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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062660
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】多回転角度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G01D5/245 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170648
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寳田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】染谷 雅行
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA27
2F077AA30
2F077CC09
2F077NN02
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP13
2F077QQ17
2F077TT66
2F077TT71
2F077TT87
(57)【要約】
【課題】小型化および低コスト化に有利な多回転角度検出装置を提供する。
【解決手段】多回転角度検出装置100は、回転軸30の1回転周期をに区分したセグメントを回転軸の1回転を越える角度領域でカウントするセグメントカウンタ2と、回転軸の1回転周期内のアブソリュート角度検出値を生成する精密アブソリュート角度検出器1と、それらの出力を統合して、多回転アブソリュート角度検出値を生成する演算装置4とを含む。セグメントカウンタは、一つの発電センサ20と、磁界発生源50と、センサ要素MSと、カウント値を記憶する不揮発性メモリ9とを含む。磁界発生源は、回転軸の1回転あたりk周期(kは3以上の整数)の交番磁界を磁性ワイヤの軸方向に与える。演算装置は、外部からの電源供給を受けたときに、不揮発性メモリに記憶されているカウント値をそのまま用いて、精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値と統合する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線まわりに回転する回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する多回転角度検出装置であって、
前記回転体の回転に応じて、前記回転体の1回転周期を区分したセグメントを前記回転体の1回転を越える角度領域でカウントしてカウント値を生成するセグメントカウンタと、
外部からの電源供給により動作し、前記回転体の1回転周期内のアブソリュート角度検出値を前記セグメントよりも高い分解能で生成する精密アブソリュート角度検出器と、
外部からの電源供給により動作し、前記セグメントカウンタのカウント値と、前記精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値とを統合して、前記回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する演算装置と、を含み、
前記セグメントカウンタは、一つの発電センサと、前記回転体とともに前記回転軸線まわりに回転する磁界発生源と、前記発電センサとは別のセンサ要素と、前記カウント値を記憶する不揮発性メモリと、を含み、
前記発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを有し、前記磁界発生源の回転にともなう磁界の変化によりパルス電圧を発生し、
前記磁界発生源は、前記回転体の1回転あたりk周期(kは3以上の整数)の交番磁界を前記磁性ワイヤの軸方向に与え、
前記セグメントカウンタは、外部からの電源供給を受けることなく、前記発電センサが発生するパルス電圧のエネルギーによって動作可能であり、前記発電センサが発生するパルス電圧と前記センサ要素の出力信号とを用いて、前記回転体の回転方向および回転位置を識別して前記カウント値を更新して前記不揮発性メモリに保存し、
前記演算装置は、外部からの電源供給を受けたときに、前記不揮発性メモリに記憶されている前記カウント値をそのまま用いて、前記セグメントカウンタの前記カウント値と前記精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値とを統合して、前記回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する、多回転角度検出装置。
【請求項2】
前記磁界発生源は、前記回転軸線を中心とする円周上に、同じ極性の磁極を前記発電センサに向けて配列されたk個の磁石を含み、
前記発電センサの前記磁性ワイヤは、前記円周の接線に平行に配置されており、
前記発電センサは、前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された第1磁束伝導片および第2磁束伝導片を有し、
前記磁界発生源の回転に伴って、前記磁極が、前記第1磁束伝導片および第2磁束伝導片に順に接近し、
前記発電センサは、前記磁界発生源の前記磁極からの磁束が前記第1磁束伝導片から電動される第1状態で負の電圧パルスを生成し、前記磁界発生源からの磁束が前記第2磁束伝導片から伝導される第2状態で正の電圧パルスを生成する、請求項1に記載の多回転角度検出装置。
【請求項3】
前記センサ要素は、前記磁界発生源の磁極が前記発電センサの中央部に対向する位置に存在するかしないかを検出し、前記セグメントの境界は、前記磁極が前記発電センサの中央部に対向する角度位置である、請求項1または2に記載の多回転角度検出装置。
【請求項4】
前記磁界発生源は、前記回転軸線を中心とする円周上にN極およびS極を交互に配列したk個の磁極対を含む、請求項1に記載の多回転角度検出装置。
【請求項5】
前記発電センサの前記磁性ワイヤは、前記回転軸線を中心とする円周の接線上にあり、前記磁性ワイヤの中心は前記接線の接点上にある、請求項4に記載の多回転角度検出装置。
【請求項6】
前記センサ要素は、前記発電センサの中央部に対向する磁極の極性を検出し、前記セグメントの境界は、前記磁極対のN極およびS極のうちのいずれか一方が前記発電センサの中央部に対向する角度位置である、請求項4または5に記載の多回転角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発電センサを用いた多回転角度検出装置に関する。さらに詳しくは、この発明は、発電センサを用いたセグメントカウンタのカウント値と、1回転周期のアブソリュート角度を精密に検出する角度検出器から得らえる角度検出値とを統合し、1回転を超える多回転アブソリュート角度を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大バルクハウゼン効果(大バルクハウゼンジャンプ)を有する磁性ワイヤは、ウィーガンドワイヤまたはパルスワイヤの名で知られている。この磁性ワイヤは、芯部とその芯部を取り囲むように設けられた表皮部とを備えている。芯部および表皮部の一方は弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(軟磁性)層であり、芯部および表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(硬磁性)層である。このような磁性ワイヤにコイルを巻回することにより、発電センサを構成することができる。
【0003】
ハード層とソフト層とがワイヤの軸方向に沿って同じ向きに磁化されているときに、その磁化方向とは反対方向の外部磁界強度が増加して或る磁界強度に達すると、ソフト層の磁化方向が反転する。この磁化方向の反転は、磁性ワイヤの或る部分を開始位置としてワイヤ全体に伝播し、ソフト層の磁化方向が一斉に反転する。このとき、大バルクハウゼン効果が発現し、磁性ワイヤに巻かれたコイルにパルス信号が誘発される。上述の外部磁界強度がさらに増加し、或る磁界強度に達すると、ハード層の磁化方向が反転する。
【0004】
この明細書では、ソフト層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「動作磁界」といい、ハード層の磁化方向が反転するときの磁界強度を「安定化磁界」という。
【0005】
コイルから得られる出力電圧は、入力磁界(外部磁界)の変化スピードにかかわらず一定であり、入力磁界に対するヒステリシス特性を持つためチャタリングがない、などの特徴を有する。そのため、コイルから生成されるパルス信号は、位置検出装置などに使用される。
【0006】
発電センサに交番磁界が与えられた場合、1周期に対して正パルス信号1つおよび負パルス信号1つの計2つのパルス信号が発生する。磁界の発生源として磁石を使い、磁石と発電センサとの相対的な運動により発電センサに交番磁界が加わるようにし、発生するパルス信号をカウントすることで位置を検出できる。
【0007】
コイルからの出力は電力を持つため、外部電力の供給を要しない発電型のセンサ(発電センサ)を構成できる。すなわち、外部電力の供給なしに、コイルの出力エネルギーにより、周辺回路も動作させることができる。
【0008】
アブソリュートエンコーダ等の角度センサは、本質的に、1回転を超える角度の検出はできない。電源が供給されている状態においては移動量を積算すれば1回転以上の角度の検出ができるが、電源が遮断されると1回転以上の情報は失われる。
