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特開2024-62606回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置
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  • 特開-回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置 図1
  • 特開-回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置 図2
  • 特開-回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置 図3
  • 特開-回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062606
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/20 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
H02K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170562
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】畑中 聖二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠一
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA04
5H605BB17
5H605CC01
5H605DD01
5H605DD13
5H605GG04
(57)【要約】
【課題】音振抑制効果の低減を抑制ないし防止し得る回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置を提供する。
【解決手段】回転電機用ハウジングは、2重筒状形状を有する回転電機用ハウジングである。回転電機用ハウジングが、筒状のアウター部材、筒状のインナー部材、アウター部材とインナー部材との間をハウジングの軸方向の一端側でシールする環状の一端側シール部材、及び他端側でシールする環状の他端側シール部材を備え、これらの部材で囲まれて形成された回転電機用冷媒の流路を有する。インナー部材が、軸方向の一端側でありかつインナー部材の外周側にインナー部材の周方向に沿って設けられ、アウター部材の内周面に圧接する凸状の圧入部を有する。圧入部が、軸方向において、一端側シール部材よりも中央側に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2重筒状形状を有する回転電機用ハウジングであって、
筒状のアウター部材、筒状のインナー部材、前記アウター部材と前記インナー部材との間を前記ハウジングの軸方向の一端側でシールする環状の一端側シール部材、及び他端側でシールする環状の他端側シール部材を備え、これらの部材で囲まれて形成された回転電機用冷媒の流路を有し、
前記インナー部材が、前記軸方向の一端側でありかつ前記インナー部材の外周側に前記インナー部材の周方向に沿って設けられ、前記アウター部材の内周面に圧接する凸状の圧入部を有し、
前記圧入部が、前記軸方向において、前記一端側シール部材よりも中央側に設けられた
ことを特徴とする回転電機用ハウジング。
【請求項2】
前記圧入部が、複数の圧入部片からなり、
前記周方向において、前記圧入部片同士の間に隙間が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の回転電機用ハウジング。
【請求項3】
前記隙間の幅が、前記回転電機用冷媒の流れ方向における上流側から下流側に移行するにしたがって大きくなっていることを特徴とする請求項2に記載の回転電機用ハウジング。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの項に記載の回転電機用ハウジングを備えたことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機と、前記ハウジングの軸方向の前記一端側に隣接して設けられた歯車箱を備えたことを特徴とする駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置に係り、さらに詳細には、2重筒状形状を有する回転電機用ハウジング、これを備えた回転電機及び駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内部に冷却液流路を形成できる構造を有する回転電機が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の図1に開示された回転電機のハウジング1においては、インナーハウジング1iが、軸方向の一端で圧入等によってアウターハウジング1oと固定され、軸方向の他端でボルト5によってアウターハウジング1oに締結されている。さらに、軸方向の一端側に設けられたシール部材であるOリング6aが、圧入等によって固定されている固定範囲Xよりも軸方向の中央側に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/213052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の図1に開示されたような回転電機においては、組立構造上、ハウジング1の固定範囲Xの側(図1中の右側)に隣接して歯車箱等の温度分布を有する部品が設けられることがある。このような回転電機においては、圧入等によって固定されている固定範囲が軸方向の一端側に設けられたシール部材よりも歯車箱等の部品に近いため、固定範囲が歯車箱等の部品の温度分布の影響を受けることがある。これにより、圧入によって固定されている固定範囲において圧入力が小さい部分が生じて、音振抑制効果が低減する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、音振抑制効果の低減を抑制ないし防止し得る回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ハウジングの軸方向の一端側において、インナー部材の所定の圧入部を一端側シール部材よりも中央側に設けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の回転電機用ハウジングは、2重筒状形状を有する回転電機用ハウジングである。
