IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プライムアースEVエナジー株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社の特許一覧

特開2024-62656電極体、二次電池、及び電極体製造方法
<>
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図1
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図2
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図3
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図4
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図5
  • 特開-電極体、二次電池、及び電極体製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062656
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】電極体、二次電池、及び電極体製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240501BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240501BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170641
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AK03
5H029AL15
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029HJ07
5H029HJ08
5H029HJ19
5H050AA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】低密度電極において電池性能を向上できる電極体、二次電池、及び電極体製造方法を提供する。
【解決手段】二次電池1の電極体は、負極板及び正極板の間にセパレータを配置しつつ、負極板、正極板、及びセパレータを積層するように構成される。電極体は、正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、正極板の比表面積と負極板の比表面積との比率(比表面積比率)を0.7以上とするように構成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した電極体であって、
前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした、電極体。
【請求項2】
前記正極板の前記比表面積は、2.5m/g以上4.0m/g以下の範囲に設定され、
前記負極板の前記比表面積は、3.5m/g以上4.5m/g以下の範囲に設定されている、請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記比表面積の上限値は、極板をプレス成形するプレス機の上限プレス圧である、請求項2に記載の電極体。
【請求項4】
前記正極板の比容量と正極活物質とから求まる正極の単極容量と、前記負極板の比容量と負極活物質とから求まる負極の単極容量と、の比を正負極容量比とした場合、前記正負極容量比を1.5以上2.0以下とした、請求項1に記載の電極体。
【請求項5】
前記正極板は、電極の抵抗を低減するための正極導電材を有し、
前記正極導電材の前記比表面積は、150m/g以上300m/g以下に設定されている、請求項1に記載の電極体。
【請求項6】
負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した電極体を備えた二次電池あって、
前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした、二次電池。
【請求項7】
負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した電極体を製造するときに使用する電極体製造方法であって、
前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした、電極体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体、二次電池、及び電極体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極板、正極板、及びセパレータを有する電極体を備えた非水二次電池が周知である。このような電極体は、負極板、正極板、及びセパレータが厚み方向に積層された状態で非水電解液とともに電池ケースに収容されている。各極板の集電体に形成された電極合材には、少なくとも活物質が含まれている。各電極板として製造されたとき、電極板の比表面積は、例えば非水二次電池の容量などの非水二次電池の特性に影響を与える。
【0003】