【0009】
一方、発電センサを利用したセグメントカウンタは、外部電源が遮断された状態においても、コイルの出力エネルギーを利用できるので、カウントを継続でき、1回転以上の多回転の検出ができる。しかし、一般的に発電センサを使ったセグメントカウンタは、粗い角度しか検出できない。したがって、モータ制御に使う場合など、精密な角度検出が必要な場合は、セグメントカウンタのカウント値と、別に設けた精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを統合し、多回転に渡る精密角度検出値(多回転アブソリュート角度検出値)を利用する。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、セグメントカウンタのカウント値と、精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを統合する方法および装置を開示している。
【0011】
特許文献1は、3つ発電センサを60度ずつの位相差の位置に配置したセグメントカウンタを用いている。
【0012】
1つの発電センサの出力のみでは、運動の方向が変化した場合に運動方向を識別できない。そこで、複数の発電センサを用いて、各発電センサの出力の位相差を使えば運動方向を識別することができる。
【0013】
発電センサがパルス電圧を出力するためには、磁性ワイヤのハード層およびソフト層の磁化方向が一致している状態から、ソフト層のみの磁化方向が反転することが必要である。ハード層およびソフト層の磁化方向が不一致の状態で、ソフト層のみの磁化方向が反転したとしても、パルス信号は生じないか、あるいは生じたとしても非常に小さい。
【0014】
一方向への回転が続くとき、動作磁界に達してパルス電圧が出力された後、次に再び動作磁界に達するよりも前に、安定化磁界に到達するタイミングが存在する。したがって、動作磁界に達する角度位置で、必ず、パルス電圧が発生する。
【0015】
しかし、双方向に回転する場合、すなわち、回転方向が切り替わる場合には、動作磁界に達してもパルス電圧が出力されず、いわゆるパルス抜けが発生することがある。具体的には、動作磁界に達してパルス電圧が出力された後、安定化磁界に到達するよりも前に、回転方向が反転すると、再び動作磁界に到達しても、ハード層およびソフト層の磁化方向が不一致の状態であるので、パルス電圧は出力されない。
【0016】
位相差の異なる位置に複数の発電センサを配置し、それらの出力パルスの位相差を用いることによって、回転方向を識別することができる。しかし、2つの発電センサを用いても、それらの一方でパルス抜けが生じれば、回転方向を識別することができない。したがって、特許文献1に開示されているように、3つの発電センサを用いる必要がある。特許文献1では、さらに、セグメントカウンタのカウント値と精密位置検出器の検出値とを統合し、かつ原点位置のずれを補正するために、3つの発電センサを60度ずつの位相差の位置に配置している。
【0017】
ところが、複数の発電センサを用いると、位置検出器のサイズおよびコストの増加につながる。
【0018】
特許文献2は、一つの発電センサのパルス信号と、発電センサではない別のセンサ要素の出力信号とを信号処理することで回転方向を判別し、それに応じてカウント動作するセグメントカウンタを開示している。この場合でも、前述のパルス抜けが生じれば、セグメントカウンタのカウント値と精密位置検出器の検出値とを統合するときに不都合がある。そこで、特許文献2では、発電センサの磁性ワイヤの磁化状態をモニタし、その磁化状態に応じて、欠落したパルス電圧の分、セグメントカウンタの値を補正している。それにより、セグメントカウンタのカウント値と精密位置検出器の検出値との同期をとり、それらを統合している。
【0019】
特許文献2に開示されている磁化状態のモニタは、具体的には、発電センサのコイルに徐々に増加する電流を流して、コイルが発生する磁界を磁性ワイヤにかける。それによって、磁性ワイヤの磁化方向が反転するかしないかを、コイルの両端に発生する電圧を観測してモニタする。これにより、磁性ワイヤの磁化状態を調べることができる。
【0020】
しかし、特許文献2のような磁性ワイヤの磁化方向判別およびそれに基づくカウント値の補正のためには、複雑な信号処理が必要であり、それに応じて、装置の小型化やコスト削減が難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第6226811号
【特許文献2】特許第5730809号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
この発明の一実施形態は、装置の小型化および低コスト化に有利な多回転角度検出装置を提供する。
【0023】
より具体的には、この発明の一実施形態は、複数の発電センサを用いることなく構成されたセグメントカウンタのカウント値と、精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを、複雑な信号処理を要することなく統合して多回転アブソリュート角度検出値を生成できる多回転角度検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明の一実施形態は、回転軸線まわりに回転する回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する多回転角度検出装置を提供する。多回転角度検出装置は、前記回転体の回転に応じて、前記回転体の1回転周期を区分(典型的には等分)したセグメントを前記回転体の1回転を越える角度領域でカウントしてカウント値を生成するセグメントカウンタと、外部からの電源供給により動作し、前記回転体の1回転周期内のアブソリュート角度検出値を前記セグメントよりも高い分解能で生成する精密アブソリュート角度検出器と、外部からの電源供給により動作し、前記セグメントカウンタのカウント値と、前記精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値とを統合して、前記回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する演算装置と、を含む。前記セグメントカウンタは、一つ(ただ一つ)の発電センサと、前記回転体とともに前記回転軸線まわりに回転する磁界発生源と、前記発電センサとは別のセンサ要素(典型的には発電センサ以外のセンサ要素)と、前記カウント値を記憶する不揮発性メモリと、を含む。前記発電センサは、大バルクハウゼン効果を発現する磁性ワイヤと、前記磁性ワイヤに巻回されたコイルとを有し、前記磁界発生源の回転にともなう磁界の変化によりパルス電圧を発生する。前記磁界発生源は、前記回転体の1回転あたりk周期(kは3以上の整数)の交番磁界を前記磁性ワイヤの軸方向に与える。前記セグメントカウンタは、外部からの電源供給を受けることなく、前記発電センサが発生するパルス電圧のエネルギーによって動作可能であり、前記発電センサが発生するパルス電圧と前記センサ要素の出力信号とを用いて、前記回転体の回転方向および回転位置を識別して前記カウント値を更新して前記不揮発性メモリに保存する。前記演算装置は、外部からの電源供給を受けたときに、前記不揮発性メモリに記憶されている前記カウント値をそのまま用いて(すなわち、前記セグメントカウンタの前記カウント値を補正する補正処理を行うことなく)、前記セグメントカウンタの前記カウント値と前記精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値とを統合して、前記回転体の多回転アブソリュート角度検出値を生成する。
【0025】
この構成によれば、磁界発生源が1回転あたりk周期の交番磁界を磁性ワイヤの軸方向に与えることにより、発電センサは、1回転あたり2k個のパルス電圧を発生する。k≧3であるので、1回転あたり3周期以上の交番磁界が磁性ワイヤに与えられ、磁性ワイヤは、1回転あたり6個以上のパルス電圧を生成する。セグメントカウンタは、たとえば、1回転周期をk個以上(たとえばk個または2k個)、すなわち3個以上に区分したセグメントを計数したカウント値を生成することができる。回転方向の反転によってパルス抜けが生じ、それに応じて、カウント誤差が生じても、1回転以上の角度範囲に渡って同じカウント値となるほどの誤差は生じない。このようにして、1回転あたり3周期以上の交番磁界が磁性ワイヤに与えられ、磁性ワイヤが1回転あたり6個以上のパルス電圧を生成することにより、任意の多回転アブソリュート角度において、セグメントカウンタのカウント値と精密アブソリュート角度検出器のアブソリュート角度検出値との組み合わせから、精密な多回転アブソリュート角度値を一意に求めることができる。すなわち、セグメントカウンタのカウント値が誤差を含む場合でも、そのカウント値に対して補正処理を行うことなく(すなわち、そのカウント値をそのまま用いて)、精密アブソリュート角度検出器の角度検出値と統合することができる。
【0026】
こうして、ただ一つの発電センサを用い、しかも磁性ワイヤの磁化方向判別処理やそれに基づく補正/同期処理を行うことなく、セグメントカウンタのカウント値と精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを統合して、精密な多回転アブソリュート角度検出値を生成できる。
【0027】
