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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062657
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】電極合材及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240501BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240501BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170642
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】横尾 英紀
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】小岩 永明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA05
5H050FA16
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】取り扱い性の向上を図りつつ、より優れた電池性能を確保する。
【解決手段】電極合材50は、電極活物質60及び導電性繊維状炭素材51を含有する。また、この電極合材50は、電極活物質60の表面60sに配置された無機ナノ粒子70を含有する。更に、導電性繊維状炭素材51には、内部に磁性金属Mを含む金属含有カーボンナノチューブCNTmが用いられる。そして、電極合材50は、その電極活物質60の表面60sを覆う無機ナノ粒子70の被覆率を金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mの含有率で除した比が、38.5以下となるように構成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及び導電性繊維状炭素材を含有するとともに、前記電極活物質の表面に配置された無機ナノ粒子を含む電極合材であって、
前記導電性繊維状炭素材には、磁性金属が含まれるとともに、
前記電極活物質の表面を覆う前記無機ナノ粒子の被覆率を前記導電性繊維状炭素材に含まれる前記磁性金属の含有率で除した比が、38.5以下である電極合材。
【請求項2】
前記無機ナノ粒子の被覆率が、5%以上、15%以下である
請求項1に記載の電極合材。
【請求項3】
前記磁性金属の含有率が、0.1wt%以上、5wt%以下である
請求項1に記載の電極合材。
【請求項4】
前記導電性繊維状炭素材が多層カーボンナノチューブであって、
前記電極合材中に含まれる前記導電性繊維状炭素材の含有量が、0.4wt%以上である請求項1に記載の電極合材。
【請求項5】
前記導電性繊維状炭素材が単層カーボンナノチューブであって、
前記電極合材中に含まれる前記導電性繊維状炭素材の含有量が、0.04wt%以上である請求項1に記載の電極合材。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の電極合材を用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極合材及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極活物質層の形成に用いられる電極合材中に、カーボンナノチューブ等の導電性繊維状炭素材を含有するものがある。即ち、このような導電性繊維状炭素材を電極合材中に分散させることにより、その導電性繊維状炭素材を導電材とした電極活物質の導電経路が形成される。尚、例えば、特許文献1等には、そのカーボンナノチューブの内部に、鉄やコバルト、ニッケル等の磁性金属を含む旨が開示されている。そして、このような構成を採用することで、優れた電池性能を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-150214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、電動車両等、高水準の電池性能が求められる用途においては、日々、その更なる性能向上が模索されている。更に、生産性の向上を図るべく、電極合材についてもまた、その原料を含め、例えば、流動性の向上等、取り扱いやすさが求められている。このため、上記従来技術の構成についてもまた、必ずしも、その進化する要求水準を満たしているとは言い切れないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電極合材及び二次電池の各態様を記載する。
態様1は、電極活物質及び導電性繊維状炭素材を含有するとともに、前記電極活物質の表面に配置された無機ナノ粒子を含む電極合材であって、前記導電性繊維状炭素材には、磁性金属が含まれるとともに、前記電極活物質の表面を覆う前記無機ナノ粒子の被覆率を前記導電性繊維状炭素材に含まれる前記磁性金属の含有率で除した比が、38.5以下である。
【0006】
即ち、電極合材中に導電性繊維状炭素材を配合することにより、この導電性繊維状炭素材を導電材として、電池出力の向上を図ることができる。また、電極活物質の表面に無機ナノ粒子を配置することにより、その粉体流動性を向上させることができる。そして、これにより、電極合材を製造する際、その原料としての電極活物質を取り扱いやすくすることで、生産性の向上を図ることができる。
【0007】
更に、内部に磁性金属を含有する導電性繊維状炭素材を用いることで、その磁性金属の吸着効果に基づいて、無機ナノ粒子の共存下においても、電極活物質の表面に対して導電性繊維状炭素材が、直接、付着しやすくなる。その結果、高い電池性能を確保することができる。そして、無機ナノ粒子の被覆率を磁性金属の含有率で除した比が38.5以下となるように設定することにより、好適に、その電極合材の原料となる電極活物質の流動性を確保しつつ、電池出力の向上を図ることができる。