ところで、特許文献1に開示されるように、比表面積が0.6~1.5m/gである正極活物質を用いることにより、正極板の比表面積が0.5~2m/g以下となる非水二次電池の製造方法が周知である。この製造方法によれば、放電特性や出力特性に優れた非水二次電池を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-272611号公報
【特許文献2】特開2004-006275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の非水二次電池においては、極板の製造における比表面積について新たな指標を用いることにより、非水二次電池の特性を更に向上させることが望まれている。例えば、特許文献2には、高密度電極において極板の比表面積を調整することにより、大電流時の放電特性の安定化と充放電サイクル特性の向上とをなし得る非水電解液二次電池が開示されている。しかし、特許文献2は、電極が高密度のため、電解液の浸透速度が遅いという課題があった。このように、電池性能の更なる向上が必要とされていた。
【0006】
本発明の目的は、低密度電極において電池性能を向上できる電極体、二次電池、及び電極体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する電極体は、負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した構成であって、前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした。
【0008】
前記課題を解決する二次電池は、負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した電極体を備えた構成であって、前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした。
【0009】
前記課題を解決する電極製造方法は、負極板及び正極板の間にセパレータを配置して、前記負極板、前記正極板、及び前記セパレータを積層した電極体を製造するときに使用する方法であって、前記正極板の正極密度を3.0g/cm以下とし、前記負極板の負極密度を1.3g/cm以下とし、前記正極板の比表面積と前記負極板の前記比表面積との比率を0.7以上とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、低密度電極において電池性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態の二次電池の斜視図である。
図2】電極体の構成図である。
図3】二次電池の作製手順図である。
図4】比較例及び実施例の各指標値をまとめた表である。
図5】プレス加工後の正極板の材料の状態モデル図である。
図6】プレス加工後の正極板の材料の状態モデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、電極体、二次電池、及び電極体製造方法の一実施形態を説明する。
(二次電池1)
図1に示すように、二次電池1のセル2は、開口3が蓋4によって閉じられる直方体形状の電池ケース5を備える。電池ケース5は、例えば、アルミニウム合金等の金属によって形成される。電池ケース5の内部は、密閉された電槽を構成する。電池ケース5は、正負電極が積層された電極体6が内蔵されている。電池ケース5の内部には、非水電解液7が充填されている。セル2の蓋4は、電極体6に電気接続された正極外部端子8及び負極外部端子9を有する。二次電池1は、例えば、正負極間を移動するイオンにリチウムイオンを使用するリチウムイオン型である。
【0013】
(電極体6)
図2に示すように、電極体6は、負極板12、正極板13、及びセパレータ14を備える。負極板12、正極板13、及びセパレータ14は、電極体6の厚み方向(図2のZ軸方向)に積層されている。具体的には、負極板12及び正極板13が交互に配置されるとともに、これら層群において負極板12及び正極板13の間にセパレータ14が配置されている。電極体6は、電極体6の長さ方向(図2のX軸方向)に捲回されている。電極体6は、長さ方向に対して直交する方向(図2のY軸方向)から見た場合に、扁平形状に形成されている。
【0014】
(負極板12)
負極板12は、負極集電体16及び負極合材17を備える。負極集電体16は、負極の電極基材である。負極集電体16は、例えば、銅(銅箔)から構成されている。負極合材17は、例えば、負極集電体16の両面に設けられている。負極合材17は、例えば、負極活物質と負極添加物とを有する。負極合材17は、負極活物質と負極添加物とを混練し、その後、混練した負極合材ペーストを負極集電体16に塗布して乾燥させることにより、負極集電体16上に形成される。
【0015】
負極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。負極活物質としては、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料が使用される。負極添加物は、例えば、負極溶媒、負極結着材、及び負極増粘材を含む。負極溶媒としては、例えば水等が使用される。なお、負極添加物は、例えば負極導電材等を更に含んでもよい。
【0016】
負極結着材は、例えば、水に分散するポリマー材料が使用される。ポリマー材料は、例えば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類が使用される。ポリマー材料は、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が使用される。なお、ポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