この発明の一実施形態では、前記磁界発生源は、前記回転軸線を中心とする円周上に、同じ極性の磁極を前記発電センサに向けて配列されたk個の磁石を含む。前記発電センサの前記磁性ワイヤは、前記円周の接線に平行に配置されている。前記発電センサは、前記磁性ワイヤの両端部にそれぞれ磁気的に結合された第1磁束伝導片および第2磁束伝導片を有する。前記磁界発生源の回転に伴って、前記磁極が、前記第1磁束伝導片および第2磁束伝導片に順に接近する。前記発電センサは、前記磁界発生源の前記磁極からの磁束が前記第1磁束伝導片から伝導される第1状態で負の電圧パルスを生成し、前記磁界発生源からの磁束が前記第2磁束伝導片から伝導される第2状態で正の電圧パルスを生成する。
【0028】
この実施形態において、典型的には、前記k個の磁石の同じ極性の磁極が通る前記回転軸線まわりの円周軌道上には、他の極性の磁極は配置されていない。したがって、回転体の一方向への回転にともなって、同じ極性の磁極が発電センサに順に対向し、前記第1の状態および第2状態が交互に繰り返される。
【0029】
この構成によれば、磁界発生源を構成するk個の磁石は、同じ極性の磁極を発電センサに向けて配列されている。たとえば、磁性ワイヤのソフト層およびハード層が第2磁束伝導片から第1磁束伝導片に向かう方向に磁化されたセット状態(負パルス生成のためのセット状態)で、回転体とともに磁界発生源が回転し、磁極が第1磁束伝導片に接近する場合を考える。その磁極からの磁束が第1磁束伝導片から伝導されることで、磁性ワイヤのソフト層の磁化方向が反転し、負のパルスが発生する。その磁極が第1磁束伝導片にさらに接近すると、ハード層の磁化方向も反転し、磁性ワイヤは正パルス生成のためのセット状態になる。磁界発生源がさらに回転して、当該磁極が第2磁束伝導片に接近すると、その磁極からの磁束が第2磁束伝導片から伝導される。それにより、磁性ワイヤのソフト層の磁化方向が反転し、正のパルスが発生する。その磁極が第2磁束伝導片にさらに接近すると、ハード層の磁化方向も反転し、磁性ワイヤは負パルス生成のためのセット状態となる。こうして、一つの磁極が発電センサの検出領域を通過することで、2つのパルスが生成される。
【0030】
この発明の一実施形態では、前記センサ要素は、前記磁界発生源の磁極が前記発電センサの中央部に対向する位置に存在するかしないかを検出し、前記セグメントの境界は、前記磁極が前記発電センサの中央部に対向する角度位置である。
【0031】
セグメントの境界とは、セグメントカウンタのカウント値が変化する境界である。
【0032】
磁界発生源の磁極が発電センサの中央部に対向するかどうかをセンサ要素によって検出することにより、センサ要素および発電センサの出力に基づいて、回転位置および回転方向の識別が可能になる。
【0033】
この発明の一実施形態では、前記磁界発生源は、前記回転軸線を中心とする円周上にN極およびS極を交互に配列したk個の磁極対を含む。
【0034】
たとえば、初期状態として、磁性ワイヤのソフト層およびハード層が第2磁束伝導片から第1磁束伝導片に向かう方向に磁化されたセット状態(負パルス生成のためのセット状態)で、一つのS極が発電センサの中央部に対向し、そのS極の両側の一対のN極からの磁束がバランスしている状態を考える。この初期状態から、回転体とともに磁界発生源が少し回転すると、磁性ワイヤの第1磁束伝導片側端から第2磁束伝導片側端へ向かう磁束が増加することで、動作磁界に到達し、磁性ワイヤのソフト層の磁化方向が反転し、負のパルスが発生する。回転体とともに磁界発生源がさらに回転すると、磁性ワイヤの第1磁束伝導片側端から第2磁束伝導片側端に向かう磁束がさらに増加して安定化磁界に達し、ハード層の磁化方向も反転し、磁性ワイヤは正パルス生成のためのセット状態になる。磁界発生源がさらに回転すると、磁性ワイヤの第2磁束伝導片側端から第1磁束伝導片側端に向かう磁束が増加し、動作磁界に達して、磁性ワイヤのソフト層の磁化方向が反転し、正のパルスが発生する。磁界発生源がさらに回転すると、磁性ワイヤの第2磁束伝導片側端から第1磁束伝導片側端に向かう磁束がさらに増加して安定化磁界に達し、ハード層の磁化方向も反転し、磁性ワイヤは負パルス生成のためのセット状態となる。こうして、一つの磁極対が発電センサの検出領域を通過することで、2つのパルスが生成される。
【0035】
この発明の一実施形態では、前記発電センサの前記磁性ワイヤは、前記回転軸線を中心とする円周の接線上にあり、前記磁性ワイヤの中心は前記接線の接点上にある。
【0036】
この発明の一実施形態では、前記センサ要素は、前記発電センサの中央部に対向する磁極の極性を検出し、前記セグメントの境界は、前記磁極対のN極およびS極のうちのいずれか一方が前記発電センサの中央部に対向する角度位置である。
【0037】
発電センサの中央部に対向する磁極の極性をセンサ要素によって検出することにより、センサ要素および発電センサの出力に基づいて、回転位置および回転方向の識別が可能になる。
【発明の効果】
【0038】
この発明によれば、複数の発電センサを用いることなく構成されたセグメントカウンタのカウント値と、精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを、複雑な信号処理を要することなく統合して多回転アブソリュート角度検出値を生成できる。それにより、小型化および低コスト化に有利な多回転角度検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る多回転角度検出装置の構成例を説明するためのブロック図である。
図2A-2C】図2Aはセグメントカウンタの構造例を説明するための斜視図であり、図2Bはその平面図である。また、図2Cは、図2Bの矢印IIC方向に見た正面図である。
図3A-3C】図3A図3Bおよび図3Cは、発電センサの作用を説明するための図である。
図3D-3F】図3D図3Eおよび図3Fは、発電センサの作用を説明するための図である。
図4図4は、セグメントカウンタのカウント動作を説明するための図である。
図5図5は、セグメントカウンタのより詳細なカウント動作の例を説明するためのテーブルである。
図6図6は、パルス抜けによるカウント値への影響を説明するための図である。
図7図7は、セグメントカウンタのカウント値と精密アブソリュート角度検出器の角度検出値との関係を示す。
図8図8は、セグメントカウンタのカウント値と精密アブソリュート角度検出器の角度検出値とを統合した精密多回転アブソリュート角度検出値を示す。
図9A-9B】図9Aはこの発明の他の実施形態に係るセグメントカウンタの構成例を説明するための斜視図であり、図9Bはその平面図である。
図10A-10C】図10A図10Bおよび図10Cは、発電センサの作用を説明するための図である。
図10D-10F】図10D図10Eおよび図10Fは、発電センサの作用を説明するための図である。
図11図11は、セグメントカウンタのカウント動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
図1は、この発明の一実施形態に係る多回転角度検出装置の構成例を説明するためのブロック図である。多回転角度検出装置100は、回転軸線33まわりに回転する回転軸30(回転体の一例)の多回転アブソリュート角度を検出し、その検出値である多回転アブソリュート角度検出値を生成する装置である。多回転アブソリュート角度とは、1回転を越える、すなわち多回転に渡る角度領域内での絶対的な角度をいう。多回転角度検出装置100は、精密アブソリュート角度検出器1と、セグメントカウンタ2と、演算装置4とを含む。
【0042】
精密アブソリュート角度検出器1は、回転軸30の1回転周期内、すなわち、0度~360度の精密なアブソリュート角度検出値を、次に説明するセグメントカウンタ2よりも高い分解能で生成する角度センサである。精密アブソリュート角度検出器1は、たとえば光学式アブソリュートエンコーダで構成されている。精密アブソリュート角度検出器1は、たとえば、1回転周期内(0度~360度)の角度領域のアブソリュート角度検出値を、16ビット(65336段階)の分解能で生成するように構成されている。
【0043】
精密アブソリュート角度検出器1は、典型的には、外部電源からの電力供給を受けて動作する。具体的には、多回転角度検出装置100は、外部電源に接続可能な電源回路3を備えている。電源回路3は、外部電源に接続されているときに、精密アブソリュート角度検出器1に電力を供給し、その電力を受けて、精密アブソリュート角度検出器1が動作する。精密アブソリュート角度検出器1は、たとえばシリアル通信によって、演算装置4に16ビットのアブソリュート角度検出値を入力する。
【0044】
セグメントカウンタ2は、回転軸30の回転に応じて、回転軸30の1回転周期を区分(等分)したセグメントをカウントし、回転軸30の多回転に渡る(1回転を越える)角度領域でのセグメント単位の角度値を表すカウント値を生成する。
【0045】
セグメントカウンタ2は、一つ(ただ一つ)の発電センサ20と、回転軸30とともに回転軸線33まわりに回転する磁界発生源50と、発電センサ20とは別の(発電センサではない)センサ要素MSと、カウンタ回路8と、カウント値を記憶する不揮発性メモリ9とを含む。不揮発性メモリ9は、FeRAM(ferroelectric random access memory)で構成されていてもよい。カウンタ回路8および不揮発性メモリ9は、この実施形態では、一つのカウンタメモリIC(集積回路)10に組み込まれている。セグメントカウンタ2は、さらに、信号評価回路5と、整流/電源回路6と、信号処理回路7とを含む。
【0046】
