IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリエンタル白石株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ティ・エス・プランニングの特許一覧

特開2024-6261既設コンクリート構造物の塩化物測定方法
<>
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図1
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図2
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図3
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図4
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図5
  • 特開-既設コンクリート構造物の塩化物測定方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006261
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】既設コンクリート構造物の塩化物測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240110BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N1/28 E
G01N1/28 G
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106987
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501165628
【氏名又は名称】株式会社ティ・エス・プランニング
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】本庄 慧
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001FA08
2G001KA01
2G001LA03
2G001MA04
2G052AA16
2G052AB01
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052BA15
2G052BA28
2G052EC02
2G052GA19
(57)【要約】
【課題】現地で簡便且つ迅速に即時評価が可能で、しかもコンクリート構造物の深さ方向毎の塩化物濃度を正確に測定することができる既設コンクリート構造物の塩化物測定方法を提供する。
【解決手段】既設コンクリート構造物の塩化物濃度を測定する既設コンクリート構造物の塩化物測定方法において、前記既設コンクリート構造物から円柱棒状のコアサンプルを採取するコア採取工程と、前記コア採取工程で採取した前記コアサンプルを深さ方向の任意の位置で切断するコア切断工程と、前記コア切断工程で切断した前記コアサンプルの切断面又は前記コアサンプルの表面に携帯型蛍光X線分析装置でX線を照射して塩化物イオン濃度を測定する塩化物量測定工程と、を備え、さらに、前記塩化物量測定工程で測定した塩化物量を、X線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積に応じて補正する補正工程を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造物の塩化物濃度を測定する既設コンクリート構造物の塩化物測定方法であって、
前記既設コンクリート構造物から円柱状のコアサンプルを採取するコア採取工程と、
前記コア採取工程で採取した前記コアサンプルを深さ方向の任意の位置で切断するコア切断工程と、
前記コア切断工程で切断した前記コアサンプルの切断面又は前記コアサンプルの表面に携帯型蛍光X線分析装置でX線を照射して塩化物イオン濃度を測定する塩化物量測定工程と、を備え、
さらに、前記塩化物量測定工程で測定した塩化物量を、X線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積に応じて補正する補正工程を行うこと
を特徴とする既設コンクリート構造物の塩化物測定方法。
【請求項2】
前記補正工程では、塩化物量測定工程で測定した測定値Clに、面積率算出工程で算出したセメントペースト部分の面積率を用いて、次式(1)により、測定値Clの補正値である補正塩化物量Clを算出すること
を特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法。
【数1】
【請求項3】
前記補正工程では、前記コアサンプルの計測対象面を撮影して、撮影した写真に画像処理を施した上、自動でX線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積を算出すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法。
【請求項4】
前記コア採取工程では、直径12mm以上32mm以下の円柱棒状のコアサンプルを採取すること
を特徴とする請求項3に記載の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法。
【請求項5】
塩化物量測定工程では、前記コアサンプルの側面を所定間隔で測定して、前記既設コンクリート構造物の塩化物量の深さ方向の分布傾向を連続的に測定すること
