(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062622
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】アワビ類の乱獲防止礁及び退避部材
(51)【国際特許分類】
A01K 61/73 20170101AFI20240501BHJP
A01K 61/51 20170101ALI20240501BHJP
A01M 29/30 20110101ALI20240501BHJP
【FI】
A01K61/73
A01K61/51
A01M29/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170588
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】322011586
【氏名又は名称】木村 勇治
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇治
【テーマコード(参考)】
2B003
2B104
2B121
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB03
2B003BB07
2B003BB08
2B003CC05
2B003DD01
2B003DD06
2B003EE01
2B104AA27
2B121AA06
2B121DA70
(57)【要約】
【課題】アワビ類の乱獲を防止する。
【解決手段】この発明のアワビ類の乱獲防止礁は、底面側に上向きの凹部からなる成長アワビの退避スペース3を形成した退避部材)をアワビが生息する海水中の棲床5に固定的に配置し、上記退避スペース3の周壁の底面側に漁獲からの保護対象とするアワビの殻長aと体高bの最大サイズに対応し且つ退避スペース3の断面より小サイズで当該アワビの出入りのみを許容するサイズのスペースからなる出入口13を設け、上記退避スペース3と外部間の海水の流通を可能に構成している。上記退避部材1は取付部材14により棲床5側に取付け固定することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面側に上向きの凹部からなる成長アワビの退避スペース(3)を形成した退避部材(1)をアワビが生息する海水中の棲床(5)上に固定的に配置し、上記退避スペース(3)の周壁の底面側に漁獲からの保護対象とするアワビの殻長(a)と体高(b)の最大サイズに対応し且つ退避スペース(3)の断面より小サイズで当該アワビの出入りのみを許容するサイズのスペースからなる出入口(13)を設け、上記退避スペース(3)と外部間の海水の流通を可能に構成したアワビ類の乱獲防止礁。
【請求項2】
退避部材(1)を取付部材(14)により棲床(5)側に取付け固定した請求項1に記載のアワビ類の乱獲防止礁。
【請求項3】
表面に凹凸(12a),(12b)を有する棲床(5)上に退避部材(1)を配置するとともに凹凸(12a),(12b)を利用し退避スペース(3)を構成する退避部材(1)の底面(4a)と棲床(5)の表面との間に出入口(13)を形成した請求項1又は2に記載のアワビ類の乱獲防止礁。
【請求項4】
退避部材(1)の底面(4a)と棲床面が共に平坦面からなり、棲床面に対して退避部材(1)を傾斜させて配置するとともに、棲床面と退避部材(1)の周壁の底面との間に上記傾斜を保持するスペーサー(16)を介挿して出入口を形成した請求項1又は2に記載のアワビ類の乱獲防止礁。
【請求項5】
底面側に上向きの凹部からなり多数の成長アワビが生息可能なアワビの退避スペース(3)を設けて下向きの皿状断面に形成し、上記退避スペース(3)を形成する天井壁(2)又は外周壁(4)に退避スペース(3)と外部との間に海水を流通させる流通孔(6)を設け、コンクリートにより成形したアワビ類の乱獲防止用退避部材。
【請求項6】
外周壁(4)又は天井壁(2)に退避部材(1)を棲床(5)に取付け固定する取付部(11)を設けた請求項5に記載のアワビ類の乱獲防止用退避部材。
【請求項7】