【0008】
態様2は、前記無機ナノ粒子の被覆率が、5%以上、15%以下である態様1に記載の電極合材である。
上記構成によれば、電極合材の原料としての電極活物質について、良好な粉体流動性を得ることができるとともに、その無機ナノ粒子が電極活物質の表面を被覆することによる電池出力の低下を好適に抑制することができる。
【0009】
態様3は、前記磁性金属の含有率が、0.1wt%以上、5wt%以下である態様1又は態様2に記載の電極合材である。
上記構成によれば、好適な電極活物質の表面に対する吸着効果を得ることができるとともに、その導電性繊維状炭素材に含まれる磁性金属について、例えばイオン化等による外部流出を好適に抑制することができる。
【0010】
態様4は、前記導電性繊維状炭素材が多層カーボンナノチューブであって、前記電極合材中に含まれる前記導電性繊維状炭素材の含有量が、0.4wt%以上である態様1~態様3の何れか一つに記載の電極合材である。
【0011】
上記構成によれば、好適に、その導電性繊維状炭素材として多層カーボンナノチューブを用いることによる電池出力の向上を図ることができる。
態様5は、前記導電性繊維状炭素材が単層カーボンナノチューブであって、前記電極合材中に含まれる前記導電性繊維状炭素材の含有量が、0.04wt%以上である態様1~態様3の何れか一つに記載の電極合材である。
【0012】
上記構成によれば、好適に、その導電性繊維状炭素材として単層カーボンナノチューブを用いることによる電池出力の向上を図ることができる。
態様6は、態様1~態様5の何れか一つに記載の電極合材を用いた二次電池である。
【0013】
上記構成によれば、取り扱い性の向上を図りつつ、より優れた電池性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、取り扱い性の向上を図りつつ、より優れた電池性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二次電池の斜視図である。
図2】電極体の分解図である。
図3】二次電池の側面図である。
図4】電極合材中に含まれる電極活物質及びカーボンナノチューブのイメージ図である。
図5】電極活物質の表面に配置された無機ナノ粒子と内部に磁性金属を含有する金属含有カーボンナノチューブとが電極合材中に共存する場合のイメージ図である。
図6】金属含有カーボンナノチューブの模式図である。
図7】無機ナノ粒子と内部に磁性金属を含有しない純化カーボンナノチューブとが共存する電極活物質表面の模式図である。
図8】電極活物質の表面に配置された無機ナノ粒子と純化カーボンナノチューブとが電極合材中に共存する場合のイメージ図である。
図9】無機ナノ粒子と金属含有カーボンナノチューブとが共存する電極活物質表面の模式図である。
図10】無機ナノ粒子なしの条件下で純化カーボンナノチューブを用いた場合及び金属含有カーボンナノチューブを用いた場合の直流抵抗を比較したグラフである。
図11】無機ナノ粒子ありの条件下で純化カーボンナノチューブを用いた場合及び金属含有カーボンナノチューブを用いた場合の直流抵抗を比較したグラフである。
図12】無機ナノ粒子の有無とカーボンナノチューブに含まれる磁性金属の有無との各組み合わせについて、その合計抵抗を比較したグラフである。
図13】無機ナノ粒子の有無とカーボンナノチューブに含まれる磁性金属の有無との各組み合わせについて、その貫通抵抗を比較したグラフである。
図14】無機ナノ粒子の有無とカーボンナノチューブに含まれる磁性金属の有無との各組み合わせについて、その直流抵抗を比較したグラフである。
図15】無機ナノ粒子の有無とカーボンナノチューブに含まれる磁性金属の有無との各組み合わせについて、その反応抵抗を比較したグラフである。
図16】電極活物質表面を被覆する無機ナノ粒子の被覆率及びカーボンナノチューブ中に含まれた磁性金属の含有率について、その各値の組み合わせ毎に貫通抵抗比を示した表である。
図17】電極活物質表面を被覆する無機ナノ粒子の被覆率及びカーボンナノチューブ中に含まれた磁性金属の含有率について、その各値の組み合わせ毎に貫通抵抗比を示したグラフである。
図18】電極活物質表面を被覆する無機ナノ粒子の被覆率をカーボンナノチューブ中に含まれた磁性金属の含有率で除した比を、その組み合わせ毎に示す表である。
図19】電極活物質表面を被覆する無機ナノ粒子の被覆率をカーボンナノチューブ中に含まれた磁性金属の含有率で除した比を、その組み合わせ毎に示すグラフである。
図20】電極合材中に含まれる多層カーボンナノチューブの含有量と貫通抵抗との関係を示す表である。
図21】電極合材中に含まれる多層カーボンナノチューブの含有量と貫通抵抗との関係を示すグラフである。
図22】電極合材中に含まれる単層カーボンナノチューブの含有量と貫通抵抗との関係を示す表である。
図23】電極合材中に含まれる単層カーボンナノチューブの含有量と貫通抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、二次電池に用いられる電極合材に関する一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0017】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0018】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0019】
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32とを備えた電極シート35としての構成を有する。
【0020】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだ合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極活物質層32P及び負極活物質層32Nが形成される構成となっている。
【0021】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸L周りに捲回される構成になっている。
