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特開2024-62563アリピプラゾール粉末製剤およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062563
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】アリピプラゾール粉末製剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20240501BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240501BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K9/19
A61P25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170470
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 瑞乃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎吉
(72)【発明者】
【氏名】宮永 直幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】初鹿 稔
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC01
4C076DD26
4C076DD67
4C076EE32
4C076FF16
4C076GG06
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA02
4C086NA05
4C086ZA18
(57)【要約】
【課題】注射用水に対する分散性が良好であり、かつ噴霧凍結乾燥工程を用いることなく、より簡便に製造し得る、アリピプラゾール粉末製剤およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子を含む粉末製剤を開示する。本発明の粉末製剤は、平均粒子径が60μm以上である凍結乾燥体粒子を含有する。本発明の粉末製剤は、アリピプラゾール懸濁液を凍結乾燥させて凍結乾燥体を得る工程、および凍結乾燥体を目開き4.0mm以下の篩で篩過して凍結乾燥体粒子を得る工程を包含する。ここで、アリピプラゾール懸濁液は、その全体質量を基準にして8~33質量%のアリピプラゾールを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子を含む粉末製剤であって、該凍結乾燥体粒子の平均粒子径が60μm以上である、粉末製剤。
【請求項2】
前記凍結乾燥体粒子が650~1500cm/cmの比表面積を有する、請求項1に記載の粉末製剤。
【請求項3】
前記凍結乾燥体粒子が0.08~0.24g/mLの嵩密度を有する、請求項1に記載の粉末製剤。
【請求項4】
前記凍結乾燥体粒子が、目開き4.0mmの篩を篩過可能な粒子である、請求項1に記載の粉末製剤。
【請求項5】
請求項1に記載の粉末製剤の製造方法であって、
アリピプラゾール懸濁液を凍結乾燥させて凍結乾燥体を得る工程、および
該凍結乾燥体を目開き4.0mm以下の篩で篩過して凍結乾燥体粒子を得る工程、
を包含し、
該アリピプラゾール懸濁液が、その全体質量を基準にして8~33質量%のアリピプラゾールを含む、方法。
【請求項6】
前記篩過する工程が、前記凍結乾燥体を目開き1.4mm以上4.0mm以下の篩で篩過することにより行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記篩過する工程が、前記凍結乾燥体を目開き600μm以上1.4mm未満の篩で篩過することにより行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記篩過する工程が、前記凍結乾燥体を目開き180μm以上600μm未満の篩で篩過することにより行われる、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾール粉末製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症の治療に使用されるアリピプラゾールおよび/またはその水和物は注射剤として投与することが知られている。特に約1μm~約10μmの平均粒子径を有するアリピプラゾールを水性媒体に懸濁させたものは優れた徐放特性を有することが知られている(特許文献1)。
