイズ及び路面表面を表すデータ、並びに剛体であることを示す物性のデータが、例えば、入力部14を介してモデル作成部20に入力されて、モデル作成部20で路面モデルが作成される。
ゴムモデル及び路面モデルは、それぞれ、予め、例えば、入力部14を介してメモリ25に記憶させてもよい。この場合、モデル作成部20は、メモリ25に記憶されたゴムモデル及び路面モデルをメモリ25から読み出し、ゴムモデル及び路面モデルを設定する。
【0026】
ここで、図2(a)は本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとの接触状態を示す模式図であり、(b)は本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとを相対的に移動させた状態を示す模式図である。以下の説明においてY方向とX方向とは直交している。
条件設定部22は、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度とを決定するものである。
また、ゴムモデルと路面モデルとを相対的に移動させる場合、ゴムモデルを動かしても、路面モデルを動かしてもよい。さらにはゴムモデルと路面モデルとを相対的に移動させる移動方向も特に限定されるものではない。このため、条件設定部22では、ゴムモデル及び路面モデルのうち、移動させるものと、移動方向とを決定する。ゴムモデル又は路面モデルの移動方向D(図2(a)及び(b)参照)は、荷重方向と直交する方向であり、かつ、右向きである。
なお、荷重方向は、図2(a)及び(b)に示すように荷重Wが作用する方向のことであり、Y方向に平行な方向である。荷重方向と直交する方向は、図2(a)及び(b)のX方向と平行な方向である。
【0027】
ゴムモデル30と路面モデル32との接触解析における荷重及び相対移動速度と、並びにゴムモデル30及び路面モデル32のうち、移動させるもの、及び移動方向が、例えば、メモリ25に記憶される。条件設定部22がメモリ25から荷重及び相対移動速度と、ゴムモデル30及び路面モデル32のうち、移動させるもの、及び移動方向とを読み出してもよい。
また、入力部14から、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度を入力して条件設定部22に設定してもよい。
入力部14から、ゴムモデル30及び路面モデル32のうち、移動させるもの、及び移動方向を入力して条件設定部22に設定してもよい。
また、条件設定部22には、演算部24でのシミュレーション条件が設定される。
【0028】
演算部24は、後述のようにゴムモデルと路面モデルとの接触解析を実施した後、ゴムモデルと路面モデルとを相対移動速度で、荷重方向と直交する方向に相対的に移動させるシミュレーションを実施して、最終的に摩擦係数を算出するものである。
有限要素法等の数値解析を用いて、ゴムモデル30と路面モデル32とを相対的に移動させるシミュレーションを実施して、ゴムモデル30と路面モデル32との間に生じた、荷重方向と直交する方向の反力F(図2(b)参照)を得る。反力Fは、荷重方向と直交する方向に作用する力であり、これが摩擦力に相当する。反力Fは、X方向と平行な方向に作用する力である。荷重方向と直交する方向は、相対移動方向とも呼ばれる。
【0029】
また、演算部24は、有限要素法等の数値解析を用いて、ゴムモデルと路面モデルとの相対的に移動させるシミュレーションを実施して、ゴムモデルと路面モデルとの接触部に生じた接触圧を得る。
具体的には、演算部24では、接触解析は、例えば、所定の荷重でゴムモデルと路面モデルとを接触させる。
そして、演算部24では、例えば、FEM(有限要素法)を用いた準静的解析又は動解析速度依存のシミュレーションを利用して、ゴムモデル30と路面モデル32とが、所定の荷重にて接触した状態を保持して、ゴムモデル30と路面モデル32とを荷重方向と直交する方向に相対的に移動させて、荷重方向と直交する方向の反力F(図2(b)参照)を得る。そして、ゴムモデル30と路面モデル32との接触部30c(図2(a)及び(b)参照)に生じた接触圧を得る。
接触圧は、例えば、荷重Wを、ゴムモデル30が路面モデル32との接触部30cの面積で割ることにより求めることができる。
演算部24で得られた反力Fと接触圧とは、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。
なお、演算部24では、Abaqus等のソフトウェアプログラムを用いて有限要素法等の数値解析を行うことができる。
【0030】
シミュレーション装置10では、ゴムモデルと路面モデルとのスケールを変えて反力Fと接触圧とを得る。