発電センサ20は、磁界発生源50の回転に伴う磁界の変化に応じてパルス電圧を発生する。センサ要素MSは、この実施形態では、磁界発生源50の回転に応じて、磁界発生源50の磁界を検出する磁気センサである。磁気センサの一例は、ホールICである。信号評価回路5は、発電センサ20が発生するパルス電圧の極性を判別し、その極性判別の結果を表す信号(パルス極性PP)を信号処理回路7に供給する。信号処理回路7は、信号評価回路5から受け取った極性判別の結果を表す信号をディジタルデータ(シリアル信号)に変換して、極性判別データ(パルス極性PP)としてカウンタ回路8に供給する。また、信号処理回路7は、センサ要素MSの出力信号をディジタルデータ(シリアル信号)に変換して、磁気検出データとしてカウンタ回路8に供給する。
【0047】
整流/電源回路6は、発電センサ20が発生するパルス電圧を整流し、適切な電圧に変換して、信号評価回路5、信号処理回路7およびカウンタメモリIC10(カウンタ回路8および不揮発性メモリ9)に供給する。したがって、信号評価回路5、信号処理回路7およびカウンタメモリIC10(カウンタ回路8および不揮発性メモリ9)は、外部電源からの電力供給を受けることなく動作することができる。つまり、セグメントカウンタ2は、外部電源供給がないときでも、自己発電により生成される電力によって作動する。カウンタメモリIC10は、電源回路3が外部電源に接続されているときには、電源回路3からの電力供給を受けて動作することができる。
【0048】
カウンタメモリIC10に内蔵されたカウンタ回路8は、信号処理回路7から供給される極性判別データ(パルス極性PP)および磁気検出データ(MS)に基づいて、所定のカウントロジックに従って、カウント動作を実行する。このカウント動作は、電源回路3からの外部電源の供給の有無にかかわらず実行される。そのカウント動作によって得られるカウント値は、不揮発性メモリ9に格納される。このカウント値は、電源供給がないときにも保存される(不揮発記憶)。カウンタメモリIC10は、外部電源が供給されているときに、不揮発性メモリ9に記憶しているカウント値をシリアル通信によって演算装置4に供給することができる。
【0049】
演算装置4は、電源回路3が外部電源に接続されているときに、電源回路3からの電力供給を受けて動作する。演算装置4は、外部電源が投入されると、精密アブソリュート角度検出器1に精密アブソリュート角度検出値をリクエストし、かつ不揮発性メモリ9にカウント値をリクエストする。精密アブソリュート角度検出器1は、シリアル通信によって、精密アブソリュート角度検出値を演算装置4に供給する。不揮発性メモリ9は、シリアル通信によって、カウント値を演算装置4に供給する。演算装置4は、精密アブソリュート角度検出値およびカウント値を統合して多回転アブソリュート角度検出値を生成して出力する。演算装置4が出力する多回転アブソリュート角度検出値は、たとえば、上位のコントローラ(図示せず)に供給され、電動モータの回転制御等のために用いられる。
【0050】
演算装置4は、不揮発性メモリ9から供給されるカウント値をそのまま用いて精密アブソリュート角度検出値と統合する。すなわち、統合に際して使用されるカウント値は、電源遮断中にセグメントカウンタ2においてカウントされたままの値であり、演算装置4は、カウント値の誤差に関する補正処理、具体的には、カウント値の誤差を補正して精密アブソリュート角度検出値との同期をとるための同期処理などは行わない。
【0051】
図2Aはセグメントカウンタ2の構造例を説明するための斜視図であり、図2Bはその平面図である。また、図2Cは、図2Bの矢印IIC方向に見た正面図である。セグメントカウンタ2は、発電センサ20と、磁界発生源50と、センサ要素MS(たとえば磁気センサ)とを含む。
【0052】
発電センサ20は、第1の支持体31に配置され、当該第1の支持体31に支持されている。この実施形態では、第1の支持体31に、センサ要素MSも搭載されている。
【0053】
磁界発生源50は、第2の支持体32に固定されている。第2の支持体32は、第1の支持体31に対して相対移動する。具体的には、第2の支持体32は、回転軸30に結合(固定)されており、回転軸30とともに回転軸線33まわりに回転する。したがって、第2の支持体32は、回転体の一部であり得る。それに対して、第1の支持体31は、固定配置されていて、非回転状態に保持されている。それにより、磁界発生源50は、第2の支持体32とともに回転軸線33まわりに回転して、第1の支持体31に対して相対移動する。
【0054】
回転軸30は、典型的には、電動モータ(図示せず)の駆動軸からの駆動力によって回転される。電動モータが双方向に駆動される場合には、それに応じて、回転軸30は反時計回り方向CCWおよび時計回り方向CWの双方向に回転する。第1の支持体31は、回転軸線33に直交する平面に沿って配置されたプリント配線基板であってもよい。
【0055】
磁界発生源50は、回転軸線33から離れた位置に配置されたk個(kは3以上の整数。この実施形態ではk=3)の磁石M1,M2,…,Mkを含む。磁石M1,M2,…,Mkは、第2の支持体32の回転軸線33まわりの回転運動によって、発電センサ20の検出領域SRに順に進入するように第2の支持体32に固定されている。磁石M1,M2,…,Mkは、検出領域SRにおいて、発電センサ20に同じ極性の磁極n1,n2,…,nk(この例ではN極)が対向するように着磁されている。磁極n1,n2,…,nkは、回転軸線33まわりの円周軌道51に沿って移動する。この円周軌道51が検出領域SRを通るように発電センサ20と磁界発生源50との配置が定められている。磁極n1,n2,…,nkは、円周軌道51上で等間隔に配置されている。
【0056】
発電センサ20は、第1の支持体31(プリント配線基板)の一方主面に実装されている。発電センサ20は、磁性ワイヤFEと、磁性ワイヤFEの両端部にそれぞれ磁気的に結合された第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2とを備えている。第1磁束伝導片FL1と第2磁束伝導片FL2との間で、磁性ワイヤFEにコイルSP(誘導コイル)が巻回されている。第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2は、実質的に同形同大の軟磁性体部品からなる。より詳細には、第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2は、磁性ワイヤFEの軸中心位置25(以下「軸中心位置25」という。)において軸方向xに直交する対称面27(幾何学的配置を説明するための仮想的な平面)に対して互いに対称に構成されている。
【0057】
磁性ワイヤFEは、大バルクハウゼン効果を発現するように構成されている。具体的には、磁性ワイヤFEは、芯部と、それを被覆する表皮部とを有している。芯部および表皮部の一方は、弱い磁界でも磁化方向の反転が起きるソフト(Soft)層(軟磁性層)であり、芯部および表皮部の他方は強い磁界を与えないと磁化方向が反転しないハード(Hard)層(硬磁性層)である。
【0058】
各磁束伝導片FL1,FL2は、検出領域SRに対向する磁束伝導端21,22を有している。磁性ワイヤFEは、一対の磁束伝導端21,22の間における円周軌道51上の点(接点)における接線と平行に軸方向xを設定し、かつ当該接点において当該接線に立てた垂線上に軸方向xの中心位置25(以下「軸中心位置25」という。)を設定して配置されている。コイルSPは、磁石M1,M2,…,Mkの磁極n1,n2,…,nkからの磁束が第1磁束伝導片FL1から伝導される第1状態で負の電圧パルスを生成し、磁石M1,M2,…,Mkの磁極n1,n2,…,nkからの磁束が第2磁束伝導片FL2から伝導される第2状態で正の電圧パルスを生成する。
【0059】
第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2は、この実施形態では、磁性ワイヤFEの両端部から軸方向xに直交する方向に互いに平行に延びる軸直交部41と、軸直交部41の先端部から軸方向xに沿って互いに接近する方向に延びる軸平行部42とを備えている。第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の軸直交部41の基端部に、磁性ワイヤFEの両端部がそれぞれ固定されている。より具体的には、軸直交部41の基端部には、軸方向xに貫通する穴または溝が形成されたワイヤ配置部23が設けられている。磁性ワイヤFEの両端部は、ワイヤ配置部23において、第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の軸直交部41をそれぞれ貫通して、軸直交部41に固定されている。たとえば、ワイヤ配置部23を構成する穴または溝に配置された樹脂(図示せず)によって、磁性ワイヤFEと第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2とが互いに結合されて固定されている。それにより、磁性ワイヤFEの両端部は、第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2にそれぞれ磁気的に結合されている。
【0060】
発電センサ20は、軸平行部42に対して磁性ワイヤFEとは反対側を、磁界を検出するための検出領域SRとするように構成されている。
【0061】