負極増粘材は、例えば、有機溶剤に対して不溶性であって、水に溶解して粘性を発揮するポリマー系が使用される。ポリマー系は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体が使用される。
【0018】
負極集電体16は、負極外部端子9に接続される負極接続部18を有する。負極接続部18は、例えば、負極集電体16の両面において負極合材17が設けられていない部位であって、正極板13及びセパレータ14から露出するように構成されている。
【0019】
(正極板13)
正極板13は、正極集電体20及び正極合材21を備える。正極集電体20は、正極の電極基材である。正極集電体20は、例えば、アルミニウム(アルミニウム箔、アルミニウム合金箔)から構成されている。正極合材21は、例えば、正極活物質と正極添加物とを有する。正極合材21は、正極活物質と正極添加物とを混練し、その後、混練した正極合材ペーストを正極集電体20に塗布して乾燥させることにより、正極集電体20上に形成される。
【0020】
正極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵と放出とが可能な材料から構成される。正極活物質としては、例えば、ニッケル、マンガン及びコバルトを含有する三元系(NMC)リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LINICOMNO)が使用される。正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)のいずれか一つを用いてもよい。正極活物質としては、例えば、ニッケル、コバルト及びアルミニウム(NCA)を含有するリチウム含有複合酸化物を用いてもよい。
【0021】
正極添加物は、例えば、正極溶媒、正極導電材、及び正極結着材(バインダー)を含む。正極溶媒としては、例えば、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液等、非水溶媒が使用される。正極結着材としては、例えば負極結着材と同様のものを使用してもよい。なお、正極添加物は、例えば正極増粘材等を更に含んでもよい。
【0022】
正極導電材としては、例えばカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)等の炭素繊維等を用いる。カーボン系の材料は、混練のときにクッションとして働いてしまうため、なるべく少ない量とすることが好ましい。この点、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバは、少ない量でも導電性を確保できる利点がある。なお、正極導電材は、黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を用いてもよい。
【0023】
正極集電体20は、正極外部端子8に接続される正極接続部22を有する。正極接続部22は、例えば、正極集電体20の両面において正極合材21が設けられていない部位であって、負極板12及びセパレータ14から露出するように構成されている。
【0024】
(セパレータ14)
セパレータ14は、例えば、多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ14としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせたものが使用される。電極体6が非水電解液7に浸漬されると、セパレータ14に非水電解液7が浸透する。
【0025】
(非水電解液7)
非水電解液7は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)が使用される。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。
【0026】
また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等が使用される。また、これらから選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を使用してもよい。このように、非水電解液7は、リチウム化合物を含む。
【0027】
(二次電池1の製造プロセス)
図3に示すように、二次電池1の製造プロセスは、源泉工程と、組立工程と、活性化工程と、を含む。源泉工程は、例えば、電池材料から電極板(負極板12、正極板13)を製造するまでの工程を言う。
【0028】
まず、源泉工程の詳細について説明する。なお、負極板12及び正極板13の製造工程は、ほぼ同一である。よって、本例の場合、正極板13の製造工程についてのみ詳述し、負極板12の製造工程については、説明を省略する。
【0029】
ステップ101において、正極合材21の原材料である正極活物質及び正極添加物を調合する調合工程を実行する。この調合工程によって、正極合材ペーストが生成される。
ステップ102において、正極合材ペーストを混練する混練工程を実行する。
【0030】
ステップ103において、正極合材ペーストを正極集電体20に塗布する塗工工程を実行する。塗工工程においては、正極集電体20の両面において、両端に正極接続部22が形成されるように、正極合材ペーストを正極集電体20に塗布する。