このため、特定のスケールのゴムモデルと路面モデルとを用いて反力Fと接触圧とを得た後、モデル作成部20で、スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと縮小した路面モデルとを作成する。例えば、スケール縮小率が1/10であれば、ゴムモデルの大きさと、路面モデルの大きさとをそれぞれ1/10にした縮小ゴムモデルと、縮小路面モデルとを作成する。
条件設定部22では、上述の縮小ゴムモデルと、縮小路面モデルとに応じた荷重を決定する。
例えば、縮小前のゴムモデルと路面モデルとにより得られた接触圧をP(Pa)とし、縮小ゴムモデルの面積をSc(m)とし、縮小ゴムモデルへの荷重をWc(N(ニュートン))とするとき、縮小ゴムモデルへの荷重Wcは、Wc=P×Scである。
条件設定部22は、縮小ゴムモデルへの荷重Wcを、Wc=P×Scを用いて決定する。
ここで、縮小ゴムモデルへの荷重Wcを決定するための接触圧Pは、ゴムモデルと路面モデルとの複数の接触部の接触圧の平均値でもよく、ゴムモデルと路面モデルとの複数の接触部の接触圧の最大値でも最小値でもよい。また、ゴムモデルと路面モデルとの複数の接触部の両端を除いた接触部の接触圧の平均値を、接触圧としてもよい。
【0031】
演算部24では、モデル作成部20で作成した縮小ゴムモデルと縮小路面モデルに対して条件設定部22で決定した縮小ゴムモデルへの荷重Wcを用いて、上述のように反力Fと、接触圧とを得る。
このようにして、シミュレーション装置10では、ゴムモデルと路面モデルとのスケールを変えて、各スケール毎に反力Fと接触圧とを得る。
演算部24では、各ゴムモデルへの荷重と、荷重方向と直交する方向の反力F(N)とを用いて摩擦係数を算出する。ここで、摩擦係数をμとし、ゴムモデルへの荷重をW(N)とするとき、μ=F/Wである。
演算部24では、摩擦係数μをμ=F/Wを用いて決定する。決定した摩擦係数μの値を、例えば、メモリ25に記憶させる。
【0032】
表示制御部26は、モデル作成部20で作成されたゴムモデル及び路面モデル、条件設定部22に決定された荷重及び相対移動速度の情報、移動させるもの及び移動方向、演算部24でのFEMを用いたシミュレーション状況及びシミュレーション結果、並びに演算部24で得られた反力と接触圧の情報を表示部16に表示させる。
また、表示制御部26は、入力部14を介して入力される各種の情報等も表示部16に表示させることもできる。
【0033】
制御部27は、上述のように処理ユニット12を制御するものであり、以下に示すゴムと路面とのシミュレーション方法でなされる各種の工程を処理ユニット12のモデル作成部20、条件設定部22、及び演算部24に行わせるものである。
【0034】
[シミュレーション方法]
次に、ゴムと路面とのシミュレーション方法について具体的に説明する。
ゴムと路面とのシミュレーション方法により、高い計算精度で摩擦係数が得られる。
図3は本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【0035】
例えば、ゴムを表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成され、かつ粘弾性特性が付与されたゴムモデル30(図2(a)参照)を作成する(ステップS10)。上述のようにゴムモデル30は、例えば、有限個の要素にメッシュ分割された有限要素モデルであり、形状としては、例えば、断面が長方形状である。
ゴムモデル30の粘弾性として、上述のProny級数、及び並列レオロジーフレームワークが用いられる。
また、ゴムモデル30の弾性特性として、上述の超弾性モデル(Neo-Hookean、Yoeh等)が用いられる。なお、摩擦係数の求める対象に応じて、上述のようにタイヤのトレッドゴムの物性値の情報を付与してもよい。
ステップS10で作成されたゴムモデル30は、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。
【0036】
次に、路面を表す、コンピュータで数値解析可能な要素で構成された路面モデル32(図2(a)参照)を作成する(ステップS12)。
路面モデル32は、有限個の要素にメッシュ分割された有限要素モデルである。路面モデル32は、上述のように物理的な特性としては、モデル全体を剛体又はゴムモデルと接触する部分を剛体とする。
また、路面モデル32は、表面32aに凹凸を有する路面形状を再現するモデルである。路面モデル32は、表面32aを、例えば、所定の振幅、及び所定の周期で変動させたものであり、例えば、正弦波で表される。路面モデル32において、表面32aの振幅は上下方向の長さ、すなわち、図2(a)及び(b)のY方向の長さである。路面モデル32の表面32aの周期を波長という。
