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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062564
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】潤滑剤塗布方法および潤滑剤塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/20 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B22D17/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170471
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】横尾 博人
(57)【要約】
【課題】設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することができる潤滑剤塗布方法を提供する。
【解決手段】潤滑剤塗布方法は、注入ピストンを金型に向かって前進させる注入ピストン前進工程と、注入ピストン前進工程開始後に供給路にエアーを供給する第1エアー供給工程と、第1エアー供給工程開始後に注入ピストンを後退させる注入ピストン後退工程と、注入ピストン後退工程開始後に供給路にエアーを供給し、吐出口から内壁面に潤滑剤を吐出して内壁面に潤滑剤を塗布する第2エアー供給工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融された金属が注入される射出スリーブと、前記射出スリーブ内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ内に前記射出スリーブ内の前記金属を射出する注入ピストンと、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置に用いられ、潤滑剤を前記射出スリーブの内壁面に塗布する潤滑剤塗布方法であって、
前記注入ピストンは、
前側の先端に取り付けられ、溶融された前記金属と接触して前向きの移動時に前記金属を前記キャビティ内に押し出すプランジャーチップと、
前記プランジャーチップの後側に配置された射出ロッドと、を有し、
前記射出ロッドは、
前記潤滑剤を供給する供給路と、
前記潤滑剤を吐出する複数の吐出口と、
前記吐出口と前記供給路とを連結する連結通路と、を含み、
前記潤滑剤塗布方法は、
前記注入ピストンを前記金型に向かって前進させる注入ピストン前進工程と、
前記注入ピストン前進工程開始後に前記供給路にエアーを供給する第1エアー供給工程と、
前記第1エアー供給工程開始後に前記注入ピストンを後退させる注入ピストン後退工程と、
前記注入ピストン後退工程開始後に前記供給路にエアーを供給し、前記吐出口から前記内壁面に前記潤滑剤を吐出して前記内壁面に前記潤滑剤を塗布する第2エアー供給工程と、を含む、潤滑剤塗布方法。
【請求項2】
前記第1エアー供給工程で供給される第1エアー供給時間は、前記第2エアー供給工程で供給される第2エアー供給時間よりも短い、請求項1に記載の潤滑剤塗布方法。
【請求項3】
前記複数の吐出口の総断面積を断面積Sとし、前記供給路の断面積を断面積Sとすると、
/Sは、0.1以上0.5以下である、請求項1または請求項2に記載の潤滑剤塗布方法。
【請求項4】
前記第1エアー供給工程および前記第2エアー供給工程は、間をあけずに連続して実施され、
前記注入ピストン後退工程は、前記供給路にエアーが供給されている状態で開始される、請求項1または請求項2に記載の潤滑剤塗布方法。
【請求項5】
溶融された金属が注入される射出スリーブと、前記射出スリーブ内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ内に前記射出スリーブ内の前記金属を射出する注入ピストンと、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置であって、
前記注入ピストンは、
前側の先端に取り付けられ、溶融された前記金属と接触して前向きの移動時に前記金属を前記キャビティ内に押し出すプランジャーチップと、
前記プランジャーチップの後側に配置された射出ロッドと、を有し、
前記射出ロッドは、
前記潤滑剤を供給する供給路と、
前記潤滑剤を吐出する複数の吐出口と、
前記吐出口と前記供給路とを連結する連結通路と、を含み、
前記ダイカスト装置は、前記ダイカスト装置全体の動作を制御する制御部を含み、