【0031】
ステップ104において、正極集電体20に塗布した正極合材ペーストを乾燥する乾燥工程を実行する。この乾燥工程によって、正極集電体20上で正極合材ペーストが固化することにより、帯状の正極板13が形成される。
【0032】
ステップ105において、乾燥後の正極板13をプレスするプレス工程を実行する。このプレス工程においては、正極集電体20の両面に形成された正極合材21をプレス機によって押圧することにより、正極集電体20に対する正極合材21の密着強度を高めつつ、正極合材21の厚みを調製する。
【0033】
ステップ106において、プレス後の正極板13を裁断する裁断工程を実行する。この裁断工程においては、例えば、正極板13を幅方向の中央で裁断することにより、一度に2条の正極板13を得る。
【0034】
組立工程は、源泉工程後に、二次電池1の組み立てを行う工程である。組立工程においては、まず、負極板12と正極板13とをセパレータ14を介して積層した後、捲回し、さらに、偏平に押圧する。その後、負極接続部18を圧接するとともに、正極接続部22を圧接する。以上の手順により、電極体6が製造される。
【0035】
続いて、この電極体6を電池ケース5内に収容する。ケース収容後、電池ケース5の開口3が蓋4によって塞がれる。そして、電池ケース5内に非水電解液7が注入される。電池ケース5内への非水電解液7の注入が完了したら、電池ケース5を密封する。以上の手順により、二次電池1が組み立てられる。
【0036】
活性化工程は、組立後の電池を活性化させる工程である。活性化工程では、まず、ステップ201において、二次電池1を充電する充電工程を実行する。充電工程は、SEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の形成などを目的として、組立後の二次電池1に対して初回充電を行う工程である。充電工程は、例えば、二次電池1が拘束された拘束状態で実行される。このとき、電極体6も拘束状態となる。「拘束」とは、電極体6を直接又は間接に厚み方向(例えば、図2のZ軸方向)から加圧することを言う。
【0037】
ステップ202において、充電工程後の二次電池1を保管するエージング工程を実行する。エージング工程では、二次電池1を化学的に安定化・活性化をする。その目的の1つとしては、電極内に存在する微細な金属により生じる微細な電極間の短絡を検出する。エージング工程は、例えば本実施形態では60°C程度の高温に保温して行ってもよいが、20°C程度の外気温で行ってもよい。エージング工程は、二次電池1を拘束状態とした条件下で実行される。
【0038】
活性化工程が終了すると、二次電池1を拘束状態から非拘束状態に戻す。このように、二次電池1が非拘束状態となると、二次電池1に収容された電極体6が非拘束状態となる。以上により、二次電池1は、セル電池としての製造が完了する。そして、二次電池1は、出荷検査が行われた後、スタックへの組付け待ちとなる。
【0039】
(二次電池1の材料のパラメータ設定)
図4に、電極体6の比較例及び実施例の各指標値をまとめた表を図示する。図4の表には、例えば、負極の比容量[mA/g]、正極の比容量[mA/g]、負極密度[g/cm]、正極密度[g/cm]、負極比表面積[m/g]、正極比表面積[m/g]、比表面積比率、容量劣化、Li析出判定、イオン拡散抵抗、ハイレート特性の各指標欄がある。そして、比較例1~比較例4の4つを比較基準としつつ、「実施例1」~「実施例10」の10パターンのサンプルについて検証した。なお、各指標の意味は、以下の通りである。
・負極の比容量…グラム単位あたりの負極板12の容量
・正極の比容量…グラム単位あたりの正極板13の容量
・負極密度…単位体積あたりの負極合材17の質量
・正極密度…単位体積あたりの正極合材21の質量
・負極比表面積…負極板12の比表面積
・正極比表面積…正極板13の比表面積
・比表面積比率…正極比表面積を負極比表面積で除算(正極比表面積/負極比表面積)した値
・容量劣化…二次電池1の容量劣化の良否についての判定結果
・Li析出判定…Li析出量の良否についての判定結果
・イオン拡散抵抗…正極の反応抵抗の良否についての判定結果
・ハイレート特性…急速充放電時に負極に生じるリチウム濃度むらの良否についての判定結果
容量劣化の判定においては、二次電池1の寿命を求めて寿命指数を割り出し、そして、この寿命指数から良否判定が実行される。「比較例1」に示すように、本例の容量劣化の判定では、例えば、寿命指数が1.01を超えると、「否」と判定される。これにより、本例の場合、比表面積比率(負極板12の比表面積と正極板13の比表面積との比率)は、0.7以上に設定されている。なお、比表面積は、例えば、BET式を用いた気体吸着測定法、つまりはBET法により測定される。
【0040】
次に、本実施形態の電極体6(二次電池1、電極体製造方法)の作用について説明する。
(比表面積比率の最適化)
図4に示す通り、比表面積比率は、正極比表面積及び負極比表面積の少なくとも一方を調整することにより、設定される。正極比表面積や負極比表面積の設定は、例えば、正極導電材の種類の選定や、プレス工程のプレス内容の設定などにより、実行される。正極導電材は、例えば、比表面積が150[m/g]以上300[m/g]以下の材料を用いることが好ましく、具体的には、前述したカーボンナノチューブやカーボンナノファイバが挙げられる。
【0041】