を特徴とする請求項3に記載の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート構造物の塩化物測定方法に関し、詳しくは、携帯型蛍光X線装置を用いて既設コンクリート構造物の塩化物濃度(既設コンクリート構造物の体積あたりの塩化物量)を測定する既設コンクリート構造物の塩化物測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩害環境下にあるコンクリート構造物の維持管理において、塩化物浸透状況の把握や浸透予測を行うことは重要である。このため、従来は、コア採取やドリル法による試料採取を行い、電位差滴定法等により塩化物量を把握することが一般的であった。しかし、電位差滴定法では、コンクリート構造物が建造されている現地で評価を完結させることは困難で、採取した試料を室内の実験施設等に搬送して分析する必要があり、時間や費用を要していた。
【0003】
その解決手段として、照射部を測定対象に接触させて計測を行い、数分以内で測定結果が得られる携帯型蛍光X線装置を用いた塩化物評価手法が検討されている。例えば、非特許文献1では、渡辺らが、ドリル法の粉末試料を用い試料調整方法によって得られる測定精度を検証しており、非特許文献2では、向らが、打撃やウォータージェットで採取した粒状試料とさらに粉砕した粉末試料を用いて測定精度の向上を検討している。
【0004】
しかし、非特許文献1及び非特許文献2に記載の蛍光X線装置を用いた既往の検討では、粉末試料を扱っているが、測定精度を大きく左右する影響項目として骨材率が挙げられる。一般に骨材内には塩化物が浸透しないため、特に、試料中の骨材分布に偏りが存在すると測定値は真値よりも遠ざかる。そのため、従来のドリル法では、複数回の分取や粒度調整によってバラツキを軽減する必要があるという問題があった。
【0005】
また、特許文献1には、コンクリート構造物をドリルによって削って、コンクリート構造物から試料を採取し、この試料中の骨材の割合を求め、この骨材の割合と、前記試料中の塩化物イオン濃度と、前記コンクリート構造物中の骨材の割合とに基いて、蛍光X線分析装置でコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度を求めるコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度測定方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0017]~[0025]、図1等参照)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度測定方法は、コンクリート構造物からドリルで削孔してその粉末試料を採取し、室内の実験施設等に搬送した上、搬送した施設で粉末試料を所定の形にプレス成型して蛍光X線分析装置で塩化物イオン濃度を求めるものであった。このため、前述の電位差滴定法と同様に、コンクリート構造物が建造されている現地で測定結果が出るものではなく、室内の実験施設等に搬送して分析結果が出て、コンクリート構造物に補修が必要か否かの判断がでるまでに日数がかかっていた。従って、試料採取から判断がでるまでの間、現地に仮設足場を存置する必要があり費用が嵩むという問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度測定方法は、コンクリートサンプルをドリルで粉末にして試料を採取しているため、コンクリート構造物の深さ方向の評価、すなわち、塩害の深さ方向の進捗具合を詳細に判断できないという問題があった。このため、特許文献1に記載のコンクリート構造物中の塩化物イオン濃度測定方法等の従来のドリル法では、所定の深さ毎の平均的な値を扱うことが主体となるが、一方で材料等に不均一性があった場合に、その局所的な傾向を捉えることが難しいという問題もあった。このため、前述のように、複数回の分取や粒度調整によってバラツキを軽減する必要があった。
【0008】
このような問題を解決するべく、特許文献2には、コンクリート構造物からコンクリートコアを採取するコア採取工程と、採取した前記コンクリートコアを切断する切断工程と、切断した前記コンクリートコアの断面を蛍光X線分析装置で測定することによりコンクリート構造物内部の塩化物イオン濃度を測定する測定工程と、を含むコンクリート構造物の表面及び内部の塩化物イオン量測定方法が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0014]~[0044]、図面の図1図8等参照)。
【0009】
特許文献2に記載のコンクリート構造物の塩化物イオン量測定方法では、第2実施形態として、試料中の骨材分布の偏りを解消するため、粗骨材を除外したコンクリートの塩化物イオン濃度を求めることも考慮されている。
【0010】
しかし、携帯型蛍光X線装置の測定範囲が一定面積と限定的であるため、粗骨材を除外したコンクリートの塩化物イオン濃度を求めること自体が困難な場合が多く、コア採取工程を再度行わなければならないという問題があった。また、コア採取工程を再度行うことは、コンクリート構造物を損傷することとなるため、採取したコアの粗骨材の占める割合によらず、より正確かつ迅速に塩化物濃度を測定できる手法が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-77350号公報
【特許文献2】特開2017-161267号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】渡辺暁央他2名、「蛍光X線法によるドリル採取試料の塩化物イオン濃度測定」、コンクリート工学年次論文集、Vol.31、No.1、pp.1987-1992、2009年
