(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006259
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】建築構造およびそれに用いるテトラモジュール
(51)【国際特許分類】
E04B 1/35 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E04B1/35 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106982
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】521507774
【氏名又は名称】梶川 泰司
(71)【出願人】
【識別番号】594128913
【氏名又は名称】株式会社長大
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】梶川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】中溪 宏一
(57)【要約】
【課題】テトラモジュールを用いることで工場生産での部材調達が可能であり、モジュール以外の部材を連結部材として用いることなく、モジュールだけの組み合わせで構築することが可能となり、プレハブ化が向上し、施工を簡易かつ迅速に行える建築構造およびそれに用いるテトラモジュールを提供する。
【解決手段】柱10・床11もしくは壁の建築の躯体をトラス構造で形成する場合に、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面としたテトラモジュール1の結合で前記柱10・床11もしくは壁をトラス構造とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱・床もしくは壁の建築の躯体をトラス構造で形成する場合に、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面としたテトラモジュールの結合で前記柱・床をトラス構造としたことを特徴とする建築構造。
【請求項2】
床は乾式フラットスラブである請求項1記載の建築構造。
【請求項3】
床は梁付きのものとする請求項1記載の建築構造。
【請求項4】
梁も正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面としたテトラモジュールの結合で形成する請求項3記載の建築構造。
【請求項5】
トラス構造を形成するものとして、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面とし、立方体キューブとして立方体の面にプレートが内接する請求項1記載の建築構造に用いるテトラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造およびそれに用いるテトラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
トラス構造は、部材同士を三角形につなぎ合わせた構造形式であり、部材の両端がピン接合で三角形のため、外力を加えても軸力しか発生しない。
【0003】
例えば四角形に力を作用させると、四角形は力を受けて曲がってしまうが、一方、三角形は力に対して「曲がる」ではなく、「縮む」又は「伸びる」ような変形をする。「曲がる」という変形が起きる部材には、曲げモーメントが作用しているが、「縮む、伸びる」変形には軸力しか作用していない。
【0004】
同じ大きさの部材でも、曲げモーメントが作用する部材と、軸力のみ作用する部材では、後者が圧倒的に有利である。つまり、軸力のみ作用する部材は効率的な断面が選定できる。
【0005】
このようにして、トラス構造のメリットを下記に示すと、
・部材間には軸力しか作用しない。
・よって、細い部材で構造物を構成することが可能。
・軽快で細い部材で建築物を創ることができ、意匠的にも魅力がある。
ということが挙げられる。
【0006】
建築の躯体構造にトラスを用いる例は見られ、下記特許文献もその一例である。
【特許文献1】特許第3041574号公報
【0007】
この特許文献1は多層集合住宅の各階床版の荷重を周辺梁に伝える構造体を立体トラスなどで構成して、上階床版にはトラス支点間に掛け渡す耐火パネルを、下階天井版にはトラス支点間に耐火パネルを装着し、複合耐火床版にする。また、その中空部に設置する給水、排水、排気、換気、電気、ガス、などの設備を点検、修理、交換などを容易にするために上,下パネルを脱着可能な構造とした。
【0008】
一方、建物のスラフ(床)に関しては梁―床間のデッドスペースや床(スラブ)下面に突出する梁型を除くために用いられる床の一種で、柱に剛接するコンクリート床に梁の機能をもたせるフラットスラブが存在する。
【0009】