軟磁性体部品からなる各磁束伝導片FL1,FL2は、略直方体形状の軸直交部41と、軸直交部41の検出領域SR側の端部である先端部に連設された略直方体形状の軸平行部42とを有し、軸直交部41と軸平行部42との結合部で直角に曲がったL字形状を有している。軸平行部42は、磁性ワイヤFEを覆うように、すなわち、磁性ワイヤFEと検出領域SRとの間を遮蔽するように、軸方向xに沿って延びている。互いに対称な形状を有する第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2は、磁性ワイヤFEの軸中央側に向かって延びており、それらの近接端42aは、磁性ワイヤFEの軸中心位置25の付近で間隔を空けて互いに対向している。近接端42aは、軸方向xに直交する平面をなしており、2つの近接端42aをそれぞれ形成する2つの平面は互いに平行であり、それらが軸方向xに対峙している。
【0062】
第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の軸平行部42は、検出領域SRに対向する検出領域対向面を成す磁束伝導端21,22を形成している。磁束伝導端21,22(検出領域対向面)は、軸方向xに平行な平坦面である。この磁束伝導端21,22(検出領域対向面)は、検出領域SRに磁極が配置されたときに、その磁極からの磁束を第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の内部へと導く。
【0063】
第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の軸平行部42が第1の支持体31(プリント配線板)の一方の主面に形成された配線パターン(図示せず)に接合され、それによって、発電センサ20が第1の支持体31(プリント配線板)に面実装されている。発電センサ20は、回転軸線33を中心軸とする円周上の一つの点(接点)における接線に磁性ワイヤFEの軸方向xが沿うように配置されており、磁性ワイヤFEの軸中心位置25が当該接点に一致する配置となっている。発電センサ20の検出領域SRは、軸平行部42に対して磁性ワイヤFEとは反対側であり、この例では、第1の支持体31(プリント配線板)の他方の主面側の領域である。
【0064】
磁界発生源50を構成するk個の磁石M1,M2,…,Mkは、同じ極性の磁極n1,n2,n3(図示の例ではN極)を第1の支持体31(プリント配線板)に対向させて配置されている。第2の支持体32は、この例では、回転軸線33を取り囲む円環状に構成されている。より具体的には、第2の支持体32は、円環状の板状体で構成されており、回転軸線33と直交する平面に沿って配置されていて、第1の支持体31(プリント配線板)と平行になっている。第2の支持体32において、第1の支持体31(プリント配線板)の前記他方の主面に対向する面に、磁石M1,M2,…,Mkが固定されている。磁石M1,M2,…,Mkは、回転軸線33まわりの周方向に等間隔で配置されている。図示の具体例では、回転軸線33まわりに120度の角度間隔で3つの磁石M1,M2,M3が配置されている。各磁石M1,M2,…,Mkの着磁方向は、回転軸線33に平行である。そして、同じ極性の磁極n1,n2,…,nk(図示の例ではN極)が第1の支持体31(プリント配線板)に対向するように、磁石M1,M2,…,Mkが第2の支持体32に固定されている。回転軸線33から磁石M1,M2,…,Mk(より詳しくは、第1の支持体31に対向する磁極n1,n2,…,nkの中心)までの距離は、回転軸線33から磁性ワイヤFEの軸中心位置25までの距離に等しい。すなわち、回転軸線33に沿う平面視において、磁性ワイヤFEおよび磁石M1,M2,…,Mkは、回転軸線33を中心軸とする等しい半径の円周上に位置し、それによって、回転軸線33に平行な方向に対向可能な位置関係となっている。第2の支持体32は、軟磁性体で構成されたヨークであることが好ましい。
【0065】
第2の支持体32が回転軸30とともに回転軸線33まわりに回転することにより、磁極n1,n2,…,nkは、回転軸線33を中心とし、検出領域SRを通る円周軌道51上を移動する。磁性ワイヤFEの軸方向xは、円周軌道51上の或る点(接点)を通る接線と平行であり、軸中心位置25は、当該接点において当該接線に立てた垂線(この例では、回転軸線33に平行な垂線)上にある。換言すれば、磁性ワイヤFEの軸中心位置25は、回転軸線33を中心とし、円周軌道51と等しい半径の円周上の或る点(接点)に位置し、磁性ワイヤFEは、当該接点における接線に沿っている。
【0066】
第1の支持体31および第2の支持体32の回転軸線33に沿う方向の距離は、第2の支持体32の回転によって、磁石M1,M2,…,Mkの磁極n1,n2,…,nkが発電センサ20の検出領域SRに進入可能な適切な値に定められる。
【0067】
第1の支持体31を構成するプリント配線板において、発電センサ20が実装されている主面には、さらに、たとえば磁気センサからなるセンサ要素MSが実装されている。センサ要素MSは、この例では、磁性ワイヤFEの軸方向xの中心位置にほぼ対向する位置に配置されている。それにより、センサ要素MSは、磁極n1,n2,…,nkが第1磁束伝導片FL1および第2磁束伝導片FL2の間の円周軌道51上で発電センサ20に対向するときに、磁極n1,n2,…,nkからの磁界を検出して識別信号を出力する。それにより、センサ要素MSは、磁極n1,n2,…,nkが発電センサ20の中央部に対向する位置に存在するかしないかを検出し、その検出結果を表す識別信号を出力する。センサ要素MSの配置は、これ以外であってもよい。具体的には、磁極n1,n2,…,nkのいずれか一つが発電センサ20の中央部に対向するときに、磁極n1,n2,…,nkのいずれか一つからの磁界を検出できる位置にセンサ要素MSが配置されればよい。より具体的には、図2Bの配置を基準として、回転軸線33まわりの360度/kの角度間隔(k=3のときには120度の間隔)の複数の位置のいずれかにセンサ要素MSを配置することができる。
【0068】
このような構成により、回転軸線33まわりの反時計回り方向CCWの回転によって、一つの磁石M1,M2,…,Mkの磁極n1,n2,…,nkが円周軌道51に沿って検出領域SRを通過するたびに、一つの負パルスと一つの正パルスとが順に生成される。また、回転軸線33まわりの時計回り方向CWの回転によって、一つの磁石M1,M2,…,Mkの磁極n1,n2,…,nkが円周軌道51に沿って検出領域SRを通過するたびに、一つの正パルスと一つの負パルスとが順に生成される。そして、これらのパルスと、磁石M1,M2,…,Mkが第1磁束伝導片FL1と第2磁束伝導片FL2との間の円周軌道51上にあるときに識別信号を出力するセンサ要素MSとによって、回転位置および回転方向を識別することができる。
【0069】
図3A図3Fは、発電センサ20の作用を詳しく説明するための図である。図3A(Initial State)は、負の電圧パルスを出力するための準備状態である第1セット状態を示す。すなわち、磁性ワイヤFEのソフト層およびハード層の両方の磁化方向が第2軸方向x2に揃っている。この第1セット状態で、図3B(Trigger Negative)に示すように、磁石M1の磁極n1(図示の例ではN極)が第1磁束伝導片FL1の磁束伝導端21(軸平行部42の検出領域対向面)に接近すると、磁極n1からの磁束が第1磁束伝導片FL1から伝導される第1状態となり、それによって、磁性ワイヤFEには、第1軸方向x1の動作磁界が印加される。これにより、大バルクハウゼン効果が発現して、ソフト層の磁化方向が第1軸方向x1に反転する。それに伴い、コイルSPから負の電圧パルスが生成される。
【0070】
第1状態から、図3C(Set (Positive))に示すように、磁極n1が第1磁束伝導片FL1の磁束伝導端21にさらに接近すると、磁性ワイヤFEに印加される第1軸方向x1の磁束が強まることにより、安定化磁界が印加され、ハード層の磁化方向も第1軸方向x1に反転する。それにより、ソフト層およびハード層の両方の磁化方向が第1軸方向x1に揃った第2セット状態となる。第2セット状態は、正の電圧パルスを生成するための準備状態である。
【0071】
第2セット状態から、図3E(Trigger Positive)に示すように、磁石M1がさらに移動し、磁極n1が第2磁束伝導片FL2の磁束伝導端22(軸平行部42の検出領域対向面)に接近すると、磁極n1からの磁束が第2磁束伝導片FL2から伝導される第2状態となり、それによって、磁性ワイヤFEには、第2軸方向x2の動作磁界が印加される。これにより、大バルクハウゼン効果が発現して、ソフト層の磁化方向が第2軸方向x2に反転する。それに伴い、コイルSPから正の電圧パルスが生成される。
【0072】
第2状態から、図3F(Set (Negative))に示すように、磁石M1がさらに移動して磁極n1が第2磁束伝導片FL2の磁束伝導端22にさらに接近すると、磁性ワイヤFEに印加される第2軸方向x2の磁束が強まることにより、安定化磁界が印加され、ハード層の磁化方向も第2軸方向x2に反転する。それにより、ソフト層およびハード層の両方の磁化方向が第2軸方向x2に揃った第1セット状態(負の電圧パルスを出力するための準備状態)に戻る。
【0073】
磁極n1が発電センサ20の近傍を通って移動するとき、磁性ワイヤFEとの間には、磁束伝導片FL1,FL2の軸平行部42が位置しており、この軸平行部42が磁性ワイヤFEを磁気的に遮蔽する。そのため、磁極n1からの磁束は軸平行部42の検出領域対向面である磁束伝導端21,22に引き寄せられ、そこから磁束伝導片FL1,FL2に入って磁性ワイヤFEの端部へと導かれる。それにより、磁性ワイヤFEのほぼ全軸長範囲において、軸方向xの磁界を印加することができる。すなわち、磁束伝導片FL1,FL2は、磁極n1が磁束伝導端21,22に形成する磁界を軸方向xの磁界に補正して磁性ワイヤFEに印加する磁界補正機能を有するように構成されている。