【非特許文献2】向俊成他3名、「ハンディ型蛍光X線分析装置を使用した塩害調査に関する検討」、コンクリート工学年次論文集、Vol.43、No.1、pp.514-519、2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、前述した問題を鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、現地で簡便且つ迅速に即時評価が可能で、しかもコンクリート構造物の深さ方向毎の塩化物濃度を正確に測定することができる既設コンクリート構造物の塩化物測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法は、既設コンクリート構造物の塩化物濃度を測定する既設コンクリート構造物の塩化物測定方法であって、前記既設コンクリート構造物から円柱状のコアサンプルを採取するコア採取工程と、前記コア採取工程で採取した前記コアサンプルを深さ方向の任意の位置で切断するコア切断工程と、前記コア切断工程で切断した前記コアサンプルの切断面又は前記コアサンプルの表面に携帯型蛍光X線分析装置でX線を照射して塩化物イオン濃度を測定する塩化物量測定工程と、を備え、さらに、前記塩化物量測定工程で測定した塩化物量を、X線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積に応じて補正する補正工程を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法は、請求項1に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法において、前記補正工程では、塩化物量測定工程で測定した測定値Clに、面積率算出工程で算出したセメントペースト部分の面積率を用いて、次式(1)により、測定値Clの補正値である補正塩化物量Clを算出することを特徴とする。
【0016】
【数1】
【0017】
請求項3に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法は、請求項1又は2に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法において、前記補正工程では、前記コアサンプルの計測対象面を撮影して、撮影した写真に画像処理を施した上、自動でX線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積を算出することを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法は、請求項3に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法において、前記コア採取工程では、直径12mm以上32mm以下の円柱棒状のコアサンプルを採取することを特徴とする。
【0019】
請求項5に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法は、請求項3に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法において、塩化物量測定工程では、前記コアサンプルの側面を所定間隔で測定して、前記既設コンクリート構造物の塩化物量の深さ方向の分布傾向を連続的に測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1~5に係る発明によれば、コンクリート構造物から採取した小径のコアサンプルの断面や当該コンクリート構造物の表面を測定対象として、骨材の影響を考慮することで既設コンクリート構造物の深さ方向に亘る局部的な塩化物量評価を精度よく行うことができる。また、請求項1~5に係る発明によれば、現地での既設コンクリート構造物の塩害の進行具合を即時評価することができ、補修が必要な場合、仮設施設をそのまま使用して補修することが可能となる。
【0021】
特に、請求項2に係る発明によれば、塩化物量測定工程で測定した測定値Clに、面積率算出工程で算出したセメントペースト部分の面積率を用いて、前記式(1)により、測定値Clの補正値である補正塩化物量Clを算出するので、粗骨材の存在する位置や面積に関係なく正確に塩化物量を測定することができる。このため、作業経験に関わらず誰でも簡単に正確かつ迅速に既設コンクリート構造物の任意の深さの塩化物量を測定することができる。
【0022】
特に、請求項3に係る発明によれば、コアサンプルの計測対象面を撮影して、撮影した写真に画像処理を施した上、ソフトウェアにより自動でX線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積を算出するので、粗骨材の存在する位置や面積に関係なく短時間で正確かつ迅速に塩化物量を測定することができる。このため、作業経験に関わらず誰でも簡単に正確かつ迅速にコアサンプル2の任意の位置の塩化物量を測定することができる。
【0023】
特に、請求項4に係る発明によれば、直径12mm以上32mm以下の円柱棒状のコアサンプルを採取するので、既設コンクリート構造物をなるべく損傷させずに、粗骨材の存在する位置や面積に関係なく正確に塩化物量を測定することができる。
【0024】
特に、請求項5に係る発明によれば、コアサンプルの側面を所定間隔で測定して、既設コンクリート構造物の塩化物量の深さ方向の分布傾向を連続的に測定するので、従来と同数のサンプリングでより多くの情報が得られるため、従来に比べサンプリング数を減らすことが可能となる。このため、既設コンクリート構造物の削孔数及びその手間を減らすことも可能となり、既設コンクリート構造物の検査による損傷を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の各工程を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法のコア採取工程を示す工程説明図である。