【0022】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0023】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、その未塗工部39を利用して、正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続され、及び負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0024】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸Lが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0025】
更に、このケース20内には、電解液41が注入される。本実施形態の二次電池1においては、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたフッ素系の電解液41が用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液41が含浸される構成になっている。
【0026】
(電極合材)
次に、本実施形態の二次電池1の形成に用いられる電極合材について説明する。
図4に示すように、本実施形態の二次電池1において、電極体10の形成、詳しくは、その正極3となる正極活物質層32Pの形成に用いられる電極合材50には、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTが含まれている。即ち、この電極合材50は、上記のように、合材ペースト37Pの状態で、その正極集電体31Pに塗工される(図2参照)。また、本実施形態の電極合材50において、カーボンナノチューブCNTは、その電極合材50中に分散した状態で、この電極合材50に含まれている。そして、本実施形態の電極合材50は、これにより、このカーボンナノチューブCNTが、その近傍に位置する電極活物質60、つまりは正極3用の電極活物質60である正極活物質61の導電経路を形成する構成となっている。
【0027】
尚、本実施形態の電極合材50において、正極活物質61には、リチウム遷移金属酸化物の凝集体としての最小分割単位(アグリゲート)を一次粒子とし、この一次粒子を凝集させた二次粒子、即ち粒子凝集体(アグロメレート)が用いられている。そして、カーボンナノチューブCNTは、その二次粒子の表面に付着する態様で、この電極合材50中に分散されている。
【0028】
カーボンナノチューブCNTの長さについては、例えば、平均値で、100nm以上、10000nm以下の長さを有するものを用いることが好ましい。即ち、カーボンナノチューブCNTの長さが短すぎる場合には、十分な導電性が得らない可能性がある。また、カーボンナノチューブCNTの長さが長すぎる場合にも、分散性の低下によって、その導電性が低下する。そして、カーボンナノチューブCNTの直径については、例えば、平均径で、1nm以上、100nm以下の直径を有するものを用いることが好ましい。
【0029】
また、図5に示すように、本実施形態の電極合材50には、その電極活物質60の表面60sに付着した状態で配置される無機ナノ粒子70が含まれている。尚、図5中においては、同図中に示す「破線の囲み」が、その電極活物質60の表面60sに付着した無機ナノ粒子70である。
【0030】
即ち、電極活物質60の粒径を小さくして、その比表面積を増大させることにより、電池性能の向上を図ることができる。しかしながら、その背反として、粉体流動性が低下する。つまりは、電極合材50を製造する際、原料となる粉体状の電極活物質60が流動し難くなることで、その取り扱い性が低下するという問題がある。
【0031】
この点を踏まえ、本実施形態の二次電池1においては、上記のように、電極合材50の原料として、その表面60sに無機ナノ粒子70を付着させた状態の電極活物質60が用いられている。即ち、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することにより、その粉体流動性が向上する。尚、このような所謂粉体潤滑機能を奏する無機ナノ粒子70としては、例えば、アルミやタングステン酸リチウム等を用いることができる。また、無機ナノ粒子70の粒径としては、例えば、1nm以上、500nm以下の平均径を有するものを用いることができる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、電極合材50の製造時、この電極活物質60の流動性を高めて取り扱いやすくすることで、その生産性の向上を図る構成となっている。
【0032】
(金属含有カーボンナノチューブ)
さらに詳述すると、図6に示すように、本実施形態の二次電池1においては、電極合材50に配合する導電性繊維状炭素材51として、その筒構造80の内部に磁性金属Mを含有する金属含有カーボンナノチューブCNTmが用いられている。即ち、このような金属含有カーボンナノチューブCNTmは、その筒構造80の内側に配置された磁性金属Mが、電極活物質60を組成する金属酸化物に吸引されることにより、その電極活物質60の表面60sに付着しやすい特性を有している。尚、このような吸着特性を奏する金属含有カーボンナノチューブCNTm中の磁性金属Mとしては、例えば、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)、鉄(Fe)等を挙げることができる。更に、正極活物質61については、多くの場合、その組成の50%以上に、このような金属含有カーボンナノチューブCNTm中の磁性金属Mとの間に吸引力を生ずるようなリチウム遷移金属酸化物が使用されている。そして、本実施形態の二次電池1は、このような電極活物質60の表面60sに対する金属含有カーボンナノチューブCNTmの吸着特性を利用して、その無機ナノ粒子70の共存下における高い電池性能を確保する構成となっている。
【0033】
(無機ナノ粒子が電極活物質表面を被覆することによる電池出力の低下)