ステップS12で作成された路面モデル32は、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。
ステップS10のゴムモデル30と、ステップS12の路面モデル32とはモデル作成部20で作成される。
【0037】
また、ゴムモデル30と路面モデル32の作成順は、特に限定されるものではなく、路面モデル32の作成(ステップS12)、ゴムモデル30の作成(ステップS10)の順でもよい。
なお、ステップS10及びステップS12に変えて、事前にゴムモデル30と路面モデル32が用意されており、入力部14からモデル作成部20に入力してもよい。また、事前にゴムモデル30と路面モデル32が用意されてメモリ25に記憶されており、モデル作成部20がメモリ25からゴムモデル30と路面モデル32とを読み出してもよい。このように、ステップS10及びステップS12はなくてもよい。
【0038】
次に、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析における荷重と相対移動速度とを決定する第1の工程を実施する(ステップS14)。
ステップS14では、荷重については、特に限定されるものではなく、例えば、タイヤの内圧に相当する荷重が設定される。
相対移動速度については、特に限定されるものではなく、例えば、1~30000m/sが設定される。
ステップS14で設定された荷重及び相対移動速度は、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。第1の工程(ステップS14)は、条件設定部22で実施される。
【0039】
次に、ゴムモデルと路面モデルとの接触解析を実施する第2の工程を実施する(ステップS16)。
次に、ゴムモデルと路面モデルとを相対移動速度で、荷重方向と直交する方向に相対的に移動させる第3の工程を実施する(ステップS18)。
ステップS16及びステップS18では、有限要素法等の数値解析を用いて、まず、設定された荷重で、図2(a)に示すようにゴムモデル30と路面モデル32とを接触させる。
次に、有限要素法等の数値解析を用いて、ステップS16の接触状態を維持して、ゴムモデル30又は路面モデル32を荷重方向と直交する方向に相対的に移動させるシミュレーションを実施する。このとき、例えば、図2(a)に示す移動方向Dに路面モデル32を移動させると、図2(b)に示すようにゴムモデル30と路面モデル32との間に荷重方向と直交する方向の反力Fが生じる。
また、ゴムモデル30と路面モデル32との接触部30cに圧力がかかり、図2(b)に示すようにゴムモデル30にひずみ30dが生じる。
【0040】
次に、ゴムモデルと路面モデルとの相対的な移動により、ゴムモデルと路面モデルとの間に生じた、荷重方向と直交する方向の反力を得る第4の工程を実施する(ステップS20)。
ステップS20では、図2(b)に示す反力Fを、例えば、有限要素法等の数値解析の解析結果により得る。
具体的には、例えば、路面モデルを剛体とした場合、剛体では、その運動を制御する参照節点が必要になる。参照節点を完全に固定することにより路面モデルも固定される。路面モデルに力がかかった場合、路面モデルを固定するための反力が参照節点に発生する。このように参照節点に発生した反力を得る。
ステップS20で得られた反力Fの値は、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。
【0041】
次に、ゴムモデルと路面モデルとの相対的な移動により、ゴムモデルと路面モデルとの接触部に生じた接触圧を得る第5の工程を実施する(ステップS22)。
ステップS22では、上述の接触部の接触圧を得る。接触圧は、接触部ごとに作用する圧力である。上述のように、接触圧は、例えば、荷重Wを、ゴムモデル30が路面モデル32との接触部30cの面積で割ることにより求めることができる。
ステップS22で得られた接触部の接触圧は、例えば、メモリ25に出力されて記憶される。このようにステップS20及びステップS22により反力、及び接触部の接触圧を得る。
第2の工程(ステップS16)、第3の工程(ステップS18)、第4の工程(ステップS20)、及び第5の工程(ステップS22)は、演算部24で実施される。
【0042】