【0003】
このような注射剤は、例えば、アリピプラゾールの凍結乾燥体と注射用水とを別々に充填し、かつ用時にこれらを混合できるプレフィルドシリンジ内に収容して使用されている。しかし、アリピプラゾールの凍結乾燥粉体は分散性に劣るため、用時に均質な懸濁液の調製が困難であった。
【0004】
これに対し、特許文献2は予め調製したアリピプラゾール懸濁液を特殊な噴霧凍結乾燥を行うことにより、アリピプラゾールの凍結乾燥製剤を作製することを記載している。特許文献2の凍結乾燥製剤は、凍結乾燥粒子の形態を有し、これがそのままプレフィルドシリンジ内に充填される。
【0005】
しかし、特許文献2の凍結乾燥製剤は上記特殊な噴霧凍結乾燥工程を用いる点でその製造が煩雑であり、注射用水への分散性についてもさらに改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-509148号公報
【特許文献2】特許第6012637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、注射用水に対する分散性が良好であり、かつ噴霧凍結乾燥工程を用いることなく、より簡便に製造し得る、アリピプラゾール粉末製剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子を含む粉末製剤であって、該凍結乾燥体粒子の平均粒子径が60μm以上である、粉末製剤である。
【0009】
1つの実施形態では、上記凍結乾燥体粒子は650~1500cm/cmの比表面積を有する。
【0010】
1つの実施形態では、上記凍結乾燥体粒子は0.08~0.24g/mLの嵩密度を有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記凍結乾燥体粒子は、目開き4.0mmの篩を篩過可能な粒子である。
【0012】
本発明はまた、上記粉末製剤の製造方法であって、
アリピプラゾール懸濁液を凍結乾燥させて凍結乾燥体を得る工程、および
該凍結乾燥体を4.0mm以下の篩で篩過して凍結乾燥体粒子を得る工程、
を包含し、
該アリピプラゾール懸濁液が、その全体質量を基準にして8~33質量%のアリピプラゾールを含む、方法である。
【0013】
1つの実施形態では、上記篩過する工程は、上記凍結乾燥体を目開き1.4mm以上4.0mm以下の篩で篩過することにより行われる。
【0014】
1つの実施形態では、上記篩過する工程は、上記凍結乾燥体を目開き600μm以上1.4mm未満の篩で篩過することにより行われる。
【0015】
1つの実施形態では、上記篩過する工程は、上記凍結乾燥体を目開き180μm以上600μm未満の篩で篩過することにより行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アリピプラゾールが注射用水に対してより効果的に分散性したアリピプラゾール懸濁液を容易に調製することができる。また、本発明の粉末製剤は噴霧凍結乾燥を行うための特殊な専用設備を用いることなく、簡便に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(粉末製剤)
本発明の粉末製剤は、アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子を含有する。
【0018】
ここで、本明細書中に用いられる用語「アリピプラゾール」は、以下の式:
【0019】
【化1】
【0020】
で表される化合物(アリピプラゾール)および/またはその水和物のいずれも包含していう。こうしたアリピプラゾールは非定型抗精神病薬の1種であり、例えば、統合失調症の治療、双極性障害における躁症状の改善のために使用される。
【0021】
アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子(以下、凍結乾燥体粒子ということがある)は、上記アリピプラゾールを水(例えば、純水、イオン交換水、およびRO水、ならびにそれらの組み合わせから構成される注射用水または製薬用水)に懸濁させ、その後凍結乾燥を経て粒子状に加工したものである。なお、水には、エタノールなどのアルコールが添加されていてもよい。
【0022】
本発明において、凍結乾燥体粒子は個々が独立した粒子で構成されており、例えば個々が互いに接着したケーキ状のような形態を有する凍結乾燥体とは明確に区別される。
【0023】