【0074】
このような磁界補正機能のために、図3D(Balanced)に示すように、一対の磁束伝導片FL1,FL2の中間位置に磁極n1が位置しているときにも、磁極n1から磁性ワイヤFEの軸方向途中位置に直接導かれる磁束はほとんど存在しない。このとき、磁束伝導片FL1,FL2の両方を伝導して磁性ワイヤFEの両端部から印加される磁力がバランスすることにより、磁性ワイヤFEには磁界がかからず、磁性ワイヤFEの磁化方向は変化しない。そして、図3Eの状態に至って、ソフト層の一斉反転が生じて、パルス電圧が生成される。
【0075】
図4は、セグメントカウンタ2の動作を説明するための図である。セグメントカウンタ2は、この実施形態では、回転軸線33まわりの角度領域をU個(Uは3以上の整数)に分割(典型的には等分)したセグメントを計数し、その計数結果を表すカウント値を生成する。図4には、U=3の例を示す。回転軸線33まわりに120度間隔で設定される3本の境界a,b,cによって、3つのセグメントが規定されている。境界a,b,cは、発電センサ20が発生する電圧パルスに応答してセグメントカウンタ2のカウント値が切り換わる境界である。具体的には、境界aは磁極n1が発電センサ20の中央部に対向する位置に相当し、境界bは磁極n2が発電センサ20の中央部に対向する位置に相当し、境界cは磁極n3が発電センサ20の中央部に対向する位置に相当する。それぞれの磁極n1,n2,n3が発電センサ20の中央部に対向する位置を跨いで、反時計回り方向CCWに移動するときにカウントアップ、時計回り方向CWに移動するときにカウントダウンする。
【0076】
磁極n1、磁極n2、磁極n3は円周上に等間隔で設置されているので、境界a、境界b、境界cの間隔は回転角で120°であり、境界aを基準角度0°とすると、境界bは角度120°、境界cは角度240°となる
セグメントカウンタ2は、この実施形態では、回転角が境界a,b,cを跨いで反時計回り方向CCWに移動するときにカウントアップし、回転角が境界a,b,cを跨いで時計回り方向CWに移動するときにカウントダウンするように設計されている。これに合わせて、以下の説明では、回転軸線33まわりの角度値は、境界aを基準として、反時計回りCCWに向かって増加するものとする。
【0077】
磁界発生源50は、回転軸線33まわりに回転軸30が1回転する間にk周期(図示の例ではk=3)の交番磁界を発生するように構成されている。より具体的には、この実施形態では、k個の磁極n1,n2,…,nkが回転軸線33まわりに等角度間隔で配置されている。
【0078】
図中の記号の意味は、次のとおりである。「H」はセンサ要素MSがいずれかの磁極n1,n2,…,nkを検出している状態、すなわち、いずれかの磁極n1,n2,…,nkが発電センサ20の中央部に対向している状態を表す状態値である。「L」は、センサ要素MSがいずれの磁極n1,n2,…,nkも検出していない状態、すなわち、いずれの磁極n1,n2,n3も発電センサ20の中央部に対向していない状態を表す状態値である。これらの状態値は、センサ要素MSの出力に基づいて信号処理回路7が生成する磁気検出データに相当する。「P」は、発電センサ20の正パルスの発生を表すパルス極性値である。「N」は、発電センサ20の負パルスの発生を表すパルス極性値である。これらのパルス極性値は、信号評価回路5の出力に基づいて信号処理回路7が生成する極性判別データに相当する。
【0079】
信号処理回路7からカウンタ回路8に供給される状態値は、これらの組み合わせによって表され、発電センサ20がパルスを発生するたびに更新され、不揮発性メモリ9に保存される。「HP」は、いずれかの磁極n1,n2,…,nkが発電センサ20の中央部に対向している状態で正パルスが発生する状態を表す状態値である。「LN」は、いずれの磁極も発電センサ20の中央部に対向していない状態で負パルスが発生する状態を表す状態値である。「HN」は、いずれかの磁極が発電センサ20の中央部に対向している状態で負パルスが発生する状態を表す状態値である。「LP」は、いずれの磁極も発電センサ20の中央部に対向していない状態で正パルスが発生する状態を表す状態値である。
【0080】
「SET_P」は、正パルス発生のための準備状態(セット状態)となる角度範囲を表す。「SET_N」は、負パルス発生のための準備状態(セット状態)となる角度範囲を表す。
【0081】
セグメントカウンタ2の基本的な動作は次のとおりである。
【0082】
回転軸30が反時計回り方向CCWに回転するとき、回転角0°、120°および240°にそれぞれ相当する境界a,b,cの近傍で、図3A図3Fに示した発電センサ20の動作によって、一つの負パルスおよび一つの正パルスが順に生成される。このとき、状態値LN(負パルス生成)→セット状態SET_P→状態値HP(正パルス生成)→セット状態SET_Nのように変化する。セグメントカウンタ2は、状態値HPで+1カウントアップする。すなわち、回転角が0°(境界a)、120°(境界b)および240°(境界c)を通過して増加するときに、それぞれ+1カウントアップする。
【0083】
回転軸30が時計回り方向CWに回転するとき、回転角0°、120°および240°にそれぞれ相当する境界a,b,cの近傍で、図3A図3Fとは磁極の運動方向を反転した発電センサ20の動作が生じる。それによって、一つの正パルスおよび一つの負パルスが順に生成される。このとき、状態値LP(正パルス生成)→セット状態SET_N→状態値HN(負パルス生成)→セット状態SET_Pのように変化する。セグメントカウンタ2は、状態値HNで-1カウントダウンする。すなわち、回転角が0°(境界a)、120°(境界b)および240°(境界c)を通過して減少するときに、それぞれ-1カウントダウンする。
【0084】
図5は、セグメントカウンタ2のより詳細なカウント動作の例を説明するためのテーブルである。カウンタメモリIC10に内蔵されたカウンタ回路8は、このテーブルに従うロジックにより、カウント動作を実行する。発電センサ20がパルスを発生すると、信号処理回路7からカウンタ回路8に入力される状態値が更新される。更新された状態値(NEW)と、直前の状態値(OLD)との組み合わせによって、カウント動作(Count)が決定される。カウンタ回路8は、不揮発性メモリ9から直前の状態値(OLD)を読み出し、それを用いてカウント動作を実行する。
【0085】
更新された状態値がHPのときは、直前の状態値がHN,LP,LNのいずれかであれば(すなわち、HP以外であれば)、+1カウントアップ動作となる。更新された状態値がHNのときは、直前の状態値がHP,LP,LNのいずれかであれば(すなわち、HN以外であれば)、-1カウントダウン動作が行われる。
【0086】
更新された状態値がLPのときは、直前の状態値がHPであるときに限り、-1カウントダウン動作となる。更新された状態値がLNのときは、直前の状態値がHNであるときに限り、+1カウント動作となる。これらは、センサ要素MSの出力が磁極検出状態から磁極非検出状態に変化し、かつパルス極性が変化しなかった場合の例外的なカウント動作であり、後述するパルス抜けの影響を補償する目的で行われる。
【0087】
上記以外の状態値の変化(others)に関しては、カウント値は不変に保持される(カウント値の変化は「0」)。すなわち、今回および前回の状態値が等しい場合、今回の状態値がLPで前回の状態値がHNまたはLNの場合、ならびに今回の状態値がLNで前回の状態値がHPまたはLPの場合には、カウント値は不変である。
【0088】
このように、カウンタ回路8は、状態値に応じて、すなわち、センサ要素MSの出力信号と発電センサ20が発生するパルス電圧とを用いて、回転軸30の回転方向および回転位置を識別してカウント値を更新し、そのカウント値を不揮発性メモリ9に書き込むように動作する。
【0089】
図6は、パルス抜けによるカウント値への影響を説明するための図である。
【0090】
回転角が軌跡T1に沿って移動する場合を考える。回転角が境界aを跨いで反時計回り方向CCWに移動し、それによって、位置51で正パルスが発生すると、状態値HP(図3E参照)となる。発電センサ20の磁性ワイヤFEに安定化磁界が与えられる位置(図3F参照)に回転角が達する前に回転方向が反転すると、磁性ワイヤFEが負パルス発生準備状態(SET_N)にならないまま、回転角が時計回り方向CCWに境界aを越えて、状態値HNとなるべき位置52に到達する。このとき、位置52で発生すべき負パルスが発生しない(パルス抜け)ので、状態値が更新されない。その後、さらに時計回り方向CWへの回転によって、磁性ワイヤFEは正パルス発生準備状態(SET_P)となり、回転角が位置53に達すると、負パルスが発生して状態値LPとなる。したがって、状態値がHP→HNと変化すれば基本的な-1カウントダウン動作となるはずであるが、実際には、状態値がHP→LPと変化するので、例外的な-1カウントダウン動作が行われる(図5参照)。これにより、パルス抜けの影響が補償される。回転方向が反対の場合の挙動も同様であり、状態値がHN→LNと変化して、例外的な+1カウントダウン動作が行われる(図5参照)。これらの例外的なカウント動作が行われるまではカウント値は±1の誤差を含み得る。
【0091】