フラットスラブに関しては、フラットスラブの床のせん断力を安定的に柱へ伝達させるため柱頭部にキャピタルを設けた構造や、施工性の向上に関して種々の提案がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
トラス構造のデメリットとしては、施工が面倒なことである。トラス構造は、上弦材、下弦材、束材、斜材という部材が必要で、部材が交錯する点は、どうしても接合部が複雑になりがちになる。
【0011】
また、トラス構造による建築構造躯体を構築するのに、モジュールでの形成やキューブやブロック結合での形成を行うという概念は従来なかった。
【0012】
本発明の目的前記従来例の不都合を解消し、柱・床の建築の躯体をトラス構造で形成するとう斬新な建築が得られ、また、トラス構造のモジュールを用いることで、工場生産での部材調達が可能であり、モジュール以外の部材を連結部材として用いることなく、モジュールだけの組み合わせで構築することが可能となり、プレハブ化が向上し、施工を簡易かつ迅速に行える建築構造およびそれに用いるテトラモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため本発明は建築構造としては、柱・床もしくは壁の建築の躯体をトラス構造で形成する場合に、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面としたテトラモジュールの結合で前記柱・床をトラス構造としたこと、および、床は乾式フラットスラブであることを要旨とするものである。
【0014】
建築構造に用いるテトラモジュールとしては、トラス構造を形成するものとして、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成し、4頂点を正三角形平面または正六角形平面とし、立方体キューブとして立方体の面にプレートが内接することを要旨とするものである。
【0015】
請求項1記載の本発明によれば、柱・床もしくは壁の建築の躯体をトラス構造で形成するという今までにない斬新な建築の躯体を実現できる。
【0016】
そしてテトラモジュールはトラス構造を形成するものとして、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレートで形成したので、プレートを細長接合面を接合させてテトラモジュール同士を組み合わせることができる。
【0017】
さらに、テトラモジュールを組み合わせるのに、正四面体の稜線部分となるプレートは相互に重なり、2重となるので強度が増し、これがトラス構造の斜材の部分であればトラス構造自体が堅牢なものとなる。
【0018】
また、テトラモジュールの4頂点は正三角形平面または正六角形平面なので、テトラモジュール同士を合わせた際にはこの頂点部分は衝合して正四面体空間を形成し、トラス構造として安定した結合部が得られる。
【0019】
なお、4頂点が正三角形平面の場合はテトラモジュール自体の強度に期待でき、4頂点が正六角形平面の場合はプレートは正六角形の一辺を間にした残りの三辺を接続辺として組まれ、辺となるプレート同士の接続が容易なものとなる。
【0020】
また、テトラモジュールによるものであり、モジュール以外の連結部材を用いることなく、モジュールだけの組み合わせでトラス構造を構築することが可能となり、組立を少ない工数で簡易かつ迅速に行うことができ、プレハブ化が向上する。
【0021】
床の場合は、テトラモジュールを組み合わせるのに、正四面体の稜線部分となるプレートは相互に重なり、2重となるので強度が増し、これが水平材による上弦材と下弦材とこれらを結合する斜材による盤状立体トラス構造の斜材の部分としてトラス構造自体が堅牢なものとなる。
【0022】
柱または壁の場合は、テトラモジュールを積上げて高さのある構造物を形成でき、モジュールをトラス構造を構築するように組みあわせるのに、正四面体の稜線部分となるプレートを細長接合面を有する部材の細長接合面を接合させて行うことができるので、特に、モジュール以外の部材を連結部材として用いることなく、モジュールだけの組み合わせでトラス構造を構築することが可能となり、プレハブ化が向上し、組立を少ない工数で簡易かつ迅速に行える。
【0023】
さらに、モジュールを組み合わせるのに、正四面体の稜線部分となるプレートは相互に重なり、2重となるので強度が増し、これがトラス構造物の斜材の部分であればトラス構造自体が堅牢なものとなる。
【0024】
請求項2記載の本発明によれば、床を梁の必要のない乾式フラットスラブであるので、施工が簡単で、かつ、上面に床板を、下面に天井板を貼設でき、トラス構造である内部空間を配管、配線の設置スペースとして利用できる。
【0025】