前記制御部は、
前記注入ピストンの前進開始後に前記供給路にエアーを供給するよう制御する第1エアー供給制御部と、
前記第1エアー供給制御部の作動後であって、前記注入ピストンの後退の開始後に前記供給路にエアーを供給し、前記吐出口から前記内壁面に前記潤滑剤を吐出して前記内壁面に前記潤滑剤を塗布するよう制御する第2エアー供給制御部と、を含む、ダイカスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤塗布方法および潤滑剤塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造において、バックスプレー方式の離型剤の塗布を採用する技術が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-279645号公報
【特許文献2】特開2005-349452号公報
【特許文献3】WO2020/022304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイカスト鋳造装置には、溶融する金属が充填される射出スリーブ内を往復運動する注入ピストンが設けられている。注入ピストンの前進時においては、射出スリーブ内に充填された金属がキャビティ内に押し出される。注入ピストンが後退限に位置する時(最も後退した位置に配置される時)に再び溶融された金属が射出スリーブ内に充填される。バックスプレー方式のダイカスト鋳造装置においては、注入ピストンの円滑な前後方向への往復運動を確保するために、注入ピストンを後退させながら射出スリーブの内壁面に潤滑剤が塗布される。円滑な注入ピストンの往復運動のためには、設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することが求められる。
【0005】
そこで、設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することができる潤滑剤塗布方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った潤滑剤塗布方法は、溶融された金属が注入される射出スリーブと、射出スリーブ内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ内に射出スリーブ内の金属を射出する注入ピストンと、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置に用いられ、潤滑剤を射出スリーブの内壁面に塗布する潤滑剤塗布方法である。注入ピストンは、前側の先端に取り付けられ、溶融された金属と接触して前向きの移動時に金属をキャビティ内に押し出すプランジャーチップと、プランジャーチップの後側に配置された射出ロッドと、を有する。射出ロッドは、潤滑剤を供給する供給路と、潤滑剤を吐出する複数の吐出口と、吐出口と供給路とを連結する連結通路と、を含む。潤滑剤塗布方法は、注入ピストンを金型に向かって前進させる注入ピストン前進工程と、注入ピストン前進工程開始後に供給路にエアーを供給する第1エアー供給工程と、第1エアー供給工程開始後に注入ピストンを後退させる注入ピストン後退工程と、注入ピストン後退工程開始後に供給路にエアーを供給し、吐出口から内壁面に潤滑剤を吐出して内壁面に潤滑剤を塗布する第2エアー供給工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
上記潤滑剤塗布方法によれば、設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施の形態1における潤滑剤塗布方法に用いられるダイカスト装置の一部を示す概略断面図である。
図2図2は、注入ピストンの一部を拡大して示す概略断面図である。
図3図3は、吐出リングの一部を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法における代表的な工程を示すフローチャートである。
図5図5は、従来の潤滑剤塗布方法、具体的には、注入ピストンの後退を開始した後潤滑剤を吐出させて塗布した場合の潤滑剤の吐出量(メイン吐出のみ1回吐出)および、2回吐出(プレ吐出およびメイン吐出)の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法により塗布した場合の潤滑剤の吐出量とサイクル回数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