凍結乾燥体粒子は60μm以上、好ましくは60μm~300μm、より好ましくは110μm~290μm、さらにより好ましくは130μm~280μmの平均粒子径を有する。凍結乾燥体粒子の平均粒子径が60μmを下回ると、粒子は自重より付着力の影響が大きくなり、粒子同士が付着しやすくなり、水が粒子間に入り込みにくくなることで分散性が悪化することがある。凍結乾燥体粒子の平均粒子径は、体積基準であり、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950)を用いて測定することができる。
【0024】
凍結乾燥体粒子はまた、好ましくは650cm/cm~1500cm/cm、より好ましくは700cm/cm~1300cm/cm、さらにより好ましくは700cm/cm~1100cm/cmの比表面積を有する。凍結乾燥体粒子の比表面積が650cm/cmを下回ると、個々の凍結乾燥体粒子が大きくなるため、粒子を容器に充填する際に細かい充填量の調整を行うことが困難になる場合がある。凍結乾燥体粒子の比表面積が1500cm/cmを上回ると、水が凍結乾燥体粒子表面全体に行き渡るのに時間を要することとなり、分散性が悪化する場合がある。凍結乾燥体粒子の比表面積は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950)を用いて測定することができる。
【0025】
凍結乾燥体粒子はまた、好ましくは0.08g/mL~0.24g/mL、より好ましくは0.11g/mL~0.23g/mLの嵩密度を有する。凍結乾燥体粒子の嵩密度が0.08g/mLを下回ると、必要な重量を充填した際の凍結乾燥体粒子の嵩体積が大きくなり、水と速やかに混和させることが困難になることで分散性が悪化する場合がある。凍結乾燥体粒子の嵩密度が0.24g/mLを上回ると、粒子が密なため、粒子間隙に水が入り込みにくくなり、分散性が悪化する場合がある。凍結乾燥体粒子の嵩密度は、特許文献2に記載の方法を用いて測定され、具体的には、メスシリンダーに凍結乾燥体粒子を流し込み、体積(mL)を測り、さらにその質量(g)を測定して、その質量をその体積で除することにより算出することができる。
【0026】
凍結乾燥体粒子はまた、凍結乾燥体(ケーキ)を、好ましくは目開き4.0mmの篩を篩過することで得られる粒子である。本発明において、「篩過する」とは、凍結乾燥体のうち、少なくとも70容量%、好ましくは80容量%以上、より好ましくは90容量%以上、さらにより好ましくは95容量%以上、最も好ましくは98容量%以上が、所定の大きさまたはそれ以下の目開きを有する篩を通過して凍結乾燥体粒子を得られる状態にあること、および当該大きさまたはそれ以下の目開きを有する篩を通過して凍結乾燥体粒子を得ることができたことのいずれをも包含する。
【0027】
さらに、本発明において凍結乾燥体粒子は、凍結乾燥体を好ましくは目開き180μm~4.0mm、より好ましくは目開き250μm~2.8mmの篩を篩過することで得られる粒子である。凍結乾燥体粒子が目開き180μmを下回る篩を篩過して得られた粒子で構成される場合、得られる粉末製剤は粒子同士が付着しやすくなり、水が粒子間に入り込みにくくなることで分散性が悪化することがある。凍結乾燥体粒子が、凍結乾燥体を目開き4.0mmを上回る篩を篩過して得られた粒子で構成される場合、個々の凍結乾燥体粒子が大きくなるため、粒子を容器に充填する際に細かい充填量の調整を行うことが困難になることがある。
【0028】
上記凍結乾燥体粒子を構成するにあたり、アリピプラゾール懸濁液にはアリピプラゾール以外に他の成分を含有していてもよい。
【0029】
アリピプラゾール懸濁液に含有し得る他の成分の例としては、懸濁化剤、賦形剤、緩衝剤、pH調整剤、および凝集防止成分、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
懸濁化剤の例としては、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリエチレングリコール類、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ポリオキシエチレンステアレート、コロイダル二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、非結晶性セルロース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール、ポロキサマー、ポロキサミン、および荷電リン脂質、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