退避部材(1)の断面において外周面及び内周面の面同士が交差するコーナー部の一部又は全部をアワビの付着移動を容易にするアール面に形成した請求項5又は6のいずれかに記載のアワビ類の乱獲防止用退避部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アワビ類の乱獲防止礁及びその防止礁に使用する乱獲防止用退避部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年クロアワビ,メガイアワビ,マダカアワビ等の主として大型アワビの漁獲量の減少が懸念されているが、その原因は明確でないものの、地球温暖化,沿岸工事による棲み場の減少の他、密漁,ウェットスーツや潜水機材普及による漁獲効率の向上に伴う乱獲が主な原因と考えられている。
【0003】
他方、夜行性であるアワビは、夜間は生息域である海底の棲床に生えている海藻を食しているが昼間は岩陰や岩の裏側に潜んでいる。このため船上から箱メガネで目視しながら漁獲する水視漁(見突き漁)では高い熟練技術を要するほか、一度に漁獲される量にも限度があるが、ウェットスーツを着用した潜水による漁では、漁獲用具の進歩もあり、サイズの大小を問わず乱獲され、種苗放流や禁漁季又は禁漁区の設定、殻長制限等の資源保護策にもかかわらず、全体として乱獲防止が効果的に実現されていない。
【0004】
これに対し、従来アワビを外敵から保護し又はアワビの食糧となる海藻の成育増進や増殖を行うものとして特許文献1,同2等が知られている。
【0005】
また発明者等の知見によれば、アワビは昼間に退避する際に退避場所の岩陰に下向きの天井面がある時は、その天井面に移動して上向きの付着姿勢での生息を好むことが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-348659号公報
【特許文献2】特開平10-276609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記特許文献1の発明は上下に積層したブロック間の傾斜した上下間隙(生息隙間)を最小0~10cm,最大7~20cm程度確保し、ここにアワビを棲まわせることにより外敵から保護するものであるが、この構造では最大の天敵であるタコ等による被害防止には十分でなく、人の潜水漁による乱獲防止には殆ど役立たないという欠点がある。
【0008】
また特許文献2の発明はトンネル状又はカップ状内面の棲息部3内に稚貝を付着棲息させて散漁を防止し、増殖を図るもので、漁獲対象となる成貝の人による乱獲を防止するものではなく、アワビの乱獲防止には概ね役立たないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明のアワビ類の乱獲防止礁及びそれに使用する退避部材は、第1に、底面側に上向きの凹部からなる成長アワビの退避スペース3を形成した退避部材1をアワビが生息する海水中の棲床5上に固定的に配置し、上記退避スペース3の周壁の底面側に漁獲からの保護対象とするアワビの殻長aと体高bの最大サイズに対応し且つ退避スペース3の断面より小サイズで当該アワビの出入りのみを許容するサイズのスペースからなる出入口13を設け、上記退避スペース3と外部間の海水の流通を可能に構成したことを特徴としている。
【0010】
第2に、退避部材1を取付部材14により棲床5側に取付け固定したことを特徴としている。
【0011】
第3に、表面に凹凸12a,12bを有する棲床5上に退避部材1を配置するとともに凹凸12a,12bを利用し退避スペース3を構成する退避部材1の底面4aと棲床5の表面との間に出入口13を形成したことを特徴としている。
【0012】
第4に、退避部材1の底面4aと棲床面が共に平坦面からなり、棲床面に対して退避部材1を傾斜させて配置するとともに、棲床面と退避部材1の周壁の底面との間に上記傾斜を保持するスペーサー16を介挿して出入口を形成したことを特徴としている。
【0013】
第5に、底面側に上向きの凹部からなり多数の成長アワビが生息可能なアワビの退避スペース3を設けて下向きの皿状断面に形成し、上記退避スペース3を形成する天井壁2又は外周壁4に退避スペース3と外部との間に海水を流通させる流通孔6を設け、コンクリートにより成形したことを特徴としている。