ここで、シミュレーション方法では、後述のように第2の工程~第7の工程を繰り返して実行するが、スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成する第6の工程の回数を判定する(ステップS24)。第6の工程の回数が、予め設定された回数未満であれば、次のステップS26に移行する。第6の工程の回数が、予め設定された回数であれば、後述の摩擦係数を算出するステップS30に移行する。ステップS24は演算部24で実施される。
【0043】
次に、スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成する第6の工程を実施する(ステップS26)。第6の工程(ステップS26)はモデル作成部20で実施される。
ここで、図4(a)~(d)は本発明の実施形態のゴムと路面とのシミュレーション方法を工程順に示す模式図である。
図4(a)は縮小前の最初のゴムモデル30と路面モデル32とを示す。図4(b)は、縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33とを示す。
スケール縮小率は、予め条件設定部22に設定されている。ステップS26では、モデル作成部20で、条件設定部22からスケール縮小率を読み出し、スケール縮小率に基づいて、図4(a)に示すゴムモデル30及び路面モデル32から、図4(b)に示す縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33とを作成する。
スケール縮小率は、特に限定されるものではないが、例えば、上位スケールから下位スケールへの縮小率はべき乗則が用いられる。べき指数は、例えば、1.0である。この場合、スケール縮小率は、1/10である。すなわち、ゴムモデル30及び路面モデル32は1/10ずつ小さくなる。
【0044】
次に、ステップS22で取得した接触圧に基づいて、縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33との接触解析における荷重を決定する第7の工程を実施する(ステップS28)。
ステップS28(第7の工程)において、縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33との接触解析における荷重は、条件設定部22において上述のようにWc=P×Scを用いて決定される。
次に、ステップS16(第2の工程)に戻り、ステップS28で設定した荷重にて縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33とを接触させて接触解析を実施する。そして、縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33とを相対的移動させる(ステップS18(第3の工程))。その後、反力Fを得て(ステップS20(第4の工程))、接触部の接触圧を得る(ステップS22(第5の工程))。
【0045】
次に、ステップS24において、第6の工程の回数が判定され、予め設定された回数未満であれば、次のステップS26(第6の工程)に移行する。そして、スケール縮小率に従って縮小したゴムモデルと路面モデルとを作成する(ステップS26(第6の工程))。
次に、ステップS28(第7の工程)において、縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33との接触解析における荷重を決定する。このようにして、シミュレーション方法では、第2の工程~第7の工程を繰り返して実行する。
なお、第6の工程の回数が、予め設定された回数であれば、後述の摩擦係数を算出するステップS30に移行する。
【0046】
スケール縮小率に基づく、ゴムモデル30と路面モデル32の縮小モデルについて説明する。図4(a)は縮小前の最初のゴムモデル30と路面モデル32であり、図4(b)は縮小したゴムモデル31と縮小した路面モデル33とを示す。図4(c)は図4(b)に示すゴムモデル31と路面モデル33とを、縮小したゴムモデル34と縮小した路面モデル35とを示す。図4(d)は図4(c)に示すゴムモデル34と路面モデル35とを、縮小したゴムモデル36と縮小した路面モデル37とを示す。
図4(a)~図4(d)にはゴムモデル30に生じたひずみ30dも合わせて示す。
図4(a)~図4(d)に示すゴムモデル30、31、34、36及び路面モデル32、33、35、37は、いずれも単位奥行長さを有する2次元モデルである。
上述のようにスケール縮小率にべき指数が用いられ、べき指数が1.0である場合、ゴムモデルと路面モデルとは1/10ずつ小さくなる。
路面モデルは、凹凸が正弦波の場合、路面波長及び路面振幅を、スケール縮小率に基づいて、それぞれ縮小する。