上記のように、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することで、その粉体流動性を向上させることができる。しかしながら、背反として、その無機ナノ粒子70が電極活物質60の表面60sを覆うことにより電池反応が抑制されるという問題がある。そして、このような無機ナノ粒子70が電極活物質60の表面60sを被覆することにより生ずる電池出力の低下は、その導電性繊維状炭素材51が、内部に磁性金属Mを含有しない純化カーボンナノチューブCNTm0である場合に、顕在化しやすい傾向がある。
【0034】
即ち、図7及び図8に示すように、無機ナノ粒子70と純化カーボンナノチューブCNTm0とが共存する場合、この純化カーボンナノチューブCNTm0が、電極活物質60の表面60sに配置された無機ナノ粒子70に付着しやすくなる。そして、これにより、これらの無機ナノ粒子70が電極活物質60の表面60sに対する純化カーボンナノチューブCNTm0の接触を妨げることで、その電池反応が抑制されるものと推察される。
【0035】
(作用)
この点、図5及び図9に示すように、金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いた場合、内部に含まれた磁性金属Mが電極活物質60に吸引されるかたちで、その表面60sに対して、直接、金属含有カーボンナノチューブCNTmが付着しやすくなる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、カーボンナノチューブCNTを導電材に用いることによる電池出力の向上と、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することによる粉体流動性の向上とを両立させる構成になっている。
【0036】
(最適設計)
さらに詳述すると、本実施形態の電極合材50において、その電極活物質60の表面60sを覆う無機ナノ粒子70の被覆率は、例えば、5%以上、15%以下に設定されることが好ましい。尚、無機ナノ粒子70の被覆率は、例えば、電極合材50中に含まれる無機ナノ粒子70の含有量(wt%)と無機ナノ粒子70の平均径(nm)との一次近似式から求めることができる。即ち、上記のような無機ナノ粒子70の被覆率が5%以上の領域において、好適な粉体流動性を得ることができる。そして、無機ナノ粒子70の被覆率が15%以下の領域において、その無機ナノ粒子70が電極活物質60の表面60sを被覆することによる電池出力の低下を好適に抑制することができる。
【0037】
また、金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mの含有率は、例えば、0.1wt%以上、5wt%以下であることが好ましい。尚、このような磁性金属Mの含有率は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)等により測定することができる。即ち、上記のような磁性金属Mの含有率が0.1wt%以上の領域において、好適な電極活物質60の表面60sに対する吸着効果を得ることができる。そして、磁性金属Mの含有率が5wt%以下の領域であれば、その金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mについて、例えばイオン化等による外部流出を好適に抑制することができる。
【0038】
更に、その無機ナノ粒子70の被覆率を磁性金属Mの含有率で除した比(被覆率/含有率)が、例えば、38.5以下であることが好ましい。そして、これにより、好適に、その電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することによる粉体流動性の向上を図りつつ、そのカーボンナノチューブCNTを導電材に用いることによる電池出力の向上を図ることができる。
【0039】
また、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量は、例えば、この電極合材50が乾燥した状態において、5wt%以下であることが好ましい。即ち、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量が増加することで、その電極合材50の粘度が高くなる。しかしながら、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量が5wt%以下であれば、好適な電極合材50の流動性を確保することができる。
【0040】
更に、電極合材50中に配合するカーボンナノチューブCNTに多層カーボンナノチューブ(MW-CNT)を用いる場合には、乾燥状態で、その電極合材50中の含有量が、0.4wt%以上であることが好ましい。また、電極合材50中に配合するカーボンナノチューブCNTに単層カーボンナノチューブ(SW-CNT)を用いる場合には、同じく乾燥状態で、その電極合材50中の含有量が、0.04wt%以上であることが好ましい。そして、これにより、好適に、その電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することによる粉体流動性の向上を図りつつ、そのカーボンナノチューブCNTを導電材に用いることによる電池出力の向上を図ることができる。
【0041】
(効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)即ち、電極合材50中に、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTを配合することにより、このカーボンナノチューブCNTを導電材として、電池出力の向上を図ることができる。
【0042】
(2)また、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70を配置することにより、その粉体流動性を向上させることができる。そして、これにより、電極合材50を製造する際、電極活物質60を取り扱いやすくすることで、その生産性の向上を図ることができる。