図3図3は、同上の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法のコア切断工程を示す工程説明図である。
図4図4は、同上の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の塩化物量測定工程を示す工程説明図である。
図5図5は、本発明が奏する効果を検証するために行った検証実験の概要を示す説明図である。
図6図6は、同上の検証実験による小径コアの塩化物分析結果の比較を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
[既設コンクリート構造物の塩化物測定方法]
図1図4を用いて、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の各工程を示すフローチャートであり、図2は、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法のコア採取工程を示す工程説明図である。
【0028】
(コア採取工程)
図1図2に示すように、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、先ず、コンクリート用コアドリルからなる削孔装置1を用いて、測定対象である既設コンクリート構造物C1から円柱棒状のコアサンプル2を採取するコア採取工程を行う。
【0029】
具体的には、図2に示すように、削孔装置1の回転軸11に測定するコアサンプルの長さ(表面C1aからの深さ)に応じた所定長さのコアビット12を装着し、駆動モーター10でコアビット12を回転駆動する。そして、ベースプレート13で既設コンクリート構造物C1の表面C1aに装着されて立設されたガイド機構14を用いて、回転軸11の軸方向に沿って既設コンクリート構造物C1にコアビット12を回転しながら押圧して、円柱棒状のコアサンプル2を採取する。
【0030】
ここで、採取するコアサンプルの径は、後工程のコンクリートカッターでの切断時にコアサンプル2を折ってしまうおそれが少なく切断可能な12mm以上で、かつ、できる限り小径のものが好ましい。これは既設コンクリート構造物C1をなるべく損傷しないためである。但し、後述のように、一般にコンクリートに配合される最大骨材径が20mmから25mmであり、コアビットの仕様を踏まえて、任意の断面で評価できる確率が低くなることを考慮すると、採取するコアサンプル2の径は、12mm以上32mm以下であることが好ましい。また、削孔位置も、図面や金属探知機等を用いて既設コンクリート構造物C1の内部補強鉄筋やPC鋼材を避けることが好ましい。
【0031】
(コア切断工程)
次に、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、図1図3に示すように、切断装置(図示せず)を用いて、前コア採取工程で採取したコアサンプル2を深さ方向の任意の位置で後述の携帯型蛍光X線分析装置3で測定可能なように切断するコア切断工程を行う。図3は、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法のコア切断工程を示す工程説明図である。
【0032】
具体的には、切断装置であるディスクグラインダーにダイヤモンドカッターなどのコンクリート切断用のディスクを装着してコアサンプル2を深さ方向の任意の位置で所定の厚さにスライスして切断する。勿論、使用可能な切断装置は、ディスクグラインダーに限られず、他の電動カッターやエンジンカッター、レシプロソーなどの携帯型蛍光X線分析装置3の測定に影響の少ない切断に水を使用しないドライカット方式の切断装置であればよい。また、本工程で切断する切断面は、携帯型蛍光X線分析装置3で測定容易な凹凸の少ない平滑な切断面であれば構わない。
【0033】
ここで、従来の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、特許文献2の段落[0029]等に記載されているように、コアサンプル2の切断位置Aは、コンクリートコア表面の粗骨材を避けて切断することが推奨されている。切断面2aに対する粗骨材の面積を減少させて、次工程での塩化物量の測定精度を向上させるためである。しかし、そうすると測定位置となる切断面2aの既設コンクリート構造物C1の表面C1aからの深さがサンプル毎に異なってしまい、正確な深さ方向の塩化物量の測定精度が不正確となるという問題が生じる。
【0034】
これに対して、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、後述の画像処理工程及び測定値補正工程で切断面2aに対する粗骨材の面積が占める割合が高い場合でも正確に塩化物量を測定する手法を案出した。よって、本工程では、既設コンクリート構造物C1の表面C1aからの所望の任意の深さで切断することが可能である。
【0035】
(塩化物量測定工程)
次に、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、図1図4に示すように、手に持って測定可能な小型の携帯型蛍光X線分析装置3を用いてコア切断工程で切断したコアサンプル2の切断面2a又は表面C1aから塩化物イオン濃度を測定する塩化物量測定工程を行う。図4は、本発明の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の塩化物量測定工程を示す工程説明図である。
【0036】