なお、べき指数が1.0である場合、図4(b)は図4(a)の1/10モデルであり、図4(c)は図4(a)の1/100モデルであり、図4(d)は図4(a)の1/1000モデルである。
なお、図4(a)~(d)では、スケール縮小率がフラクタル次元では1でもある。
【0047】
ミュレーション方法では、第2の工程~第7の工程を繰り返して実行した後、各ゴムモデルへの荷重と、荷重方向と直交する方向の反力とを用いて摩擦係数を算出する第9の工程を実施する(ステップS30)。
ステップS30(第9の工程)では、例えば、複数のゴムモデルの荷重のうち、いずれか1つの荷重と、複数の反力のうち、いずれか1つの反力とを用いて、上述のμ=F/Wを用いて、摩擦係数を決定する。
ステップS30において、選択される荷重及び反力は、特に限定されるものではなく、例えば、荷重を縮小しない最初のゴムモデル30の荷重とし、反力を図4(d)の1/1000モデルの反力としてもよい。
【0048】
シミュレーション方法では、第8の工程において、2回以上のスケールの縮小を行い、ステップS16(第2の工程)~ステップS28(第7の工程)を繰り返して実行することが好ましい。
2回以上のスケールの縮小を行うことにより、高い計算精度で摩擦係数が得られる。具体的には、図4(b)に示す1/10モデル及び図4(c)に示す1/100モデルに対して、それぞれ荷重を決定し、反力を得ることを実施して、最終的に摩擦係数を得る。
【0049】
路面モデル32は、例えば、一部が曲線を用いてモデル化されている、
図5は本発明の実施形態の路面モデルの一例を示す模式図である。図5に示すように路面モデル32は、表面32aが曲線で構成された凸部32bと、曲線で構成された凹部32cとが交互に連続して接続されており、曲線を用いてモデル化されている。路面モデル32において、曲線を用いてモデル化されるのは、ゴムモデル30と接触する表面32aだけでもよい。
路面モデル32において、曲線を用いて表面32aをモデル化することにより、路面モデル32の表面32aが滑らかになり、ゴムモデル30との接触が安定し、FEM等の数値計算を効率的に行うことができる。
モデル化の曲線は、特に限定されるものではなく、円弧、正弦波、余弦波、スプライン曲線、及びベジェ曲線等が例示される。
なお、凹部32cと凸部32bとの高さが路面振幅δである。隣接する凸部32bの最も高いところ同士の距離が路面波長Lである。上述のようにスケール縮小率に従って路面モデル32を縮小する場合、路面振幅δと路面波長Lとをスケール縮小率に従って縮小する。
【0050】
路面モデル32は、実路面の表面形状を計測して得られる変位又は座標値を用いてモデル化することもできる。これにより、実路面に相当する摩擦係数を得ることができ、実路面の摩擦状態の予測が可能となる。
実路面の表面形状を計測して得られる変位又は座標値を用いたモデル化の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、以下の方法が例示される。
例えば、まず、路面モデル32のモデル化の対象となる実路面の表面形状をレーザー変位計で計測する。
次に、レーザー変位計で計測して得られた表面形状のデータをフーリエ変換し、路面凹凸振幅と凹凸周期(路面周期)とのスペクトルを算出する。これにより、縮小前の路面モデル32が得られる。
路面モデルについて、縮小モデルを得る場合、スケール縮小率に基づく、各スケールに対応する路面周期と路面凹凸振幅を得て路面モデルを作成する。
【0051】
また、例えば、まず、路面モデル32のモデル化の対象となる実路面の表面形状をレーザー変位計で計測する。
次に、レーザー変位計で計測して得られた表面形状のデータをフーリエ変換し、路面凹凸振幅と凹凸周期とのスペクトルを算出する。これにより、縮小前の路面モデル32を得ることができる。
路面モデルについて、縮小モデルを得る場合、上述の路面凹凸振幅と凹凸周期とのスペクトルからフラクタル次元を算出する。フラクタル次元は、例えば、路面凹凸振幅と凹凸周期とを、それぞれ対数でプロットし、このときの傾きを算出することにより求める。
次に、算出したフラクタル次元をスケール縮小率として、路面モデルを作成する。
なお、スケール縮小率にフラクタル次元を用いた場合、路面モデルを縮小しても、縮小前の路面モデルと同じ形状が維持される。このように、スケール縮小率にフラクタル次元を用いると、モデルを縮小してもゴムモデルと路面モデルとは同じ接触状態となるため、スケール縮小率にフラクタル次元を用いることが好ましい。
【0052】
図6は本発明の実施形態のゴムモデルと路面モデルとの一例を示す模式図である。