【0043】
(3)更に、内部に磁性金属Mを含有する金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いることで、その磁性金属Mの吸着効果に基づいて、無機ナノ粒子70の共存下においても、電極活物質60の表面60sに対して、直接、付着しやすくなる。そして、これより、高い電池性能を確保することができる。
【0044】
(4)加えて、電極活物質60の表面60sを覆う無機ナノ粒子70の被覆率を、その金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mの含有率で除した比(被覆率/含有率)が、38.5以下となるように設定する。そして、これにより、好適に、その電極合材50の原料となる電極活物質60の流動性を確保しつつ、電池出力の向上を図ることができる。
【0045】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
・上記実施形態では、導電性繊維状炭素材51としてカーボンナノチューブCNTを用いることとした。しかし、これに限らず、例えば、カーボンナノファイバー(CNF)等、導電性を有する繊維状の炭素材であって、電極合材50中において、近傍に位置する電極活物質60の導電経路を形成することのできるものであれば、任意に変更してもよい。
【0047】
・また、無機ナノ粒子70としては、アルミナの他、例えば、タングステン酸リチウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化タングステン等の金属酸化物を用いることができる。そして、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム等のフッ化物、或いは、ニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等を用いることもできる。但し、その無機ナノ粒子70は、電極活物質60よりも十分に粒径が小さいことが好ましい。
【0048】
・ベースになる電極合材50の構成については、任意である。例えば、電極活物質60を形成するリチウム遷移金属酸化物の組成は任意である。金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mが吸引されるものであればよい。また、その一次粒子径及び二次粒子径もまた任意である。更に、電極合材50に配合する結着材の種類や物性、添加剤の有無についてもまた任意である。そして、例えば、電極合材50が、一般的な結着材を用いることなく、導電性繊維状炭素材51のみによって、その電極活物質60を担持する構成に適用してもよい。
【0049】
・無機ナノ粒子70の粒径及び電極合材50中の含有量、並びに、カーボンナノチューブCNTの長さ、直径、及び電極合材50中の含有量については、任意に設定してもよい。即ち、上記実施形態に記載した数値範囲は、その好適な一例を示すものであり、必ずしも、これに限定されない。例えば、上記のようなベースになる電極合材50の構成、例えば、結着材の種類や物性、或いは結着材の有無、更に電極活物質60の仕様に応じて、任意に設定してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、正極活物質層32Pの形成に用いられる正極用の電極合材50に具体化した。しかし、これに限らず、粒子状の電極活物質60及び導電性繊維状炭素材51とともに、電極活物質60の表面60sに配置された無機ナノ粒子70を含有するものであれば、負極活物質層32Nの形成に用いられる負極用の電極合材50に具体化してもよい。
【0051】
・また、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池としての構成を有した二次電池1の形成に用いられる電極合材50に具体化した。しかし、これに限らず、リチウムイオン二次電池以外の二次電池1に適用してもよい。
【0052】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【実施例0053】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするための実施例等を記載する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
<無機ナノ粒子の有無、及びカーボンナノチューブに含まれる磁性金属の有無>
図10図15は、それぞれ、無機ナノ粒子70の有無による電池性能の比較、及び、そのカーボンナノチューブCNTに含まれる磁性金属Mの有無による電池性能の比較を表すグラフである。
【0054】
尚、これらの各図中に測定結果を示す性能試験は、正極用の電極合材50について行われたものである。また、その組成については、正極活物質61、導電材、及び結着材の比が「98:1:1」となるように調整した。そして、結着材にはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。
【0055】
また、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの平均長さは「1000nm」であり、平均径は「10nm」である。更に、金属含有カーボンナノチューブCNTmに含まれる磁性金属Mの含有率は「1.2wt%」であり、純化カーボンナノチューブCNTm0に含まれる磁性金属Mの含有率は「0(非検出)」である。そして、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量は、乾燥状態で「1.0wt%」とした。
【0056】
更に、無機ナノ粒子70には、アルミナ粒子を用いた。そして、無機ナノ粒子70を含む電極合材50について、その電極活物質60の表面60sを覆う無機ナノ粒子70の被覆率が「5%」となるように調整した。
【0057】