賦形剤の例としては、マンニトール、スクロース、マルトース、キシリトール、グルコース、スターチ、およびソルビトール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
緩衝剤の例としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、およびそれらの水和物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
pH調整剤の例としては、例えば、塩酸、酢酸などの酸性pH調整剤;ならびに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの塩基性pH調整剤;が挙げられる。
【0034】
凝集防止成分は、例えば界面活性剤であり、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、および3000~13000の平均分子量を有するポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等、ならびにそれらの組み合わせが包含される。
【0035】
アリピプラゾール懸濁液に含有され得る上記他の成分の含有量は特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。また、アリピプラゾール懸濁液への他の成分の添加は、上記アリピプラゾールと水との混和と一緒に行われてもよく、アリピプラゾールと水との混和の後に行われてもよく、あるいはこれらの両方で行われてもよい。
【0036】
本発明の粉末製剤では、アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥体粒子と一緒に別の成分が配合されていてもよい。
【0037】
当該別の成分の例は、上記アリピプラゾール懸濁液に含有し得る他の成分として例示したものと同様である。凍結乾燥体粒子と一緒に配合され得る上記別の成分の含有量は特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0038】
本発明の粉末製剤は、例えば、ダブルチャンバ型シリンジのようなプレフィルドシリンジ内に収容される。ダブルチャンバ型シリンジに収容される場合、本発明の粉末製剤は一方のチャンバ(好ましくは注射針の近傍のチャンバ内に配置された2つのガスケットの間(第1ガスケットと中間ガスケットとの間の上室))に収容され、注射用水は他方のチャンバ(好ましくはプランジャの近傍のチャンバ内に配置された2つのガスケットの間(当該中間ガスケットとプランジャガスケットとの間の下室)に収容される。
【0039】
使用時には、ダブルチャンバ型シリンジのプランジャを押し込むことにより、注射用水が粉末製剤を収容するチャンバ側に移動し、当該粉末製剤と注射用水とが混合される。これにより粉末製剤中のアリピプラゾールと注射用水とが効果的に分散して混和され、その後注射用製剤として所定の患者に対して筋肉内投与または皮下投与され得る。
【0040】
(粉末製剤の製造方法)
上記粉末製剤は、例えば以下のようにして製造される。
【0041】
本発明の製造方法では、アリピプラゾール懸濁液が凍結乾燥される。
【0042】
アリピプラゾール懸濁液は、上記の通り水やアルコール水溶液に所定量のアリピプラゾールを添加し、必要に応じて上記他の成分を添加することにより調製される。
【0043】
アリピプラゾール懸濁液に含まれるアリピプラゾールの濃度(含有量)は、当該アリピプラゾール懸濁液の全体質量を基準にして8質量%~33質量%、好ましくは10質量%~30質量%である。アリピプラゾール懸濁液に含まれるアリピプラゾールの濃度が8質量%を下回ると、相対的に媒体量が多くなることから凍結乾燥効率が低下することがある。アリピプラゾール懸濁液に含まれるアリピプラゾールの濃度が33質量%を上回ると、得られる凍結乾燥体が硬くなりすぎて後述の篩過を行うことが困難になることがある。
【0044】
本発明においては、アリピプラゾール懸濁液は、例えばトレイ、シャーレのような平底容器に移され、この状態で凍結乾燥が行われる。言い換えれば、本発明においては、アリピプラゾール懸濁液は特許文献2に記載されるような噴霧凍結乾燥を目的としたスプレー装置などの特殊な設備は特に必要とされない。
【0045】
アリピプラゾール懸濁液の凍結乾燥は、例えば凍結乾燥機内で行われる。具体的には、上記平底容器に収容されたアリピプラゾール懸濁液を凍結乾燥機内に入れ、好ましくは-50℃~-35℃、より好ましくは-45℃~-40℃の棚温度で、好ましくは1時間~10時間、より好ましくは2時間~5時間保持することにより凍結が行われる。その後、機内の真空度を高め、棚温度を好ましくは-10℃~-5℃にまで上昇させ、その状態で好ましくは24時間~72時間保持することにより乾燥が行われる。そして凍結乾燥器内を大気圧まで復圧することにより、凍結乾燥体を得ることができる。