ゴムモデル30又は路面モデル32の最大スケールが1000mm(1m)以下であり、最小スケールが0.1μm以上であることが好ましい。
ここで、スケールとは、荷重方向と直交する方向におけるゴムモデル30及び路面モデル32の大きさのことであり、図6のX方向の長さである。
最大スケールは、例えば、一度も縮小していない状態のゴムモデル30又は路面モデル32のサイズである。最小スケールは、縮小後のゴムモデル又は路面モデルのサイズである。
上述のように最大スケールと最小スケールとを設定することにより、マクロスケールからミクロスケールまで網羅した解析が可能となり、スケール間での摩擦状態の解析精度が向上するため好ましい。
【0053】
なお、シミュレーション方法では、上述のように2回以上のスケールの縮小を行い、ステップS16(第2の工程)~ステップS28(第7の工程)を繰り返すが、その上限は、例えば、10回である。
また、ステップS16(第2の工程)~ステップS28(第7の工程)を繰り返す回数の上限は、上述のように最大スケール1000mm(1m)から、最小スケール0.1μmとなる回数である。この場合、上述のスケールの縮小を行う回数は、最大スケール及び最小スケールにより決定される。
【0054】
ゴムモデル30の荷重方向と直交する方向の長さLt、すなわち、ゴムモデル30の図6のX方向の長さは、ゴムモデル30と路面モデル32との接触長さLcの2~20倍であることが好ましい。
これにより、シミュレーションにおいて、ゴムモデル30を荷重方向と直交する方向に移動させた際に、ゴムモデル30の端が路面モデル32に引っ掛かることが抑制され、効率的に解析ができるため好ましい。
ゴムモデル30と路面モデル32との接触解析の際に、路面モデル32がゴムモデル30と接触している、接触長さLcは、路面モデル32がゴムモデル30と接触している荷重方向と直交する方向(X方向)の長さのことである。
【0055】
また、ゴムモデル30の厚さDtは、路面モデル32の最大振幅の5~20倍であることがこの好ましい。最大振幅とは、路面振幅δの最大値である。ゴムモデル30の厚さDtは、Y方向の長さである。
また、ゴムモデル30の厚さDtが小さいほど、ゴムモデル30が小さくなり計算コストが低くなるが、路面モデルの凹凸に対するゴムモデルの厚さの影響が生じて計算精度が悪化する場合がある。このため、ゴムモデル30の厚さDtを、路面モデル32の最大振幅の5~20倍とすると、計算コストを抑えつつ、高い計算精度を保持できるため好ましい。
なお、ゴムモデル30がメッシュ分割された構成の場合、ゴムモデル30の接触部30cのメッシュサイズは、路面振幅δの最小値の50%以下であることが好ましい。これにより、路面モデル32と接触するゴムモデル30の接触部30cにおける数値解析精度を高くでき、接触部30cにおける接触圧をより高い精度で得ることができる。
【0056】
また、路面モデル32は、ゴムモデル30と路面モデル32の接触領域Dcに複数の凹凸を有する。ゴムモデル30と路面モデル32の接触領域Dcにおいて、路面モデル32の複数の凹凸のうち、両端の凸部32b以外の反力を、第9の工程における摩擦係数の算出に用いることが好ましい。すなわち、図6の路面モデル32は、接触領域Dcに凸部32bが4つあるが、このうち、両端の凸部32bの反力を用いないことが好ましい。
路面モデル32の両端の凸部32bの反力は、中央部の凸部よりも反力の変動が大きい。このため、路面モデル32の両端の凸部32bの反力を摩擦係数の算出から除外することにより、摩擦係数の計算結果が安定するため好ましい。路面モデル32の両端の凸部32bの反力は、中央部の凸部よりも反力の変動が大きいことは、例えば、図4(a)~(d)に示す両端の凸部のひずみ30dが中央部の凸部のひずみ30dよりも変化が大きいことからわかる。このことから、摩擦係数の計算結果を安定させるために、路面モデル32の凸部32bは、少なくとも3つあることが好ましい。路面モデル32の凸部32bの数の上限は、例えば、計算コストの観点から、1000である。
なお、接触領域Dcとは、荷重方向と直交する方向(X方向)においてゴムモデル30と路面モデル32とが接触している領域のことであり、上述の接触長さLcの範囲である。
【0057】
なお、以上、説明したゴムと路面とのシミュレーション方法は、ゴムと路面とのシミュレーション方法を実行するプログラムにより、上述のゴムと路面とのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させることができる。
【0058】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明のゴムと路面とのシミュレーション方法及びプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例0059】