また、以下、説明の便宜上、無機ナノ粒子70の有無については、それぞれ、「ナノ粒子なし」「ナノ粒子あり」と表記する。更に、金属含有カーボンナノチューブCNTm、及び純化カーボンナノチューブCNTm0についてもまた、それぞれ、「金属含有CNT」「純化CNT」と表記する。そして、各図中には、その電池性能を示す指標として、それぞれ、「直流抵抗」「反応抵抗」「合計抵抗」、及び「貫通抵抗」についての「比」を表示する。
【0058】
即ち、「直流抵抗」「反応抵抗」「合計抵抗」は、それぞれ、交流インピーダンス法を用いて測定される二次電池1の内部抵抗値であり、「合計抵抗」は、この交流インピーダンス法により直接的に得られる抵抗値である。また、「反応抵抗」は、ナイキストプロット出力から得られる抵抗値であり、電極活物質60の表面60sにおいて電子の授受が行われる際の抵抗を表すものである。更に、「直流抵抗」もまた、ナイキストプロット出力から得られる抵抗値であり、電子が電極合材中を移動する際の抵抗を表すことから、「電子移動抵抗」と呼称されることがある。そして、この「直流抵抗」は、電極合材50中の導電材、つまりは、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTが適切に導電経路を形成することにより、その値が低下するという特徴がある。
【0059】
また、「貫通抵抗」は、電極合材50を用いて形成された電極シート35を電極間に挟み込む2端子抵抗測定、即ち所謂極板貫通抵抗試験により得られる抵抗値である。そして、この「貫通抵抗」もまた、上記「直流抵抗」と同様の傾向を示す、つまりは、電極合材50中の導電材が適切に導電経路を形成することにより、その値が低下するという特徴がある。
【0060】
図10に示すように、先ず、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70が配置されていない「ナノ粒子なし」の状態で、純化カーボンナノチューブCNTm0を用いた場合と、金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いた場合とを比較した。この場合、これら純化カーボンナノチューブCNTm0を用いた場合と、金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いた場合とで、その電池性能に大きな差異は確認されなかった。
【0061】
次に、図11に示すように、電極活物質60の表面60sに無機ナノ粒子70が配置された「ナノ粒子あり」の状態で、純化カーボンナノチューブCNTm0を用いた場合と、金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いた場合とを比較した。そして、この場合には、純化カーボンナノチューブCNTm0を用いた場合との比較において、その金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いることによる電池性能の改善が確認された。
【0062】
また、無機ナノ粒子70の有無、及びカーボンナノチューブCNTに含まれる磁性金属Mの有無に関する4通りの組み合わせについて、それぞれ、その電池性能を表す各種の「抵抗値」を比較した。尚、以下に示す図12図15中には、それぞれ、これら4つの組み合わせのうち、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせを基準(1.0)として、その各図中に示す「抵抗値」の「比」を示す。
【0063】
図12に示すように、「合計抵抗」について比較した場合、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせと、「ナノ粒子なし」「金属含有CNT」の組み合わせとの間には、その差異が確認されなかった(ともに1.00)。これに対し、「ナノ粒子あり」「純化CNT」の組み合わせでは、僅かに、その「合計抵抗」の値に低下が見られた(0.95)。そして、「ナノ粒子あり」「金属含有CNT」の組み合わせにおいて、より大きな値の低下(0.85)、つまりは電池性能の向上が確認された。
【0064】
また、図13に示すように、「貫通抵抗」を比較した場合にも、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせ(1.00)と、「ナノ粒子なし」「金属含有CNT」の組み合わせ(0.99)との間に大きな差異は確認されなかった。しかしながら、「ナノ粒子あり」「純化CNT」の組み合わせでは、その値の上昇が確認された(1.38)。そして、「ナノ粒子あり」「金属含有CNT」の組み合わせでは、僅かに、その値の低下が確認された(0.95)。
【0065】
同様に、図14に示すように、「直流抵抗」を比較した場合にも、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせ(1.00)と、「ナノ粒子なし」「金属含有CNT」の組み合わせ(0.98)との間に大きな差異は確認されなかった。更に、「ナノ粒子あり」「純化CNT」の組み合わせにおいて、その値の上昇が確認された(1.35)。そして、「ナノ粒子あり」「金属含有CNT」の組み合わせでは、基準となる「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせとの間に大きな差異は確認されなかった(0.99)。
【0066】
即ち、図13及び図14に示す結果は、無機ナノ粒子70と純化カーボンナノチューブCNTm0とが共存する場合、この純化カーボンナノチューブCNTm0が、電極合材50中で適切に導電経路を形成することができないことを示している。そして、この結果は、上記のように、電極活物質60の表面60sに配置された無機ナノ粒子70が、その電極活物質60の表面60sに対する純化カーボンナノチューブCNTm0の接触を妨げていることを示唆する(図7参照)。
【0067】
更に、同じく図13及び図14に示す結果は、無機ナノ粒子70と金属含有カーボンナノチューブCNTmとが共存する場合であっても、この金属含有カーボンナノチューブCNTmが、電極合材50中で適切に導電経路を形成することができることを示している。そして、この結果は、金属含有カーボンナノチューブCNTmを用いた場合、内部に含まれた磁性金属Mが電極活物質60に吸引されるかたちで、その電極活物質60の表面60sに付着しやすくなることを示唆する(図9参照)。