【0014】
第6に、退避部材1の底面4aと棲床面が共に平坦面からなり、棲床面に対して退避部材1を傾斜させて配置するとともに、棲床面と退避部材1の周壁の底面との間に上記傾斜を保持するスペーサー16を介挿して出入口を形成したことを特徴としている。
【0015】
第7に、退避部材1の断面において外周面及び内周面の面同士が交差するコーナー部の一部又は全部をアワビの付着移動を容易にするアール面に形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
以上のように構成される本発明によれば、乱獲防止礁の設置により漁獲可能なサイズの一定数量のアワビは、人が漁を行う昼間には貝自体の属性によって退避部材内の棲床(退避スペース)に退避し、又はさらに退避スペース内の天井面に上向きに付着姿勢で退避する。このため潜水漁によっても簡単には漁獲できない。その結果、出入口のサイズ設定と退避部材の配置数や配置密度に応じた乱獲防止が実現できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施例を示す乱獲防止礁の設置状態を示す断面正面図である。
【
図2】本発明の第2実施例を示す乱獲防止礁を示す一部断面正面図である。
【
図3】本発明に使用するアワビの退避部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図示する本発明のアワビ類の乱獲防止礁と退避部材の実施例につき詳述する。
図1~
図3に示す退避部材1は、本実施例ではいずれも直径2m程度、天井壁2が200mm程度で、重量が約2t程度のコンクリート製の円形の皿状に形成されている。
【0019】
退避部材1の底面側中央部には上向きの山型又は円錐台形状(例えば上端径120cm,下端径150cm程度)の深さ約150mm程度の凹部からなる多数の成長アワビが退避して生息することが可能な退避スペース3が形成されている。該退避スペース3の底面4aはこの例ではリング状の平坦面を形成している。
【0020】
尚、上記リング状の外周壁4の断面は、その底面の外周側と内周側のコーナー部及び外周壁4と天井壁2が交差する内面コーナー部等が共に緩やかなカーブのアールに形成されている。これらのアールは、退避部材1の表面や内部の退避スペース3と天井壁2の内面との間をアワビが移動するのを容易にするために形成するものである。
【0021】
退避部材1は
図1,
図2に関して後述するようにアワビが生息する数メートル程度の深さの海底の棲床5に伏せられた状態で配置されるが、この時、退避スペース3内を外部との間で海水や滞留ガスが流通又は排出されるように天井壁2又は外周壁4には複数個(本例では天井壁2の外周側に8個)の小径の流通孔6が外形と同心円状に配置形成されている。
【0022】
また天井壁2の略中心位置には、退避部材1の設置後、稚貝(図示しない)を投入し又は孔径以下のアワビの出入口ともなる例えば10cm~12cm程度の投入孔7が形成されており、この投入孔7は海水や滞留ガスの流通孔を兼ねている。この投入孔7の径が大き過ぎると、棲床5上に伏せた際に内部への採光量が多過ぎることにより、昼間のアワビの退避スペース3内への退避を妨げることになる。
【0023】
そしてリング状の外周壁4の上面側には2個又は3個程度の吊り上げ用のフックボルトからなるフック部材8が、埋設ナット9を介して、外周の円形と同心円状に且つ等角度間隔に配設されている。さらに各フックボルト間には退避部材1を棲床5側に取付け固定するための取付部となるアンカー孔11が貫通形成されている。
【0024】
図1はこの発明の乱獲防止礁の第1実施例を示す断面正面図で、この例ではアワビが生息する例えば6~7m程度の深さで凹凸12a,12bのある緩傾斜した海底からなる棲床5の表面に退避部材1が伏せられて設置されている。
【0025】
図示するようにこの実施例では、棲床5の凹凸12a,12bの面に対し、退避部材1の外周壁4の平坦な底面と凹部12aとの間に、稚貝又は所定サイズ以下のアワビの成貝のみが出入りするスペース(サイズ)からなる出入口13が形成される場所や設置姿勢を選択して配置される。
【0026】