プレス工程のプレス内容としては、例えば、プレス圧やプレス速度などが挙げられる。具体的には、正極板13を製造する際のプレス工程において、所定のプレス圧やプレス速度を設定することにより、正極比表面積を所望の比表面積に調整する。プレス圧の範囲は、例えば、50[kN]以上196[kN]以下であることが好ましい。プレス速度の範囲は、例えば、6[m/min]以上60[m/min]以下であることが好ましい。また、負極比表面積も、正極比表面積と同様の方法により、調整される。
【0042】
ここで、図5及び図6に、プレス加工後の正極板13の材料の状態モデル図を図示する。図5は、正極比表面積と負極比表面積とのバランスがよくないときの図である。図6は、比表面積比率を最適化したとき(具体的には、比表面積比率を0.7以上としたとき)の図である。
【0043】
ところで、正極板13がプレスされたときには、そのプレス圧によって正極活物質が割れるため、正極活物質において新生面26が露出する。新生面26は、例えば、活性点を多く含み、それにより、二次電池1の材料と化学反応できる面となっている。
【0044】
また、活性化工程のとき、正極及び負極の各々において、目的とする反応以外の副反応が発生することが知られている。正極の副反応は、例えば、正極活物質の新生面26に被膜が形成されてしまう現象が挙げられる。負極の副反応は、例えば、SEI被膜以外の被膜が負極活物質に形成されてしまう現象が挙げられる。なお、副反応は、前述の現象のみならず、例えば非水電解液7の分解など、様々のものがある。
【0045】
図5に示す通り、正極比表面積と負極比表面積とのバランスがよくないときは、正極活物質の新生面26が少ない。これは、比表面積比率を最適化していない、すなわち、導電材の種類やプレスの仕方を最適化していないため、正極活物質の割れが少ないからと考えられる。このため、活性化工程のとき、正極の副反応の量が負極の副反応の量よりも少なくなるため、正極と負極とで副反応の量にばらつきが生じてしまう。
【0046】
ところで、負極は、活性化工程において副反応の量が多く、活性化工程の前後で容量の変化が大きい。このため、仮に正極の副反応の量が少ないと、活性化工程の前後での正極の容量変化が少なくなってしまい、これにより、活性化工程後、正負極に大きな容量ズレが発生してしまう。この容量ズレは、二次電池1の容量に関係するため、例えば、二次電池1の放電時、早めに下限電圧に到達してしまう原因になる。
【0047】
なお、容量ズレは、例えば、負極の比容量と負極活物質とから求まる負極単極容量と、正極の比容量と正極活物質とから求まる正極単極容量と、のズレのことをいう。負極単極容量は、例えば、負極の比容量と負極活物質の量とを乗算した値である。正極単極容量は、例えば、正極の比容量と正極活物質の量とを乗算した値である。
【0048】
一方、図6に示す通り、例えば正極導電材種やプレス工程内容の設定により、比表面積比率を最適化したときは、正極活物質に割れを多く発生させることが可能となる。このようにして、正極活物質に新生面26を多く発生させることにより、活性化工程のときの正極の副反応を促進する。このため、活性化工程のときの正極と負極とで副反応のばらつきを低く抑えることが可能となるため、負極単極容量と正極単極容量との容量ズレを少なく抑えることが可能となる。
【0049】
また、図4の「比較例1」、「実施例1」~「実施例10」に示すように、比表面積比率を0.7以上に設定した場合、正極密度及び負極密度がともに低密度(本例は、正極密度が3.0[g/cm]以下、負極密度が1.3[g/cm]以下)となっていれば、容量劣化の判定が「良」となることが分かる。よって、二次電池1の電池寿命を向上できることが分かる。
【0050】
(正極及び負極の比表面積の範囲)
ところで、図4の「比較例1」に示す通り、正極比表面積が低すぎると、容量劣化の判定を満足しない。一方、「実施例4」に示す通り、正極比表面積が2.5[m/g]の場合、容量劣化の判定が「良」となる。このため、正極比表面積は、あまり小さくすることができないことが分かる。これを踏まえ、正極比表面積の範囲は、比表面積比率の範囲も考慮に入れて、例えば2.5[m/g]以上4.0[m/g]以下であることが好ましい。
【0051】
負極は、放電時のイオンの受け側となるため、負極比表面積を、ある程度大きくしなければならない。また、「比較例2」に示すように、負極比表面積は、あまりに値が低いと、Li析出判定を満足しない。Li析出判定が「否」の場合、これは、析出したリチウムによる短絡の発生要因となるため、安全面での懸念が生じる。これを踏まえ、負極比表面積の範囲は、比表面積比率の範囲も考慮に入れて、例えば3.5[m/g]以上4.5[m/g]以下であることが好ましい。なお、正極比表面積及び負極比表面積の上限値は、例えば、電極(負極板12、正極板13)を形成できる限界プレス圧で作製した値である。
【0052】
(正極密度及び負極密度の範囲)
「比較例3」に示すように、正極密度が「3.52」のとき、イオン拡散抵抗の判定を満足しない。イオン拡散抵抗の判定が「否」の場合、これは二次電池1の出力ダウンの原因となる。そこで、本例の場合、正極密度は、3.0[g/cm]以下であることが好ましい。このように、正極密度を低密度としたので、イオン拡散抵抗の判定を「良」とすることが可能となる。
【0053】
また、「比較例4」に示すように、負極密度が「1.37」のとき、ハイレート特性の判定を満足しない。ハイレート特性の判定が「否」の場合、これは二次電池1の劣化の要因となり得る。そこで、本例の場合、負極密度は、1.3[g/cm]以下であることが好ましい。このように、負極密度を低密度としたので、ハイレート特性の判定を「良」とすることが可能となる。