【0068】
また、図15に示すように、「反応抵抗」について比較した場合、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせ(1.00)と、「ナノ粒子なし」「金属含有CNT」の組み合わせ(1.01)との間に大きな差異は確認されなかった。これに対し、「ナノ粒子あり」「純化CNT」の組み合わせ(0.82)、及び「ナノ粒子あり」「金属含有CNT」の組み合わせ(0.81)については、何れも、その値が低下した。つまりは、その電極活物質60の表面60sにおいて、より速やかに電子の授受が行われていることが確認された。
【0069】
<ナノ粒子被覆率及びカーボンナノチューブ中に含まれた磁性金属の含有率>
次に、無機ナノ粒子70とカーボンナノチューブCNTとが共存する環境下において、その無機ナノ粒子70の被覆率及びカーボンナノチューブCNT中に含まれた磁性金属Mの含有率が電池性能に与える影響を測定した。
【0070】
図16及び図17は、それぞれ、電極活物質60の表面60sを被覆する無機ナノ粒子70の被覆率及びカーボンナノチューブCNT中に含まれた磁性金属Mの含有率について、その各値の組み合わせ毎に、電池性能の測定結果を示した表及びグラフである。これらの各図に測定結果を示す性能試験においては、その電池性能として「貫通抵抗」を測定した。また、説明の便宜上、無機ナノ粒子70の被覆率を「ナノ粒子被覆率」と表記し、カーボンナノチューブCNT中に含まれた磁性金属Mの含有率を「CNT中の金属含有率」と表記する。そして、これらの各図中においてもまた、「ナノ粒子なし」「純化CNT」の組み合わせを基準、つまり「ナノ粒子被覆率」及び「CNT中の金属含有率」がともに「0%」である場合において測定された「貫通抵抗」を「1.00」とした場合の「比」を表記する。
【0071】
尚、これらの各図中に測定結果を示す性能試験もまた、上記「ナノ粒子なし」「ナノ粒子あり」「純化CNT」「金属含有CNT」の各組み合わせについての性能試験と略同様の組成を有する電極合材50を用いて実施した。例えば、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの平均長さは「1000nm」であり、平均径は「10nm」である。但し、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量については、乾燥状態で「0.4wt%」とした。また、「ナノ粒子被覆率」については、「0%」「5%」「10%」「15%」の各値を試験条件に設定した。更に、「CNT中の金属含有率」については、「0.00wt%」「0.13wt%」「0.40wt%」「1.20wt%」の各値を試験条件に設定した。そして、これら「ナノ粒子被覆率」及び「CNT中の金属含有率」の各組み合わせ毎に、それぞれ、その性能試験を実施した。
【0072】
また、図17中、波形α0は、「ナノ粒子被覆率」が「0%」の場合の試験結果を示し、波形α5は、同じく「ナノ粒子被覆率」が「5%」の場合の試験結果を示している。そして、波形α10は、「ナノ粒子被覆率」が「10%」の場合の試験結果を示し、波形α15は、同じく「ナノ粒子被覆率」が「15%」の場合の試験結果を示すものとなっている。
【0073】
図16及び図17に示すように、「ナノ粒子被覆率」が「0%」の場合、「CNT中の金属含有率」を変更しても、その「貫通抵抗比」の値に大きな変化は確認されなかった(含有率の少ない順に、1.0→0.99→0.99→1.02)。そして、これにより、「ナノ粒子なし」の条件下では、その「CNT中の金属含有率」が電池性能に影響し難いことが確認された。
【0074】
また、「ナノ粒子被覆率」が「5%」の場合、「CNT中の金属含有率」が「0.00wt%」である場合、即ち「純化CNT」を用いた場合には、その「貫通抵抗比」の値が低下した(1.35)。しかしながら、「CNT中の金属含有率」が「0.13wt%」「0.40wt%」「1.20wt%」である場合には、何れも「ナノ粒子なし」の条件下と同等の試験結果が得られた(含有率の少ない順に、0.99→1.01→0.97)。
【0075】
更に、「ナノ粒子被覆率」が「10%」の場合、「CNT中の金属含有率」が「0.00wt%」「0.13wt%」の場合には、それぞれ、その「貫通抵抗比」の値が低下した(1.89及び1.22)。そして、「CNT中の金属含有率」が「0.40wt%」「1.20wt%」である場合には、何れも「ナノ粒子なし」の条件下と同等の試験結果が得られた(0.98及び1.00)。
【0076】
同様に、「ナノ粒子被覆率」が「15%」の場合、「CNT中の金属含有率」が「0.00wt%」「0.13wt%」の場合には、それぞれ、その「貫通抵抗比」の値が低下した(2.81及び1.61)。そして、「CNT中の金属含有率」が「0.40wt%」「1.20wt%」である場合には、何れも「ナノ粒子なし」の条件下と同等の試験結果が得られた(0.99及び0.99)。
【0077】
以上の結果から、好ましい「CNT中の金属含有率」は、概ね「0.1wt%以上」であると推察される。そして、この「CNT中の金属含有率」は、「0.4wt%以上」であることが、より好ましい。
【0078】
<ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率>
図18及び図19は、それぞれ、「ナノ粒子被覆率」を「CNT中の金属含有率」で除した「比」を、これら「ナノ粒子被覆率」「CNT中の金属含有率」の組み合わせ毎に示す表及びグラフである。尚、図19中、波形β5は、「ナノ粒子被覆率」が「5%」である場合の「比」の値を示している。そして、波形β10は、「ナノ粒子被覆率」が「10%」である場合の「比」の値を示し、波形β15は、同じく「ナノ粒子被覆率」が「15%」である場合の「比」の値を示している。
【0079】