本発明に係る潤滑剤塗布方法は、溶融された金属が注入される射出スリーブと、射出スリーブ内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ内に射出スリーブ内の金属を射出する注入ピストンと、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置に用いられ、潤滑剤を射出スリーブの内壁面に塗布する潤滑剤塗布方法である。注入ピストンは、前側の先端に取り付けられ、溶融された金属と接触して前向きの移動時に金属をキャビティ内に押し出すプランジャーチップと、プランジャーチップの後側に配置された射出ロッドと、を有する。射出ロッドは、潤滑剤を供給する供給路と、潤滑剤を吐出する複数の吐出口と、吐出口と供給路とを連結する連結通路と、を含む。潤滑剤塗布方法は、注入ピストンを金型に向かって前進させる注入ピストン前進工程と、注入ピストン前進工程開始後に供給路にエアーを供給する第1エアー供給工程と、第1エアー供給工程開始後に注入ピストンを後退させる注入ピストン後退工程と、注入ピストン後退工程開始後に供給路にエアーを供給し、吐出口から内壁面に潤滑剤を吐出して内壁面に潤滑剤を塗布する第2エアー供給工程と、を含む。
【0010】
従来のバックスプレー方式を採用するダイカスト鋳造においては、1サイクルに1回潤滑剤をエアーにより供給して射出スリーブの内壁面に塗布することとしていた。すなわち、注入ピストンの前進運動および後退運動を繰り返す際において、注入ピストンの後退時に一度エアーを供給して潤滑剤を吐出することとしていた。しかし、このような手法によると、例えば、潤滑剤の粘度が比較的高い場合、潤滑剤を吐出する際に、潤滑剤を供給する供給路内に潤滑剤が多く残り、設定された吐出量を安定して塗布することができないことがあった。特に、ダイカスト鋳造を行う際の1サイクルのインターバル時間が長かった場合、その傾向が顕著であった。この場合、潤滑剤を吐出するために用いる圧縮エアーの圧力を高めれば、上記した問題はいくらか軽減されるものの、製造設備の制約等からエアーの圧力を高めるのにも限界があった。
【0011】
本発明に係る潤滑剤塗布方法によると、注入ピストンを後退させる前に、第1エアー供給工程を実施し、潤滑剤を吐出口付近まで移動させる。そして、注入ピストンの後退を開始後、第2エアー供給工程において、吐出口付近まで移動させた潤滑剤を射出スリーブの内壁面に向かって吐出することができる。そうすると、例えば、潤滑剤の粘度が比較的高い場合や、インターバル時間が長い場合においても、吐出口から吐出される潤滑剤の量のバラつきを低減することができる。この場合、注入ピストンを前進している間もしくは注入ピストンの前進を停止し、後退させる前に第1エアー供給工程が実施されるため、時間的なロスが生じることはない。したがって、このような潤滑剤塗布方法によると、設定した塗布量となるよう安定して正確に潤滑剤を塗布することができる。
【0012】
上記潤滑剤塗布方法において、第1エアー供給工程で供給される第1エアー供給時間は、第2エアー供給工程で供給される第2エアー供給時間よりも短くてもよい。このようにすることにより、1サイクル内において、第1エアー供給工程による吐出口までの潤滑剤の移動および第2エアー供給工程による吐出口から内壁面への吐出を円滑に行うことが容易となる。したがって、より正確に潤滑剤を塗布することができる。
【0013】
上記潤滑剤塗布方法において、粘度が500mPa/s(30℃)以上1700mPa/s(30℃)以下の潤滑剤が一般的に用いられる。上記潤滑剤塗布方法により、高粘度の潤滑剤であっても確実に設定した塗布量となるよう安定して潤滑剤を塗布することができる。
【0014】
上記潤滑剤塗布方法において、エアーの供給圧力は、0.3MPa以上0.7MPa以下の範囲が好適に用いられる。このようにすることにより、より確実に設定した塗布量となるよう安定して正確に潤滑剤を塗布することができる。
【0015】
上記潤滑剤塗布方法において、複数の吐出口の総断面積を断面積Sとし、供給路の断面積を断面積Sとすると、S/Sは、0.1以上0.5以下であってもよい。このようにすることにより、適度なエアー供給圧力で供給路内等に滞留させることなく複数の吐出口からムラなく潤滑剤を塗布することができる。
【0016】
上記潤滑剤塗布方法において、第1エアー供給工程および第2エアー供給工程は、間をあけずに連続して実施されてもよい。このようにすることにより、第1エアー供給工程において移動させた潤滑剤が即時に第2エアー供給工程により内壁面に向かって吐出されるため、設定した塗布量となるよう安定して潤滑剤を塗布することができる。
【0017】