この回転電機用ハウジングが、筒状のアウター部材、筒状のインナー部材、アウター部材とインナー部材との間をハウジングの軸方向の一端側でシールする環状の一端側シール部材、及び他端側でシールする環状の他端側シール部材を備え、これらの部材で囲まれて形成された回転電機用冷媒の流路を有する。
インナー部材が、軸方向の一端側でありかつインナー部材の外周側にインナー部材の周方向に沿って設けられ、アウター部材の内周面に圧接する凸状の圧入部を有する。
圧入部が、軸方向において、一端側シール部材よりも中央側に設けられている。
【0008】
また、本発明の回転電機は、上述の回転電機用ハウジングを備える。
【0009】
さらに、本発明の駆動装置は、上述の回転電機と、ハウジングの軸方向の一端側に隣接して設けられた歯車箱を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハウジングの軸方向の一端側において、インナー部材の所定の圧入部を一端側シール部材よりも中央側に設けたため、音振抑制効果の低減を抑制ないし防止し得る回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の回転電機用ハウジングの第1実施形態が適用される駆動装置の一実施形態を模式的に示す部分断面図である。
図2】第2実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材を模式的に示す説明図である。
図3】第3実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材を模式的に示す説明図である。
図4】第4実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の駆動装置1における回転電機10を回転軸Oを通って鉛直方向に切断した部分断面図である。図1に示すように、本実施形態の駆動装置1は、回転電機10と、回転電機10の軸方向が水平方向に沿っておりかつ回転電機10の一端側(図1中右側)に隣接して設けられた歯車箱(ギアボックス)20を備えている。回転電機10と歯車箱20とはこれらに設けられたフランジにおいて複数のボルト15で締結されている。図1中では1つのボルト15のみ示している。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の回転電機10は、ロータシャフト11と、ロータ12と、ステータ13と、ハウジング14、ボールベアリング16を備えている。ステータ13は、ステータコア131及びコイル132を有し、ハウジング14の内側に焼き嵌めなどによって固定されている。ロータ12は、ロータシャフト11を有し、ボールベアリング16を介してハウジング14に回転可能に支持されている。また、ハウジング14はカバー146を更に有し、カバー146にも同様のボールベアリング16が設けられている。ハウジング14とカバー146とはこれらに設けられたフランジにおいて複数のボルト147で締結されている。図1中では1つのボルト147のみ示している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のハウジング14は、2重筒状形状を有し、筒状のアウター部材141、筒状のインナー部材142、アウター部材141とインナー部材142との間をハウジング14の軸方向の一端側(図1中右側)でシールする環状の一端側シール部材143、及び他端側でシールする環状の他端側シール部材(144)を備えている。そして、このハウジング14は、アウター部材141、インナー部材142、一端側シール部材143及び他端側シール部材144で囲まれて形成された回転電機用冷媒(図示せず)の流路14aを有する。ここで、アウター部材141及びインナー部材142としては、例えば、アルミニウム合金製のものを適用することができる。また、一端側シール部材143及び他端側シール部材としては、弾性を有するOリングを適用することができる。
【0016】
さらに、インナー部材142は、軸方向の一端側(図1中右側)でありかつインナー部材142の外周側に、インナー部材142の周方向に沿って設けられ、アウター部材141の内周面141aに圧接する凸状の圧入部142を有している。この圧入部142によって、インナー部材142の一端側が固定されている。また、アウター部材141及びインナー部材142は他端側に設けられたフランジにおいて複数のボルト145で締結されている。図1中では1つのボルト145のみ示している。
【0017】
さらに、圧入部142Aは、軸方向において、一端側シール部材143よりもハウジング14の中央側に設けられている。なお、アウター部材141にインナー部材142を組み付ける場合、他端側シール部材144、一端側シール部材143、圧入部142Aが、この順序でアウター部材141に接触する。
【0018】
ここで、本実施形態においては、回転電機10が、回転電機用冷媒として水を利用する回転電機用冷媒機構(図示せず)を備えている。また、歯車箱20が、歯車箱20の下面側を冷却する歯車箱下面用冷媒として水を利用する歯車箱用冷却機構21と、歯車箱の内部を冷却する歯車箱内部用冷媒として油を利用する他の歯車箱用冷却機構(図示せず)を備えている。なお、図中の点線OLは歯車箱20の内部における油面を示している。また、歯車箱20の多くは、歯車(図示せず)による油のかき上げによって、潤滑、冷却しているため、上方側が冷やされにくくなり、相対的に高温になりやすい。さらに、回転電機10と歯車箱20は互いのハウジング同士で連結されて当接しているため、回転電機10は、回転電機10自体よりも高温である歯車箱20、特に歯車箱20の上方側から受熱しやすい。このような回転電機10と歯車箱20を備えた駆動装置1においては、例えば、歯車箱20近傍において、ハウジング14のインナー部材142における上方側の温度が約115℃、下方側の温度が約95℃になる。なお、図1においては、歯車箱20の内部を冷却する歯車箱内部用冷媒として油を利用する場合を例示したが、歯車箱内部用冷媒として水を利用してもよい。
【0019】
また、本実施形態においては、回転電機10が、車両に搭載される電動機(モータ)であってもよく、発電機(ジェネレータ)であってもよく、電動機及び発電機として機能し得るモータジェネレータであってもよい。また、歯車箱20が、回転電機10の種類に応じて、減速機や増速機として機能し得る。