以下、本発明のゴムと路面とのシミュレーション方法の実施例について具体的に説明する。
本実施例では、以下に示す実施例1及び比較例1を用いて、本発明のゴムと路面とのシミュレーション方法の効果について確認した。
【0060】
実施例1及び比較例1は、いずれも2次元モデルとした。縮小前の最初のゴムモデルのサイズを長さ4mm、幅1mm、単位奥行長さ1mmとした。路面モデルは、凹凸を正弦波で表し、縮小前の最初の路面波長を1mm、路面振幅を0.125mm、単位奥行長さ1mmとした。
最初の荷重をタイヤの内圧相当の0.8Nとした。
上述の条件で、有限要素法を用いて、ゴムモデル30と路面モデル32とを接触させて路面モデル32を移動させるシミュレーションを実施した。これにより、実施例1では図4(a)に示すひずみが発生した。比較例1では図7(a)に示すひずみが発生した。図4(a)に示すひずみと図7(a)に示すひずみとは同じである。
【0061】
実施例1及び比較例1では、スケール縮小率をべき指数1.0として、ゴムモデル30と路面モデル32とについて、3回のスケールの縮小を実施した。すなわち、ゴムモデル30と路面モデル32とを、それぞれ1/10ずつ小さくしたモデルを図4(b)~図4(d)に示すように3回作成した。
なお、実施例1は、上位スケールのゴムモデルの接触部での平均接触圧から下位スケールへ与える荷重を決定した。
一方、比較例1は、モデルのスケールを1/10ずつ小さくする毎に、荷重も1/10ずつ小さくした。
実施例1及び比較例1では、いずれもモデルのスケールを縮小した場合、単位奥行長さ1mmは縮小しない。すなわち、いずれのスケールのモデルでも、単位奥行長さを1mmとした。
【0062】
実施例1では、図4(b)~図4(d)に示すようにスケール縮小した。図4(a)のゴムモデル30と路面モデル32では荷重0.8Nで、平均接触圧が0.7MPaで、反力が0.08Nであった。
図4(b)の1/10モデルのゴムモデル31と路面モデル33では荷重0.3Nで、平均接触圧が1.54MPaで、反力が0.3Nであった。図4(c)の1/100モデルのゴムモデル34と路面モデル35では荷重0.06Nで、平均接触圧が2.8MPaで、反力が0.7Nであった。図4(d)の1/1000モデルのゴムモデル36と路面モデル37では荷重0.01Nで、平均接触圧が3.4MPaで、反力が1.12Nであった。
図4(a)のゴムモデル30の荷重と、図4(d)の1/1000モデルの反力とを用いて摩擦係数を算出した。摩擦係数は1.4であった。
【0063】
図7(a)~(d)は比較例のゴムと路面とのシミュレーション方法を工程順に示す模式図である。図7(a)~図7(d)にはゴムモデルに生じたひずみ100dも合わせて示す。
比較例1では、図7(b)~図7(d)に示すようにスケール縮小した。図7(a)の縮小前の最初のゴムモデル100と路面モデル102では荷重0.8Nで、平均接触圧が0.7MPaで、反力が0.08Nであった。
図7(b)の1/10モデルのゴムモデル101と路面モデル103では荷重0.08Nで、平均接触圧が0.9MPaで、反力が0.08Nであった。
図7(c)の1/100モデルのゴムモデル104と路面モデル105では荷重0.008Nで、平均接触圧が1.0MPaで、反力が0.08Nであった。図7(d)の1/1000モデルのゴムモデル106と路面モデル107では荷重0.0008Nで、平均接触圧が1.2MPaで、反力が0.08Nであった。
図7(a)のゴムモデル100の荷重と、図7(d)の1/1000モデルの反力とを用いて摩擦係数を算出した。摩擦係数は0.1であった。
【0064】
ここで、モデル化としたゴムの摩擦係数は1.2である。
実施例1と比較例1とは得られる摩擦係数が異なり、実施例1の方が実測値に近い。このように本発明では摩擦係数の計算精度が高い。
【符号の説明】
【0065】
10 シミュレーション装置
12 処理ユニット
14 入力部
16 表示部
20 モデル作成部
22 条件設定部
24 演算部
25 メモリ
26 表示制御部
27 制御部
30、31、34、36、100、101、104,106 ゴムモデル
32、33、35、37、102、105、107 路面モデル
30c 接触部
30d、100d ひずみ
32a 表面
32b 凸部
32c 凹部
D 移動方向
Dc 接触領域
Dt 厚さ
F 反力
L 路面波長
Lc 接触長さ
Lt 長さ
δ 路面振幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7