本発明に係るダイカスト装置は、溶融された金属が注入される射出スリーブと、射出スリーブ内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ内に射出スリーブ内の金属を射出する注入ピストンと、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置である。注入ピストンは、前側の先端に取り付けられ、溶融された金属と接触して前向きの移動時に金属をキャビティ内に押し出すプランジャーチップと、プランジャーチップの後側に配置された射出ロッドと、を有する。射出ロッドは、潤滑剤を供給する供給路と、潤滑剤を吐出する複数の吐出口と、吐出口と供給路とを連結する連結通路と、を含む。ダイカスト装置は、ダイカスト装置全体の動作を制御する制御部を含む。制御部は、注入ピストンの前進開始後に供給路にエアーを供給するよう制御する第1エアー供給制御部と、第1エアー供給制御部の作動後であって、注入ピストンの後退の開始後に供給路にエアーを供給し、吐出口から内壁面に潤滑剤を吐出して内壁面に潤滑剤を塗布するよう制御する第2エアー供給制御部と、を含む。
【0018】
このようなダイカスト装置によると、設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することができる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本発明に係る潤滑剤塗布方法およびダイカスト装置の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法に用いられるダイカスト装置の概要について簡単に説明する。図1は、本発明の実施の形態1における潤滑剤塗布方法に用いられるダイカスト装置の一部を示す概略断面図である。図1は、後述する金型が開いた状態を示す。
【0021】
図1を参照して、ダイカスト装置11は、固定金型13と、可動金型14と、射出スリーブ15と、注入ピストン16と、ダイカスト装置11全体の動作を制御する制御部20と、を含む。固定金型13は、固定されている。一方、可動金型14は、固定金型13に対して移動可能に構成されている。可動金型14の移動の向きは、矢印Dで示す向きまたはその逆の向きである。固定金型13と可動金型14とを接触させると、キャビティ17が形成される。射出スリーブ15は、中空円筒状であって固定金型13内に配置されており、一方の開放端がキャビティ17に通じている。射出スリーブ15には、溶融金属を射出スリーブ15内に注入する注入口18が径方向に貫通するようにして設けられている。注入口18を介して、溶融金属、すなわち、溶融されたアルミニウム等の金属が射出スリーブ15内に注入される。なお、理解を容易にする観点から、固定金型13の表面25および可動金型14の表面26を単純化して図示しているが、具体的には、固定金型13の表面25および可動金型14の表面26には、複雑な凹凸形状が形成されるものである。注入ピストン16は、射出スリーブ15内の溶融金属を金型、具体的には固定金型13と可動金型14とを接触させて形成されるキャビティ17内へ射出する。すなわち、注入ピストン16は、射出スリーブ15内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ17内に射出スリーブ15内の溶融金属を射出する。溶融金属を射出する向きは、図1中の固定金型13に向かう向き(矢印Dで示す向き)である。
【0022】
図2は、注入ピストン16の一部を拡大して示す概略断面図である。なお、図2において、理解を容易にする観点から、後述する吐出口および連結通路の一部を破線で概略的に図示している。図2を併せて参照して、注入ピストン16は、プランジャーチップ21と、射出ロッド22と、ジョイント40と、を含む。プランジャーチップ21は、射出スリーブ15内に配置され、溶融金属と接触して溶融金属をキャビティ17内へ押し出す。この時、プランジャーチップ21の先端は、射出スリーブ15の外部(キャビティ内)に突き出る。射出ロッド22は、プランジャーチップ21の後側に配置される。射出ロッド22は、プランジャーチップ21とジョイント40を介して連結されており、射出スリーブ15の後端部へ突き出る部分を有する。すなわち、プランジャーチップ21は、注入ピストン16の前側の先端に取り付けられ、溶融された金属と接触して前向きの移動時に金属をキャビティ17内に押し出す。射出ロッド22は、潤滑剤を供給する供給路30および吐出リング23を有する。吐出リング23は、ジョイント40と射出ロッド22との間に配置されている。吐出リング23は、プランジャーチップ21の後側に配置される。
【0023】