携帯型蛍光X線分析装置3としては、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)や波長分散型蛍光X線分析装置(WDX)が一般的である。具体的に例示すると、オリンパス社製のハンドヘルド蛍光X線分析計(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)が挙げられる。既設コンクリート構造物C1が建造されている現場でも持ち運びが容易であり、耐久性にも優れているからである。本工程では、このような携帯型蛍光X線分析装置3を用いて、測定対象であるコアサンプル2の切断面(2a)にX線を照射して、照射された物質から発生する元素固有の蛍光X線のエネルギーからモズレー則により定性分析し、塩素原子を検出して塩化物量を測定する。
【0037】
このような携帯型蛍光X線分析装置3は、所定の範囲(最小限界面積は、3mm)にX線を照射して照射された物質から発生する蛍光X線を検出するので、携帯型蛍光X線分析装置3と照射面(2a)との距離が一定である方が正確に測定できる。このため、コアサンプル2に嵌め込んで携帯型蛍光X線分析装置3を装着できる治具4を作成し、携帯型蛍光X線分析装置3と照射面(2a)との距離及び測定範囲(照射範囲)を常に一定にして測定することが好ましい。
【0038】
なお、従来の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、特許文献2の段落[0035]等に記載されているように、蛍光X線分光分析装置3で測定する領域は、切断面のうち粗骨材が存在しない領域が好ましいとされていた。しかし、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、後述の補正工程を行うことにより、粗骨材の存在する位置や面積に関係なく正確に塩化物量を測定する手法を確立した。このため、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法によれば、作業経験に関わらず誰でも簡単に正確にコアサンプル2の任意の位置の塩化物量を測定することができる。但し、従来と同様に、粗骨材部分を避けて蛍光X線分光分析装置で測定することを排除するものではない。測定部分が殆ど粗骨材部分となる場合があり得るからである。
【0039】
また、本工程では、前コア切断工程で切断した切断面を測定するのではなく、コアサンプル2の側面2bを所定間隔で測定しても構わない。コア切断工程を省略したり、省力化したりすることができるだけでなく、コアサンプル2の採取箇所を削減して既設コンクリート構造物C1の損傷を最小限に抑えて、既設コンクリート構造物C1の塩化物量の深さ方向の分布傾向を連続的に把握することが可能となるからである。
【0040】
(補正工程)
(画像処理工程:補正工程)
次に、図1に示すように、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法では、前塩化物量測定工程で測定した塩化物量を、X線照射範囲に占めるセメントペースト部分の面積に応じて補正する補正工程を行う(図5も参照)。本補正工程では、先ず、コアサンプル2の計測対象面をデジタルカメラ等で撮影して、撮影した写真に画像処理を施す画像処理工程を行う。
【0041】
具体的には、本画像処理工程では、補正工程の第1段階として、市販の画像編集ソフト等を用いて、デジタルカメラ等で撮影したカラー画像の各ピクセルのR、G、B(光の三原色)の値を、輝度を考慮して適切に混ぜて1つの値にして無彩色の明度変化で表すグレースケール化を行う。事前処理として画像を濃淡によって表し、粗骨材の範囲を判定し易くするためである。
【0042】
また、グレースケール化した画像からコアサンプル2の外周と周辺部の境界を自動で検知するために、境界の検知に不要な部分を除去するぼかし処理を加える。
【0043】
(面積率算出工程:補正工程)
その後、図1に示すように、補正工程の第2段階として面積率算出工程を行う。本工程では、市販の画像編集ソフト等を用いて、グレースケール化した画像からコアサンプル2の輪郭を自動で検出する。その後、コアサンプル2の輪郭からX線が照射されて蛍光X線を計測した範囲を抽出する。
【0044】
そして、市販の画像編集ソフト等を用いて、粗骨材の範囲と、粗骨材を除くセメントペースト(細骨材を含む)部分とを区分けできるように適切な閾値を選定し、白黒2値化して、その2値化した画像からコアサンプル2の輪郭全体にセメントペースト部分の面積が占める面積率を自動で算出する。
【0045】
(補正値算出工程:補正工程)
次に、図1に示すように、補正工程の第3段階として補正値算出工程を行う。具体的には、補正値算出工程では、本塩化物量測定工程で測定した測定値Clに、面積率算出工程で算出したセメントペースト部分の面積率を用いて次式(1)により、測定値Clの補正値である補正塩化物量Cl(kg/m)を算出する。
【0046】
【数2】
【0047】
以上説明した本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法によれば、コアサンプル2の深さ毎における表面C1a及び切断断面2aを計測すれば、既設コンクリート構造物C1の深さ方向の塩化物量を段階的に測定することができる。また、コアサンプル2の切断も現地作業で可能であるため、現地での既設コンクリート構造物の塩害の進行具合を即時評価することができ、補修が必要か否かを即時に判断することができ、補修が必要な場合、仮設施設をそのまま使用して補修することが可能となる。
【0048】
また、コアサンプル2の側面2bを計測対象とすれば、既設コンクリート構造物C1の塩化物量の深さ方向の分布傾向を連続的に把握することが可能となる。つまり、従来と同数のサンプリングでより多くの情報が得られるため、従来に比べサンプリング数を減らすことが可能となる。よって、コアビットによる既設コンクリート構造物の削孔数及びその手間を減らすことも可能となり、既設コンクリート構造物の検査による損傷を最小限に抑えることができる。
【0049】