次に、回転角が軌跡T2に沿って移動する場合を考える。すなわち、回転角が境界bを跨いで反時計回り方向CCWに移動し、それによって、位置61で正パルスが発生し、状態値HPとなる。発電センサ20の磁性ワイヤFEに安定化磁界が与えられる位置(図3F参照)に回転角が達する前に回転方向が反転すると、磁性ワイヤFEが負パルス発生準備状態(SET_N)にならないまま、回転角は、境界bを時計回り方向CWに越えて、状態値HNとなるべき位置62に到達する。このとき、位置62で発生すべき負パルスが発生しない(パルス抜け)ので、状態値が更新されない。その後、さらに時計回り方向CWへの回転によって、磁性ワイヤFEは正パルス発生準備状態(SET_P)となる。そして、再び回転方向が反転すると、回転角が境界bを跨いで反時計回り方向CCWに移動し、位置61で再び正パルスが発生し、状態値HPとなる。したがって、状態値がHP→HNと変化すれば基本的な-1カウントダウン動作となるはずであるが、実際には、状態値がHP→HPと変化するので、カウント値は不変となる(図5の「others」)。すなわち、状態値がHP→HPと変化するが、同じ位置であるためカウントしない。よって、軌跡T2のシナリオの場合に、2つ目の状態値HPが発生してカウントを無視するまでの間、セグメントカウンタ2のカウント値は+1の誤差を含み得る。回転方向が反対の場合の挙動も同様であり、状態値がHN→HNと変化し、カウント値は不変になる(図5参照)。この場合、カウント値は-1の誤差を含み得る。したがって、例外的なカウント動作が行われるまでは、カウント値は±1の誤差を含み得る。
【0092】
1回転(360度)の角度範囲の正しいカウント値が、境界a,bの間の区間S0(0度~120度)では「0」、境界b,cの間の区間S1(120度~240度)では「1」、境界b,cの間の区間S2(240度~360度)では「2」であるとする。この場合、上記のようなカウント誤差を考慮すると、カウント値がそれぞれ「0」,「1」,「2」となる可能性のある角度範囲A0,A1,A2は、図6に示すとおりである。これらの角度範囲A0,A1,A2は、各区間S0,S1,S2の角度範囲(120度)よりも広いが、図6に示すとおり、いずれも1回転(360度)未満である。したがって、複数の回転に渡って重複する領域が存在しないため、カウント値と角度検出値を使った1回転単位の回転数判別が可能である。具体的には、カウント値がそれぞれ「0」,「1」,「2」となる可能性のある角度範囲A0,A1,A2は、対応する区間S0,S1,S2にそれぞれ隣接する区間S2,S1;S0,S2;S1,S0を越えていない。
【0093】
なお、この実施形態では、1回転当たりk周期の交番磁界が磁性ワイヤFEに与えられ、それによって、2k個のパルスが発生するときに、k回のカウントを行う仕様のカウンタ回路8を用いる例を示している。この場合、1回転当たりのセグメント数Uは、k個である。しかし、これは一例であり、たとえば、1回転当たり2k個のパルスが発生する間に2k回のカウント(すなわち、パルス発生に応じて+1また-1のカウント)を行う仕様のカウンタ回路を用いてもよい。この場合には、1回転当たりのセグメント数Uは2k個となる。同じ状態値が連続する場合はカウント値を維持し、パルス抜けに関しては、+2または-2のカウント補正を行えばよい。k個または2k個以外のセグメント数Uとする設計も可能である。
【0094】
図7は、セグメントカウンタ2のカウント値と精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値との関係を示す。横軸は回転軸30の回転角(度)であり、縦軸は、多回転アブソリュート角度値であり、1回転(360度)を16ビット(65536段階)の分解能で表してある。ただし、セグメント数U=k=3の場合を想定している。前述のとおり、必ずしもU=kではなく、セグメント数Uは、1回転当たりに発電センサ20が発生するパルス数(2k)の2以上の任意の約数とすることができ、3以上の約数とすることが好ましい。
【0095】
回転軸30の回転にともなって、精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値は、参照符号61で示すように、0~65536の間で鋸歯波状に変化する。
【0096】
一方、セグメントカウンタ2のカウント値は、回転軸30の回転にともなって、理想的には、参照符号62で示す階段状の変化を示す。たとえば、0度を基準として120度(=360度/3)ずつの間隔で中央値を有する各120度(=360度/3)の範囲の角度区間におけるカウント値が、…-3,-2,-1,0,1,2,3…となることが理想的である。セグメントカウンタ2のカウントは、1回転あたり3カウントであるので、1カウントあたりの階段の高さは65536/3としてある。
【0097】
実際には、前述のとおりの誤差を含むセグメントカウンタ2のカウント値は、各カウント値の両側の誤差区間e1,e2においても同じ値になる可能性がある。特許文献2においては、この誤差区間を解消するために、外部電源投入時に磁気判別を行って、セグメントカウンタのカウント値を補正し、精密アブソリュート角度検出器の角度検出値との同期をとっている。この実施形態では、このような補正および同期のための処理を行わず、誤差を含むセグメントカウンタ2のカウント値をそのまま用いて、セグメントカウンタ2のカウント値と精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値とを統合する。
【0098】
具体的に説明すると、図7に示すように、精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値が或る値、たとえば1回転(0度~360度)以内の角度範囲において210度に相当する「38299」であるときのセグメントカウンタ2のカウント値を調べる。多回転に渡る角度範囲において、精密アブソリュート角度検出値の角度検出値が「38299」(210度)となるのは、210度を基準として、360度間隔の多回転角度である。すなわち、…-870度,-510度,-150度,210度,570度,930度,…である。これらの多回転角度において、セグメントカウンタ2のカウント値がとる可能性の値は、カウント誤差を考慮すると、次表のとおりとなる。
【0099】
【表1】
【0100】
誤差を考慮しても、セグメントカウンタ2の各カウント値がとり得る範囲が360度に満たないので、異なる多回転角度において同じカウント値が重複しない。そのため、セグメントカウンタ2のカウント値と精密アブソリュート角度検出器1が検出する角度検出値との組み合わせによって、多回転アブソリュート角度検出値を一意に決定することができる。したがって、セグメントカウンタ2のカウント誤差を補正して、そのカウント値と精密アブソリュート角度検出器1が検出する角度検出値とを同期させるための処理を行うことなく、それらを統合して、図8に示すように、多回転アブソリュート角度検出値を生成できる。
【0101】
演算装置4は、セグメントカウンタ2のカウント値mおよび精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値θを用い、たとえば、次のような演算を行って、それらを統合し、多回転アブソリュート角度検出値θmtを演算する。前述の図8は、演算結果を示している。次式において、Nは、回転軸30の基準点(回転位置原点)からの回転数(回転量)を表す。Uθは1回転あたりの角度検出量(たとえばUθ=65536(16ビット分))を表し、精密アブソリュート角度検出器1の分解能に相当する。U(たとえばU=k=3)は、1回転あたりのセグメント数であり、セグメントカウンタ2の1回転あたりのカウント数に相当する。
【0102】
【数1】
【0103】
上式のとおり、回転数Nは、カウント値mをセグメント数Uで除して回転数に換算し、そこから角度検出値θに相当する回転量(θ/Uθ)を減じたうえで、四捨五入して求めることができる。上式の例では、1/2を加えて整数化関数INT(小数部を切り捨てて整数化する関数)で処理することで四捨五入演算が行われている。
【0104】
こうして求められた回転数Nに1回転あたりの角度検出量Uθを乗じることによって、セグメントカウンタ2のカウント値mに対する多回転角度検出値を求めることができる。これに1回転以内の精密な角度検出値θを加えることで、精密な多回転アブソリュート角度を表す多回転アブソリュート角度検出値θmtを求めることができる。
【0105】
演算装置4における上記のような演算の一部または全部を実行するために、必要に応じて、予め準備されたテーブルが用いられてもよい。
【0106】
以上のように、この実施形態では、セグメントカウンタ2は、ただ一つの発電センサ20とセンサ要素MSとを有し、発電センサ20の磁気ワイヤに1回転あたり3周期以上の交番磁界が印加される構成を有する。このような構成のセグメントカウンタ2のカウント値を、誤差を含んだまま取り扱って、精密アブソリュート角度検出器1が生成する角度検出値と適切に統合でき、それによって、精密な多回転アブソリュート角度検出値を得ることができる。したがって、複数の発電センサ20を用いる必要がなく、発電センサ20の磁性ワイヤFEの磁化方向の判別や、それに基づく複雑な補正処理または同期処理も必要としない。したがって、構成を簡単にすることができるので、小型で低コストでありながら、高分解能の多回転精密アブソリュート角度検出装置を提供できる。
【0107】
図9Aはこの発明の他の実施形態に係る多回転角度検出装置に適用されるセグメントカウンタ2の構造例を説明するための斜視図であり、図9Bはその平面図である。これらの図面において、図2A図2Bおよび図2Cに示した各部の対応部分に同一参照符号を付してある。
【0108】