図3は、吐出リング23の一部を示す概略断面図である。図2を併せて参照して、吐出リング23は、潤滑剤を吐出する複数の吐出口29a、吐出口29b、吐出口29cおよび吐出口29dを備える。また、吐出リング23は、吐出口29a~29dに通じ、潤滑剤が通る通路を備える。具体的には、吐出リング23には、供給路30に連通する環状通路27および環状通路27と吐出口29a~29dを連結する連結通路28a、28b、28cおよび28dが形成されている。連結通路28a~28dはL字型に形成されているが、形状に特に制限はない。吐出リング23には、複数の吐出口29a、吐出口29b、吐出口29cおよび吐出口29dが周方向に間隔をあけて設けられている。本実施形態においては、4つの吐出口29a~29dが周方向に等間隔をあけて設けられている。各吐出口29a~29dは、円形である。吐出リング23の内部には、環状通路27が設けられている。環状通路27は、中空半円筒状である。連結通路28a~28dは中空円筒状であり、それぞれ環状通路27から周方向に等間隔をあけて放射状に延びるように設けられている。吐出リング23からの潤滑剤の吐出については、エアーにより実施される。供給路30に潤滑剤とエアーとを供給し、エアー圧力によって潤滑剤が吐出される。
【0024】
吐出リング23は、射出スリーブ15の内壁面19に潤滑剤を吐出する。具体的には、吐出リング23は、射出ロッド22の内部に設けられた供給路30から供給される潤滑剤を環状通路27および放射状に延びる4つの連結通路28a~28dを介して、吐出口29a~29dから射出スリーブ15の内壁面19に吐出する。内壁面19に吐出された潤滑剤は、プランジャーチップ21の外径面24によって内壁面19に沿って引き延ばされ、射出スリーブ15の内壁面19の全面に塗布されることになる。そして、塗布された潤滑剤により、次にプランジャーチップ21が押し出される際のプランジャーチップ21の外径面24と射出スリーブ15の内壁面19との摩擦を軽減して、プランジャーチップ21を円滑に移動させる。すなわち、ダイカスト装置11は、バックスプレー方式を採用する。プランジャーチップ21が射出スリーブ15内に矢印Dで示す向きに押し込まれ、矢印Dで示す向きと逆の向きに引き出される際に、射出スリーブ15の内壁面19に潤滑剤が塗布される。
【0025】
なお、潤滑剤については、制約なく使用可能であるが、粘度が500mPa/s(30℃)以上1700mPa/s(30℃)以下の潤滑剤が一般的に用いられる。上記潤滑剤塗布方法により、高粘度の潤滑剤であっても確実に設定した塗布量となるよう安定して潤滑剤を塗布することができる。本実施形態においては、粘度が850mPa/s(30℃)の潤滑剤を使用した。
【0026】
ここで、制御部20は、第1エアー供給制御部31と、第2エアー供給制御部32と、を含む。第1エアー供給制御部31は、注入ピストン16の前進の開始後に供給路30、環状通路27および連結通路28a~28d内にエアーを供給するよう制御する。第2エアー供給制御部32は、第1エアー供給制御部31の作動後であって、注入ピストン16の後退の開始後に注入ピストン16を後退させながら環状通路27および連結通路28a~28d内にエアーを供給し、内壁面19に潤滑剤を吐出して内壁面19に潤滑剤を塗布するよう制御する。これについては、後述する。
【0027】
ここで、本発明に係るダイカスト装置11における潤滑剤塗布方法について説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法における代表的な工程を示すフローチャートである。図4を併せて参照して、実施の形態1における潤滑剤塗布方法では、工程(S10)として、注入ピストン前進工程が実施される。この工程(S10)は、射出スリーブ15内に溜められた溶融された金属を注入ピストン16、具体的には、注入ピストン16の先端に取り付けられたプランジャーチップ21によりキャビティ17内へ押し出す工程である。注入ピストン16は、矢印Dの向きに押し出される。
【0028】
次に、工程(S20)として、注入ピストン16の前進を停止する(注入ピストン前進終了工程)。この工程(S20)では、射出スリーブ15内に存在した溶融金属が全てキャビティ17内に押し出される。この状態でしばらく待機し、キャビティ17内で溶融された金属が固まるのを待つ。
【0029】