即ち、図18に示すように、「ナノ粒子被覆率」が「5%」である場合、その「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は、「CNT中の金属含有率」が「0.13wt%」である場合に「38.46」となる。そして、この「比」の値は、「0.40wt%」「1.20wt%」「5.00wt%」と、その「CNT中の金属含有率」が増加するに従って小さな値となる(12.50→4.17→1.00)。
【0080】
同様に、「ナノ粒子被覆率」が「10%」である場合、その「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は、「CNT中の金属含有率」が「0.13wt%」である場合に「75.00」となる。そして、この「比」の値は、「CNT中の金属含有率」が「0.40wt%」である場合に「25.00」となり、「1.20wt%」「5.00wt%」と、その「CNT中の金属含有率」が増加するに従って小さな値となる(8.33→2.00)。
【0081】
更に、「ナノ粒子被覆率」が「15%」である場合についてもまた、その「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は、「CNT中の金属含有率」が「0.13wt%」である場合に「112.5」となる。そして、この「比」の値は、「CNT中の金属含有率」が「0.40wt%」である場合に「37.50」となり、「1.20wt%」「5.00wt%」と、その「CNT中の金属含有率」が増加するに従って小さな値となる(12.50→3.00)。
【0082】
即ち、「ナノ粒子被覆率」が「5%」である場合には、「CNT中の金属含有率」が「0.13wt%」よりも大きい領域において、「ナノ粒子なし」と同等の電池性能が得られる(図16及び図17参照)。そして、この場合における「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は「38.5以下」である。
【0083】
また、「ナノ粒子被覆率」が「10%」「15%」である場合には、それぞれ、「CNT中の金属含有率」が「0.40wt%」よりも大きい領域において、「ナノ粒子なし」の場合と同等の電池性能が得られる。そして、これらの場合における「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は、それぞれ、「25.0以下」「37.5以下」である。
【0084】
以上の結果から、「ナノ粒子被覆率/CNT中の金属含有率」の値は、概ね「38.5以下」であることが好ましいと推察される。また、この「比」の値は、「37.5以下」とすることが、より好ましい。そして、より好ましくは、「25.0以下」に設定するとよい。
【0085】
<多層CNT及び単層CNT>
図20及び図21は、カーボンナノチューブCNTに「多層カーボンナノチューブ(MW-CNT)」を用いた場合において、その電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量と電池性能との関係を示す表及びグラフである。
【0086】
また、図22及び図23は、カーボンナノチューブCNTに「単層カーボンナノチューブ(SW-CNT)」を用いた場合において、その電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量と電池性能との関係を示す表及びグラフである。
【0087】
尚、これらの各図中に示すカーボンナノチューブCNTの含有量は、乾燥状態の電極合材50における重量パーセントである。また、これらの各図に測定結果を示す性能試験においては、その電池性能として「貫通抵抗」を測定した。更に、説明の便宜上、「多層カーボンナノチューブ」を「多層CNT」、「単層カーボンナノチューブ」を「単層CNT」と表記し、電極合材50中に含まれるカーボンナノチューブCNTの含有量を「CNT含有量」と表記する。そして、これらの各図中には、その「CNT含有量」が「0.40wt%」である場合において測定された「貫通抵抗」を「1.00」とした場合の「比」を表記する。
【0088】
図20及び図21に示すように、「多層CNT」を用いた場合、「CNT含有量」を増加させることにより、その「CNT含有量」が多いほど、より大きく「貫通抵抗比」が低下した。具体的には、その「CNT含有量」を、基準となる「0.40wt%」よりも高い「0.60wt%」「0.80wt%」「2.40wt%」に設定した場合における「貫通抵抗比」の各値は、それぞれ、「0.50」「0.45」「0.12」となった。そして、その「CNT含有量」を、この「0.40wt%」よりも低い「0.30wt%」に設定した場合には、その「貫通抵抗比」の値が「12.56」まで大きく上昇した。従って、以上の結果より、「多層CNT」を用いた場合における「CNT含有量」は、「0.40wt%以上」に設定することが好ましいと推察される。
【0089】
また、図22及び図23に示すように、「単層CNT」を用いた場合もまた、「CNT含有量」を増加させることにより、その「CNT含有量」が多いほど、より大きく「貫通抵抗比」が低下した。具体的には、「CNT含有量」を「0.04wt%」に設定した場合に、その基準となる「貫通抵抗比」の値(1.00)に最も近い「0.87」が得られた。そして、その「CNT含有量」を、この「0.04wt%」よりも高い「0.08wt%」「0.16wt%」「0.20wt%」に設定した場合における「貫通抵抗比」の各値は、それぞれ、「0.62」「0.30」「0.22」となった。そして、その「CNT含有量」を、この「0.04wt%」よりも低い「0.02wt%」に設定した場合には、その「貫通抵抗比」の値が「13.18」まで大きく上昇した。従って、以上の結果により、「単層CNT」を用いた場合における「CNT含有量」は、「0.02wt%以上」に設定することが好ましいと推察される。
【符号の説明】
【0090】
50…電極合材
51…導電性繊維状炭素材
60…電極活物質
60s…表面
70…無機ナノ粒子
M…磁性金属
図1
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