【0046】
このようにして得られた凍結乾燥体は、好ましくは150N以下、より好ましくは1N~150N、さらにより好ましくは3N~140Nの10%ひずみ硬度を有する。ここで、「10%ひずみ硬度」は、アリピプラゾール懸濁液20mLを6cmの外径を有するシャーレに注ぎ、凍結乾燥した得た検体(凍結乾燥ケーキ)をシャーレごと装置台の上に配置し、直径12.8mmの平らな底面を有する円筒形プランジャの先端が検体の中央部と接触するように位置調整した後、侵入距離7.5mmおよび侵入速度0.5m/秒で当該プランジャを検体に侵入させた際の当該検体の10%圧縮に必要となる力として表される。凍結乾燥体の10%ひずみ硬度が150Nを上回ると、凍結乾燥体自体が硬すぎて後述する篩による篩過を効率的に行うことが困難となる場合がある。
【0047】
本発明においては、上記で得られた凍結乾燥体が篩過され、凍結乾燥体粒子が作製される。
【0048】
具体的には、凍結乾燥体が平底容器から取り出され、そのまま所定の大きさの目開きを有する篩に通される。凍結乾燥体が篩過される篩の目開きは、好ましくは180μm~4.0μm、好ましくは250μm~2.8mmである。凍結乾燥体の篩過に採用される篩の目開きが180μmを下回ると、得られる粉末製剤は粒子同士が付着しやすくなり、水が粒子間に入り込みにくくなることで分散性が悪化することがある。凍結乾燥体の篩過に採用される篩の目開きが4.0mmを上回ると、個々の凍結乾燥体粒子が大きくなるため、粒子を容器に充填する際に細かい充填量の調整を行うことが困難になることがある。
【0049】
1つの実施形態では、上記凍結乾燥体は、好ましくは目開き1.4mm以上4.0mm以下の篩で篩過される。このような範囲内の目開きを有する篩で篩過すると、得られる凍結乾燥体粒子は水での再懸濁時に、良好な分散性を示す。
【0050】
あるいは1つの実施形態では、上記凍結乾燥体は、好ましくは目開き600μm以上1.4mm未満の篩で篩過される。このような範囲内の目開きを有する篩で篩過すると、得られる凍結乾燥体粒子は水での再懸濁時に、良好な分散性を示す。
【0051】
あるいは1つの実施形態では、上記凍結乾燥体は、好ましくは目開き180μm以上600μm未満の篩で篩過される。このような範囲内の目開きを有する篩で篩過すると、得られる凍結乾燥体粒子は水での再懸濁時に、良好な分散性を示す。
【0052】
本発明において、上記凍結乾燥体の篩過は例えば、異なる目開きの篩を用いて複数回繰り返して凍結乾燥体粒子を完成させてもよい。例えば、最初大きな目開きを有する篩を用いて凍結乾燥体を篩過した後、さらに篩過した凍結乾燥体をより小さな目開きを有する篩に篩過して凍結乾燥体粒子を完成させてもよい
【0053】
得られた凍結乾燥体粒子は、必要に応じて上記別の成分が混合される。
【0054】
このようにして本発明の粉末製剤を製造することができる。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0056】
以下の実施例および比較例で採用した試験方法・評価方法は以下の通りである。
【0057】
(凍結乾燥体の10%ひずみ硬度)
調製例1で調製したアリピプラゾール懸濁液20mLを6cmの外径を有するシャーレに注ぎ、凍結乾燥して得られた凍結乾燥体(凍結乾燥ケーキ)をシャーレごと装置台の上に配置した。このシャーレ内の凍結乾燥体に、直径12.8mmの平らな底面を有する円筒形プランジャの先端がその中央部と接触するように位置調整した。その後、侵入距離7.5mmおよび侵入速度0.5m/秒で当該プランジャを凍結乾燥体の表面に侵入させ、当該凍結乾燥体の10%圧縮に要した力を強度試験装置(オートグラフ)(株式会社島津製作所製(型番)SZ-SX)により測定した。
【0058】
(凍結乾燥体粒子の平均粒子径および比表面積)
実施例および比較例で得られた凍結乾燥体粒子の体積平均粒子径および比表面積について、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950)による乾式測定ユニットを用いて測定した。測定条件として屈折率1.51~0.00iおよび圧縮空気圧0.2MPaを採用した。
【0059】
(凍結乾燥体粒子の嵩密度)
実施例および比較例で得られた凍結乾燥体粒子をメスシリンダーに流し込み、体積(mL)を測り、さらにその質量(g)を測定して、その質量をその体積で除することにより算出した。