請求項3記載の本発明によれば、テトラモジュールを立方体キューブとして扱うことで、いわゆるブロック積の組み方が可能となり、さらに、この立方体キューブを複数結合させて大きなキューブとして形成すれば、施工の工数の減少が実現できる。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように本発明の建築構造およびそれに用いるテトラモジュールは、
柱・床の建築の躯体をトラス構造で形成するという斬新な建築が得られ、また、トラスモジュールを用いることで工場生産での部材調達が可能であり、モジュール以外の部材を連結部材として用いることなく、モジュールだけの組み合わせで構築することが可能となり、プレハブ化が向上し、施工を簡易かつ迅速に行えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の建築構造の1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第1実施形態を示す説明図である。
【
図3】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す説明図である。
【
図4】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す斜視図である。
【
図5】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す正面図である。
【
図6】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す45度側面図である。
【
図7】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す右側面図である。
【
図8】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す45度俯瞰である。
【
図9】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す平面図である。
【
図10】本発明の建築構造に用いるテトラモジュールの第2実施形態を示す展開図である。
【
図11】テトラモジュールによるキューブの斜視図である。
【
図12】テトラモジュールによるキューブを積層させた斜視図である。
【
図13】テトラモジュールの組合せの説明図である。
【
図15】本発明の建築構造の他の実施形態を示す斜視図である。
【
図18】本発明の建築構造で梁で補強した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の建築構造の1実施形態を示す斜視図で、建築の躯体である柱10、床11をテトラモジュール1によるトラス構造で形成した。
【0029】
さきに本発明建築構造に用いるテトラモジュール1に付いて説明する。
図2,
図3に示すように、テトラモジュール1は正四面体αの稜線部分を細長接合面2を有するプレート3で形成し、4つの頂点4を正三角形または正六角形の平板とした。
図2は頂点4を正三角形の場合、
図3は正六角形の場合である。
【0030】
正四面体は4つの頂点と6つの辺を有し、正四面体の中心と正四面体の頂点を結ぶ線の相互の角度が109.5度である。
【0031】
プレート3の細長接合面2は正四面体の辺(稜線)を平面的に削り取った面であり、その平面のなす角度は正四面体の中心に対して細長接合面2の幅方向では傾きのないものである。また、細長接合面2の幅寸は前記削り取った程度によるが、特に限定されるものではない。
【0032】
テトラモジュール1は、正四面体であるが、正確には正四面体を想定し、正四面体の稜線部分を細長接合面2を有するプレート3で形成し、これら細長接合面2を有するプレート3の端部を平板で連結して正四面体状架構に組み立てた。なお、プレート3はすべて同一の長さである。
【0033】
前記テトラモジュール1は、プレート3の相互を正三角形の平板5または正六角形の平板6で連結することで、4頂点を正三角形平面または正六角形平面とした。
図10に正六角形の平板6で連結する場合の展開を示す。
【0034】
テトラモジュール1の材質としては、鋼材、鋳鉄、SUS、アルミ、木製、樹脂などが採用し得るが、建築用としては金属製または木製のものが好適である。
【0035】
また、テトラモジュール1の製作加工方法は溶接、ボルト接合、曲げ加工、鋳造などによる。前記正三角形の平板5または正六角形の平板6はこれをプレート3の接合ジョイント部材として接合片を有するものとして形成してもよい。
【0036】
テトラモジュール1は
図4に示すように、立方体キューブ12としてとらえることができ、正四面体の稜線部分を細長接合面を有するプレート3で形成し、4頂点を正三角形平面5または正六角形の平面6としたものが、立方体の面にプレート3が内接する。ちなみに、この立方体キューブ12は一辺が30cm(300mm)のものを標準とするが、大きさは下記のように種々選択できる。
(大きさ)
1.サイズ別用途/ProductLineup
30cmモジュール:建築構造