この実施形態は、図1の構成の多回転角度検出装置100において、図9Aおよび図9Bに示す構造を有するセグメントカウンタ2が用いられる。前述の実施形態と比較すると、磁界発生源50の構成が主たる相違点である。加えて、センサ要素MSの配置も相違している。発電センサ20を支持する第1の支持体31は、センサ要素MSの配置に合わせて、センサ要素MSを支持できるように変更されている。なお、図9Bにおいては、第1の支持体31を透視して、磁界発生源50の配置を示してある。セグメントカウンタ2のその他の構成は、前述の実施形態と同様である。
【0109】
この実施形態では、磁界発生源50は、回転軸線33を取り囲むリング状の6極着磁磁石Mで構成されている。着磁方向は、回転軸線33と平行である。6極着磁磁石Mは、回転軸線33の一方向から見たときに、回転軸線33を中心とする円周上にN極およびS極が交互に配列されたk個(kは3以上の整数。図示の例ではk=3)の磁極対(N極とS極との対)が配列された構成を有し、k個のN極n1,n2,…,nkおよびk個のS極s1,s2,…,skを有している。各磁極n1,n2,…,nk;s1,s2,…,skは、回転軸線33まわりの360度/2k(この実施形態では60度)の角度領域に渡っている。したがって、回転軸30とともに第2の支持体32が回転し、それに応じて磁界発生源50が回転軸線33まわりに回転することにより、発電センサ20にはk周期(図示の例では3周期)の交番磁界が印加される。
【0110】
発電センサ20の磁性ワイヤFEは、回転軸線33を中心とする円周の接線上にあり、磁性ワイヤFEの軸中心位置25は、当該接線の接点上にある。発電センサ20は、回転軸線33まわりの360度/2k(この実施形態では60度)の角度領域に渡る一つの磁極n1,n2,…,nk;s1,s2,…,skの中央と磁性ワイヤFEの軸中心位置25とが整合するときに、2つの磁束伝導片FL1,FL2から伝導される磁気がバランスするように配置されている。
【0111】
センサ要素MSは、発電センサ20の中央部に対向する磁極の極性を検出できるように配置されている。センサ要素MSは、たとえば、ホールIC等の磁気センサからなり、S極を検知すると(発電センサ20の中央部にN極が対向すると)H信号を出力し、N極を検知すると(発電センサ20の中央部にS極が対向すると)L信号を出力する。それにより、センサ要素MSは、その近傍を通る磁極の極性を判別し、結果として、発電センサ20の中央部に対向する磁極の極性を判別する。この実施形態では、センサ要素MSは、発電センサ20に対して、回転軸線33まわりの位相差180度の位置、すなわち、回転軸線33に関して対称な位置で磁極を検出するように配置されている。kが奇数(たとえば3)のとき、センサ要素MSは、発電センサ20の中央部に対向する磁極と反対の極性の磁極を検出する。kが偶数(たとえば4)であれば、センサ要素MSは、発電センサ20の中央部に対向する磁極と同じ極性の磁極を検出する。いずれの場合でも、センサ要素MSは、発電センサ20の中央部に対向する磁極の極性を検出できる。
【0112】
図10A図10Fに動作例を示す。回転軸30が回転軸線33まわりに反時計回り方向CCW(反時計回り方向)に回転する場合について考える。図10Aは、図9Bの状態を矢印Xに沿って見た正面図である。図10B図10Fも同様の視点から見た正面図である。
【0113】
図10A図9B)の状態に至るときには、磁性ワイヤFEのハード層およびソフト層は、第2磁束伝導片FL2から第1磁束伝導片FL1に向かう方向に磁化された状態、すなわち、負パルス生成のためのセット状態(SET_N)である。このとき、第1磁束伝導片FL1がN極およびS極と対向する面積は、第2磁束伝導片FL2がN極およびS極と対向する面積とバランスがとれている。換言すれば、このような状態となるように、磁界発生源50、発電センサ20およびそれらの相対配置が設計されている。
【0114】
この状態から、回転軸30とともに磁界発生源50が反時計回り方向CCWに少し回転すると、図10Bに示すように、第1磁束伝導片FL1がN極と対向する面積の割合が増え、第2磁束伝導片FL2がN極と対向する割合が減る。それにより、磁性ワイヤFEには、第1磁束伝導片FL1から第2磁束伝導片FL2に向かう方向の磁界がかかる。その磁界の強さが動作磁界に達すると、ソフト層の磁化方向が反転して、負の電圧パルスが発生する。このとき、センサ要素MSは、N極を検出しているので(発電センサ20の中央部にS極が対向しているので)、L信号を生成する。よって、状態値LNが得られる。
【0115】
さらに、回転軸30が反時計回り方向CCWに回転すると、第1磁束伝導片FL1から第2磁束伝導片FL2に向かう方向の磁界がさらに強くなって安定化磁界に達し、図10Cに示すように、磁性ワイヤFEのハード層の磁化方向も反転し、正パルス生成のためのセット状態(SET_P)となる。
【0116】
回転軸30がさらに回転し、図10Cの状態から反時計回り方向CCWに60度回転した図10Dの状態に至ると、極性が反転するが、前述の場合と同様な動作となる。すなわち、磁性ワイヤFEのハード層およびソフト層は、第1磁束伝導片FL1から第2磁束伝導片FL2に向かう方向に磁化された状態、すなわち、正パルス生成のためのセット状態(SET_P)である。このとき、第1磁束伝導片FL1がN極およびS極と対向する面積は、第2磁束伝導片FL2がN極およびS極と対向する面積とバランスがとれている。
【0117】
この状態から、回転軸30とともに磁界発生源50が反時計回り方向CCWに少し回転すると、図10Eに示すように、第1磁束伝導片FL1がN極と対向する面積の割合が減り、第2磁束伝導片FL2がN極と対向する割合が増える。それにより、磁性ワイヤFEには、第2磁束伝導片FL2から第1磁束伝導片FL1に向かう方向の磁界がかかる。その磁界の強さが動作磁界に達すると、ソフト層の磁化方向が反転して、正の電圧パルスが発生する。このとき、センサ要素MSは、S極を検出しているので(発電センサ20の中央部にN極が対向しているので)、H信号を生成する。よって、状態値HPが得られる。
【0118】
さらに、回転軸30が反時計回り方向CCWに回転すると、第2磁束伝導片FL2から第1磁束伝導片FL1に向かう方向の磁界がさらに強くなって安定化磁界に達し、図10Fに示すように、磁性ワイヤFEのハード層の磁化方向も反転し、負パルス生成のためのセット状態(SET_N)となる。この状態からさらに回転軸30が反時計回り方向CCWに60度回転すると、図10Aと同等の状態となる。
【0119】
こうして、一つの磁極対が発電センサ20の検出領域を通ることで、2つのパルスが生成される。磁界発生源50は、k個(この例では3個)の磁極対を有するので、1回転あたり、2k個(この例では6個)のパルスが生成される。
【0120】
時計回り方向CWの回転についても同様の考察を行うことにより、セグメントカウンタ2の動作は、図11のようになることが分かる。図4と比較すると、状態値LN,LPの角度位置が異なるが、図5に示したカウント方法をそのまま適用して、前述の実施形態と同様なカウント動作を行うことができる。よって、前述の実施形態の場合と同じ信号処理を行うことにより、セグメントカウンタ2のカウント値と精密アブソリュート角度検出器1の角度検出値とを統合して、精密多回転アブソリュート角度検出値を生成することができる。セグメントの境界a,b,c、すなわち、カウント値が切り替わる境界は、磁極対のN極およびS極のうちのいずれか一方が発電センサ20の中央部に対向する角度位置に相当する。
【0121】
以上、この発明の実施形態について説明してきたが、以下に例示するとおり、この発明は、さらに他の形態で実施することができる。
【0122】
前述の実施形態では、L形の磁束伝導片FL1,FL2を有する発電センサ20を用いる例を示したが、磁束伝導片は、他の形態を有していてもよい。たとえば、磁性ワイヤFEから検出領域に向けて直線状に延びるI形の磁束伝導片を用いてもよい。また、磁性ワイヤの両端にコイルの大きさ程度の筒状の磁束伝導片を有する構成としてもよい。
【0123】
前述の実施形態では、磁界発生源50が3個の磁石(図2A参照)または3個の磁極対(図9A参照)を有する場合について主として説明したが、4個以上の磁石または4個以上の磁極対を有する構成とし、4個以上のセグメントを有するセグメントカウンタを備えてもよい。
【0124】
また、精密アブソリュート検出器1は必ずしも単一の検出器を意味するものではなく、1回転内のアブソリュート角度を得る機能を有するものであればよい。たとえば、1回転以下の検出範囲を持つ複数の検出器で精密アブソリュート検出器1を構成してもよい。例として、32周期/回転の検出器の検出信号と、31周期/回転の検出器の検出信号とから、演算で1周期/回転の角度も求めるものでもよい。また、そのときの演算も、演算装置4で行ってもよい。
【0125】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 :精密アブソリュート角度検出器
2 :セグメントカウンタ
3 :電源回路
4 :演算装置
5 :信号評価回路
6 :電源回路
7 :信号処理回路
8 :カウンタ回路
9 :不揮発性メモリ
10 :カウンタメモリIC
20 :発電センサ
30 :回転軸
31 :第1の支持体
32 :第2の支持体
33 :回転軸線
50 :磁界発生源
100 :多回転角度検出装置
FE :磁性ワイヤ
FL1 :第1磁束伝導片
FL2 :第2磁束伝導片
M :6極着磁磁石
M1,M2,M3 :磁石
MS :センサ要素
SP :コイル
SR :検出領域
n1,n2,n3 :N極
s1,s2,s3 :S極
図1
図2A-2C】
図3A-3C】
図3D-3F】
図4
図5
図6
図7
図8
図9A-9B】
図10A-10C】
図10D-10F】
図11