その後、工程(S30)として、第1エアー供給工程が実施される。この工程(S30)では、供給路30から供給される潤滑剤と共に、エアーが供給される。このエアーの供給圧力は、本実施形態においては、0.4MPaである。また、このエアーの供給時間は、本実施形態においては、0.5秒である。すなわち、注入ピストン16の前進を停止した後に、環状通路27および連結通路28a~28d内にエアーを供給するよう制御する。第1エアー供給工程で供給される第1エアー供給時間は、後述する第2エアー供給工程で供給される第2エアー供給時間よりも短く構成されている。この第1エアー供給工程は、注入ピストン16を後退させる前に行われるため、潤滑剤のプレ吐出工程となる。この工程により、環状通路27および放射状に延びる連結通路28a~28dの壁面に付着、残存している潤滑剤の大部分が吐出口29a~29d付近に移動する。なお、この工程においては、少量の潤滑剤が、吐出口29a~29dから吐出されてもよい。第1エアー供給工程は、0.1~1秒程度実施される。
【0030】
次に、工程(S40)として、注入ピストン16の後退が開始される(注入ピストン後退工程)。この工程(S40)は、キャビティ17内の溶融金属が固まった後、製品として金型から取り外され、再び射出スリーブ15内に次のサイクルに用いる溶融された金属を充填するために実施される。
【0031】
その後、工程(S50)として、第2エアー供給工程が実施される。この工程(S50)では、第1エアー供給工程と同様に、供給路30から供給される潤滑剤と共に、エアーが供給される。このエアーの供給圧力は、本実施形態においては、0.4MPaである。また、このエアーの供給時間は、本実施形態においては、1.0秒である。すなわち、注入ピストン16を後退させながら環状通路27および連結通路28a~28d内にエアーを供給する。この第2エアー供給工程で、潤滑に必要な規定量の潤滑剤が吐出されるため、潤滑剤のメイン吐出工程となる。この工程により、吐出口29a~29dから射出スリーブ15の内壁面19に潤滑剤が吐出される。第2エアー供給工程は、1~3秒程度実施される。
【0032】
次に、工程(S60)として、注入ピストン16の後退を停止する(注入ピストン後退終了工程)。この工程(S60)に至るまでに注入ピストン16が矢印Dと逆の向きに引き出される。この時、注入ピストン16の先端に取り付けられたプランジャーチップ21の外径面24によって内壁面19に吐出された潤滑剤が引き延ばされ、内壁面19に潤滑剤が塗布される。
【0033】
その後、同様に再びS10からのサイクルが実施され、ダイカスト装置11による鋳造が行われる。
【0034】
本発明に係る潤滑剤塗布方法によると、注入ピストン16の前進停止後、第1エアー供給工程において、潤滑剤を吐出口29a~29d付近に移動させることができる。そして、注入ピストン16の後退を開始後の第2エアー供給工程において、吐出口29a~29d付近に移動させた潤滑剤が射出スリーブ15の内壁面19に向かってタイムラグなく速やかに吐出される。そうすると、例えば、潤滑剤の粘度が比較的高い場合や、鋳造のインターバル時間が長い場合においても、吐出口29a~29dから吐出される潤滑剤の量のバラつきを低減することができる。この場合、注入ピストン16を後退させる前に第1エアー供給工程が実施されるため、時間的なロスが生じることはない。したがって、このような潤滑剤塗布方法によると、設定した塗布量となるよう安定して正確に潤滑剤を塗布することができる。また、本実施形態では吐出口が複数あり、供給路から各吐出口までの距離が異なるため、第1エアー供給工程を実施することにより、メイン吐出の前に各吐出口付近まで潤滑剤を移動させておくことができるため、規定量の潤滑剤を安定して吐出させることが可能になる。
【0035】
図5は、従来の潤滑剤塗布方法、具体的には、注入ピストンの後退を開始した後に潤滑剤を吐出させて塗布した場合の潤滑剤の吐出量(メイン吐出のみ1回吐出)および、2回吐出(プレ吐出およびメイン吐出)の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法により塗布した場合の潤滑剤の吐出量とサイクル回数との関係を示すグラフである。図5において、横軸はサイクル(吐出回数)を示し、縦軸は潤滑剤の吐出量(g)を示す。
【0036】
図5を参照して、1回のみの吐出による従来の潤滑剤塗布方法によれば、特に10サイクルまでは吐出量が安定していないことが把握できる。これに対し、2回吐出の実施の形態1に係る潤滑剤塗布方法によると、1サイクルから25サイクルまで吐出量が安定していることが把握できる。
【0037】
本実施形態によると、第1エアー供給工程で供給される第1エアー供給時間は、第2エアー供給工程で供給される第2エアー供給時間よりも短い。よって、1サイクル内において、第1エアー供給工程による吐出口までの潤滑剤の移動および第2エアー供給工程による吐出口から内壁面への吐出を円滑に行うことが容易となる。したがって、より正確に潤滑剤を塗布することができる。