【0020】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、圧入部142Aが、方向において一端側シール部材143よりもハウジング14の中央側に設けられているので、圧入部142Aが回転電機用冷媒により温度変化が小さい領域に配置されることとなり、歯車箱20の温度分布の影響を受けにくくなる。これにより、圧入代の変化を抑制できる。その結果、このハウジングを備えた回転電機や駆動装置においては、音振抑制効果の低減が抑制ないし防止される。
【0021】
また、図2図4は、本発明の回転電機用ハウジング、回転電機及び駆動装置の実施形態を説明する図である。以下の実施形態では、上述した第1実施形態と同じ構成部位に同一符号を付して詳細な発明を省略する。
【0022】
(第2実施形態)
図2の上側図は本実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材142’を模式的に示す斜視図であり、図2の中央図は上側図のインナー部材を奥側から見た側面図であり、図2の下側図は上側図のインナー部材を手前側から見た側面図である。なお、図2において、インナー部材142’に装着される一端側シール部材143及び他端側シール部材144を示している。また、図2の中央図においては、入口から出口に向かって流れる回転電機用冷媒の矢印で示す流れ方向を分かりやすくするために、下方と上方を逆に示している。
【0023】
図2に示すように、本実施形態の回転電機用ハウジングにおいては、インナー部材142’における流路(溝)14aが2周程度で入口から出口に至る螺旋状に形成されていること以外は、第1実施形態の回転電機用ハウジングと同様の構造を有している。
【0024】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、流路(溝)14aが上述のような螺旋状に形成されているので、歯車箱の温度分布の影響をより受けにくくなるという利点がある。
【0025】
(第3実施形態)
図3の上側図は本実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材142’’を図2と同様に奥側から見た側面図であり、図3の下側図はインナー部材142’’を手前側から見た側面図である。なお、図3の上側図においては、入口から出口に向かって流れる回転電機用冷媒の矢印で示す流れ方向を分かりやすくするために、下方と上方を逆に示している。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の回転電機用ハウジングにおいては、圧入部が複数の圧入部片142A~142Kからなり、周方向において、圧入部片同士(例えば圧入部片142D,142Eや圧入部片142I,142J)の間に隙間142aが形成されていること以外は、第2の回転電機用ハウジングと同様の構造を有している。
【0027】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、上述のように隙間を形成したため、上述の実施形態による利点に加えて、圧入代の変化を抑制しつつ、ハウジングの一端側(図3中右側)を効果的に冷却できるという利点がある。
【0028】
(第4実施形態)
図4の上側図は本実施形態の回転電機用ハウジングにおけるインナー部材142’’’を図2と同様に奥側から見た側面図であり、図4の下側図はインナー部材142’’’を手前側から見た側面図である。なお、図4の上側図においては、入口から出口に向かって流れる回転電機用冷媒の矢印で示す流れ方向を分かりやすくするために、下方と上方を逆に示している。
【0029】
図4に示すように、本実施形態の回転電機用ハウジングにおいては、隙間142a~142jの幅が、図中矢印で示す回転電機用冷媒の流れ方向における上流側から下流側に移行するにしたがって大きくなっていること以外は、第3の回転電機用ハウジングと同様の構造を有している。
【0030】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態によれば、隙間の幅を上述のような関係を有するように形成したため、上述の実施形態による利点に加えて、より熱的に厳しくなる流路下流側を効果的に冷却できるという利点がある。
【0031】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0032】
本発明においては、回転電機における音振抑制効果の低減を抑制ないし防止すべく、ハウジングの軸方向の一端側において、インナー部材の所定の圧入部を一端側シール部材よりも中央側に設けたことを骨子とする。
【0033】
従って、簡素な設備で製造することができるという観点から、アウター部材141及びインナー部材142の他端側をボルト145で締結する場合を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、アウター部材141及びインナー部材142の他端側を溶接によって固定してもよい。
【0034】
また、例えば、駆動装置の小型化という観点から、回転電機に隣接配置される部品として歯車箱を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、回転電機に隣接配置される部品として排気系を含む内燃機関を例示することもできる。
【0035】
さらに、例えば、回転電機用冷却機構として水冷式、歯車箱用冷却機構として水冷式、他の歯車箱用冷却機構として油冷式を例示して説明したが、従来の公知の冷却機構を適宜利用することができる。
【0036】
さらに、例えば、上述した構成要素は、各実施形態に示した構成に限定されるものではなく、ロータシャフト、ロータ、ステータ、カバー、歯車箱などの仕様や材質の細部を変更することや、一の実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と入れ替えて又は組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 駆動装置
10 回転電機
11 ロータシャフト
12 ロータ
13 ステータ
131 ステータコア
132 コイル
14 ハウジング
14a 流路(溝)
141 アウター部材
141a 内周面
142,142’,142’’,142’’’ インナー部材
142a~142j 隙間
142A~142K 圧入部(圧入部片)
143 一端側シール部材
144 他端側シール部材
145 ボルト
146 カバー
147 ボルト
15 ボルト
16 ボールベアリング
20 歯車箱
21 歯車箱用冷却機構
O 回転軸
OL 油面
図1
図2
図3
図4