その上、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法によれば、補正工程を行うことにより、粗骨材の存在する位置や面積の影響を抑えて正確に塩化物量を測定することができる。このため、本実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法によれば、作業経験に関わらず誰でも簡単に正確かつ迅速にコアサンプル2の任意の位置の塩化物量を測定することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態に係るコンクリート構造物の塩化物量測定方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0051】
[検証実験]
次に、図5図6を用いて、本発明が奏する効果を検証するために行った検証実験について説明する。本検証実験では、図5に示すように、前述のコアサンプルである小径コア(直径12mm~32mm程度の小径のコンリートコアを指す、以下、小径コアという。)における塩化物分析精度の検証を行うため、10×10×40cmのコンクリート供試体を作成した。そして、本発明の既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の深さ方向における塩化物量の測定値(補正塩化物量)を従来のドリル法で試料を採取した電位差滴定法の測定値と比べて評価した。図5は、本発明が奏する効果を検証するために行った検証実験の概要を示す説明図であり、図6は、本検証実験による小径コアの塩化物分析結果の比較を表すグラフである。
【0052】
コンクリート供試体は、水セメント比が55%,内在塩化物がClで1.20kg/m,2.42kg/m,4.82kg/mとなるようNaClを練混ぜ水に添加した。なお、この供試体の表層部は材齢が経過するに伴い中性化が進行しており、中性化深さは3mmであったため、Clの再拡散の影響を鑑みて、小径コアの両端2cm範囲は評価の対象から除外した。小径コアは、前述のように直径φ=12mm以上を検討しているが、本実験では、小径コアとしコンクリート供試体から直径φ=20mmのコアサンプルを採取して計測した。
【0053】
小径コアの直径については、RCやPC構造物コンクリートの骨材最大径は、20mm~25mmが一般的であるため、小径コアの直径が骨材最大径よりも小さい場合には任意の断面で評価できる確率が低くなると考え、小径コアの直径を最大骨材寸法程度に設定した。小径コアの深さ、即ち小径コアの長さは、10cmとして前述の10×10×40cmの供試体を乾式コアドリルにて貫通削孔して採取した。
【0054】
また、骨材比率が明らかに卓越している箇所は除いて、ディスクグラインダーにて小径コアを切断し、6断面分(小径コア2本)を測定対象とした。断面当たりの測定は4回行い全ての値を平均した。
【0055】
小径コアは、携帯型蛍光X線分析装置のX線照射部と小径コアの計測面とが一定位置が保たれた状態で計測を行うため、小径コアを測定専用治具に嵌め込んで設置して携帯型蛍光X線分析装置でX線を照射して計測を行う。これは、X線照射部の範囲内に測定対象がどのように位置するかで、骨材の比率が変わり、計測値に影響が及ぶからである。これは、計測器の仕様によって変わるため、変則的な事項である。ペースト割合はデジタルカメラ等のカメラでコア断面を撮影した写真を用いて、前述の実施形態に係る既設コンクリート構造物の塩化物測定方法の補正工程と同様に、以下の処理を行った。
【0056】
(1)グレースケール化
前述の画像処理工程と同様に撮影した写真に対するグレースケール化(256諧調)を行い、濃淡によって判定を行うため事前処理する。
【0057】
(2)ぼかし処理
次に、小径コアと周辺部の境界を検知するため、骨材の輪郭を消去するぼかし処理を加える。粗骨材の範囲を判定し易くするためである。
【0058】
(3)輪郭検出
次に、グレースケール化した写真から小径コアの輪郭を検出する。
【0059】
(4)照射範囲抽出
次に、前工程で検出した小径コア輪郭内から各蛍光X線分光分析装置の規定を基にX線が照射されている範囲を抽出する。
【0060】
(5)ペースト面積率算出
次に、前述の面積率算出工程と同様に、骨材・ペーストの濃淡閾値を基に2値化判定し、前工程で抽出したX線が照射されている範囲内におけるペースト部分が占める面積率を算出する。
【0061】
(6)補正値算出
次に、前述の補正値算出工程と同様に、蛍光X線分光分析装置で測定した測定値Clに、面積率算出工程で算出したセメントペースト部分の面積率を用いて前記式(1)により、測定値Clの補正値である補正塩化物量Cl(kg/m)を算出する。
【0062】
図6は、小径コアの塩化物分析結果の比較を表すグラフである。図6に示すように、図中には、比較として、ドリル採取した粉体(150μ全通試料)を用いて電位差滴定法により求めた結果、測定値にコンクリートの設計単位容積重量(2303kg/m)を乗じた結果、測定値にペーストの設計単位容積重量(415kg/m33)を乗じた結果をそれぞれ付記した。
【0063】
図示決定係数の数値から明らかなように、Clにコンクリートあるいはペーストの単位容積重量を乗じたのみでは電位差滴定法により求めた結果と比較して値が大きく乖離するが、ペースト割合を補正した場合は電位差滴定法により求めた結果と概ね整合しており、骨材の影響を補正することが重要であることがよくわかる。
【符号の説明】
【0064】
1:削孔装置
10:駆動モーター
11:回転軸
12:コアビット
13:ベースプレート
14:ガイド機構
2:コアサンプル
2a:コアサンプルの切断面
2b:コアサンプルの側面
3:携帯型蛍光X線分析装置
4:治具
C1:コンクリート構造物
C1a:コンクリート構造物の表面でコアサンプルされた部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6