【0038】
上記潤滑剤塗布方法において、粘度が500mPa/s(30℃)以上1700mPa/s(30℃)以下の潤滑剤が一般的に用いられる。上記潤滑剤塗布方法により、高粘度の潤滑剤であっても確実に設定した塗布量となるよう安定して潤滑剤を塗布することができる。なお、潤滑剤の粘度が700mPa/s(30℃)以上1500mPa/s(30℃)以下であればより安定して塗布できる。
【0039】
上記潤滑剤塗布方法において、エアーの供給圧力は、0.3MPa以上0.7MPa以下の範囲が好適に用いられる。このようにすることにより、より確実に設定した塗布量となるよう安定して正確に潤滑剤を塗布することができる。なお、エアーの供給圧力は、0.4MPa以上0.6MPa以下であればさらに好適である。
【0040】
なお、吐出口の総断面積(吐出口29a~29dの断面積の総和)を断面積Sとし、供給路30の断面積を断面積Sとすると、S/Sは、0.1以上0.5以下とすることが好ましい。このようにすることにより、適度なエアー供給圧力で供給路30内等に滞留させることなく複数の吐出口29a~29dからムラなく潤滑剤を塗布することができる。なお、S/Sは、0.15以上0.4以下とすることがさらに好適である。
【0041】
なお、上記実施形態では、各吐出口の断面積は同じであったが、それぞれの吐出口の断面積は異なっていてもよい。例えば、吐出リング23は、同じ面積の開口部を開けておき、中央部に穴が開いている埋め込みネジを開口部に挿入して、各吐出口の大きさを調整できるようにしてもよい。
【0042】
なお、本発明に係るダイカスト装置11は、溶融された金属が注入される射出スリーブ15と、射出スリーブ15内の前後方向に往復運動が可能であり、金型を組み合わせて形成されるキャビティ17内に射出スリーブ15内の金属を射出する注入ピストン16と、を含むバックスプレー方式のダイカスト装置である。注入ピストン16は、前側の先端に取り付けられ、溶融された金属と接触して前向きの移動時に金属をキャビティ17内に押し出すプランジャーチップ21と、プランジャーチップ21の後側に配置された射出ロッド22と、を有する。射出ロッド22は、潤滑剤を供給する供給路30と、潤滑剤を吐出する複数の吐出口29a~29dと、吐出口29a~29dと供給路30とを連結する連結通路28a~28dと、を含む。ダイカスト装置11は、ダイカスト装置11全体の動作を制御する制御部20を含む。制御部20は、注入ピストン16の前進開始後に供給路30にエアーを供給するよう制御する第1エアー供給制御部31と、第1エアー供給制御部31の作動後であって、注入ピストン16の後退の開始後に供給路30にエアーを供給し、吐出口29a~29dから内壁面19に潤滑剤を吐出して内壁面19に潤滑剤を塗布するよう制御する第2エアー供給制御部32と、を含む。ダイカスト装置11の構成要素は、複数の装置に分かれて搭載され、それらを組み合わせて構成されていてもよい。
【0043】
このようなダイカスト装置11によると、設定した塗布量の潤滑剤を安定して正確に塗布することができる。
【0044】
(他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態において、第1エアー供給工程および第2エアー供給工程は、間をあけずに連続して実施されてもよい。このようにすることにより、第1エアー供給工程において移動させた潤滑剤が即時に第2エアー供給工程により内壁面に向かって吐出されるため、設定した塗布量となるよう安定して潤滑剤を塗布することができる。
【0045】
また、上記の実施の形態においては、吐出口および連結通路はそれぞれ、周方向に等間隔をあけてそれぞれ4つずつ設けることとしたが、これに限らず、周方向にそれぞれ8つずつ設けることとしてもよいし、それぞれ3つずつ設けることとしてもよい。また、吐出口は等間隔に配置されていなくてもよい。例えば、吐出口を上側に多く配置してもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
11 ダイカスト装置、13 固定金型、14 可動金型、15 射出スリーブ、16 注入ピストン、17 キャビティ、18 注入口、19 内壁面、20 制御部、21 プランジャーチップ、22 射出ロッド、23 吐出リング、24 外径面、25,26 表面、27 環状通路、28a,28b,28c,28d 連結通路、29a,29b,29c,29d 吐出口、30 供給路、31 第1エアー供給制御部、32 第2エアー供給制御部、40 ジョイント
図1
図2
図3
図4
図5