この出入口13のサイズの設定は、当該海域で乱獲の防止対象とするアワビの最大サイズを殻長と体高の設定によって決められるが、単に一定サイズ以下のサイズの漁獲を機械的に制限する趣旨ではなく、一般に漁獲が認められている殻長であっても、ウェットスーツ着用や最新の漁獲機材等による乱獲を防止する趣旨によって設定される。
【0027】
例えば一般に殻長制限が10cm以下と定められていても、通常漁獲制限外である12cmの殻長のものも保護対象となる反面、この発明の乱獲防止礁に退避していない外部のアワビは保護対象とならない。換言すれば当該海域での乱獲を防止するために、生息量に応じたアワビの漁獲は許容しながら乱獲を防止するために所定量の成貝を含めたアワビを保護するもので、上記出入口13の規制サイズと防止礁の設置数や地域は、各漁場の諸条件に応じて決められる。
【0028】
本発明では仮に保護対象を殻長a=12cm,体高b=2.5cmとすると、前記出入口13は12×2.5(cm)の長方形又は殻形状に対応した形状の断面のゲージ又は治具(いずれも図示しない)を用いて設置現場で設定することができる。
図1の網目状に断面表示された長方形は上記出入口13が確保すべき最小限のスペースサイズa×bの範囲を示している。
そして上記出入口13は、漁獲者が外部から容易にアワビを漁獲できないように、個数は仮に複数個としても多数個に及ばない方が望ましい。
【0029】
上記退避部材1は、一定量の成貝が昼間に退避できる退避スペース3を確保することと、水中での安定感確保及び密猟者等による簡単な撤去や移動を防止するため、既述のように大型化して重量も確保している。このため棲床5が安定している限り、棲床5に載置するだけで足りるが、波による激しい水流や密猟者による撤去や移動をさらに確実に防止するため、本例ではアンカーボルト14を用いて棲床面に取付け固定している。
【0030】
図示する例では、取付部材となるアンカー孔11に取付部材となるアンカーボルト14を挿通して退避部材1を棲床5に取付け固定している。アンカーボルト14は、打込み時に先端が楔状に拡大することにより、強固に固定される楔形アンカーを用いて岩盤面に取付け固定される。
【0031】
図2はこの発明の第2実施例を示し、この例のように例えばコンクリート打設やプレキャストコンクリート部材等により、棲床5の表面が平坦面に形成されている場合、外周壁4の平坦な底面4aをそのまま重ねると出入口13の確保ができなくなるため、規定のサイズの出入口13を確保するために、前述の保護対象アワビの殻長aと体高bを確保するためのブロック状の複数のスペーサー16を、外周壁4の底面4aと棲床5の表面との間に所定間隔を介して介挿している。その結果退避部材1の底面4aは平坦な棲床面に対して傾斜して載置固定され、スペーサー16はその傾斜を保持する。このスペーサー16には海底に散乱する自然石等を用いることもできる。
【0032】
上記スペーサー16は容易に外れないように外周壁4の下端側を収容する凹溝を形成しており、保護対象サイズ以下のアワビのみが出入りする出入口13を形成するために、その左右両側にも複数のスペーサーを噛み込ませ又は海水中で固化する充填材(いずれも図示せず)を詰めて出入口13以外の開口部を埋めることが望ましい。この例でもアンカーボルト14によって棲床5側に退避部材1を取付け固定している点は
図1の場合と共通する。
【0033】
上記の方法以外に、退避部材1の外周壁4の下端に予め出入口となるゲート状の凹溝(図示せず)を適数個形成し、平坦な棲床面に適した形状の退避部材1を成形することも可能である。
【0034】
本発明において退避部材1や乱獲防止礁を上記のように構成することにより、アワビは夜間は海水中の海藻類を捕食するために外部で生息するが、昼間は出入口13を介して退避部材1内の退避スペース3内に退避し、さらに内部の天井面に移動付着して生息するため、潜水漁によるアワビの乱獲防止を図ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 退避部材
2 天井壁
3 退避スペース
4 外周壁
4a 底面
5 棲床
6 流通孔
11 取付部(アンカー孔)
12a 凹部
12b 凸部
13 出入口
14 取付部材(フックボルト)
16 スペーサー