【0060】
(粉末製剤の分散性および平均分散時間)
2つの空間(上室および下室)を有するダブルチャンバ型シリンジにおいて、上室に実施例または比較例で得られた粉末製剤(凍結乾燥体粒子)439mg(アリピプラゾール原薬として340mg)を充填し、下室に1.2mLの水を充填し、各室をガスケットで密封した。1つの粉末製剤につき、5本の同様のシリンジを作製した。
【0061】
次いで、下室に充填された水を下室から上室に完全に移行させ、粉末製剤と水とを混和させた。この状態でシリンジをローテーター(タイテック株式会社製RT-50)に設置し、50rpmの回転数でローテーターの角度を地面と垂直の方向に指向した状態で当該ローテーターを稼働させた。稼働後1分ごとに停止して、シリンジ内の水中への粉末製剤の分散状態を目視で観察した。分散が進み、目視で粉末製剤の塊が認められなくなるまでの時間(分散時間)を計測した。また、この観察を稼働開始後30分間が経過するまで行った。なお、30分間を経過しても分散していなかったものは「30分以上」として記録した。
【0062】
1つの粉末製剤につき作製した5本のシリンジ全てについて上記分散時間を計測し、分散に30分以上要したシリンジの数で分散性を評価した。
【0063】
さらに、1つの粉末製剤について5本全部のシリンジに対する分散時間の平均値を平均分散時間として算出した。
【0064】
(調製例1:アリピプラゾール凍結乾燥体の作製)
アリピプラゾール水和物、カルボキシメチルセルロースナトリウム、マンニトールおよびリン酸二水素ナトリウム1水和物が表1に示す組成比となるように、アリピプラゾール懸濁液をそれぞれ調製した。
【0065】
得られたアリピプラゾール懸濁液を、ステンレススチール製の2種類のシャーレに注いだ。なお、2種類のシャーレのうち、1つは後述の10%ひずみ硬度で表されるケーキ硬さを測定するためのものであり、このシャーレ(外径:6cm)には、上記で調製したアリピプラゾール懸濁液20mLを注いだ。一方のシャーレ(外径:9cm)には、上記で調製したアリピプラゾール懸濁液50mLを注いだ。
【0066】
これらシャーレを凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製RL-201BS)内に配置し、-40℃の棚温度にて3時間維持してアリピプラゾール懸濁液の凍結を行った。その後、機内の真空度を約10Paに設定し、かつ棚温度を-5℃に上昇させ、その状態で35時間維持することにより乾燥して、アリピプラゾール凍結乾燥体(P1)~(P4)(凍結乾燥ケーキ)をそれぞれ得た。得られたアリピプラゾール凍結乾燥体(P1)~(P4)の10%ひずみ硬度を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(実施例1~13および比較例1:粉末製剤の作製)
上記調製例1で得られたアリピプラゾール凍結乾燥体(P1)~(P4)について、表2に示すように、目開き75μm、150μm、425μm、850μmおよび2800μmのいずれかの篩を用いた篩過した。このうち篩過したものをそれぞれ回収し、粉末製剤(E1)~(E5)および(C2)~(C6)を得た。なお、アリピプラゾール凍結乾燥体(P1)については、当該凍結乾燥体自体が非常に硬く、目開き2800μmの篩さえ篩過できなかった。
【0069】
得られた粉末製剤(E1)~(E5)および(C2)~(C6)の評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、凍結乾燥体を得るために使用したアリピプラゾール懸濁液に含まれるアリピプラゾールの濃度が35質量%であった場合(比較例1)では、篩過自体ができず、粉末製剤の形態を得ることができなかった。これに対し、アリピプラゾール懸濁液に含まれるアリピプラゾールの濃度を30質量%、20質量%または10質量%に調製した場合(実施例1~5および比較例2~6)では目開き75μm~2800μmの篩に篩過可能であった。
【0072】
しかし、目開き75μmまたは150μmの篩を篩過して得られた比較例2~6で得られた粉末製剤(C2)~(C6)はいずれも平均分散時間が30分またはその近くになり、水に対する分散性が劣るものであった。これに対し、目開き425μm、850μmまたは2800μmの篩を篩過して得られた実施例1~5の粉末製剤(E1)~(E5)はいずれも、平均分散時間が著しく短く、分散性に優れるものであったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、例えば医薬品の製造分野において有用である。