【0054】
(正負極容量比の範囲)
前述したように、負極は、充電時のイオンの受け側となるため、正極よりも負極容量を、ある程度大きな容量に設定することが好ましい。そこで、正極単極容量を負極単極容量で除算した値を正極容量比とした場合、この正負極容量比は、例えば、1.5以上2.0以下であることが好ましい。こうすれば、充電時のイオンの受け側となる負極の容量を、十分な容量とすることが可能となる。
【0055】
(実施形態の効果)
上記実施形態の電極体6(二次電池1、電極体製造方法)によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0056】
(1)電極体6は、負極板12及び正極板13の間にセパレータ14を配置しつつ、負極板12、正極板13、及びセパレータ14を積層するように構成されている。電極体6は、正極板13の正極密度を3.0g/cm以下とし、負極板12の負極密度を1.3g/cm以下とし、正極板13の比表面積と負極板12の比表面積との比率を0.7以上とするように構成されている。
【0057】
本構成によれば、正負極の比表面積比率を0.7以上としたので、正極板13の比表面積が十分な大きさとなる。これにより、例えば正極合材21の作製時、正極活物質に形成される新生面26が多くなる。このため、活性化工程のときに正極側に発生する副反応の量が多くなるため、正極側の副反応の量を、負極側に発生する副反応の量に近づけることが可能となる。従って、正負極で副反応の量のばらつきを少なく抑えることが可能となるため、活性化工程時に発生する正負極の容量ズレを少なく抑えることが可能となる。
【0058】
このように、正極密度を3.0g/cm以下、かつ、負極密度を1.3g/cm以下とされた低密度電極の電極体6において、正負極の容量ズレが少なく抑えられるので、結果、二次電池1の寿命特性を向上することが可能となる。以上により、低密度電極において電池性能を向上できる。また、正負電極が低密度であれば、電極体6に非水電解液7が浸透するときの浸透速度も速くすることができる。
【0059】
(2)正極板13の比表面積は、2.5m/g以上4.0m/g以下の範囲に設定され、負極板12の比表面積は、3.5m/g以上4.5m/g以下の範囲に設定されている。この構成によれば、正負極の比表面積の最適化が可能となるため、電池特性の向上に一層寄与する。
【0060】
(3)比表面積の上限値は、極板をプレス成形するプレス機の上限プレス圧である。この構成によれば、プレス機のプレス上限値まで使った広い範囲内で比表面積を設定できる。
【0061】
(4)正極板13の比容量と正極活物質とから求まる正極の単極容量と、負極板12の比容量と負極活物質とから求まる負極の単極容量と、の比を正負極容量比とした場合、正負極容量比を1.5以上2.0以下とした。この構成によれば、二次電池1の作動時において、正負極の一方から他方にイオンを送るときの受け側の容量を十分な容量とすることが可能となる。よって、電池性能の向上に一層寄与する。
【0062】
(5)正極板13は、電極の抵抗を低減するための正極導電材を有し、正極導電材の比表面積は、150m/g以上300m/g以下に設定されている。この構成によれば、正極導電材の比表面積を、正極活物質の割れ易さを満足できる値に設定することが可能となる。ところで、例えば正極導電材が多過ぎる場合、正極合材21の作製時、正極導電材がクッションとなって正極活物質が割れ難くなってしまい、十分な新生面26が得られない可能性に繋がる。そこで、この観点に着目して、正極導電材の比表面積を最適化した。よって、十分な量の正極活物質の新生面26を形成できる。
【0063】
(他の実施形態)
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0064】
・正極板13の比表面積と負極板12の比表面積との比率(比表面積比率)は、0.8以上であることが好ましい。この場合、容量劣化の抑制に一層寄与し、ひいては、電池の長寿命化に一層寄与する。
【0065】
・比表面積比率を調整するための方法は、導電材種を選択したり、プレスの仕方を選択したりする方法に限定されない。例えば、正極に用いる材料を選んだり、混練の仕方を工夫したりするなど、他の方法に変更してもよい。
【0066】
・負極結着材としては、例えば、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)等を使用してもよい。
・負極及び正極ともに、活物質、導電材、溶媒、及び結着材は、任意の種類を使用できる。
【0067】
・二次電池1は、リチウムイオン型に限定されず、他の種類に変更してもよい。
・二次電池1は、薄板状に限定されず、例えば、円柱形などの他の形状に変更してもよい。
【0068】
・二次電池1は、車載用に限定されず、例えば、船舶用、航空機用、定置用など、他の用途に用いてもよい。
・本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0069】
1…二次電池
2…セル
3…開口
4…蓋
5…電池ケース
6…電極体
7…非水電解液
8…正極外部端子
9…負極外部端子
12…負極板
13…正極板
14…セパレータ
16…負極集電体
17…負極合材
18…負極接続部
20…正極集電体
21…正極合材
22…正極接続部
26…新生面
図1
図2
図3
図4
図5
図6