15cmモジュール:建築内装、間仕切り
10cmモジュール:什器、家具
60cmモジュール:大規模構造物
【0037】
キューブ12は建築構造と相性のよい300mmキューブを構成するとした場合、テトラモジュール1の寸法を
図10に示すもの(頂点正六角形 一辺26.5 t4.5 辺プレート 132.6×26.5 t3.2)とすると、テトラモジュール1の重量は約600g、鋼製300mmキューブ12の重量は約4.8kgである。
【0038】
次にかかるテトラモジュール1により建築の躯体である柱10、床11のトラス構造を形成することについて説明する。なお、建築の躯体としては柱10、床11の両方をテトラモジュール1によりトラス構造とする場合の他にいずれか一方のみをトラス構造とするものでもよい。
【0039】
テトラモジュール1は単位モジュールとして相互に接合して組立てられトラス構造を形成するが、
図13に示すように細長接合面2を有するプレート3の相互を細長接合面2で重ね合せて接合する。
【0040】
このように単位架構となるモジュールで立方体キューブを造り、キューブを相互に接合していくこととした。モジュールは結晶構造を形成する「構造単位」の1個に例えることができ、増殖させることで、トラス構造の形成ができる。
【0041】
キューブとして用いることができるモジュールを構築し、このモジュールを立体トラス構造物を構築するように組みあわせるのに、多面体の稜線部分となるプレート3を細長接合面2を有する部材の細長接合面2を接合させて行う。
【0042】
その結果、特に、モジュール以外の部材を連結部材として用いることなく、モジュールだけの組み合わせで立体トラス構造物を構築することが可能となり、プレハブ化が向上し、組立を少ない工数で簡易かつ迅速に行える。
【0043】
モジュール同士を相互に連結していくことでモジュールを増殖させるのに、面と面との接合であり、方向が定まり、安定して組み立てることができる。
【0044】
さらに、モジュールを組み合わせるのに、多面体の稜線部分となるプレート3は相互に重なり、2重となるので強度が増し、これが立体トラス構造物の斜材の部分であれば立体トラス構造物自体が堅牢なものとなる。
【0045】
また、各モジュールは稜線部分となるプレートを細長接合面を接合させて行うことにより、側面方向だけでなく上下方向にもモジュールを積み重ねて多層の安定トラス構造を組み立てることができる。
【0046】
さらに、モジュールを単純に繋ぎ合わせることで形状可変の安定トラス構造を構築できるので、構築後の仕様変更やスペース変化の要求に容易に対処することができる。
【0047】
図11,
図12はテトラモジュール1の立方体キューブ13を4個結合させてさらにおおきな立方体キューブ12を構成したものであり、テトラモジュール1は細長接合面2を有するプレート3が並び、細長接合面2が外側に向くことにより、平坦な、上面X、下面Y、側面Zからなるブロック体としてキューブ12を構成する。
【0048】
前記テトラモジュール1により建築の躯体である柱10、床11のトラス構造を形成する際して、かかるキューブ12を横並びにし、もしくは積上げることで床11や柱10のトラス構造を構築でき、例えば、柱1と床11の結合もユニット相互の結合面が平坦面であるので、直角な結合となり、垂直な柱1に対して水平な床11を直交させて構築することとができる。
【0049】
図1に示す建築構造では、
7.2mスパン2グリッド、2階建
延床面積207.36m2、62.7坪
を想定すると、テトラモジュール1の数は34656個である。
図14に大きさをしめす。
【0050】
なお、床11はこれを乾式フラットスラブとして構成することができる。
【0051】
床11はトラス構造のために高い剛性を有し、
図17に示すように全方向(
図15の矢印参照)の梁の役割を担う。
【0052】
図15は本発明の建築構造の他の実施形態を示すもので、壁式構造とした場合であり、床11と壁14をテトラモジュール1によるトラス構造で形成した。
図16に大きさの一例を示す。
【0053】
壁14をテトラモジュール1で組立てるのも、前記柱10、床11の場合と同様であり、細長接合面2を有するプレート3の相互を細長接合面2で重ね合せて接合する。
【0054】
壁14には出入口用の開口15を形成できる。
【0055】
さらに、
図18に示すように
図1に示す建築構造で梁16を追加して躯体の補強を行うことも可能である。補強する梁16は鉄骨梁等でもよいが、テトラモジュール1を組み合わせて構成した。
【0056】
テトラモジュール1により建築の躯体である床11のトラス構造を形成する際に前記梁16となる部分も形成すれば、梁付きの床11が得られる。
【符号の説明】
【0057】
1…テトラモジュール 2…細長接合面
3…プレート 5…正三角形の平板
6…正六角形の平板 10…柱
11…床 12、13…立方体キューブ
14…壁 15…出入口用の開口
16…梁